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インドネシアの銀行に 対する意識調査レポート 2012 www.pwc.com/jp
www.pwc.com/jp インドネシアの銀行に 対する意識調査レポート 2012 PwC Indonesia 目次 1 概要 2 エグゼクティブサマリー 6 成長に対する見通し 10 コーポレートガバナン ス、リスク管理およびコ ンプライアンス 16 業務上の問題 お問い合わせ先 2 インドネシアの銀行に対する意識調査レポート2012 概要 第3回目となるインドネシアの銀行に対する意識調査レポート(Indonesian Banking Survey Reportへようこそ。この調査は、インドネシアの銀行が現在 (2012年)どのような戦略を考えているか、成長機会をどのように見出して いるか、そしてどのような課題に直面しているのか、などについてアンケー ト調査を通じて理解を深めることを目的としています。 本調査は今年で3回目となることから2011年、2010年の調査と比較し、 銀行の経営陣の意識がどのように変化してきたかを比較することができま した。 今回の調査では過去の調査と同様、銀行業界にとって主要な関心事である と考えられる次の3点に重点を置いています。 1. 成長に対する見通し 2. リスク管理、コーポレートガバナンスおよび規制 3. 業務上の課題 調査は、記入式の質問書によって行われ、インドネシアの銀行セクターに 勤務する100人以上の経営職階から回答を得られました。本調査では、上位 30の銀行のうち60%以上が含まれています。 この調査を可能にするために、時間と労力をかけていただいた回答者の 方々に深く感謝するとともに、本報告によって、銀行経営陣のプロフェッ ショナルな意見について読者の理解が深まることを期待しています。また、 今後の調査の改善とより有益な情報を提供できるように皆さまからのフィー ドバックをお願いいたします。 本冊子は、PwC Indonesiaが2012年2月に発刊した『Indonesian Banking Survey Report 2012』をPwC Japanで翻訳したものです。翻訳には正確を期しておりますが、 英語版と解釈の相違がある場合は、英語版に依拠してください。 英語版はこちらからダウンロードできます。 http://www.pwc.com/id/en/publications/assets/Banking_Survey_Report-2012.pdf インドネシアの銀行に対する意識調査レポート2012 1 エグゼクティブサマリー 95%が、前年調査と同様、貸出およ 回答者の 成長に 対する見通し び預金の双方において2桁の成長を見込んでいる。 92%が、M&Aによらない本業の成 回答者の 長が望ましい成長戦略であると考えている。 40%が、2012年中に25店舗以上の 回答者の 支店の開設を計画している。 貸付についてはSME(中小企業)セクター向けの伸びが期待されている一方 (回答者の35%)、資金調達については普通預金が最も好まれ る調達方法とされている (43%) 。 72%が、2012年には利鞘が縮小すると予想する一方、 19%が変化はないと考えている。 回答者の 「規制強化」が、銀行セクターが今後成長していく上での 最大の 障 害であると考えられ、「人材不足」が第2位、「競争激化」が第3位と続いて いる。 回答者の 85%が、欧州債務危機の現状と脆弱な世界経済の状態に懸念 を表している。 2 インドネシアの銀行に対する意識調査レポート2012 エグゼクティブサマリー リスク管理、 コーポレート ガバナンス および規制 39%が、2012年には不正行為のリスクは減少するであろうと 回答者の 予測している。従業員と顧客の癒着、ならびに身分詐称が、インドネシア銀 行セクターにおける懸念すべき主要な不正行為と考えられている。 最大のリスク要因であると考えられている。 信用リスクが引き続き 75%が、インドネシア銀行業界における規制の現状(規制の 回答者の 量、明瞭さ、規制の質などの点について)に対して「中立的(可もなく不可 もなく)」と回答している。規制が業務上有効と考えているのは、 に過ぎない。 11% 米国の「外国口座税務コンプライアンス法(FATCA)」がインドネシアの銀 行にも影響を与える見込みである。FATCAは、米国人が保有する海外金融資 産とオフショア勘定に関する税務コンプライアンスの改善を図るため、米国 がインドネシアの銀行にも協力を要求するものである。したがって、回答者 の 55% がFATCAを知らないという事実は意外な結果である。 内部監査部門が、基本的なコンプライアンスのチェックの範囲を超えて経営 陣に「重要な見識を示してくれる」と答えたのは、回答者の どまった。 