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国際税務研究会 「国際税務」 2012 年 11 月号掲載 「米国連邦法人所得税制の概要-大統領選挙を前に-」 PwC 米国

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国際税務研究会 「国際税務」 2012 年 11 月号掲載 「米国連邦法人所得税制の概要-大統領選挙を前に-」 PwC 米国
国際税務研究会 「国際税務」 2012 年 11 月号掲載
「米国連邦法人所得税制の概要-大統領選挙を前に-」
PwC 米国
ニューヨーク事務所 税務パートナー 徳弘 高明
ワシントン DC 事務所 税務マネジャー 小林 徹
来る 11 月 6 日(火),米国大統領選挙および連邦議会選挙が実施される。近年,急速に悪化する連邦財政の改善と景
気雇用対策が急務とされる社会情勢のもと,連邦税制について,税収確保,国内雇用促進,複雑になりすぎたとされる
税法の簡素化,多国籍企業に対する課税強化等,様々な観点から,1986 年以来となる「抜本的な税制改正」の必要性
が議論されており,今回の選挙においても税制改正が大きな争点の一つとなっている。2 年前の連邦議会選挙以後,オ
バマ大統領の任期後半の 2 年間は,上院は民主党主導,下院は共和党主導と,連邦議会がねじれ状態にあり,税制改
正への動きが膠着ともいえる状況にあった。今回の選挙結果次第で,数々の課題に対処する税制改正がいよいよ本格
化,活発化することが期待されている。
本稿では,選挙に先立ち,今後の税制改正の動きを追うための予備的情報として,現行の連邦法人所得税制の概要に
ついて解説する。
1. 連邦法人税に関する基礎知識
1)内国歳入法および内国歳入庁
英国による経済的支配への反発を強めた 13 植民地の連合体として 1776 年に独立を宣言した米国は,独立当初の 13
州に新たな州を加え,漸次拡大発展していったが,連邦政府による課税権が合衆国憲法に明文化されたのは 1913 年
の修正第 16 条においてである。その後,1~2年ごとに独立した税法が制定されたが,年々増加していく税法を網羅的
に把握することが困難になったため,1939 年,これら既定の税法群に代わる税法典として,内国歳入法(IRC:Internal
Revenue Code)が制定された。以後,1954 年に行われた条文整理,1986 年に行われた抜本的改正を含め,頻繁に行
われる税制改正を反映してきたのが現行内国歳入法である。
日本では,法人税法,所得税法,相続税法等の別個の税法により,法人税,所得税,相続税等が規定されるが,米国で
は,ひとつの税法典である内国歳入法により,法人所得税,個人所得税,遺産税等が規定されている。
内国歳入法においては,より詳細な内容を財務省規則(Regulations)に委ねる委任規定が多々設定されている。
また,米国連邦税制を執行する行政機関である内国歳入庁(IRS:Internal Revenue Service)は,米国史上最大の内乱と
される南北戦争(1861 年~1865 年)の戦費調達のため,1862 年,Bureau of Internal Revenue として設置され,1953 年
に現名称へと変更している。内国歳入庁は,財務省の1部局である。
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1
2)連邦税収に占める法人所得税の割合
2011 年 9 月 30 日終了財政年度における連邦税収2兆 1,737 億ドル(見込)の内訳は,個人所得税 9,560 億ドル
(44.0%),法人所得税 1,984 億ドル(9.1%),社会保険税 8,068 億ドル(37.1%),その他 2,125 億ドル(9.8%)となって
いる。
2008 年 9 月以降の経済危機の影響で,連邦税収に占める法人所得税の割合は,2008 年9月 30 日終了財政年度の
12.0%(3,043 億ドル/2兆 5,240 億ドル)から,翌年は 6.6%(1,382 億ドル/2兆 1,050 億ドル)に減少した 1。2012 年9月
30 日終了財政年度における連邦税収2兆 4,491 億ドルの内訳は,個人所得税1兆 1,322 億ドル(46.2%),法人所得税
2,423 億ドル(9.9%),社会保険税 8,453 億ドル(34.5%),その他 2,293 億ドル(9.4%)となっており 2,回復基調ではあ
