Comments
Transcript
ファンドニュース はじめに 響 アジア地域ファンドパスポート(ARFP)の概要と資産運用会社に与える影
ファンドニュース アジア地域ファンドパスポート(ARFP)の概要と資産運用会社に与える影響 2015 年 12 月 はじめに 金融庁は、2015 年 9 月 11 日、第 22 回 APEC(Asia-Pacific Economic Cooperation:アジア太平洋経済協力、以下 APEC)財務大臣会合において、ARFP(Asia Region Funds Passport:アジア地域ファンドパスポート、以下 ARFP)への参 加表明文書に日本が署名を行ったことを公表しました。 ARFP とは、APEC 加盟国のうち参加を表明した国が、投資家保護上の要件を満たしたファンド(投資信託など)につ いて、参加国間での相互販売を容易にするため、規制の共通化を図るための枠組みです。欧州においては、1985 年に 制定された UCITS(Undertakings for the collective investment in transferable securities:譲渡可能証券の集団投資事 業、以下 UCITS)指令により、欧州域内のファンドパスポートが導入されており、今回提唱された ARFP はアジア・オセア ニア圏における UCITS に類似した取り組みであるといえます。 ARFP の枠組みは、2014 年 4 月に ARFP 作業グループにより市中協議文書が公表された後、意見募集を経て、 2015 年 2 月に第 2 次市中協議文書が公表されましたが、今回の会合で、日本を含む 6 カ国(日本、オーストラリア、韓 国、ニュージーランド、フィリピン、タイ)が参加表明文書に署名を行っています。一方、当初 ARFP 設立主旨書に調印し ていたシンガポールの署名は今回見送られています。今後、ARFP 規則の最終化に向け参加国間での協議が行われた 後、早くとも 2016 年内に法整備が完了した参加国が 2 か国以上となった時点から制度が開始することが予定されてい ます。 ARFP の進展により、運用会社間の競争促進による手数料低下や投資家の商品選択肢の拡大、透明性の向上や規 制の改善による投資家保護水準の向上、ひいてはアジア資産運用業界の競争力の向上およびアジア金融市場強化と 金融システムの安定化・効率化といった利益がもたらされるものと期待されています。 今回は、ARFP の概要とわが国の資産運用会社に与える影響について解説したいと思います。 ARFP の概要 ARFP は、パスポートファンドの所在する国(ホーム国)におけるホーム国規制、パスポートファンドが販売される国(ホ スト国)におけるホスト国規制およびパスポートファンドに関する共通規則であるパスポート規則の 3 つを規制の枠組みと しています。ARFP への参加にあたって基本となる適格 CIS1の種類などの基本適格要件、ファンドを設立・組成する運用 会社の認可・運営、パスポートファンドの設立・運営に関してはホーム国規制およびパスポート規則が適用され、パス ポートファンドの販売に関してはホスト国規制が適用されます。ARFP の市中協議文書における概念を図示すると以下の とおりとなります。なお、2014 年 4 月に市中協議文書が公表された後、2015 年 2 月に第 2 次市中協議文書が公表され たことにより、全面的に第 2 次市中協議文書に置き換わった形となっています。 <ARFP 概念図> 1適格 CIS・・・以下のような特徴を持つスキーム(Collective Investment Scheme):集団投資スキーム)のうちパスポートファンドとして認 められる CIS を指す ① 2 人以上の投資家が当該スキームから利益を享受する権利を有し、当該スキームに資金を拠出する ② 拠出された資金は金銭的便益を獲得するためにプールされる ③ 全ての投資家が当該スキームの運営に参加することを前提としない ④ 拠出された資金は全て投資家のために運用される 1.基本適格要件 パスポートファンドとして認められる CIS はホーム国における適格 CIS である必要があり、ファンドおよびそのファンド を設立・組成する運用会社はいずれもホーム国に所在している必要があります。また、パスポートファンドとして認められ るためには、原則としてホーム国において一般投資家に対する継続的な募集が求められます。 2.運用会社の認可・運営 パスポートファンドの運用会社は、パスポート参加国もしくはホーム国と概ね同等の規制の枠組みを持つと認めた国 において公募の適格資産 CIS2に対する 5 年以上の運用経験が必要となり、CEO・上級幹部・運用担当者についても、 一定の金融関連業務の経験が求められます。また、運用会社の自己資本は 100 万 USD 以上必要となり、運用資産残 高によっては追加資本金の準備も必要となります。加えて、パスポートファンドの運用会社には、適格資産 CIS の運用 資産残高が 5 億 USD 以上であることを求める運用資産要件や、その他明確な職務分掌や内部統制の構築といったガ バナンス面での適格要件が求められています。 