38%にと インドネシア中央銀行が検査を行う際に、より重視してもらいたいと考える 上位3分野は、「リスク管理/企業統治」、「IT」、「規制遵守」 であった。 インドネシアの銀行に対する意識調査レポート2012 3 エグゼクティブサマリー 82% が、2012年に関して、コスト削減をすすめる上で困難 回答者の 業務上の課題 に直面するとは考えていない。 回答者の 55% が、インドネシアの膨大で未開拓の顧客基盤を掘り起こ す上で、支店ネットワークの拡大が主たる戦略であるとしている。 91% が、2012年に従業員数を増加させる予定である。しかし 一方で 69% が、業務への適正があり、経験のある従業員が不足して 回答者の いるとしている。 回答者の 30% が、融資部門の職員が最も不足しているとしているが、 IT部門、トレジャリー部門もにおいても職員 の不足が指摘されている。 回答者の 69%が、地域経済や建設業者などとかかわる中でサステナ ビリティ、および気候変動の影響を踏まえた対応を行っているが、気候変動 リスクが貸出ポートフォリオの分散戦略に大きな影響を与えるとした回答者 9%にとどまっている。 は、わずか 4 インドネシアの銀行に対する意識調査レポート2012 調査対象者のプロフィール 銀行種類別 8% 国有銀行 総資産(単位:10億ルピア) 23% ジョイント ベンチャー 17% >100,000 29% <5,000 8% 50,001100,000 46% 地域銀行 23% 外国銀行 20% 20,00150,000 26% 5,00120,000 インドネシアの銀行に対する意識調査レポート2012 5 成長に対する見通し 引き続き高い成長率が見込まれる インドネシアの銀行は、大半の資産が国内にあることから、インドネ シア経済を成長させる上での原動力と認識されている。インドネシアの 経済成長は、銀行セクターが資金需要をどれだけ満たすことができるか ということに依存している。したがって、昨年の調査に引き続き回答者 の95%が貸出と預金の双方について2桁台の成長を見込んでいることは大 変心強いことである。 EU諸国において経済が停滞する一方、インドネシアが投資適格格付け を獲得したこと1 によって、世界の投資家や多国籍企業が、インドネシア におけるビジネス拡大に関心を強めている。 1 6 インドネシアの銀行に対する意識調査レポート2012 2012年末におけるフィッチ及びムーディーズのレーティング 成長に対する見通し インドネシア経済は、BRICs諸 国とともに、世界のほかの国々を 上回る成長を続けている。インド ネシアは世界第4位の人口を抱え ている一方、何らかの継続的な金 融サービス取引を行っているのは 成人人口の20%に過ぎないと推定 されている。したがって、インド ネシアの銀行が2012年およびそ れ以降について貸出と資金調達の 拡大を続けるうえで、計り知れな い成長機会が提供されている。 また、国内消費が経済全体の 60%を占めており、グローバルな 経済ショックの影響を和らげる 効果があることも忘れてはなら ない。 インドネシア中央銀行(“BI”) は、貸出金利の引き下げる以外の 手段を通じて貸出残高の拡大に積 極的な役割を果たしている。その ひとつの例として、銀行に対し て預貸率を78%から100%の範囲 に維持することを求め、この範囲 から上下に逸脱した場合には、 最低支払準備率の追加負担が求 められる預貸率規制(LDR-based reserve)の導入(2011年3月) が挙げられる。 中小企業(SME)セクターが 貸出の伸びに寄与 2011年の調査結果と同様、回 答者の35%が、2012年において 中小企業(“SME”)セクター向け の貸出が最も高い伸びを示すと 見込んでいる。そのほかのセク ターについては、一般企業向け 融資(26%)、消費者向け融資 (19%)、マイクロクレジット融 資(18%)となっている。 2012年の貸出において、最 も高い成長を示すと見込まれ るセクターはどちらですか。 2% 該当なし 19% 消費者金融 18% マイクロ クレジット 融資 このような著しい業容の拡大に 対応するため、資金調達に関して は普通預金が主要な調達手段で あると考えられている。回答者 の43%が普通預金が主要な調達手 段であるとしており、定期預金 (29%)と当座預金(26%)がそ れに続いている。 2012年の顧客預金を拡大す る上で、あなたの銀行が注力 する預金商品どれですか。 2% 該当なし 26% 企業向け 融資 26% 当座預金 29% 定期預金 43% 普通預金 35% 中小企業 中小企業セクターをターゲット にすることは目新しいことではな い。このセクターは、インドネ シア経済の基幹であり、銀行に とっても高い収益率をもたらすセ クターである。