Comments
Description
Transcript
Document 2518801
理 務・経 部門の 財 〈第1回〉 載 「財務・経理タレントマネジ メントサイクル」 の概要 新連 人材育成 を考える いるのか事例を交えながら、 「財務・経理タレントマネジメントサイクル」 という問題解決策を紹介する。 人材の育成に関する悩みは尽きない。多くの企業がどのような悩みを持っていて、どのような取組みを行って 【連載スケジュール予定】 第1回 「財務・経理タレントマネジメントサイクル」 の概要(2015年10月1日号(№1425)) 第2回 キャリアパスと明確な役割の定義 (2015年10月10日号(№1426)) 第3回 役割に必要なコンピテンシーの定義(2015年10月20日号(№1427)) 第4回 コンピテンシーを実現する育成手法①(2015年11月1日号(№1428)) 第5回 コンピテンシーを実現する育成手法②(2015年11月10日号(№1429)) 第6回 育成の達成度合いとしてのパフォーマンス評価(2015年11月20日号(№1430)) 第7回 財務・経理部門の将来と人材育成への影響(2015年12月1日号(№1431)) 変化を活用した成長に向けて、自社 調査」において、「トレンドの革新的 務・経理の観点からの積極的な提言 うマネジメントするかについて、財 え、グローバル化したビジネスをど 課題の1つであることがうかがえ 人材を育成することが、主要な経営 と い う 回 答 も 9 % あ っ た こ と か ら、 らに、まったく準備ができていない 人材の育成方法がいささかも変化し 支えるべき財務・経理部門における にもかかわらず、ビジネスの進展を こ の よ う な 財 務・ 経 理 環 境 の 変 化 況 が 続 い た。 そ の よ う な 状 況 下 で、 育成するどころではないという状 部 門 の 人 員 削 減 等 に よ り、 人 材 を 年 代 に バ ブ ル 経 済 が 崩 壊 し、 間 接 環境を振り返ってみると、1990 る。そのため、そもそもなぜそのよ ペレーションを学ぶということであ る成果はもっぱら、財務・経理のオ 方 法 で は あ る が、 そ こ で 期 待 さ れ か。確かにOJTは有効な人材育成 )に 頼 り 切 っ ( On the Job Training ているのはどういうことであろう て お ら ず、 旧 態 依 然 と し た O J T 2000年代前半からは、いわゆる うなオペレーションを行わなければ る。 会計ビックバンと呼ばれる連結会 ならないのかという会計基準の要請 そこで、日本における財務・経理 計、税効果会計、金融商品会計、退 68 経理情報●2015.10.1(No.1425) 職給付会計などの新しい基準の適用 とキャッシュ フ ・ロー計算書の作成 が義務づけられ、東京証券取引所か いは、連結納税制度の適用が始まる 財務・経理部長の 悩み 「 財 務・ 経 理 部 長 は、 部 員 の 育 成 など、少数人員体制を強いられなが らの決算発表の早期化の要請、ある が 思 う よ う に い か ず 悩 ん で い る 」。 門性が求められた。2000年代後 らも、財務・経理領域に係る高い専 施した調査において改めて実感した 半に入っても、四半期決算・J─S これは、本連載の執筆にあたって実 ことであり、我々がコンサルタント OXの開始など、その傾向は続いた。 こ の よ う に 財 務・ 経 理 部 門 に 対 し としてプロジェクトの現場で日頃感 じることでもある。 の主要部門がどの程度準備できてい が要求されるようになり、財務・経 て高い専門性が求められることに加 る か 」と い う 質 問 に 対 し て、 人 材 育 理部員にもビジネス (事業)に関する 回世界CEO意識 成を担う人事部門の準備が十分だと 深い理解が必要となってきている。 P w C の「 第 答えたCEOは %にすぎない。さ 17 34 PwCあらた監査法人 豊國 成康/伊藤 久明/駒井 祐太/田所 健 プライスウォーターハウスクーパース㈱ 理 務・経 部門の 財 人材育成 を考える や前述したようなビジネスを理解す るということについて、認識し実践 する機会として十分かといえば、は なはだ心もとないのが正直なところ 行)、 Check (評価)、 Action (改善) という4ステップを繰り返すことに いる。 ト サ イ ク ル 」で は 不 可 欠 だ と 考 え て が「 財 務・ 経 理 タ レ ン ト マ ネ ジ メ ン よって、事業活動を継続的に改善す タ レ ン ト マ ネ ジ メ ン ト サ イ ク ル 」と に 応 え る べ く、 我 々 は「 財 務・ 経 理 このような財務・経理部長の悩み 詳述するので、ここでは概略の説明 各 ス テ ッ プ の 内 容 は、 次 回 以 降 に のビジネスの状況等を踏まえて整理 おける財務・経理部門の役割や自社 のかを、先進的なグローバル企業に キャリアパスとキャリアパスの各 いう問題解決策(ソリューション)を にとどめる。 る手法である。この考え方を財務・ 提唱する。本連載では全体をとおし 「財務・経理タレント マネジメントサイク ル」 て、 こ の「 財 務・ 経 理 タ レ ン ト マ ネ キャリアパスとは、社員がある職 コ ン ピ テ ン シ ー と は、「 職 務 や 段階における役割を定義するにあ レーニングを実施している気になっ ジ メ ン ト サ イ ク ル 」を 中 心 に 解 説 す 位に就くまでにたどることとなる経 役割における効果的ないしは優 経理部員の人材育成に活用したの ているだけで、実態は単に日々のオ る。このサイクルを各企業が実施す 験や順序のことである。これまでの れた行動に結果的に結びつく個 である。OJTという名のもとにト ペレーションをやっているだけにす ることで、企業のビジネスの成長を 人材育成では、社員を定期的に異動 たっては、財務・経理部門および財 ぎない日本企業が少なくないのだ。 支える財務・経理部門を強化するこ させ、後ろを振り返ってみたときに、 人 特 性 」で あ る( Evarts 1987 ) 。た と え ば、 当 社 で は、 5 つ の 項 目 が、「財務・経理タレントマネジメン これでは、財務・経理部長の悩み 経理タレント たどってきた道が結果としてキャリ 務・経理部員に何が求められている は晴れないだろう。財務・経理部門 マネジメント アパスであったという程度の位置づ トサイクル」である。 の人材育成は、どの企業も悩みを抱 サ イ ク ル 」と けであった。しかし、今後の人材育 ⑵ 役割に必要なコンピテン シーの定義 ( 、 Whole leadership Technical 、 Business acumen 、 capabilities ) 。 う言葉を聞い サイクルとい が ど う な る か わ か ら な い か ら こ そ、 という考え方もあるだろうが、将来 のとおりにならないのだから無駄だ 促し、企業全体としてより高い成果 とで、その行動特性を他の社員にも を定め、それに基づき評価を行うこ 優れた成果を出す社員の行動特性 シーを詳細化している (図表 たことがある 指針を描きその方向に向かう、やむ を出せるようにすることを意図した キャリアパスを事前に描いてもそ だ ろ う か。 P を得ず変更が生じたときはそれをい 財 務・ 経 理 部 員 の コ ン ピ テ ン シ ー DCAサイク るか手立てを考える機会を得ること ものである。 る、 P D C A することが重要である。 えており、主要な経営課題の1つで は、 何 だ ろ う 成においては、事前に先を見据えて 、 Relationships 、図 Global acumen 表 2)ご と に コ ン ピ テ ン シ ー を 定 義 将来組織の達成 ⑴ キャリアパスと明確な役 割の定義 あるというのが我々の理解である。 とができる。 か。 図 表 1 を 将来たどるであろう道を描いていく し、さらに職階別にそのコンピテン ⑵役割に必 要なコン ピ テ ン シーの定 義 ⑶コンピテンシーを 実現する育成手法 では、「財務・ ご覧いただき ことが重要である。 ⑴キャリアパスと 明確な役割の定義 ⑷育成の達 成度合い としての パフォー マンス評 価 3 ち早く知り、どのようにフォローす ル と は、 Plan (計画)、 ( Do実 経理情報●2015.10.1(No.1425) 69 た い。 い わ ゆ (図表1) 財務・経理タレントマネジメントサイクル ss ne en m T capech ab l ca ni lities i l ba en m B ac usi u s hip ns Whole leadership Rel at io (図表2) PwCのコンピテンシーの体系 (図表3) 職階ごとのコンピテンシーの定義(イメージ図) wC Profession eP al Th 関する理解と実務への 関連法規や会計基準に として、従前であれば 機会になる。 は、旧態依然としたOJTを見直す うに改善すればよいかを考えること ションを通じて社員の行動をどのよ ある。冒頭で紹介したPDCAサイ ジ メ ン ト サ イ ク ル 」の 簡 単 な 説 明 で 以上が、「財務・経理タレントマネ * ク ル が、 Action ( 改 善 )の 結 果 に 基 当てはめ等の専門性が 求められるところで あ っ た が、 今 日 に お 持つ。コンピテンシーを意識しな 成にお け る 指 針 を 示 す 役 割 を あるが、企業が実施 する人材育 社 員 自 らの成 長 を 促 す 効 果 も は、それとして提示することで ⑵で定義したコンピテンシー ⑶ コンピテンシーを 実現する育成手法 が少なくなかった。 に 関 す る 知 識 」と 回 答 す る 企 業 さえて、「自社の事業・ビジネス 問いに、「経理・税務知識」を押 識・スキルは何かとの に最も必要だと思う知 ても、財務・経理部員 て実施した調査におい いる。本連載にあたっ を求める企業が増えて て、ビジネスへの理解 プは、どのように人材を育成するか、 うになる(図表4)。このスキルマッ 人材が不足しているのかがわかるよ 性を有していて、どの分野について 部員について、どの分野で高い専門 プを作成すると、自社の財務・経理 や経験などを一覧にしたスキルマッ 社の財務・経理部員について専門性 ことで、社員に行動の改善を促すこ スを評価するというしくみをつくる ンピテンシーに基づきパフォーマン らいたいという行動特性を定めたコ いても、このような人材になっても しているからである。人材育成にお 社員が行動することを経営者が期待 るのは、その数値を改善するように KPI(重要業績評価指標) を設定す る。 経 営 管 理 制 度 の 構 築 に お い て、 人は評価されるものに従い行動す 業 に 共 通 し て い え る こ と は、 財 務・ る企業もある、これらCFO輩出企 る。1 0 0 社 以 上 に C F O を 輩 出 す して、業種を問わず脚光を浴びてい 務・経理領域に関するプロ経営者と れている。 彼らのようなCFOは、財 して活躍していることは、よく知ら の出身者が、多くの企業でCFOと 、GMなどの企業 GE、 PepsiCo 「将来組織の達成」が実現されること である。このような取組みを通じて、 や役割等の見直しを図ることが必要 ズにあわせて、適時にキャリアパス 務・経理部門への経営層からのニー 評価の結果や、ビジネスの進展、財 ク ル 」に お い て も、 パ フ ォ ー マ ン ス 務・経理タレントマネジメントサイ ( 計 画 )を 見 直 す、 繰 り 返 づ き Plan しのサイクルであるのと同様に、「財 いで行われるOJTではオペレー あるいは育成が間に合わないのであ 経理部員を育成する優れたしくみを ⑷ 育成の達成度合いとして のパフォーマンス評価 ションの習得に係る説明に終始し れば、外部からどのような人材を採 持っていることである。 いてはそれらに加え ていたものが、コンピテンシーを 用してくるのかについての判断材料 また、この評価結果に加えて、自 欧州系の重工業A社では、初めか ある。 CFO輩出企業と呼ばれる企業が 【CFO輩出企業】 になる。 意識すれば、おのずと変わって を提供することになる。 とができる。 く る だ ろ う。 日 々 の オ ペ レ ー 70 経理情報●2015.10.1(No.1425) acGlo u 理 務・経 部門の 財 人材育成 を考える ら 財 務・ 経 理 領 域 の リ ー ダ ー 育 成 枠として社員を採用したり、複数の 務が完結する企業からシェアード サービスセンターなどを活用する企 本連載は今回を含めて全7回を予 だくことができた。ここに改めて感 らサービス業まで幅広くご協力いた 今後の掲載内容 の適性に基づき選択ができたり、事 定している。各回の内容は、前記の 謝の意を表したい。 業まで、さらに、業種もメーカーか 業部門を含む複数部署をローテー 連載スケジュール予定で記載のとお キャリアパスを提示し、社員が自分 ションで経験させたり、CIMA (管 財務・経理部門の将来像について考察 そ して、 最 終 回 と な る 第 7回 は、 りである。 第2回から第6回までは、 「財務・ 氏名 豊國 成康 (とよくに・なりやす) プライスウォーターハウスクーパース㈱ パートナー 大手監査法人系コンサルティング会 社を経て現職。20年以上に及ぶコン サルティング業務において、基幹系業 務 (販売・購買・在庫・生産) および 会計業務のビジネスプロセス改革、 シ ステム導入プロジェクトを主に担当す る。 特に、 株式公開対応に関する知見 を有し、 マネジメントコンサルティング、 システム導入コンサルティング両方の 経験がある。 伊藤 久明 (いとう・ひさあき) プライスウォーターハウスクーパース㈱ ディレクター 公認会計士 大手監査法人を経て現職。 連結決算シ ステム・グループ経営管理システムの導 入、 決算早期化、 経理業務の改善、 原価 管理制度の構築、会計基準のコンバー ジェンス対応、 IFRS対応、 シェアードサー ビス、 経理・財務部門の戦略策定・人 材育成等のプロジェクトに従事。著書に 『スピード決算マネジメント』 (共著、 生産 性出版) 『 、イチバンやさしいIFRS』 (共 著、 中央経済社) 『 、Q&A国際財務報告 基準 (IFRS) 第2版』 (共著、 税務研究会) 等がある。 理 会 計 士 )の 資 格 取 得 を 支 援 す る た めに、試験期間はローテーション先 取り上げながら説明しているので、こ する予定である。 PwCは2014年 査結果を織り れらも参考にしつつ、将来の財務・経 経理タレントマネジメントサイク 交ぜて解説す 理部門のあるべき姿を考察したい。 の部署から財務・経理部門に戻すな る予定であ * 8月に、 「 Finance matters: Finance る。なお、当 寺院の石庭には、まっすぐで美し ル 」の 各 ス テ ッ プ を 紹 介 す る。 そ の 調査は、当社 い砂紋が描かれている。まっすぐに どの対応をとるところまである。 のクライアン 砂紋をひくコツは、“遠くをみる” こ 際 に は、 単 な る 解 説 に と ど ま ら ず、 ト に 訪 問 し、 とだ。遠くをみなければ、 足元にまっ 」というレポー function of the future ト を 発 行 し た。 このな かで、 財 務・ 相対で質問を すぐで美しい線を引くことができな グローバルの させていただ い。この一見逆説的な教えのなかに、 経 理 部 門の 「2030年の展 望 」を 示 いたものであ 財務・経理部門の「将来」 を考えるべ ベストプラク る。売上規模 き 意 義 が 隠 さ れ て い る よ う に 思 う。 している。 将 来の財 務・経 理 部 門 が は、数千億円 本連載を通して、読者の皆様と将来 ティスや、本 の企業から の財務・経理部門のあるべき姿につ より 明確に打ち出していくべき4つの 1兆円を超え いて、対話していくことを楽しみに 連載にあたっ グループ経営管理 事業基盤の整備、 業務の効率化 る 企 業 ま で、 している。 指 針について、いくつかの先 進 事 例 を グループ資本戦略 グループ会社の資本戦略 国際税務・グローバル税務戦略 会計戦略 管理会計 (予実管理) ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 高橋×× ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 支 社 経 理 工 場 経 理 資 金 効 率 化 戦 略 財 務 リ ス ク 管 理 資 金 調 達 管理会計 (原価計算) 自社で経理業 経理情報●2015.10.1(No.1425) 71 ○ ○ ○ 佐藤×× ○ 田中×× 財務 税務 資 金 管 理 国 際 税 務 連 結 納 税 単 体 納 税 連 結 決 算 単 体 決 算 ○ 鈴木×× ○ 外 部 と の 関 係 構 築 人 材 育 成 事 業 部 経 理 経営者の 参謀 実務担当 高度な専門家 事業部門 の 会 税 財務 支援担当 計 務 会計 駒井 祐太 (こまい・ゆうた) プライスウォーターハウスクーパース㈱ マネージャー 2006年にプライスウォーターハウス クーパース㈱に入社。