るものの,以前の水準までは戻っていない。
3)連邦税および地方税
米国では,連邦政府に一定の権限が与えられている一方,州,郡,市などが広範な権利を有しており,税制についても,
内国歳入法による連邦税制と,各州固有の税法による地方税制が並立している。日本においても,国税と地方税の区分
はあるが,地方税も国会により制定された地方税法に則っているため,各地方自治体間における税制の差異は限定的
で,例えば,法人課税について,都道府県法人住民税(均等割および法人税割),都道府県法人事業税,市町村法人
住民税(均等割および法人税割)という課税の枠組みは各地方自治体に共通で,申告様式も各地方自治体間で共通で
ある等,税率の差異等はあるものの,地方自治体間の共通性は高い。これに対し,米国においては,各州および地方自
治体が,納税義務者,課税対象,税額計算,税率等について,他との整合性に拘束されることなく,独自の税制を設け
ているのが一般的である。極端な例として,ネバダ州,サウスダコタ州,ワシントン州,ワイオミング州においては,法人所
得課税制度自体が設けられていない。このため,日本企業についても,米国子会社が,いずれの州に生産販売拠点を
設け,いずれの州に顧客を有するかというような事業展開次第で,適用される州税が全く異なり,申告手続および税額が
大きく変わってくることになる。
米国の法人所得課税における法定税率は,日本と並び,OECD 加盟諸国中最高水準にあり,しばしば,税負担を忌避
した多国籍企業の海外移転を招いているのではないかとの議論がされている。後述のとおり,連邦法人所得税の法定最
高税率は 35%である。州の法定税率は各州により異なるが,仮に8%とした場合,連邦税と州税を合わせた法定実効税
率は,州税が連邦法人税所得計算において損金算入項目であることから,「35% + 8% ×(1-35%)=40.2%」と計
算される。
4)納税者番号
米国において申告および納税を開始する場合,まず,IRS から納税者番号(FEIN:Federal Employer Identification
Number)を取得する必要がある。納税者番号は,9桁の数字から成っており(例 12‐3456789),連邦税法上の各種手続
1
U.S. Census Bureau 発行「Statistical Abstract of the United States:2012」による。
2
Department of the Treasury 発行「Final Monthly Treasury Statement of Receipts and Outlays of the United States Government
For Fiscal Year 2012 Through September 30, 2012, and Other Projects」による。
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2
き(申告,納税,届出等)とともに,州税の手続きにおいても用いられることも多く,納税者の ID 番号として広く活用され
ている。
2. 連邦法人課税の概要
1)総論 課税対象および課税方法
連邦法人課税における,課税対象および課税方法(「申告課税」または「源泉徴収課税」)は,〔表1〕のとおりである。
〔表1〕
米国事業活動
内国法人*
課税対象
課税方法
全世界所得
申告課税 (Form 1120)
米国実質関連所得
米国実質関連所得以外の所得のうち
米国源泉の定期的所得(FDAP 所得)
申告課税 (Form 1120‐F)
源泉徴収課税
米国源泉の定期的所得(FDAP 所得)
源泉徴収課税
(C corporation)
外国法人
行う場合
行わない場合
(*) 税務上,株主構成等の要件により,内国法人は,事業体課税の対象となる C corporation と,パススルー課税(後述)の対象とな
る S corporation に大別される。C corporation および S Corporation の呼称は,関連税法が,それぞれ内国歳入法 Chapter 1の
Subchapter C および Subchapter S に規定されていることによる。本稿においては,C Corporation を「内国法人」とし,S Corporation
を「小規模法人」とする。
内国法人は,全世界所得(米国内源泉所得および米国外源泉所得)が課税対象とされる。米国を除く全ての G‐7諸国,
