アジア企業のトレジャリーサーベイ 2014 Transforming challenges into opportunities www.pwc.com/jp
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アジア企業のトレジャリーサーベイ 2014 Transforming challenges into opportunities www.pwc.com/jp
アジア企業のトレジャリーサーベイ 2014 Transforming challenges into opportunities www.pwc.com/jp はじめに 近年、欧州やアメリカでは、世界的な金融危機に見舞われ、その後の長引く景気の低迷 に伴い、企業財務・資金部門の果たす役割が変化してきた。取締役会において、財務・資 金部門の本来業務である財務リスク管理の存在感が高まっただけでなく、外部資金調達を 常に確保することが難しいことが判明したため、会社の経営者がキャッシュマネジメント および流動性管理を重要視するように至ったのである。市場のボラティリティが高くなる につれ、より積極的に財務リスクを管理できるようヘッジ手法の手直しをしたり、以前は 財務・資金部門の本来業務として認識、把握されていなかった商品リスクなど、財務・資 金担当者が管理するリスクの範囲が拡大することにつながった。金融危機は、財務・資金 部門の重要性を軽視すれば深刻な結果を招くことになることを示しており、確立された成 功事例を取り込むことの重要性はかつてないほど高まっている。以来、多くの会社が財務・ 資金活動の効率性を追求するようになっており、基本的には成功事例の取り込みを原則と している。一方で、日々進化し続ける事業ニーズにより適切かつ迅速に対応していけるよ うにしていかなければならない。 アジア系企業ともにアジアに活動拠点があるグローバル企業は急速に成長を遂げてい る。アジアは、現在、世界経済の30%を占めており、アジア経済が将来世界経済を牛耳る 見通しである。既に中国は世界第2位の経済大国となり、日本は世界第3位の経済大国であ る。中国経済の強い後押しを背景に、アジア地区の急成長を遂げる新興国は、本年度にお いては7%の成長が見込まれている。 このような経済状況の背景から、アジアに焦点を当てた財務・資金管理業務調査を実施 するには、今が適切な時期ではないかと思われた。アジアで事業を展開する場合、グロー バル企業全てに共通な問題はもちろんのこと、アジア特有のさまざまな課題に直面するこ とになる。多くの欧州諸国と異なり、アジアには単一通貨がなく、規制当局も多数存在し、 銀行がおかれた環境もさまざまである。例えば、多くの新興国の通貨は、クロスボーダー 送金や他通貨とのエクスチェンジが厳格に管理されているなど、多くの制約が存在する。 調査結果では、アジアの企業財務・資金部門が、欧州および米国企業の財務・資金部門 に比べてどんな状況にあるか、取締役会において財務・資金部門の存在感が増していくな かで、財務・資金部門が事業に付加価値をもたらすには何をすべきかを明らかにしている。 本調査結果が皆さまのご関心の高いものであり、マーケットに対する理解を深めること を通じてお役に立つことができれば幸いです。 Sebastian di Paola Partner Global Corporate Treasury Solutions Leader Voted Number 1 Treasury Consultant for 13 years running by Treasury Management International PwCがアジア企業のトレジャリーサーベイ 2014を発表 PwCはアジア企業のトレジャリーサーベイ 2014を発表できる運びとなった。グローバルに 活動する企業は未曽有の変化や不確実性に直面している。アジアの成長が続いてきた中で、 アメリカや欧州では、近年、経済成長が減速気味であり、アジアでも逆風が吹きつつある状 況が発生している。米FRBが量的緩和を縮小し、将来的には流動性や金利を引き締め始める のではという懸念がある。特に、ウクライナで進行している政治的に不安定な状況や、アジ ア最大の経済圏である中国経済の減速には、懸念を示す傾向が強く見られる。市場は不安定 となるであろうし、アジア企業もこのような課題への取り組んでいかなければならない。 今回の調査では、アジア企業が取り組んでいる課題を取り上げている。7カ国の117社にご 参加いただいた。企業の財務・資金関連の組織、課題、リスク管理に対するアプローチ、銀 行取引管理、キャッシュマネジメントや流動性管理を中心に有用な情報を提供できればと考 えている。今日の不確実、不安定な経済状況下で、参加企業は、財務リスクや、キャッシュ マネジメント、流動性管理を重要な財務活動として挙げている。大きな課題に直面していな がら、過半数の企業が必要最小限のリスク管理を行い、3分の1以下の企業がリアルタイムで キャッシュポジションを把握できているに過ぎない。しかも、過半数を超える企業がトレジャ リ―・マネジメント・システムを利用していないのが現実だ。 今回の調査では、アジアの財務・資金管理業務が変化の過程にあり、戦略的に動いていけ ば事業そのものに対して利益をもたらすチャンスがあるということを示している。企業のマネ ジメントは、刻々変化していく課題に対応しつつも利益を生み出せるような財務機能を確保 するための対策を講じていかなければならない。最も重要なことは、戦略性を持ち、より高度 な手法を利用することで事業に対して利益をもたらし、事業全体にまたがるリスクを管理して いくためにCFOの役割を見直していくことである。リスクを管理・数値化し、単純作業のため の時間を最小限に抑え、財務・資金部門のスタッフがより付加価値 の高い業務に従事できるよう業務をシステム化し、銀行取引関 係を改善し、効率化を進め、コストを削減するために企業内 銀行を展開していくことも展望していく必要があろう。 皆さまには今回の調査のためにお時間を割いていただ き、また多数の貴重なご意見を頂いたことに心から感謝 いたします。アジア企業の財務・資金部門が直面してい る課題や将来のチャンスについて、皆さまのお役にたて る情報を提供しておりますので、ぜひ調査結果をご一読 ください。 Chen Voon Hoe Partner, Singapore Corporate Treasury and Commodities Leader 117 回答企業数 7 回答企業の 国籍数 目次 調査結果概要 5 調査対象者と方法 6 1 トレジャリースタッフの陣容 8 2 アジアでの主な財務・資金活動 10 3 アジアにおける財務・資金の進展について 12 4 主要な財務リスク 14 5 リスクへのアプローチ 16 6 ヘッジ会計の適用 18 7 銀行取引関係の見直し 20 8 銀行取引関係において重視すること 22 9 負債の種類 23 10 資金調達管理戦略 25 11 余剰資金の運用 26 12 アジアにおける主要なキャッシュマネジメント活動 27 13 資金集中 28 14 アジア企業はトレジャリーテクノロジーを有効活用しているか? 29 15 アジアの財務・資金担当者は何を変えようとしているか? 31 調査結果概要 財務・資金組織 銀行取引関係 アジア企業3分の2近くの財務・資金部は会 社の事業がさまざまな国に分散している状況 に置かれている。53%の会社は事業が国境 を跨ぎ、複雑であるにもかかわらず、五人、 もしくはそれ以下のスタッフでグループの財 務・資金活動を行っている。 60%以上の回答者は、キャッシュマネジメン トに3行、もしくはそれ以下の銀行をメインに 利用している。大規模企業では、中規模企業よ り主要銀行数が少ない傾向にある。大規模企業 は、銀行取引関係を見直すプロセスに着手し始 めたと考えられる。 自分たちのトレジャリー活動には付加価値 があると考えている会社が62%あった。 中規模および大規模企業に銀行の選択理由を 挙げてもらったが、サービス/アドバイスの質 を重視するとの回答が最も多かった。 財務リスク管理およびキャッシュマネジメ ント/流動性管理の二つがトレジャリー活動 の中で最も関心が高かった。 リスク管理 為替リスクはアジア企業の財務・資金担当 者が最も重要と位置付けている一方で、カウ ンターパーティーリスクやコモディティリス クは重要度が低かった。 回答者の66%がさまざまな形で商品リス クにさらされているが、全くリスクを管理 していない会社が36%と比較的高い割合で あった。 約半数の回答者は、金融リスクを管理する 際、基本的なリスク管理技術と標準化された アプローチを使用している。 