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カリプ海の褒層海水から採取した故散虫の生体観察 O b s

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カリプ海の褒層海水から採取した故散虫の生体観察 O b s
大阪償化石研究会艶.特別号"
.商事号, p349-363, 1
993.12.
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カリプ海の褒層海水から採取した故散虫の生体観察
松岡篤・
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備軍事:コロンピア大学ラモント・ドハティ地球研究所の
はじめに
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rAnderson
博士には,現生欽散虫の研究について
さまざまなご教示をいただいた.Anderson 惇土の共同研究
生物の形怒は何らかの機能に関連していると一般に考え
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ュ
られている.それでは放散虫の般に付随する孔,窪み,刺,
者であり実質的に飼育実験を手始けてこられた Paul
針などといった個々の形態要素はどのような機能に関係し
nett 氏からは/'(,ルパドス島で 1 ヶ月にbたり放散虫の採取
ているのだろうか.化石だけを扱っていては解答が得られ
方法・観察方法をはじめ各種の生物実験の手法を教えてい
ないので,生きている放散虫の研究を手掻けることになっ
ただいた .D使 Breger さんには電子顕微鏡を使用するに
た.政散虫の生体を観察してまず感じたことは.生きてい
あたり,お世話になった.~<ルパドスのベラーズ研究所のス
る放散虫はきわめて多くの情報をもっているということで
タッフの方々には,滞在中の研究に際し使宜を計っていただ
ある.顕微鏡をのぞくと赤や黄色といった軟体部の鮮やか
いた.以上の方 4 に心よりお礼申し上げる.研究費のー郁と
な色彩がまず目にはいる.放散虫は優雅に仮足をのばして
して文部省科学研究費補助金 (no. 04郎4089) を使用した.
水中を浮かぴ.ときには仮足を急激に引っ込めて餌をとる.
低料の採取および...方法
仮足を拡大して観察すると,無数の共生生物が仮足に沿っ
て移動している.放散虫の殻だけをみていてはとうてい想
放散虫の生体鼠料はパルパドス島西方約 2km のカリプ海
像できない光景が,顕微鏡下でくりひろげられる.
の表層海水 (5m 以浅)より.プランクトンネット(メッシュ
この論文の目的は,生きている放散虫がもっ多くの情報
は 36μm) を引いて採取した.双眼実体顕微鏡のもとで雑多
の一部をカラー写真を添えて示すことにある.生きている
なプランクトンからピベ・y トをもちいて放散虫を分離し,
姿と見比べる意味で,同じ水塊から得られた同種の放散虫
生体観察用の獣料とした.観察した試料の大半は,飼育実
般の電子顕微鏡写真も提示する.本論文ではパルパドス近
験にもちいた個体である.飼育実敏は,水温と光量を調節
海のカリブ海表層水に多産する以下の 7 種を取り扱う:
できるように設計した飼育義置 (Anderson
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を使用し.放散虫 1 個体ずつをガラス管に入れて行った.
Di・的oco 明e
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9
8
9
)
放散忠生体の観察には倒立型の光学顕微鏡をもちいた.し
たがって,生体観察や写真撮最多は放散虫の下方からなされ
ている.電子顕微鏡観察のための放散虫の般は.プランク
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新潟大学教養部地学教室. Departmen北 of
トン試料を硫酸で煮鴻し,有機物や炭厳塩般などを溶解し
た残漬から拾い上げた.
3
4
9
3
5
0
松岡篤
示す.積によって観察にかけた時聞が大き〈異なることか
光学顕微鏡による観禽事項
ら,記事E 内容の詳しさについてはかなりの差がある.以下
個々の穫についての観察結果を記述するのに先だって,
の種の配列は,観察個体数およぴ観察時間の多い順となっ
光学顕微鏡で観察される事項の一般的な説明を以下に述べ
ている .
る.
浪度の組合せをかえて行った飼育実験 (Matsuoka
1.仮足
derson,
放散虫カ惜の外部に放射している鎗維状の軟体部を仮足
Dic,かQCOηne truncatum については,温度・塩分
& An.
1992) をとおして約30例国体の観察を行った.
DicちIOCOηne prof抑ぬと Hymen ÎIJstrum euclidis につい
(開eudopodia) と総称する. 1 個体の放散虫が 2 積類以上
ては,天然環績と同じ温度・塩分漉度で飼育したそれぞれ
の仮足をもつことが多い. Spumellarida 目については.軟
約 4(}/国体について観察した .
体部から多数放射される仮足をアクソボディア (axo・
は.上記 2 種と同じ条件で飼育した 5 個体とプランクトン
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aelegans
について
Did
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podia) ,アクソポディアより太く 1 本だけ鞭状に出される
サンプルから分離した数個体について観察した.
