...

2020: R&D ファーマ バーチャル

by user

on
Category: Documents
12

views

Report

Comments

Transcript

2020: R&D ファーマ バーチャル
Pharmaceuticals and Life Sciences
ファーマ 2020: バーチャル R&D
岐路に立つ医薬品業界
Pharma 2020: Virtual R&D
1
目次
イノベーションの本質
1
自己の理解
4
研究予見性の向上
6
開発の促進
9
新製品上市における連携
15
変化に求められること
18
謝辞
19
参考文献
20
連絡先
21
「ファーマ2020: バーチャルR&D−岐路に立つ医薬品業界」は、プライスウォー
ターハウスクーパースが発行する医薬品業界展望シリーズの第 2 弾である。
2007年 6 月に発行した「ファーマ2020: ビジョン−岐路に立つ医薬品業界」では、
今後13年間に医薬品業界が直面するであろう主要な問題をハイライトし、製薬
企業による株主および社会へのさらなる価値提供の潜在的可能性を現実のものと
するため、プライスウォーターハウスクーパースが最良と考える変化について概
説した。
本書では、研究開発プロセス改善の機会に詳細な検討を加える。ここでは特に、
新技術により実現が可能になるバーチャルR&Dを提唱している。また、社会との
連携、研究者、政府、医療費支払者および医療サービス提供者との協力関係をよ
り強固なものにすることにより、医薬品業界が刻々と変化する社会の需要に、よ
り効果的に対応できることを示している。
イノベーションの本質
医薬品市場の再構築をもたらす 7 つの主要な動向
医薬品市場は劇的に変化しており、この変化は医薬品業界全体にも大きく波及し
ている。社会的、経済的側面において、その要因となる 7 つの動向を特定した。
増大する慢性疾患負担
あいまいになる医療の境界線
糖尿病などの慢性疾患は、世界各地で
増加傾向にある。長寿化に伴い、多く
の国で現役を引退する年齢が上昇傾向
にあることから、慢性疾患発症時に就
業しているケースがより増えることに
なると思われる。そのため、慢性疾患
治療の社会的および経済的価値が上昇
する一方、医薬品業界は医薬品を低価
格で大量に販売する必要に迫られるだ
ろう。多くの国の人々は、現状のまま
では医薬品を購入できない事態に陥る。
臨床技術の進歩に伴い、かつての死に
至る病が慢性症状で抑えられるため、
プライマリケア分野が拡大している。
また、処方薬のOTC化が進んでいる
ため、セルフメディケーション分野も
成長を続けている。これに伴い、患者
の需要にも変化が見られる。治療の主
体が医師から補助的ケアやセルフケア
に移行すると、より総合的な情報が患
者から求められることになる。また、
治療が病院からプライマリケア分野に
移行するのに伴い、在宅医療などの新
規サービスに対する需要も増大すると
予想される。
保健医療政策立案者および医療費支払
者からの医師に対する処方指定の強化
個別の処方決定から、治療プロトコル
の利用へと変化が起こっているため、
医薬品業界がターゲットとする層は1
つにまとまり、強力な集団になりつつ
ある。将来的には、営業・マーケティ
ングモデルもこの変化に大きく影響さ
れる可能性がある。医薬品業界は収益
増を目指すことはもちろん、医療費支
払者および医療サービス提供者とも連
携していく必要があり、患者の服薬遵
守の向上も図っていかねばならない。
成果に応じた支払の拡大
複数の医薬品の薬剤経済学的評価を
行う医療費支払者が増えている。電
子 カ ル テ(EMR: Electronic Medical
Records)の普及に伴い、アウトカム
データが医療費支払者側でも入手でき
るようになると、最善の医療措置や利
用を控えるべき製品(同等の治療法と
比較して高価格または低効果の製品)
を判断の上、実際のアウトカムに基づ
いて支払額が決められる。従って、製
薬企業は自社製品の効果を実際に証明
し、支払う金額に見合った価値を提供
し、他の治療法に対する優位性を示さ
なければならない。
Pharma 2020: Virtual R&D
医薬品業界は、転換期を迎えている。
プライスウォーターハウスクーパース*
が2007年 6 月 に 発 行 し た「 フ ァ ー マ
1
にも記載がある通
2020: ビ ジ ョ ン 」
り、医薬品業界を取り巻く社会的、人
口動態的および経済的環境は大きな変
化の途上にある(欄外補足記事「医薬
品市場の再構築をもたらす 7 つの主要
な動向」を参照)
。有望な新規化合物
がパイプライン上に不足していること
と相まって、状況は混迷の度を深めて
いる。
今後12年間に医薬品需要の急成長が
見込まれる途上国市場における多様性
への対応
発展途上国では、それぞれに異なる臨
床的、経済的特徴があり、保健医療シ
ステムや知的財産権保護に対する姿勢
もさまざまである。これらの市場に進
出して、
成果を上げようとする企業は、
個々の需要に応じた戦略を立案しなけ
ればならない。
政府の関心が治療から予防医療へ移行
する一方で、依然として不十分な予防
的措置への投資
重点領域の移行は医薬品業界に健康管
理全般への参入機会を提供する。しか
し、保健医療従事者および患者が、医
薬品業界は自分達と関心事を深く共有
していると確信しない限り、医薬品業
界は健康管理全般のサービスを提供す
る業界としての信頼を勝ち得ないた
め、参入には企業イメージの再構築が
必要となる。
規制当局のリスク回避傾向
*
バイオックス(Vioxx)問題の発生以降、
主要な規制当局および国際機関では、
革新的医薬品の承認に、より慎重にな
る傾向が見られる。
「プライスウォーターハウスクーパース」と
は、プライスウォーターハウスクーパース・
インターナショナル・リミテッドのメンバー
ファームによって構成されたネットワークを
意味し、各メンバーファームはそれぞれ独立
した法人です。
1
さらに、1990年代の黄金期に取得し
た医薬品特許が今後数年以内に失効す
るため、大手製薬企業各社は強い危機
感を抱いている。米国の調査会社であ
るサンフォード・C・バーンスタイン
(Sanford C. Bernstein)の試算による
と、2015年までの期間で、後発品の
参入による上位10社の収益損失は 2 ∼
40%になる(図 2 参照)。さらに悪い
ことには、特許切れによる損失を十分
に補える製品候補がパイプラインにあ
る企業は、10社中 4 社のみである3。
2
図1: R&D生産性の低下
50,000
60
45,000
50
40,000
35,000
40
30,000
25,000
30
20,000
20
15,000
10,000
10
NME、BLA 承認件数
研究開発費(百万米ドル)
従来医薬品業界では、いくつかの化合
物に多大な投資をして、大々的な販売
促進によりブロックバスターへと育て
上げ、その収益を長期間にわたり株主
に還元するという戦略が採用されてき
た。しかし、どちらかといえば一般的
で治療の簡単な疾患から、複雑あるい
はまれな疾患に対象が移行したことか
ら、研究の生産性は急激に低下してい
る。2007年、
米国食品医薬品局(FDA)
により承認された新規化合物および生
物 学 的 製 剤 は わ ず か19件 で あ り、
1983年以降もっとも低い数字を記録
した(図 1 参照)2。
5,000
0
0
1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004* 2005* 2006* 2007*
生物学的製剤を含む
グローバル研究開発費
*
NME および生物学的製剤(BLA)
新規承認数
NME:
新規化合物または生物製剤を使った処方治療薬。ワクチン、抗原および新成分が
まったく含まれない併用療法を除く。
出典: FDA CDER、PhRMA and PricewaterhouseCoopers analysis
PricewaterhouseCoopers
図2: 後発品参入によるビッグファーマの収益損失
会社名
基礎収益概算
(百万米ドル)
2008年
2015年
変動率(%)
ノバルティス
(Novartis)
$40,529
$45,714
13%
シェリング・プラウ
(Schering Plough)
$20,595
$20,216
(2%)
ワイス
(Wyeth)
$22,367
$20,537
(8%)
グラクソスミスクライン
(GlaxoSmithKline)
$22,858
$20,294
(11%)
サノフィアベンティス
(Sanofi Aventis)
$43,177
$36,186
(16%)
メルク
(Merck)
$29,724
$24,428
(18%)
ブリストルマイヤーズスクイブ(Bristol-Myers Squibb)
$21,603
$16,364
(24%)
イーライリリー(Eli Lilly)
$20,275
$15,286
(25%)
ファイザー(Pfizer)
$48,639
$34,075
(30%)
アストラゼネカ
(AstraZeneca)
$31,522
$18,878
(40%)
出典: Bernstein estimates and analysis
注: 上表では、各社が2008年6月(本レポート英語版発行時)までに上市している製品からの収益を「基
礎収益」として示している。将来のパイプライン収益寄与は含まれない。
「イノベーションの欠乏」は、業界全
体に対する大きな戦略的影響を有す
る。製薬企業の多くは、注力すべきこ
とを決定し、必要なコアコンピタンス
を特定しなければならず、これは結果
的に研究開発(R&D)活動の一部を切
り出すことになるかもしれない。研究
開発が自社事業のコア要素であると認
識する企業であっても、活動内容は根
本的に変革する必要がある。例えば、
現在の薬物療法やその他の治療法では
効果を得られない疾患の多くについて
はマスマーケットを対象とする治療を
そのまま応用することはできないの
で、スぺシャリティ医療に特化し、一
般に手が届く価格で治療方法を提供す
べく、研究開発にかかる時間とコスト