ヘッジ会計 ヘッジ会計半数の回答では以下の理由によ りヘッジ会計を利用していない。主な理由と して、財務諸表への影響が軽微、現在の会 計基準が複雑でがんじがらめに縛られる、管 理負担が大きい、ヘッジ会計に対応するシス テムの欠如がある。 キャッシュマネジメント キャッシュポジションのリアルタイム把握が 実現できているのは、回答者の1/3未満であり、 回答者の40%以上がキャッシュプーリングを実 施していない。 テクノロジー 回答者の50以上がTreasury Management System(TMS)を導入しておらず、導入してい る企業でも基本的な機能しか利用していない。 運用 重視する投資基準の中で、安全性(87%)が 圧倒的に高かったが、差が開けて流動性(9%) と収益性(3%)が続いている。回答者の60% 以上が余剰資金の活用方法として、銀行預金、 およびマネーマーケットファンドを利用してい るが、他の運用選択肢よりも圧倒的に割合が 高い。 財務資金部門の将来のあるべき姿 回答者は優秀な財務・資金担当者の確保、 キャッシュマネジメント/流動性管理、効果的 なTMSの導入を最優先事項とあげている。 アジア企業のトレジャリーサーベイ 2014 5 調査対象者と方法 今回の調査では、企業財務・資金の4項目に焦点を 当てた。リスク管理、ヘッジ会計、キャッシュマネジ メント/流動性管理、そしてトレジャリ―・マネジメ ント・システムである。現状の組織やリスク管理、ヘッ ジ会計、キャッシュマネジメント/流動性管理、そし て将来の財務・資金部門やトレジャリ―・マネジメント・ システムのあるべき姿まで、広範囲にわたる53の質問 にお答えいただいた。 25 今回の調査にあたって、7カ国の幅広い業界の企業 117社にご参加いただき、財務・資金活動の現状やニー ズについての貴重なご意見をいただいた。 7 回答企業の国別内訳 8 8 5 10 54 117社の地域別内訳数を、数の多い順に並べると日 本54社、シンガポール25社、続いて中国、香港、イ ンドネシア、マレーシア、タイの順となっている。 11業種では、5社以上から回答があった。回答数の多 い順に並べると、製造業(19社) 、続いて電気機器・テ クノロジー(17社) 、エネルギーや電力会社(13社)と なっている。 中国 日本 シンガポール 香港 マレーシア タイ インドネシア その他 22 製造業 19 電機・エレクトロニクス 17 エネルギー 13 自動車関連 10 サービス 8 小売業 8 消費者製品 8 通信 7 不動産 6 ヘルスケア 5 農業 5 運輸 4 鉱業 3 マスコミ・エンターテイメント 2 金融サービス 2 建設 2 宿泊・飲食 2 0 5 10 15 20 25 回答企業の業界別内訳 *「その他」に含まれるものは、商品、E-コマース、化学、貿易など。 6 Transforming challenges into opportunities 回答企業の売上高規模 10億米ドル 以上 39% 43% 18% 本調査の目的は財務・資金活動に役立つ 情報を提供することであり、企業規模を三つ に分類し、分析を実施した。年間の売上高を 基準として、年間売上高が1億米ドル未満の 企業を小規模企業、1億米ドル以上10億米ド ル以下の企業を中規模企業、10億米ドル超 の企業を大規模企業として分類した。なお、 調査に回答いただいた企業別売上高の構成 比は、小規模企業18%、中規模企業43%、 大規模企業39%となっている。 1億米ドル – 10億米ドル 1億米ドル 未満 アジア企業のトレジャリーサーベイ 2014 7 財務・資金組織 1 トレジャリースタッフの陣容 財務・資金部門の規模に応じた特徴が調査 に現れている。興味深いことに、財務・資金 担当者の守備範囲は、29%の企業が6カ国以 上、31%が2カ国から5カ国にまたがっている。 したがって、クロスボーダーで発生する流動 性、通貨、取引先などの複雑な問題を取り扱っ ている。 50% 40% 40% 31% 30% 20% 10% 10% 0 1 2-5 12% 7% 6 - 10 11 - 20 >20 回答企業の管理国数 クロスボーダー取引は複雑である一方、特 に中小規模の企業が専門的な財務・資金機 能を整備することは難しい。回答した53% の会社によると、五人以下でグループの財 務・資金活動に従事していることが明らかに なった。 新興国では、取り扱い通貨数、限られたヘッ ジ方法、資本規制、言語/文化の違い、各種 規制などが多いため、アジアで活動する企業 は、多くの課題に直面している。企業規模や 事業内容が拡大し、成長を支えていくには、 財務・資金活動に投資しなければならないこ とは明らかである。企業の財務・資金部門は、 成長する事業や資金需要を満たすよう財務イ ンフラや人材に投資を継続するよう説明して いく必要があろう。 8 Transforming challenges into opportunities ほとんどの多国籍企業や中小企業がアジ アトレジャリーセンターとして地域財務会 社を設けている。わずか一人から二人を割 いて、アジアの財務・資金活動を統括して いるが、当然その活動は限定される。 財務・資金チームが大きくなるにつれて、 グループレベルでの役割が増していく。今 日の財務・資金活動が直面する各種リスク や複雑な規制を管理しなければならないの で、大企業は、そうした財務・資金機能の 集約化を開始しているように思われる。 文化や業務の地理的広がりに応じて、財務・ 資金活動の集約化にはさまざまな方法があ る。全ての財務活動を一つの場所で管理する 中央集権型財務機能を志向する企業もある。 一方で財務・資金管理組織は一つではあるが、 作業を分散し、複数の地域で実施する企業も ある。分散型である地域財務統括会社では地 域の資金管理を担当し、金融マーケットに24 時間アクセスできなければならない。 70% 集約化された財務・資金部門は以下のよ うに、有形・無形の効果を提供する。 ・手元資金を厚くすることにより運転資 金管理を改善し、負債を削減したり、 余剰資金を活用し、リターンを増加す ることができる。 ・銀行口座数を減らして、取引手数料や銀 行支払手数料を削減することができる。 ・グループ企業全体のキャッシュマネジ メントを標準化することができる。 58% 60% 47% 50% 40% 36% 29% 30% 17% 20% 13% 10% 0 1 - 2 3-5 Gグループ全体 >5 地域統括 財務・資金スタッフの陣容 ・本社の財務・資金活動に関する方針や 手続きを周知、徹底することにより、 グローバルコンプライアンスを向上さ せることができる。 ・グローバル管理体制の構築により効果 的な為替リスクエクスポージャーや金 利リスクの管理ができる。 ・ネッティングによる為替取引数の削減 や、銀行送金件数の減少に伴うコスト を削減することができる。 ・グローバル管理体制を構築し、為替エ クスポージャーの上限を設け、特定の 銀行のみに集中するのを防ぎ管理・モ ニターすることができる。 ・IT技術を利用することで財務・資金活 動を集中化し、最少の人員で多くの業 務を行えることから、生産性を向上さ せることができる。 アジア企業のトレジャリーサーベイ 2014 9 財務・資金組織 2 アジアでの主な財務・資金活動 回答者に九つの活動について質問し、 「と ても重要」 、 「やや重要」 、 「あまり重要でない」 、 「重要でない」の4段階評価で回答をいただい た。 「とても重要」を4点とし、 「重要でない」 を1点として、4段階で点数化した。 大規模企業は、 金融リスク管理とキャッシュ マネジメント/流動性管理を、上位2項目の 財務・資金活動として挙げている。大規模企 業はより広範囲に事業展開をしているため、 財務リスクや流動性リスクを管理することが より重要であると考えていることがわかる。 近年、私たちは著しい為替、金利、商品価格 の変動に直面した。とりわけ2013年には、イ ンドルピーやインドネシアルピアのような新 興国通貨が暴落した。米FRBがいつ頃量的緩 和政策を解除するか否かが流動的であり、金 利および流動性に非常に大きな影響を与える 可能性が高い。 全体 中規模企業 今回の調査では、組織の規模による興味深 い違いが明らかになった。 