仮足をアクソフラジェルム (axof!age!l um) として区別した.
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Nassellarida 自についてもいくつかの仮I己が区別されたが,
tum ρraetextum. 品iro伊がs scalaris の 3 種については,
特別な名称はもちいず,すべて仮足とよぷ.仮足の役割と
プランクトンサンプルから分離したそれぞれ数個体につい
しては浮遊,浮遊盗事争の調節,捕食,共生生物の保持など
て観察を行った.
が考えられる.生体観察によって仮足の機能が特定できる
1
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場合もあるが,未知の部分の方が多い.
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.1
)
(
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.1
本種は Spumellarida 目, Spongodiscidae 科に属する.
2.共生生物
パルパドス近海の表層海水に生息する放散虫は,かなり
本種の殻成長は 4 つのステージに区分される (Matsuoka,
の種が共生生物をもっている.共生生物は大別すると共生
1
9
9
2
).ステージ l の幼体殻は三角形平板状で均質なスポ
自巨額と共生バクテリアに区分され,両者は大きさが異なる.
ンジ殻からなる.殻の断面は薄い両凸レンズ状の形態をな
共生漬懇のサイズは直径5-8μm 程度である.共生パクテ
す.ステージ 2 の殻では,三角形の頂点から腕がのび始め
リアの粒径は,光学顕徴鏡での計測限界(1. 5μm) より小き
い.放散虫の共生 íii類は微細構造の観察から,
D
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.
るとともに腕のあいだにスポンジ状にパタジウムの成長が
みられる.パタジウムが十分に発達せず,レース状の外観
late, Prasinophyte などいくつかの分類群からなることが
を呈するのがこのステージの殻の特徴である.ステージ 3
明らかにされている(Anderson , 1983). しかし,光学顕微
では腕とパタジウムがともに付加し,スポンジ般の累重が
鏡での観察だけではそれらを区別することはむずかしいの
著しくなる.本報告で図版に示した個体はいずれもこのス
で,ここでは一指して共生議類として取り扱う.共生生物
テージのものである (Pl. 1
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i
g
.1
:
の種類や分布場所は種ごとに特徴があり.近似種の識刷に
テージ 4 の殺はパタジウムの成長が腕の成長を上回り,膨
Pl
.3 , F
i
g
.1
) .ス
1
9
9
2
)
.
れた三角形の外観を呈する.このステージでは,殻の厚み
放散虫の軟体部は,赤や貨などの色彩をもつことが多い.
凸レンズ状を示す.三角形の殻の片側にスポンジのメソシ
有効な場合がある(松岡,
方向の成長が著しいために,殻の断面形態がよ〈膨れた両
3. 般体留の色
1, F
i
g
.1
) .殻
軟体部が色っーいてみえる原因としては,放散虫自身の細胞
ュよりも少し大きな殻孔が認められる (Pl.
質や細胞内器官が色をもっている場合と共生生物や捕食物
孔は三角形の中心からややずれた .2 本の腕のあいだに位
質の色に上る場合とが考えられる.共生生物が実際に観察
置する.この殻孔の有無により,殻には表と裏の区別があ
される場合をのぞいて.光学顕微鏡をとおして観察される
る.
色調が何によるものかを特定することはむずかしい.ここ
般の外部にみらtLる軟体部としては.アクソフラジェル
では光学顕微鏡で観察される色を軟体部の色とよぷ.本論
ムとアクソボディアとがある.アクソフラジエルムは鞭状
文で示す軟体部の色は,パルパドス近海で 5 月末から 8 月
で,通常アクソポディアより長い.前述した殻の片面にみ
初めに採取された放散虫について観察きれたものであり.
られる殻孔は.アクソフラジエルムが通っていた孔である.
別の場所あるいは他の時期に採取される放散虫は, r尚穫で
アクソボディアはスポンジ殻のメッシュのあいだから,放
あっても異なる色調を呈する可能性もある.
