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特集 日本 の微古生物学 界の批判的展望

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特集 日本 の微古生物学 界の批判的展望
特集
日本 の微古生物学 界の批判的展望
日本 地 質学会 第82年
学 術 大会 が去 る4月2日
か ら3日 間京 都 大学 で行 な われ,大 阪 微化 石
研 究会 が世 話 人 にな り夜間 小集 会 「Micropaleonto1ogistのつ
どい 」を持 った。日本
の微 古生 物学 界 の批 判 的展 望 と云 うテー マで東 大工 学部 の内尾 高 保 氏(大 野 照 文 氏代 読)と 東
北大 理学 部 の北 里洋 ・岡村 真氏 に話 題提 供 を頂 いた。 内尾氏 は当 日不 参 加 で代 読 のた め再 度,
話題提供 で触 れられ なかった点 も含 め て原 稿 を よせ られ た。北 里 氏 に は この小 集 会 で話 題 提供 さ
れ た 「古 生 物学 の研 究 の分 類整 理 」を投 稿 して頂 いた。 さ らに,山 本 ・西脇 氏 に は微 化石 研 究
に慶け る情 報地 質学 的方 面 か らの問 題点 の 指摘 を夢願 い した。
日本の微古生物 学界の
批判 的展望
1969,1974,1975)に
関連 した こと を発表
して います の で,そ れ ら を参 照 して下 さい。
古生 物学 の 内容 は広 いの で,今 回 は実 際 的
内 尾 高 保(東 京大学)
問 題 と して,主 に分 類 学 と化石 層序 学 に つ い
て述 べ ます。 古 生 態学 は堆 積 学 と も密 接 に関
1.ま
え
が
係 してお り,非 常 に重 要 です が,生 殻 群 集 一
き
死殻 群集 一化石 群集 の過程 が非 常 に不 明 の点
本年(1975)4月
に京都 大 学 で 開催 され
ま した 臼本地 質 学会 第82回
年 会 で、 微 古生
物学 に関す る夜 間小 集会 がひ らかれ ま した。
筆 者は 上記表 題 に つい て世話 人か ら御 依頼 を
が 多 く,化 石層 序学 よ りは るか に むつ か し い
古 生 態学 と生態学 との 関係 にっ い ては筆 者の
小論(1974)を 参 照 して下 さい。
先 づ考 えなけ れ ばな らな い こ とは 各 研究 者
受 け ま したが,や む を得 ない突 然 の事 情 で出
のお かれ た基本 的 立場,あ
席 で きな くな り,講 演要 旨を代 読 して もらい
です。 日本 の大 学 で は,古 生 物学 のた め の古
ま した。 以下 に記 す もの はそ の要 旨 です が,
生物 研 究は 東北 大学 にお い ての み許 され てい
最後 に古 生物 学 的デ ー タの統計 処理 に関す る
て,他 の大学 では大 部 分 が地 質学 のた め の古
項 を加 えま した。
生物 研究 が本 来 の 目的 です(教 育 学 部,工 学
ここに論 じ る問 題は古 くて新 しい,すな わ
る いは研 究 の 目的
部所 属 の研 究者;地 質 調 査所,石 油会 社,博
ち基 礎的な 問題 で,当 然大学 で教 え るべ き こ
物館 な どに所 属す る研 究者 には そ れぞ れ の機
とです が,実 際 には古 生物 学 の,ま た地質 学
関 の もつ 目的 があ ります)。 従 って,分 類学,
の大家 と言わ れ る人 々で さえ も無 視す る事 が
生態 学,進 化 学な どは化 石層 序学,古 生 態 学,
多 く,そ の た めに大 きな論 争 を生 じた こ とが
地 史学な どを発 展 させ る手 段 としての 役割 を
あ る問 題 です。 基 礎 が し っか りして いな い と
期待 され てい ます。 この よ うな本 来 の 目的 を
複雑な 現 象の 解 明は で きませ ん。 この こ とは
主 題 として研究 をお こ ない,そ の ため の基 礎
筆 者 が古生 物学 の 研 究を 始 め(1946年)て
として生 物学 的 研 究 をす る こ とは望 ま しい こ