および,7割以上の OECD 加盟諸国は,平成 21 年度税制改正により外国子会社配当益金不算入制度を導入した日
本も含め,源泉地国課税(Territorial Tax System)を採用しており,今なお全世界所得課税(Worldwide Tax System)を
維持する米国は少数派である。なお,二重課税の排除の観点から,後述のとおり,米国外源泉所得に課税された外国
法人税は,外国税額控除の対象となる。
上記における「米国実質関連所得」とは,“income which is effectively connected with the conduct of a trade or
business within the United States” 3のことである。内国歳入法または財務省規則に“trade or business within the United
States(米国事業活動)”を明確に定義する規定は無いが,判例によると「直接または(代理人を通じた)間接を問わず,
定期的,実質的,および継続的な米国内における営利活動」とされる。米国実質関連所得は,このような米国事業活動
により生じた所得のことである。なお,米国実質関連所得は,米国での事業活動に実質的に関連している限り,米国外
で使用される無形固定資産に関する受取使用料その他の米国外源泉所得をも含む。
また,「定期的所得」とは,“fixed, determinable, annual or periodical gains, profits, and income” 4のことである。各語の頭
文字から「FDAP所得」とも呼ばれ,配当,利息,賃貸料,使用料,報酬,その他の定期的な所得等が該当する。
3
内国歳入法第 882 条(a)(1)
4
内国歳入法第 881 条(a)(1)
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3
2)申告課税
申告手続き
申告課税について,上の内国法人および外国法人も含め,事業体の種類(LLC については LLC による課税選択の有
無)に応じ,〔表 2〕のとおり,申告書様式,課税方式(「事業体課税」または「パススルー課税」),申告期限が定められて
いる。
〔表 2〕
申告期限***
事業体
LLC による
課税選択
様式
課税方式
延長申請
しない場合
延長申請した
場合
事業年度終了から
内国法人
内
国
事
業
体
(C corporation)
LLC*
パートナーシップ
小規模法人
( S corporation)
外国法人**
1120
「事業体課税」
2 ヶ月 15 日
有り
無し
1065
3 ヶ月 15 日
「パススルー課税」
1120-S
1120-F
2 ヶ月 15 日
「事業体課税」
2 ヶ月 15 日
8 ヶ月 15 日
(6 ヶ月延長)
8 ヶ月 15 日
(5 ヶ月延長)
8 ヶ月 15 日
(6 ヶ月延長)
8 ヶ月 15 日
(6 ヶ月延長)
(*)
Limited Liability Company。LLC は,「事業体課税」または「パススルー課税」を選択出来る。
(**) 米国実質関連所得を有する場合に限る。
(***) 申告期限延長申請は,申告期限までに IRS に Form 7004 を提出すれば,自動的に認められる。例えば「内国法人」について,
暦年事業年度であれば,申告期限は 3 月 15 日(延長申請した場合は 6 ヶ月延長により9月 15 日),3 月 31 日終了事業年度であれ
ば,申告期限は6月 15 日(延長申請した場合は 6 ヶ月延長により 12 月 15 日)となる。
事業体課税
内国法人,外国法人,および「課税選択有り」の LLC は,事業体が稼得した課税所得について,申告納税義務を負う。
パススルー課税
パートナーシップ,小規模法人,および「課税選択無し」の LLC が該当する「パススルー課税」とは,事業体が稼得した
課税所得について,事業体は申告義務を負うものの納税義務を負わず,代わりに出資者であるパートナーまたは株主
が持分比率等に応じ納税義務を負い,出資者レベルで課税義務が生じる課税方式である。
「パススルー課税」が適用されるこれらの事業体は,連邦税法上は導管事業体に過ぎず,課税所得(事業体全体の額,
および,各パートナーまたは株主への帰属額 5)を情報申告するが,納税は行わない。一方,出資者であるパートナーま