を低減する必要があるかもしれない。
Pharma 2020: Virtual R&D
業界の画期性が向上し、研究開発費が
低減した場合、以下の 4 要素が今後の
医薬品業界の命運を握るとみられる。
• 身体機能の分子レベルでの総合的な
解明
• 疾患の病態生理のより深い理解への
注力(疾患または傷害に起因または
関連する機能的変化)
• 研究プロセスの「仮想(バーチャル)
化」と臨床開発の促進のための新技
術のさらなる活用
• 医薬品業界、学界、規制当局、政府
および医療サービス提供者間の連携
促進
求められる変化について、この後さら
に詳細に論じることとする。
3
自己の理解
仮想マウス
米国糖尿病学会(American Diabetes
Association)と米国のバイオ製薬企
業 で あ る エ ン テ ロ ス(Entelos) は、
Ⅰ型糖尿病治療研究用の仮想糖尿病マ
ウスを開発した。これにより、研究者
は新薬の効果を投与量や投与回数を変
えて、さまざまな治療標的、生物学的
経路および機能を検討対象としてシミ
ュレートすることができる。このモデ
ルは長年にわたり蓄積された実際の動
物での実験データをベースとしてい
る。十分なデータが用意できれば、さ
まざまな動物種で仮想動物を作成する
ことができる。
現状では、製薬企業が生物学的な標的
の研究を開始した時点では、治療対象
の疾患に対するその標的の関与メカニ
ズムについてはほとんど知見がないこ
とが多い。情報は学術論文や特許から
入手することがほとんどである。また
動物実験から得られるデータを参考に
することもあるが、その情報が人体内
での疾患の進行とはほとんど相関がな
い場合もある。一般に、ある分子の標
的制御によるヒトへの治療効果につい
ては、フェーズⅡ臨床試験で初めて検
証される。
以上は、前臨床段階まで進んだ候補物
質のうちわずか11%しか上市されな
い事実を裏付けるものである4。結果
的に、薬剤当たりのコストは非常に高
く な る。 米 国 タ フ ツ 大 学(Tufts
University)CSDD(the Center for the
Study of Drug Development) の 試 算
によると、1 新薬あたりの開発費用の
平均は 8 億6800万米ドルにものぼる5。
ただし、この費用は治療領域により大
きく異なる(図 3 参照)6。私たちプラ
イスウォーターハウスクーパースは、
研究開発プロセス各フェーズの平均費
用および中止脱落率を勘案して、1 製
品あたりの研究開発費用を4億5400万
米ドルと推定している7。
研究プロセスにおける問題を克服し、
疾患治療で大いなる進歩を遂げるに
は、分子レベルでの身体機能の総合的
解明と病態生理学に関する知見の向上
が不可欠であることについては広く認
識されている。これらの知見により、
予測モデルを構築し、さらに進んだ知
4
見を獲得することができる。
バイオインフォマティクスの専門家
は、人体を構成する分子および細胞の
完全な数値モデル、すなわち仮想人体
の構築を目指している。これにより、
特定の標的との相互作用による生理学
的効果をシミュレートして、疾患の進
行に影響を及ぼす標的を特定し、必要
な作用がどのようなものか決定できる
(アゴニスト、アンタゴニスト、逆作
動薬、開口薬、遮断薬など)。しかし、
こうしたモデルの開発にはヒトゲノム
プロジェクトなどを上回るグローバル
規模での作業が必要となる。
さまざまな組織・機関が臓器および細
胞モデルを構築している。またモデル
を通じて獲得したデータから三次元画
像も生成されている(欄外補足記事
「仮
8
想マウス」を参照)。ただし、これら
のモデルは現時点で得られているデー
タを基に作成されており、現状では生
理学的プロセスで未解明の部分が大き
いことが最大の難点である。究極的に
は、システム全体で生物学的標的の制
御効果を予測するため、これらの生理
学的プロセスを検証されたモデルに統
合することが必要であるが、この統合
モデルには、共通の遺伝型・表現型変
異も反映される必要がある。また、こ
の種のモデルを活用するには、非常に
高い計算能力が求められる。
以上の課題は残っているものの、複数
の学術機関の協力の下、人体をデジタ
ルで表現する研究が進行中である。
例えばSTEPコンソーシアムは、人体
PricewaterhouseCoopers
図3: 治療領域別薬剤当たりコスト
1400
治療領域別平均研究開発コスト
百万米ドル
1200
1000
800
600
400
200
系
器
覚
感
吸
器
系
生
虫
呼
寄
経
系
抗
系
格
神
癌
骨
筋
IV
H
器
系
尿
泌
循
環
液
心
血
系
0
出典: Christopher P. Adams & Van V Brantner, "Spending on New Drug Development"
を 1 つの複合システムとして研究する
ための手法および技法のフレームワー
ク を 開 発 し て い る9。 一 方Living
Humanプロジェクトは、ヒトの筋骨
格 系 のin silico モ デ ル10、 ま た
Physiomeプロジェクトは細胞、臓器
および生体の相互作用を解明するため
のコンピュータ処理のフレームワー
ク11の構築を目指している。仮想人体
は潜在的に商業価値が高いため、大手
の専門技術提供業者も関心を示すと予
想され、グリッドコンピューティング
により、研究開発の支援に必要なリソ
ースがオンデマンドで提供されるよう
になるだろう。
仮想患者が、今後12年以内に実用化
される可能性は低いであろう。
しかし、
Pharma 2020: Virtual R&D
予測的バイオシミュレーションは、す
でに研究開発プロセスで大きな役割を
担うようになっている。例えばロンド
ン大学(University of London)では、
ウイルスが必須とするタンパク質の 1
つをHIV治療薬が遮断する効果をコン
ピュータモデル上でシミュレートした12。
同様に、ロシュ(Roche)はC型肝炎
の 併 用 療 法 薬 で あ るPegasysの 開 発
で、実際には事前に同剤を使用したこ
とのない複数の患者集団を対象とし
て、コンピュータモデルにより最適な
投与量を決定している13。この動向は
今 後 も 継 続 す る と み ら れ て お り、
2020年までには、仮想細胞、臓器お
よび動物が創薬研究で広く利用される
ようになり、生体を用いた実験が、現
在ほど必要ではなくなるだろう。
5
研究予見性の向上
標的の構造が既知で、標的と仮想分子
間の相互作用のモデル化が可能である
場合は、現在のところ新分子の設計に
はin silicoの手法が用いられる。しか
し、一般的に研究者は狙いをつけた標
的に「ヒットする」分子をin vitro で特
定し、こうして発見された分子は、さ
らに物理的特性の検討および毒性試験
などによりスクリーニングされる。そ
の後、ヒトによる初期段階の試験に進
む前に、最も有望な候補物質について
動物を用いて試験することになる(図
4 参照)。
このアプローチには多くの欠点があ
る。一般に、対象分子と標的の相互作
用や安全性については、かなり明確な
知見を得ることができる。しかし、in
vitroアッセイおよび疾患の動物モデル
は、必ずしもヒトでの当該疾患へと外
挿できるものではなく、ヒトにおける
分子の有効性を予測する手段としては
信頼性が低い(これは特に標的が新し
い場合に顕著である)
。従って製薬会
社は、ヒトでの試験の前により迅速に
実行可能で、より予測性の高い試験を
必要としている。
仮想患者が実用化されれば、一般的な
遺伝子変異や疾患の特徴(心循環系の
機能低下など)を踏まえて人体を計数
的に取り扱うことができ、その中で新
薬候補をスクリーニングできる。これ
により、望ましくない標的との相互作
用や副作用、またそれらが起こり得る
条件を確認することができる。予測的
解析により、分子の吸収、分布、代謝
および排出などの動態、長期的な副作
用の可能性、有効性と安全性の最適な
バランスを達成するために必要な薬物
血漿中濃度、製剤および投与量の最適
レベルなどを評価することができる。
図4: 現在の研究プロセス
標的同定
分子設計
分子合成
Hit同定/
分子
スクリーニング
分子の
in vitro試験
分子の
in vivo試験
初期段階の
ヒト試験
コンピュータ/実験の併用
実験
治験
出典: PricewaterhouseCoopers
6
PricewaterhouseCoopers
図5: 仮想人体実用化後の研究プロセス
プロセスから頭痛の種を取り除く
標的同定
治療法設計
In silico
実験
治験
治療法テスト
治療薬合成
初期段階の
ヒト試験
基本的な薬理作用
広範囲でのリガンド
プロファイリング
(副作用検討)
ADME特性
理化学
毒性
出典: PricewaterhouseCoopers
これにより、現在臨床環境で実施して
いる作業の大部分が、将来的には創薬
の初期段階で対応できる。図 5 には、
人体の包括的かつ確実なコンピュータ
モデルが利用可能となった場合に想定
される研究プロセスを示した。
しかし、すでに指摘したように、仮想
人体の「登場」はまだ遠い未来のこと
である。直近の未来では、セマンティ
ック技術(意味論技術)とコンピュー
タの支援による分子設計の 2 つの技術
が有望で、これらの技術が研究プロセ
スを大きく改善していくと見られる。
従来のインフォマティクスシステム
は、データの構造と表現方法の双方か
ら制約を受けている。従って、同様の
概念でも、異なる名前で別のソースか
ら呼び出された場合(頭痛と片頭痛な
Pharma 2020: Virtual R&D
ど)
、うまく関連付けることができな
かった。逆に、本質的には異なる 2 つ
の概念であっても、同じ名称が使われ
ていれば同一のものであるかのように
取り扱われる。その結果、自動的に論
理付けができるようなアプリケーショ
ンなしでは、複数のソースからのデー
タを収集し、意味のある関連付けをす
るのは極めて難しい。
バイオインフォマティクスサービス会
社 で あ る バ イ オ ウ ィ ズ ダ ム