か
ら長 い経 験 で痛感 した こ とで,す で に幾 つ か
の小論(内 尾,1964,1965,1967,1968,
とです。
2.分
類
学
きた と して話 を進 め ます。 基 本 的 に二 つの 重
要 な事項 が あ ります。 第一 は,お のお のの 種
化 石(生 物)の 属 ・種 の 同定 と分 類 学 とは
(属,科な
ど上位 の分 類 単位 も)の 定 義 を知
別 の もの で,前 者 は 後者 の 前段 階 の もの です。
る こと,第 二 は種 の概 念 です。 以下 に簡 単 に
日本 の 化石 研 究者 は,同 定 の精 度 の 差 を除 け
説 明 します。 科 や属 の定 義 はそ れ ぞれ の生 物
ば,あ る化 石(生 物)groupの
group毎
同定 者,あ
るいは 記 載 をや ってい るの が大 部分 で あ る と
に専 門 の分 類書 に ま とめ られ て ま
種 の定 義 は無数 の専 門学 術雑 誌 に分 散 し
す。
思 われ ます。 分 類 学 とい う哲学 的体 系 につ い
て記 載 され ています が,有 孔 虫 の よ うに多 年
ては,若 い研 究者 は深 く考 え る折 が少 い た め
多 くの人 に研 究 され た もの は カ タ ログ とし て
と思 われ ます。 人為 的 左種 ・変 種 ・亜 種 な ど
出版 され て います。 有 孔 虫 カ タログは非 常 に
をた くさん新 し く記 載 して も,分 類学 に と っ
高価 な もの で,日 本 では数 ケ所 に しか あ りま
て本質 的 左貢 献 は少 い と思 わ れ ます。
せ ん。 これは便 利 で す が,な くて も化石 層 序
属 ・種 の 同定 が"絵 合 わせ"でな い こ とは
学(あ る地域 の,あ る地 質時 代 の研 究 には 記
化 石研 究者な ら誰 で も知 ってい る筈 です が,
載 され てる全種 を知 る必 要 は ない し,sp1,
そ れ で は具 体 的 に どの よ うな過程 を経 て 同定
2,…,spA,B…
を行 っ てい るの で し ようか。 そ の過 程 い かん
ます)に は さ しつか え あ りませ ん し,逆 に カ
に よ って同定 の 精度 が強 く影響 され まあう。
ま
タ ログの もつ欠 点 に留 意す る ことが重要 です。
た,か りにその 過程 が正 し く理 解 され てい た
属や種 の 記載 は一 般 に不 完 全(特 に18-19
として も,多 くの 個体 を同定す るの に 正 し く
世紀 に出版 され た もの の場合)で,原
実 行 され てい るで し ょ うか。 長年 あ る生 物
部 分 は概 念 的 です。 この よ うに,実 際 の標本
groupを
を正確 に代表 してい ない 図 を もとに して種 を
研 究 し てい て も,ど ん な試 料 に も
の よ うに記 号 で も表現 でき
図 の大
同定 で きない標 本 が少 くない もの です が,多
同定 す る こ とは無 意 味 であ り,カ タ ログにお
くの 研 究者,そ れ もまだ 研究 歴 の若 い研 究 者
さめ られ てい る記 載 と異な るか ら とい って新
の論 文 の化石 リス トをみ る と,同 定 で きない
種 を作 る な ど とい うこ とは一 流の分 類学者 は
種 の 少 い のに驚 きま す。 かつ て,あ る地 方の
や りませ ん。 個 々の種 の定 義 は形 式 的に は原
有 孔 虫研 究 を してい た頃 に,同 じ地 域 ・地 層
記 載 にな ります が,実 際 には記 載 の もとに な
の有 孔 虫 の論文 が 出版 され ま した の で,図 示
った標本(Holotype完
された標 本 をみ せ て もらい ま した が,非 常 に
atype副
保 存 の 悪い 標本 で,な か に は属 名 の決定 さえ
(厳 密 に はHolotypeの
疑 わ しい物 が あ って,驚 い た こ とが あ ります。
の よ うな模 式標 本 は一 般 に は 見る こ とが で き
い った ん 出版 され る と,実 際 の標本 や事実 と
