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OECD・BEPS 最終パッケージの公表 BEPS News In brief

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OECD・BEPS 最終パッケージの公表 BEPS News In brief
BEPS News
OECD・BEPS 最終パッケージの公表
9 October 2015
In brief
2015年10月5日、OECD租税委員会は、BEPS(Base Erosion and Profit Shifting)行動計画に基づく最終報告
書を含む包括的な最終パッケージを公表しました。最終報告書は10月8日のG20財務大臣・中央銀行総裁会
議(ペルーのリマにて開催)に提出され、新たな国際課税のルールとして採択されました。今般の最終パッ
ケージ公表を受け、それぞれの行動計画に係る施策立案の段階は、一応完了となる見込みですが、最終報
告書の提言に係る具体化等の作業は今後も引き続き予定されています。2016年以後は基本的に最終報告書
の実施及びモニタリングの段階に移行します。
この最終報告書を受けて、今後は我が国の税制改正及び租税条約の改正が行われることが予想されますが、
納税者、特に国境を越えて事業を展開している企業においては、最終報告書の影響を踏まえた事業計画等
の検討が不可欠になると思われます。 以下、最終パッケージの概要と今後のスケジュール等について説明
致します。
In detail
1. 税源浸食と利益移転(BEPS)に係る最終パッケージの公表と経緯
BEPSプロジェクトは、多国籍企業による各国の税制の相違点や不整合を利用した国境を越えた過度な節税
策が問題視されたことを背景に、2012年6月、OECDとG20 による協働プロジェクトとして発足しました。2013年
2月の「BEPSに関する初期的報告書(Addressing Base Erosion and Profit Shifting)」の公表、2013年7月の
「BEPSに対する具体的な対応策として15の行動からなるBEPS行動計画(Action Plan on Base Erosion and
Profit Shifting)」の公表を経て、2014年9月には7つの行動に関する報告書である、第一次提言が公表されま
した。
今般公表された最終パッケージは、15の各行動に関する最終報告書(第一次提言で公表された報告書のアッ
プデートを含む)の他に、報告書の要約(Executive Summaries)、FAQ等、1600頁を超える膨大な文書から構
成されています。
BEPS行動計画は、①国境を越えて事業を展開する企業活動に係る国内の課税ルールの整合性の確保、
②企業行動の実態に即した課税ルールの再構築、③透明性があり、確実で、予測可能性がある国際課税
ルールの策定、という3つの目的に沿って、OECD・G20 以外の諸国の参加も得て勧告案が検討されてきたも
のです。
最終パッケージは、10月8日のG20財務大臣・中央銀行総裁会議(ペルーのリマにて開催)に提出され、採択
されましたが、今後は11月のG20首脳会議(トルコのアンタルヤにて開催)において報告が行われます。
www.pwc.com/jp/tax
BEPS News
2. 最終パッケージの概要
2014 年 9 月の第一次提言は、下表の 15 項目のうち 7 つの行動計画(電子商取引課税、ハイブリッド・ミスマッチの効果の無効
化、有害税制への対抗、租税条約濫用の防止、無形資産に係る移転価格税制、移転価格関連の文書化の再検討、多国間協
定の開発)に関する報告書が盛り込まれていました。最終パッケージには、第一次提言のアップデートと併せて残る 8 つの行動
計画の提言が盛り込まれています。提言は、行動計画ごとのこれまでの討議を踏まえて、おおよそ 4 つのレベルに区分できると
考えられます。
「新たなミニマム・スタンダードの導入」は、相手国により何らの立法的措置が取られず、その結果、税務上の不効率が生じるよう
な事態への対応を可能とする一定の立法措置の導入を提言するものです。「既存基準の改正」は、既に立法や指針等により措
置が設けられている内容の見直しについて提言を行うものです。「共通のアプローチの採用」は、一定の立法措置等の提言を
行わず、一般的な政策の方向性や方針についての合意を提言するものです。ベスト・プラクティスの提示とは、BEPS 対応措置