たは株主は,導管事業体から帰属させられた課税所得と,それ以外の課税所得を合算して,自身の課税所得を計算す
る。パートナーまたは株主が導管事業体に該当しない限り,併せて税額も計算し,申告納税を行う。
5
パートナーまたは各株主への帰属額は,Schedule K‐1 という様式により,IRS に申告されるとともに,パートナーまたは各株主に通
知される。
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4
日本企業の場合
日本企業が米国において営業活動を行う場合,(a)米国子会社を設立する,(b)支店を設置する,(c)ジョイント・ベンチ
ャーを設立する,等のオプションがある。例えば,(a)日本企業の米国子会社は,通常,「内国法人」に該当し,Form
1120 により,課税所得(全世界所得)および税額を計算し,申告納税する。次に,(b)米国に支店を設置し米国におい
て事業を行っている日本企業(日本法人)は,「外国法人」に該当し,日本企業が納税義務者として,Form 1120‐F によ
り,課税所得(米国実質関連所得。ただし,日米租税条約の要件を満たす日本法人が米国支店等の恒久的施設を通じ
て米国で直接事業活動を行う場合,その恒久的施設に帰せられる所得のみが申告課税の対象となる)および税額を計
算し,申告納税する。また,(c)日本企業の米国子会社が米国企業(C corporation とする)と共同設立したジョイント・ベ
ンチャーが LLC の場合,LLC が課税選択を行わなければ,パススルー課税が適用され,LLC が Form 1065 により課税
所得のみの情報申告を行い,その株主である日本企業の米国子会社と米国企業が,それぞれ Form 1120 により,LLC
の課税所得の帰属額も含め,課税所得(全世界所得)および税額を計算し,申告納税する。
税率
申告課税においては,税率 15%~35%の累進課税が適用され,〔表 3〕のとおり,課税所得に応じ税額計算を行う。
例)課税所得 16,000,000 ドルの場合の税額計算
5,150,000 +(16,000,000-15,000,000) × 38% = 5,530,000(ドル)
(このときの実効税率は,5,530,000 / 16,000,000 = 34.5625%)
〔表 3〕
(単位: ドル)
課税所得
税額計算
15%
-
50,000
0
0
50,000
-
75,000
7,500
50,000
を
25%
75,000
-
100,000
13,750
75,000
34%
100,000
-
335,000
22,250
超
え
+
100,000
335,000
る
額
の
39%
335,000
-
10,000,000
113,900
34%
10,000,000
-
15,000,000
3,400,000
10,000,000
15,000,000
-
18,333,333
5,150,000
15,000,000
38%
18,333,333
-
0
0
35%
35%
代替ミニマム税
日本の法人税法には無い制度として,代替ミニマム税(AMT:Alternative Minimum Tax)がある。これは,通常の課税所
得および税額(15%~35%の累進税率による)の計算とは別に,代替課税所得および代替税額(定率 20%による)の計
算も行い,いずれか多い税額が最終的な申告納税額となる,というものである。2つの計算では,税率のみならず,有形
固定資産の減価償却費等の額も異なる。よって,米国法人税の申告書上,2種類の課税所得および税額を計算すること
になる。
代替ミニマム税は,代替税額のうち,通常税額を超過した金額を指す。この代替ミニマム税は,法人税の前払い的性格
を有している。すなわち,代替ミニマム税の当期支払額は,翌事業年度以降に無期限で繰り越され,通常税額が代替税
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5
額を上回る将来の事業年度において,税額控除の対象となる。なお,代替課税所得計算では,課税所得に応じ,最大
40,000 ドルの非課税枠が設けられている。
例)通常の課税所得が 75,000 ドル,代替課税所得が 120,000 ドルの場合
通常税額の計算:13,750 ドル 7,500 + (75,000 ‐ 50,000)× 25%
代替税額の計算:16,000 ドル (120,000 ‐ 非課税枠 40,000)× 20%