(BioWisdom)は、疼痛治療薬開発に
際し、有望なイオンチャネルを特定す
ることを目指して、349のヒトイオン
チャネルを対象とした語彙集を作成し
た。その後MEDLINEを徹底調査して、
349のイオンチャネルまたは4,000の
類義語について、疼痛への関与が知ら
れている中枢/抹消部位との関連で使
われている文書を探し出した。このプ
ロセスを通じて59のイオンチャネル
が挙げられ、これらに関する論文をさ
らに検討した結果、うち11のイオン
チャネルが疼痛の 3 つの主要メカニズ
ム(中枢性感作、アロディニア(異痛)、
痛覚過敏)と明確な関係があることが
明らかになった。さらに、これ以外の
10チャネルについても、追加研究に
取り組む価値があると目されている。
これと対照的にセマンティック技術は
個別のデータセットを関連付け、
「自
然言語」を用いてデータを照会し、従
来不可能だった関連付けを可能とする
(欄外補足記事「プロセスから頭痛の
14
。これにより、
種を取り除く」を参照)
特定の疾患とそれにより影響を受ける
生物学的経路の関係や、ある分子とそ
の人体に対する影響の関係を簡単に特
定することができる。
7
現在のところ、コンピュータ支援分子
設計(生物学的標的およびその構造に
関する知見を活用する)により、有望
分子探索の手掛かりがより容易に得ら
れるようになることで、ヒット物質を
探し出すためのハイスループットスク
リーニングの必要性も減少し、まさに
干草の山から 1 本の針を効果的に探し
出すことができるようになるといえ
る。健康な人体および疾患状態の人体
の解剖学的および生理学的特性を備え
た完全なモデルが利用可能になるまで
は、in vitroおよびin vivoアッセイによ
りこれらの物質を検討することはもち
ろん必要である。それでも今後12年
のうちに、研究プロセスの一部は徐々
に仮想化されていくと見込まれる(図
6 参照)
。
さらに医薬品業界が仮想世界での理想
郷の出現を待つ間にも、研究方法を改
善するためにとることのできるいくつ
かのステップは存在する。例えば、臨
床的な有効性が証明されている製品を
使い、in vivo疾患モデルをより綿密に
検証することにより、予測性を向上さ
せることは可能である。臨床現場で有
効であるとされている薬剤が
「予測的」
in vivoモデルにおいては何の影響も与
えることがないとすれば、そのモデル
に欠陥があることは明らかである。
同様に医薬品業界では研究に対する報
奨の方法も変えていかなければならな
いだろう。多くの企業で最も優秀な研
究者をマネジメント職に昇進させるこ
とが当然のように起こっているが、科
学研究における能力が経営における力
量と相関しているとは限らない。また、
INDの段階まで到達した候補物質の研
究に貢献した研究者が報奨を受けるケ
ースは多いが、同様に研究者に対し目
標達成のため上市できる可能性の低い
物質をごく初期段階で候補品から外し
ていくことも奨励すべきである。
純粋なイノベーションを刺激する方法
として、
「社内の他部門も手掛けてい
るようなことではなく、独自性の高い
研究を行った研究者に対して」報奨す
るのがよいと、グラクソスミスクライ
ン(GSK : GlaxoSmithKline)CEOの
ジャン・ピエール・ガルニエ(JeanPierre Garnier)氏はコメントしてい
る。GSKでは、インセンティブの枠
組みを大幅に改革し、研究者に対して
は、候補物質がproof-of-conceptの段
階に到達するか、不溶性化合物を可溶
化する方法を発見するなど、大きな問
題を解決した場合のみボーナスが支給
されることになった15。
この改革には 2 つの大きな利点があ
る。まず、臨床現場で実際に成功する
機会を得られそうな化合物の合成に研
究者が注力するよう方向付けることが
できる。次に、研究機能と開発機能の
間の連携を強化することができる。し
かし、成功に対して報奨を与えるだけ
では不十分である。「早めの失敗は安
上がりな失敗」という意識を醸成する
ことも同様に大切である。これには、
見込みのない候補分子をできるだけ早
い段階で撤退させることにインセンテ
ィブを与えるのが有効である。
図6: 2020年の研究プロセス予想
標的同定
治療法の設計
および
初期検討
治療薬の合成
治療薬の
in vitro試験
治療薬の
in vivo試験
初期段階の
ヒト試験
コンピュータ/実験の併用
実験
In silico
治験
出典: PricewaterhouseCoopers
8
PricewaterhouseCoopers
開発の促進
予測性の高いモデルを利用して選定さ
れた分子でも、人体で実際に試験しな
ければならないのは当然である。例え
ばボーイング777は完全にコンピュー
タ上で設計されていたが、旅客輸送に
当てられる前に、テストパイロットに
よる飛行テストを行わなければならな
かった。しかしながら、今後、開発プ
ロセスも劇的に変化すると予想される。
製薬企業が開発する新規治療薬の中に
は、既存の方法で評価できる従来型の
薬剤ではないものもある(欄外補足記
事「医薬品が医薬品でなくなる日」を
参照)16。こうした新しいタイプの治
療薬は生産が難しく、また長期投与さ
れる従来型の医薬品とはビジネス上も
異なる面が多いだろう。その反面、こ
の類の薬剤の複製は難しいため、医薬
品業界にとっては知的財産をより効果
的に保護できるようになるだろう。
臨床バイオマーカーおよび新技術プラ
ットフォームの開発も、新治療法の試
験手法に大きく影響するであろう。
Pharma 2020: Virtual R&D
医薬品が医薬品でなくなる日
医薬品の多くは経口製剤であるが、患者は適切に服用していないことが多い。し
かし、複数の新技術を活用することにより、製薬企業は既存治療法をよりよい方
法で提供し、服薬を遵守させ、結果的にアウトカムの改善を期待できるまったく
新しい方法を開発できるようになった。
例えばナノテクノロジーの登場により、ヒト体内の特定の細胞に対して治療薬を
送達することが可能になる。また、医薬品の分布や代謝をモニターできるような
ナノスケールの機械の開発も可能になるだろう。ナノテクノロジーを活用して、
100を超える医薬品や薬物送達システムがすでに開発中である。
遺伝子治療も有望である。現状では薬剤で治療されている心疾患などの疾患治療
において、遺伝子治療の有効性が複数の治験で評価されている。短期的には、こ
れらの取り組みを通じて、1 回の治療で数カ月から数年効果が持続する治療法が
開発されるであろう。長期的には、遺伝子治療により、高血圧を治癒させたり関
連する病態生理学的な問題を取り除くことが可能になるであろう。もちろん、応
用範囲はこれだけにとどまらない。
再生医療は、ヒトの細胞、組織または臓器を交換または再生して、正常機能を確
立または回復するもので、疾患から回復させる潜在性もある。皮膚潰瘍および膝
関節軟骨損傷を治療する製品はすでに商品化されているが、心臓病、インシュリ
ン依存性糖尿病、脊髄損傷、パーキンソン病など他の様々な疾患についても、細
胞ベースの治療法が有効である可能性が高い。
9
パーベイシブ(どこでも可能な)モニタリング
パーベイシブモニタリングとは、小型機器と無線ネットワークを活用し、臨床現
場の外にいる患者をリアルタイムでモニターすることであり、治験や日常的な医
療行為で広く利用されている。現在利用可能なモニター手法のほとんどは、装着
可能な機器によるもので、限られた領域でのみ応用されているが、最近は医療目
的でも十分信頼し得る機器が複数上市され、または開発途上にある。
例えばセラノス(Theranos)は、リアルタイムで薬剤の有害事象を検出する携
帯機器を開発した。
この機器で微量の血液サンプルをバイオチップにより試験し、
そのデータを中央データベースに転送する。血中で異常に高い薬剤濃度が検出さ
れた場合には、自動的に警報が発せられる。同様に、マイクロソフトリサーチ
(Microsoft Research)では、広範囲の生理学的信号をモニターできる装着可能
システムの開発に取り組んでおり、すでに睡眠時無呼吸症の患者20人でパイロ
ット試験を実施済みである。
技術の進歩により、
埋め込み型モニターの開発も可能になるだろう。一例として、
未来の医療に関する最近の論文には、電子回路を皮膚に無痛で「プリント」でき
るとのブリティッシュテレコム(BT : British Telecom)の展望が掲載されている。
こうした回路は、上層部にポリマーディスプレイが装備され、より下層には、さ
まざまな部品から構成される装置が患者の毛細血管と末梢神経に接触するよう埋
め込まれていることになる。指令により開口して、薬剤を投入できるようなスマ
ート膜を装着することも可能である。
10
より確実に患者を診断および治療でき
るバイオマーカーが普及すれば、病状
は異なるが関連性の高い症状を呈する
患者を層別したり、特定の疾患サブタ
イプの患者のみを対象に新薬を試験で
きるようになる。またこれにより、有
効性を証明するために必要な治験の数
および規模も縮小することができる。
生存率などの長期的なエンドポイント
の代替として信頼するに足る臨床バイ
オマーカーを使うことにより、エンド
ポイント観察時間を短縮することも可
能である。
規制当局は、新規バイオマーカーの創
出をさまざまな施策で支援している。
例 え ばFDAは、C-Path研 究 所 と15の
製薬企業の共同研究体である
Predictive Safety Testing Consortium
に対して、薬剤由来の腎毒性、肝毒性、
その他の毒性を検出する前臨床バイオ
マーカーを検証するための取り組みに
科学的、戦略的支援を提供している17。
このほかにも、FDAはバイオマーカー
評価プログラムを実施しており、これ
PricewaterhouseCoopers
には欧州医薬品審査庁(EMEA)およ
び日本の医薬品医療機器総合機構も積
極的に関与している18。
さらに、欧州委員会(EU)および欧
州 製 薬 業 団 体 連 合 会(EFPIA) は
Innovative Medicines Initiative(IMI)