ま せん の で,図(写
模 式標 本 とPar-
模 式標本)で 定 義 づ け られ ます。
み に よる)。
こ
真)と 記載 で代 用 して ま
離 れて,記 載 された こ とが あ たか も事 実 で あ
。 この代 用 物 が正確 でな い のが 同定 の混 乱
す
るが如 く他 の研究 者 に 引用 され,学 界 に混乱
を起 す 原 因で す。 従 って,同 定 の精 度 を向 上
を お こします。
させ るた め には,Holotypeを
種 名 の決 定 に は,先 づ属 名 が決 定 で きなけ
れ ばな りませ ん。 した が っ て,属 名 は決 定 で
産 した 同 じ
場所 の同 じ層 か ら得 られ るTopotypes
(同 地 模式 標 本)を 用 い るの が よいの です。
同 じ場 所 か ら得 られた もの で も,Holotype
浮游 性 有孔 虫 の同定 につ いて 考 え てみ まし ょ
と同種 と同定 す るこ とは,厳 密 に言 え ぱ命 名
う。 あ る程度 分 類学 をや り,みづ か ら非 常に
者 以外 には容 易 では あ りません が,あ る程度
多 くの個体 を相 手 に研 究 した 経 験 の あ る人 な
経験 あ る人な らば可能 です。Topotypeは
一般 に多 くの個体 を得 られ るの で ,そ の種 の
ら ば,普 通 の神 経 の持 主 で あ るな らば,形 態
的 に非 常 に 類似 した標 本 を 多 くの種 に 分 け る
個体 変異 の範 囲 を見 るの に好都 合 です。 大学
浮 游 性有 孔 虫(成 長 殻 では異 って も,幼 形 で
ではHolotype,Paratype,Topo-
は非 常 に類似)の 同定 とい う仕 事 に耐 え られ
ypeな
t
どの実際 に 同定 に必 要なTypeの
概
念 を教 え るべ きです。
種speciesの
ませ ん し,そ の 同定 の精 度 に疑 問 を持 つ 筈 です
。すべ ての 自然 現象(生 物 界 を含 む)は 非
概 念 につ い ては生 物 学 者,
常 に多 くの 要 因 に影響 され て変 化 します が,
古 生物 学者 が論 じて お り,両 者 の間 に 差異 が
そ れ らの要 因 を支 配 してい る共 通 した幾 つか
あ ります。 生物 学 的 な種 は現実 的な 存在 で,
の物 理学(化 学 を含 め た)的 原理 が あ る と思
簡 単 に言 えぱ雌 雄 交配 で子 がで き るか否 かに
わ れ ます。 この よ うな考 え 方 をす れ ば,た と
よ り比較 的短 期 間 で 同 じ種 か否 か検 証 され ま
え要 因 が 多 くて も,かな りはっ き りした単 純
。 この方 法 は化 石 に は適 用 で きませ ん ので,
す
原理 で生 物 の種 ・進 化 ・生 態 左 どが理 解な
さ
古 生物学 的種 は形 態学 的に きめ られ ます。 化
れ,従 って,無 理な 超 細分 とい うものが 人為
石 に み られ る形 態 や構 造 に はい ろい ろの もの
的な もの にす ぎな い こ とが わ か りま し ょ う。
が あ り,ど の特 徴 が分 類 に本 質 的意 味 が あ る
た だ し,こ の よ うな人為 的細 分 で も,地 層 や
か,ど の 程 度の差 を種 の相 異 に用 い るか な ど
地 質年 代 の細分 に役立 つ可能 性 は あ るわ け で
研究者 に よ り異 な り,人 為 的 な種 ・変 種 ・亜
も しそ れ ほ ど困難 でないな らば,仮 に細分す
種な どをや た らに作 って しま い ます。 極端な
る ことは望 ま しい こ とです。 現 在 お こなわ れ
例 として,浮 游 性 有孔 虫 の大 家 と言 われ る 人
てい る浮游 性 有孔 虫 化石 の 超細 分 は この限 度
たちの超 細分 が あ り,そ れ を いか に も権威 者
を超 えて い る と思 われ ます。 これ は 個 々の研
だ と感 嘆 す る人 が多 い と思 い ます。 古 生 物学
究 者 が実情 に応 じ て反省 す べ き点 で あ ります。