また、中小企業セ クターは、雇用全体のおよそ89% を占めている。中小企業の振興を 軌道にのせることで、雇用を吸収 しながらインドネシア経済の持続 的な成長につなげていくことがで きる。 インドネシアの銀行に対する意識調査レポート2012 7 成長に対する見通し 利ざやは縮小する見込み インドネシアにおける銀行の利 ざや(“Net Interest Margin”)は 東南アジア地域では最も高い部類 に入り、中国およびインドを含む ほかの新興国の水準(平均利ざや はおよそ2%~2.5%)を遥かに上 回っている。しかしながら回答者 の72%が2012年の利ざやは縮小 するだろうと予測し、同程度で推 移するとの回答は19%であった。 利ざやの縮小はさまざまな理由 によるものと考えられるが、PwC では以下の要因が主たる理由であ ると考えている。 • 2011年3月、インドネシア中 央銀行が10兆ルピア以上の資 産を持つ銀行に対し、プライ ムレートを公表することを義 務付けたことが、銀行間の競 争を促したこと。 • イ ン ド ネ シ ア が カ ン ト リ ー レーティングで投資適格格付 けを取得したことで、企業が 銀行以外から資金を調達でき る可能性が出てくること。 • イ ン ド ネ シ ア 中 央 銀 行 の 政 策金利が5.75%に引き下げら れ、市場が経済成長を維持す るために、さらなる引き下げ を期待していること。 さらにインドネシア商工会議所 は先頃、経済成長を推進するため に、商業銀行の貸出金利を10%以 下に引き下げさせるよう政府に対 して後押しを要請している。 2012年の利ざやの見通しにつ いてどのようにお考えですか。 19% 変わらない 8% 拡大する 72% 縮小する 本業の成長に注力 また、前回調査同様、最優先の 戦略事項として「支店ネットワー クの拡大」が挙げられている。 回答者の40%が2012年に支店 を25店舗以上開設するとしてお り、このうち11%が100店舗以上 開設するとしている。一方、現状 の店舗数を維持するとした銀行は 19%にとどまった。 2012年にいくつ支店を開設 しようとお考えですか。 18% 該当なし 11% >100 9% 50-100 19% しない インドネシアの銀行に対する意識調査レポート2012 今後1年~2年以内に増資を行う 予定があるかについては2010年 および2011年の調査とほぼ同じ 回答となっている。 すなわち、回答者の半数(51%) が、短期的には増資を行う予定は なく、17%が「様子見をする」と している。 成長への障害 過去に行われたPwCのインドネ シア銀行調査と同様、大多数の回 答者(92%)がM&Aなどによらな い自律的な成長が望ましい成長戦 略であると回答している。 23% <25 8 1% 該当なし 成長に伴う資金調達手段につ いては前年と同じ回答内容 20% 25-50 ほとんどの回答者が、2012年 に2桁の貸出の伸びを見込む一方 で、成長に対する障害については 意見が分かれている。 2010年の調査では、「競争激 化」が事業を拡大する上での最 大の障害となっていた。2011年 の調査では、「競争激化」は障 害の上位3位に入らなかったもの の、2012年調査では再び第3位 にランクを上げている。2012年 の調査で第1位に挙げられたのは 「規制強化」で、「人材不足」が 第2位となった。 回答者の一部は、規制が過剰で 銀行システムや経済全体に潜在的 なリスクがあると考えている。こ のリスクには、コストの増加、経 営上の追加の負担、収益面での制 約、貸出余力の低下などが含まれ ている。また、こうしたリスクは 規制が「善意」に基づいていると の前提にたった上での意見であ る。銀行に対する規制が有効であ るとの回答は全体の11%にとどま っている。 成長に対する見通し 特に、規制強化の動きの中で特 に重要と認識されているものは、 (i)単一の保有者に対する出資比 率制限の可能性、(ii)バーゼル III、(iii)預貸率の水準である。 政治の介入は2011年において は成長の障害としてトップ3に 入っていたが、2012年について は銀行業界としては重視していな いようである。PwCがグローバル ベースで行った別の銀行業界に対 する調査においても政治の介入 による障害が2011年の1位から 2012年の5位に低下するなど、 今回の調査と同じ結果を示して いる。 欧州債務危機と脆弱な世界経 済が、今後のインドネシアの 銀行の成長に悪影響を及ぼす 可能性がある 2012年以降については総じて 強気の姿勢がみられるものの、回 答者の85%が、欧州債務危機と脆 弱な世界経済の状況について懸 念を表している。世界の金融市 場は密接に関連しており、欧州地 域の危機であっても直ちに世界の 銀行システムに危機が伝播するこ とで、インドネシアを含むさまざ まな国に影響を与える。