を立ち上げ、主として新規バイオマー
カーの開発とバイオマーカーを検証す
る疾患単位のセンター設立の枠組み作
成を目指している19。
セマンティック技術も開発プロセス改
善に大きな役割を果たすと見られる。
この技術により、治験データを疫学デ
ータおよび研究初期段階のデータとリ
ンクさせて、
有意なパターンを特定し、
その情報を活用して、統計的妥当性を
損なわずに治験の方向性を変更するこ
とができるようになる。同様に、パー
ベイシブモニタリングにより、製薬企
業は患者を居所に関係なく、リアルタ
イムで追跡できるようになる。
医療サービス提供者の多くは、遠隔モ
ニタリングプログラムをパイロットベ
ースですでに実施している。北アイル
ランドに新設された欧州コネクティッ
ドヘルスセンター(European Centre
for Connected Health)では、慢性疾
患で長期的に療養が必要な患者が在宅
で介助なしに生活できるようにする技
術を試験している。英国政府も、遠隔
ケアの大規模試験を実施しており、遠
隔モニタリング機器を7,000名の患者
の自宅に設置している20。新技術によ
り、さらに高性能な埋め込み型システ
ムの開発も促進されるであろう(P10
欄外補足記事「パーベイシブ(どこで
21
。
も可能な)モニタリング」を参照)
ナノスケールの機器で体内吸収率を測
定できるようになれば、服薬非遵守に
よる薬効への影響についても検証でき
るだろう。
以上の科学技術の進歩により、4 フェ
ーズで構成される治験から成る現在の
開発モデルはやがて淘汰されていくだ
ろうと考える。すでに述べたとおり、
現状ではフェーズⅡの終了時点まで、
試験対象分子の安全性や有効性を適切
なレベルで把握することができない
(図 7 参照)
。しかも、フェーズⅡ終了
に至ったとしてもその安全性や有効性
の理解は、以降にくつがえされてしま
う可能性もある。フェーズⅢで開発を
中止された73の候補薬剤について検
討した結果によると、その31%は安
全性の問題が、50%は有効性の問題
が原因であった22。
しかし、疾患の病態生理に関する理解
がはるかに進み、分子レベルでの人体
の挙動が解明され、患者モニタリング
システムが改善されるという条件がそ
ろえば、製薬企業は治験デザインを改
善して、実施試験数や新薬治験の被験
者数を削減することができる。例えば、
特定の遺伝子型・表現型特性および対
象となる疾患サブタイプを有するとい
うような選択/除外基準を適用して、
確実にスクリーニングされた患者に投
与するということから手掛けられるだ
ろう。
図7: 現在の開発プロセス
8年
1.5年
フェーズⅠ
2年
3年
フェーズⅡ
フェーズⅢ
CTA/IND提出
CIM
CIM:
CIS:
IND:
CTA:
MAA:
CIS
1.5年
MAA/NDA
申請
フェーズ
Ⅲb/Ⅳ
上市
Confidence in Mechanism(作用機序確認)
Confidence in Safety(安全性確認)
Investigational New Drug
Clinical Trial Application
Marketing Authorization Application
出典: PricewaterhouseCoopers
Pharma 2020: Virtual R&D
11
モデル治験
エンテロスは仮想研究室を開発し、喘
息、関節リウマチ、糖尿病等のさまざ
まな疾患の新規治療法の治験をシミュ
レートできる環境を実現した。研究者
は、遺伝子型、表現型および病態生理
学等において、さまざまな変数を用い
て、治療への影響をモデル化すること
ができる。
この仮想研究所の真価はすでに発揮さ
れている。ジョンソン・エンド・ジョ
ンソン(Johnson & Johnson)が新規
作用機序を有する糖尿病治療薬のフェ
ーズⅠ治験のデザインを検討するに当
たり、エンテロスは投与量をさまざま
に変更した場合の影響をシミュレート
した。この結果を受けて、
ジョンソン・
エンド・ジョンソンは治験デザインを
見直し、時間にして40%、被験者数
に し て66%節 減 す る こ と が で き た。
その後実際の治験で、シミュレーショ
ンによる予測の精度が確認されたので
ある。
12
治験薬が投与直後に有害事象を引き起
こさないことが証明できたならば、次
の患者(総数20名から100名)に順次
投薬する。これらの被験者はすべて、
医学的に適切なプロファイルを有する
か否かのスクリーニングを通過してい
る。この試験により得られる患者デー
タを事前に行われていたモデリングに
よるデータと比較して、治験の方向性
を適宜修正するためにベイジアン分析
などによる解析を行う。ただし、治験
そのものは単一の継続したフェーズと
して実施することになるだろう(欄外
補足記事「モデル治験」も参照)23。
開発プロセスも反復する形式にさらに
変化するであろう。ある疾患サブタイ
プに対する分子の作用に関するデータ
が、関連疾患の同じクラスターに属す
る他の疾患サブタイプに対する別の新
規分子開発にフィードバックされる
(図 8 参照)
。これにより、例えば糖尿
病のある変異型を治療するための薬剤
の開発から得られた情報が、他の変異
型を治療するための薬剤の開発に応用
できるだろう。
治験デザインの方法に対して想定され
る変化が全て起こると、製薬企業は自
社の労力をより生産的に利用するよう
に仕向けられるようになるだろう。従
来医薬品業界は、新分子の安全性と有
効性を証明することに重きを置いてお
り、金銭的価値の提供はあまり重視し
てこなかった。しかし今後は、医療費
支払者側の視点も考慮していかなけれ
ばならない。2020年までには、製薬
企業と各医療費支払者が協力して、新
規治療の価値を判断する基準、すなわ
ち有効性の指標、服薬の利便性、医療
費の低減などを設定していくことにな
るだろう。こうした基準は、製薬企業
の治験プロトコルにも統合されていく
だろう。
2020年までに、事前に合意した共通
の課題に対してより緊密に協力しなが
ら取り組むことで、臨床医学の環境は
患者、医療費支払者、医療サービス提
供者および規制当局の要求を結びつけ
るものとなるだろうと私たちは予想し
ている。関係者はインフラストラクチ
ャを共有し、アウトカムデータや結果
PricewaterhouseCoopers
に等しくアクセスできるようになるだ
ろう。
治験デザインや開発プロセスで変化が
見込まれるのはこれらの要素だけでは
ない。多施設で治験が並行して実施さ
れている現行のシステムは極めて非効
率的である。2020年までには、1 国に
1 ∼ 2 箇所設置される治験スーパーセ
ンターで被験者を募集、治験を管理、
データを収集するシステムに置き換わ
ると見ている。スーパーセンターは医
薬品業界からは独立して存在し、運営
されるようになり、場合によっては次
世代型SMOがこの主体になるかもし
れない。こうしたスーパーセンターは
COE(Centre of Excellence) と し て
患者が望む新薬を提供するための中心
的な役割を果たすであろう。
上記の移行を促進するには、電子デー
タ交換と電子カルテ(EMR)の 2 つの
新技術確立が求められるが、どちらも
すでに実用化されつつある。ライフサ
イエンス領域で生み出される情報の多
様性および複雑性は、これまで「イン
ターオペラビリティ(相互運用性)」
の大きな阻害要因となってきた。しか
し、FDAおよびEMEAは生物学的デー
タの収集および報告に適用する共通フ
ォーマットの作成を積極的に推進して
い る。CDISC(Clinical Data
Interchange Standards Consortium)、
SCDM(Society for Clinical Data
Manage-ment)を含む複数の標準化
団体も共通フォーマットの完成に向け
て努力している。
こうした取り組みはすでにかなりの成
果 を 挙 げ て お り、 製 薬 企 業、CRO、
治験医師および規制当局間で交換され
る臨床データの標準は簡素化された
が、今後解決すべき課題もまだ数多く
残っている。例えば、異なるデータや
アプリケーション、治験実施に係る一
連の業務プロセスの統合方法について
は、まだ合意に至っていない24。しか
し、今後12年以内にはこうした問題
は解決されると見込まれる。
自国内の医療情報ネットワークを開発
中であるし、複数のEU加盟国ではこ
の分野で長足の進歩を達成している。
例えば、英国のConnecting for Health
プログラムの主要政策には、NHS(英
国国民保健機関)の各部署が保有する
患者データをリンクさせ、全国の医療
関係者が必要な時にはいつでもどこに
いても安全かつ高いセキュリティで容
易に情報にアクセスし、電子的に処方
箋を送信できる環境を実現する新規IT
システムの開発が盛り込まれている25。
同様に、フランスでは、患者スマート
カードと電子カルテの全国システム開
発という野心的なプログラムを開始
し、今年度中の完了を目指している26。
オーストリアでは、電子カルテ、電子
処方箋、電子紹介状、電子薬歴簿など
を含む分散システムを開発中である27。
またポルトガルでは、チップを埋め込
んだ電子IDカードのパイロット中であ
るが、究極的には医療記録を含むさま
ざまな個人情報がこのチップに格納
される28。
その頃までには、電子カルテの利用も
普及しているだろう。多くの国では、
図8: 2020年の開発プロセス予想図
1.5年
研究活動からのコンフィデンス・
イン・メカニズム(作用機序確認)
疫学データ
疾患に関するナレッジ
1年
0.5年
治験(アダプティブデザイン)
20-100症例
限定的
臨床使用
自動申請/承認
臨床使用または類似品から得られた
ナレッジ/データ
価値要件の証明
出典: PricewaterhouseCoopers
Pharma 2020: Virtual R&D
CIE
CIS
上市
将来の適応症や患者集団の治験への
臨床データ/ナレッジの組み込み
13
2020年の治験プロセス管理
ジョン・ドーは主治医からアルツハイマー病のサブタイプであるAD3の新しい治