経理機能戦略 立案、 経理業務のシェアードサービス 化、業務改革 (BPR) 等のプロジェク トに従事。2014年よりPwC英国法 人に出向し、 ベンチマーク分析をはじ めとする診断サービスを担当。 現在、 日本における同サービスの担当マ ネージャーを務める。 田所 健 (たどころ・たけし) PwCあらた監査法人 パートナー 公認会計士 1991年に大手監査法人入所。2006年 ~ 2008年まで日本公認会計士協会内部 統制検討委員会委員を歴任。 プライス ウォーターハウスクーパース㈱への出向 を経て現職。 国内上場および米国上場 企業などの監査業務を担当するとともに、 US SOXおよびJ-SOX導入支援、決算早 期化をはじめとする業務改善の支援、 US GAAPコンバージョン、IFRS導入支 援、管理会計・業績評価等、豊富なプロ ジェクト経験を有する。 て実施した調 (図表4) スキルマップ (イメージ図) 理 務・経 部門の 財 〈第2回〉 キャリアパスと 明確な役割の定義 人材育成 を考える 登山家はまず登頂する山を決める。その頂上に向かうルートはさまざまで、その日の天候、自らの経験によっ ても左右される。財務・経理部門も、まず財務・経理部員の目指すべき姿を決める必要がある。そこに至る道 筋(キャリアパス) には、どのようなものが考えられるだろうか。 【連載スケジュール予定】 第1回 「財務・経理タレントマネジメントサイクル」 の概要(2015年10月1日号(№1425)) 第2回 キャリアパスと明確な役割の定義 (2015年10月10日号(№1426)) 第3回 役割に必要なコンピテンシーの定義(2015年10月20日号(№1427)) 第4回 コンピテンシーを実現する育成手法①(2015年11月1日号(№1428)) 第5回 コンピテンシーを実現する育成手法②(2015年11月10日号(№1429)) 第6回 育成の達成度合いとしてのパフォーマンス評価(2015年11月20日号(№1430)) 第7回 財務・経理部門の将来と人材育成への影響(2015年12月1日号(№1431)) PwCあらた監査法人 豊國 成康/伊藤 久明/駒井 祐太/田所 健 プライスウォーターハウスクーパース㈱ 財務・経理部員の育成に悩んでい る方は、どのような研修を受講させ たらす外部環境の変化として、次の ⑴ 資本市場の変貌 3つがある。 ングを実施したらよいのかといっ たらよいのか、どのようなトレーニ た、育成プログラムそのものに関心 ⑵ グローバル化 ⑶ 技術・管理手法の革新 が向かいがちではないだろうか。本 るいは財務・経理部員はどうあって る前に、そもそも財務・経理部門あ キャリアパスを検討するうえで、重 経理部門に求められる役割、および これらの外部環境の変化は、財務・ 来、具体的な育成プログラムを考え ほしいのかという目指す姿があっ 要な示唆を与えてくれる。 ⑴ 資本市場の変貌 て、それに向かうためにどのような キャリアパスをたどり、どのような 育成プログラムがあるのかといった 目、「キャリアパスと明確な役割の定 ネ ジ メ ン ト サ イ ク ル 」の 1 ス テ ッ プ 回 紹 介 し た「 財 務・ 経 理 タ レ ン ト マ 連載の第2回目となる今回は、前 場の変革を意味する。それは資金調 実をはじめとするさまざまな資本市 す情報開示制度・市場監督制度の充 市場の規制緩和およびそれと対をな 1990年代以降行われてきた資本 資 本 市 場 の 変 貌 と は、 一 般 に は 義 」に つ い て、 事 例 を 交 え な が ら 解 達の手段として、銀行中心の間接金 順番で考えるべきである。 説する。キャリアパスを考えるにあ 融から直接金融への移行を促すこと こ の 変 革 を 通 じ て、 企 業 あ る い は たっては、そもそも財務・経理部門 り、財務・経理部門および財務・経 財務・経理部門は、銀行との関係を を目的とするものであった。 理部員に何が求められているのか 良好に保つだけではなく、多様な投 がどのような環境にさらされてお を、整理するところから始める必要 資家とのコミュニケーションをとる 特に、コーポレートガバナンス・ ている。 バナンス・コードとして具体化され ドシップ・コード、コーポレートガ その要請は、 今日、日本版スチュワー こ と が よ り 求 め ら れ る よ う に な り、 がある。 財 務・経 理 部 門 の 役 割に変革をもたらす 環境変化 財務・経理部門の役割に変革をも 50 経理情報●2015.10.10(No.1426) 理 務・経 部門の 財 人材育成 を考える なビジネスの機会が増えるととも グローバル化によって、さまざま ⑵ グローバル化 ことが求められる。 して体系的にまとめる体制を整える 響などを一貫した形で 「統合報告」 と セス、ガバナンス情報、環境への影 リオ、将来の見通し、価値創造プロ 認識、企業の歴史、成長戦略のシナ と比較できる会計基準に基づき財務 ならない。さらに、グローバル企業 察する視点を持って行われなければ 財務数値に基づくビジネスの先を洞 る ビ ジ ネ ス の 観 点 か ら の 深 い 理 解、 では十分ではなく、財務数値に関す 対応は、会計基準を知っているだけ コードがいう 「投資家との対話」 への 術を経営管理に取り入れる動きが出 タを含め、ITを駆使した新しい技 た。さらに、最近では、ビッグデー 営であり、連結原価計算などであっ C )で あ り、 キ ャ ッ シ ュ・ フ ロ ー 経 あ り、 バ ラ ン ス ス コ ア カ ー ド( B S あり、株主付加価値(SVA)経営で 価計算 (ABC)であり、責任会計で 財務・経理の領域では、活動基準原 手 法 や 考 え 方 が 生 み 出 さ れ て き た。 今日に至るまで、さまざまな管理 ⑶ 技術・管理手法の革新 ことが求められる。 適時に共有するプロセスを構築する や、適切にリスクを把握し経営層に ける不正を未然に防止するしくみ くなりがちな海外グループ会社にお リングするルール、目が行き届かな て、必要な権限委譲と結果をモニタ グループ会社の役割を適切に見直し う。ナビゲーションシステムは、G システムとたとえるほうが適切だろ ブレーキ、CFOがナビゲーション がドライバー、COOがアクセル・ くが、むしろ今日においてはCEO 部門がブレーキとのたとえをよく聞 事業部門がアクセル、財務・経理 見直す、不断の取組みが求められる。 早く把握し、自社のしくみを適時に ル企業における取組みの動向をいち 革新的な手法を取り入れたグローバ なってきている。財務・経理部門は、 Tの助けを借りて実現できるように るフィードフォワードの考えも、I 値になるだろうという将来を見据え 出る前にあらかじめこのような実績 フィードバックに対して、実績値が ら計画値との比較を行おうとする このように、実績値が確定してか ている。 地の天候を、経営管理の指標に加え 原材料価格に影響を与える主要生産 (効 率 ・ Transactional Efficiency を活用した意思決定支援をとおした、 効果的な経営管理、および情報資産 とである。なお、3つの観点とは次 部門においても同様に求められるこ 」と し て 整 理 し て い る。 Framework これは、CFOを支える財務・経理 「 事業活動のサポート。 る べ き 観 点 を 大 き く 3 つ に 分 け、 P w C は、 C F O が 兼 ね 備 え くことが求められるのだろうか。 理部門はどのような役割を担ってい たらす環境の変化を受け、財務・経 財務・経理部門の役割に変革をも ループ全体のリスクを把握すること に 多 数 存 在 す る よ う に な る と、 グ ロセスが異なる子会社がグループ内 外で完結する、あるいはルールやプ などにより、生産から販売までが海 社員の定着化に向けた体系的な分析 社 員 の 退 職 リ ス ク( 確 率 )を 予 測 し、 ぼす要因と、その影響度の特定、各 ことにより、社員の退職に影響を及 退職者のデータを統計的に分析する たとえ ば、 当 社 で は、 在 籍 社 員・ ションシステムのデータとアルゴリズム ある。財務・経理部門は、ナビゲー する高度な意思決定支援システムで 設を適時に伝えるなどの役割を発揮 を収集し回避策を提案する、周辺施 へと誘導する、その際には渋滞情報 PSで現在位置を示し適切に目的地 ビジネスに過剰な負荷をかけずに、 (統制力) ・ Compliance & Control 適化。 処理の効率化。各種経理プロセスの最 自動化や集約をとおした、定型的な 性) に、財務状況だけでなく、外部環境 が難しくなる。 および対策の検討、効果測定を行う をアップデートして、ドライバーた る ・ Business Insight (洞察力) のようなものである。 PwC's Finance Effectiveness 財務・経理部門の 役割 に、さまざまなリスクを抱えること ている。 数値を作成できるようにするととも になる。海外進出・分社化・M&A このような環境下において財務・ 「退職リスク分析サービス」を提供し いては、3つの観点ごとに図表1の また、優れた財務・経理部門にお 強固なガバナンス体制を担保。 経理部門は、企業のビジネスの状況 CEOに適切な提言を行うCFOの 支援組織でなければならない。 ている。また、先進的な企業におい ては、 製造コストを予測するために、 をよく理解し、スピーディーな事業 展開を阻害しないように、親会社と 経理情報●2015.10.10(No.1426) 51 ような特徴がみられるとされてい る。 財務・経理部員の 目指す姿 優 れ た 財 務・ 経 理 部 門 に お い て、 財務・経理部員が目指す姿、その目 (図表1) 優れた財務・経理部門の特徴 能力を指す。コンセプチュアルスキ ション・コミュニケーションなどの り、リーダーシップ・プレゼンテー ンスキルとは、対人能力のことであ キルが必要になる。 は、よりハイレベルなヒューマンス 巻き込んで協同体制を構築すること わかりやすく伝えること、他部門も どのようなキャリアパスを経て習熟 それでは、これら3つのスキルを、 問題の本質を捉え、論理的思考力を していくのがよいのだろうか。ここ ル と は、 概 念 化 能 力 の こ と で あ り、 駆使して、問題発見・課題解決など 観点を発揮して、CFOを支える財 では、3つのスキルを用いて3つの 財務・経理部員は、テクニカルス 務・経理部員の役割を、財務・経理 を行う能力を指す。 キ ル を 習 熟 す る の は 当 然 で あ る が、 高 に関する知識・経験を用いて行う「業 ビジネスの理解度 ヒューマンスキル、コンセプチュア B 事業部門の支援担当 務の実行レベル」と、「ビジネスへの 実務担当 ルスキルも磨いて、経理パーソンと 財務部門から出向し、 事業部門やグループ会 社の業務を支援する 理 解 度 」の 2 軸 で、 4 象 限 に 分 類 し 会計、 税務などに関する 基礎的な財務・経理業 務を実施する してだけでなく、ビジネスパーソン 経営者の参謀として、財 務の観点から助言や提 言を行う た(図表2) 。 国際税務など、高度な 専門性を活かして助言 や提言を行う としても高い能力が求められてい 低 経営者の参謀 こ の 4 象 限 を、 逆 Z 型、 あ る い は A D る。 業務の実行レベル 低 高度な専門家 N型にキャリアをたどっていくこと C が理想的である (図表3)。 高 キャリアパスの形成 (図表2) 財務・経理部員の役割 財務・経理部員がたどるべきキャ リアパスの検討においては、財務・ スキルが重視されるが、キャリアを Compliance & ・高い透明性と信頼性を担保。 ・グループ内に広範囲にガバナンスが機能。 Control ・リスク管理が組織内に浸透しており、 各レベルが効果的に機能。 (統制力) ・主要な統制ポイントが自動化されており、業務への負荷が低い (平均と比較して、70% 程度が自動化できている) 。 ・統制と柔軟性のバランスが適切にとられている。 ・定期的なレビューをとおして、 管理フレームワーク最新化・最適化。 経理部員が3つのスキルをどのよう 指す姿において保持すべきスキルと 積むにしたがってコンセプチュア ・ファイナンス機能のコストを、 収益の1%未満に抑えている。 ・月次締めが3日以内に完了している。 四半期・年次の決算が早期化されており、分析に 十分な時間を確保。 ・主要なプロセスが標準化・最適化されている。 また、ERP等を用いてシステムが標準化。 ・グループ内の組織間に機能重複がない。 ・ビジネスの拡張や縮小に向けて、 高いスケーラビリティが実現。 ・統合型のシェアード・サービス (財務、人事、IT、調達) やアウトソーシングとインソーシ ングを組み合わせたハイブリッド・ソーシング・モデル等をとおして、 効率化が推進。 に組み合わせて発揮しながら成長 はどのようなものであろうか。一般 ル ス キ ル が 占 め る 割 合 が 多 く な り、 Transactional Efficiency (効率性) し て い く の か を 考 え る 必 要 が あ る。 に ス キ ル と は、 テ ク ニ カ ル ス キ ル、 ヒューマンスキルはどの段階におい ・分析や意思決定を支援する専任者 (Business Partner) が平均より40%多く、報酬が 25%高い。 ・より付加価値の高い活動に集中。 データの収集にかける時間が平均より17%少なく、分 析にかける時間が25%多い。 ・企業の戦略と整合した、 明確な業績評価指標を管理・運用。 ・予測型のアプローチを取り、リスクやビジネスチャンスを事前に察知。 予算よりは、予測 を重視。 ・適切な経営情報を、 より早く提供する (予測の作成時間が平均より40%少ない) 。 ・明確な人材育成計画が存在する。 人材プールが平均より30%多く、明確なサクセッショ ンプランが存在。 ・テクノロジーを有効活用することにより、 情報の統合が進み、 高度なモデリングが可能。 キャリアの浅いうちは、テクニカル ヒューマンスキル、コンセプチュア ても重要である。また、ヒューマン スキル、コンセプチュアルスキルも ルスキルに大別される。ここで、テ クニカルスキルとは、業務遂行能力 よりハイレベルなものが求められる ようになる。高度に専門的なことを のことであり、業務を遂行するうえ で必要な専門知識を指す。ヒューマ Business Insight (洞察力) 経理情報●2015.10.10(No.1426) 52 理 務・経 部門の 財 人材育成 C )や ビ ジ ネ ス・ プ ロ セ ス・ ア ウ ト アード・サービス・センター(SS ここで注意すべき点として、シェ て 積 む べ き 経 験 を 得 る 業 務 機 能 は、 とも難しい。むしろ、実務担当とし が、BPO先となるとそのようなこ 業務機能分担を再検討しようとして め、財務・経理部門とSSC部門の 経験を得る機会を失ってしまったた なお、キャリアパスは、必ず逆Z いるケースがあった。 いけないと考えるべきだろう。本連 型、N型をたどらなければならない BPOとしてグループ外に出しては 「A実務担当」 としての経験を積む機 載にあたって実施した調査において というわけではない。ただし、この 伊藤 久明 (いとう・ひさあき) プライスウォーターハウスクーパース㈱ ディレクター 公認会計士 大手監査法人を経て現職。 連結決算シ ステム・グループ経営管理システムの導 入、 決算早期化、 経理業務の改善、 原価 管理制度の構築、会計基準のコンバー ジェンス対応、 IFRS対応、 シェアードサー ビス、 経理・財務部門の戦略策定・人 材育成等のプロジェクトに従事。著書に 『スピード決算マネジメント』 (共著、 生産 性出版) 『 、イチバンやさしいIFRS』 (共 著、 中央経済社) 『 、Q&A国際財務報告 基準 (IFRS) 第2版』 (共著、 税務研究会) 等がある。 ソーシング ( B P O )の 活 用 に よ り、 会が縮小していることが挙げられ も、装置産業に属する企業で、ビジ 経理情報●2015.10.10(No.1426) る。財務・経理部員が学ぶべき領域 53 駒井 祐太 (こまい・ゆうた) プライスウォーターハウスクーパース㈱ マネージャー 2006年にプライスウォーターハウス クーパース㈱に入社。経理機能戦略 立案、 経理業務のシェアードサービス 化、業務改革 (BPR) 等のプロジェク トに従事。2014年よりPwC英国法 人に出向し、 ベンチマーク分析をはじ めとする診断サービスを担当。 