国際税務研究会 「国際税務」 2013 年 3 月号掲載 「オランダ 2013 年度税制改正を踏まえた支払利息の法人税法上の取り扱いのアップデート」
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国際税務研究会 「国際税務」 2013 年 3 月号掲載 「オランダ 2013 年度税制改正を踏まえた支払利息の法人税法上の取り扱いのアップデート」
国際税務研究会 「国際税務」 2013 年 3 月号掲載 「オランダ 2013 年度税制改正を踏まえた支払利息の法人税法上の取り扱いのアップデート」 PwC オランダ アムステルダム事務所 シニアマネージャー アルノ フルネバウト マネージャー 白土 晴久 1. はじめに オランダは日本企業の海外進出に伴い,欧州統括会社,販売会社,持株会社,金融子会社等の目的で多く活用されて いる国です。その背景として,日本企業が事業を行うための十分なビジネスインフラが整備されていること,物流拠点とし て利便性が高いことなどがあげられます。さらに,他の欧州各国と比較して低い法人税率,源泉税の課税対象が限定さ れている,株式から生じる配当やキャピタルゲインが非課税となる資本参加免税,といった税制がオランダを選択する一 つの要因となっています。 一方,こうした有利な税制を背景に,各国の多国籍企業がオランダ法人において過度な税負担の軽減を行うことを避け るためオランダ財務省は税制上の措置を導入してきました。こうした措置の一つがオランダ法人税における複数の利息 の損金算入制限ルールです。2013 年には,ボーザルルール(Article 13l)の導入と過少資本税制の廃止という重要な改 正が行われる見込みです 1。本稿では,オランダの利息に関する取り扱いに関する説明とともに,日本企業でよく見られ る例や影響を紹介します。なお,本文においては制度趣旨に鑑みた説明を中心とし,参考となる詳細は脚注に記載して います。 【図1】オランダ法人税における利息の損金算入規制の適用状況 損金算入規制 出資の取得等のための借入利息の 損金算入規制(Article 10a) 過少資本税制 (Article 10d) ボーザルルール(Article 13l) 連結納税における借入利息の損金 算入規制(Article 15ad) 2 2012 年まで 適用有 2013 年以降 適用有 適用有 - 適用有 廃止 新規導入 適用有 2. オランダ法人税における利息に関するルールの概要 オランダ法人税における利息の損金算入に関して 3は,複数の規制が並列的に存在しています。それらの制度趣旨をま とめると,利息の発生する借入等により調達した資金が,一般的にみて妥当な水準の資金調達か否か,オランダで法人 1 ボーザルルールは 2012 年 7 月 10 日にオランダ議会の承認を受け,2013 年からの導入が決定しています。一方,過少資本税制 は 2012 年 12 月に廃止案がオランダ議会で承認され,2013 年 1 月 1 日に廃止されました。 2 ここで列挙されている四つの損金算入規制以外に長期貸付を規制対象とした Article 10b,欠損会社への貸付や利益参加型の貸 付等を対象にした支払利息の損金算入の制限があります。本稿では一般に適用が議論される四つの規制に限定しています。 PwC 1 税が課税される所得を生み出す事業活動に使われているか否かを基準に損金算入規制を設けていると考えられます。 株式などの出資の取得のために借入資金を使った場合,株式から生じる配当やキャピタルゲインは資本参加免税により 非課税となります。このケースでは,オランダでの課税所得を生じないことが想定されるため,出資の取得等のための借 入利息の損金算入規制(以下,Article 10a)により,対応する借入利息について損金不算入となります。一方,過少資本 税制では,資本と負債の比率1:3を限度として過度な借入による支払利息の節税効果に一定の歯止めをかけていま す 4。こうした点を背景に以下,各制度概要を紹介します。 【図 2】オランダ法人における利息の損金算入規制の制度趣旨 オランダ法人において過 関係会社等 度な借り入れや課税所得 第三者 を生じない活動への資金 利用の場合、利息の損金 借入 算入を制限 オランダ法人 2(a) 出資の取得等のための借入利息の損金算入規制(Article 10a) Article 10a は,以下の取引のための関係会社等からの借入等を行った場合,その借入等から生じた利息は損金不算 入とするものです。損金不算入となった利息は翌期以降も損金算入はできません。ここで,関係会社等とは,株式等の 出資持分の3分の1を保有する関係を有する法人または個人です。 1)借入を行った法人が行う利益配当,資本の払戻 2)借入を行った法人が行う関係会社への増資 3)借入を行った法人が行う株式等の出資の取得または追加取得,ただし,関係会社に該当する法人の株式等の出資 の取得に限る しかしながら,取引や資金調達に一定の事業上の理由が存在する場合,または,借入等から生じる債権者の受取利息 がオランダの税法に照らして適正に課税される場合,Article 10a の適用はありません。