者 の種 は生物 学者 の種 と異な る に して も,生
種 の同定 は"絵 合 わせ"で は あ りませ ん が
物学的な 種 とは本質 的 に何 か を理 解 して,化
現 実 に は"絵 合 わ せ"よ
り出発 し ます。 顕
石 の同定 に適 用 して行 け ば,両 者 の 差 は少 し
微鏡 下で み る と,"絵"に
一 致 しな い標 本 が
つ小 さ くなって行 くで し ょ う。 そ の よ うな
ず
た くさん あ る こ とが わ か り,"絵"以
外 に原
努 力 をせず に,形 態 的類似 ・差異,そ の程 度
記 載 を読 まね ばな ら な くなります。 この よ う
に よ り,あ る化石 種 のgroupの"進
化 系列"
に して個 体変異 の あ る こ とを体 験 し ます。 こ
を作 って も,そ れ が生 物 学 でい う進 化系 列 と
の体験 に 上述 の模 式標本 の概 念 と種 の概 念 が
同 じと言え るで し ょうか。 この よ うな"進 化
加 わ って,さ らに 同 じ経 験 を多 くの 種 に つ き
系列"に
繰 返 して い る うち に,属
もとづい て,ど の種 が古 い とか新 ら
・種 の理解 の程 度
しい とか決定 し て よい で し ょ うか。 そ の よ う
と同定 の精 度 が 向 上 して行 きます。 結 論 と し
に して きめ られ る地 質年 代 とか対 比 とかが正
て,ど んな 分 類 の大 家 も必 ず 初歩 的 段 階 を経
しい と言え るで し ょ うか。 実 際 問 題 と して,
てい る もの で あ り,初 期 の仕 事 に誤 りが あ り
ます(後
期 の 仕 事 に 誤 りが あ る の も少 くあ り
ま せ ん)。
料 の産 地 を明確 に してな い ものが 多 く.化 石
層序 の論文 で も,試 料 の位 置 を5万 分 の1の
そ れ は 学 問 の 必 然 性 で あ っ て,特
に恥 で は あ りま せ ん 。 誤 り に早 く気 付 き,そ
地形 図 を基礎 とした ルー ト・マ ップ に示 した
れ を繰 返 さない ことが必 要 で あ ります。
もの が大 部分 で,地 質柱 状 図 に試料 の層準 を
示 した もの は非 常 に少な い。 地質柱 状 図 に層
3.化
石 層 序 学
準 を 示 した場 合 で も,図 示 され た地質 図 ある
いは 利 用 し得 る他 人 の地 質図(例:地
質調査
地 質学 教 室 に席 をお く古生 物 学 者の 大 部分
所 の図 幅)の 地 質構 造 や 地層 の走 向 ・傾 斜 か
が 目的 とす る ものは 化石 層序 学 と古生 態学 で
ら ど うして試料 の 層準 を決定 したの か理 解 で
論
きな い ものが 多 い。すな わ ち,古 生 物学 者 は
じた の で参 照 して下 さい。 日本 や外 国 の地質
一般 に試料 の層準 にあ ま り重 要性 を認 め てい
あ ります。 前者 に関 して筆者(1975)は
い と言 え ま し ょう。 そ の結 果 と して,そ れ
な
学 の教 科書 では層 序 学stratigraphyは
岩 石(相)層
raphyと
らの化 石 層序 学 的結 論 が野 外の事 実 と反 した
序学physicalstratig化 石 層序 学biostratgraphyに
分
り,種 や属 の地 質年代 的分 布 ・順序 に矛盾 を
類 され てい ま す。 筆 者 の 考 えで は,こ の分 類
生 じた りして い ます。 この よ うに,化 石 層序
は誤 りで あ って,前 者 は後者 の前 段階 の もの
学 は 化石 の 同定,試 料 層準 の決定 とい う全 く
で,両 者 は層序 学 研 究 の方法 論 的な 分 類 とい
独 立 した手 段 の 上に 成立 してい ます ので,い
うよ りは研 究 の順 序 を 示す に す ぎませ ん。 内
か に化石 の 同定 が よ くで きる人 の研 究 で も,
容的 にみ ます と,理 想 的層 序学 は理想 的 化石
試料 層準 を誤 った場 合 には,そ の化 石層 序 が
層序 学 に一 致 します。