また、中 国の経済成長は欧米諸国の景気の 低迷と財政赤字問題の影響による マイナス要因を埋め合わせる重要 な役割を果たしているが、もし中 国の景気が落ち込み始めたら世界 経済に与える影響は大きいであ ろう。 ドルの流動性が枯渇する中で欧 米銀行がバランスシートの立て直 しを図っていることや欧州中央銀 行が各銀行に対して自己資本比率 の引き上げを求めていることなど が、欧米銀行によるアジアの新興 国に対する融資の抑制につながる 可能性もある。 欧州において個々の銀行やソブ リンのさらなる格下げリスクが存 在することも銀行の脆弱性を高め ており、この傾向に拍車をかけて いる。結果として、アジア地域に おけるドルの流動性に制約が生じ て、同地域における米ドルの調達 コストの上昇ににつながる懸念が ある。インドネシア中央銀行は、 ルピア建ての貸出を促すことで ギャップを埋めようと試みている が、十分とはいえない。 インドネシアの銀行に対する意識調査レポート2012 9 コーポレートガバナンス、 リスク管理およびコンプラ イアンス リスク管理は日常業務の中に十分組み込まれている 今日の銀行は、以前にも増してより多くの規制、より幅広いステーク ホルダーからの期待、公衆からの視線に晒されている。グローバルな成 長機会を追求することは、同時にグローバルベースでのコーポレート ガバナンスを果たしていくことを意味する。資本市場、消費者、圧力団 体、従業員、政府など、数多くの関係者が銀行という組織が正しく戦略 をたて、それに基づいた業務を行っていくことを監視することになる。 結果として、コーポレートガバナンス、リスク管理、コンプライアン ス(“GRC”)は、取締役会のアジェンダの中で優先順位の高い項目として 位置づけられることになるであろう。GRCに対する戦略的かつ総合的ア プローチを取ることによって、銀行は市場の中での競争優位を確立し、 付加価値を高めることができる。 10 インドネシアの銀行に対する意識調査レポート2012 コーポレートガバナンス、 リスク管理およびコンプライアンス 前回調査では、GRCに関する 活動が日常業務の中に十分組 み込まれているとの結果が見 られたが、今回においても同 様の傾向が確認された。GRC に関する活動が日常業務に十 分組み込まれているとした回 答者の比率は2010年が55%、 2011年が64%、2012年では71% と増加傾向にある。 銀行における監査委員会 銀行における監査委員会は、財 務報告、法令遵守、リスク管理に 対する監視という、非常に重要 な任務を任されている。今回の調 査で銀行の監査委員会が「十分有 効である」とした回答者の割合 は62%にとどまっているが、昨年 の43%からは著しい改善がみられ た。一方で、回答者の34%は「多 少有効である」と回答しており、 監査委員会の機能がまだ不十分で 今後より一層の役割を果たしてい くべきと考えている。 あなたの銀行の監査委員会は どの程度有効に機能している とお考えですか。 4% あまり有効 ではない 34% 多少有効 である 62% 十分有効 である 不正リスクは減少傾向 取締役会、監査委員会、内部監 査部門、経営陣、従業員のいずれ もが、不正防止とその発見に関し て重要な役割を負っている。全て の当事者が不正リスクに関して十 分に理解し、それぞれに求められ る役割を理解し、実際に行動を起 こすことで、不正リスクを許容で きるレベルまで低減させる必要が ある。 今回の調査によれば、不正リス クはある程度制御されており、回 答者の39%が2012年にはさらに 低下するであろうと予測している (低下すると考える回答者の比 率は2010年の22%、2011年の 27%から上昇している)。一方 で、回答者の48%が不正リスクの 状況に変化はないと予測している (2011年は51%)。 「従業員と顧客の癒着」と「身 分詐称(文書や決算報告書の改ざ んを含む)」は、引き続きインド ネシアの銀行セクターにおいて最 も懸念されている不正リスクで ある。 あなたの銀行が現在最も懸念 する不正リスクを二つ挙げて 下さい。 9% 収賄・汚職 18% 資金移動 の不正 15% eバンキング (クレジットカード、 デビットカー、EDC、 プリペイドカード など) 1% その他 19% 身分詐称 29% 従業員と 顧客の癒着 9% インターネットバンキングと ATMの不正 銀行の不正リスク管理において 「正しいと感じられない」場合に チェックを行うことは重要な行動 規範である。不正や汚職を防ぐ確 実な方法はないが、防止に向けて 能動的でシステマチックな対応を とることによって、不正リスクを 最小限に抑えることは可能であ る。