ランク アクティビティ スコア ランク アクティビティ スコア 1 キャッシュと流動性管理 3.43 1 運転資本管理 3.48 2 財務リスク管理 3.41 2 キャッシュと流動性管理 3.34 3 マネジメントとビジネスユニット支援 3.35 3 マネジメントとビジネスユニット支援 3.26 4 運転資本管理 3.34 4 財務リスク管理 3.18 5 資金調達 3.23 5 銀行取引関係 3.18 6 銀行取引関係 3.21 6 資金調達 3.06 7 税務 3.01 7 税務 2.92 8 資本構成 2.65 8 資本構成 2.52 9 信用格付 2.38 9 信用格付 2.32 大規模企業 ランク 小規模企業 アクティビティ スコア ランク アクティビティ スコア 1 財務リスク管理 3.75 1 マネジメントとビジネスユニット支援 3.40 2 キャッシュと流動性管理 3.75 2 銀行取引関係 3.25 3 資金調達 3.61 3 財務リスク管理 3.20 4 マネジメントとビジネスユニット支援 3.43 4 税務 3.20 5 運転資本管理 3.36 5 キャッシュと流動性管理 3.10 6 銀行取引関係 3.27 6 運転資本管理 3.00 7 税務 3.00 7 資金調達 2.90 8 資本構成 2.98 8 資本構成 2.45 9 信用格付 2.80 9 信用格付 1.80 財務・資金活動における業務別重要性(企業規模別分析) 10 Transforming challenges into opportunities 運転資金管理とキャッシュマネジメント/ 流動性管理は、中規模企業にとって関心が高 い上位2項目である。資金繰りに主眼が置か れており、中規模企業は現金残高と借入金を できるだけ相殺し、運転資金効率を向上する ことに注力している。中小規模企業は、大規 模企業と比べると資本市場にアクセスする機 会が少ないことが背景にあるものと思われる。 小規模企業は、上記二つの活動が主要な活動 ではなく、銀行取引関係の重要性をトップに 挙げた。こうした状況は、中小規模企業の多 くが、会社グループ内部で資金を融通したり、 金利コストを最小化するキャッシュプーリン グを導入できていないという調査結果とも一 致する。 小規模企業では経営と事業をサポートする ことが重要であると回答している。小規模企 業は運転資金管理や流動性管理に関心が高い のではないかと考えていたが、実際はもっと 高い目標を設定しているのではないかと思え てくる。 全ての規模の企業が資本構成や会社の信用 格付をあまり重要でないと考えている。上記 2点の重要度が低くなっている理由としては、 多くのアジア企業が銀行借入によって資金調 達しているということに遠因があるのではな いだろうか。 世界的な金融危機以降、財務・資金担当者が役員や事業部門から注目されるようになり、今 では金融危機前に比べて財務・資金部門の貢献度は以前より大きくなったとされている。し かしながら、調査結果から明らかになったことは、アジアの財務・資金担当者がビジネスに 付加価値をつけるようステップアップしていくためには、システム、オペレーション、人材 にかかわる課題を解決していかなければならないということである。財務・資金担当者は財 務リスク管理分野のみではなく、どんな価値を事業にもたらすことができるかを常に考えて いかなければならないし、事業の戦略的ゴールと足並みをそろえていかなければならない。 アジア企業のトレジャリーサーベイ 2014 11 財務・資金のモデル 3 アジアにおける財務・資金の進展について 財務・資金担当者はビジネスに付加価値を 与えることができるのだと回答している企業 は過半数(62%)に上る。財務・資金管理部 門は、アクティブに行動していくことにより ビジネス上のリスクを減らし、経験、スキル、 財務・資金の判断力を活かして、いつ、どの ように、どのようなリスクを回避するかを決定 し、さらには、事業部門やマネジメントの判断・ 決定をサポートしていかなければならない。 しかし、調査結果によれば、アジアにおける 財務・資金活動は、 (リスクアプローチのセク ションにあるような)アクティブかつアグレッ シブな管理とは言えず、標準的なアプローチ と伝統的手法によるリスク管理が主流となっ ている。多くの企業は、 (資金集中のセクショ ンにあるように)アクティブにキャッシュマネ ジメント/流動性の管理を行うまでには至っ ておらず、財務・資金活動についてシステム を活用してプロセスを効率的に運営し、タイ ムリーかつ有益な情報を集めて的確な意思決 定(財務・資金テクノロジーのセクションを 参照)をしやすい環境作りをしているとは言 い難い。別の質問では、回答者の62%は付加 価値のあるトレジャリーセンターを作るよりも 付加価値の高い財務・資金部門にしていきた いと考えている。こうした状況を踏まえると、 財務・資金が発展を遂げていく過程で、取引 の都度対応する財務・資金から、効率的な財務・ 資金、つまり付加価値の高い、戦略的な財務・ 資金へと進展していく可能性があると言える。 12 Transforming challenges into opportunities 23%の回答者(=27社)は自分たちがコ ストセンターであると認識している。10社は 大規模企業に属し、12社は中規模企業であ る。PwCではトレジャリーにおけるコストセン ターの定義を、ビジネス上のエクスポージャー を取引ごとに市場につなぐところまでは行う が、業務効率向上やネッティングにより改善 するといったことまでは行わないものとして いる。コストセンターとなっている企業は、 明らかに財務・資金の機能を強化し、付加価 値を生み出すチャンスがあると言える。 付加価値機能 ー戦略的なビジネスの 支援と投機の防止 プロフィットセンター ー行動的・投機的取引 62% 23% 14% 1% その他 コストセンター ー決定権を持たず、 単純に依頼事項を実行 企業にとっての最適財務・資金モデル トレジャリーの発展モデル 価値/リターン 4 戦略的な財務・資金 3 2 1 付加価値の高い財務・資金 効率的な財務・資金 取引処理重視の財務・資金 企業の到達地点 注意 : カーブの勾配角度は企業により異なる 1 取引処理重視の財務・資金 3 付加価値の高い財務・資金 何を提供するか? 何を提供するか? 取引を処理するのに注力し、ビジネスにおい て必要な取引が実行できるようにする。でき ないと財務に影響する。 ビジネスにとって定量化可能な価値を提供す る。財務上の柔軟性と効率性を最大限に高め、 ビジネスが戦略的ゴールを達成できるようサ ポートする。 何が達成できるのか? ・管理の強化 ・コンプライアンスの向上 ・リスクと資金調達の見える化 ・専門知識を持った人材の集約化 2 効率的な財務・資金 何が達成できるのか? ・資金調達コストの引き下げ ・ビジネスの運営コストの引き下げ ・信用格付の向上 ・新規市場の採算向上 4 戦略的な財務・資金 何を提供するか? 何を提供するか? 資金調達とサービス提供銀行を統一化してい くことにより、財務・資金取引をスムーズに 実行し、キャッシュを有効に活用する。 ビジネス全体の戦略的な決定に対して財務的 な観点から貢献し、財務面でのリーダーシッ プを発揮する。 何が達成できるのか? 何が達成できるのか? ・グループ全体の資金の見える化と管理 ・流動性管理の向上 ・人手を介さない処理の確立 ・常に正確なデータを把握 ・営業収益の増加 ・業界での競争力強化 ・ビジネスのダイナミックスに沿った バランスシートマネジメント ・事業部門におけるキャッシュフローの改善 ・事業部門への財務専門知識の提供 アジア企業のトレジャリーサーベイ 2014 13 財務リスク管理 4 主要な財務リスク グローバル規模で、金融の不確実性が継 続しており、為替レートや資産価格がこれ までに見たことがないくらい変動する原因 となっている。財務リスクとして最も高い ものとして、アジアの多くの企業の財務責 任者は第一に為替リスクを挙げた。予想ど おりの回答であった。アジア企業はさまざ まな地域へ進出し、その多くの国は、為替 規 制 管 理 の厳しい 新 興国 市 場 を 含 んでお り、その中で複数通貨のクロスボーダー取引 やクロスボーダーの送金などをしているので ある。 外国為替規制管理の例 ・例えば、タイではタイバーツの海外 送金は規制されており、タイ以外の国 であってもタイバーツを自由にエクス チェンジできない。それゆえ、海外で タイバーツ預金口座を開設することは 通常できない。タイ国内では、外国通 貨の取引に規制が加えられており、外 国通貨の口座を開くことも規制の一環 である。タイで事業を展開する企業が 資金集中の仕組みを容易に導入できな い要因である。 ・中国では、通貨規制への緩和の動き(例 えば、RMBの国際化)がみられる。こ こ数年、中国人民銀行(PBOC)や国家 外貨管理局(SAFE)がさまざまなパイ ロットスキームを導入している。一部 の新しいプログラムでは、クロスボー ダーでRMBの取引を許容するものであ り、RMBや外国通貨のクロスボーダー プーリングをも許容するものである。 