この場合,申告税額は 16,000 ドルとなり,代替ミニマム税 2,250(16,000‐13,750)ドルは,翌事業年度以降に繰り越され,
将来の代替ミニマム税額控除の対象となる。
期限後申告
期限後申告は,加算税および利息の賦課対象となる。また,日本の法人税と同様に,申告期限の延長は,納税期限の
延長を認めるものではない。よって,延長された申告期限内の申告であっても,納税不足額が生じた場合,加算税およ
び利息の賦課対象となる。
除斥期間
連邦税法上の除斥期間は,通常,申告書を提出した日から3年間である。よって,申告書を提出していない場合,除斥
期間は起算されない。また,申告した総収入の 25%超に相当する重要な収入の申告漏れがあった場合,除斥期間は 6
年間に延長される。さらに,脱税や故意の虚偽申告の場合,後日の修正申告の有無にかかわらず,除斥期間は起算さ
れず,IRS は何時でも更正することが出来る。
予定納税
納税者は,各四半期(4 ヶ月目,6 ヶ月目,9ヶ月目,および 12 ヶ月目の 15 日)に,年間見込税額に基づく予定納税を
行う必要がある。事業年度が終了した段階で,その年の確定税額等に応じて予定納税必要額が遡及して計算され,各
四半期における予定納税額が必要額より不足していた場合,ペナルティー(利息)の賦課対象となる。ただし,四半期決
算に基づく年間見積もり税額をベースに予定納税を行っていた場合,ペナルティーは免除される。
なお,予定納税額が確定年税額を上回る場合の超過額は,納税者の選択により,翌事業年度の予定納税額に充当さ
れるが納税者に還付される。
3)源泉課税
税率
米国実質関連所得に該当しない米国源泉の FDAP 所得は,税率 30%により源泉徴収の対象となる。ただし,日本居住
者に対する支払いについては,日米租税条約の要件に応じ,〔表 4〕の軽減税率が適用される。
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6
〔表4〕
配当(受取人が法人の場合)
議決権株式の保有割合(直接/間接)
50%超(12 ヶ月以上保有)
0%
10%以上 50%以下
5%
10%未満
10%
金融機関向け
0%
利子
その他
使用料
10%
0%
納税義務および申告義務
これらの FDAP 所得の支払者(源泉徴収義務者)は,源泉徴収税額に応じ,(a)各四半月(各月 7 日,15 日,22 日,お
よび最終日)後 3 日,(b)各月後 15 日,または,(c)翌年3月 15 日,を期限とした納税義務を負う。また,源泉徴収義務
者は,毎暦年の FDAP 所得支払額および源泉徴収税額を,日本の所得税法上の支払調書合計表および支払調書に
相当する Form 1042 および Form1042‐S により,翌年3月 15 日を期限とした報告義務を負う。
3. 法人課税所得計算の主要項目
法人課税所得の計算
法人課税所得は,会計上の利益に,税務調整項目を加減算して計算する。日本の法人税申告書における「別表四 所
得の金額の計算に関する明細書」と同様に,「Schedule M‐1」または「Schedule M‐3」により,会計上の利益と法人課税
所得の間の税務調整項目と併せて申告される。
連邦法人税法における一般的な税務調整項目として,未払費用,貸倒引当金等の引当金,税務上の有形・無形固定
資産の償却(後述)等の一時差異項目,および,交際費,米国内製造活動特別控除(後述),加算税等の永久差異項目
がある。連邦法人所得税は損金不算入項目である一方,州・地方法人所得税は損金算入項目である。
棚卸資産
個別評価法,先入先出法,あるいは後入先出法により評価されるが,選択により低価法の採用も認められる。ただし,後
入先出法は,財務報告上採用している場合に限り,税務上も適用が認められる。
また,会計上の販売管理費の一部を,税務上,期末棚卸資産に配賦することが求められる。
減価償却費
日本の法人税法上の「減価償却費の損金経理要件」に相当する規定は設けられておらず,会計上の減価償却費にか
かわらず,税法に基づき計算された減価償却費を損金算入する。税務上の減価償却費は,一般に,修正加速度償却法
(MACRS:Modified Accelerated Cost Recovery System)に則り計算される。
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7