体系だった不正リスクに対す るアセスメントを定期的に行うこ とは、不正リスクを管理するため の最初のステップである。 不正リスクのアセスメントを 行っているとした回答者の比率 は、2010年の57%、2011年の 69%に対して2012年調査では78% に上昇しており、過去2年間、不 正リスクに対するアセスメントを 行う銀行の数が増加していること は大変評価できる。 インドネシアの銀行に対する意識調査レポート2012 11 コーポレートガバナンス、 リスク管理およびコンプライアンス 信用リスクは引き続きイン ドネシアの銀行にとって主 要なリスクである 2012年において、あなたの銀行 が最も深刻な影響を受けると考 えられるリスクを二つ挙げてくだ さい。 13% 市場リスク 1% 法務リスク 27% 信用リスク 17% 規制リスク 24% 流動性リスク 18% オペレーショ ナルリスク 過去2回の調査結果と同、2012 年調査においても信用リスクが 最大のリスクと認識されてい る。2012年に貸出残高が2桁以 上拡大する見込みであること、ま たその中でも信用調査を行う上で 情報の質に問題がある中小企業向 けの融資に注力していることを勘 案すると、銀行が現在の水準に不 良債権比率を抑えておくことは困 難になろう。インドネシアの中 では中堅レベルの銀行において 信用リスクが最も高まりそうで ある。 流動性リスクは、リスクの中で は第3位にランクされている。こ こでも中堅レベルの銀行は最も脆 弱であると考えられる。その理由 として、資金調達があまり多様化 されていいないこと、資金コスト が高いこと、そして流動性資産を 多く保有していないことなどが挙 げられる。 ソブリンにおける流動性の問題 は今のところはユーロ圏にとど まっているが、その影響が広範囲 になることも考えられる。このよ うなリスクが伝播することになれ ば脅威となり得る。 堅牢な信用リスク評価とその後 の定期的な見直しが、適切な信用 リスク管理を達成する上での鍵と なろう。 12 インドネシアの銀行に対する意識調査レポート2012 規制は業務推進に対して中立 的と見なされている模様 回答者の75%が、インドネシア 銀行業界における規制の現状(規 制の量、明瞭さ、規制の質など の点について)に対して「中立的 (可もなく不可もなく)」と回答 している。別の質問では規制の強 化が銀行セクターの成長にとって 最大の障害であると回答していた ことを踏まえるとやや矛盾する結 果となった。規制が業務拡大に対 して役に立っている(支援的)と 考えているのは11%に過ぎない。 銀 行 業 界に関する規 制(たとえ ば、規制の量、明瞭さ、規制の質) についてどのように考えておられ ますか。 14% 業務に対して 非支援的 11% 業務に対して 支援的 75% 業務に対して 中立的 コーポレートガバナンス、 リスク管理およびコンプライアンス 銀行の単独所有に対する制限 の可能性が銀行を最も悩ませ ている 回答者の3分の1が、インドネシ アの銀行について単独所有に制限 を加える規制導入の可能性が、銀 行セクターに最も悪影響を及ぼす ものと考えている。 本冊子の執筆時点では、インド ネシア中央銀行が本件について公 式のアップデートをしておらず、 銀行業界を不安にさせている。 あなたの銀行のビジネスに最大 の影響を及ぼすと思われる新し い規制はどれですか。 0% アメリカ合衆国に よるFATCA 11% ITデータ センター 14% 預貸率規制 6% 最低支払準備率 7% その他 33% 単独所有に 対する制限 29% バーゼルⅢ FATCA規制の影響 米国の「外国口座税務コンプラ イアンス法(Foreign Account Tax Compliance Act:FATCA)」は、 米国が、外国(すなわち「米国以 外」)で保有される金融資産とオ フショア勘定に関する税務コンプ ライアンスを強化するために取り 組んでいる重要な動きである。 米国は、米国民や米国居住者 による課税回避を取り締まるため に、米国以外の銀行や金融機関に 対して一定の情報提供義務と源泉 徴収義務を課そうとしている。 米国の「外国口座税務コンプラ イアンス法(FATCA)」は2010 年3月に成立している。この法律 は、事実上全ての金融機関と関係 する企業に対して(アジア地域 を含む)、顧客が米国の国民であ ることを識別するための手続き を制定することに同意し、そし て内国歳入庁(Internal Revenue Service:IRS)に顧客の属性や口 座に関する特定の情報を開示する ことを求めている。もし金融機関 がこれらの要求に従わない場合、 顧客に属するものであるかどうか にかかわらず、金融機関が受け取 る米国を源泉とする一定の所得や 支払いに対して30%の源泉徴収が 課せられることになるというもの である。これは銀行の機密保持と 顧客プライバシーの完全なる否定 意味する。 