療法の研究に参加する意向を尋ねられ、そのチャンスに飛びついた。彼はつい最
近、AD3と診断されたばかりであった。主治医は国立治験スーパーセンターにジ
ョンの医療情報を送った。その後間もなくジョンにスーパーセンターから電子メ
ールが届いた。この電子メールは、ジョンの臨床プロフィールがスクリーニング
基準に適合しており、治験プロセスの詳細についてさらに説明したいのでスーパ
ーセンターの看護職員に連絡するようにという内容だった。
3 週間後、ジョンは治験スーパーセンターを訪問した。ここで彼は新薬を内包し
た徐放性インプラントを受け、5 日間の入院中、厳格な管理下に置かれた。全て
のエビデンスがジョンの治療への反応性が良好であることを示していたため、こ
の後、長期的な経過を観察する目的で、ミクロンサイズのロボット数千体を含有
する生理食塩水の注射を受けた。
治験医師から、このロボットが捕捉したデータがスーパーセンターの中央データ
ベースに送られる方法、およびインテリジェントアルゴリズムと事前にプログラ
ミングされた安全性パラメータを用い電子的にフィルターをかけて異常を発見す
る手順について説明を受けた。ジョンに有害事象が認められると、直ちにシステ
ム経由でスーパーセンターに通報され、スーパーセンターからジョンに連絡が入
り、症状を確認する。同時にジョンの担当医にも連絡が入り、医学的処置の必要
性について問い合わせがある。ジョンがすべきは、最終検査のためにもう一度ス
ーパーセンターを訪れるだけのことである。
退院してからも、ジョンにはいつも見守られているという安心感があった。ジョ
ンは、ナノモニターのデータが常に送信されていることについてはほとんど意識
しないが、スーパーセンターがこのデータを分析し、他の患者達の医療データと
比較し、途切れることのないフィードバック・ループで研究成果を向上させてい
るということについては認識している。
14
共通データ標準、電子カルテ、電子デ
ータ交換が実用化されれば、治験の管
理が遠隔でも可能になり、データも完
全に電子化できる。治験の管理は、各
国で規制当局の認定を受けた少数のス
ーパーセンターで行われ、専門医療ユ
ニットと直接連携する。地方の医療サ
ービス提供者やサテライトセンターで
被験者を確保し、遠隔モニタリング機
器を使って被験者の新薬に対する反応
を追跡して、依頼企業にデータを転送
する(盲検下で)前に解析を行う(欄
外補足記事「2020年の治験プロセス
管理」を参照)29。
このアプローチには数多くの利点があ
る。まず、治験参加者の募集が迅速化
され、治験マネジメントの効率性およ
び一貫性が向上する。また、治験デー
タ全体の透明性も向上するため、より
綿密な調査が可能になる(また公平性
も向上する。何年も新薬開発に携わっ
ていると、研究者は客観性を維持する
のが難しいことも多い)。さらには、
より多くの患者および医療サービス提
供者を対象に治験参加を奨励すること
になるかもしれない。
PricewaterhouseCoopers
新製品上市における連携
規制当局の承認プロセスも同じく劇的
に変わることが予想される。現在、規
制当局は、製薬企業が承認申請書類を
提出した後、開発最終段階の候補分子
のエビデンスについて審査を行ってい
る。この研究データが基準を満たして
いれば、規制当局はその企業に販売を
承認し、規制当局の全管轄地域内で薬
剤の上市を許可する。
その後、新薬が医療技術評価の対象と
なる可能性が高まっている。この医療
技術評価は通常、全く別の機関が実施
し、
償還の可否を決定している。現在、
新薬に対する薬剤経済学的評価を実施
する医療費支払者が増加しており、臨
床的価値はもちろんのこと経済的価値
が十分にあるとはいえない薬剤に対す
る償還を拒否している。
新薬を上市しようとしている製薬企業
は、商業上の失敗がないよう万全を期
して、社外で 2 つのハードルを越えな
ければならない。また、販売認可と製
品の償還承認を得るのに何年もかかる
こともある。この間にも患者の時間は
空しく経過していく。
2020年までに、償還に関する決定は、
品質、安全性、有効性の審査を行う規
制当局の権限に委ねられ、現行の煩雑
でオール・オア・ナッシング的なアプ
ローチは、段階的に蓄積されたデータ
に基づく累積プロセスアプローチに置
き換えられると私たちは考えている。
製薬企業は規制当局と連携し、エビデ
ンスの提供が求められた時に、その求
められたエビデンスの立証を行う。こ
の流れに従い、予め決められたタイミ
ングで電子的手段によってそのデータ
を提出するのである。
ある医薬品の効果が正真正銘のもので
あり、最初の被験者集団で費用効率の
高さを示す十分な証拠があれば、規制
当局は製薬企業が制限つきでその医薬
品を上市することを承認し、「ライブ
ライセンス」を発行する。安全性、有
効性、価値を裏付ける証拠が追加され
るたびに、規制当局はこのライセンス
の認可範囲をさらに多くの患者、異な
る適応症および異なる処方に拡大する
(図 9 参照)。
「ライブライセンス」アプローチの登
場に伴い、その可能性を最大限に生か
すためには既存の慣行を見直す必要性
が生じることになる。類似のアプロー
チとしては、企業が希少疾病用医薬品
促進制度を活用し、より小規模の患者
集団について条件付きの承認を得るケ
ースである。このアプローチは2020
年に一般化が予想される「ライブライ
センス」アプローチに類似しているが、
それほどシームレスでもヘルスケア環
境における他の利害関係者と関係して
いるわけでもない。ライブライセンス
アプローチに向かう動きによって、新
たな治験計画の適用および薬事規制対
応戦略の変更が求められるが、電子カ
ルテを活用し、かつてない方法でパー
ベイシブなモニタリングも行われる。
図9: 2020年の規制プロセス
1.5年
Clinical use US
Clinical use US
1年
0.5年
治験
(アダプティブデザイン)
20-100症例
Clinical use FR
Clinical use FR
最大1.5年
自動申請/
自動承認
制限付の
上市
最大1年
Clinical use UK
Clinical use ES
CIE
CIS
Clinical use DE
Clinical use DE
Clinical use CA
治験
データ
最大0.5年
新適応症/
患者集団に対する治験
(アダプティブデザイン)
20-100症例
自動申請/
自動承認
Clinical use FI
Clinical use IS
Clinical use ES
Clinical use CA
Clinical use IT
Clinical use IT
Clinical use SW
Clinical use UK
CIE
深化CIS
上市範囲の
拡大
Clinical use SW
治験
データ
Clinical use FI
Clinical use IS
Clinical use IN
Clinical use CHI
出典: PricewaterhouseCoopers
Clinical use MX
Clinical use BZ
Pharma 2020: Virtual R&D
15
また、規制当局は平均的なアウトカム
に関するデータではなく、特定のリス
ク/メリットに関する分析を用いて新
薬に対しライセンスを供与すべきかど
うかを判断することになる。規制当局
は、製薬企業が承認を申請したすべて
の医薬品に関連するリスクについて、
規制当局側が理解していない点を開示
するよう製薬企業に求め、その成績に
従って新薬に対する償還を行う。
このように認可プロセスはさらに厳格
化されるが、この認可プロセスの厳格
化によってもたらされるメリットはデ
メリットを補って余りある。このプロ
セスによって企業は上市するまでに要
する時間を省き、費用回収にかかる時
間を短縮することによって利益をより
迅速に実現することが可能となる。ピ
ークセールスが減少する可能性は最も
高いが、承認の認可範囲が拡大される
度に徐々に収益が伸び、収益の流れは
増大する(図10参照)
。また、このプ
ロセスによって、規制当局がより効率
的にリソースを管理することも可能と
なる。なぜならば、規制当局が以前よ
り高い確度で当局の業務量を予測する
ことが可能になるからである。
最後に、
重要度としては同程度だが、医薬品業
界と規制当局の協力関係が強化され、
透明性が高まることにより、医薬品業
界への人々の信頼を取り戻すのに役立
つのである。
16
規制プロセスはイノベーションの障害
になると医薬品業界は度々主張してき
たが、指導的立場にある規制当局は、
医薬品の開発および規制に関する新た
な方法を前向きに検討中だとの意思を
明確に示している(P17欄外補足記事
「変化する規制当局」参照)30, 31。例え
ば、2007年11月、FDAな ら び に デ ュ
ーク大学(Duke University)メディカ
ルセンターは、治験の近代化を目的と
して提携した。このイニシアチブでは、
治験を合理化し、複数の場所で行われ
る治験管理の負担を軽減し、研究者が
リアルタイムでデータをモニターする
ことができ、より迅速に安全上の問題
点を特定するのに役立つ電子データ
管理システムに移行する機会を特に
探っている32。
さらに 2 つの動向によって、医薬品業
界と規制当局の密接な連携の必要性が
高まることになろう。1 つ目の動向と
しては、相互認証協定に基づき多くの
国および地域の規制当局が、安全性お
よび有効性に関するデータを共有し始
めている。このデータは新薬開発関連
の時間と費用の削減に大いに役立つ可
能性がある。医薬品業界がこの情報に
アクセスしようとするならば、業界の
持つ情報も同様にオープンにする必要
が出てくるだろう。
遺伝子治療およびその他の治療法の線
引きが徐々に消滅していく中で、こう
した製品に対する規制が一元化される
可能性がある(英国にはすでに実例が
ある)
。かつて医療機器とバイオテク
ノロジー業界は明確に区別されていた
が、依然として両者は異なるプロシー
ジャーで規制されている。しかし、薬
剤溶出ステントの開発、化学療法剤の