の導入を義務とはせず、各国の任意とする場合に、制度案として提示を行うものです。
2015 年 10 月 5 日に公表された BEPS プロジェクトの最終パッケージの原文(英語)については、以下の OECD のウェブサイト
をご参照ください。 http://www.oecd.org/tax/beps-2015-final-reports.htm
行動計画
提言の内容等
提言の区分
電子商取引における問題点
1
電子商取引課税
電子経済から生ずる問題とその対応に係る報告書
2
ハイブリッド・ミスマッチの効果の無効化
モデル租税条約の改正・国内ルールの設計に関する勧告 共通のアプローチの採用
3
外国子会社合算税制の強化
国内ルールの設計に関する勧告
利子等の損金算入を通じた税源浸食の
国内ルールの設計に関する勧告、移転価格ガイドライン
制限
の改正
4
の提示のみ
ベスト・プラクティスの提示
共通のアプローチの採用
加盟国制度のレビューの最終化、OECD 非加盟国に参加 新たなミニマム・スタンダード
5
有害税制への対抗
6
租税条約濫用の防止
7
恒久的施設(PE)認定の人為的回避の防止 モデル租税条約の改正
既存基準の改正
8
移転価格税制(①無形資産)
移転価格ガイドラインの改正(及びモデル条約の改正)
既存基準の改正
9
移転価格税制(②リスクと資本)
移転価格ガイドラインの改正(及びモデル条約の改正)
既存基準の改正
10
移転価格税制(③他の租税回避の可能性
が高い取引)
移転価格ガイドラインの改正(及びモデル条約の改正)
既存基準の改正
11
BEPS の規模や経済的効果指標の集約及
び分析方法の策定
収集されるデータとその分析に関する勧告
を拡大する戦略、OECD 非加盟国に参加を拡大する戦略 の導入
モデル租税条約の改正・国内ルールの設計に関する勧告
新たなミニマム・スタンダード
の導入、既存基準の改正
ベスト・プラクティスの提示
12 タックス・プランニングの報告義務
国内ルールの設計に関する勧告
13 移転価格関連の文書化の再検討
移転価格ガイドラインの改正・国内ルールの設計に関する 新たなミニマム・スタンダード
勧告
の導入
14 相互協議の効果的実施
モデル租税条約の改正
15 多国間協定の開発
関連する国際広報及び租税問題を特定する報告書、多
国間協定の開発
PwC
新たなミニマム・スタンダード
の導入
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3. 各行動の概要
行動1(電子商取引課税)
電子商取引課税に関する最終報告書での主な結論はこれまでの検討を踏まえたものとなっています。電子商取引の課税のう
ち、付加価値税の課税制度は「仕向地主義」の消費税課税として既に提言が行われています。法人税の制度については、既
存のPEや移転価格の概念を適用することでネクサスやデータ等を巡る課題に対応することとし、あえて現段階で新たな概念や
源泉税等は提言されていません。ただ、一定の条件の下で各国国内法でこれらの措置を採る可能性もあるとされています。電
子商取引の法人税課税については電子商取引の進展を今後も引き続き、モニターしていくこととし、2020年までに報告書を作
成することになっています。
行動2(ハイブリッド・ミスマッチの効果の無効化)
行動2の最終報告書は第一次提言の内容を踏襲し、国内法及び租税条約の規定の改正により、ハイブリッド・ミスマッチを生じさ
せる取引の効果を無効化する、共通のアプローチを各国間で手当てすることを提言しています。最終報告書は第一次提言より
更に詳細な設例と併せて、新ルール実施の指針及び経過措置的取扱いが盛り込まれています。なお、今回の最終報告書では
ハイブリッド規制資本の取扱いは見送りとされ、貸し株を含む取引、CFC税制との調整等については一応の勧告案が提示され
ましたが、国内法の見直し等の更なる調整が今後の問題として残されています。
行動3(CFC税制(外国子会社合算税制)の強化)
CFC税制については、6つの検討項目(CFCの定義、適用の閾値、合算対象所得の定義、合算対象所得の算定、帰属所得の
ルール、二重課税の排除)が提示されましたが、提言の合意には到らない項目もあり、提言では各国の異なる政策目的のため
にCFC税制の実施に柔軟性を認めています。一方で、最終報告書ではCFC税制がBEPSの対抗措置として、今後も重要な役
割を担うと結論づけています。
行動4(利子等の損金算入を通じた税源浸食の制限)
利子等の損金算入制限については、新たなミニマム・スタンダードの導入の提言は行われず、計上された利子が当該事業体の
