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平成22年度税制改正ではグループ法人税制の導入や外国子会社合算税 制(タックスヘイブン対策税制)以外にも,いわゆる組織再編税制につ いて多くの重要な改正がなされています。しかしながら,グループ法人 税制等と異なり,新しい概念や枠組みを導入したものではなく,組織再

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平成22年度税制改正ではグループ法人税制の導入や外国子会社合算税 制(タックスヘイブン対策税制)以外にも,いわゆる組織再編税制につ いて多くの重要な改正がなされています。しかしながら,グループ法人 税制等と異なり,新しい概念や枠組みを導入したものではなく,組織再
(第三種郵便物認可)
平成23年2月7日
平成22年度税制改正ではグループ法人税制の導入や外国子会社合算税
制(タックスヘイブン対策税制)以外にも,いわゆる組織再編税制につ
いて多くの重要な改正がなされています。しかしながら,グループ法人
税制等と異なり,新しい概念や枠組みを導入したものではなく,組織再
編税制を構成する個別規定に細かな重要な改正が行っているものである
ことから,改正内容を全体的に理解するのが難しくなっています。
本稿では,実務家の観点から,組織再編税制の適用関係を検討する際
のプロセスに沿った形で,平成22年度税制改正が組織再編税制のどこを
どのように改正したのかを図表や仕訳を用いてわかりやすく解説したい
と思います。また,本稿では,清算に関する改正も取り上げたいと思い
ます。平成22年度税制改正によって100%グループ内における清算につ
いては,適格現物分配が新設され,繰越欠損金の引継対象とされた結
果,適格合併に類似した取扱いになっており,清算に係る課税関係は改
正前後で劇的に変わっています。
なお,本稿における内容はすべて筆者の私見であり,筆者が所属する
法人とは一切関係がないことをあらかじめ申し添えます。
平成23年2月7日
(第三種郵便物認可)
まず,平成22年度税制改正の詳細な内容に入る前に,平成22年度税制改正が組織再編税制のなか
でどこを改正しているのかを俯瞰します。すでに理解されている方も多いと思いますが,組織再編
税制の適用関係を検討する場合,概ね以下のようなプロセスを経て課税関係を決定していくことに
なります。
①
その組織再編行為または取引(以下「組織再編成等」)が適格組織再編成の対象となる組織再
編成(合併,分割,株式交換,株式移転,現物出資,現物分配)に該当するかどうかの判定
②
当該組織再編成等に係る再編当事法人間の資本関係の判定
③
当該組織再編成等の適格要件の判定(グループ内適格組織再編成に該当する場合,⑤∼⑨繰越
欠損金・特定資産譲渡等損失(含み損)の引継・利用制限の適用判定へ)
④
適格組織再編成または非適格組織再編成に係る課税関係
⑤
繰越欠損金・特定資産譲渡等損失の利用制限対象となるグループ内適格組織再編成かどうかの
判定
⑥
当該グループ内適格組織再編成に係る再編当事法人間の支配関係発生時期の特定
⑦
みなし共同事業要件の充足可能性の判定
(第三種郵便物認可)
⑧
繰越欠損金・特定資産譲渡等損失の発生時期と制限対象額の特定
⑨
繰越欠損金・特定資産譲渡等損失の制限対象額に係る特例計算
平成23年2月7日
上記フローチャートにおいては特定資産譲渡等損失を含み損と表記している。
このような組織再編税制の適用関係に関する検討プロセスに基づき,平成22年度税制改正におけ
る主な組織再編税制に係る改正項目を整理すると,
【図表4】の通りとなります。
平成23年2月7日
(第三種郵便物認可)
検討過程
改正事項
【検討 】組織再編成が適格組織再編成に該当するかどうか及びその課税関係
① その組織再編成等が ・ 適格現物分配の新設(法法2十二の十五)
適格組織再編成の対 ・ 適格事後設立の廃止(旧法法2十二の十五変更)
象となる組織再編成
に該当するかどうか
の判定
② 当該組織再編成等に ・ 「完全支配関係」(100%グループ)および「支配関係」(50%超
係る再編当事法人間
100%未満グループ)の新設(法法2十二の七の五,十二の七の六)
の資本関係の判定
・ 完全支配関係判定における従業員持株会及びストックオプション
による5%未満株主の特例措置の新設(法令4の2②)
③ 当該組織再編成等の ・ 無対価組織再編成の明確化(無対価合併,無対価分割,無対価株
適格要件の判定
式交換)(法法2十二の九ロ,十二の十ロ,法令4の3②∼④,
⑥∼⑧,⑭∼⑯)
・ 現物分配に係る適格要件及び清算時(残余財産の全部分配時)の
取扱いの新設(法法62の5)
④ 適格組織再編成また ・ 完全支配関係にある法人間の非適格組織再編成の取扱いの変更
は非適格組織再編成 (非適格合併,分割等における譲渡損益繰延べ,非適格株式交換に
に係る課税関係
おける時価評価損益不計上)
(法法61の13,62の9)
・ 譲渡損益調整資産を組織再編で移転した場合のグループ法人税制
における取扱いの新設(法法61の13②③⑥)
・ 抱合株式に係る譲渡損益非計上規定の新設(法法61の2③,法令
8①五)
