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図解でわかる! 3 M&A

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図解でわかる! 3 M&A
図解でわかる! M&A 会計 日本基準と IFRS
第 3 回 「取得企業の識別」、「対価の測定日の決定」、「段階取得」
あらた監査法人 公認会計士 清水 毅
公認会計士 三刀屋 淳
はじめに
2008 年 1 月に,国際会計基準審議会は M&A 会計に係る改訂基準を公表しました。この改訂
により,従来の M&A 会計に対する基本的な考え方が大きく変わりました(第 1 回、第 2 回参照)。
日本基準は 2008 年 12 月の改訂により、持分プーリング法が廃止され、すべての企業結合(共同
支配企業の形成及び共通支配下の取引を除く。)においてパーチェス法が適用されることになりま
した。M&A に関する会計基準は国際財務報告基準(以下「IFRS」)では、IFRS3 号「企業結合」
(以下「IFRS3」)及び IAS27 号「連結及び個別財務諸表」で規定されており、日本基準は企業会
計基準第 21 号「企業結合に関する会計基準」、基準第 22 号「連結財務諸表に関する会計基準」
他で規定されています。今回取り上げる M&A 会計上の論点、「取得企業の識別」、「対価の測定
日の決定」、「段階的取得」については、基本的に IFRS と日本基準の間で差異はなくなりました。
なお、文中意見に関する部分は筆者の個人の見解です。
【図表1】 「取得企業」の決定
改訂後
改訂前
IFRS
1)連結会計基準の考え方に基づき、他の結合
当事同左企業を支配する結合当事企業が明確
である場合には、当該結合当事企業が「取得
企業」となります。
同左
2)連結会計基準の考え方によって「取得企業」
が明確ではない場合には、議決権や取締役会
等いくつかの要素を総合的に考慮して「取得企
業」を決定します。
日本基準
1.
取得企業が決まらない場合「持分プーリング法」
「持分プーリング法」は認められなくなりました。
の適用が認められていました。パーチェス法では、 「取得企業」の決定は、IFRS3と同様の規定に
原則、議決権比率が大きいと判定された企業を
なりました。
「取得企業」としてきました。
取得企業の識別
IFRS3 では、すべての企業結合に関して、一方が「取得企業」となり他方が「被取得企業」とな
ることを前提としています。「取得企業」の識別は、支配の獲得を基準として行われ、基本的には
支配力を有している企業が「取得企業」に該当します。また、「取得企業」の識別については、現金
等の譲渡、債務の引受で実施された企業結合においては、これを行った企業が「取得企業」となり
ます。
PricewaterhouseCoopers Aarata
他方、株式を対価とする企業結合(合併等)については、以下の条件を総合的に勘案して、「取
得企業」が識別されます(IFRS も日本基準も同様です)。
1)ある結合当事企業の総体としての株主が、結合後企業の議決権比率のうち最も大きい割合を
占める場合には、通常、当該結合当事企業が「取得企業」となります。
2)結合当事企業の株主又は株主グループのうち、ある株主又は株主グループが、結合後企業の
議決権を過半には至らないものの最も大きな割合をもって有する場合であって、当該株主又は株
主グループ以外には重要な議決権比率を有していないときには、通常、当該株主又は株主グル
ープのいた結合当事企業が「取得企業」となります。
3)結合当事企業の株主又は株主グループのうち、ある株主又は株主グループが、結合後企業の
取締役会その他これに準ずる機関(重要な経営事項の意思決定機関)の構成員の過半数を選任
又は解任できる場合には、通常、当該株主又は株主グループのいた結合当事企業が「取得企
業」となります。
4)結合当事企業の役員若しくは従業員である者又はこれらであった者が、結合後企業の取締役
会その他これに準ずる機関(重要な経営事項の意思決定機関)を事実上支配する場合には、通
常、当該役員又は従業員のいた結合当事企業が「取得企業」となります。
5)ある結合当事企業が他の結合当事企業の企業結合前における株式の時価を超えるプレミア
ムを支払う場合には、通常、当該プレミアムを支払った結合当事企業が「取得企業」となります。
なお、支配の獲得により「取得企業」と識別された企業が法的な存続会社と一致しない企業結
合は逆取得といわれ、法的には消滅会社となる企業が、会計上は「取得企業」となります。
改訂後の日本基準においても IFRS と同様に、連結財務諸表における「支配」の考え方に基づ
き、支配を獲得する企業を「取得企業」となることを定めており、また、株式を対価とする企業結合
においては、IFRS3 と同様の要件を勘案して、総合的に「取得企業」が決定されることになります
(【図表 2】参照)。
【図表 2】 「取得企業」の識別
PricewaterhouseCoopers Aarata
2. 株式を取得の対価とする場合の時価の測定日
株式の交換による取得の場合において、市場価格のある取得企業等の株式が取得の対価とし