日本企業がオランダ法人を事業 持株会社や持株会社として用いる多くのケースでは,この例外規定の適用によりこの利息の損金算入規制を免れている と考えられます。なお,上記の二つ目の例外規定では,受取利息を受領する法人の欠損金等の状況も踏まえ判断され 3 本稿では移転価格税制に基づく利息の損金算入規制は対象外とし,以下の説明ではグループ内の借入等の金利は第三者価格 であることを前提とします。オランダにおける金融取引に関する移転価格税制の実務は,グループ金融会社が多く存在することから発 達しており,オランダ税務当局においてもグループ内の金融取引を扱う専門官が置かれています。 4 オランダ過少資本税制では,日本の過少資本税制と同様,資本負債比率を1:3と異なる比率を用いることが例外規定として認めら れています。 PwC 2 る点に注意が必要です。たとえば,日本の親会社からオランダ法人に貸付をした際に,日本の親会社に十分な繰越欠 損金があるような場合,適正な課税がされているとは判断されないことになります。 【図 3】Artcile10a が適用される取引状況 親会社 関係会社等 配当 資本の払戻 オランダ法人 借入 増資 関係会社 株式等の取得 2(b) 過少資本税制(Article 10d) オランダの過少資本税制の導入は比較的遅く,2004 年にボーザルケースの判決(後述)を受け導入しました。過少資本 税制は,一般に過度な借入を行い,支払利息を損金算入することによる課税所得の圧縮を避けるために導入されてい ます。日本では,国外関連者からの借入に対する過少資本税制の適用は限定されています。一方,オランダでは,EU における Discrimination Clause により,オランダ国内の法人と国外の法人との間での課税関係の差別をせず,国外の関 連者からの借入か否かに関わらず適用されます。 オランダの過少資本税制は関係会社等 5および第三者からの借入が資本の3倍を超える場合 6,3倍を超える部分の借 入から生じた支払利息が規制の対象となります。損金不算入となった利息は翌期以降も損金算入はできません。過少資 本税制における借入は貸付と借入を相殺した純借入金額となります。しかし,実際の損金不算入額は関係会社等への 純支払利息(受取利息と支払利息を相殺後の金額)が上限となるため,第三者借入は実質的に過少資本税制の規制対 象となりません 7。 5 関係会社等の定義は Article 10a と同様です。 6 資本や借入の金額は税務上の数値を使用します。 7 第三者から借入を行った場合でも関係会社が保証を供与しており,その保証がなければ借入を実施できないような場合,関係会 社からの借入と見なされる点に注意が必要です。 PwC 3 【図 4】過少資本税制が適用される取引状況 純借入金額が資本の 3 倍を超える場合、超 過部分に対応する関係会社等への純支払 関係会社等 利息が損金不算入となる。下記の例では、純 借入 110 は資本の 3 倍である 90 を超過し 借入 オランダ法人 ている。したがって、超過部分の 20 に対応 する支払利息が損金不算入となる。 オランダ法人 BS 関係会社貸付 10 関係会社借入 その他資産 140 資本 150 120 30 150 2(c) ボーザルルール(Article 13l) ボーザルルールは,欧州裁判所の判決(“Bosal Case”ECJ September 18, 2003, C‐168/01)を踏まえ,2013 年から導入 される制度のため,ボーザルルールと呼ばれています。この判決では,当時の税制に対し,オランダ国外の法人が発行 する株式を取得するための借入支払利息も,オランダ国内の法人が発行する株式を取得するための借入支払利息が損 金算入される限り,同様に損金算入されるべきというものです。当時,この判決を受け,オランダ財務省は,オランダ国外 の法人が発行する株式を取得するための借入支払利息の損金算入を認め,同時に過少資本税制を導入しました。しか しながら,オランダ財務省はこの判決の弊害への対応,および財政確保のため,2012 年にボーザルルールの導入を決 め,一方,2013 年1月に過少資本税制を廃止しました。 ボーザルルールは,その判決を踏まえ,借入が株式等の出資 8の取得のために使用していると見なされた場合,その見 なされた借入に関連する支払利息を損金不算入とするものです。損金不算入となった利息は翌期以降も損金算入はで きません。ここで,株式取得の資金調達はまず資本から行われたと考え,資本を超過する株式取得価額に対応する借入 から生じる支払利息が対象となります 9。ボーザルルールで注意すべき点は,関係会社からの借入,第三者からの借入 を区別せずに規制の対象としている点です。その意味で,Article 10aと規制対象取引が類似していますが,規制対象は 広くなっています。一方,グループ全体での事業活動拡大のための株式等の取得に関しては,ボーザルルールの計算 対象から除かれます。