2012年2月8日、IRSは注目され ていたFATCA規制案を公表し、同 時に米国、フランス、イギリス、 米国が制定したFATCA(外国口 座税務コンプライアンス法)は ビジネスや報告義務に影響を及 ぼす可能性がありますが、この 法律のことをご存知ですか。 3% 知らない、関心がない 42% 知っている 55% 知らないが 関心がある ドイツ、スペイン、イタリアの政 府が共同声明を発表し、FATCAに 関し政府間で協力して相互援助す ることを強調した。FATCAは2012 年12月31日以降に適用が開始さ れ、報告と源泉徴収の義務は2014 年から2017年まで段階的に導入さ れる予定である。 FATCAはビジネスに対するコス トでしかないが、この法律に反す ることで潜在的に大きな打撃を蒙 ることを考えると、アジアのほと んどの金融機関が法律を遵守せざ るを得ず、そのためには今から対 応の計画を立てる必要がある。 この法律は、国内銀行のみなら ず、外国銀行の子会社や支店にも 影響する。 しかしながら、本調査では、意 外なことに回答した銀行の55%が FATCAのことを知らなかった。 インドネシアの銀行に対する意識調査レポート2012 13 コーポレートガバナンス、 リスク管理およびコンプライアンス 内部監査部門から十分な見識 の提供を受けているか。 あなたの銀行の内部監査部門 は、規定や法律に対する遵守が できていることの確認以上に業 務の本質を洞察した見識を提供 していますか。 8% わずかな程度 1% 該当なし 38% かなりの程度 もちろん内部監査は、コンプラ イアンスのチェックが第一でなけ ればならない。しかし経営者は、 内部監査機能が提供する価値のあ る情報を経営の改善に最大限活用 することも必要である。 調査結果においては、経営陣は 内部監査機能がもたらすことので きる業務に対する見識と付加価値 をまだ十分に認識していないこと が確認できた。ただ、逆に言え ば、内部監査機能は業務に対する 見識や付加価値を提供する上で、 十分な教育を受けていないのかも 知れない。 53% ある程度 内部監査部門が規定や法律に対 する遵守ができているという基本 的なコンプライアンスの確認以上 に「業務の本質を洞察した価値の ある見識をかなりの程度提供して くれる」と答えたのは、回答者 の38%にとどまった(2011年は 25%、2010年は32%)。過去の 調査との比較で増加していること は、喜ばしいことだが、この部門 に費やす時間と経費を考えると満 足度はまだ低い水準にとどまって いる。 14 インドネシアの銀行に対する意識調査レポート2012 インドネシア中央銀行には、 リスク管理とコーポレートガ バナンスにさらに重点を置く ことを求めている。 銀行を検査する際にインドネシ ア中央銀行は2012年においてどの 分野に注力すべきかとの質問に対 しては「リスク管理/コーポレート ガバナンス」、「IT」、「規制遵 守」が回答の上位を占めた。 コーポレートガバナンス、 リスク管理およびコンプライアンス バーゼル III 前回の調査でも取り上げたよう に、バーゼルⅢは、銀行業界にと って何十年に一度の大きな規制の 変更であるが、このほかにも対 応が必要な規制の変更は数多く ある。 2010年11月、G20はバーゼ ル委員会の提案を承認した。こ れによってG20は世界の銀行業 界に対して著しい経営環境の変 化と2020年以降まで続く長い 移行期間をコミットさせたこと になる。新しい規制では自己資 本比率に対するより厳しい定 義、新しい資本バッファー規 制、カウンターパーティーに対 する信用リスク管理の強化、流 動性基準の強化、そして新しい レバレッジ比率などが含まれて いる。 インドネシアは、グローバルな 銀行コミュニティーの一員とし て、これらの改革を導入すること をコミットしており、具体化した ものから取り組んでいる。これら の改革は、「ゲームのルールを変 える」ものであり、あらたなビジ ネスモデルの構築、新たな価格の 決定方法の開発、そして新しいコ ンプライアンスの枠組みの策定を 促すものである。 バーゼルⅢを遵守しなくてよい という選択肢はなく、新規制に対 応するための作業量は膨大となろ う。バーゼルⅢによって銀行の株 主資本利益率は低下し、規制対応 の費用はかなりの額になろう。 インドネシアの銀行に対する意識調査レポート2012 15 業務上の課題 2011年の利益が目標に達しないとの回答はわずか3%。目標を 20%以上上回るとの回答は16% インドネシア経済の力強い成長、インドネシアが「投資適格格付 け」を取得したこと、国内消費の好調、上昇を続ける一次産品価格な どが、2011年におけるインドネシアの銀行の好調な業績を支えてい る。2011年の利益が当初の計画の目標に達しないとの回答はわずか3% であった。 