射状に外部環境にでる.アクソフラジェルムがのびる向き
とほ反対側の腕周辺のアクソポディアは.他のものより多
観痕結果および考察
少短い傾向があり,殻を一定の姿勢に保つためにアクソボ
今回取り扱った 7 種について,殻の電子顕微鏡写真を
P
l
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e1- 2
に,生体の光学顕微鏡写真を Plate
3- 5
に
ディアの長さを調節しているものと思われる.浮遊姿勢は
乎板状の殻を水平にしていることが多い.アクソボディア
3
5
1
カリプ海の表層海水から採取した放散虫の生体観察
は.餌を捕獲する役富 IJ をもっている.浮遊小物体がアクソ
共生生物としては赤褐色の共生バクテリアがみられる.共
ボディアに触れると急激に収縮し,その小物体を殻に近づ
生バクテリアの数は一般に少なし D. tru棺catum にみられ
ける.複数のアクソポテ'ィアの連携により,小物体は短時
るような共生ノ f クテリアの凝集部は観察されていない.共生
間に殻の表面近くまで引き込まれる.収縮したアクソボデ
パクテリアは,アクソボディア内を放散虫の原形質流動によ
ィアは, ~j(繍時に比較するとゆっくりした速度で再び伸張
り移動する.
し,次の捕獲の機会に備える.このような行動を緑り返し
軟体部は全体に赤昧がかっているが,中央部にはひときわ
て,積極的に運動性のある微小生物を捕獲する.アクソフ
鮮やかな赤色を呈する部分が認められる.また,中心部には
ラジェルムにはアクソボディアにみられるような急激な運
無色の部分がある.鮮やかな赤色部の形態は成長 l こ伴って変
動能力はなし殻の下面から下方に垂れ下がるようにのぴ
化する.未成熟の個体では馬蹄形に近い形状を示し,アクソ
る.
フラジェルムがでる付近で赤色の部分が途切れている.成熟
D
.truncatum
は余生生物として,赤褐色粒状の共生バ
した個体では,相対的に赤色部の面積が広くなり,アクソフ
クテリアをもっ.共生バクテリアは殻表面近くに集まるこ
ラジェルムの付近の途切れが認められなくなる.いずれにし
ともあれば,アクツボディア中に認められることもある.
ても,鮮やかな赤色部はアクソフラジェルムとその対角の院
アクソポディア中の分布様式にもいくつかのケースがあり.
を結ぷ線に対して対称、の分布を示す.長期間飼育した個体で
アクソボディ、ア全体に均等に分布する場合や.一部のアク
はしだいに鑓色し,最終的には無色になってしまう.
ソボディアの先端部に濃築する場合などがある.共生パク
3
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.3; Pl
.3 , F
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.3
4
)
テリアは放散虫の原形質流動により.アクソボディアに沿
ってその基部から先端部へ,またはその逆向きに移動させ
本種は SpumeIl arida
9, Spongodiscidae 科に属する.平
られる.本種には殻の表雨近くに付着する共生藻類は観察
板状で 3 本の腕をもっ.腕の先端から 1 本ないし数本の刺
されていない.しかし.超薄片の透過型電子顕微鏡による
がでる.腕の成長が先行し,それを追いかけるようにパタ
観療では,細胞の中心嚢内に共生藻類がバクテリアととも
に存在することが明らかにされている (Anderson
&M
at.
suoka , 1
9
9
2
)
.
殺の内部は,黄色ないし少し赤みがかった黄色に色づい
ジウムが発達する.成熟した個体では正三角形に近い外形
を示し匂殻表面はスポンジ殻に狙われる.本種には ,
D
.
tmncatum や D. かゆtnda にみられるようなアクソフラジ
ェルムが通っていた殻孔は観察きれていない.
てみえる.これが放自主忠の軟f宇都そのものの色なのか,共
仮忌にはアクソボディアとアクソフラジェルムとがある.
生藻類によるものであるのか,あるいはそれらが複合した
仮足の性質については D. tru担catum や D.pr.ゆtnda と同
結果;であるのかは不明である.パルパドス近海で得られる
様である.三角形般の平板状の部分に孔が訟められないこと
スポンジ殺で 3 本の腕をもっ Spumellarida 目の放散虫の
から,本積のアクソフラジェルムは平板状殻の側面で腕のあ
なかで.軟体部の色が黄色で特徴づけられる種は限られてお
いだにあたる部分から出ていると考えられる.
り,この色が本種を同定する際に有効な指標となる.長期間
共生生物としては赤褐色の共生バクテリアがみられ,その
勤l 宵した個体ではしだいに槌色し,最終的には無色になって
数は一般に多い.共生バクテリアは殻表面やアクソボディア
しまう.
に濃集する.特定のアクソポテ'ィアにのみ共生バクテリアの
2
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凝集部が観察されることもある(松岡,
.
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i
g
.2
)
(
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1
9
9
2
)
.