2001 年以降,景気対策として,複数回に亘る時限立法により,固定資産の特別償却制度(bonus depreciation)が設けら
れており,特別償却率は 30%,50%,または 100%である。2008 年以降の特別償却制度の特別償却率は,原則として,
取得年月日および供用開始年月日に応じ,〔表 5〕のとおりである。特別償却の適用の有無は事業年度毎に選択出来る。
〔表 5〕
2008 年 1 月 1 日 ~ 2010 年 9 月 8 日
50%
2010 年 9 月 9 日 ~ 2011 年 12 月 31 日
100%
2012 年 1 月 1 日 ~ 2012 年 12 月 31 日
50%
繰越欠損金
繰越欠損金の繰戻期間は2年間,繰越期間は 20 年間である(1997 年8月5日以前開始事業年度については,繰戻期
間3年間,繰越期間 15 年間とされていた)。M&A,企業再編などにより株主に大幅な変動があった場合,繰越欠損金の
使用が制限されることがある。
キャピタル損益
売掛金,棚卸資産,その他の事業用資産以外のいわゆるキャピタル資産(Capital assets)の売却や交換による損失(「キ
ャピタル損失」)の損金算入は,同様の取引による利益(「キャピタル・ゲイン」)を上限とする。すなわち,キャピタル損失
は,キャピタル・ゲインのみとの相殺が認められ,キャピタル・ゲイン以外の通常所得(Ordinary Income)との相殺は認め
られない。各事業年度において,キャピタル損失がキャピタル・ゲインを超過する金額は,繰越キャピタル損失として,3
年間の繰戻,あるいは5年間の繰越が認められる。キャピタル・ゲインに対する課税は,個人所得税制上は軽減税率が
適用されているのに対し,法人所得税制上,軽減税率は設けられておらず,その他の通常所得と合算の上,通常の累
進税率(15%~35%)により課税される。
米国内製造活動特別控除
本税制は,一定の要件を満たす「適格米国内製造活動」を,税制上優遇することにより,米国内の経済活動,雇用を促
進することを企図している。課税所得を,納税者が営む企業活動の内容に応じ,(i) 適格米国内製造活動に帰属する課
税所得と,(ii)その他の企業活動に帰属 する課税所得,に配分し,(i)に9%を乗じた金額の損金算入が認められてい
る。仮に,税率 35%が適用される納税者の企業活動の全てが適格米国内製造活動に該当する場合,実質的な税率は
31.85%(35 ×(1-9%)= 31.85%)となる。
特別控除額は,事業年度中に終了した暦年における給与支払総額の 50%を上限とする。すなわち,十分な給与を支払
う雇用を維持していないと,特別控除額に制限が加えられることとなる。
〔計算例〕
課税所得
合計
適格米国内製造活動
その他の企業活動
特別控除前
180
100
80
特別控除(9%)
(9)
(9)
非適用
特別控除後
171
91
80
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なお,この米国内製造活動特別控除は,恒久税制として 2005 年より実施されている。
試験研究費税額控除
本税制は,一定の要件を満たす「適格試験研究費」の金額から計算する「試験研究費税額控除」を認めることで,米国
内の試験研究活動を促進し,科学技術分野における米国の国際優位を確立維持することを企図している。米国外にお
ける試験研究活動および人文科学分野における試験研究活動により生じた試験研究費は「適格試験研究費」とはなら
ない。「適格試験研究費」には,試験研究活動において生じた人件費,材料費,委託研究費(65%)等が含まれる。控除
限度超過額の繰戻期間は1年間,繰越期間は 20 年間である。
試験研究費税額控除は,時限立法により,1981 年に導入され,その後失効期間がほぼ無いまま 20 年間に亘り繰り返し
延長されてきたが,いまだ恒久化はされていない。現時点においては,2011 年 12 月 31 日をもって失効したままとなっ
ているが,遡及的に延長される可能性が高い。
外国税額控除
国外で課税された源泉所得税等については,納税者は,損金算入または外国税額控除を選択適用できる。外国税額
控除は,国外所得に基づき計算される一定の控除限度額を上限とし,控除限度超過額の繰戻期間は1年間,繰越期間
は 10 年間である。10%以上の持分を有する外国法人からの受取配当については,その外国法人が支払った外国法人
所得税についても間接外国税額控除が認められる。
4. その他の主要な事項