また、インドネシアの銀行セクターは、堅調な株主資本を維持してい る。財務の健全性の指標である商業銀行の平均自己資本比率は、2011年 末には17.15%となっている。 16 インドネシアの銀行に対する意識調査レポート2012 業務上の課題 あなたの銀行の利益は2011年 の当初計画と比較するとどの ような着地見込みになりま すか。 2% 予算収益より10%以上下回る 3% 予算収益 より10% 以内で下 回る 41% 予算通り 3% 該当なし 16% 利益予算を 20%を超えて 上回る 35% 収益予算を10% ~20%上回る インドネシアの銀行は、比較的 レバレッジが低く、今後資本を活 用することが可能である。他国の 国内銀行や国際基準行のレバレッ ジが15回~25回に達しているの に対して、インドネシアの銀行の レバレッジ比率は7.6倍と比較的 低水準である。このことは、イン ドネシアの銀行セクターは、経済 成長を資金供給面からサポート することができることを意味して いる。 銀行は業務の効率化を図るこ とについて楽観的 インドネシア中央銀行は、銀行 セクターの業務が効率的でない ことの理由のひとつとして、企業 の借入コストの高さを指摘してお り、銀行に対して効率性を高める ことを要求している。これに対し て回答者の82%がコスト削減を行 うことは困難ではないと回答して おり、インドネシア中央銀行に とっては望ましい結果となって いる。 銀行が業務の効率性を高めるこ とで、金利引き下げによる乗数効 果がより明確になり、インドネシ ア経済の成長を後押しすることが 期待される。 回答者の55%以上は「支店ネッ トワークの拡大」が主要な戦略目 標であるとしており、2011年の 調査と同様の結果となった。 インドネシアの銀行が拡大を続 ける主な理由として、まだ顧客開 拓ができていない地域が相当ある ことが挙げられる。特にインドネ シアの中でも人口密度の低い地 域をカバーできるようにネット ワークを拡大する傾向が強まって いる。 インドネシア人の所得が上昇す るにつれて、人口密度の高い都市 だけでなくインドネシア全体で金 融サービスが利用されるようにな れば、銀行セクターの業績が、さ らに伸びることが見込まれる。 そのほかの項目では「コスト削 減」が、上位の項目として挙げら れている。 支店ネットワークの拡大が 最優先事項 2012年における主要な戦略的 目標は何ですか。 17% その他 11% 人材の採用、 維持 17% コスト削減 55% 支店ネットワークの 拡大; 市場のカバ レッジ、取扱商品 の拡充 インドネシアの銀行に対する意識調査レポート2012 17 業務上の課題 「人材確保」が今年の重点 課題 現在の離職率はどの程度ですか。 パフォーマンスを向上していく上 で、 あなたの銀行が最も注力する 分野はどの領域ですか。 3% 財務 9% 該当なし 11% 年20%を 越える 22% 年5%未満 1% 該当 なし 17% 17% IT 17% 資金調達 28% 人事 30% 年10%~20% 28% 年5%~10% 回答者の30%は、現在の離職率 が10%~20%であるとしている。 コスト意識が高まる中で、銀行に とっても人件費に注力することが 重要になってきている。 支店ネットワークの拡大と銀行 セクターそのものが成長する上 で、人材確保がビジネスの持続力 を維持するための重要な要素であ る。今回の調査でも、回答者の 28%が「人材確保」を注力すべき 分野の第1位に挙げている。 10% 業務プロセス 支店ネットワークの拡大は、当然 ながら人材の採用増を意味する。 回 答 者の9 1 % が 2 0 1 2 年は前 年 比で従業員が増加すると回答して いる。 回答者の69%が、業務への適正 があり経験のある従業員が不足し ていることを認めている。十分な 従業員を確保していると回答した のは、わずか26%であった。経営 の中核を担うべき人材を見つける ことが最も困難となっている(回 答者によると、ヴァイスプレジデ ント、シニアマネジャーおよびマ ネジャークラスが、最も不足して いる職位であった)。 銀 行セクターにお いて、業 務 へ の適正と経験のある従業員の確 保についてどのようにお考えで すか。 4% 大変不足し ている あなたの銀行では2012年にど のような採用計画をたてていま すか。 0% 人員を削減 9% 採用を 凍結 41% 従業員を 0%~10%増 やす 18 24% 融資 人材確保が成功への鍵 インドネシアの銀行に対する意識調査レポート2012 15% 従業員を20%以 上増やす 35% 従業員を10% ~20%増やす 69% 不足している 1% かなり余っている 26% 十分である 業務上の課題 回答者の30%以上が、最も人材 が不足している部署は「融資部 門」であると回答している。