経済活動により生じた所得に直接関連するものに限り損金算入となるような共通アプローチの採用を提言としています。損金算
入利子の指標として、EBITDAの10-30%でのレンジの一定の(損金算入)利子割合基準が提言されましたが、固定の利子割合
基準に加えて、何らかの全世界グループの(損金算入)利子割合での補完も認められており、更にはデミニマス基準での補完も
容認しています。これらの全世界グループ割合等の基準については2016年に更なる作業が進められる予定です。
行動5(有害税制への対抗)
行動5に係る第一次提言から検討が重ねられ、有害税制の判定では、当該法管轄地において企業活動の実態があるか否かを
合意された方法により判定を行うとする新たなミニマム・スタンダードの導入の提言が行われています。パテントボックスの税制で
は、有害税制の判定上、「ネクサス・アプローチ」が適用され、当該法管轄地で無形資産の獲得のための研究開発活動の支出
が行われたか否かにより企業活動の実態の有無が判定されます。また、ルーリングに係る情報の交換義務についても合意がさ
れ、2016年4月1日以後に発遣されたルーリングは発遣より3ヵ月以内に交換の義務が課されることとされています。
行動6(租税条約の濫用防止)
租税条約の濫用防止に関しては条約漁り等の濫用防止の新たなミニマム・スタンダードの導入として、濫用防止の手段を提供
する新たな規定の導入(特典制限(LOB)条項、主要目的テスト(PPT)、導管取引防止規定、二重居住者条項、その他)の提言
が行われています。更に、モデル租税条約の改正や、低課税国・無税国との租税条約締結前の政策上の留意事項等の提言も
盛り込まれています。
行動7(恒久的施設(PE)認定の人為的回避の防止)
PE認定の基準について最終報告書では、①コミッショネアーアレンジメント等を念頭においた従属代理人規定の改正によるPE
認定の拡大、独立代理人の適用除外規定の縮減、②意図的な活動の細分化によるPE回避の対応措置として、PEとされない特
定の活動の(解釈の)厳格化、③建設PEの判定に係る12カ月基準の濫用防止規定等の提言が行われています。保険会社に係
るPE認定のルールについては特に進展はなく、PEへの所得帰属のルールも2016年に引き続き検討が行われます。
PwC
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行動8、9、10(移転価格税制(①無形資産、②リスクと資本、③他の租税回避の可能性が高い取引)
行動8、9、10では、まず、現行の移転価格に係る基準では必ずしも利得の配分が利得を生む経済活動と見合っていないことが
指摘され、移転価格の結果が価値創造に見合ったものとすることが意図されています。行動8の最終報告では、移転が容易で
あり、価値ある無形資産が、所得移転の手段として使われてきたことを受けて、法的な契約関係のみで判定せずに、関連者間
の取引の実態を優先させて判断をするべきことが提言されています。また、評価困難な無形資産に係るルールも策定されてい
ます。行動9の最終報告では、単なる資本の提供のみでリスク管理能力を持たない場合は、リスク負担に見合う報酬を得る権利
はないことを明確にし、リスク管理能力を裏付ける証拠の提示が必要であるとしています。行動10の最終報告では、その他のハ
イリスク分野の取引について、利益の配分等に係る提言が行われています。いずれの提言も所得移転が意図された取引形態
に大きな影響を与えるものであり、移転価格ガイドラインの大幅な見直しが行われるものと見込まれます。
行動11(BEPSの規模や経済的効果指標の集約及び分析方法の策定)
OECDは、BEPSにより毎年法人税の4-10%(1000億ドル-2400億ドル)の減収が生じているとの調査結果を報告し、今後の
BEPSの経済分析において、①税務執行過程で収集されながら効果的に活用がされていない税務関連情報、②行動計画5及
び13、更に行動計画12が実施されればそれにより新たに入手される税務関連情報の収集が重要であると結論づけています。
OECDは各国の税務当局と協働して、納税者の情報の機密保持に十分配慮し、今後もこれらの情報の分析を進めることとして
います。
行動12(タックス・プランニングの報告義務)
行動12の最終報告書では、本制度の実施国の事例等からベスト・プラクティスと考えられる制度の枠組みが提言されていますが、
制度の導入は各国の任意としています。また、各国が自国のニーズに合致した制度とすることができます(モジュラー方式)。