誤 りであ る こ とは 明 白 です。 この 点が 日本 の
現 実 に.あ る地 域(堆 積 盆 地)の 化石 層序
化石 層 序 の最 大 の欠 陥 で あ って,恐 ら く外国
を きめ るに は二 つ の独立 した 方法 を必 要 と し
にお い て も同様 で あ りま し ょう。 この よ うな
ます。 一 つ は分 析 す る試 料 の層準 の決定(精
誤 った化 石層 序 の積 み重 ね に基 い て,生 物の
密な 地 質 図 の作 成),他
進 化 を論 じて も,短 い 時 間単位 で 論 じ る場合
は試 料 中の 化石 の同
くと も
には,無 意味 と な りま す。 いわ ゆる標 準化 石
え ば,有 孔 虫,放 散
とい うもの は,精 度 の 高 い層序 を論 じ る場 合
コ リス な ど)の 化 石 の 同定 が で
に は,種 の単 位 では殆 ん ど存 在 しない と思 わ
定 です。 古生 物学 者 で ある以 上 は,少
あ る特 定 のgroup(例
里,珪 藻,コ
きる筈 です。 この同 定 の精度 は 上述 の よ うに,
れ ます。
研 究 者 に よ りか な りの差 が あ ります が,努 力
結 論 と して,分 類学 自身 は現 代 にお い てた
次 第 でかな りの レベ ルに到 達 で きます。 次 に
い した意 義 を持 ちま せん が,そ れな くしては
化石 を含 む岩 石試 料 の 信頼 で きる層準 を きめ
高次 の研 究,す な わ ち層 序学,古 生態 学,ひ
る こ とは一 般 の 古生 物学 者 には無 理な こ とで
いて は構 造地 質学,地 史学,応 用地 質学(鉱
。 古 生 物学 者 は精 密な 地 質調 査 をす る興味
す
床学,土 木地 質学 を含 む)の 進歩 は あ りませ
を持 たず,ま た短 期 間 に は調 査 が で きる筈 が
ん。 ま た化石 層序 学 の 精 度 を向 上 させ るに は
あ りませ ん。 筆 者 が今 ま で検 討 した多 くの論
精 密な 野 外調 査 を必 要 とす る こ とを強 調 しま
文 か らみ ます と,化 石 分 類学 者 の場 合 には試
。 化石 層序学 の た め には,古 生 物 学者 は 先
す
づ 良い地 質学者 でな け ればな りませ ん。
力 の積 み上 げ とし て少 しづつ(時 には い くぶ
ん早 く)進 歩 して きた もの で ある ことを無 視
4.古
生物 学的 デ ー タの統 計 処理
した独善 的 な皮相 的な 考 え 方 を示 す もの と言
え ま し ょ う。"こ れ ま でに 用い られ た群集 解
日本 地 質 学 会75周
年 記 念 に"環
境 と生 物"
の シ ン ポジウ ム が 開 か れ,高 柳 ・
氏 家 は"有 孔
虫 と非 生 物 環 境 の 復 元"と
い う題 で 講 演 を し
析法"と 簡 単 に 言 って ます が,こ の解 析法 が
研 究 者間 に定着(ル ー テ ィン化)し たの は
1950年 頃 か ら で,そ れ もPhlegerやPar-
筆 者 は 指 名 討 論 を 依 頼 さ れ ま し た。 そ れ ら は
kerた
地 質 学 論 集 第3号(1968)に
収 録 され て いま
の海 洋学 へ の応 用(具 体 的 左海 洋学 的現 象の
す。 そ の 中 で 両 氏 は 群 集 構 造 の 統 計 学 的 解 析
解 釈 に応 用)が 評価 され る よ うにな っ てか ら
の重 要 性 を 強 調 し て い ます 。 こ の 点 に 関 し て
です。 それ は一 見す る と簡単な 統 計 処理 です
筆 者 は 全 面 的 に 賛 成 です が,危
険性あること
が,そ れ も海洋 学 ・地 質学 ・古生 物 学 とい う
も指 摘 し ま し た。 こ こ に 再 び少 し触 れ て み ま
もの を綜合 的 に理 解 してい たか らこそ 出来 た
し ょ う。 高 柳 ・氏 家 は 次 の よ う に 述 べ て い ま
もの で,高 級 な統計 学 だ け知 って い て も出来
:「 こ れ ま で に 発 表 さ れ た 有 孔 虫 生 態 学な
す