現在、 日本における同サービスの担当マ ネージャーを務める。 ような指針を持つことで、このキャ 田所 健 (たどころ・たけし) PwCあらた監査法人 パートナー 公認会計士 1991年に大手監査法人入所。2006年 ~ 2008年まで日本公認会計士協会内部 統制検討委員会委員を歴任。 プライス ウォーターハウスクーパース㈱への出向 を経て現職。 国内上場および米国上場 企業などの監査業務を担当するとともに、 US SOXおよびJ-SOX導入支援、決算早 期化をはじめとする業務改善の支援、 US GAAPコンバージョン、IFRS導入支 援、管理会計・業績評価等、豊富なプロ ジェクト経験を有する。 ネス上重要となる固定資産に関する ダイバーシティとは一般には 「多様性」 と訳されているが、その意味するところはさ まざまな違いを尊重して受け入れ、またその違いによる価値を認識して積極的に活か すことにより、変化するビジネス環境や多様化する顧客ニーズに対応し、組織としての 優位性を生み出すことである。 ここで想定される多様性とは、国籍であり、性別であり、 宗教であり、 生活スタイルであり、 価値観などである。 他方で日本では、ダイバーシティを 「女性の活用」 と狭く捉えてしまっているように 見受けられる。 前述したように、ダイバーシティが想定する多様性はさまざまである。 たとえば、新入社員に対するアンケートによれば、男性社員の育休取得を希望する割 合、ワーク・ライフ・バランスを重視するという割合は年々増えているというように、 生活スタイル・価値観の多様性も含む広い概念なのである。 このような多様な働き方を希望する社員が増えてくると、財務・経理部門において も、残業制限・時短・育児介護休暇をとる社員を効果的に活用し、ワークシェアリング を含めて、人員体制を設計することは避けらない。 そうでなければ、財務・経理部門を 維持できなくなってくるだろう。 また、グローバル化が進展するにつれ、海外グループ会社における外国人の財務・経 理部員や、外国人投資家が増えてきている。 このように多様な関係者と効果的にコミュ ニケーションをとるためには、 財務・経理部門も多様化を図らなければならない。 本連載にあたって実施した調査によると、これまで女性管理職の登用がなかったA 社では今後女性管理職・役員を輩出していくために、育児期間等に配慮した女性用の キャリアパスの策定を検討していると回答した。 多様な考え方を持つ人が集まる組織は、多様な考え方を持つ人のニーズをつかみや すい。 そのような組織には、 優秀な人材が集まってくる。 本連載の目的は、 「財務・経理タ レントマネジメントサイクル」 を各企業において実施することで、企業のビジネスの成 長を支える財務・経理部門の強化に貢献することである。 財務・経理部門においてダ イバーシティを進めることは、財務・経理部門の強化という目的にも適うものなので ある。 は幅広く、ある程度の実務経験を踏 (図表4) コラム〜ダイバーシティに対する各社の取組み リアパスから外れた財務・経理部員 事業部門の B 支援担当 業務を財務・経理部門の指揮下にな A 実務担当 まえずに、「B事業部門の支援担当」 、 事業部門の B 支援担当 に対して、必要な対応をとる気づき A 実務担当 いSSC部門に移管した結果、減損 D 経営者の参謀 「C高度な専門家」 に行きつくことは C 高度な専門家 を得ることができる。 D 経営者の参謀 会計における諸判断に必要な知識・ C 高度な専門家 難しい。社内あるいはグループ内に N型 場合であれば、部門・法人をまたい 逆Z型 でキャリアパスを描くことができる (図表3) 理想的なキャリアパス 「A実務担当」 の機能を保持している を考える 豊國 成康 (とよくに・なりやす) プライスウォーターハウスクーパース㈱ パートナー 大手監査法人系コンサルティング会 社を経て現職。20年以上に及ぶコン サルティング業務において、基幹系業 務 (販売・購買・在庫・生産) および 会計業務のビジネスプロセス改革、 シ ステム導入プロジェクトを主に担当す る。 特に、 株式公開対応に関する知見 を有し、 マネジメントコンサルティング、 システム導入コンサルティング両方の 経験がある。 理 務・経 部門の 財 役割に必要な コンピテンシーの定義 を考える PwCあらた監査法人 豊國 成康/伊藤 久明/駒井 祐太/田所 健 プライスウォーターハウスクーパース㈱ はじめに 優秀な人材を獲得し、長く勤めて もらうことは、企業にとって大きな 課 題 と な っ て い る。 PwC Japan の な コ ン ピ テ ン シ ー の 定 義 」に つ い て 解説する。 ⑴ CFO Magazine, "CFO Survey 2015" コンピテンシーとは フォーマンスを発揮するために必 コ ン ピ テ ン シ ー と は、「 優 れ た パ 「 第 回 世 界 C E O 意 識 調 査 日 本 分 析 版( 2 0 1 5 年 )」に よ る と、 日 要 な 行 動 特 性 」を 指 し、 ハ ー バ ー の 調 達( が で き な い こ と )」を 自 社 の ( 1 9 7 3)の 研 究 に 端 McClelland ド大学の心理学教授を務めていた 高い水準であり、人的資源の確保に しないことに着目し、コンピテンス 上のパフォーマンスに必ずしも直結 ⑵ 成長に対する重大な脅威として捉え %程度 対 する日本 企 業の高い危 機 感が伺 え 次いで「 優 秀 な 従 業 員 を 抱 え る こ と 与えるリスクとして、「為替リスク」に ン ピ テ ン シ ー の 実 用 化 を 進 め、 そ とするさまざまな組織に対してコ は同僚 年 代 に か け て、 McClelland ら と と も に、 米 国 国 務 省 を は じ め 唱した。1970年代から1980 の 難 し さ 」が 挙 げ ら れ て お り、 優 秀 といった研究者により、ビ Spencer ジネスシーンへの適用が進められ Spencer & の流れを汲む このような背景のもと優秀な人材 た。コンピテンシーは1990年代 や Boyatzis な人材をめぐって企業間の競争は激 の採用に頼るだけでなく、人材の育 以降、企業の人事管理において広く しさを増す一方である ⑴。 成をいかに効果的に成し遂げるかが 用いられるようになり、多くの日本 コンピテンシーは本来高いパ 重要であり、そのためには目指す姿・ 要がある。連載の第3回目となる今 フォーマンスにつながるかどうかと 企業でも導入が進められた。 回は、「財務・経理タレントマネジメ いう視点で定義される。必ずしもす べての組織に共通するものではな ン ト サ イ ク ル 」の 2 ス テ ッ プ 目 で あ 求める人材像を明確にし周知する必 て、CFOが懸念している財務業績に (のちにコンピテンシー)の概念を提 20 る。 さ ら に、 CFO Magazine が 行っ た調査によると、今後1年間にわたっ 体の回答結果と比較すると ている。この結果は、グローバル全 93 を発する 。 McClelland は、 従 来 の 採用試験などで測られる知能が職務 本のCEOの % が「 鍵 と な る 人 材 18 る、「(財務・経理部門の)役割に必要 経理情報●2015.10.20(No.1427) 41 〈第3回〉 人材育成 優れた能力を発揮する部員がいる。彼らの行動特性には、顕著な特徴が現れるといわれている。その特性 を分析し、整理し、提示できれば、優秀な部員で溢れる財務・経理部門になる。果たしてそのような理想は 実現するのだろうか。 【連載スケジュール予定】 第1回 「財務・経理タレントマネジメントサイクル」 の概要(2015年10月1日号(№1425)) 第2回 キャリアパスと明確な役割の定義 (2015年10月10日号(№1426)) 第3回 役割に必要なコンピテンシーの定義 (2015年10月20日号(№1427)) 第4回 コンピテンシーを実現する育成手法①(2015年11月1日号(№1428)) 第5回 コンピテンシーを実現する育成手法②(2015年11月10日号(№1429)) 第6回 育成の達成度合いとしてのパフォーマンス評価(2015年11月20日号(№1430)) 第7回 財務・経理部門の将来と人材育成への影響(2015年12月1日号(№1431)) 力 が 求 め ら れ る 」と 回 答 す る 企 業 が また、一部の企業では財務・経理 は、業務の効率化や人員削減、シェ また、テクニカルコンピテンシー 連載にあたって実施した調査によれ 能力なども求められ始めている。本 の、問題解決力・プロジェクト管理 視点からの業績改善を進めるため テクニカルコンピテンシーは、会 アード・サービスやBPOの活用な ば、業界における最新の動向を把握 あった。 計基準や税制、財務・経理業務、お どを受けて業務プロセスを適切に見 ⑴ テクニカルコンピテン シー よびこれらのITに関する知識・経 の関係構築のために、取引先、ジョ するとともに、ステークホルダーと 力が求められる。さらにIT分野で 直したうえで、継続的に改善する能 高品質で効率的に業務を推進する イントベンチャーや関係機関への出 験を指す。 ためには、財務・経理領域における は、日々進化するERP( Enterprise ⑶ パーソナルコンピテン シー スもあった。 向プログラムなどを行っているケー 基本的な知識である会計基準や税制 )パ ッ ケ ー ジ が Resource Planning 保持する機能知識、最新のITツー などのさまざまな変更をキャッチ ツール等) ル( Business Intelligence の効果的な活用方法などの習得が必 アップするとともに、経営管理手法 に関する最新動向に敏感でなければ 要である。 本連載にあたって実施した調査に 対する理解や、日々発生する財務・ て貢献するための自社のビジネスに 業績の最大化に財務・経理部員とし ビジネスコンピテンシーは、企業 を指す。今回、調査を行ったいくつ るために必要な対人能力および行動 テンシーとは、業務を円滑に推進す シ ー」を 挙 げ た。 パ ー ソ ナ ル コ ン ピ も の と し て「 パ ー ソ ナ ル コ ン ピ テ ン おいて、多くの企業が重要性が高い 経理に関する問題を適時に把握し適 かの企業ではこれを「人間力」と位置 ⑵ ビジネスコンピテンシー ならない。本連載にあたって実施し た調査では、たとえば、「税務に関し 企業内専門家として事業特性を理解 し、 税 務 署 な ど と 協 議 が で き る 能 切に業務遂行する能力を指す。 業がある。ビジネスパートナー制度 ド シ ッ プ・ コ ー ド が 制 定 さ れ、 2 0 1 4 年、 日 本 版 ス チ ュ ワ ー づけ、今後の育成にあたり最も注力 とは、事業部門を間接部門にとって 2015年6月からはコーポレート 欧米では、事業部門に対する高い の顧客と捉え、事業特性を熟知した ガ バ ナ ン ス・ コ ー ド が 適 用 さ れ た。 するコンピテンシーとして位置づけ 専任者を配置し、財務・経理の観点 対話の手段として統合報告書が普及 サポート能力を備えるため、ビジネ からのさまざまな提言を行うことに し、ステークホルダーとのコミュニ ている。 より、戦略的な意思決定を支援する ケーションがより多様化・高度化す スパートナー制度を採用している企 制度である。 42 経理情報●2015.10.20(No.1427) く、全社的なビジョンや戦略、さら にはそれらを踏まえて財務・経理部 門として目指すべき姿から導出する ことが重要になる (図表1) 。 ⑵ McClelland,D.C., "Testing for competence rather than for"intelligence"",American Psychologist, January 1973 インテグリティ パーソナル ビジネス テクニカル 財 務・経 理 部 員 に 必 要な人材像 (コンピ テンシーの定義) コンピテンシー 我々が考える財務・経理部員に求 インテグリティ 財務・経理部門の目指すべき姿 められるコンピテンシーの例は、図 パーソナル コンピテンシーの例 ・会計基準や税制などの知識 ・財務・経理業務の経験 ・ITの知識 ・自社ビジネスに対する理解 ・ロジカルシンキング・問題解決力 ・プロジェクト管理能力 ・リスクマネジメント ・コミュニケーション特性 ・ネゴシエーション特性 ・リーダーシップ特性 ・グローバル力 ・人材評価・育成・組織運営能力 ・プロフェッショナル倫理 ビジネス 全社ビジョン・戦略 表2のとおりである。 (図表2) 財務・経理部員に求められるコンピテンシーの定義 区 分 テクニカル (図表1) 財務・経理部員に必要なコンピテンシーの導出イメージ 理 務・経 部門の 財 人材育成 を考える ることが予想される。また、グルー プ企業内においても、グローバル規 模の標準化や業務改革が進められる なかで、関係者間の調整は複雑化し ており、財務・経理部門が強いリー ダーシップをもって、全体の変革を 推進することが期待されている。 多くの企業が抱え る コ ン ピ テ ン シ ー・ ギャップ 米 国 管 理 会 計 士 協 会( Institute )と of Management Accountants 米 国 生 産 品 質 セ ン タ ー( American なかったコンピテンシーであることが挙 の財務・経理部員には期待されてい る3つのステップを提唱したい。 従いコンピテンシーモデルを構築す を選定し、選定されたアプローチに お り、 コ ン ピ テ ン シ ー は 優 れ た パ ための方針を策定する。前述したと まず、コンピテンシーを定義する ⑴ コンピテンシー方針の策定 げられる。 財 務・経 理 部 員の目 指 す べき 姿 を 反 映したコンピテンシーの定 義にあ たっては、これらのギャップを 考慮することが重要である。 ⑶ IMA & APQC, "Competency Crisis" フォーマンスを発揮するために必要 指すべき姿から自組織におけるコン な行動特性であるため、全社ビジョ によると、多くの企業の財務・経理 自社にあったコンピテンシーをど ピテンシーが何かを整理する必要が コンピテンシーの 導入ステップ インテグリティコンピテンシー 部門では、求めるコンピテンシーと のように導入していくべきであろう ある。 ) Productivity and Quality Center が2015年に実施した共同調査 ⑶ は、プロフェッショナルとしての高 在籍社員のコンピテンシーとのかい か。まずコンピテンシー方針を策定 また、コンピテンシーを定義する ⑷ インテグリティコンピテ ンシー い倫理観をもって行動することを指 離 (コンピテンシー・ギャップ)が発 し、 そ の 方 針 に 基 づ き コ ン ピ テ ン 同調査によると、テクニカルコン 評 価 等 )や、 コ ン ピ テ ン シ ー を 定 義 ンや戦略および財務・経理部門の目 す。 生している。 目的 (採用、キャリアパス定義、育成、 ための行動特性であるコンピテン ピ テ ン シ ー の 観 点 か ら は、 計 画 業 優れたパフォーマンスを発揮する シーモデルのモデリングアプローチ シーは、前述した3つの観点ですべ する視点(機能別、職階別等) 、粒度、 不正を見過ごさない強い意志を持つ として、テクニカルコンピテンシー 大きなギャップが計測された要因 ( 図 表 4 の レ ベ ル 1)。「 コ ン ピ テ ン タイプを作成する手法が挙げられる シーモデルを開始点として、プロト が 保 有 す る、 汎 用 的 な コ ン ピ テ ン 例やコンサルティングファームなど 的なアプローチとしては、他社の事 チを選定する必要がある。最も簡易 次に、最適なモデリングアプロー ⑵ モデリングアプローチの 選定 針を明確にする必要がある。 人事方針との整合などについて、方 務、 原 価 管 理、 管 理 レ ポ ー テ ィ ン 最 も 大 き な ギ ャ ッ プ が 計 測 さ れ た。 て が 網 羅 さ れ て い る わ け で は な く、 ンスとは、期待される成果を達成す テクニカルコンピテンシー以外にお グ、リスク管理、コーポレートファ るだけではなく、その行動結果にお いては、ビジネス洞察力、戦略的思 イ ン テ グ リ テ ィ( 誠 実 性 )と い う 観 いて社会的責任を果たすこと、コン 考、プロセス改善、リーダーシップ、 イ ナ ン ス な ど の 業 務 領 域 に お い て、 プライアンスを徹底すること、モラ チェンジマネジメントなどが、高い 点も重要である。優れたパフォーマ ルハザードを起こさないこと、高い ことを通じて、短期的な利益の追求 においては昨今の経営環境の複雑化 ギャップとして挙げられた。 