この除外規定は,事実関係に依拠する部分が大きく,オランダ財務省により個別の例が示されて いますが,今後の実務によりその取り扱いについて一層の明確化が期待されるところです。 8 ボーザルルールにおける株式等の出資とは,オランダの資本参加免税が適用されるものに限られます。ここでも課税所得を生じな い資金用途を規制する制度趣旨がみられます。 9 規制の対象となる支払利息が 750,000 ユーロ以下の場合,適用はありません。 PwC 4 【図 5】ボーザルルールが適用される取引状況 この例では、株式の取得のために使 関係会社等 用している借り入れは 20(株式 100 借入 オランダ法人 と資本 80 の差額)と見なされ、20 に 対応する支払利息が損金不算入とな る。 その他資産 株式 オランダ法人 BS 20 借入 100 資本 120 40 80 120 2(d) 連結納税における借入利息の損金算入規制(Article 15ad) 連結納税における借入利息の損金算入規制は,2012 年の税制改正で導入されたものです。この制度は,オランダ法人 が借入により調達した資金を用いて株式を取得した後,オランダ法人税で連結納税を選択し,その借入から生じる支払 利息と買収をした会社の課税所得を相殺する一連の取引を規制するものです。この規制でも株式取得という借入の資 金用途とは直接的に関係の無い所得との相殺を制限するという,借入の用途に配慮した制度趣旨となっています。この 制度では,損金不算入となった利息は翌期以降に繰り越すことが可能です。なお,この制度では,関係会社等からの借 入のみならず第三者からの借入も対象となります。さらに,第三者からの株式取得のみならず,グループ会社からの株式 取得も対象となる点に注意が必要です。 【図 6】連結納税における借入利息の損金算入規制が適用される取引状況 連結納税 グループ 貸付者 オランダ法人 借入 株式取得 被取得法人 上記の各支払利息の損金算入規制のポイントをまとめると以下となります。 PwC 5 損金算入規制 借入の範囲 規制対象取引 出資の取得等のための借入 利息の損金算入規制 (Article 10a) 過少資本税制 (Article 10d) 関係会社等借入 一定の資本取引、株式取得 等のため借入 損金不算入となっ た利息の取り扱い 将来への 繰延無 関係会社等借入 資本の 3 倍を超過する 借入 株式取得のために使用した と見なされる借入 連結納税に入る法人の株 式取得のための借入 将来への 繰延無 将来への 繰延無 将来への 繰延有 ボーザルルール(Article 13l) すべての借入 連結納税における借入利息 の損金算入規制(Article 15ad) すべての借入 3. オランダ法人の活用例と利息の損金不算入規制 日本企業におけるオランダ法人の活用例は,(1)欧州本社または販売会社,(2)持株会社,金融会社,(3)特定の資産 保有会社(航空機や船舶)が主な例と思われます。ドイツと比較して持株会社,金融会社が多く設立される理由としては, 配当や利息に対する源泉税の課税がオランダの方が有利であること,比較的低い法人税率等が理由として掲げられま す。一方,英国では,配当課税や法人税率の低減に伴い,近年オランダの税制に近似してきています。しかしながら, 英国には,オランダと異なり,CFC ルール(日本のタックスヘイブン税制に類似の制度)が存在するため,注意が必要で す。 3(a) 欧州本社および販売会社のケース 欧州本社の形でオランダ法人を活用する場合,欧州における販売や生産活動を一定程度統括する機能を有するのが 一般的です。また欧州本社が欧州各国に存在する子会社の株式も保有するケースも多く見られます。ただし,実質的に 各事業は事業部ごとに統括されているため,各事業部により欧州本社による統括の程度に違いがあります。こうした欧州 本社のケースにおける資本調達は,日本の親会社からの出資,借入のほか 10,欧州での借入,社債の発行などが考え られます。こうした多様な資金調達が可能な背景として,欧州本社を置く場合,欧州である程度の事業規模が存在する ため,自身の与信を活用して資金調達を行うことが可能なためです。一方,自身の与信を活用する場合でも,より有利な 借入条件を得るために親会社保証を活用することが一般的です 11。一方,販売会社の場合,株式等は保有せず資金調 達は親会社からの出資または借入等で行っているのが一般的です。 株式取得のような課税所得が生じない事業活動に借入資金を使用した場合,その借入から生じる支払利息の損金算入 を制限するという規制の趣旨を鑑みると,子会社株式を保有しない販売会社の場合,商品の仕入および販売活動の運 転資金が主な資金調達の目的となるため,Article 10a,ボーザルルール,連結納税における借入利息の損金算入規制 が適用されるのはまれです。一方,子会社株式を保有する欧州本社の場合,Article 10a,ボーザルルール,過少資本 税制,連結納税における借入利息の損金算入規制の適用可能性があります。