徐放用インプラントウエハーやその他
のこうした医薬品と医療機器の併用に
より、この枠組みが現実に即していな
いという事実が一層浮き彫りにされ
る。
2020年までに、すべてのヘルスケア
関連製品を網羅する規制制度はおそら
く一元化されることになるだろう。世
界で 1 つに統一される可能性さえあ
る。そして、国家あるいは連邦の各機
関はこの制度を運営し、新たな治療法
が各々の規制範囲で患者のニーズを満
たしているか確認する責任を有する。
このことによって法規制の遵守に要す
る費用が削減され、上市までの時間が
加速化する反面、非常に限定的な人種
の遺伝的変異によって発症した疾病が
その製品によって治癒した場合は別と
して、1 つの規制機関の検査に不合格
となった製品はすべて、他の場所で承
認を取得するのが非常に難しくなると
いうことにもなるであろう。
2 つ目の動向は、医薬品、医療機器、
PricewaterhouseCoopers
図10: 2020年の研究開発費/収益曲線
収益
変化する規制当局
ライブライセンス
導入後の
研究開発費用/収益曲線
自動承認システムによる
収益の段階的増加
上市までの期間短縮
研究開発初期費用の削減
$0
これまでの研究開発
費用/収益カーブ
時間
出典: PricewaterhouseCoopers
これら全ての理由から、医薬品業界は
これまで以上に規制当局とより緊密に
連携する必要があるというのは明らか
である。一部の企業はこうしたことを
すでに認識している。最も業績が順調
な企業は、
最も前向きに情報を共有し、
耳を傾け、状況に合わせて変化した企
業でもあるというのは決して偶然では
ない。2020年にはすべての企業が前
述のような方法で開発業務を実施する
必要に迫られ、規制当局との連携が開
発担当者の報酬体系に組み込まれるこ
とになると私たちは考えている。
Pharma 2020: Virtual R&D
米国および欧州連合(EU)は医薬品
研究開発には大きな変化が必要である
と認識している。2004年 3 月、FDAは、
クリティカル・パス・イニシアチブを
発表した。このイニシアチブは、科学
的基礎研究および開発プロセスの格差
を 埋 め る こ と を 目 的 と し て い る。
2006年 3 月、FDAはクリティカル・パ
ス・オポチュニティーズ・リストを発
行している。このリストには、新たな
科学的発見(ゲノミクス、プロテオミ
クス、イメージングおよびバイオイン
フォマティクス等の分野)活用による
候補分子の安全性と有効性の予測の高
精度化、治験の整備、医薬品製造の改
善および公衆衛生に関する喫緊のニー
ズに対応する治療法の実現を調査する
76件のプロジェクトが記載されてい
る。
また、EMEAは、「2010年へのロード
マップ」を作成し、医薬品の規制方法
と研究開発の方法に大きな変化をもた
らすための礎を築いている。このロー
ドマップは、EUの医薬制度において
EMEAおよびそのパートナーが、将来
の科学の進歩の基礎を適切に構築する
ことを最終的な目標としている。
17
変化に求められること
医薬品業界が医学研究の最前線に留ま
り、引き続き疾患を有する人の長命化
とより健やかな生活に貢献するために
は、新たな治療法の開発に費やす時間
と費用を削減するとともに、今よりも
さらにイノベーティブな製品を世に問
わなければならない。わずかな改善が
加えられたような製品ではもはや不十
分である。医薬品業界は疾患治療のさ
らなる進歩を実現するために劇的な変
化を遂げる必要があると私たちは考え
ている。
医薬品業界は、人体が分子レベルでど
のように機能するのかということや、
疾病の原因となる病態生理学的変化に
ついて理解を深める必要がある。こう
した理解を深めて初めて、病態生理学
的変化に対応したり、元の状態に戻し
たりする方法を開発することができる
のである。これは非常に大きな、医薬
品業界だけでは成し遂げることのでき
ない事業である。この事業を成し遂げ
るには、学界、政府、技術ベンダー、
医療サービス提供者および規制当局の
支援が求められる。患者も自らの役割
を果たす必要がある。医療データへの
アクセスや治験ボランティアの存在な
しに、医薬品業界は理論面での進歩を
遂げることも、こうした理論面での進
歩を実際の製品開発に応用することも
できないのである。
医薬品業界は、研究室で現在行ってい
る研究の多くを仮想化し、治験デザイ
ンや、管理方法を変更し、医療費支払
者の声に今まで以上に耳を傾ける必要
がある。2020年までには、積極的な
18
マーケティングだけでは、安全性ある
いは有効性が若干向上したにすぎない
薬剤が生き残るのは難しくなるであろ
う。実際のところ、規制当局はそうし
た製品を認可しない可能性さえある。
私たちが指摘した新しい技術が医薬品
業界の躍進に大きな役割を果たす可能
性がある。こうした技術が安全性、有
効性および服薬遵守の容易さを大きく
改善する治療法を生み出す力を高める
のである。この治療法は医療費支払者
にとっても、また、この治療法を開発
した企業にとっても価値のあるもので
ある。そして、これらの技術によって
かなりの費用削減ができる。
開発期間、
脱落率は合計で半減し、これによって
薬剤当たりの費用は劇的に削減される
のではないかと推測される。
しかし、技術は医薬品業界の問題を全
て解決するものではない。多くの企業
は戦略、組織、行動について大きな変
化を迫られている。医薬品業界の例で
は、各社はマスマーケットを目指すの
か、スペシャリティファーマとして戦
うのか、技術やコストの最適化のため
にどこに立地するのか、研究開発の一
部(ともするとそのほとんど)をアウ
トソーシングするのか、社内で行うの
か、といった意思決定をしなければな
らない。これらに対する意思決定が、
ビジネスモデル、自社や協力会社に必
要なスキルセットといったものに大き
な影響をもたらすことになるだろう。
管理方法や研究者の報酬体系を見直す
必要があるかもしれない。今や1種類
の医薬品が全ての患者に効くとは考ら
れていない。そしてこれは研究開発プ
ロセス自体にも言えることである。長
年医薬品業界が信頼を置いていたアプ
ローチの限界がいよいよ鮮明になって
きており、将来、各企業は自らの方向
性を示さなければならなくなるだろ
う。あるいは、その企業が推進するプ
ロジェクトごとに異なる方向性を示さ
なければならなくなるかもしれない。
医薬品業界が直面する課題は非常に大
きいが、これらの課題を乗り切ること
は可能だと私たちは確信している。ほ
ぼ200年前、チャールズ・バベッジが
最初に階差機関を組み立てる構想を立
てた時、誰も現在のネットワーク化さ
れた世界を想像することはできなかっ
た。この相互にネットワークされてい
る現在の世界─それは技術的、知的、
社会的な各フィールドに及ぶが─によ
って、最終的に私たちは人類と人類を
悩ます疾患を理解することができるよ
うになるのだろう。
同様に私たちは社会の一員として、医
薬品業界による研究開発への投資を締
めつけるわけにはいかないということ
を認識しなければならない。これは、
社会政治的な課題の優先されるべき問
題である。医薬品業界で研究開発への
投資が財政的に行き詰まったら、新薬
をどこに求めるのかという問題に私た
ちは正面から向き合わねばならない。
研究開発を企業活動に不可欠な部分と
位置付けていたとしても、研究開発の
PricewaterhouseCoopers
謝辞
本レポートを作成するに当たって、助力をいただいたプライスウォーターハウス
クーパースの多くの方々に感謝を捧げます。また、情報をご提供いただいたクラ
イアントの皆様、このプロジェクトに時間を割き、ご協力いただいた以下の外部
の専門家の方々に心より感謝いたします。
David Jefferys, CEO, Eisai Europe Limited
Dr Brian Albert Gennery MB FRCP FFPM
Pharmaceutical Medical Consultant
Consultant CMO to PharmaKodex
Previously Director of the Clinical Research Centre, University of Surrey
Dr Steven Manos
Research Fellow
Centre for Computational Science, Department of Chemistry,
University College London
Dr Gordon Baxter
Chief Executive Officer
Biowisdom Ltd
Clive Page
Professor Pharmacology, King’s College London
Director, Sackler Institute of Pulmonary Pharmacology, King’s College London
Co-founder of Verona Pharma
本レポートに表明されている意見は個人のものであり、
ご協力いただいた方々の所属する
各機関、
団体、法人等の組織の意見を示すものではありません。
Pharma 2020: Virtual R&D
19
参考文献
1.
PricewaterhouseCoopers, “Pharma 2020:
The vision – Which path will you take?”
June 2007. Available at http://www.pwc.
com/pharma2020
2.
“FDA Approved Only 19 New Medications
In 2007, Analyst Reports”, Medical News
Today (January 11, 2008), accessed
February 21, 2008, http://www.
medicalnewstoday.com/articles/93690.php
3.
Bernstein Research, “Global
Pharmaceuticals: Extending Models To