報告義務制度を導入する場合には、情報の提出義務(情報の内容、タイムリーな提出等)を課す必要性と納税者のコンプライア
ンスの負担のバランスを図るべきこと、対象とする国際的な税スキームの範囲、課税当局間でのより効果的な情報交換や協力
等についても提言が行われています。
行動13(移転価格関連の文書化の再検討)
移転価格関連の文書化の作業はBEPSプロジェクトの中でも早期に着手されたものであり、特に議論の錯綜した分野といえます。
国別報告書の作成は2016年1月1日からの適用となり得るため、納税者の対応が急がれる対応措置の一つです。文書化が義務
付けられるのは、国別報告書(国ごとの所得・納税額・従業員数等を記載、年間売上7億5千万ユーロ以上の連結グループ企業
を対象に経済活動のグローバルでの配分状況を示す、各国当局間は条約上の情報交換で共有)、ハイレベルなマスターファイ
ル(グループ全体に共通する基本情報を記載し、多国籍企業の全体像を示す)、ローカルファイル(各国の関連会社の取引情
報や経済分析を記載、現地税制に基く移転価格レポートと概ね同じ)であり、海外で事業を展開している企業にとって最も関心
の高いBEPSの行動計画であるといわれています。参加国は2020年までにこれらの実施状況をレビューすることになっています。
行動14(相互協議の効果的実施)
租税条約上の紛争解決にあたり相互協議の効果的かつタイムリーな改善努力に焦点があてられています。そして、納税者が紛
争解決のための手段をより効果的に活用できるように、新たなミニマム・スタンダードの導入(Mutual Agreement Procedures
(MAP)その他の手続きの導入)が提言されています。また、相互協議が円滑に進められるよう11のベストプラクティス(紛争解決
担当者のトレーニングの実施、Advance Pricing Agreements (APA)の実施等)が提示されています。なお、これらの紛争解決手
続きの一つとして多くの国(20ヵ国)では租税条約に仲裁条項を設ける改正にコミットしており、紛争解決手続の実効性あるモニ
タリングプロセスに関しては、2016年に合意がなされる予定です。
行動15(多国間協定の開発)
BEPS対策措置を早期に立法化するためには、既存の二国間の租税条約をオーバーライドする多国間協定による方法が望まし
いとし、税務上および国際公法上の観点から技術的にも実行が可能であると結論付けています。多国間協定については、2016
年末までに参加国が署名できるよう、アドホック検討チーム(約90カ国が参加)によって開発される予定です。
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4. 今後の動向
今般の最終パッケージ公表を受け、それぞれの行動計画に係る施策立案の段階は、今回で一応完了とされていますが、行動
計画の項目によっては、最終報告書の提言に係る具体化等について今後も引き続き検討作業が予定されています。2016年以
後は基本的に最終報告書の実施及びモニタリングの段階に移行します。
2016年以後に作業が予定されている分野としては、①金融取引に係る移転価格税制の整備・見直し、②コミッショネア・ストラク
チャー等における、PEへの帰属所得の算定、③移転価格税制における利益分割法の更なる明確化、④無形資産の評価方法、
⑤租税条約の濫用防止、バイブリッド・ミスマッチの効果の無効化等の対応措置のより具体的な運用等が挙げられます。
5. 納税者への影響
最終報告書を受けて、OECDモデル租税条約及び、移転価格ガイドラインの見直し・修正が行われ、加盟国を始めとする各国
の国内法や租税条約の改正が予想されます。我が国では、行動2のハイブリッド・ミスマッチの効果の無効化に関する第一次提
言を受けて、2015年度の税制改正が行われましたが、移転価格税制に関連する税制改正等が来年度以後の改正に盛り込まれ
ると考えられます。
国外に事業展開をしている企業は、最終報告書の影響を踏まえた事業計画等の検討が不可欠になりますので、その内容の十
分な理解が求められます。特に、行動13の提言に基づく国別報告書の作成は、早いところでは2016年1月1日からの適用となる
など、各国も制度の整備を進めており、我が国企業も海外子会社からの情報収集等、コンプライアンス体制の整備を早急に図
る必要があります。
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