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 ファンドニュース
IFRS 投資不動産とリース会計について~その3
(再公開草案「リース」の公表)
2013 年9月
はじめに
国際会計基準審議会(IASB)と米国財務会計基準審議会(FASB)(以下、両審議会)は、MOU(両審議会が合意したコン
バージェンスの覚書)の一環として、2010 年8月にリースに関する会計基準の公開草案を公表しました。しかし、提案さ
れたモデルは複雑な会計処理を伴う可能性があるとして多くのコメントが寄せられ、両審議会は、2年以上にわたり審議
を重ね、議論を行ってきました。その後、両審議会は、寄せられたコメントおよび再審議の結果を踏まえて、いくつかの暫
定合意を行った後、2013 年5月 16 日にリースに関する会計基準の改訂公開草案(以下、再公開草案)を公表しました。
「ファンドニュース(7)IFRS 投資不動産とリース会計について~その2(投資不動産の貸手の会計処理にかかる暫定
合意)」において、2012 年6月の両審議会の暫定合意の内容を解説しました。今回は、2013 年5月に公表された再公開
草案の概要について解説します。
再公開草案の要点
再公開草案の主なトピックの要点と 2010 年8月公開草案からの変更点は、以下の図表に記載のとおりです。このうち、
重要な変更が加えられたリースの分類、借手および貸手の会計処理、また、これらの変更が投資不動産にかかる貸手の
会計処理に与える影響について、後述で解説します。
1
2
トピック
再公開草案の要点
2010 年8月公開草案からの主な変更点
リースの定義
リースとは、「対価と交換に一定期間にわ
たって識別された資産の使用を支配する
権利を移転する契約」と定義されている。
リース契約の識別においては、「識別され
た資産」1と「使用の支配の移転」2とい
う2つの要件を満たす必要がある。法的な
リースの形態は問わない。
リースの定義を維持しつつ、ガイダン
スをより詳細に定めている。収益認識
の提案や IFRS 第 10 号「連結」との整合性
を保持。
リースの分類
リース開始日において、借手および貸手 貸手のみ原資産の重要なリスクと便益
は、リースをタイプ A またはタイプ B のいず の留保の程度に基づく分類が提案され
れかに分類しなければならない。リースの ていたが、借手および貸手における共
対象が「不動産」か「不動産以外」かで異な 通の分類方法の適用に変更されてい
る判断基準が適用される。
る。また、不動産か否かにより、リー
スの分類テストが異なる。
借手の会計処理
タイプ A とタイプ B により異なる会計 単一の使用権モデルから、2つのモデ
処理が適用される。
ルに変更されている。
貸手の会計処理
タイプ A とタイプ B により異なる会計 認識中止アプローチと履行義務アプ
処理が適用される。
ローチの提案から、タイプ A とタイプ B
のモデルに変更されている。
短期リースの取り扱い
短期リースの特例を認めており、12 ヵ月以 提案なし。
内の短期リースの場合、簡便的な処理を選
択することができる。ただし、ここでいう短期
とは、リース開始日において、更新オプショ
ンなどを含めた最長のリース期間が 12 ヵ月
以内であることが必要である。
リース資産・リース負
債の測定
変動リース料
変動リース料については、指数やレー
トに基づくリース料や実質的に固定の
リース料の場合にのみ、資産・負債に
含める。
変動リース料
すべての変動リース料について、期待
値の見積りを資産・負債に含める提案
となっていたが、より限定的となって
いる。
リース期間
更新オプションなどは、行使の重大な
経済的インセンティブがある場合にの
み含める。
リース期間
更新オプションなどは、発生の可能性
が 50%超となる最長の期間をリース期間
に含めるとされていたが、重大な経済
的インセンティブがある場合を除き、
資産・負債に含めない。
識別された資産とは、契約において資産が特定されており、供給者が資産を取り替える実質的な権利がないことが必要になります。
また、物理的に区別できる一部分(建物のワンフロアなど)である必要があります。
使用の支配の移転が認められるためには、使用を指図する能力と使用により便益を得る能力の両方が必要とされています。
リースの分類
再公開草案においては、借手および貸手に対して、リース開始日にリースをタイプ A またはタイプ B に分類することを
求めています。ここで、タイプ A に分類されると金融取引として典型的な前倒しの費用パターンとなり、タイプ B に分類さ
れるとリース期間にわたり定額の費用パターンとなります(詳細は、後述の会計処理を参照)。それぞれのタイプは、原資
産の消費の程度(借手が原資産の重要ではないといえない部分を取得または消費しているか否か)に応じて分類され、
リース対象の原資産が不動産(例:土地や建物)の場合と不動産以外(例:設備)の場合により、異なる判断基準が適用
されます。
まず、不動産のリースである場合、タイプ B になると推定されます。例外的に、リース期間が原資産の残りの経済的耐
用年数の大部分となるか、またはリース開始日におけるリース料総額の現在価値が原資産の公正価値のほとんど占める
場合には、タイプ A となります。
一方、不動産以外の資産のリースである場合、タイプ A になると推定されます。タイプ B となるのは、リース期間が原資
産の経済的耐用年数全体に占める部分が重要でない場合か、またはリース開始日においてリース料総額の現在価値が
原資産の公正価値に比べて重要でない場合に限られます。
(リースの分類テストのイメージ図)
不動産か否か
動産
不動産
リース期間は経済的耐用年数の大部分
か、リース料総額の現在価値が公正価値
のほとんどすべてか?
No
Yes
タイプ A
タイプ B
No
リース期間は経済的耐用年数の重要でない部
分か、リース料総額の現在価値が公正価値に
比して重要でないか?