軟体部は全体に褐色がかつてみえるが, ζ れは共生バク
本種 1 :1: SpùmeIlarida 目,Spongodiscidae 科に属する本
テリアによる.アクソフラジェルムがでる近〈に鮮やかな
種の殻成長は基本的には前述の D. truncatum のそれと同
赤色に色づいた部分が認められる.赤色部は一般にスポッ
様である.ただ,成熟した個体でも , D. tmncatum のように
ト状で,アクソフラジェルムと対角の腕を結ぶ線に対して
三辺が外に膨れた三角形の外形を示すことはない.また,殻
対称に分布する.成熟した個体の方が赤色部の分布が広い
成長の最終段階における厚み方向の成長も顕著ではない .D.
傾向がある.長期間飼育した個体ではしだいに慢色し,最
truncatum と同織に,スポンジのメヅシュよりも少し大きな
終的には無色になってしまう.
殻孔が,三角形の中心からややずれた場所に認められる.こ
4
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.4 , F
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4
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の殺孔はアクソフラジェルムが通っていた干しである.
{反足にはアクソフラジヱルムとアクソポディアとがある.
本種は SpumeIl arida 目, Porodiscidae 科に属する.平板
仮足の性質についても D. truncaおim と同様である.本種の
状のスポンジ殺で 3 本の腕をもっ.本種の殻形成について
アクソフラジェルムら,殻の下面から下方に垂れ下がるよう
は,
にのびる.
体殻である中心部は殻孔をもたないドーム状の般からなる.
Anderson& B
e
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t
t (198ω に述べられている.幼
3
5
2
松岡篤
このドーム状の般に同心円状の殻が付加し,つぎに腕の成
がみられる.幼体では中心の円盤状殻に沿うように (P1. 3 ,
長が始まる.
Fig.5) ,またもう少し成長した倒体では,鼓状殻内で滞ー球
3 つの腕聞の角度のうち
2 つは 120度より
3, F
i
g
.6) 分布する.
大きくほぼ等しい.残りの l つは, 120度未満で通常 90度
放の般散虫細胞を取り囲むように (PI.
より小さい.したがって腕の先端を結ぷ三角形は,正三角
鼓状殻が閉じられると,共生藻類は自由に出入りができな
形ではなく高き方向 iニのぴた二等辺三角形となる.腕の先
くなると考えられるので.放散忠と共生藻類の共生関係は
端には数本の刺がみられる.腕の成長を追いかけるように
放散虫の個体発生のかなり初期に結ぼれるのであろう.
腕のあいだにパタジウムが形成される.般成長の最終段階
放散虫の中心部は赤色を呈する.その周りの軟体調i は淡
では腕の成長は止まり,殻表面のスポンジ殻の付加が進行
い赤色である.赤色の程度は個体により変異がある.
する.この付加はパタジウムの縁では顕著であるが.殺の
6. P
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12 , F
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.4: P.
I5 , F
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.1
2
)
中心部分では少ない.ドーム状の幼体殻は成熟個体でもス
ポンジ燃のあいだから観察される (Pl.
1, F
i
g
.6
)
.
本種は Naぉellarida 目,Theoperidae 科に属する.本緩
仮足にはアクソポディアとアクソフラジェルムとがある.
は cephalis およぴ thorax の 2 室からなる. Cephalis には
仮足の性質は前述の 3 種と共通する.アクソフラジェルム
内部骨針の apical spine の延長である apicalhorn と ver・
は必ず二等辺三角形の底辺に相当する部分からのぴる.殻
t
i
c
a
lspine の延長である小さな剥がみられる .Thorax の上
の平板部分にはアクソフラジェルムが通っていた殻孔は認
部には多数の短い刺がみられる .Thorax の下部からは 3 本
められない.
の底足がのびる.底足は内部骨針の 2 本の Primary
共生生物としては赤褐色の共生バクテリアと黄色球状の
l
a
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l
spine と dorsal spine の延長にあたる.底足のあいだをつな
共生部類がみられる.両者は放散虫に対して共生形式が異
ぐように,thorax の下織から多孔質の薄い膜状の殻が発達
なっている(松岡. 1992 ),すなわち,共生バクテリアは放
するー
散虫の細胞内に内郎共生し,放散血の原形質流動により放
{反足 l 立軟体部全体から放射状にでる.また, apical
horn ,
散虫の軟体部やアクソポディアの中を移動する.一方,共
v
e
r
t
i
c
a
l spine の延長の事IJ ,thorax 上部の小刺,3
生議類は放散虫が表弱するか死ぬと放散忠から離れてしま
といった殻の突起部の先端からは必ず仮足がのびる.
本の底足
うことから,放散虫の細胞の周辺で外部共生しているとみ
共生生物としては,黄色で球状の共生藻類が認められる.
られる.共生藻類の数は放散虫の表面積に比例して,小さ
それらは, thorax 内あるいは底足のあいだの薄膜に凶まれ
い個体では少なし大きい個体では多い (Pl.