て交付されるときは、いつの時点での株価をもって取得の対価を測定すべきか、すなわち企業結
合の主要な交換条件が合意されて公表された時点(合意公表日)での株価と、実際に「被取得企
業」の支配を獲得した日(企業結合日)の株価のいずれで測定すべきかという論点があります。改
訂前の日本基準では、市場価格のある取得企業等の株式が取得の対価として交付される場合の
時価は、原則として、合意公表日前の合理的な期間における株価を基礎にして算定するものとさ
れていました。改訂後の日本基準では、IFRS とのコンバージェンスにも配慮し、「被取得企業」ま
たは取得した事業の取得の対価は、原則として、企業結合日における株価を基礎にして算定する
ものとなりました。
IFRS3 では改訂する以前より、企業結合日における株価を基礎に算定されてきました(【図表
3】参照)。
【図表 3】 株式を取得の対価とする場合の当該対価の時価の測定日
改訂後
改訂前
「取得企業」が支払った取得の対価(株式の時
価等)は、取得日(=企業結合日)における公
正価値で、測定します。
同左
IF RS
日本
基準
合意公表日前の合理的な期間における株価を
基礎にして算定するものとされていました。
企業結合日における株価を基礎にして算定すること
となりました(IFRSと同様にな りました) 。
なお、実務的には、合併を公表してから、合併するまでの間の株価の動きは、「のれん」の金額
に影響を与えることになります(【図表 4】参照)。
【図表4】 時価の「測定日」の違い 旧基準 vs 新基準
PricewaterhouseCoopers Aarata
3. 段階取得
M&A における取得が、単一の取引ではなく複数の取引により達成される場合(段階取得)、日
本基準では、「取得企業」が「被取得企業」に対する支配を獲得するに至った個々の取引ごとに支
払対価となる財の時価を算定し、それらを合算したものを取得の対価としていました。改訂日本基
準においては、連結財務諸表上、支配を獲得するに至った個々の取引すべての企業結合日にお
ける時価をもって、「被取得企業」の取得原価を算定し、当該取得原価と当該支配を獲得するに
至った個々の取引ごとの原価の合計額との差額は、当期の「段階取得に係る損益」として処理す
ることになりました。ただし、個別財務諸表においては、段階取得による差額は計上せず、いまま
でどおり過去の取得原価の積上げにより取得原価を算定するとしています。
IFRS3 において、段階取得の場合は、既存の投資による持分について、支配獲得時点の公正
価値による再測定を行い、結果として損益が生じる場合には、支配獲得が生じた会計期間におい
て損益として認識されます(改訂後の日本基準と同様)。
【図表5】 段階取得
改訂後
改訂前
IFRS
個々の取引の取得原価の合計が企業結合
の取得原価となります。
取得日に既存持分を公正価値で 再測定し、差額は
損益として処理します。
日本基準
「取得企業」が「被取得企業」に対する支配
を獲得するに至った個々の取引ごとに支払
対価となる財の時価を算定し、それらを合
算したものを取得の対価としていました。
連結財務諸表においては、支配を獲得するに至った
個々の取引すべての企業結合日における時価を
もって、被取得企業の取得原価を算定し、当該取得
原価と当該支配を獲得するに至った個々の取引ごと
の原価の合計額との差額は、「段階取得に係る損
益」として処理することとなりました(IFRSと同様)。
個別財務諸表においては、従前のとおりです。
【図表6】 持分の追加取得の処理
(例)資産の公正価値150億円の会社の持分を40%保有していた(簿価60)が、今回60%の持分を120億
円(会社全体の価値は200億円)で取得した。
旧基準による連結BSのイメージ
資産:150
のれん:30
新基準による連結BSのイメージ
当初支出:60
資産:150
段階取得に
係る損益:20
当初支出:60
今回支出:120
のれん:30
すでに所有していた
持分を時価評価
PricewaterhouseCoopers Aarata
今回支出:120
損益=200 X 40%
- 60 = 20
この記事は、『週刊 経営財務』 2929 号(2009 年 8 月 3 日)にあらた監査法人として掲載したも
のです。発行所である株式会社税務研究会の許可を得て、あらた監査法人がウエブサイトに掲載
しておりますので、ほかへの転載・転用はご遠慮ください。
©
(
2009
)
PricewaterhouseCoopers
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“PricewaterhouseCoopers” refers to the Japanese firm of PricewaterhouseCoopers Aarata
or, as the context requires, the PricewaterhouseCoopers global network or other member
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