2013 年から導入されるボーザルルール 10 日本の親会社からオランダ法人へ出資または貸付のどちらを行うかというのは,資金還流の容易さ(配当原資となる利益剰余金 が必要かなど),配当,利息への課税関係等を勘案して決定されるのが一般的です。 11 関係会社保証が存在する場合,関係会社借入と見なされる可能性がある点に注意が必要です。 PwC 6 について,グループ全体での事業活動を拡大する場合,株式等の出資の取得は除かれることから,例外規定の適用が 可能か否かが重要なポイントになると考えます。 3(b) 持株会社および金融会社のケース オランダまたは第三国への出資を目的として,オランダに持株会社を置くケースでは,日本へのオランダ源泉税や資本 参加免税を理由の一つとされることが多いと思われます。持株事業を主たる事業とし,配当等の収益が資本参加免税に より非課税となる場合,オランダの持株会社ではオランダ法人税の課税所得はほとんど生じないと考えます。こうした場 合,資金調達は,資金還流などの他の要因が無い限り,支払利息がオランダ法人で生じる借入ではなく,出資で行うこと が一般的です。したがって,多くの持株会社で支払利息の損金算入が問題視されることはないと考えます。しかしながら, オランダ法人の株式を取得する持株会社の場合,連結納税を用いて被取得オランダ法人の課税所得を持株会社の借 入利息と相殺できる可能性があります。この場合,連結納税における借入利息の損金算入規制の適用可能性がありま すので注意が必要です。 オランダにグループ金融会社を置く場合,グループ会社または金融機関から資金を調達し,資金需要のあるグループ 会社に貸付を行うのが一般的です。こうして借入た資金をそのまま他の会社へ貸し付ける場合(いわゆるフロースルー取 引),一定の条件が整っていれば,移転価格税制上,限定的なスプレッドをオランダの金融会社で認識することが可能 です。オランダにおいては,こうしたフロースルー取引の実務が税務当局も含め浸透していること,オランダでは支払利 息や保証料に対して源泉税が課せられないこと,広範な租税条約のネットワークがあることから,こうしたグループ金融会 社が多く見られます。こうしたグループ金融会社においては,子会社株式を保有せず,借入た資金を貸付に用いている 限り,Article 10a,ボーザルルール,連結納税における借入利息の損金算入規制の適用はないと考えます。また,過少 資本税制については 2012 年までは注意する必要がありますが,過少資本税制における借入は,借入と貸付を相殺した 純借入で,資本との比率で判断しますので,資本が極端に小さい金額で無い限り影響は限定的と考えます。 3(c) 特定の資産保有会社(航空機や船舶等)のケース 航空機や船舶 12等の特定の資産を保有する特別目的会社としてオランダ法人が活用されるケースがあります。こうした 事業活動では,投資規模が一定程度あり,プロジェクトまたは資産ごとの採算管理が行われているのが通常です。この ため資金調達も金融機関からのプロジェクトファイナンスの形で行われるのが一般的です。オランダ法人が選ばれる理 由としては,法人税率が 25%と日本のタックスヘイブン税制のトリガー税率(20%) 13を上回り,タックスヘイブン税制の適 用を受けないこと, オランダ国外の恒久的施設を通じて獲得された所得が通常,オランダで非課税となること等の税制の 要因があげられます 14。 特定の資産保有会社の場合,プロジェクトファイナンスで調達した資金は資産取得のために使用され,原則として,資産 から生じる収益(リース料,チャーターフィー等)はオランダで法人税の課税を受けることから,Article 10a,ボーザルルー 12 船舶保有会社で,一定の要件を充足する場合,トン数標準税制の適用を受けることも可能です。 13 日本のタックスヘイブン税制では,外国関係会社の税負担率が 20%以下の場合,特定外国子会社等と扱われ,その所得は,株 主である内国法人の法人税申告で課税所得と見なして申告する必要が生じます。 14 オランダ法人税制はおおまかに言えば,二重課税排除のためいわゆる国外所得免除制度を採用しています。 PwC 7 ル,連結納税における借入利息の損金算入規制の適用はないと考えます。また,過少資本税制については 2012 年ま で注意する必要がありますが,2013 年以降,過少資本税制が廃止された場合,実質的にファイナンスの制約はほとんど 無くなると考えられます。 4. まとめ 以上オランダにおける利息の損金算入規制に関する制度について,Article 10a,過少資本税制,ボーザルルール,連 結納税における借入利息の損金算入規制の概要を説明の上,オランダ法人の活用例における影響を簡単に説明しまし た。2013 年は,過少資本税制の廃止とボーザルルールの導入が予定されています。現在の状況で何か課税上の不具 合が生じないかを確認するとともに,今後,こうした関連税制の変更を考慮して,オランダ法人の活用を検討していく必 要があります。 以上 PwC 8