【検討 】繰越欠損金または特定資産譲渡等損失の引継・利用制限の適用を受けるかどうかの検
討及びその制限額の計算
⑤ 繰越欠損金・特定資 ・ 合併類似適格分割型分割による繰越欠損金引継対象からの除外
産譲渡等損失の引
(旧法法57②④変更)
継・制限対象の適格 ・ 残余財産の確定の場合の繰越欠損金引継対象への追加(法法57
再編等
②,62の7①)
・ 適格現物分配の新設による繰越欠損金等利用制限対象への追加
(法法57④,62の7①)
・ 譲渡損益を計上しない非適格合併(つまり完全支配関係にある法
人間の非適格合併)の繰越欠損金等利用制限対象への追加(法法57
④,62の7①)
⑥ 支配関係発生時期の ・ 合併法人等の設立日及び被合併法人等の設立日の支配関係発生時
特定
期に係る起算日への追加(法法57③④,62の7①)
・ 支配関係が複数ある場合の判定(「当該特定資本関係」から「支
配関係」へ変更)
(法法57③④,62の7①)
⑦ みなし共同事業要件 ・ 規模継続要件及び特定役員要件における基準日の変更(「当該特
の充足可能性の判定
定資本関係が生じることとなった時または日」から「最後に支配関
係があることとなった時または日」へ変更)(法令112③三四五,
⑦,法法62の7①)
⑧ 繰越欠損金・特定資 ・ 同一者による支配関係が複数ある場合の判定(「最後に」支配関
産譲渡等損失の発生
係があることとなった日)
(法法57③④,62の7①)
時期と制限対象額の
特定
⑨ 繰越欠損金・特定資 ・ 事業を移転しない適格分割,適格現物出資と適格現物分配に係る
産譲渡等損失の制限
特例計算の新設(従前の特例計算との選択制)(法令113⑤,123の
額に係る特例計算
9⑦)
(第三種郵便物認可)
平成23年2月7日
組織再編成等が法人税法上適格組織再編成として取り扱われるかどうかを判定するためには,ま
ず,いま検討対象としている組織再編成等がそもそも法人税法上の適格組織再編成の対象となる組
織再編成に該当するかどうかを検討する必要があります。
従前,法人税法において適格組織再編成の対象とされていた組織再編成等は,合併,分割,株式
交換,株式移転,現物出資及び事後設立の6つの組織再編成等に限られていましたが,今般の税制
改正により新たに現物分配が税務上の適格組織再編成の対象に含められることになりました(法法
2十二の十五)
。一方,グループ法人税制の導入により完全支配関係のある内国法人間での資産譲
渡損益について課税繰延が認められるようになったことから,従前,適格組織再編成の対象とされ
ていた事後設立が適格組織再編成の対象から除外されました(旧法法2十二の十五,法法2十二の
十五)。
今般の改正においては,法人が行う現物配当等について,組織再編税制の枠組みに組み込まれ,
一定の要件を充足する現物配当等について適格現物分配として譲渡損益課税が繰延べられることに
なりました(法法2十二の十五)。制度の詳細については清算に関する解説において詳しく述べま
すが,従来,現物配当を実施する際に障害となっていた配当財産の含み益課税を繰り延べることが
可能となるため,グループ内での機動的な資産の移転が可能となります。
詳しくは,非適格組織再編成に係る課税関係に関する解説において詳しく述べますが,今般の税
制改正により,完全支配関係にある内国法人間の一定の要件を満たす譲渡取引については譲渡損益
を繰り延べることとされました(法法61の13①)。このような譲渡損益繰延制度が新設されたこと
により,従来,組織再編税制として措置されていた適格事後設立の制度は,当該譲渡損益繰延制度
に包含されることから廃止されています(旧法法2十二の十五,平成22年改正附則10)
。
その組織再編成等が適格組織再編成の対象となる組織再編成等に該当すると認められると,次
に,当該組織再編成等に係る再編当事者がどのような資本関係にあるか,つまり当該組織再編成等
が
100%グループ内の法人間の組織再編成等, 50%超100%未満グループ内の法人間の組織再編
成等,または
それら以外の場合にある法人間の組織再編成等(共同事業組織再編成等)のいずれ
に該当するかを決定する必要があります。法人税法上,組織再編成等の種類だけでなく,当該組織
再編成等に係る再編当事者間の資本関係に応じて適格要件が設けられているため,当該組織再編成
平成23年2月7日
(第三種郵便物認可)
等が適格要件を充足しているかどうか判定するためには,再編当事者間の資本関係を適切に決定す
る必要があります。
今般の税制改正においては,グループ法人税制の導入に伴い,従来の100%グループおよび50%
超100%未満グループをそれぞれ「完全支配関係」及び「支配関係」と整理し,完全支配関係の判
定上,従業員持株会等の保有する5%未満の保有割合を除外して判定できる特例措置が設けられて
います。
これまで組織再編税制における100%グループや50%超100%未満グループの意義は,適格組織再
編成等の規定に個別に規定されていました。例えば,適格合併を規定する旧法人税法第2条十二の
八では,100%グループおよび50%超100%未満グループをそれぞれ「いずれか一方の法人が他方の
法人の発行済株式等の全部を直接又は間接に保有する関係その他の政令で定める関係」(100%グ