2015 – A Long Term View Of The Generic
‘Cliff’” (March 20, 2008).
4.
CMR International survey of 29
pharmaceutical companies in1998,
reported in PAREXEL’s Pharmaceutical
R&D Statistical Sourcebook (2001).
5.
J. DiMasi, R. Hansen & H. Grabowski, “The
price of innovation: new estimates of drug
development costs”, Journal of Health
Economics 22, (2003): 151–185.
6.
Christopher P. Adams & Van V. Brantner,
“Spending on New Drug Development”,
Working Paper, Federal Trade Commission
– Bureau of Economics (March 14, 2008),
accessed May 21, 2008, http://papers.ssrn.
com/sol3/papers.cfm?abstract_id=869765
7.
We have used data from a variety of
sources to calculate the average costs
of each stage of the R&D process. We
estimate that basic research and discovery
accounts for about $165m, preclinical
development for $87m, Phase I for $130m,
Phase II for $190m, Phase III for $268m
and approval for $26m. The proportion
of these costs that goes on molecules
which fail to reach the market is the sum
of the cost of each phase from preclinical
development to approval, multiplied by the
attrition rate in each phase.
8.
John Gartner, “Virtual Vermin Saves Lab
Rats”, Wired (20 May 2005), accessed May
17, 2008, http://www.wired.com/medtech/
health/news/2005/05/67541
9.
STEP Consortium, “Seeding the
EuroPhysiome: A Roadmap to the Virtual
Physiological Human (2007), accessed
April 16, 2008, http://www.biomedtown.
org/biomed_town/STEP/Reception/step_
presentations/RoadMap/plfng_view
10. Marco Viceconti, Fulvia Taddei et al.,
“Towards The Virtual Physiological
Human: The Living Human Project” (2006),
accessed April 16, 2008, http://kmi.open.
ac.uk/projects/irs/resources/CMMBE2006/
pap_CMBBE2006_viceconti.pdf; and
http://www.physiome.org/
11. Ellen L. Berg, “In the Game”, Drug
Research and Development (February,
2008), accessed April 16, 2008, http://
www.dddmag.com/Article-SystemsBiology-Integrates-into-Research-andDevelopment-Processes.aspx
20
12. UCL press release, “Virtual human in
HIV drug simulation” (January 29, 2008),
accessed April 16, 2008, http://www.ucl.
ac.uk/media/library/HIVcomputing
13. Patrick McGee, “Modeling Success
with In Silico Tools, Drug Research and
Development (April 6, 2005), accessed
April 16, 2008, http://www.dddmag.com/
modeling-success-with-iin-silico-i.aspx
14. “Using OmniViz to Identify and Prioritize
Ion Channel Targets for Pain Drug
Development” accessed April 16, 2008,
http://www.biowisdom.com/system/
files/OmniViz_Case_Study_Ion_Channel_
Target_Prioritisation.pdf
15. Jean-Pierre Garnier, “Rebuilding the R&D
Engine in Big Pharma”, Harvard Business
Review (May 2008), DOI: 10.1225/R0805D.
16. Editorial, “Nanomedicine: A matter of
rhetoric?” Nature Materials (April 2006),
Vol. 5: 243, accessed May 20, 2008, http://
www.nature.com/nmat/journal/v5/n4/full/
nmat1625.html; T.A. Khan, F.W. Sellke
& R.J. Laham, “Gene therapy progress
and prospects: therapeutic angiogenesis
for limb and myocardial ischemia”, Gene
Therapy (February 2003) Vol. 10: 285–291;
and Chris Mason & Peter Dunhill, “A
brief definition of regenerative medicine”,
Regenerative Medicine (January 2008) Vol.
3, No. 1: 1-5, accessed May 20, 2008,
http://www.futuremedicine.com/doi/full/10.
2217/17460751.3.1.1
17. US Food and Drug Administration, “FDA
and the Critical Path Institute Announce
Predictive Safety Testing Consortium”
(March 16, 2006), accessed May 17, 2008,
http://www.fda.gov/bbs/topics/news/2006/
NEW01337.html
18. Janet Woodcock M.D., “The Role of
Biotechnology and Bioinformatics in
FDA’s Critical Path Initiative” (September
25, 2007), accessed May 17, 2008,
http://66.102.9.104/search?q=cache:
QoHkcn-dsIgJ:www.ieeeusa.org/
volunteers/committees/MTPC/documents/
JWCPBioeconomicsNIST092507.ppt+EME
A+%2B+biomarker+qualification&hl=en&ct
=clnk&cd=9&gl=uk
19. Innovative Medicines Initiative, “Research
Agenda” (February 15, 2008), accessed
April 19, 2008, http://www.imi-europe.
org/DocStorage/PublicSiteAdmin/
Publications/IMI-GB-research-agenda006v2-15022008.pdf
20. “Belfast gets European Connected Health
centre” (January 29, 2008), accessed
May 19, 2008, http://www.ehealtheurope.
net/news/3418/belfast_gets_european_
connected_health_centre
21. Nicholas Davies & Stuart Henderson,
“Drugs, devices, and the promise of
pervasive computing”, Current Drug
Discovery (October 2003): 25-28; and
British Telecommunications, “Pharma
Futurology Joined-up Healthcare: 2016
and beyond” (2007).