ちの現 世堆 積 物 中の有 孔 虫 研究 と そ
ませ ん。Phleger派
の業 績 が広 く認 め ら れ
い し古 生 態 学 的研 究 に 用 い ら れ て きた 群 集 解
る よ うにな って きて,そ れがImbrie(1963)
析 は,ほ
その他 の統計 学 を得 意 とす る地質 学 者 の眼 に
とん どが 単 位 堆 積 物 中 の 総 個 体 数,
底 生 種 と浮 游 性 種 の 個 体 数 比,分
に は 生 態 的 分 類 単 位)ご
ふれ て,新 しい 解析 法 が つ ぎつ ぎと導 入 され
類 単 位(時
とに 別 々に 産 出 し た
これ らの アメ リカで育 った方 法 が 日本 に導 入
頻 度な い し そ れ ら の 相 互 間 の 比 率な ど を 基 準
され た もの です。 どの よ うな方法 を と って も
と して い る。 こ の よ うな 基 準 は,有
それ だけ で完 全 な ものはな く,"従
では,他
孔 虫群 集
に 比 べ て容 易 に し か も推 計 学 的 に 有
法"で
来 の解析
も地質学 的 に,古 生 物学 的 に,応 用地
意 な レ ベ ル で求 め る こ とが で き る。 しか し,
質 学 的 にかな り良 い解釈 がで きます。 その よ
そ うし た 基 準 を,あ
うな もの さえ実 行 してな い の が大 部分 です。
る標 本 群 集 で どれ ほ ど正
め
そ の一 つ手 前 の"研 究 の定量 化"さ え地 質学
とつ の 群
・古生 物学 の分 野 では きわめ て不 満足な 状 態
集 の性 質 の部 分 を 伝 え て い る にすぎな い。 相
です。 統計 学 の ため の統 計 的研 究 とい うもの
互 の 独 立 性 ・関 連 性 に つ い て は 考 慮 され る こ
が あ って もよい ので す が,新 し い解 析 法 が従
とが あ って も,そ
来 の解 析法 に比 して,地 質学 ・古 生物 学 に ど
確 に(母
集 団 の そ れ に い か に 近 似 的 に)求
た と こ ろ で,そ
れ ぞ れ の も の は,ひ
れ らす ベ て を総 合 的 に 把 握
す る段 にな る と,定 性 的な 方 法 や 往 々 に し て
主 観 的な"見
解"で
しくはUJIIE,1962参
analysis,cluster
analysisな
か た づ け られ て きた 」(詳
照)。そ して 彼 らはvector
analysis,factor
どの 統 計 学 的 解 析 法 を 強 調 し て
い ま す。 こ の よ うな 表 現 は,学
が 非 常 に 長 い 年 月 をか け,多
れ だ け良 いか を具 体 的 に示す 必 要 が あ ります。
良 い方法 を と ったか ら,結 果 は 良 い筈 で あ"
る"と い うの で はな くて,そ の結果 が地 質学
的 ・古 生物学 的現 象 の解 釈 に有 用 で あ る こ と
を示 さね ばな りません。
問 とい うもの
本 年6月 の石 油技 術協 会総 会 で,コ ン ピ ュ
くの 研 究 者 の 努
ー ターを地 質 ・探 鉱分 野 に利 用す る シ ン ポジ
ウムが開 か れ,物 理 探 鉱 ・構 造地 質学 ・古生
に 多 くの要 因 の動 的 均衡 の結 果 とし て生 じ,
物学な どの分 野 にお け る コン ピ ュー ター利 用
そ れ らの要 因 の重 要性 も異な り,た とえ完 全
の 例 が紹 介 され ま した。 この会 には 多 くの人
定量 を行な って も,解 析す るた めの 方程 式
な
が集 ま りま したが,最 後 の綜合 討 論 にな る と
化が で きない し,さ らに生殻 群集 一死殻 群集
殆 ん ど質 疑応 答 が な く,司 会 者 が困 ったほ ど
一化石 群集 の過 程 に 論 け る続 成作 用の ほか に
で した。 この応 答 の な さは現 在 の学 術 ・技 術
化石 の二次 的,三 次 的,…
レベル か らみ れば 当然 の もの で,多 くの人 が
る侵蝕 ・再 堆積 を いか に認 知 し,処 理 す るか
集 った のは"バ ス に乗 りお くれ まい"と す る