連結納税
共通の米国親会社を通じて 80%以上の株式保有関係で繋がる構成員から成る企業グループ(「関連グループ
(affiliated group) 6は,グループ内全ての法人の同意により,連結納税を選択出来る。連結納税は,一度選択すると,以
後継続しなければならず,原則として,IRSの承認を得ない限り単体納税に戻すことは認められない。
連結納税グループの構成員として,内国法人(C corporation)および LLC は認められるが,小規模法人(S corporation)
およびパートナーシップは認められない。また,外国法人も認められない。
連結納税グループの構成員である各法人は,共通の事業年度を採用することが求められる。一方,共通の税務上の会
計方針の採用は求められていない。
支配グループへの適用税制
80%以上の株式保有関係で繋がる構成員から成る企業グループ 7は,「支配グループ(controlled group)」に該当し,法
人累進税率の適用,代替ミニマム税の非課税額の適用等において,あたかも支配グループが一つの法人であるかのよ
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外国法人等の除外法人ではない親法人,親法人と議決権株式の 80%以上,および,総株式の市場価値の 80%以上の保有関係
で繋がる(除外法人ではない)子法人,および,これらの法人と同様の持株関係で直接,あるいは間接に繋がる(除外法人ではない)
子法人から成るグループ
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うに,当該ルールを適用する。これは,例えば,分社化により各法人の課税所得を低く抑えることにより低い税率を適用
してグループ全体の租税負担の軽減を図るというような租税回避行為を防止することを企図している。支配グループ内
の各法人の単体申告においては,適用税率は支配グループを構成する全ての法人の課税所得の合計額により決定し,
当該税率を,単体課税所得に適用して申告税額を計算する。
なお,連結納税上の関連グループと異なり,支配グループの構成員には,外国法人も含まれるため,米国に共通の親
会社を持たない日本企業の米国兄弟会社も同一支配グループの一員とみなされる。
国外関連者への支払い
内国法人が,使用料,支払利子,経営指導料等の費用を,国外関連者(直接または間接を問わず,総株式の市場価値
の 50%超の保有関係がある企業グループの国外構成メンバー)に支払う場合,一部の例外を除き,発生主義に代え,
現金主義による損金算入が適用される。ただし,租税条約により国外関連者が連邦税の免税となる費用(支払利子を除
く)については,発生主義による損金算入が認められる。
移転価格税制
一定の支配関係にある関連者間における,棚卸資産およびその他の有形・無形資産の譲渡,サービスの提供,貸付等
の取引は,独立企業間価格によることが求められ,また,同時文書化義務規定(Contemporaneous Documentation)によ
り,取引価格が独立企業間価格であることを担保することが求められる。取引価格が独立企業間価格であることを,事前
に当局に確認できる制度(APA:Advance Pricing Agreement)については,IRS との確認である一国 APA,および IRS お
よび日本を含む外国の課税当局との確認である複数国間 APA の両方が運用されている。
日米租税条約は,日米両国当局の移転価格税制の執行により納税者が二重課税等の不利益を蒙ることの無い様,課
税当局間の相互協議条項を定めている。
過少資本税制
国外関連者からの借入金,および,国外関連者による保証等の付された第三者からの借入金に関する支払利息(源泉
徴収または受取人に対する米国での課税が発生しないものに限る)について,借入法人たる納税者の期末日現在の負
債・資本比率が 1.5:1以上であれば,超過利子額(純支払利子額が,課税所得に一定の調整を加えた「調整課税所得」
の 50%を超過する額),または,不適格利子(国外関連者への支払利子等)のうち,いずれか少ない金額が損金不算入
となる。損金不算入額は繰り越され,翌事業年度の不適格利子に加算される。
上述は,俗にアーニングス・ストリッピング・ルール(Earnings Stripping Rule)と呼ばれる規定であるが,これ以外にも,内
国歳入法は,借入金利子の損金性に関し,法人に対する資金拠出が出資または貸付金のいずれに相当するかの判断