22. Maria A. Gordian, Navjot Singh et al., “Why
drugs fall short in late-stage trials”, The
McKinsey Quarterly (November 2006),
accessed May 3, 2007, http://www.
mckinseyquarterly.com/article_abstract_
visitor.aspx?ar=1879
23. Jeff Trimmer, Chris McKenna et al., “Use
of systems biology in clinical development:
design and prediction of a type 2 diabetes
clinical”, PAREXEL’s Pharmaceutical R&D
Sourcebook 2004/2005 ( 2004), accessed
May 24, 2008, http://www.entelos.com/
pubArchive/PAREXEL_FINAL.pdf
24. CDISC, “The Benefits of a Life Sciences
Industry Architecture” (Spring 2007),
accessed April 17, 2008, http://www.
cdisc.org/publications/Benefits_
lifeSciencesIndustryArchitecture.pdf
25. For further information on NHS
Connecting for Health, see http://www.
connectingforhealth.nhs.uk/
26. “France’s Electronic Health Record – the
Dossier Médical Personnel”, eHealth
Europe, accessed May 19, 2008, http://
www.ehealtheurope.net/Features/item.
cfm?docId=194
27. “The Austrian e-Health strategy”, e-Health
Europe, accessed May 19, 2008, http://
www.ehealtheurope.net/Features/item.
cfm?docId=215
28. “New electronic identity card enables
patients to look after their records”,
eHealth Europe, accessed May 19, 2008,
http://www.ehealtheurope.net/Features/
item.cfm?docId=237
29. Research Rewired, Merging care and
research information to improve knowledge
discovery”, PricewaterhouseCoopers,
2008 Available at: http://www.pwc.com/hri
30. For further information on the FDA’s
Critical Path Initiative, see “Innovation/
Stagnation: Challenge and Opportunity
on the Critical Path to New Medical
Products” (March 2004), accessed April
20, 2008, http://www.fda.gov/oc/initiatives/
criticalpath/whitepaper.pdf; and “Critical
Path Opportunities List” (March 2006),
accessed April 20, 2008, http://www.fda.
gov/oc/initiatives/criticalpath/reports/
opp_list.pdf. For further information on
the IMI’s Strategic Research Agenda, see
“Research Agenda” (February 15, 2008),
accessed April 20, 2008, http://imi.europa.
eu/docs/imi-gb-006v2-15022008-researchagenda_en.pdf.
31. For further information on EMEA’s
programme, see “The European Medicines
Agency Road Map to 2010: Preparing the
Ground for the Future” (March 4, 2005),
accessed April 20, 2008, http://www.emea.
europa.eu/pdfs/general/direct/directory/
3416303enF.pdf
32. US Food and Drug Administration,
“FDA and Duke Launch Public-Private
Partnership to Modernize Clinical Trials”
(November 26, 2007), accessed April 20,
2008, http://www.fda.gov/oc/initiatives/
criticalpath/partnership.html
PricewaterhouseCoopers
各国法人連絡先
Argentina
India
Russia
Diego Niebuhr
[54] 4850 4705
Thomas Mathew
[91] 22 6669 1234
Christian Ziegler
[7] 495 232 5461
Australia
Ireland
John Cannings
[61] 2 826 66410
John M Kelly
[353] 1 792 6307
Alina Lavrentieva
[7] 495 967 6250
Belgium
Enda McDonagh
[353] 1 792 8728
Abhijit Ghosh
[65] 6236 3888
Israel
South Africa
Assaf Shemer
[972] 3 795 4671
Denis von Hoesslin
[27] 117 974 285
Italy
Spain
Massimo Dal Lago
[39] 045 8002561
Rafael Rodríguez Alonso
[34] 91 568 4287
Japan
Sweden
Kenichiro Abe
[81] 80 3158 5929
Liselott Stenudd
[46] 8 555 33 405
Luxembourg
Switzerland
Laurent Probst
[352] 0 494 848 2522
Clive Bellingham
[41] 58 792 2822
Mexico
Peter Kartscher
[41] 58 792 5630
Singapore
Thierry Vanwelkenhuyzen
[32] 2 710 7422
Brazil (SOACAT)
Luis Madasi
[55] 11 3674 1520
Canada
Gordon Jans
[1] 905 897 4527
Czech Republic
Radmila Fortova
[420] 2 5115 2521
Denmark
Erik Todbjerg
[45] 3 945 9433
Torben TOJ Jensen
[45] 3 945 9243
Ruben Guerra
[52] 55 5263 6051
Finland
Netherlands
Janne Rajalahti
[358] 3 3138 8016
Arwin van der Linden
[31] 20 5684712
Johan Kronberg
[358] 9 2280 1253
Poland
France
Jacques Denizeau
[33] 1 56 57 10 55
Germany
Volker Booten
[49] 30 2636 5217
Mariusz Ignatowicz
[48] 22 523 4795
Portugal
José Fonseca
[351] 217 599 601
Turkey
Ediz Gunsel
[90] 212 326 6060
United Arab Emirates
Sally Jeffery
[971] 50 252 4907
United Kingdom
Andrew Packman
[44] 1895 522104
本レポートに関する連絡先
Global
Europe
Simon Friend
Jo Pisani
Partner, Global Pharmaceutical and Life Sciences Industry
Leader
PricewaterhouseCoopers (UK)
[email protected]
[44] 20 7213 4875
Partner, European Pharmaceutical and Life Sciences
Advisory Services
PricewaterhouseCoopers (UK)
[email protected]
[44] 20 7804 3744
Sandy Johnston
Steve Arlington
Partner, Global Pharmaceutical and Life Sciences Advisory
Services Leader
PricewaterhouseCoopers (UK)
[email protected]
[44] 20 7804 3997
Partner, European Pharmaceutical and Life Sciences
Advisory Services
PricewaterhouseCoopers (UK)
[email protected]
[44] 20 7213 1952
Kate Moss
Michael Swanick
Partner, Global Pharmaceutical and Life Sciences Tax Leader
PricewaterhouseCoopers (US)
[email protected]
[1] 267 330 6060
United States
Director, European Pharmaceutical and Life Sciences
Advisory Services
PricewaterhouseCoopers (UK)
[email protected]
[44] 20 7804 2268
Asia Pacific
Sujay Shetty
Anthony Farino
Partner, US Pharmaceutical and Life Sciences Advisory
Services Leader
PricewaterhouseCoopers (US)
[email protected]
[1] 312 298 2631
Associate Director, Pharmaceutical and Life Sciences
Advisory Services, India
PricewaterhouseCoopers (India)
[email protected]
[91] 22 6669 1305
Beatrijs Van Liedekerke
Mark Simon
Partner, US Pharmaceutical and Life Sciences Industry Leader
PricewaterhouseCoopers (US)
[email protected]
[1] 973 236 5410
Michael Mentesana
Partner, US Pharmaceutical and Life Sciences R&D Advisory
Services Leader
PricewaterhouseCoopers (US)
[email protected]
[1] 646 471 2268
Associate Director, Pharmaceutical and Life Sciences
Advisory Services, China
PricewaterhouseCoopers (China)
[email protected]
[86] 10 6533 7223
Marketing
Attila Karacsony
Director, Global Pharmaceutical and Life Sciences
PricewaterhouseCoopers (US)
[email protected]
[1] 973 236 5640
Melanie York
Senior Manager, European Pharmaceutical and Life Sciences
PricewaterhouseCoopers (UK)
[email protected]
[44] 20 7804 1991
pwc.com/pharma
This publication has been prepared for general guidance on matters of interest only, and does not constitute professional advice. You should not act upon the information contained in this publication
without obtaining specific professional advice. No representation or warranty (express or implied) is given as to the accuracy or completeness of the information contained in this publication, and, to the
extent permitted by law, PricewaterhouseCoopers does not accept or assume any liability, responsibility or duty of care for any consequences of you or anyone else acting, or refraining to act, in reliance
on the information contained in this publication or for any decision based on it.
© 2010 PricewaterhouseCoopers Aarata, PricewaterhouseCoopers Co., Ltd., Zeirishi-Hojin PricewaterhouseCoopers. All rights reserved. “PricewaterhouseCoopers” refers to PricewaterhouseCoopers
Aarata, PricewaterhouseCoopers Co., Ltd., Zeirishi-Hojin PricewaterhouseCoopers or, as the context requires, the PricewaterhouseCoopers global network or other member firms of the network, each of
which is a separate and independent legal entity.
Fly UP