4, F
i
g
s
.1
-
るように分布する.
軟体調l には一部に鮮やかな赤色の部分が認められるー赤色
4
)•
軟体部の色は無色に近いが,共生バクテリアが濃集する
の程度は個体により変異がある.
部分は赤褐色にみえる.中心部のドーム状般の部分は放散
7, S
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虫の大きさにかかわらず,まわりより淡色で透明感がある.
(
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本種は S p
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l
arida 目, Coccodiscidae 科の Artis.
種は,いわゆる塔状 Nassellar匂と呼ばれるグループにはい
cinae 亜科に属する.本種の鍛形成については, Anderson
e
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本種は Na鑓ellarida 目, Artostrobiidae 科に属する.本
る .Cepalis , thorax , abdomen とそれに統< p
o
s
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.
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lchamber からなり,殻の dista! end は大きく附
a
l
. (1986) に示されている.中心には円盤状の二重鍛があ
いている.Cephalis には短い apical horn がみられるが,こ
る.この内盤状殻には多数の殻孔が認められるが.中央の
れは内部骨針の apical spine の延長である.また,cephalis
殻孔がやや大きい.円盤状殻の周辺から放射状に 10 数本の
には口状の関口部があり,その中央部には内郡骨針の verti­
劇がでる.劇の先舗は分岐し,そ札ぞれが連結して全体と
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して車給状の外観を呈する (Pl.
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) .ついで.殻
はこれまでの成長方向とは直交する方向に成長し,付加し
た殺は両耳告が閉じて鼓状となる (Pl.
2, F
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.2).
さらに成
長すると殻の両端に帽子状の殺が付き,成熟した個体では
最も外側を麟細なスポンジ状の般が覆う (P l.
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.
3
)
.
仮足にはアクソボディアとアクソフラジェルムとがある.
が関口都の外側に InJ かつてのぴる.
仮足は 3 種類に区別される. 1 つ目は殻全体から放射状
にのぴる多数の仮足で. 3 種の仮足のなかで最も制11 い.
2
つ H は distal end から下方にのびる仮足である.この仮足
は数本あり,互いに平行でまっすぐにのぴる .3 つ凪は t
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.
phalis の関口部からのぴる仮足である.図版に示した例 (P\.
5, F
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.3-4) では,開口部からわずかにのぞいているにす
アクソフラジエルムは 1 本で,段状殻の片側だけにのびる
ぎないが,飼育個体を静穏に保っと殺長の 5 倍以上にのぴ
(
P
.
l3 , F
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.5) ,アクソボディアは軟体部の中心部から放
る禄子が観察されている.
射状にのぴる.
共生生物としては黄色で球状の共生議類
共生生物としては,赤色~赤黄色で球状の共生藻類がみ
カリプ海の表燭海水から採取した欽散虫の生体観察
られる.共生寝類は,塔状の鰻内に入っているが,殻内の
軟体部よりも般の distal end 側に分布することが多い.
共生生物をのぞいた軟体部の色は無色に近い.
B
わりに
Dictyoco砂時e trunca.伽m や h・c加coη咽e pro.ルnd包の殻
にみられるスポンジメッシュより少し大きな殻孔は,アクソ
フラジェルムの出口であることが明らかになった.これは,
生きている放散息を観察することによって殻にあいている
孔のもつ意味がわかった例である.このように放散虫の生体
観察を積み重ねることによって,軟体部と鍛形態との関係を
York, 365pp目
P. , 1985 , Ac
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ひとつひとつ解きあかしていく必要がある.本論文で示した
事例の多くは,対象とした放散虫種の生活環のうち p ごく一
部についての観察結果にしか過ぎない.形蟻形質によっては,
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.Micn似たonlol. , 11 , 203-215.
A. , 1992,亘書官docytoplasmic m
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一一一一一 and Ma細則ta ,
放散虫の一生のごく限られた機会にしか使われないが非常
に定要な機能と関連した形質もあるはずである.飼育実験を
実施することにより,放散虫の生活環全体にわたる生体観察
を行うことはさらに重要であろう.
放散息の生活様式,生殖様式,生化学的特性,遺伝学的特
性s 外部環境に対する生理耐性,共生生物との相互作用など,
その生物学的側商はあまりにも未知な部分が多い.放散虫の
殻形成についての理解を深めるためには,“放散虫の生物
学"についての総合的な研究が望まれる.
文献
Anderson, O
.R. , 1983 , R
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松岡
篤, 1992 ,放散虫と共生生物の観察一平板状の Sp凶nel­
larida 目についてー.化石.“, 20-28.
Matsuoka , A., 1992, S
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