のみに邁進することなく、企業の継 やグローバル市場の変動性が高まっ 3 2 1 コンピテンシー モデルの構築 モデリング アプローチの 選定 コンピテンシー 方針の策定 倫理観をもって不正に加担しない・ 続的な発展に貢献していくことも含 ていることが挙げられ、テクニカル シ ー 方 針 の 策 定 」を 踏 ま え ず に 少 な 経理情報●2015.10.20(No.1427) 43 まれる。 コンピテンシー以外においては従来 (図表3) コンピテンシーの導入ステップ 理 務・経 部門の 財 人材育成 を考える が捉えられるわけではない点に留意 を与える行動特性を特定する。それ のカルチャーと連動したものとして い負荷でコンピテンシーモデルを構 さらに精緻なアプローチとして 表現することが重要であり、そのう らを、自社特有の言語を用い、自社 観 の 反 映 が 限 定 的 で あ り、 ハ イ パ は、 実 際 の ハ イ パ フ ォ ー マ ー の 行 えでそれらの行動特性を、4つのコ する必要がある。 フォーマーの行動特性を十分に捉え 動 結 果 イ ン タ ビ ュ ー( Behavioural 築 で き る 一 方 で、 自 社 特 有 の 価 値 きれない可能性がある。 ンピテンシー区分に集約する。 よ り 精 緻 な ア プ ロ ー チ と し て は、 ス提供先である、経営層、事業部門、 近年では、財務・経理部門のサービ の 声 を 収 集 す る 手 法 が 挙 げ ら れ る。 表 4 の レ ベ ル 3)を と お し て、 自 社 4のレベル2) や有識者パネル等 (図 ンスを産み出す行動特性を洗い出す 有の環境において、高いパフォーマ タビューを行うことにより、自社特 験・ 失 敗 体 験 な ど を 踏 ま え て イ ン の よ う な 結 果 に な っ た か、 成 功 体 実 際 に ど の よ う な 行 動 を と り、 ど うになる。 果を評価・改善することができるよ ジすることができ、またその行動結 部員が具体的に自身の行動をイメー を構築することにより、財務・経理 このようにコンピテンシーモデル : B E I )が 挙 げ Event Interview られる (図表4のレベル4)。過去に 他機能部門の声を反映するケースも ことができる。インタビューに際し 有識者パネル レベル2 サーベイによる モデル構築 られるコンピテンシーの定義につい 本稿では、財務・経理部門に求め うに聞いていく手法を採る。BEI て説明するとともに、自社にとって 務・ 経 理 部 員 の 主 要 な 行 動 構 築 す る に あ た っ て は、 財 コンピテンシーモデルを 明する。 OJT以外の育成手法もあわせて説 る た め の 指 針 を 考 察 す る と と も に、 方に基づきOJTを効果的に実施す り切っている現状に警鐘を鳴らした 特 性 を 収 集 し た う え で、 パ フォーマンスに重要な影響 豊國 成康 (とよくに・なりやす) プライスウォーターハウスクーパース㈱ パートナー 大手監査法人系コンサルティング会 社を経て現職。20年以上に及ぶコン サルティング業務において、基幹系業 務 (販売・購買・在庫・生産) および 会計業務のビジネスプロセス改革、 シ ステム導入プロジェクトを主に担当す る。 特に、 株式公開対応に関する知見 を有し、 マネジメントコンサルティング、 システム導入コンサルティング両方の 経験がある。 伊藤 久明 (いとう・ひさあき) プライスウォーターハウスクーパース㈱ ディレクター 公認会計士 大手監査法人を経て現職。 連結決算シ ステム・グループ経営管理システムの導 入、 決算早期化、 経理業務の改善、 原価 管理制度の構築、会計基準のコンバー ジェンス対応、 IFRS対応、 シェアードサー ビス、 経理・財務部門の戦略策定・人 材育成等のプロジェクトに従事。著書に 『スピード決算マネジメント』 (共著、 生産 性出版) 『 、イチバンやさしいIFRS』 (共 著、 中央経済社) 『 、Q&A国際財務報告 基準 (IFRS) 第2版』 (共著、 税務研究会) 等がある。 不特定多数に向けたサーベイ (図表 増 え て い る。 汎 用 的 な コ ン ピ テ ン ては事象に対してどのように取り組 レベル3 まとめ シーモデルの採用と比較して、自社 んだのか等、なるべく誘導しないよ に よ り、 把 握・ 特 定 し た ハ 適切なコンピテンシー定義を構築す 連載の第4回目となる次回は、こ イパフォーマーの行動特性 フォーマーとなる可能性の れらコンピテンシーを実現するため るための方針策定と、モデリングア ある人材を選別することも の育成手法について解説する。第1 は、 人 材 の 採 用 時 に 対 比 を できる。 が、他社での取組状況や我々の考え 回目で、旧態依然としたOJTに頼 ⑶ コンピテンシーモ デルの構築 プローチについて紹介した。 レベル1 一般的な コンピテンシー モデルの採用 Middle Performer 駒井 祐太 (こまい・ゆうた) プライスウォーターハウスクーパース㈱ マネージャー 2006年にプライスウォーターハウス クーパース㈱に入社。経理機能戦略 立案、 経理業務のシェアードサービス 化、業務改革 (BPR) 等のプロジェク トに従事。2014年よりPwC英国法 人に出向し、 ベンチマーク分析をはじ めとする診断サービスを担当。 現在、 日本における同サービスの担当マ ネージャーを務める。 田所 健 (たどころ・たけし) PwCあらた監査法人 パートナー 公認会計士 1991年に大手監査法人入所。2006年 ~ 2008年まで日本公認会計士協会内部 統制検討委員会委員を歴任。 プライス ウォーターハウスクーパース㈱への出向 を経て現職。 国内上場および米国上場 企業などの監査業務を担当するとともに、 US SOXおよびJ-SOX導入支援、決算早 期化をはじめとする業務改善の支援、 US GAAPコンバージョン、IFRS導入支 援、管理会計・業績評価等、豊富なプロ ジェクト経験を有する。 特有の観点が反映できる一方で、必 レベル4 行動結果 インタビュー High Performer 行 う こ と で、 将 来 の ハ イ パ Specific General ずしもハイパフォーマーの行動特性 (図表4) モデリングアプローチ 44 経理情報●2015.10.20(No.1427) 理 務・経 部門の 財 コンピテンシーを 実現する育成手法① を考える 回目となる今回は、第 日間は社員を日常業務 うか。一方、グローバル企業の事例 には、年間 ― 2:1」の割合を目標値としている。 チ ン グ 2: 研 修 1」と 考 え て い る。 を、「OJT7:ティーチング・コー 段全体に占める育成手段ごとの割合 こと、研修は日常の業務を離れ、他 をはじめとする周囲から学ぶ機会の ティーチング・コーチングとは上司 の こ と で、 仕 事 に よ り 得 Training た 経 験 を 通 じ て 学 ぶ 機 会 の こ と、 On the Job 本連載にあたって実施した調査にお 者の知識・経験などを体系的に学ぶ な お、 O J T と は いて、人材育成手法全体に占める育 ⑵ OJTの効果と注意点 OJTにおいて自ら気づいて学 経理部員の育成に関する統合的なプ がほとんどであった。これは、財務・ れであり、「わからない」 という回答 (MBAなど) α +、 個 人 学 習 + α 」 との回答を得たがこうした企業はま 進めていた仕事について論理的な裏 ることもあるし、自分の理解だけで 気づきを得て自分の理解が補強され 周囲からのアドバイスにより新たな ティーチング・コーチングを通じた ぶ こ と に 価 値 が あ る の は 当 然 だ が、 ランがないことの現れではないだろ 46 経理情報●2015.11.1(No.1428) 連載の第 回目で説明した財務・経理部員の から完全に開放して研修を受講させ 米国のリーダーシップ研究の調査 コンピテンシーを実現するための育 そも本連載は、財務・経理部長は部 機関であるロミンガー社の調査によ るというものがある。読者の皆様の 員の育成に悩んでいるという課題認 る と、 経 営 幹 部 が 自 身 の 成 長 に 役 成手法を、「育成手段」 と「育成のため 識に端を発している。どのように部 %が 立ったできごととしてあげたものが % が 薫 陶、 員を育成すればよいか、それに応え % が 経 験、 「 ― Lombardo and Eichinger, 研 修 」で あ り、 こ れ が「 20 10 )と し て 知 ら れ て い る も の で あ 2002 る。我々はこの考え方に基づき「7: の法則」 ( 10 20 機会のことを指す。 は、明確に「OJT %、社内研修・ ところ、商品卸売業に属する企業で 我々は、財務・経理部員の育成手 70 70 成手段ごとの割合について質問した ⑴ 「7:2:1」 財務・経理部員の 育成手段 るのが今回の内容である。 企業ではいかがであろうか。 10 の し く み 」に 分 け て 解 説 す る。 そ も 3 外部セミナー %、通学制外部講座 90 PwCあらた監査法人 豊國 成康/伊藤 久明/駒井 祐太/田所 健 プライスウォーターハウスクーパース㈱ 4 10 〈第4回〉 人材育成 古来より日本では、名人 (プロフェッショナル) に至る過程において 「守破離」 の精神が説かれてきた。米国の リーダーシップ研究の調査機関では、 「70―20―10の法則」 が提唱されている。人材育成には、長い時間と適 切な手法が必要である。 【連載スケジュール予定】 第1回 「財務・経理タレントマネジメントサイクル」 の概要(2015年10月1日号(№1425)) 第2回 キャリアパスと明確な役割の定義 (2015年10月10日号(№1426)) 第3回 役割に必要なコンピテンシーの定義(2015年10月20日号(№1427)) 第4回 コンピテンシーを実現する育成手法①(2015年11月1日号(№1428)) 第5回 コンピテンシーを実現する育成手法②(2015年11月10日号(№1429)) 第6回 育成の達成度合いとしてのパフォーマンス評価(2015年11月20日号(№1430)) 第7回 財務・経理部門の将来と人材育成への影響(2015年12月1日号(№1431)) 理 務・経 部門の 財 人材育成 を考える な知識をベー 準等の理論的 財 務・ 経 理 の 領 域 で は、 会 計 基 つくったマニュアルに従った定型的 いるからであるが、それでは誰かが も作業ができるような状況になって 落とし込まれていて、いわば誰にで 下の意見を引き出すことで、いわゆ がある。他方でコーチングとは、部 知っていてそれを伝えることに主眼 持つべきである。一方的に誰かの話 語ってもらう場などの双方向でのや 論 す る よ う な 場、 上 位 者 に 経 験 を 方通行のやりとりだけではなく、議 研修は、座学といわれるような一 知 識・ 経 験 な ど を 教 え る こ と で あ スにして実 な仕事はできても、新たな事象には 型のコミュニケーションと言 る Pull われる。答えは部下が持っていてそ を聞いているのは退屈で、語られた な く て も 日 々 の 仕 事 が で き る の は、 務作業を行う 適切に対応できなかったり、自ら非 れに気づかせる、それを引き出すこ 内容の記憶への定着効果も薄い。双 づけを研修の場で学ぶことで、仕事 ことが王道で 効率な業務を改革し、その新しい業 とに主眼がある。 方向な形で意見を言い合うことで脳 ⑷ 研修の効果と注意点 はあるが、他 務を定着させることができたりする テ ィ ー チ ン グ と コ ー チ ン グ は、 両 も活性化され、学習効果を高めるこ その業務が標準化されマニュアルに 方で簿記の勉 ようにはならない。OJTでの育成 者を効果的に組み合わせることで育 とができるといわれている。「人は誰 の精度を高められることもある。 強などはまず においても、単にマニュアルどおり 成の効果を最大化させることがで 型のコミュニケー り、いわゆる Push シ ョ ン と い わ れ る。 上 司 が 答 え を は仕訳を起こ に業務をやらせているだけになって か に 教 え る と き に 最 も よ く 学 ぶ 」こ も会計基準等 ような、一度 業でみられる が、一部の企 あってもよい どちらが先で ある。順番は ということも 長につながることだけを期待するので せることで部 下が自 ず と感 化され成 う えで、上 司が優れた振る舞いをみ ていることは間違いないだろう。 その が必 要であることの重 要 性 を 示 唆し る側の積 極 的で主 体 的 な 学びの姿 勢 いてここでは問わないが、教えを受け といわれることがある。 その是非につ 職人の世界では、 「仕事はみて盗め」 司・尊敬できる上司と接し、その考 ての成長を実感するのは、優れた上 ジネスパーソン、あるいは人間とし 読者の皆様が、経理パーソン・ビ 必要である。 急度等に応じて、使い分けることが たように、状況、部員のレベル、緊 助言を与えることも怠らないといっ ングを主にしながらも、適時適切な 対しては、自律性を重んじるコーチ 手段も用いる。習熟度が高い部員に る気を引き出すためにコーチングの ティーチングを主にしながらも、や せて、どのように人材育成のしくみ グ、研修という育成手段を組み合わ OJT、ティーチング・コーチン いる。 自身の理解を促進する効果をもって るように努める。その行為が、自分 度整理して、わかりやすく説明でき 教えようとすれば、その中身を今一 むことが必要である。他人に何かを とを意識して、研修プログラムを組 りとりが生じるような手段も同時に すことを経験 き る。 経 験 の 浅 い 部 員 に 対 し て は、 に触れたこと は な く、 上 司 側に も 部 下の成 長に、 え方に触れ、感銘を受け自らの言動 を構築していくべきであろうか。そ 理論的な背景 が な い 財 務・ より積極的に関わっていくことが大切 に変化を感じたときではないだろう こで、⑴育成方針を立て、その方針 が理解が進む を学んだほう 経理部員がい である。 その際の手段としてティーチ か。これらは、優れたティーチング・ ⑶ ティーチング・コーチン グの効果と注意点 いないか注意が必要である。 理解するた めに聞く いい換える 自覚を促す 質問をする フィード バックする 助言する 繰り返す 要約する 提案する ガイダンス を示す 指示する グ・コーチング、⑷研修を行い、そ に基づき、⑵OJT、⑶ティーチン いえる。 コーチングによってもたらされたと 財務・経理部員の 育成のためのしくみ るような状況 ングとコーチングがある。 師と生徒の関係にみられるように テ ィ ー チ ン グ と は、 い わ ゆ る 教 は避けるべき である。会計 基準等に触れ 経理情報●2015.11.1(No.1428) 47 し、その後で (図表1) Push型とPull型のコミュニケーション Pull型 Push型 の過程を通じて優秀な人材を⑸選抜 成過程においては専門性が足りなく ・ 財 務・ 経 理 の 観 点 か ら の 新 規 ビ ジ 域のインフラをゼロから構築) て、さまざまな社内の試験制度を設 なお、次の職階への昇進条件とし 握するのかについても定めておく。 実施した育成の成果をどのように把 詳 細 は 連 載 の 第 6 回 目 で 述 べ る が、 受けてもらうのかを計画する。 また、 チングを実施し、どのような研修を ン 業 務 に 対 す る も の だ け で は な く、 ジョブローテーションは、ルーティ て も 取 り ま と め て お く 必 要 が あ る。 ブローテーションの考え方につい せる必要がある。その際には、ジョ 成効果の高い手段へと生まれ変わら 前述した方針に基づき実施される育 既存のOJTを点検し、OJTを 起きているようである。適切なロー 任させざるを得ない、という事態も 財務・経理部員を現地社長として赴 の見方が十分にわからない 歳代の 任させる人員が足りないため、数字 に子会社を設立しているものの、赴 バル化が進む企業では、海外に次々 理部員もいた。他方で急速にグロー 業務しかやってこなかった財務・経 技にならないように注意する。 用意したりすることで、上司の個人 間で認識をすり合わせたりガイドを の仕事を任せるレベルについて上司 ローする。その際には、経験年数別 見 極 め、 能 力 に 応 じ て 適 切 に フ ォ と、自主性を重んじて任せることを 必要がある。最低限教えるべきこと 奨し目 標 を 提 示 (たとえばレベルC以 し た り、経 理・財 務スキル検 定 を 推 資格試験にあたっての受験料を負担 見直し、シェアードサービス・セン 管理会計・グループガバナンスの (会 計 シ ス テ ム・ I F R S の 導 入、 ・社内のしくみを変革させる取組み コーチとコーチーが 学ぶ姿勢を訓練す る ・効果的なコーチングは学ぶ姿勢をト レーニングすることであり、それは、 コーチとコーチーの双方に必要とさ れる。 