Yes
リースの分類に関する判定は、リース開始日においてのみ行われ、その後の見直しや再評価は行いません。
借手の会計処理
借手の会計処理について、簡単に触れたいと思います。借手の会計処理については、上述のリースの分類テストで
区分されたタイプに従い、下記のとおり、会計処理を行います。
リースの分類
会計処理
タイプ A
• リース開始日に使用権資産およびリース負債を認識 3
• 当初認識後の測定は、使用権資産は定額法で償却され、リース負債は
実行金利法を用いて利息を計上(前倒し費用パターン)
タイプ B
• リース開始日に使用権資産およびリース負債を認識 3
• 当初認識後の測定は、使用権資産の償却費と利息費用相当額が毎期一
定となるように計上(定額費用パターン)
借手の会計処理の特徴は、タイプ A およびタイプ B のどちらであっても、当初認識において使用権資産およ
びリース負債を認識する点にあります。これは、両審議会がリースの共同プロジェクトの当初の目的である、
バランスシートにおいてリース資産および負債を認識するということを達成するための提案となっています。
3
このモデルによれば、借手は、リース開始日に、リース料総額の現在価値としてリース負債を認識します。使用権資産はリース負債
に前払リース料および当初直接コストを加えた金額に基づいて認識します。
貸手の会計処理
貸手については、下記のとおり、会計処理を行います。
リースの分類
会計処理
タイプ A
• リース開始日に原資産の認識を中止し、リース債権と残存資産を計上 4
• リース債権に関する利益は即時に認識され、残存資産に関する利益は
原資産の再リース時または売却時まで繰り延べられる。また、リース
債権と残存資産に関する利息収益は、リース期間にわたって認識され
る(初日利益と利息収益)
タイプ B
• 原資産の認識を継続
• リース収益をリース期間にわたって計上(通常、定額)
貸手の会計処理については、タイプ A とタイプ B で、当初認識におけるバランスシート上の取り扱いが異
なっている点が特徴です。また、再公開草案のタイプ A とタイプ B の会計処理は、2010 年8月の公開草案で提
案されていた履行義務アプローチと認識中止アプローチの会計処理から、修正が加えられています。
投資不動産の貸手の会計処理
投資不動産のような不動産のリースの場合、一部の例外を除き、タイプ B に分類されると予想されるため、
貸手は、原資産を引き続き計上し、定額で収益を計上することになります。これは、現行のオペレーティン
グ・リースの会計処理に近い提案となっています。
このように、多くの投資不動産はタイプ B に分類されることが予想されますが、仮にリースの分類テストに
おいてタイプ A に分類された場合、バランスシート上、原資産の認識を中止し、リース債権と残存資産を認識
します。また、このようなケースで、リース開始日にリース対象の原資産の公正価値が帳簿価額を上回る場合、
売却(移転)利益が計上され、そのうちリース債権から生じる利益は即時に認識され、残存資産から生じる利
益は原資産の再リース時または売却時まで繰り延べられます。
また、日本の不動産の賃貸においては、テナントをリーシングする際にフリーレントを用いることがありま
す。今回の再公開草案では重要な変更は加えられていませんが、このようなフリーレントは、リース契約の獲
得または延長のために提供したリース・インセンティブとみなされ、リース期間にわたり定額法で配分するこ
とが必要と考えられます5。
2010 年 8 月の公開草案では、投資不動産について公正価値で測定する場合6は、公正価値で測定すること自
体が既に有用な情報を提供していると考えられるため、このリースに関する会計基準の適用範囲から除外され
ていました(IASB のみ)。しかし、本再公開草案においては、公正価値で測定する投資不動産であってもこの
基準を適用することに変更されています。
4
このモデルによれば、貸手は、リース開始日に、リース対象の原資産の認識を中止し、その代わりにリース債権(リース料総額の現在
価値で測定)、および残存資産(残存資産に期待される将来の公正価値の現在価値を見積ることによって算出)を認識します。
5 現行の IFRS においても、オペレーティング・リースに関するインセンティブは、リース期間にわたり賃貸料収入の減額として処理す
べきことが定められています(SIC 解釈指針第 15 号)。
6 投資不動産(インカムゲイン若しくはキャピタルゲイン又はその両方を目的として保有する不動産)については、公正価値モデルま
たは原価モデルの選択適用が認められています(IAS 第 40 号)。
今後のスケジュール
今回の再公開草案においては、適用日に関する提案は含まれておらず、最終基準の公表時期も未定となっています。
再公開草案に対するコメント期限は、2013 年9月 13 日となっており、その後、寄せられたコメントやアウトリーチ(意見聴
取)活動を踏まえて再審議が行われる予定です。最終基準の公表および発効日の決定は、2014 年より早くなる可能性
は低いと予想されます。
おわりに
両審議会が公表した再公開草案は、2010 年8月の公開草案の内容を大きく変更するものです。また、この段階にお
いても、両審議会の一部メンバーは、リースプロジェクトの主要な目的が達成されているかどうかの懸念、コスト・ベネ
フィットの懸念、単一のリースモデルの適用を支持する代替的見解を表明しています。この再公開草案に寄せられたコメ
ントに対して、両審議会が今後どのような審議を行うか注目されます。
投資不動産の貸手の会計処理に着目した場合、不動産のリースは、概ね現行のオペレーティング・リースと類似
した会計処理となる可能性が高いと考えられますが、現行の日本基準に比べると、当初直接コストやフリーレ
ントの調整が必要になると思われます。
文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることを申し添えます。
あらた監査法人
第3金融部(資産運用) マネージャー
神鳥 勝俊
あらた監査法人 第3金融部(資産運用)
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