これらのスキームを活用すれば、中国 でビジネスを行う会社が外国通貨のリ スク管理、キャッシュや流動性の管理、 支払や回収の効率化を行う道筋を開く ことができるであろう。 14 Transforming challenges into opportunities 調査では、カウンターパーティーの信用リ スクと商品のリスクの重要度は最下位であっ た。リーマンブラザーズの破綻をきっかけと してカウンターパーティリスクの重要性が顕 在化した。カウンターパーティリスクは無視 できないものであり、会社は取引において金 額制限を課したり、規定や手順を策定するこ とでリスクの集中を避け、 カウンターパーティ リスクの分散を図っておくことが必要になっ てくる。 商品の価格リスクに対して直接的に大きな エクスポージャーを持つ企業は多くないが、 そうした企業は商品のリスクを相対的に重要 視していないのは心配である。商品リスクを 抱える企業であっても、3分の1以上の高い 割合で商品リスクの管理ができていない。16 ページ「リスクへのアプローチ」のセクショ ンで触れてみたい。商品価格が大きく変動す ることは、企業にとってキャッシュや運転資 金に大きな影響を与える。したがって、財務 の責任者が商品リスクへのプライオリティを 低く考えていることは驚きであり、留意が必 要であろう。 各リスクに対する認識 為替リスク 61% 流動性リスク 26% 50% 50% 金利リスク 33% 33% 32% 32% 信用リスク 22% 22% 20% 20% 20% 21% 21% 40% 重要度高 考慮したことなし 重要度中 不明 13% 60% 2%2% 3% 3% 3% 3% 23% 23% 44% 44% 22% 22% 0% 12% 12% 39% 39% 28% 28% 商品リスク 10% 10% 4% 3% 21% 80% 100% 重要度小 アジア企業のトレジャリーサーベイ 2014 15 財務リスク管理 5 リスクへのアプローチ くつか考えられるが、財務・資金部門ではな く、購買や調達部門が商品リスクを管理して きたので、財務・資金部門が商品リスクがも たらす影響を最重要と考えていない面がある 調査結果によると、会社の規模を問わず、 ものと思われる。他地域の状況をみると、商 およそ半分の会社は、 金利リスク、 為替リスク、 品価格リスクや為替リスク管理の財務部門へ 流動性リスク、カウンターパーティリスクに の集約化に伴って、財務・資金担当者の商品 対して標準的なアプローチを取る姿勢を示し 価格リスクへの関与が強まっている。財務・ た。それゆえ、 アジアの企業は、 将来において、 資金担当者が関与すれば、財務リスク管理の 市場の価格が変動が大きくなった場合にはさ 経験と金融商品の活用によって潜在的にはシ らに高度で、積極的なアプローチを採用して ナジー効果をもたらすことができるであろう。 いくことが一段と必要になるであろう。 約3分の1の回答者は、カウンターパーティ 大きな注目をひくのは商品リスクに対するア リスクを管理していない、あるいはカウンター プローチである。過半数(66%)の回答者は パーティリスクが存在しないと捉えている。 商品リスクを抱えていると回答したが、その中 この事実は、前のセクションの「主要な財務 で比較的高い割合(36%)の回答者がこのリ リスク」で述べた調査結果と一致し、カウン スクの管理を行っていないと回答した。前章 ターパーティリスクは他のリスクと比べると、 でも記載したが、商品リスクはさまざまなマー 重要度が低いと言える。 ケットで大きく価格が変動する。理由としてい 財務リスク全般に対する回答者へのアプ ローチ(標準的、行動的、積極的)を調査し たものである。 約半分の企業はリスク管理において標準的アプローチを採用 金利リスク 為替リスク 6% 9%3% 21% 標準的 行動的 8% 積極的 42% 5% 何もしない 55% 26% 不明 26% 商品リスク 16% 信用リスク 流動性リスク 10% 11% 7% 27% 9% 22% 13% 36% 8% 46% 8% 22% 50% 14% 標準的アプローチ:裁量権が少なく、機械的にヘッジを行うアプローチで、財務機能には限られた決定権しかない 行動的アプローチ:原資産の市場価格の動き(例えば、マクロ経済)に影響を与える要因をヘッジを行う際の判断に使うダイナミッ クなアプローチ。 積極的アプローチ:市場における収益機会と企業の収益・キャッシュフローの最大化を目的として、サプライチェーンを含むビジ ネス戦略や活動に対して適用するダイナミックなアプローチ。このアプローチでは、経営陣の意思決定は、機 械的画一的ではなく、リスクとリターンの組合に基づいて実施される。 16 Transforming challenges into opportunities 調査結果では、アジアの会社が、リスク管 理において、時価評価(Mark to Market) 、財 務予測、想定元本アプローチといった伝統的 な手法を利用していることが分かった。わずか 3分の1の会社がより高度な技術である、シナ リオ分析、ストレステスト、ギャップ分析を利 用している。バリュー・アット・リスク(VaR) やバックテストはほとんど利用されていない。 これまで、高度なリスク管理は、規制上の 資本基準を満たし、リスク資産の収益最大 化を目指している金融機関の専門領域であっ た。しかしながら、2008年の金融危機以降、 為替レート、金利変動の拡大、流動性の確保 ができる状況が変化したことを受けて、企業 が満たさなければならないリスク管理の水準 は高まった。今後、企業がリスク管理技術の 水準を高めていくことが一段と必要となるで あろう。こうした状況が実現されれば、企業 はダイナミックかつ事前にリスクを予想し管 理することができるようになるため、財務面 での改善を推進できるようになるであろう。 リスク管理手法 財務予測 74% 時価評価 15% 16% 72% 想定元本アプローチ 43% シナリオ分析 36% 37% ギャップ分析 39% 33% ストレステスト バックテスト 10% 47% 9% 0% 15% 49% 27% バリュー・アット・リスク 14% 39% 28% ストレステスト 7% 14% 62% 10% 20% 30% 40% 15% 50% 60% 70% 80% 実行 考慮したことなし 将来の採り入れを検討 不明 財務・資金の責任者が注目するリスク管 理は、企業のエクスポージャーの管理にお いては重要であるが、財務・資金の責任者 の負う責任は財務リスクの洗い出しやリス クを和らげるものだろうか、それともそれ以 上のものだろうか?企業の財務・資金の責 任者は、事業リスク管理についても責任を 負うのだろうか? ビジネスとビジネスを取り巻く環境は各種 の規制の下でより複雑になっており、財務・ 資金の責任者は、会社が戦略的優位性を保 つために、純粋に財務リスクだけに留まらず 幅広いリスクを課題として捉えている。 4% 7% 3% 9% 15% 10% 13% 13% 12% 14% 90% 100% 全社的リスクマネジメント(ERM)の主要概念 ・リスク管理と企業戦略を可能な限り融合させた上で、個々のリ スクやコンプライアンス事象に対して戦術的な対応をしていく ことでビジネスを改善したり、ITガバナンスを向上させる。 ・対応部署や責任者を特定し、責任の所在を明確にし、ビジネス をスムーズに遂行する。 ・内外ステークホルダーからの要請事項を適切にバランスさせる (国ごとにバラツキのある当局規制のギャップを埋めることを 含む) 。 ・リスク管理を促進し、限られた経営資源をより効率的に活用する。 ・リスクデータの利用方法を改善しながら、リスクの特定、分析、 モニタリング、リスクへの対応を行うことによって、企業価値 の向上に寄与する。 ・規制当局や格付機関に迅速に対応する。 ・リスクの観点からビジネス機会を追い求める風土を醸成する。 アジア企業のトレジャリーサーベイ 2014 17 財務リスク管理 6 ヘッジ会計の適用 近年の金融相場環境の大きな変動を経験し た多くの企業は、リスク管理戦略の必要性を 認識し、デリバティブを使用して、為替リス クや金利リスク、コモディティ―リスク、カ ウンターパーティーリスクといったリスクを ヘッジ対象としてリスク管理戦略に基づいた 管理が行われている。 多くの企業にとってヘッジ 会計の採用は重荷であり複 雑と捉えられている。 ヘッジ会計を適用しない理由として、以下 の理由が挙げられている。 ・財務諸表への影響が僅少であるため(29%) ・規 制や基準による要件が複雑であるため (17%) ・管理負荷が高いため(16%) 一方で、リスク管理は実行しているものの、 ・システムが対応していないため(16%) ヘッジ会計を適用していない会社は53%に システム対応していないとの回答は、中規 上っている。