「何が答えなのか」 と考えるより も、心を開き、かつ好奇心を持ってそ の状況を楽しむことが重要である。 全人格に焦点を当 てた全 体 的なアプ ローチを採る ・個人的にも職業的にも、 その人にとっ て何が重要かについてコーチングす る。 コーチングはパフォーマンス・レ ビューに関する会話に限らない。 個人 の成長や育成を支援するさまざまな 対話もコーチングである。 48 経理情報●2015.11.1(No.1428) テーション計画に基づき、経験を積 年 年後に、財務・経理部員の経 ませていくことを考えないと、 後、 験不足に頭を悩まされることは避け られない。 テ ィ ー チ ン グ・ コ ー チ ン グ は、 そ ⑶ ティーチング・コーチング なお、極端な事例だが、ある企業 れらを適切に組み合わせて実施する ・大規模な資金調達対応 応 ・移転価格など、グローバルな税務対 ネスの事業計画の立案 なる場合があるため、年代別に中途 要である。 する方針と関連づけて行うことも必 あたっては、中途を含めた採用に関 あった。育成に関する方針の策定に 採 用 に よ る 補 強 が 必 要 」と の 回 答 が し、 さ ら に ⑵、 ⑶、 ⑷ を 繰 り 返 す、 という体系を提案する。 ⑴ 育成方針を立てる 連載の第2回目で述べたキャリア パス、第3回目で述べたコンピテン シーに対応させて、どの段階でどの では 歳を前にして資金出納の伝票 けている企業がある。これらは、た たとえば、次のような非ルーティン ジ ェ ン ス、 P M I ( Post Merger 上) したりする企業も出始めている。 ターの立上げ、 ビジネス・プロセス・ ) Integration さらに、本連載にあたって実施し アウトソーシングの活用、人材育成 ベストフィットする場 ・人生における機会をつくり、潜在能力 をみつけることを支 を最も発揮する“ベストフィットな場” 援する をみつけるように支援する。 30 ・コーチングは極力コーチーの強みを 活かし、成長が期待できる改善領域 強みにフォーカスし にレバレッジが効くよう注力する。 こ たアプローチを採る の方法によりコーチーが潜在能力を 十分に発揮することができるようにな る。 な お、コーチングの場 を よ り 有 用 とえば 「管理職研修」 などと呼ばれる 業務で学びの機会が多い業務につい には用いないが、自己学習を促進す る意味で簿記検定の取得やTOEI C何点以上という目標を提示するこ ・M&Aの際の財務デューデリ 研修制度と組み合わされ実施される ⑵ OJT 10 ても検討対象に含める。 ようなOJT、ティーチング・コー 20 ことが多い。あるいは、昇進・評価 60 ・コーチーがコーチングを求め、コーチ は継続してフィードバックするなど、 自 身の育成に対する責任を自身が負う ように働きかけるものである。 コーチ は、コーチーに、最も価値をもたらす ことに焦点を当てるようにする。 自身のコーチングの 会話について責任を 負う とに加えて、米国公認会計士などの た調査では、財務・経理部員の人員 のしくみの構築など) ・海外子会社の立上げ (財務・経理領 について、「新卒採用が中心でさまざ まな経験を積ませようとすると、育 (図表2) PwCの 「コーチング哲学」 理 務・経 部門の 財 人材育成 を考える されている「コーチング哲学」と呼ばれ てPwCにおいて、従業員向けに提示 とが重要である。 ここでは、一例とし 側 (コーチー) とも共通の認識を持つこ を、コーチだけでなくコーチを受ける より 何 を 実 現 しよ う としているのか なものにするためには、コーチングに キルを 総 動 員 して 行 う ことに な り、 で、 財 務・経 理 部 員 が 保 持 すべきス プレゼンテーションを 行 う という 意 味 し、ヒューマンスキルとして効 果 的 な ルスキルとして伝 えること を 体 系 化 ていること を も とに、コンセプチュア クニカルスキルと して 正 確 に 理 解 し にもわかりや す く 伝 えることは、テ トが あ る。一見 難 しいこと を 初 学 者 大きいが、研 修 を 行 う 講 師にもメリッ いることに忠実に従う。OJTであ 理を行う。いわれたこと、書かれて ニュアルを “守”って適切に業務処 を 考 え れ ば よ い だ ろ う。 初 め は マ 域でいえばマニュアルのようなもの ここで「型」とは、財務・経理の領 うことを示している。 初心者から達人へと至っていくとい る → 型 を 離 れ る 」と た ど る こ と で、 う考え方がある。「型を守る→型を破 テップを示したものに「守破離」 とい ⑷ 研 修 び財務・経理部員が担当する領域ご 階に共通して受けるべき研修、およ 財務・経理部員のキャリアの各段 ) 。 講 師にとってもトレーニングの効 率 性 る。慣れてくると、こうしたほうが るものをご紹介しよう(図表 が高いといえるからである。 に、 自 分 で 気 が つ い た り、 外 部 の すべての財務・経理部員がCFO 動してきた上司からのアドバイスに 研修などで他社事例に触れたり、異 もっと効率的ではないかということ ⑸ 選抜する 象者は、財務・経理部門向けだけで になれるわけではない。成果を出し とに受けるべき研修を計画する。対 なく、財務・経理部門以外向けも含 する選抜制度を設けている企業が は、CFO人材育成プログラムと称 本連載にあたって実施した調査で とを財務・経理のさまざまな領域に よい方法に変えていく。こうしたこ アルが意図した結果を得られるより でも、マニュアルを “破” って、 マニュ よって思い至ることがあるかもしれ は、財務・経理に関する一般的な知 あった。社内外の専門家を招いた講 お い て 繰 り 返 し て い く う ち に、 マ た部員を選抜し、次世代のリーダー 識を知らないでは済まされない。 義の受講、海外ビジネススクールへ ニュアルが想定していないような事 めて検討する。今日事業部門におい また、研修は外部研修の活用と、企 の派遣、グループ会社の企業価値向 態に遭遇しても、マニュアルを “離” ない。マニュアルに記載のない方法 業内部で実施 する研修を組み合わせ 上に関するプレゼンテーションを経 れて、独自の考えに基づき、適切に として育成していく必要がある。 て行 う。 内 部 研 修は、たとえば、次 て、将来のグループ会社のCFOを 業務を遂行できるようになる。 て、とりわけ計数管理を行う責任者 のようなテーマが考えられるだろう。 育成しようという意欲的なもので ・会計の基礎知識習得 ・業務オペレーションの理解 あった。この事例については、連載 財務・経理部員も、プロとして財 ・過去の会計処理判断等のナレッジ ばならない。財務・経理部長は、育 務・経理の「道」を究めていかなけれ * 成にあたり「守破離」も念頭に置いて 第5回目となる次回で詳述する。 古来、日本において、物事の「道」 の伝達 (ケーススタディ) 研 修は、新しい知 識 を 体 系 的に学 を究めるにあたってたどるべきス いただきたい。 べる という 点 で 受 講 者のメリット が 経理情報●2015.11.1(No.1428) 49 豊國 成康 (とよくに・なりやす) プライスウォーターハウスクーパース㈱ パートナー 大手監査法人系コンサルティング会 社を経て現職。20年以上に及ぶコン サルティング業務において、基幹系業 務 (販売・購買・在庫・生産) および 会計業務のビジネスプロセス改革、 シ ステム導入プロジェクトを主に担当す る。 特に、 株式公開対応に関する知見 を有し、 マネジメントコンサルティング、 システム導入コンサルティング両方の 経験がある。 伊藤 久明 (いとう・ひさあき) プライスウォーターハウスクーパース㈱ ディレクター 公認会計士 大手監査法人を経て現職。 連結決算シ ステム・グループ経営管理システムの導 入、 決算早期化、 経理業務の改善、 原価 管理制度の構築、会計基準のコンバー ジェンス対応、 IFRS対応、 シェアードサー ビス、 経理・財務部門の戦略策定・人 材育成等のプロジェクトに従事。著書に 『スピード決算マネジメント』 (共著、 生産 性出版) 『 、イチバンやさしいIFRS』 (共 著、 中央経済社) 『 、Q&A国際財務報告 基準 (IFRS) 第2版』 (共著、 税務研究会) 等がある。 駒井 祐太 (こまい・ゆうた) プライスウォーターハウスクーパース㈱ マネージャー 2006年にプライスウォーターハウス クーパース㈱に入社。経理機能戦略 立案、 経理業務のシェアードサービス 化、業務改革 (BPR) 等のプロジェク トに従事。2014年よりPwC英国法 人に出向し、 ベンチマーク分析をはじ めとする診断サービスを担当。 現在、 日本における同サービスの担当マ ネージャーを務める。 田所 健 (たどころ・たけし) PwCあらた監査法人 パートナー 公認会計士 1991年に大手監査法人入所。2006年 ~ 2008年まで日本公認会計士協会内部 統制検討委員会委員を歴任。 プライス ウォーターハウスクーパース㈱への出向 を経て現職。 国内上場および米国上場 企業などの監査業務を担当するとともに、 US SOXおよびJ-SOX導入支援、決算早 期化をはじめとする業務改善の支援、 US GAAPコンバージョン、IFRS導入支 援、管理会計・業績評価等、豊富なプロ ジェクト経験を有する。 2 理 務・経 部門の 財 コンピテンシーを 実現する育成手法② を考える PwCあらた監査法人 豊國 成康/伊藤 久明/駒井 祐太/田所 健 プライスウォーターハウスクーパース㈱ 材 で 賄 う こ と を 目 標 に 掲 げ て お り、 務・経理部門以外も含めた自前の人 経理タレントマネジメントサイクル 200名ほどCFOを輩出しようと 過去4回の連載をとおして、財務・ における、⑴キャリアパスと明確な している。 A 社 の 財 務・ 経 理 部 門 で 求 め ら れ ⑴ スペシャリストから経営 人材へ 変革する人材像 役割の定義、⑵役割に必要なコンピ テンシーの定義、⑶コンピテンシー を実現する育成手法の体系について 解説してきた。連載の第5回目とな る今回は、本連載にあたって実施し た調査に基づき、財務・経理部門に おける人材育成手法の事例を紹介し たい。 る 人 材 像 は「 ス ペ シ ャ リ ス ト 」か ら、 「専門的知見およびビジネスに関す る 実 務 経 験 を 有 す る 経 営 人 材 」へ と 人材育成は多大な時間と根気を要 なく、経営環境や自社のビジネスと 務・経理の専門性を有するだけでは 財務・経理部門の 人材育成の目的 する取組みであり、目に見える成果 照らし合わせて、経営的発想と行動 変 化 を 遂 げ て き た。 す な わ ち、 財 年かかるこ が表れるまでに5年、 財務・経理部員を、これまで求め ができる人材が求められている。 せるためには、経営戦略と整合した られてきた「スペシャリスト」として 型のビジネスへ転換し、多くの関係 は、物流型のビジネスから事業投資 多岐にわたる事業を展開するA社 材 の 育 成 」を 掲 げ て い る。 国 内 外 で ける人材育成の目的として、「経営人 するA社では、財務・経理部門にお この点、たとえば商品卸売業に属 ( 会 計 士、 弁 護 士、 コ ン サ ル タ ン ト しており、高度な専門性は外部知見 るアドバイザーとしての役割を期待 意思決定などを含む事業経営に対す は、財務・経理部門に対して、投資 である。施設運営業に属するB社で は、先進的な企業に共通するテーマ 見を有する人材として育成すること の能力に加え、ビジネスに関する知 会社に優秀なCFOを配備すること な ど )を 活 用 し つ つ、 社 内 の 人 材 に は事業特性に対する徹底的な理解を が 求 め ら れ て い る。 A 社 は 関 係 会 が重要になる。 明確な人材育成の目的を掲げること とも珍しくない。人材育成を成功さ 10 社 の C F O を 外 部 か ら 雇 わ ず、 財 経理情報●2015.11.10(No.1429) 45 〈第5回〉 人材育成 “隣の芝生は青くみえる。”自社の人材育成には、いつも物足りなさを感じる。人材育成においても、他社の 取組みは気になるところである。財務・経理部門の人材育成の取組みをさらに改善するための参考として、先 進的な企業の事例を紹介する。 【連載スケジュール予定】 第1回 「財務・経理タレントマネジメントサイクル」 の概要(2015年10月1日号(№1425)) 第2回 キャリアパスと明確な役割の定義 (2015年10月10日号(№1426)) 第3回 役割に必要なコンピテンシーの定義 (2015年10月20日号(№1427)) 第4回 コンピテンシーを実現する育成手法①(2015年11月1日号(№1428)) 第5回 コンピテンシーを実現する育成手法②(2015年11月10日号(№1429)) 第6回 育成の達成度合いとしてのパフォーマンス評価(2015年11月20日号(№1430)) 第7回 財務・経理部門の将来と人材育成への影響(2015年12月1日号(№1431)) 高度な説明能力や交渉力が必要にな こ と が 求 め ら れ て い る。 そのため、 広く深いコミュニケーションを取る さまざまな社内外の関係者とより幅 門は、経営者、投資家、監査人等の の1つとして挙げた。財務・経理部 社が 「人間力の強化」 を重点的な目標 インタビューをとおして複数の会 ⑵ 人間力の強化 する制度を数年前に導入した。 社1年目に利益の源泉である、お客 ジネスに関する視点を養うため、入 るC社では、早い段階から自社のビ 求めている。また、装置産業に属す で あ る。 具 体 的 な 取 組 み と し て は、 の希望に応じたキャリア形成が可能 り、豊富な選択肢のなかから、個人 明確に定義されたキャリアパスがあ する。このように、中長期的視点で 蓄積された専門性やノウハウを習得 ローテーションで経験し、各部署に の分野におけるさまざまな業務を 象者は経理、財務、リスク管理など 育期間を設けており、基礎教育の対 A社では、入社後6年間の基礎教 ⑴ A社の場合 心に据えていた。 の企業では、OJTを人材育成の中 たってインタビューを行ったすべて 制度について解説する。本連載にあ 得が行われる。近年では、官民でコ ジメントをとおした変化対応力の習 外プロジェクトのプロジェクトマネ ンをとおした経営視点の強化や、海 らに経営企画部門へのローテーショ 求められる。管理職については、さ ト構造に関する理解を深めることが の課題や、現場における収益・コス 出向が2年間含まれており、事業上 ションには、事業部門・子会社への な 業 務 を 経 験 す る。 こ の ロ ー テ ー 決算、連結決算、税務などさまざま 部員は、本社・子会社を跨いで単体 おり、入社 年目前後の財務・経理 にローテーション制度が設けられて 同様にB社においても、職階ごと 社内外の講師を使い分けている。財 門研修を設けており、目的に応じて A 社 で は 任 意 参 加 の 全 社 研 修・ 部 る。 さまざまな研修制度を取り入れてい する取組みとして、多くの企業では OJTにより得る現場経験を補完 タリングする役割も担う。 育・指導がなされていることをモニ ンターは、配属先において十分な教 との利害関係がない第三者であるメ 員に関する情報共有を行う。配属先 ングをもち、各々が担当する新卒社 月に1回他のメンター達とミーティ 並行して海外研修員制度が設けられ A社ではさらに、基礎教育期間と 受 け る こ と が で き る。 メ ン タ ー は、 社内外研修の活用 46 経理情報●2015.11.10(No.1429) の両者に報告し、フィードバックを るが、これらの要素は座学だけに頼っ 担当業務について年1回の面談をと ンソーシアムを組み、海外市場に対 ⑵ B社の場合 た習 得が困 難であるため、多 く の 企 おして、本人の希望と上司からみた するコンサルティングや人材育成業 部門では各グループ ( 課 )の マ ネ ー ており、入社7年目までに原則とし たローテーション制度を運用してい ⑶ D社の場合 の中堅社員に対しては、営業部門や る。D社では、配属先における教育 ・経営幹部候補育 成研修 ・実践例の解説や経 社内研修 ・管理職研修 験談の紹介 ・次世代リーダー育 成研修 様と直接関わる現場等を1年間経験 業が対応を模索している。 適性との摺合せを行っている。 ジャーを1つのロールモデルとして てすべての財務・経理部員を海外研 専門サービス業に属するD社で 財務・経理部門以外のコーポレート 係に加えて、配属先とは異なる部署 ・会計専門学校提 供プログラム ・外部研修機関提携 社外研修 ・外部公開セミナー プログラム ・MBA (経 営 修 士 号) 一 例 と し て、 C 社 の 財 務・ 経 理 捉え、会計税務、財務、IRを横断 修員として海外の関係会社に1~2 は、数年前より新卒社員を対象とし 務、海外へのCFO派遣などの取組 的にみることができる視点をもち他 年目前後 みを進めている。 