3.パスポートファンドの設立・運営 パスポートファンドの設立にあたっては、カストディアンの利用、独立した監督機関の設置が必須となり、独立した監 督機関はパスポートファンドの法令等遵守について監視義務を負っています。一方、パスポートファンドには原則年次 でパスポート規則の遵守状況についてコンプライアンスレビューが要求されています。業務委託に関しては、ホーム国 規制で認められている場合には可能となりますが、運用再委託については一定の制限がかかっています。また、パス ポートファンドは基本的に流動性の高い資産のみが投資適格資産として認められていますが、単一発行体制限、グ ループ制限といった分散規制について、UCITS 同様厳しい制限が課せられています。さらに、パスポートファンドには 少なくとも年次の財務諸表監査が求められています。 4.パスポートファンドの販売 パスポートファンドの販売に関しては、ファンドが販売されるホスト国における規制が適用されます。 わが国資産運用会社に与える影響 今回、日本の ARFP への参加が正式表明されたことで、規制当局の主導のもと諸外国における状況も踏まえた国内 法令・規制・業界慣行などの整理と見直しの契機となることが考えられます。資産運用会社にとっては、国内投資家の ニーズに加え、高い商品開発力を活かしたアジア投資家のニーズに即した多様な商品設計の必要性が高まる一方で、 投資信託運営に係る業務効率改善によるコスト削減ひいては価格競争力の強化が求められることが想定されます。加え て、ファンドの透明性・ガバナンスの強化を通じた投資家保護水準の向上が一層求められると考えられます。さらに、国 内外資産に対する運用力の強化と積極的なプロモーションによる販売戦略の強化も事業戦略の一環として検討する必 要もあると考えられます。 2 適格資産 CIS (Financial Asset CIS)・・・CIS のうち、主にパスポート規則で保有が認められる金融商品に投資を行う CIS であり、適 格 CIS よりも広い概念である おわりに ARFP については、欧州のように共通した制度インフラや通貨がないため、参加国がファンド運営の効率化、市場の 発展、投資家への幅広い商品の提供といった利益を享受するためには、参加国の通貨、税金、市場成熟度などの相違 という問題を解決していくことが不可欠となります。特に、税務に関しては、投資家の投資行動に重要な影響を与える項 目であり、シンガポールが参加表明を見送った要因であると言われていることから、今後の動向を注視していく必要があ ります。アジア市場は、全世界の 60%を超える 40 億人以上の人口を有している一方でファンドへの投資割合が欧米に 比べて低いことから、今後ファンド投資に対する需要が高まることが期待されています。よって、資産運用業界において 大きなポテンシャルを有するアジア・オセアニア圏において、どのようなプロダクトがスタンダードとなり市場を形成してい くのか、引き続き注視していく必要があります。 また、アジア域内ではほかにも ASEAN CIS フレームワーク、中国・香港のファンド相互承認協定といったファンドパス ポート導入の動きがある中で、いかにアジア域内の参加国を増やすことができるかといった課題についても、今後の動向 が注目されます。 なお、内容にご質問などございましたら、以下のお問い合わせフォームからご連絡いただければと思います。 最後に、本文の内容は 2015 年 2 月に公表されている第 2 次市中協議文書に基づく内容であること、および文中の 意見にわたる部分は筆者の私見であることを申し添えます。 PwC あらた監査法人 第3金融部(資産運用) マネージャー 髙 橋 大 輝 PwCあらた監査法人 第3金融部(資産運用) お問い合わせフォーム 本冊子は概略的な内容を紹介する目的で作成されたもので、プロフェッショナルとしてのアドバイスは含まれていません。個別にプロフェッショナル からのアドバイスを受けることなく、本冊子の情報を基に判断し行動されないようお願いします。本冊子に含まれる情報は正確性または完全性を、 (明示的にも暗示的にも)表明あるいは保証するものではありません。また、本冊子に含まれる情報に基づき、意思決定し何らかの行動を起こされ たり、起こされなかったことによって発生した結果について、PwCあらた監査法人、およびメンバーファーム、職員、代理人は、法律によって認めら れる範囲においていかなる賠償責任、責任、義務も負いません。 © 2015 PricewaterhouseCoopers Aarata. All rights reserved. In this document, “PwC” refers to PricewaterhouseCoopers Aarata, which is a member firm of PricewaterhouseCoopers International Limited, each member firm of which is a separate legal entity Please see www.pwc.com/structure for further details.