ヘッジ会計は、リスク管理用に 利用されているデリバティブが公正価値評価 模・大規模企業(12%)よりも小規模企業 されることで生じる損益変動を減少させるた (20%)の方が高い結果となっている。これ は、小規模企業が事業の発展段階にあり、ト めの会計処理である。 レジャリー関連のシステム投資よりも、他の 投資が優先されているということが理由とし て考えられる。 主要なエクスポージャーの管理状況は以下 のとおり。為替リスク(89%) 、金利リスク (73%) 、コモディティリスク(48%) 現在、ヘッジ会計を採用していますか? ヘッジ会計を採用していない理由 29% 影響が僅少 規制や基準による 要件が複雑なため いいえ 53% はい 46% 17% 管理負荷が 高いため 16% システムが対応 していないため 16% 複雑なデリバティブ を利用しているため 9% 7% その他 不明 1% 18 Transforming challenges into opportunities ダイナミックヘッジ 戦略採用のため 5% 0% 20% 40% IFRSによる新しいヘッジ会計基準は シンプルなものとなる可能性 経理、財務担当者、役員、投資家やアナ リストなどの利害関係者は、既存のヘッジ会 計基準を適用するインセンティブが少ないと 考えている。ヘッジ行為自体は経済的に合理 性があるとしても、ヘッジ会計を適用するた めには、適用が複雑なので、不可能である か、もしくは膨大な費用がかかる。結果とし て、ヘッジ会計を適用しない選択をすること で、財務諸表の多大な変動をもたらす結果と なっている。このような結果を踏まえ、 IASBは、 世界的な金融危機の発生以降、よりリスク管 理活動の実態を適切に財務諸表に反映するた めに、ヘッジ会計を簡素化し、整理するため に、新しい会計モデルの作成に取り組んでき た。新しいヘッジ会計基準は、2013年11月 に公表され、右下のような変更を含んでいる。 全体として、新基準は、旧基準の欠陥を補 完するとともに、リスク管理と会計の整合性 を高め、より簡便的な取り扱いを可能にして いる。新基準の公表により、多くの改善がな されているため、以前はヘッジ会計の適用を 断念していた企業も、新基準の要件に基づき 再度検討を行うことで、今後はヘッジ会計を 適用可能となる可能性もある。 調査の結果、多くの企業がヘッジ会計を適 用するための障害としてシステム上の課題を 挙げている。今日の多くのトレジャリー・マ ネジメント・システムは、ヘッジ会計の適用 要件の大部分を満たしており、すでに新しい 会計要件に対応するための機能を開発し始め ているシステムも存在する。アジアの企業が 効率的な財務・資金管理活動を実現するため の一つのソリューションとしてトレジャリー・ マネジメント・システムを導入し、ヘッジプ ロセスの自動化や会計システムとのストレー ト・スルー・プロセシング(STP)を実現す ることも考えられる。具体的に言うと、文書 化や手作業による有効性テストにかかる労力 を削減することが可能となり、実際の財務リ スクを管理するための時間に多くの時間を割 り当てることが可能となる。 新しいヘッジ会計基準の主な変更事項 ・批判の多かった有効性の評価方法(80%から125%の有効性テ スト)を削除した。 ・デリバティブを他の適格なヘッジ対象と合わせてヘッジ対象と して指定することが可能。外貨建て債券を発行する企業や金融 機関で為替リスクと金利リスクを管理している企業にとってはメ リットとなる可能性がある。 ・非金融商品の構成要素の一部について、一定の基準を満たすこ とにより個別にヘッジ対象に指定可能。エネルギーや資源業界、 もしくは多数のコモディティを扱う企業にとってメリットとなる 可能性がある。 アジア企業のトレジャリーサーベイ 2014 19 銀行取引関係管理 7 銀行取引関係の見直し 60%以上の企業のキャッシュ マネジメントのコアの銀行は 3行あるいはそれ以下である。 結果をみると、60%以上の回答者はキャッ シュマネジメントで使用するコア銀行の数 は3行以下という回答をしている。いずれの 国においても同様の傾向がある。アジアの 企業が地場銀行と長期間にわたって関係を 築いてきたという長期的な視点と一致し、純 粋な取引関係をみるだけではなく、強固にク レジットラインを支えてくれる少数のコア銀 行との長期的関係を築こうとしていることを 意味する。 国別のコア銀行の数(%) 70% 60 60% 57 50% 40% 40 38 38 30 30% 31 25 20 20% 20 20 10 10% 25 24 20 15 13 1313 20 29 22 14 16 12 8 7 12 13 1212 8 4 0% 中国 1 2 香港 3 4 インドネシア 5-7 8-10 >10 20 Transforming challenges into opportunities 日本 マレーシア シンガポール タイ % 財務の責任者は、銀行と長期的取引関係の 構築することが大事であるが、銀行が提供す るサービスの価格、質、メニューの多さを吟 味するようになってきている。アジアでは、 企業が定期的に銀行に提案依頼書(RFP)を 出状するのは一般的ではない。RFPは、流動 性管理を強化したり、銀行借入枠を増枠さ せたり、自己資金へのアクセスを高める効果 がある。RFPを出せば、会社は、銀行サービ スのコストを低減させたり、より効率のいい キャッシュマネジメントを導入することがで きる。アジアのような新興国では、マーケッ トの多様性、規制の多さ、通貨の管理を鑑み ると、財務担当者が全ての地域を一つの銀行 でカバーすることは現実的に難しいだろう。 企業がキャッシュの見える化と管理の強化、 銀行取引コストの削減を目指しているので、 財務の責任者はオペレーション効率と財務効 率のバランスを考えなければならない。調査 の結果から、中規模の企業と比べて大企業ほ どコアバンクの数を絞りこむ傾向があること が分かり、大企業が銀行取引関係の見直しに 着手し始めたことを示唆している。 企業規模別のコア銀行数の割合 40% 35% 35% 30% 28% 25% 25% 25% 22% 20% 20% 20% 25% 18% 14% 15% 11% 10% 10% 10% 9% 8% 5% 2% 2% 0% 小規模 (1億米ドル未満) 中規模 (1億米ドルから10億米ドルまで) ■1 1 2 3 4 ■2 ■3 9% 6% ■4 ■ 5-7 ■ 8-10 大規模 (10億米ドル超) ■ >10 5-7 8-10 >10 アジア企業のトレジャリーサーベイ 2014 21 銀行取引関係管理 8 銀行取引関係において重視すること 回答者に銀行取引関係において七つの項目 のうち何を重視しているかを聞いた。調査の 結果、以下の点が明らかとなった。 かどうか、また、銀行がクライアントのビジ ネスの十分な知識を持っているかという点 であろう。 ・全体として、最も重要な項目は、サービス /アドバイスの質、銀行手数料、銀行サー ビスの価格である。 ・小 規模の企業は、銀行手数料、銀行サー ビスの価格を最も重視している。小規模企 業の財務諸表において銀行手数料は大きな ウエートを占めるため、小規模の企業は、 大規模の企業と比べて、定量的な面を重視 する。 ・中規模および大規模企業はサービス/アド バイスの質を最も重視しており、小規模の 企業でも2番目に重視した項目であった。銀 行としても検討が必要な調査結果である。 ・中 規模および大規模の企業では銀行のカ 前述のとおり、企業は銀行取引を見直そう ウンターパーティリスクを重視していない。 とする傾向がある。銀行にとっての課題は、 大変興味深い結果であり、前の章「リスク アプローチ」を思い起こせば、ここでも、 企業が銀行取引見直しのために提案依頼書 カウンターパーティリスクを重要度が高く を出状した際、クライアントが重要と考え ないと評価している傾向が確認できる。 