部門に対しても発言力がある人材の 年間派遣している。入社 部門 (経営企画、人事、事業統括等) のメンターが任命される。新卒社員 は週報をとおして担当した作業や課 との人材交流プログラムが設けられ ている。 題などについて、教育係とメンター (図表1) 自社のニーズとケイパビリティにあわせて、 社内外研修を活用する 10 育成を目指し、 「人間力」 の醸成に取 り組んでいる。 OJTを中心とした 育成制度 次に、各社における具体的な育成 B社 A社 10 理 務・経 部門の 財 人材育成 を考える については、外部の講師に委託する 務・経理に関する汎用的な基礎知識 た育成プログラムに加えて、次世代 すべての財務・経理部員を対象とし 協 力 し て も ら っ た 企 業 の な か に は、 得した後に、受講者は、ビジネス上 理領域におけるさまざまな知識を習 5時間の講義を受講する。財務・経 資を行う。 B社では、次世代リーダー は、選抜者を対象とした重点的な投 次世代リーダーの育成プログラム る。 一方で、それらの知識に対する実践 のシミュレーションを迅速に行うた 務・経理部員をビジネススクールの リーダーの育成を目的とした選抜制 数値処理に関する技術である財務モ MBA(経営修士号)プログラムに派 例の解説や経験談の紹介を社内講師 例として、A社では基礎教育期間 デリングに関して、1カ月間の集中 遣している。自らチャレンジする精 の育成の一環として、毎年数名の財 C社でも、基礎知識を得るために監 (6年間)を終えた財務・経理部員だ 研修に参加し、理論と技術を徹底的 神を尊重し対象者は公募制を採って めに、スプレッドシートを活用した 査法人や会計専門学校が主催する外 けでなく、営業部員を含む全社員を に叩き込まれる。 度を設けている企業がある。 部講習を活用しつつ、 ティーチング・ 対象として、約2年のCFO人材養 である先輩社員が実施する。B社や コーチングをとおして、基礎知識を スに選抜され、米国の大手ビジネス に、帰任後の担当業務や習得した知 る知識習得のみで終わらないよう いる。また、MBAへの派遣が単な スクールに派遣される。帰国後選抜 識の活かし方などをあらかじめ定め 名の受講者が上級コー 者は実在する関係会社に対する企業 たうえで、 派遣する方針としている。 られる。5名1組のチームで検討し た施策を、CFOおよび関係会社の さ ら に、 P w C の 海 外 事 例 に も、 ⑵ PwCの海外事例 価値向上策の検討を課題として与え その後、 成 プ ロ グ ラ ム を 導 入 し て い る( 図 表 社内外の専門家を招き、週1回2・ ) 。 プ ロ グ ラ ム の 初 期 段 階 で は、 実務での活用につなげている。 また、一部の企業では、自社内の 研修プログラムの開発に重点的な投 資を行っている。例として、製造業 に属するE社では、さまざまな実践 的な研修を独自に開発しており、こ れらの研修をとおして現場での知識 社長に対して、プレゼンテーション 困難な状況に対して、解決 策を見出す冷静な判断力を 養う。 や経験が先輩社員から後輩社員に 複雑な問題解決 次世代リーダーに必要なリーダー さまざまな関係者と効果的 にコミュニケーションを取 り、変革を推し進めるチェン ジマネジメント能力を養う。 を行うことにより、約2年かけてイ 組織変革 脈々と受け継がれている。各研修に 固定観念に捉われず、ゼロ ベースで新たなアイデアを 産み出すクリエイティビティ を養う。 シップの育成に関するさまざまな取 新商品開発 ンプットした知識を最後にアウト グローバルモビリ グローバルな視点やさまざ ティ まな文化に柔軟性をもって 適応する能力を養う。 組みがある。 新たな環境での経 異なる領域/チームに対して 験 短期間で順応し、さまざまな 条件下でパフォーマンスを 発揮する能力を養う。 プットすることが求められるのであ アカウンタビリティ 限られた範囲でも、収益やコ (説明責任)を与え ストに対する説明責任を求 る めることにより、責任感を養 う。 は修了試験が設けられており、優秀 10 早い段階のチャレン 早期に難易度の高い課題に ジ 取り組むことにより、リスク 管理の視点を養う。 な成績を収めた受講者が翌年の講師 選抜 を担当するしくみとなっている。部 下が優秀修了者として講師に選ばれ ることが上司の評価にも反映される ため、E社では研修参加への重要性 に対する社内の理解は高い。 米国 ビジネス スクール 派遣 関係会社への 企業価値 向上策提言 財務 モデリング 集中講座 約6カ月 1週間 1年3カ月 (週2.5時間) 1カ月 社外研修/ 社内研修 優れたチームを育成し、強い リーダーシップ能力を養う。 人材育成 次世代リーダーの 育成に対する取組み 経理情報●2015.11.10(No.1429) 47 ⑴ 選抜者制度の活用 本連載にあたって実施した調査に (図表3) リーダーシップを育成する 「機会」 2 (図表2) A社における次世代リーダー育成の取組み 理 務・経 部門の 財 人材育成 を考える 海外企業X社では、リーダーシッ プ の 育 成 へ の 取 組 み と し て、 ア ク ションラーニングを取り入れてい る。アクションラーニングとは、育 ・学習結果を実践する個別プロジェ クト ・トップマネジメントとのネット ワーキングイベント ・所属部門や育成プログラムからの 集中的なフィードバック 成対象者をチームに分け、現実世界 の問題に対して、課題解決に向けた ・戦略的なプロジェクト配属 と根気が必要となる。現在のプログ ラムの導入から7年目を迎えたA 社 に お い て も、 受 講 し た 世 代 か ら ゼネラルマネージャーが生まれる 2020年頃に成果が表れ始めるこ とを見込んでいる。 一 方 で、 明 確 な 成 果 を 上 げ て い る 企 業 も 存 在 す る。 先 行 事 例 と し て 頻 繁 に 取 り 上 げ ら れ る、 米 ゼ ネ 伊藤 久明 (いとう・ひさあき) プライスウォーターハウスクーパース㈱ ディレクター 公認会計士 大手監査法人を経て現職。 連結決算シ ステム・グループ経営管理システムの導 入、 決算早期化、 経理業務の改善、 原価 管理制度の構築、会計基準のコンバー ジェンス対応、 IFRS対応、 シェアードサー ビス、 経理・財務部門の戦略策定・人 材育成等のプロジェクトに従事。著書に 『スピード決算マネジメント』 (共著、 生産 性出版) 『 、イチバンやさしいIFRS』 (共 著、 中央経済社) 『 、Q&A国際財務報告 基準 (IFRS) 第2版』 (共著、 税務研究会) 等がある。 活動 (アクション) と結果に対する振 り返り (リフレクション) をとおして 海 外 企 業Z社では、実 践が成 長 を ラルエレクトリック社の 気づきを促す学習手法である。 促すという考えのもと、リーダーシッ Finance さまざまな職階や地域等から選抜 る。この定義に従い、優れた人材に対 業生には同社の現CFOをはじめと プを育成するための機会を定義してい 自社の戦略的課題が割り当てられ して機会を提供することにより、日々 する、多くの著名なファイナンスプ 名 1 組 の チ ー ム に 対 し て、 る。 各チームはコーチの指導のもと、 の実 務 を とおした次 世 代リーダーの ロフェッショナルが名を連ねる。自 された 3カ月間をとおしてこの課題に取り 育成を進めている (前頁図表3) 。 (FMP)は、 Management Program 昨年100周年を迎えたが、その卒 組 み、 ビ ジ ネ ス プ ラ ン を 立 案 す る。 ける取組みを参考にしつつ適宜進化 社の目指す姿を明確化し、他社にお 今回は、各社の具体的な取組みに を加え、長期的な視点をもって人材 * たチームに対しては、提案を実現す ついて事例を交えて解説した。前述 駒井 祐太 (こまい・ゆうた) プライスウォーターハウスクーパース㈱ マネージャー 2006年にプライスウォーターハウス クーパース㈱に入社。経理機能戦略 立案、 経理業務のシェアードサービス 化、業務改革 (BPR) 等のプロジェク トに従事。2014年よりPwC英国法 人に出向し、 ベンチマーク分析をはじ めとする診断サービスを担当。 現在、 日本における同サービスの担当マ ネージャーを務める。 最も優れたビジネスプランを立案し るためのベンチャーキャピタル資金 田所 健 (たどころ・たけし) PwCあらた監査法人 パートナー 公認会計士 1991年に大手監査法人入所。2006年 ~ 2008年まで日本公認会計士協会内部 統制検討委員会委員を歴任。 プライス ウォーターハウスクーパース㈱への出向 を経て現職。 国内上場および米国上場 企業などの監査業務を担当するとともに、 US SOXおよびJ-SOX導入支援、決算早 期化をはじめとする業務改善の支援、 US GAAPコンバージョン、IFRS導入支 援、管理会計・業績評価等、豊富なプロ ジェクト経験を有する。 育成を継続することが鍵となる。 PwCの 「第18回世界CEO意識調査」 によると、CEO の73%が、 「鍵となる人材の調達 (ができないこと) 」 を 自社の成長に対する重大な脅威として捉えており、人 材の育成だけでなく人材の獲得もまた経営課題の1 つであるといえる。 さらに、総合人材サービス会社の マンパワーグループ㈱が公開した 「第10回人材不足に 関する年次調査 (Talent Shortage Survey) (2015年) 」 によると、会計・財務スタッフは、人材不足を感じて いる職種の第7位 (日本では第4位) となっており、財 務・経理領域の人材確保が難しいことを示している。 このことから、既存の社員に対する人材育成の方針 だけでなく、新たに入社する社員に対する採用方針、 既存の社員を企業内にとどめるリテンション方針も 定めるとともに、それらは一貫したものでなければな らない。 欧米企業であれば、社内に会計士がいるのは普通の ことであるが、日本では、会計士は監査法人に在籍す ることがほとんどであった。 ところが近年は、監査法 人から事業会社への転職が増加し、監査法人に在籍し たまま事業会社へ出向するプログラムが多数用意さ れるようになってきている。 スキルマップに基づき自 社の財務・経理部員のスキルを棚卸し、短期的に手当 てできない領域については外部から調達することも 選択肢の1つとなっており、人材育成の方針と連動し た外部人材の活用方針の策定を進める必要があるだ ろう。 のとおり、人材育成には多大な時間 (図表4) コラム~人材の育成と人材の獲得 が提供される。 海外企業Y社では、優れた成績を 残したマネージャーをさまざまな部 門から選抜し、次世代リーダーとし 名弱を1チーム て2年間をかけ人材育成するプログ ラムを導入した。 として、研修やコーチングを組み合 せた次のような教育機会を提供して いる。 ・リーダーシップ等のテーマに関す る各種研修 ・アクションラーニングを用いたグ ループワーク 20 10 豊國 成康 (とよくに・なりやす) プライスウォーターハウスクーパース㈱ パートナー 大手監査法人系コンサルティング会 社を経て現職。20年以上に及ぶコン サルティング業務において、基幹系業 務 (販売・購買・在庫・生産) および 会計業務のビジネスプロセス改革、 シ ステム導入プロジェクトを主に担当す る。 特に、 株式公開対応に関する知見 を有し、 マネジメントコンサルティング、 システム導入コンサルティング両方の 経験がある。 経理情報●2015.11.10(No.1429) 48 理 務・経 部門の 財 育成の達成度合いをみる 適切な評価のしかた を考える 配置や処遇の決定をするといった目 測定するだけではなく、適切な人員 務・経理部員の育成の達成度合いを 理部員を適切に評価することは、財 財務・経理部長にとって財務・経 各評価基準が設定される(図表1)。 トプットのどの側面を評価するかで をインプット、スループット、アウ る(アウトプット) 。この場合、社員 (スループット)、目標売上を達成す 先に対して製品やサービスを提供し 社員が保持する 「能力」により評価 ⑴ 能力評価 的もあるため重要といえる。連載の 第6回目となる今回は、財務・経理 部員の評価を考えるうえで重視すべ き行動評価を中心に適切な評価につ 理部門のあるべき姿と適合しないもの る財 務・経 理 部 員の行 動が財 務・経 がなされた場 合には、被 評 価 者であ ため、不 適 切な評 価 基 準による評 価 人は評価されるものに従い行動する なり、どれだけの売上を上げたかに つ能力のみにより評価されることに い。前述した例では、営業部員が持 しているかは評価の対象とはならな か、またはどのような成果を生み出 力が実際に業務に反映されている することである。この場合、その能 になる可 能 性がある。 そのため、自 ついては考慮されない。 ⑷成果評価 PwCあらた監査法人 豊國 成康/伊藤 久明/駒井 祐太/田所 健 プライスウォーターハウスクーパース㈱ いて解説する。 社にふさわしいコンピテンシーを 定 義 ⑶行動評価 ⑴能力評価 するとともに評 価 基 準に関しても 十 ⑵ 情意評価 アウトプット 社員の仕事へ取り組む姿勢や意欲 (図表1) 人事評価に用いられる評価基準 分な検討が必要となる。 一般的な評価基準の 考え方 人事評価に用いられる評価基準 ⑵情意評価 としては、 「⑴能力評価」 、 「⑵情意評 価」、 「⑶行動評価」、 「⑷成果評価」等 を設定することが一般的である。 これらの評価基準は、社員が価値 を創造するまでの一連の過程と関連 づけられる。たとえば、営業部員は 教育訓練等を通じて必要なスキルや 能力を身につけ(インプット)、得意 経理情報●2015.11.20(No.1430) 47 スループット インプット 〈第6回〉 人材育成 ゴルフの指南書をいくら読んだところで、 クラブを振り、 レッスンプロの指導を仰がなければ上達はあり得ない。 同様に、コンピテンシーをいくら理解したところで、実践し、評価を受け、フィードバックがされなければ成長 にはつながらない。 【連載スケジュール予定】 第1回 「財務・経理タレントマネジメントサイクル」 の概要(2015年10月1日号(№1425)) 第2回 キャリアパスと明確な役割の定義 (2015年10月10日号(№1426)) 第3回 役割に必要なコンピテンシーの定義 (2015年10月20日号(№1427)) 第4回 コンピテンシーを実現する育成手法①(2015年11月1日号(№1428)) 第5回 コンピテンシーを実現する育成手法②(2015年11月10日号(№1429)) 第6回 育成の達成度合いをみる適切な評価のしかた (2015年11月20日号(№1430)) 第7回 財務・経理部門の将来と人材育成への影響(2015年12月1日号(№1431)) 「テクニカルコンピテンシー」、「ビジ 助け合いながら働き、高い生産性を 会社へ忠誠心のある人材がチームで た 右 肩 上 が り の 経 済 成 長 の な か で、 はじめとする新たな取組みが必要と 生み出すためにはイノベーションを 済環境の激変により、企業が成果を たっては、連載の第3回目で述べた、 である。具体的には、組織のルール ネスコンピテンシー」、「パーソナル など、 「やる気」 により評価すること や慣習に従って業務を遂行している なった。このような新たな取組みの 係が成立しなくなり、従来の評価基 誇っていた。すなわち、当時の日本 このような日本企業の状況下では 準だけでは立ち行かなくなった。し コンピテンシー」、「インテグリティ 前述した評価基準のうち、能力評価 たがって、社員の評価を成果そのも か、指示された業務内容を最後まで ら考慮することができる。また、コ が強調されることになる。 なぜなら、 ので行う必要が生じたことから、前 成功は、社員の能力、情意のみで達 ンピテンシーは自社において明確に 多くの能力を持つことで、共同体の 述の4つの評価基準のうち成果評価 企業は社員同士がある種の運命共同 定義される必要があることに留意す なかで多くの役割を引き受けること が特に重視されることとなった。 コ ン ピ テ ン シ ー」の 考 え 方 に 基 づ く 業所に顔を出し直接上長へ報告をす る。 そのため、他社のコンピテンシー ができ、多様な要求に応じた柔軟な だ が、 成 果 主 義 に は 批 判 も 多 い。 やり遂げようとしているか、といっ ることや、誰もが敬遠する営業領域 を自社にそのまま当てはめることは 配 置 が 可 能 と な る た め で あ る。 ま 代表的な批判としては、成果だけを 成 で き る も の で は な い。 す な わ ち、 に自発的にチャレンジした等により 望ましくない。 た、共同体の輪を乱さないためには 追い求めるために社員を近視眼的な 体であり、個人の職務範囲は必ずし 評価されることが該当する。 ⑷ 成果評価 仕事に対する態度や積極性が重視さ 行動に走らせやすくなり、成果目当 ことで、高いパフォーマンスを生み ⑶ 行動評価 業務を行った結果により評価を行 れることから情意評価の比重も高く ての不適切な行動が生じかねないこ た点により評価される。前述した例 として、単 なる能 力ではな く、実 際 うことである。客観性や比較可能性 なる。 と、あるいは長期的な視野に基づく 能力、情意と成果の間の正比例の関 に示された成果につながるための行動 の観点から評価の対象となる成果に 能力評価や情意評価による評価が 人材育成には不向きであるというこ も明確ではなかった。 により 評 価 を 行 う 点が挙 げ られる。 ついては、なるべく定量化すること 重視されていた前提として、高度経 とが挙げられ、成果評価に偏った評 出すコンピテンシーを幅広い側面か また、 情 意 評 価 との違いとして、 情 が求められる。前述した例では、営 済成長期からバブル経済が崩壊する では、営業部員が直帰せずに必ず営 意評価が評価者の主観により 評価さ 業部員が目標売上高の達成度等によ 価を見直す企業が現れている。 することである。 能 力 評 価 との違い 成果に直結する「行動」により評価 れがちなのに対し、行 動 評 価は成 果 前においては経済環境が予見可能で あ っ た こ と か ら、 個 人 の 持 つ 能 力、 情意と成果の間には正比例の関係が で高い成果を生み出しているものと て き た 評 価 基 準 の 変 遷 が あ っ た が、 こ の よ う に、 日 本 企 業 で 重 視 さ れ 成立していたため、能力を持つこと みなすことが可能であったという点 で、個人、部門、企業のパフォーマ き パ フ ォ ー マ ン ス を 評 価 す る 」こ と 特性を定めたコンピテンシーに基づ くべきだと考える。なぜなら、「行動 社員の評価では行動評価に重点をお バブル経済の崩壊に端を発する経 ⑵ バブル経済崩壊後の日本 企業 (1990年代前半~) が挙げられる。 重視すべき行動評価 り評価されることが該当する。 崩壊する前の日本企業では、安定し 高度経済成長期からバブル経済が ⑴ バブル経済崩壊までの日 本企業 (高 度 経 済 成 長 期 ~ 1990年代初頭) 日本企業における 評価基準 に直 結 する明 確な行 動という 点で客 観性を有していることが挙げられる。 行動評価の基準となる行動特性 (コンピテンシー) は、社員が持って いる能力と、成果のためにそれらを 発揮しようとする意欲の両方によっ て実現される。前述した例では、営 業部員が持つ能力を発揮しつつ新規 の得意先を獲得するための行動等を もって評価することが該当する。 なお、コンピテンシーの定義にあ 48 経理情報●2015.11.20(No.1430) 理 務・経 部門の 財 人材育成 ンスを向上させることが期待できる みで高評価を与えるといった安易な のスキルを持っているという理由の 評価基準の事例 行動評価を軸にしつつ、他の評価 からである。能力、情意のみの評価 ここまで述べてきた日本企業にお 基準を組み合わせている事例とし 方針は避けるべきである。 成 果 主 義 で も 不 十 分 で あ り、 能 力、 ける重視される評価基準の変遷、お では足りず、成果のみを追い求める 情意を成果に結びつける行動そのも コーチング、育成等の人材マネジメ ントを展開している。これに加えて、 達成すべき具体的目標値といった成 果評価を示すKPI (重要業績評価 指標) を設けている。 被評価者と評価者は評価期間の初 およびKPIの両面から達成目標を て、専門サービス業に属する企業の この企業では、社員に求められる 定める。評価期間末における評価は よび財務・経理部門を取り巻く動向 コンピテンシーを全社共通のフレー 2つの側面から行われる。1つは期 めに面談によって、コンピテンシー ムワークにより整理しており、これ 末時点におけるコンピテンシーの充 れる。 だけではなく、被評価者の行動を把 は、評価基準に従って評点をつける シーに導くことである。そのために つその行動から望ましいコンピテン て被評価者の行動にフォーカスしつ た。重要なことは、面談の場におい 評価者との間での面談が行われてい 期中および期末において評価者と被 は、 ほ ぼ 例 外 な く 評 価 期 間 の 期 首、 本連載にあたって実施した調査で * 間におけるパフォーマンスが用いら なり、賞与の決定に際しては評価期 ンシーの充足度が反映されることと ては主として期末におけるコンピテ 進、昇格および基本給の決定に際し お け る パ フ ォ ー マ ン ス で あ る。 昇 足度であり、もう1つは評価期間に をベースに評価するとともに、 採用、 のを評価しようという考え方に基づ 四半期 例を取り上げたい(図表3) 。 決算 早期化 は図表2のとおりにまとめられる。 (図表2) 日本企業における評価基準の変遷 くものである。 さらに、行動評価に加えて、従来 から用いられている他の3つの評価 基準を組み合わせることが望まし く、偏った評価基準のみを採用する ことは、 バランスを欠くことになる。 1人の社員の評価を多くの側面から 行うことで、企業の成長に資する人 KPIの達成目標 事評価が可能となる。 たとえば、能力評価を重視してき た企業において行動評価を取り入れ た場合、本連載の第1回目で紹介し たようなスキルマップを適切に見直 す 必 要 が あ る。 能 力 評 価 が 重 視 さ れる企業におけるスキルマップは 間接的影響 直接的影響 賞与 評価期間における パフォーマンス 成果評価 基本給 期末時点における コンピテンシーの充足度 各担当業務での 評価 処遇 評価結果 評価基準 り が ち で あ る。「 ビ ジ ネ ス コ ン ピ テ 昇進、 昇格 行動評価 各職階における コンピテンシー ン シ ー」や 「パーソナルコンピテン シ ー」の 要 素 を 加 え て、 財 務・ 経 理 部門にとって必要となるコンピテン シーを一覧化し、各々の財務・経理 部員がどのコンピテンシーを有して いるかを把握できるようにする。た だし、財務・経理部門に高い専門性 握し適切なフィードバックを与える ことが必要である。 経理情報●2015.11.20(No.1430) 49 が求められている現状を踏まえれ ば、かつての日本企業のように多く (図表3) 専門サービス業に属する企業の評価基準 IFRS J-SOX 会計 ビックバン 財務・経理部 門を 取り巻く 動向 行動評価等 成果評価 能力評価・情意評価 重視される評 価基準 アベノ ミクス 景気低迷 (失われた20年) バブル 経済 安定 成長期 高度経済 成長期 外部 環境 2020 2000 1980 1960 「 テ ク ニ カ ル コ ン ピ テ ン シ ー」に 偏 を考える 理 務・経 部門の 財 人材育成 を考える (図表4) コラム~人材育成の観点から国際間異動を考える PwCが行った 「モダンモビリティ調査 (2014) 」 によると、89% のグローバル企業が、2017年までに国際間の人材異動 (グローバ ルモビリティ) を増やすことを計画している。 最も多くの企業が増加を計画しているのは 「短期派遣」 であり、こ のなかには高い潜在能力を持つ若い人材を異なる国や文化圏に送 り出す育成型の短期派遣も含まれる。 「海外出張」 や 「転籍」 に続いて 4番目に増加が予想される国際間異動は 「人材交流」 である。 各国で 勤務する人材のなかから、特に潜在能力が高い優秀な人材を相互交 換することにより、個人の能力開発を促進するとともに、グローバ ル企業グループとしての文化を醸成する効果も期待できる。 「能力 開発目的」 や 「地域統括/本社機能」 などその他の国際間異動につい ても4割以上の企業が増加を計画している (図表A) 。これらの多様 な取組みの結果、PwCは、2020年までに国を超えて異動する社員 が50%増加すると予想している。 国際間の人材異動にはさまざまな目的が挙げられる。前述の調 査によると、98%の企業が事業上のニーズに対応するために人材 の国際間異動を行っている一方で、過半数の企業が人材開発やリー ダー育成を目的の1つとして挙げている (図表B) 。 これまで、経営上 のリソース課題 (図表A) 今後増加が予想される国際間異動 を解決する短期・ 58% 戦術的な手段と 短期派遣 して捉えられて 57% 海外出張 いた国際間異動 53% 転籍 49% 人材交流 (図表C) 国際間異動のパターン 能力開発目的 42% 地域統括/本社機能 41% 海外通勤 41% 98% 85% リーダー育成のため 従業員自身の希望にこ たえるため 派遣先での経験を自国 に持ち帰るため グローバルな考えを身 につけさせるため 57% 50% 45% 32% 育成効果 (図表B) 企業が国際間異動を行う目的 60% 所在地にかかわらず、最も重 優秀な人材の育成を目的と 目的 要なポジションに対して、最 した派遣。個人の育成効果 も優秀な人材を充てる。 が投資を上回る場合に行う。 対象業務 戦略的なリーダーロール 対象業務 次世代リーダーロール 対象人材 高い業績と潜在能力 対象人材 高い業績と潜在能力 2年間~ 5年間の期間後の 数カ月~ 2年間の期間後の 期間 期間 帰任が前提となる。 帰任が前提となる。 目的 (出所) PwC 「モダンモビリティ調査(2014)」 事業上のニーズに対応 するため 派遣先のスキルギャッ プを埋めるため 人材管理・能力開発の 一環として 従業員主導型のグローバル異動 知識・スキルトランスファ 人材を募集しているポジショ 特定の拠点における知識や 目的 ンに対して、従業員による主 目的 スキル不足を補うための派 体的な異動をサポートする。 遣。 対象業務 非戦略的 対象業務 専門的業務 対象人材 志願者 対象人材 特殊技能 特定のポジションを埋めるこ 数カ月~ 2年間の期間後の 期間 とを目的としているため、帰 期間 帰任が前提となる。 任が前提ではない。 (出所) PwC 「モダンモビリティ調査(2014)」 田所 健 (たどころ・たけし) PwCあらた監査法人 パートナー 公認会計士 1991年に大手監査法人入所。2006年 ~ 2008年まで日本公認会計士協会内部 統制検討委員会委員を歴任。 プライス ウォーターハウスクーパース㈱への出向 を経て現職。 国内上場および米国上場 企業などの監査業務を担当するとともに、 US SOXおよびJ-SOX導入支援、決算早 期化をはじめとする業務改善の支援、 US GAAPコンバージョン、IFRS導入支 援、管理会計・業績評価等、豊富なプロ ジェクト経験を有する。 戦略的リーダーシップ派遣 グローバル人材育成 45% ローカルプラス は、人材の育成や維持、モチベーション向上などを実現する長期・ 戦略的な取組みへと進化しつつあることが伺える。 このような変革を踏まえて、効果的な国際間異動プログラムを 実現するためには、事業上のニーズに対する効果 (=ビジネスバ リュー) と人材の観点からの効果 (=育成効果) の2つの観点から、 目的に応じた適切なアプローチを選択することが重要になる (図表 C) 。 例として、新事業の立上げなどに伴い、成熟した市場から人材を 派遣する 「知識・スキルトランスファ」 型の派遣については、派遣さ れる人材の育成は副次的な効果であり、目的の主眼はあくまでも現 地の知識・スキル不足に迅速に応えることである。 そのため、対象 となる役割や選抜される人材は、事業上のニーズや現地の人材市場 を中心に検討を進める必要がある。 一方で、優秀かつ高い潜在能力を持つ人材を引き留め、さらなる 成長を促すための投資型の 「グローバル人材育成」 に取り組む場合 は、事業上のニーズに捉われずに、キャリアパスや中長期的な将来 に求められる能力を考慮し、適切な派遣先や期間などを設計するこ とが重要になる。 経済産業省の 「海外事業活動基本調査」 によると、日本企業の海外 法人の数は過去10年間で6割程度増加している。 今後、より国際化 かつ複雑化する経営環境のなかで、事業上のニーズに応えつつ、次 世代を担うグローバル人材を育成するためには、これまで以上に国 際間異動が重要な役割を担うことが予想される。 駒井 祐太 (こまい・ゆうた) プライスウォーターハウスクーパース㈱ マネージャー 2006年にプライスウォーターハウス クーパース㈱に入社。経理機能戦略 立案、 経理業務のシェアードサービス 化、業務改革 (BPR) 等のプロジェク トに従事。2014年よりPwC英国法 人に出向し、 ベンチマーク分析をはじ めとする診断サービスを担当。 現在、 日本における同サービスの担当マ ネージャーを務める。 ビジネスバリュー 伊藤 久明 (いとう・ひさあき) プライスウォーターハウスクーパース㈱ ディレクター 公認会計士 大手監査法人を経て現職。 連結決算シ ステム・グループ経営管理システムの導 入、 決算早期化、 経理業務の改善、 原価 管理制度の構築、会計基準のコンバー ジェンス対応、 IFRS対応、 シェアードサー ビス、 経理・財務部門の戦略策定・人 材育成等のプロジェクトに従事。著書に 『スピード決算マネジメント』 (共著、 生産 性出版) 『 、イチバンやさしいIFRS』 (共 著、 中央経済社) 『 、Q&A国際財務報告 基準 (IFRS) 第2版』 (共著、 税務研究会) 等がある。 豊國 成康 (とよくに・なりやす) プライスウォーターハウスクーパース㈱ パートナー 大手監査法人系コンサルティング会 社を経て現職。20年以上に及ぶコン サルティング業務において、基幹系業 務 (販売・購買・在庫・生産) および 会計業務のビジネスプロセス改革、 シ ステム導入プロジェクトを主に担当す る。 特に、 株式公開対応に関する知見 を有し、 マネジメントコンサルティング、 システム導入コンサルティング両方の 経験がある。 経理情報●2015.11.20(No.1430) 50 理 務・経 部門の 財 CFOと財務・経理部門の 将来の役割と人材像 を考える PwCあらた監査法人 豊國 成康/伊藤 久明/駒井 祐太/田所 健 プライスウォーターハウスクーパース㈱ す る 」⑴と い う 一 流 の 感 覚 が 必 要 な のである。 連載の第7回目では人材育成から 務・ 経 理 部 門 の 人 材 育 成 に 関 す る ここまで、6回の連載を通じて財 察する。 財務・経理部門の将来像について考 のCFOの姿を検証し、あらためて 人材育成には 先読みが必要 我々の理解を共有し、取り組むべき 少し離れて、PwCが予測する未来 道筋を提言してきた。なるべく読者 あるべき姿に向け、その人材育成手 ることが予想される。 PwCは、その CFOの役 割は今 後 大 き く 変 化 す C F O と 財 務・経 理 部門を取り巻く4つ のメガトレンド ⑴ "A good hockey player plays where the puck is. A great hockey player plays where the puck is going to be." by Wayne Gretzky の皆様の感覚に近い内容とするた め、インタビューを実施し、事例を 多く記載した。ご協力をいただいた 企業の皆様には、この場をお借りし てあらためて御礼を申し上げたい。 法を提示してきたが、これらをヒント 変 化の原 因となる内 外の環 境 変 化 を さて、これまで財務・経理部門の に明日から実践したからといって育成 4つのメガトレンドと捉えている。 る目指すべきゴールはムービング 当 然 絶 滅 す る。 人 材 育 成 の 先 に あ 古代恐竜のように進化を止めれば いてCFOや財務・経理部門だけが 急激に変化するビジネス環境にお るのかどうかも考える必要がある。 い未来のCFOの姿とが一致してい 能力を高めていくことになる。不確 界各地の拠点に権限を委譲し、対応 ろう。だが現在の経営環境では、世 社から事業を統括し把握できたであ 今よりも単純だった頃、経営者は本 企業の管理範囲は増大する。世界が 熟 市 場 の 結 び つ き が 強 ま る こ と で、 世界経済が拡大し、成長市場と成 ⑴ グローバル経営環境の複 雑化 の効果がす ぐに現れるわけではない。 また、若手の育成に関しては、現在 求められる財務・経理部長やCFO ターゲットであり、かつてNHL(北 実性が増すなか、これまで以上にス の姿と、その若手がなるかもしれな 米 の プ ロ ア イ ス ホ ッ ケ ー リ ー グ )の ピーディーな意思決定を下す必要が ある ⑵。 ウェイン・グレツキー元選手が言っ た「 パ ッ ク の 行 先 を 予 測 し て プ レ ー 経理情報●2015.12.1(No.1431) 47 〈第7回・完〉 人材育成 一流のアイスホッケープレイヤーは、パックのある場所を目指してプレーするのではなく、パックが向かおう としている先に滑っていく。ゴールを決めるために常に先を読んでいる。 人材育成においても、将来必要となる人材像を描き育成することが求められる。 