ループ)及び「いずれか一方の法人が他方の法人の発行済株式等の総数(出資にあつては,総額。
以下第十二号の十六までにおいて同じ。
)の百分の五十を超え,かつ,百分の百に満たない数(出
資にあつては,金額。以下第十二号の十六までにおいて同じ。)の株式(出資を含む。以下第十二
号の十六までにおいて同じ。
)を直接又は間接に保有する関係その他の政令で定める関係」
(50%超
100%未満グループ)と規定していました。
平成22年度税制改正では,グループ法人税制の適用範囲として「完全支配関係」(法法2十二の
七の六)を新たに定義したことから,組織再編税制における100%グループも「完全支配関係」と
同様の意義を有するものと統一されました。また,詳しくは後述しますが,完全支配関係の判定
上,従業員持株会等の保有する5%未満の保有割合を除外して判定できる特例措置が設けられたこ
とにより,組織再編税制における100%グループの範囲は従前よりも広く捉えられることになりま
した。
さらに,50%超100%未満グループも「支配関係」
(法法2十二の七の五)として新たに定義され
ていますが,その実質的な意味に変更はありません。
「完全支配関係」(法法2十二の七の六)および「支配関係」(法法2十二の七の五)は,それぞ
れ以下のように定義されています。具体的には,
【図表5】に示すような関係になります。
一の者が法人の発行済株式等の全部を直接若しくは間接に保有する関係として政令で定める関
係(以下この号において当事者間の完全支配の関係という。)又は一の者と間に当事者間の完
全支配関係がある法人相互の関係
(第三種郵便物認可)
平成23年2月7日
一の者が法人の発行済株式若しくは出資(当該法人が有する自己の株式又は出資を除く。以下
この条において「発行済株式等」という。
)の総数若しくは総額の百分の五十を超える数若し
くは金額の株式若しくは出資を直接若しくは間接に保有する関係として政令で定める関係(以
下この号において「当事者間の支配の関係」という。)又は一の者との間に当事者間の支配の
関係がある法人相互の関係
ここで,新たに規定された「完全支配関係」および「支配関係」を理解するうえで,以下に記載
するいくつか留意すべき事項があります。
「完全支配関係」および「支配関係」の定義に規定する「一の者」には,内国法人のみなら
ず,外国法人や個人(居住者・非居住者とも)も含まれます。連結完全支配関係の場合,連結納
税の承認を受けた「内国法人」である連結親法人と連結子法人との間の完全支配関係または連結
親法人との間に完全支配関係がある連結子法人相互の関係をいうと規定されているため(法法2
十二の七の七)
,内国法人による完全支配関係に限定されます。一方,グループ法人税制や組織
再編税制の適用における「完全支配関係」および「支配関係」においては単純に「一の者」によ
る完全支配関係および支配関係と規定されているため,外国法人や個人も含まれることになりま
す。
個人による「完全支配関係」および「支配関係」の判定にあたっては,親族(六親等内の血族
平成23年2月7日
(第三種郵便物認可)
及び三親等以内の姻族等)等の当該個人の特殊関係者も含めて判定することとされています(法
令4①,法令4の2①②)
。
「完全支配関係」の判定にあたっては,発行済株式等から5%未満の従業員持株会の所有株式
や役員または使用人のストックオプション行使による所有株式は除くこととされました(法令4
の2②)
。従前の組織再編税制における100%グループ判定(「いずれか一方の法人が他方の法人
の発行済株式等の全部を直接又は間接に保有する関係その他の政令で定める関係」に該当するか
どうかの判定)では,このような除外措置はなかったため,今般の税制改正によって完全支配関
係の判定要件は緩和されたといえます。ただし,当該除外措置の適用にあたっては,以下の点に
留意してください。
従業員持株会に係る除外措置については,その組合員となる者が判定対象となる法人の使用
人に限定されている民法上の組合契約(民法667条第1項)によるものであり,主たる目的に
したがって取得した当該法人の株式に限定されています(法令4の2②一)。言い換えると,
伝統的な従業員持株会制度を想定しているのであって,信託を利用した社員持株制度は対象と
なりません。
ストックオプションに係る除外措置については,会社法238条第2項の決議等により判定対
象となる法人の役員または使用人に付与された新株予約権の行使によって取得された当該法人
の株式であり,当該役員等が有するものに限られています(法令4の2②二)。ストックオプ
ションの場合,その制度趣旨からして,付与された新株予約権を行使した後取得した株式を市
場等で譲渡する蓋然性が高いことから,条文上,このような限定が付されているものと考えら
れます。なお,従業員持株会に係る除外措置においては,従業員の退職時に従業員持株会が当
該従業員からその所有する株式を購入することが規約上約されることが通常であるため,「当
該従業員等が有するものに限定する」といった規定は設けられていません。
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