基準を財務省規則に委ねているが,現時点において,該当する財務省規則は公表されていない。
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(i)親法人,および,親法人と,議決権株式の 80%以上,または,総株式の市場価値の 80%以上を保有し,かつ,(ii)グループ内
法人の議決権株式の 80%以上,または,総株式の市場価値の 80%以上の直接,間接の株式保有関係で繋がるグループ等
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Subpart F 所得(タックス・ヘイブン対策税制)
内国法人は,外国法人からの配当については,配当受取時に益金算入するのが原則であるが,米国株主が 50%超を
所有する特定外国子会社(CFC:Controlled Foreign Corporation)において生じた特定の種類の所得については,配当
の有無にかかわらず,その所得を稼得した年度に,内国法人の所得に加算される。対象となる所得は,一般に低税率国
等への移転が容易な所得で,内国歳入法のSubpart Fにおいて規定されていることから,Subpart F所得 8と呼ばれる 8。
外国不動産投資法
FIRPTA(Foreign Investment in Real Property Tax Act)税制により,米国で事業を行っていない外国法人による米国不
動産(米国不動産化体株式を含む)の売却等において,売主に譲渡益の申告納税義務,買主に対価の支払に際して
源泉徴収義務が生じることがある。FIRPTA は,日米租税条約による減免措置の対象外であるため,日本企業も注意が
必要である。
支店利益税
外国法人が,米国支店を通じて事業を営む場合,通常の法人課税に加え,支店利益税(Branch Profit Tax)が,税率
30%で課税される。この支店利益税は,外国法人の米国子会社による利益配当が税率 30%で源泉徴収の対象とされる
ことに鑑み,子会社配当と支店送金との間で,税制上の均衡を図るとの趣旨による。ただし,日本企業の米国支店は,
日米租税条約により,通常の場合,適用免除となる。
5. 今後の展望
本稿作成中の 2012 年 10 月 10 日現在,〔表 6〕のとおり各種税法規定が,2012 年 12 月 31 日失効見込み,または,
2011 年 12 月 31 日で失効済みである。景気雇用対策の観点から,早急な措置が課題とされている。
2012 年 12 月 31 日失効見込み
(1)
個人所得税減税(ブッシュ減税)
(2)
個人所得税法のキャピタル・ゲインおよび適格配当所
得課税における軽減税率(15%)
(3)
遺産税(Estate Tax)および贈与税(Gift Tax)の最高税率
35%および非課税限度額 500 万ドル
(4)
社会保険税の FICA 税(Federal Insurance
Contributions Act Tax)の被雇用者負担分源泉徴収軽
減税率
(5)
固定資産特別償却 等
2011 年 12 月 31 日失効済み
試験研究費税額控除 等
また,冒頭に述べたように,「抜本的な税法改正」が,議論されてきたが,これらの「失効税制の延長」および「抜本的な
税制改正」について,近年の議会審議,選挙戦を通じ,民主党および共和党の両党の税制改正案の間には相容れない
争点がある一方,非常に厳しい連邦財政および雇用情勢を踏まえ,党の枠を超え,経済成長,競争力,イノベーション
の機会を生み出し,雇用を拡大する税制改革を実現しようとの動きも見られている。
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内国歳入法の Chapter 1, Subchapter N, Part III, Subpart F が,CFC に関して規定している。
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選挙の結果を踏まえ,選挙後の議会(現職議員による第 112 連邦議会(2013 年1月3日まで)および新選出議員による
第 113 連邦議会(2013 年~2014 年))において,いかなる税制改正が実現されていくことになるのか,非常に注目され
る。
以上
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