【連載スケジュール】 第1回 「財務・経理タレントマネジメントサイクル」 の概要(2015年10月1日号(№1425)) 第2回 キャリアパスと明確な役割の定義 (2015年10月10日号(№1426)) 第3回 役割に必要なコンピテンシーの定義 (2015年10月20日号(№1427)) 第4回 コンピテンシーを実現する育成手法①(2015年11月1日号(№1428)) 第5回 コンピテンシーを実現する育成手法②(2015年11月10日号(№1429)) 第6回 育成の達成度合いをみる適切な評価のしかた (2015年11月20日号(№1430)) 第7回 CFOと財務・経理部門の将来の役割と人材像(2015年12月1日号(№1431)) ⑵ ステークホルダーとのコ ミュニケーションの多様化 投資家の8割以上が、3年以内に サステナビリティなどの情報を投資 意思決定に活用することを想定して い る ⑶。 短 期 的 な 財 務 情 報 の 公 開 が 中心であった従来のアプローチが抜 本 的 に 見 直 さ れ、 さ ま ざ ま な 「企業 れている ⑺。 ないため、情報活用の拡大が求めら い る デ ー タ は 全 体 の 0・5 % に 満 た る。一方で、現在分析に用いられて が迷走しないためのナビゲートを行 者としての役割を担いながら、経営 企業価値の創造を提言する改革推進 後はより柔軟かつイノベーティブな の存在価値を認識されていたが、今 はならない存在となることである。 知の目的地へ到達するためになくて FOに求められる新しい役割は、未 時に提供している。経営においてC のようなルートを取ればよいかを瞬 位置情報を駆使し、目的地に向けど えるなら制動装置からナビゲーショ ン シ ス テ ム へ の 進 化 で あ る。 ナ ビ ゲーションシステムは刻一刻と変わ る道路状況やGPSを使った自らの 企 業 に と っ て 社 会 的 責 任 が 増 大、 ⑵ 情報から洞察を生む解説 者 う必要がある。自動車の機能にたと ⑵ PwC "Future of Japan : 成長への処方箋 (2012年) ⑶ PwC "Sustainability goes mainstream: (2014年) Insights into investor views" ⑷ PwC "Finance matters: Finance function (2013年) of the future" ⑸ PwC "PwC Megatrends" (2014年) ⑹ PwC "Talent Mobility 2020" (2012年) ⑺ 前掲注⑸と同じ。 Business 【求められる役割】 【求められる役割】 企業内の財務・非財務データに 経営や事業部門と強固な信頼関 対して、正確な解釈と洞察を加え、 係を築き、アドバイザーとして意思 主要なステークホルダーと対話を 決定を支援 行う 【今後の方向性】 【今後の方向性】 不確実性の高い経営環境におい 企業を代表する調停人として、多 て、より柔軟かつイノベーティブな 様なステークホルダーとより幅広 企業価値の創造を提言する、改革推 い情報を双方向に共有 進者へ 価 値 の 源 泉 」を 双 方 向 に 共 有 す る、 部門にとってビジネスのよきパート (図表1) 進化が求められるCFOと財務・経理部門の役割 より複雑なステークホルダーコミュ ニケーションが企業に求められるこ 今 後 C F O と 財 務・ 経理部門は企業の を Performance 導き出す役割を担う 前記「CFOと財務・経理部門を取 経営者がこれまで以上にスピー 現存するデータの9割は、過去2 ナーとしての役割を獲得する必要が Proactive Reactive とが想定される ⑷。 ⑶ 財務・経理ワークフォー スの変革 り巻く4つのメガトレンド」で示した4 つのメガトレンドに対 応 すべく、CF 年以内に自動 化 さ れ る 可 能 性 が あ る ⑸。 今 後、 自 Oと財 務・経 理 部 門には効 率 化・高 %が 動化により解放されたキャパシティ 度化の両面からさらなる進化を遂げ 現行業務の を、より高付加価値な業務へと移行 ることが求められる (図表1)。 人材のグローバル化はさらに進む見 %増加する見込みで 通しであり、2020年までに人材 の国際交流は ある ⑹。 ディーな意思決定を下すために、C FOは事業の結果としての財務数値 年以内に作成されたものといわれて ある。これまではどちらかといえば を統括する役割から、経営者や事業 おり、企業の意思決定に活用できる 企業においてのブレーキ役としてそ ⑷ 管理すべき情報量の大幅 な増加 ⑴ ビジネスのよきパート ナー す る こ と が 求 め ら れ て く る。 ま た、 20 情報の絶対量が急速に増大してい 【求められる役割】 グループ全体としてプロセスや データに対する高い信頼性を担保 し、効果的な統制とリスク管理を実 現 【今後の方向性】 リスクの回避にとどまらず、発生 した事象に対して、グループ経営を 短期間で立て直す強い耐久性を備 Accounting える 【求められる役割】 日常的な企業活動の記録、帳簿の 管理、レポーティングなどの業務を 遂行 【今後の方向性】 定常的なトランザクション業務 を、End-to-Endで最適化/自動化 された高品質なサービスとして提 供 ⑷Diligent Caretaker (信頼性の高い管理者) ⑶Score keeper (正確かつ迅速な記録係) ⑴Business Partner (ビジネスのよきパートナー) ⑵Commentator (情報から洞察を生む解説者) 47 50 48 経理情報●2015.12.1(No.1431) 理 務・経 部門の 財 人材育成 を考える (図表2) CFOは企業の“Performance”を導き出す役割を担う CFOは、企業の業績を包括的に管理し、科学 的根拠を用いて経営意思決定を支援する 「最 高業績責任者 (CPO) 」 へと進化を遂げる。 企業のパフォーマンスを的確に把握し、効果 的な施策を打つためには、従来の財務指標の 枠を超え、人材や無形資産などのさまざまな 経営資源を管理する必要がある。 Chief Accountant Future Role Chief Financial Officer CHRO etc. CFO Financial Controller 付加価値 複雑化するなかにお * 正確な解釈と洞察 務 デ ー タ に 対 し て、 企業内の財務・非財 い。 そ の た め に は、 伝えなければならな 価値の源泉を的確に ためにCFOは企業 企業価値を判断する ステークホルダーが 重 要 な 役 割 と な る。 ケーションは非常に ルダーとのコミュニ よび人材の再配置に取り組む必要が Oは真剣に日常的な業務の標準化お る。それらを自動化するためにCF かわからない業務が多く存在してい 務の相伝により、特定の担当者にし 用制や徒弟制度のような伝統的な業 る。特に日本企業においては終身雇 後さらに自動化が加速することとな 経理部門の基礎的な業務について今 的な責任を担ってきた。この財務・ ングなどの業務の遂行に関して統括 活動の記録、帳簿の管理、レポーティ CFOはこれまでも日常的な企業 を管理する必要がある (図表2) 。 無形資産などのさまざまな経営資源 従 来の財 務 指 標の枠 を 超 え、人 材や 握し、効果的な施策を打つためには、 ある。 企業のパフォーマンスを的確に把 支援するCPOへと進化を遂げるので 科学的根拠を用いて経営意思決定を FOは、企業の業績を包括的に管理し、 )「 最 高 業 績 責 Performance Officer 任者」 へ進化 すると予測している。 C さらに、PwCは未来のCFOの姿を、 を加え、企業を代表 ある。その取組みが行われなければ ⑶ 正確かつ迅速な記録係 して主要なステーク 財務・経理部門の人材のグローバル いてそのステークホ ホルダーと効果的な 化は達成できないだろう。 日本において 考慮すべきこと 革 を 推 進 し、 企 業の "Performance" を 導 き 出 す 役 割 を 担 うCPO ( Chief 「 間 接 部 門の長 」から、ビジネスの変 対話を行う必要があ る。これは単なる伝 かって発信し、時に 積極的に外部に向 を 支 え る 存 在 か ら、 して陰ながらトップ は昔ながらの番頭と 進化である。CFO 察を生む解説者への 決定に活用できる情報量も年を追う 量が圧倒的に増大する。経営の意思 想される未来においては、その情報 である。ただし、これまでと違い予 現することは当然ながら重要な役割 し、効果的な統制とリスク管理を実 データに対する高い信頼性を担保 CFOにとって業務プロセスや た、プロフェッショナルとしてのC パートナーとして存在している。ま として各々役割を分担したビジネス O、COO、CFOは業務執行機能 役割を果たす状況下において、CE 執行機能は別の存在としてお互いが ことだが、欧米では監督機能と業務 する必要がある。一般的にいわれる 米と日本の現状における違いを認識 C F O に つ い て 考 察 す る と き、 欧 は自ら判断し、決断 ごとに爆発的に増える。それらの情 FOという存在が価値を持ち、必要 ⑷ 信頼性の高い管理者 することが求められ 報およびその情報を生み出すプロセ とされる企業で成果を上げるとまた 達者、報告者から洞 る存在へと変化しな スが高い信頼性に基づいている必要 別の企業のCFOとして活躍すると ければならない。 がある。 経理情報●2015.12.1(No.1431) 49 2020 〜 2000 1980 Chief Performance Officer The evolution of the CFO ※ CHRO:Chief Human Resource Officer (最高人事責任者) 理 務・経 部門の 財 人材育成 を考える パーソンも多く存在している。 あり、CFOを目指す若いビジネス なCFOへの成長を望まれる環境が いう土壌がある。つまり、より優秀 られる。 援などに影響を及ぼす可能性は考え その役割の違いが経営意思決定の支 競 争 す る 現 在 お よ び 将 来 に お い て、 日本企業も欧米企業と同じ土俵で 資戦略、中長期計画の策定など経営 他社調査、各事業への経営資源の投 経営企画部長として市場分析、競合 し、採用や配属、労務問題に携わり、 長として人材育成、評価制度の見直 一方、本 連 載にあたって実 施した調 近い将来、財務・経理部門、経営 陣のアドバイザーとして経営業務を も現実的ではない。そこで、本連載 企画部門を統括するポジションとし しかしながら、日本企業のCFO Oとしての役割を明確に担わせている にあたって実施した調査で得た興味 てのCFOが確立され、将来的には 査では、財 務・経 理だけではな く 経 企業は少なかった。 特に日本の企業に 深い事例を紹介する。その企業では、 人事部門も統括するCPO (最高業 支援している。 おいて経 営 企 画 部 もし くはそれに類 財務部長、人事・総務部長、経営企 績 責 任 者 )が 財 務・ 経 理 人 材 の キ ャ の現状の役割を急速に変更すること する部 門が経 営のナビゲート機 能 を 画部長を数年ごとに経験させてい リアパスの到達点となると予測して 伊藤 久明 (いとう・ひさあき) プライスウォーターハウスクーパース㈱ ディレクター 公認会計士 大手監査法人を経て現職。 連結決算シ ステム・グループ経営管理システムの導 入、 決算早期化、 経理業務の改善、 原価 管理制度の構築、会計基準のコンバー ジェンス対応、 IFRS対応、 シェアードサー ビス、 経理・財務部門の戦略策定・人 材育成等のプロジェクトに従事。著書に 『スピード決算マネジメント』 (共著、 生産 性出版) 『 、イチバンやさしいIFRS』 (共 著、 中央経済社) 『 、Q&A国際財務報告 基準 (IFRS) 第2版』 (共著、 税務研究会) 等がある。 営 管 理 全 般 を 統 括 する欧 米 流のCF 担っていることが多く、財務・経理部 る。財務部長として業績管理や資金 駒井 祐太 (こまい・ゆうた) プライスウォーターハウスクーパース㈱ マネージャー 2006年にプライスウォーターハウス クーパース㈱に入社。経理機能戦略 立案、 経理業務のシェアードサービス 化、業務改革 (BPR) 等のプロジェク トに従事。2014年よりPwC英国法 人に出向し、 ベンチマーク分析をはじ めとする診断サービスを担当。 現在、 日本における同サービスの担当マ ネージャーを務める。 門の責 任 者の所 管は財 務、経 理、税 田所 健 (たどころ・たけし) PwCあらた監査法人 パートナー 公認会計士 1991年に大手監査法人入所。2006年 ~ 2008年まで日本公認会計士協会内部 統制検討委員会委員を歴任。 プライス ウォーターハウスクーパース㈱への出向 を経て現職。 国内上場および米国上場 企業などの監査業務を担当するとともに、 US SOXおよびJ-SOX導入支援、決算早 期化をはじめとする業務改善の支援、 US GAAPコンバージョン、IFRS導入支 援、管理会計・業績評価等、豊富なプロ ジェクト経験を有する。 今回の連載を終える。 (出所) PwC 「Finance matters: Finance function of the future」 より抜粋し一部改編 調達、経理、税務に携わり、人事部 未来エナジー・ファイナンス社は、再生可能エネルギーとエネルギー 金融リスク商品に特化した、 総合エネルギー・金融サービス会社である。 トラブルが起きかけていると聞いたCFOの黒田がオフィスに戻ったの は22時だった。 22時5分 :自分の水素燃料スクーターを駐車し、超薄型6Gタブレッ トからダッシュボードにログインした。 ダッシュボードは、3つの地域 が資本不足に陥りそうになっていることを表示していた。 原因は、エネ ルギーの市場価格の変動に伴い、自社のデリバティブのポートフォリオ の価値が低下したことであると、 自動分析機能が示していた。 22時15 分 :割り当てられた共用デスクに着いたとき、 同僚の田中と ジェイクが、 「デリバティブのポジションを解消するため、また流動性の 引上げを目指して現地の与信枠を活用するために、ロンドンおよび香港 と連絡を取っていた」 と報告してきた。 しかし、ポジションは重要なクラ イアントのために組まれたものであり、仮にポジションを解消した場合 には、 再び投資はしてくれないかもしれない。 代替手段はないだろうか。 22時20分 :田中は、簡単にスキャンされてしまう無線電波から盗み 見られることを避けるため、光パルス方式のデジタル信号による通信に 切り替えた。 照会システムから、トレーディングのポジションとバラン スシートのポジションのビジュアル化された表を抽出した。 私たちのク ライアントは売りを出しており、それによって損失は減少するだろう。 しかしまだ問題は残っている。 マーケットの動向と競合他社の反応に関 する外部データも抽出されたが、他社は市場をしぼませるような価格か らは手を引いていることが表示されていた。 22時50分 :ディシジョンツリーがバーチャルプロジェクターに表 示されていた。 クアラルンプール・ロンドン・香港で同じプロジェクター を見ながら、市場が落ち着きを取り戻し主要クライアントが再び買いを 入れるまでポジションを解消しないでおくために、どうやって緊急の資 金調達を回避するか協議していた。 保有するか売るかのシナリオテスト を行い、資金調達の必要性を検討する。 協議中、シナリオはライブで定量 化されていた。 22時55分 :協働作業エリアで複数のチームと協力して適切なシナ リオを作成し、その次に、解決策の提案を取締役会のディシジョンスク リーンにアップロードして承認を求める。 問題は解決された…わけでは ない。当社の資本状況の悪化に気づいた銀行がコンタクトしてきてい るからである。 担当チームは、明朝すぐに銀行とのQ&Aセッションを行 い、 バランスシートの正常化に向けた当社の方針を伝えると決定した。 23時15分 :私がこの道に入ったあの頃であれば、分析と解決に1週 間かかり、その間に多額の損失を出し、主要クライアントを失ったであ ろう。 思わず笑みが浮かび、 勝負はこれからだと思った。 務に限定されていることが多い。 (図表3) コラム~ケース・スタディ ― 2020年の未来エナジー・ファイナンス社 豊國 成康 (とよくに・なりやす) プライスウォーターハウスクーパース㈱ パートナー 大手監査法人系コンサルティング会 社を経て現職。20年以上に及ぶコン サルティング業務において、基幹系業 務 (販売・購買・在庫・生産) および 会計業務のビジネスプロセス改革、 シ ステム導入プロジェクトを主に担当す る。 特に、 株式公開対応に関する知見 を有し、 マネジメントコンサルティング、 システム導入コンサルティング両方の 経験がある。 経理情報●2015.12.1(No.1431) 50