とい う問題,すな
日本 人特 有 の現 象 とい うか,あ るいは熱 意 を
地 下構 造解 析(古 生物 学 で これ に 相当 す る も
示す もの と考 え るべ きで し ょ うか。 この シ ン
のは 化石 群集 の定 量分 析)だ け でな く ,地 層
ポジウ ム では氏 家 が 日本地 質学 会75周
年記
が 生 じ てか ら現在 に い た る非 常 に長 い時 間 の
念 のシ ン ポジウ ムの時 と同 じ く化石 群 集解 析
間 に受 け る初 生群 集 か ら化石 群 集へ の変 化 の
の ため の統計 的解 析法 を述べ,そ
の計 算 に コ
解 析 を しなけ れ ばな らない。 この よ うに古 生
ン ピュー ター を利 用 した こ とを述べ た にす ぎ
物 学 の場合 には,コ ン ピュー ターは 単 に計算
ませ ん。 これ は物理 探 鉱 におけ る コン ピ ュー
を早 く,正 確 にす る点 しか 利用 で きず,コ ン
ター利 用 のは なば な しさ とは全 く対 照 的 です。
ピ ュー ター の記憶 能 力 をい かす よ うな利 用は
この相異 は 物探 技 術者 の数理 的 能 力 が一般 に
不 可 能です。
高 い とか,コ ン ピ ュー ター利 用の教 育 を 受け
… 繰 返 し行 わ れ
わち,物 探 の場 合 の現 在 の
以 上 をま とめ ます と,統 計 学 的 解析 法 を利
て い る とか の理 由 も あ りま し ょ うが,本 質 的
用す るこ とは非 常 に重 要 です が,そ れは あ く
に は物理 探 鉱 と古 生 物学 との科 学 的性 格 の相
ま で手段 で あ って,最 も重 要な の は古 生物 学
異 に よ る と思 わ れ ます。 物探 の場 合 には,岩
的 ・地質 学 的考 え方 で す。 湯川 秀樹(1968)の
質 や地 層 と地層 の相互 関係(整 合 ・不 整合 ・
言 を引 用 しま し ょう:「 現 代 の理 論物理 の病
断 層 ・摺 曲 ・傾 動 な どに よる)に基 き,地 表 で
弊 は,ま さに これ を数 学 の問題 と思 って,そ
観測 され る物 性(岩 石 の弾 性 ・磁 性 ・熱 伝導
れ以 上 の こ とを考 え ない ところ にあ る。 ……
度 その 他)の 地殻 中 の分 布 状態(例 え ば地震
途 中 に数 学 が入 ってい るか もしれな いが,そ
探 鉱 にお け る走時 曲 線)か ら,現 在 にむ け る
れ は とに か く大 切な 所 をつな ぐ程 度 で ない と
地下 構 造 を推 定す る。 得 られ る デー タは 地殻
これは つ ま り物 理学 にな らな い…… 」。
を構成 して い る岩 石 名 で は な くて,抽 象 的 な
確率 論 ・高 度の 統計 処 理 や コン ピュ ター利
物 性 に関す る連 続 的な無 数 の デ ー タ(図 形 あ
用 を熱 心 に主 張す る人 々が,岩 石 中 に含 まれ
るい は数 字化 した記 録)で,し
る産 出 頻度 の非 常 に小 さい種,あ
か もそ れは 操
るい は単 に
作 す る観 測者 の 個 人差 の ない客 観 的 な もので
1個 体(保 存 状態 が 悪 く,同 定 の信 頼度 の 低
あ り,そ の解 析 は コン ピ ュー ター に最 も適 し
い場 合 も少 くない)し か産 しない種 に よって
かつ コン ピ ュー ターに よ らなけ れ ば解 析 で き
そ の岩石 の地 質年 代 を決 定 した り,そ の種 の
い もの で あ る。 これ に反 して,古 生 物 学 で
な
得 られ るデ ー タは,化 石 の 同定 の よ うに主観
的 で あ り,定 量 化 しに く く,生 物 群集 は非 常
地 質年 代 的分 布 範囲geologic
rangeを
きめた りす るこ とが しば しば論 文 に み られ ま
この よ うな論理 的非 一 貫 性 に注 目し,反す。
省す る ことが必 要 で し ょ う。
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