るサービス/アドバイスの質を把握できる 全体 中規模企業 1 サービス・アドバイスの質 3.62 1 サービス・アドバイスの質 3.58 2 銀行手数料や銀行サービスと価格 3.39 2 銀行手数料や銀行サービスと価格 3.38 3 提供サービスメニューの多さ 3.37 3 企業のビジネスに対する理解 3.32 4 企業のビジネスに対する理解 3.27 4 提供サービスメニューの多さ 3.24 5 カウンターパーティリスク 3.15 5 主要借入先 3.14 6 主要借入先 3.13 6 カウンターパティリスク 3.12 大規模企業 小規模企業 1 サービス・アドバイスの質 3.80 1 銀行手数料や銀行サービスと価格 3.50 2 提供サービスメニューの多さ 3.50 2 サービス・アドバイスの質 3.40 3 銀行手数料や銀行サービスと価格 3.39 3 提供サービスメニューの多さ 3.35 4 企業のビジネスに対する理解 3.30 4 企業のビジネスに対する理解 3.10 5 主要借入先 3.25 5 カウンターパーティリスク 3.10 6 カウンターパーティリスク 3.25 6 主要借入先 3.05 銀行取引関係管理おける項目別重要性(企業規模別分析) 22 Transforming challenges into opportunities 資金調達 9 負債の種類 調査によると、全ての企業で、銀行借入、 コミットメント枠など与信枠の確保、当座借 越が主要な3種類の借入手段である。予想ど おり、会社の規模によっても差があり、小規 模会社と比較して中規模および大規模会社で は社債や株式市場を重視している。特に新興 国においては、多数の小規模企業が、社債発 行プログラムの設定や私募債を利用するのは 難しい。借入規模、 信用情報(格付情報なし) 、 財務インフラ・人材が乏しいのが理由であ ろう。 アジアでは、近年、企業が銀行借入への依 存度を低下させている中、企業が頻繁に社債 を発行している。しかしながら、わずかばか りの例外を除くと、アジアの社債市場は発展 途上であり、市場規模が小さく、流動性も低 い。香港、シンガポール、日本の市場は発展 しており流動性も高いが、インドネシアやタ イの市場は発展の初期段階にある。 アジアにおける社債発行が盛んになり、中 国が人民元の国際化を促進させようとする 動きがあり、さらに拍車をかけている。中国 は香港で人民元建ての国債を発行しており、 ディムサム債として知られている。中国で事 業を拡張している多国籍企業はディムサム債 を中国オペレーションの資金調達の代表例と 捉えており、RMBの資金調達の有力な手段と なっている。 アメリカが低金利の状況であり、ドルベー スの投資家はより高いリターンを求めて他市 場に投資しており、アジア企業は長期かつ魅 力的な利回りで資金を調達できるようになっ ている。欧州で問題を抱えていることから、 多くの投資家は確実な投資を第一優先に考え ている。 アジアの規制当局は、社債市場を発展させ ようとしてさまざまな社債の発行を促進しよ うとしている。アジア開発銀行のアジア社債 を例にとると、ASEANプラス3カ国(中国、 日本、韓国)がこの社債を保証している。こ れは、アジアにおいて効率的かつ流動性のあ る社債市場の発展を狙ったものであり、アジ ア投資家にとって有効な運用先となりうるも のである。 アジア企業のトレジャリーサーベイ 2014 23 企業が社債を発行すれば、銀行からローン 大規模企業 を借りる際に課された制約から解放されるこ 1 銀行借入 とになる。例えば、銀行は貸出の際、企業に 2 コミットメントラインを含む与信枠 多くの制約や契約に同意することを求める。 3 当座借越 融資が完済されるまでは負債を増やすことが 4 トレードファイナンス できなかったり、他社を買収することもでき 5 社債 ないようなコベナンツが含まれることがある。 6 エクイティ市場 前述のような制約により、企業がビジネス上 7 コマーシャル・ペーパー の運営を妨げられ、オペレーション上の選択 8 私募債 肢をも狭める。社債を発行すれば、契約上の 制約も少ない中で、企業は資金を調達できる 9 資産担保借入証券 ようになる。 財務の責任者は、これまで資金調達には銀 行借入のみに頼ってきていたが、アジアの社 債市場のメリットを生かすべくあらゆる手段 を利用するようになってきている。また、ア ジア企業は社債を発行する場合には各種の要 素を考慮しなければいけなくなっている。社 債発行費用、格付取得費用などの社債発行関 連費用、当局、取引所の定めるルールに基づ くこれまで以上のディスクロージャーの要請 への対応を迫られている。 全体 3.43 3.27 2.52 2.45 2.36 1.77 1.59 1.45 1.32 中規模企業 1 銀行借入 3.20 2 コミットメントラインを含む与信枠 2.56 3 当座借越 2.30 4 トレードファイナンス 1.98 5 社債 1.86 6 エクイティ市場 1.58 7 コマーシャル・ペーパー 1.38 8 私募債 1.30 9 資産担保借入証券 1.30 小規模企業 1 銀行借入 3.09 1 銀行借入 2.45 2 コミットメントラインを含む与信枠 2.62 2 コミットメントラインを含む与信枠 2.25 3 当座借越 2.30 3 当座借越 1.70 4 トレードファイナンス 2.01 4 トレードファイナンス 1.05 5 社債 1.82 5 社債 0.95 6 エクイティ市場 1.49 6 エクイティ市場 0.75 7 コマーシャル・ペーパー 1.31 7 コマーシャル・ペーパー 0.65 8 私募債 1.27 8 私募債 0.60 9 資産担保借入証券 1.15 9 資産担保借入証券 0.50 負債の種類別利用状況 24 Transforming challenges into opportunities 資金調達 10 資金調達管理戦略 世界的金融危機以降、財務・資金の領域 では、戦略的または経営ニーズに沿った流動 性の確保を重視するようになった。資金調達 管理戦略についての調査結果では、数年間 にわたり、資金の調達環境が圧迫されてい たことから、企業は資金調達方法を多様化さ せていることがわかる(回答者の19%) 。例 資金調達方法 の多様化 短期間での ロールオーバー 19% 不明 8% 20% その他 1% 12% 21% 余剰資金 の保有 満期の把握 (最長と最短) 18% 資金調達の償還日・ 満期日の分散 を挙げると、借入や金融資本市場からの資金 調達はここ数年順調に伸びてきており、転換 社債や永久債の発行が銀行借入の代替手段 として普及してきている。前章で論じたこと と重なるが、特定の資金調達手段に偏りすぎ ればその資金調達手段が機能しない場合に大 きなダメージを被ることになるので、財務の 責任者は資金を遅滞なく回せるよう、あらゆ る種類の資金調達方法を確保しておく必要が ある。 資金調達手段の多様化に加え、回答者は、 資金調達リスク管理のため、短期間でのロー ルオーバ―を実行し(20%) 、資金調達償還 日・満期日を分散する(18%)といった戦略 を採り入れている。財務の責任者が多額の長 期負債を一度に調達してしまうと、再調達す るタイミングが資金調達側、あるいは資金提 供側にとって悪い時期と重なれば、受け入れ 難いリスクに直面することになる。約21%の 回答者は資金調達リスクに直面しないために 余剰資金を保有している。必要以上の余剰資 金を保有することは、決して資本構成の最適 化とは言えないが、ベストプラクティスとして 企業は予想される資金繰り予測とそのブレを 勘案したうえ、必要最低限の流動性を保つこ とを求められている。 アジア企業のトレジャリーサーベイ 2014 25 運用 11 余剰資金の運用 全 て の 企 業 規 模 の60% 超 の企業は銀行預金とマネー マーケット預金を運用手段 として好んでいる。 圧倒的に、企業の規模を問わず60%を超 える回答者は、銀行預金とマネーマーケット ファンドを運用手段として利用している。国 債、社債そしてCPのような運用商品を銀行預 金やMMFと同じくらい重要と思っている回答 者は、ほとんどいない。調査の結果、アジア 市場で銀行預金にとって代わる商品が限られ ていること、銀行預金以外の運用商品の流動 性 のリスクリターンのプロファイルに関して は、保守的な経営者のリスク選好度を反映し ていると言えよう。 投資において重視するポイント security(安全性) 2nd 3rd 10% 3% liquidity(流動性) 1st 1st 3rd 87% 9% 24% 2nd yield(収益性) 1st 3% 2nd 23% 3rd 74% 26 Transforming challenges into opportunities 67% 今日、アジアで活動している多くの企業は、 銀行預金以外の運用手段が少ないこと、中国 やインドのような、規制が厳しい金融市場で 種々の問題に直面している。規制と資本市場 の面で、透明性が確保されているアメリカや 欧州のような成熟した市場ではない。銀行が 常に新しい商品を提供、刷新するよう期待さ れているが、中央銀行による規制があり、次々 に商品が生み出される環境ではない。例えば、 ある国では、一定の運用期間を経過して初め て投資利回りが生まれることもある。一方、 他の国では、運用を中途解約することは簡単 にできないこともあり、デフォルトのリスクも ないとは言えない。 