また 「IT部門」や「財務部門」も融資 部門に次いで人材不足が顕著で ある。 気候変動リスクの認識を銀行 内で浸透させるには多くの関 係者の意識改革が必要 環境や気候変動リスクは、あな たの銀行の資産ポートフォリオ の分散戦略にどの程度影響を及 ぼしますか。 1% 該当なし 9% かなりの程度 44% 中程度 46% 程度は低い 銀行セクターは長期間にわたっ て、気候変動への対応を銀行のコ ア戦略として関連づけることをせ ず、社会的貢献活動の一部とみ なしてきた面がある。しかし、 今回の調査結果では、回答者の 69%が、地域経済や建設業者など とかかわる中で、サステナビリ ティー、および気候変動の影響を 踏まえた対応を行っているとして いる。 回答者の3分の2がサステナビリ ティーや気候変動リスクを分析す る手段を持ち合わせていない。分 析手段を持たない銀行は、競争上 の優位性を維持したり、社会的に 好ましい評判を享受することがで きなくなる可能性がある。分析手 段を持たず、サステナビリティや 気候変動の影響について考慮しな い銀行は、今後、市場に競争から 取り残されるであろう。 銀行は、ほかのインドネシアの 産業界と比較すると、汚染などの リスクに関しては低水準の業界で あるが、気候変動リスクが貸出 ポートフォリオの分散戦略に影響 をあたえるとした回答者は、わず か9%にとどまっている。 サステナビリティと気候変動に関 するリスクを分析する手段をお持 ちですか。 2% 該当なし 34% はい 64% いいえ インドネシアの銀行に対する意識調査レポート2012 19 お問い合わせ先 PwC Japan 総合金融サービス推進本部 Tel: 03-5220-1650 近江 惠吾 あらた監査法人 総合金融サービス推進本部長 代表社員 [email protected] 丸山 琢永 あらた監査法人 リスク・アシュアランス部長(不正リスク対応) 代表社員 [email protected] 古明地 正寛 プライスウォーターハウスクーパース株式会社 ディールズFSリーダー パートナー [email protected] 古瀬 保弘 あらた監査法人 金融調査室 主任研究員 [email protected] 阿部 和彦 株式会社あらたサステナビリティー認証機構 取締役 [email protected] 本多 守 PwC Indonesia(ジャカルタ駐在) テクニカルアドバイザー [email protected] 山田 哲也 PwC Singapore(シンガポール駐在) シニアマネージャー [email protected] 20 インドネシアの銀行に対する意識調査レポート2012 Sections title インドネシアの銀行に対する意識調査レポート2012 21 www.pwc.com/jp PwCは、世界158カ国 におよぶグローバルネットワークに約180,000人のスタッフを有し、高品質な監査、税務、アドバイザリーサービスの提供を通じて、企業・団体 や個人の価値創造を支援しています。詳細はwww.pwc.com をご覧ください。 PwC Japan(プライスウォーターハウスクーパース ジャパン)は、あらた監査法人、プライスウォーターハウスクーパース株式会社、税理士法人プライスウォーター ハウスクーパース、およびそれらの関連会社の総称です。各法人はPwCグローバルネットワークの日本におけるメンバーファーム、またはその指定子会社であり、そ れぞれ独立した別法人として業務を行っています。 © 2012 PwC. All rights reserved. PwC refers to the PwC Network and/or one or more of its member firms, each of which is a separate legal entity. Please see www.pwc.com/structure for further details. This content is for general information purposes only, and should not be used as a substitute for consultation with professional advisors. 本誌はPwC Indonesiaが2012年2月に発刊した『Indonesian Banking Survey Report 2012』をPwC Japan で翻訳したものです。 オリジナルはこちらからダウンロードできます。http://www.pwc.com/id/en/publications/assets/Banking_Survey_Report-2012.pdf 日本語版発刊月: 2012年10月