運用する際に、security(安全性) 、liquidity(流動性) 、yield(収益性)という運用原 則でどれが最も重要かと選択してもらった。 90%近くの回答者がsecurity(安全性)が最 も重要であると答え、次にliquidity(流動性) が9%、yield(収益性)が3%という順番と なった。 驚くまでもないが、運用資金の保全と満期 時に全額償還されることが大多数の回答者の 最大の関心事である。前述したように運用手 段が限られているので、アジアの会社は、社 債やCPなどまたは仕組み商品で運用したり、 リスクを取ることにあまり関心がない。 多くの企業では、カウンターパーティーリ スク許容管理や与信管理を十分行う機能がな いので、銀行預金やMMF以外で運用した際 は、一般論として、リスクとリターンを正当 化できないと思われている。 将来、前述の三つの運用原則の重要度が大 きく変わるかどうか興味深いところである。 特に、アジア市場で、より多くの金融商品が 自由化されているので、これまで利用してき た銀行預金やMMF以外に運用していくような 時代が来るかどうか注目して行きたい。 キャッシュマネジメント 12 アジアにおける主要なキャッシュマネジメント活動 金融危機時に欧州および米国で、流動性 が著しく損なわれたため、キャッシュの見え る化と管理は、世界中の企業にとって重要に なってきている。資金繰り予測、運転資金管 理、資金集中は最重要分野である。調査結果 からは、外部資金調達に悪影響があった経験 を踏まえ、内部資金を有効利用することが重 要と考えられている。 逆に、今回の調査結果では、3分の1以下の 企業のみがキャッシュ残高をリアルタイムで 把握できているという結果となった。現在の 技術では、銀行のシステムと接続する際に制 約があるため、リアルタイム残高把握の程度 が低かったのではないかと考えらえる。精度 の高い資金繰り予測を作成するには、常にリ アルタイムでの資金繰り残高を把握すること から始めなければならないし、実現すれば、 アジアの財務・資金の責任者は資金繰り予測 を大幅に改善をすることができるであろう。 資金繰り予測は財務・資金においては永遠 の最優先課題である。資金繰り予測が重要な のは、将来のキャッシュポジションを決める プロセスであり、財務・資金の責任者が潜在 リアルタイムのキャッシュポジションの 的な財務のニーズや機会を見出すものだから 入手時期 である。しかしながら、正確かつタイムリー な予測を構築するには、財務・資金以外の情 翌日末 報も入手しなければならない。この情報を取 得・照合する際は、時折、技術的、文化的、 組織的な問題に遭遇することがある。資金繰 り予測の範囲、頻度、粒度、説明力などの部 常に入手 分で常にさまざまな議論が交わされている。 どの方法が最適かという議論がある一方、資 金繰り予測の目的が異なれば作成方法も異な ることも理解しておかなければならない。直 毎月末 近の流動性の確保から始まり、短期のキャッ シュマネジメントから長期の運転資金管理や 必要資本など多岐にわたる。 49% 10% 32% 5% 主要なキャッシュマネジメント活動 1 資金繰り予測 3.79 2 運転資本 3.53 3 流動性管理 3.38 4 資金集中 3.38 5 資金調達 3.29 6 銀行取引関係管理 3.26 7 取引先への支払い 3.24 8 銀行インフラの管理 2.85 9 余資運用 2.69 4% 毎週末 その他 アジア企業のトレジャリーサーベイ 2014 27 キャッシュマネジメント 13 資金集中 資金集中の手法としては、資金の移動を伴 うスイープ(アクチャルプーリング)や資金 の移動を伴わないプーリング(ノーショナル プーリング)がある。さらに高度化された方 法として、企業内銀行、ペイメントファクト リー、コレクションファクトリーなどがあり、 ここ数年注目が高まっている。グローバルの 金融危機により、レベレッジレシオを高める ことで借入コストを増加させる可能性がある 外部資金に頼る代わりに、内部資金を有効利 用することに関心が集まった。 資金集中のストラクチャーを 導入済みですか? いいえ 44% はい 54% こうした手法を地域あるいはグローバル ベースで導入していけば、有効活用できる キャッシュは増え、銀行口座の仕組みを単純 化でき、銀行取引コストは削減でき、キャッ シュの見える化や管理強化も行えることにな る。しかしながら、全てのアジア諸国で資金 集中が行えるわけではなく、金融規制や税務 上の影響も考慮しなければならない。 調査結果によると、40%以上の回答者は 資金集中の仕組みを導入していないことがわ かった。その内、86%は小規模あるいは中規 模の会社である。 理由としては、以下のとおりである。 ・アジアにおける統一税務ルールが存在しな い、規制が厳しい ・ダイナミックな経済環境の変化。財務と金 融規制が常に変更される(中国、インド) ・多くのアジアの国における外為規制と中銀 報告の存在 たぶん 3% ・立法制度の透明性の欠如、国家間の商慣習 の不統一 ・国外に自由に移動できない資金 しかしながら、近年で変化したと思うこ とは、取引銀行が提供する流動性ストラク チャーの高度化、アジア新興国通貨(例えば RMB)にみられるような自由化・国際化、一 部の国で財務・資金業務の集中化を促進する ために政府が認めた財務・資金センター設立 時の優遇措置(シンガポールやマレーシアで は財務・資金サービスの資格を取得すれば減 税あるいは免税となる)などがある。会社に とっては、キャッシュと流動性管理の戦略を 充実化できるため、チャンスでもある。財務・ 資金の責任者は、最新の規制や新興国の規制 を把握するようにしなければならない。 28 Transforming challenges into opportunities トレジャリー・マネジメント・システム 14 アジア企業はトレジャリーテクノロジーを 有効活用しているか? 調査によれば、 50%を超える会社がトレジャ リー・マネジメント・システム(TMS)を利 用しておらず、大多数はExcel(表計算ソフト) 利用にとどまっている。TMSを持っている会 社であっても、基本的な機能のみを利用して いるようだ。今回調査をしてわかったことは、 9%の会社のみがTMSとリスクマネジメントを 関連付けていることである。せっかくトレジャ リー・マネジメント・システムにはさまざま な機能があるにもかかわらず、TMSを有効活 用できていないことを示唆している。 53%の企業はTMSを利用し ていない。 逆に、トレジャリーテクノロジーを利用し ているのは、アジア地域では61%が大企業で ある。国別では、香港、シンガポール、中国 の会社によるTMS利用率が高い。中規模企業 (44%) 、小規模企業(25%)のTMS利用が 低いのは、購入する予算がなく、テクノロジー に投資するほどの 規模の経済がないことが挙 げられる。 TMSの重要性は過小評価されてはならない し、成長企業の経営幹部はTMSを導入する必 要性を再評価しなければならないであろう。 金融危機後の欧米企業の財務責任者は、ス ピード感を持って財務を変革できるよう財務 テクノロジーへの投資を承認するよう経営者 を日々説得している。金融経済危機の最中に あって金融リスク管理や財務オペレーション をExcelのみに頼るのは心もとない。アジアの 財務責任者は、多くの国々で事業を行ってい るので、複雑で大きなリスクに直面せざるを 得ず、正確で完全なデータを遅滞なく入手し、 高度化されたリスク分析やレポートを入手し て初めて優れた判断をすることが可能となる。 さらに、テクノロジーを利用しないと、財務・ 資金担当者は付加価値が高い戦略を策定する のではなく、むしろ取引活動を報告するため に入出金や預金残高を入手したりするような アジア企業のトレジャリーサーベイ 2014 29 単純作業に多くの時間を割かざるを得ないか もしれない。TMSを利用すれば、タイムリー な資金ポジションとキャッシュフロー予測情 報を把握できるため、受取利息を最大化し、 支払利息を最小化することもできる可能性が ある。経営者も財務・資金に関する統制環境 を改善したいとの要望がますます強くなって きているが、Excelではこのような要望を満た すことはできない。 前述のようにテクノロジーが財務・資金活 動を改革し、または財務・資金への信頼性を より向上させるので、テクノロジーの果たす 役割は大きい。しかしながら、TMSの導入や アップグレードまたは利用範囲の拡大には財 務・資金機能の規模、複雑性、中期的な財務 機能の役割を考慮に入れて、慎重に計画し、 その上でビジョンを策定し、デザインしてい く必要がある。 TMSを導入すれば、以下のような利点がある。 ・自動化された通知機能や承認およびコンファームの職務分掌を 含んだ統制を実施し、資金・財務に関する統制環境を改善する ことができる。 ・TMSへの情報入力は一度だけでよく、原データを使いまわすの で、手作業は最小限となり、STP(ストレート・スルー・プロ セシング)率が向上し、プロセスが効率化する。 ・より高度化されたリスク管理分析と意思決定者のニーズに応じ たレポートの作成ができる。 ・キャッシュマネジメントの強化による借入コストの削減。 ・いつでも簡単にレポートが作成できるため、人手によるレポー ト作成の不要な手間を排除し、その時間を実際の財務・資金リ スク管理やその他の業務に充てることができる。 ・情報管理と監査証跡管理の向上が図れる。 30 Transforming challenges into opportunities 将来の高度化について 15 アジアの財務・資金担当者は何を変えようと しているか? 今回は、アジアの財務・資金担当者へ現在の財務・資金活動についての満足度と近い将来 に実施しようとしている事項について調査した。下記は回答者の満足度が低い事項や関心を 持っている事項である。 人事 キャッシュマネジメント 今回の調査では、ご回答いただいた117企 業の内、23%の企業のみが財務・資金活動 の人事管理に満足しているとの回答を得てい る。これは大変低い割合であり、理由として は財務・資金活動を担う人材が不足している 可能性があると考えられる。 キャッシュマネジメント/流動性管理は最 も重要な財務・資金活動の上位2項目である。 資金・財務担当者は激動の時代でもビジネス を守り、継続していかなければならないので、 資金を手当てすることが必要である。 しかしながら、資金の確保が重要であるに – 金 融危機からの立ち直りの過程であることや もかかわらず、52%の企業は自社のキャッシュ アジア経済と企業の急速な発展により、 財務・ フロー予測プロセスに自信がなく、32%の企 資金活動に関する十分な知識を備えた人材 業が資金状況の把握に、28%の企業が資金の を採用することが難しく、人手不足である。 集中管理に満足していないと回答している。 – 財 務・資金に関するスキルだけでなく、会 計、税務、海外業務に理解のある人材を獲 得することは困難である。今日の資金・財 務を取り巻く複雑なリスク管理を遂行する のに必要な専門性を身に着けることへの期 待が高まっている。 – 財 務・資金部門の人員予算は昔から制約さ れてきた。財務・資金活動は、出納などの 業務処理主体の資金部門のみを中心に行わ れていたためだ。 上記の分析で分かったことは、財務テクノ ロジーを活用して、資金予測能力や流動性管 理を向上させるためシステム投資をしていく 必要性を経営者に説明するのに、説得力のあ る投資対効果を作成しなければいけないこと を裏付けている。 既存の財務・資金 の人材に満足 23% 資金の見える化 に不満足 32% 52% 資金繰り 予測に不満足 資金集中 に不満足 28% あらゆる会社の財務活動の共通点は一つ:有能な財務・ 資金担当者を求めていること。 54% 22% 満足 していない 不明 しかし、現在の雇用情勢では財務・資金活動にふさわし い専門性を備えた人材の獲得は困難であり、人事部門で はふさわしい人をふさわしい予算で獲得することが重要と なる。 アジア企業のトレジャリーサーベイ 2014 31 リスク管理 回答者の50%は、全体としてリスク管理の 実施状況に満足していない。リスク管理の方 法論、ツール、評価方法の欠如や、事業リス ク管理概念の未発達といったところが要因で あろう。 クスポージャーを効率的に管理できるかとい う点について、真剣に検討していく必要があ るであろう。 トレジャリー・マネジメント・システム 財務資金の主要な管理手段として39%の 企業はExcelを利用し続けている。49%の企 上記の状況にも拘わらず、不満足と答えた 業はトレジャリー・マネジメント・システム 約40%の回答者はリスクマネジメントの実施 (TMS)を使用しているが、現状のシステム 状況を近い将来に変更するつもりがないよう に不満を感じている。 である。財務の責任者は予算や人的要員や設 欧州や米国と同様に成熟している市場で、 備が制約されていることからアクションでき ないのだろうか?それとも現在の実践状況は 他のビジネスシステムとの接続、銀行との接 おおよそ目的に叶っており急いで変更を行う 続などで、TMSを利用する動きがある。 必要はないのだろうか? 効果的にTMSを使えば自動化が進み、プロ セスは効率化され、分析や報告の高度化が進 み、企業における決定を助けることもできる。 50%の企業はリスク管理と TMSに不満足と答えた。 回答者は高い割合で不満足としており、財 務・資金の責任者が現在のマーケット環境に おいて適切な手順を熟知し、正しい手段を持 ち合わせているのだろうかという疑問を持た ざる得ない。今日、財務の責任者が管理する べきリスクは増大し続けている。財務・資金 の責任者は、財務的なリスクからオペレーショ ン的なリスクや戦略的なリスクに至るまで幅 広い事項をカバーしなければならない。財務・ 資金の責任者は、伝統的な方法論やアプロー チを採用することが今日でも意義を持ち、エ 32 Transforming challenges into opportunities 財務テクノロジーを利用すれば、明ら かに利点があり、財務・資金の責任者は TMSの利用拡大によるコストベネフィッ トをもっと考慮していかなければならな い。システム投資の拡大の承認を取るに は、財務・資金の変化への感応度を高め たり、リスク管理の改善に繋がることを 経営者に説明していかなければならない。 各国連絡先 シンガポール Voon Hoe Chen Partner +65 6236 7488 [email protected] Liew Wai Meng Associate Director +65 6236 7060 [email protected] 香港/中国 Ian Farrar Partner +852 2289 2313 [email protected] インドネシア Cliff Rees Partner +62 21 528 90550 [email protected] 日本 伊藤 嘉昭 あらた監査法人 パートナー +81(0)90 6486 2845 [email protected] マレーシア William Mah Partner +603 2173 1146 [email protected] タイ Vorapong Sutanont Partner +66 2 334 1429 [email protected] 福永 健司 あらた監査法人 ディレクター +81(0)80 3727 1563 [email protected] Jasmine Tan Associate Director +65 6236 3237 [email protected] www.pwc.com/jp PwCは、世界157カ国に及ぶグローバルネットワークに184,000人以上のスタッフを有し、高品質な監査、税務、アドバイザリーサービスの提供を通じて、企業・団体や個人 の価値創造を支援しています。詳細は www.pwc.com/jp をご覧ください。 PwC Japanは、あらた監査法人、京都監査法人、プライスウォーターハウスクーパース株式会社、税理士法人プライスウォーターハウスクーパースおよびそれらの関連会社の 総称です。各法人はPwCグローバルネットワークの日本におけるメンバーファーム、またはその指定子会社であり、それぞれ独立した別法人として業務を行っています。 本報告書は、PwC メンバーファームが2014年4月に発行した『Transforming challenges into opportunities: Asia Corporate Treasury Survey 2014』を 翻訳したものです。翻訳には正確を期しておりますが、英語版と解釈の相違がある場合は、英語版に依拠してください。 電子版はこちらからダウンロードできます。 www.pwc.com/jp/ja/japan-knowledge/report.jhtml オリジナル(英語版)はこちらからダウンロードできます。 www.pwccn.com/home/eng/asia_corporate_treasury_survery2014.html 日本語版発刊月:2014年7月 管理番号: I201406-2 ©2014 PwC. 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