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監査委員会 優れた実務シリーズ ~卓越した実務を目指して~

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監査委員会 優れた実務シリーズ ~卓越した実務を目指して~
www.pwc.com/jp
監査委員会
優れた実務シリーズ
~卓越した実務を目指して~
役割、構成およびパフォーマンス
PwC の 「 監 査 委 員 会
優れた実務シリーズ」
は、監査委員会が最高
のパフォーマンスを実現
するための実務的かつ
実行可能な洞察、見解、
およびアイデアを 提供
する。本モジュールでは、
監査委員会の役割の明
確化、監査委員会の構
成の決定、監査委員会
の業務遂行の評価につ
いて取り上げる。
「監査委員会 優れた実務シリーズ」の
本モジュールでは、
以下のような監査委員会の責任、構成、
自己評価の重要点について検討する。
1. 適切に決定された役割、適切な構成、ならびに自己評価が
なぜ監査委員会にとって重要か
2. 監査委員会の役割の進化 ―
適切な規模とは?
3. 監査委員会の構成 ―
適切な構成員がそろっているか?
4. 監査委員会の自己評価 ―
どの程度有効か?
1. 適切に決定された役割、
適切な構成、ならびに自己評価が
なぜ監査委員会にとって重要か
監査委員会が実効的であることは、健全なコーポレートガ
バナンスの極めて重要な要素であり、企業の財務諸表に対
する監督が行き届くようにするためには必要不可欠である。
しかしながら、今では、監査委員会がより重大な監督責任を
担うよう求められることが多くなっていることから、多くの監査
委員会が自己の義務の範囲が適切であるかどうかを一歩引
いて再検討している。
監査委員会の役割が拡大していることを考えると、現在、監
査委員会の構成の適正化に重点を置き、監督を実効的なも
のにすることがますます重要になっている。監査委員会は、
例えば、個人の特性、独立性、規模、リーダーシップをはじめ
として、多くの要素を考慮に入れる必要がある。監査委員会
が適切な経験を持つ個人で構成されていると、適正な質問を
行い適切に検証することから、財務報告プロセス、リスクやコ
ンプライアンスの監督およびこれらに関連する分野に非常に
大きな価値を付け加えることが可能になる。
トップクラスの監査委員会においては、監査委員会が有効
に機能し、考え方を継続的に改善していくために、しっかりと
した年次の自己評価プロセスに着手することも必要である。
業務の品質の全般的な向上は、監査委員会が自己の業務遂
行についての自由闊達な議論に参加し、自己評価の結果に
基づき対応策を取ることを確約することによってのみ、達成が
可能となる。
「監査委員会 優れた実務シリーズ」の本レポートでは、トッ
プクラスになることが可能であり、そうなるべく取り組んでいる
監査委員会にとって極めて重要な 3 つの分野を取り上げる。
2. 監査委員会の役割の進化 ―
適切な規模とは?
監査委員会の役割や職責は、拡大する一方である。実際
のところ、監査委員会構成員の 10 分の 4 近くが、業務に振り
向ける時間について前年比で 11%~20%増えると見込んで
いる 1。いくつかの点で、監査委員会は、取締役会の職責の
うち担当が明確でない職責の割当先、すなわち、取締役会
のいわゆる「台所の不用品のしまい場所」も同然になってき
ている。IT の監督さえも、時間の大部分が監査委員会に割り
当てられ 2、監査委員会の多くにおいてデジタル分野の専門
知識の深さが問われるようになっている。実際のところ、取締
役の 3 分の 1 近くが、自社の IT 戦略やリスク軽減アプローチ
について、取締役会レベルで十分な理解をもって後押しする
態勢が整っていないと述べている。加えて、多くの監査委員
会 の 業 務 負 荷 に 、 第 三 者 リ ス ク や 紛 争 鉱 物 ( conflict
minerals)というまだ新しい 2 つの分野が加わっている。また、
監査委員会の多くが、全般的な「リスク監督」に関する取締役
会のプロセスに係る職責を承知している。これらの分野のい
ずれも、財務報告、内部統制、コンプライアンスに関する監
査委員会の中心的な職責と密接にかかわる。
取締役は、リスク監督責任が監査委員会と取締役会全体と
の間で明確に配分されているかどうかについても、懸念してい
る 3。これらの要因により、監査委員会構成員の多くが、過重な
負担が掛かり、業務に投入する時間が否応なしに増えている
と述べており、その職責の全てを果たせるのかについて疑問
を持っている。
外因的な観点から見た場合、監査委員会は、規制環境の
変化の影響も受けている。公開会社会計監督委員会
(PCAOB)が、監査委員会に影響を及ぼすいくつかの潜在的
な変更を提案しており、これらの変更には、外部監査人の監
督に対処する新しいガイダンスなどがある。また、PCAOB は、
PCAOB レビューや監査手続について監査委員会が監査人
に尋ねるべき質問に関するガイダンス案を最近公表している。
このガイダンス案について、監査委員会の業務遂行に関する
期待が増していることの表れでもある、とする向きもある。
その上、監査品質センターがあらゆる監査委員会に対し、
監査委員会報告について先手を打って自発的に拡充するよ
う求めている。こうした開示の拡充は、外部監査法人の選任、
監査人の監督、監査責任者の選任といった分野において監
査委員会が実施する業務に関するコミュニケーションの効果
を高めることを目的としており、すでに多くの監査委員会がこ
れに着手している。
監査委員会の役割の発展性を踏まえ、監査委員会規則に
ついて定期的に再検討し、監査委員会のその時点での職責
が的確に反映されるようにすることが重要である。
2
1
PwC「2013 年度企業取締役調査」2013 年 9 月
3
PwC「2013 年度企業取締役調査」2013 年 9 月
PwC「2014 年度企業取締役調査」2014 年 9 月
監査委員会 優れた実務シリーズ~卓越した実務を目指して~
3
監査委員会の検討項目:

監査委員会、他の取締役会委員会、取締役会全体と
の間で、個々のリスクの監督に関する責任が明確に配
分されるようにする。

監査委員会の職責範囲や、監査委員会の義務が合理
的かつ達成可能であるかどうかについて検討する。

監査委員会規則について定期的に再検討し、監査
委員会のその時点での職責が的確に反映されるよう
にする。
監査委員会は、取締役会の職責のうち
担う者が明確でない職責の割当先、
すなわち、取締役会のいわゆる
「台所の不用品のしまい場所」も同然
になってきている。
これらの分野は、監査委員会構成員にとってとりわけ重要
である。上記以外の関連分野としては、事業活動に関する
専門知識、情報技術への精通、会計の経験などがある。一
方、財務に関する深い知識がない構成員を含めれば、そ
れらの構成員が監督プロセスにおいて独特な視点を提供
することが可能なことから、その方が賢明であると考える監
査委員会もある。
個々の監査委員会の具体的なニーズはまちまちである
ものの、実効的な監査委員会構成員の特徴は、各企業を
通じておおむね共通しており、次のようなものがある。

活動力および時間 ― 監査委員会の仕事には、両方
とも多分に必要である。
提出書類はますます分量が増え、コンプライアンスは
より多くの時間を要し、リスク監督はさらに要求が厳しく
なっている。監査委員会構成員は、その役割に係る実
質的な要件を満たす能力を備えるだけでなく、業務の
品質向上を達成するための活動力(エネルギー)や意
欲もなければならない。

細部への注意 ― 財務報告のレビューやリスク管理の
監督においては、細部に十分注意することが必要であ
る。監査委員会構成員は、大量のデータの分析や、そ
れを自社の業務に関する、十分な情報に基づいた見
解をまとめあげることに優れていなければならない。

健全な懐疑心、知的好奇心および独立した立場での
判断 ― 監査委員会構成員は、知的好奇心を持つこ
3. 監査委員会の構成 ―
適切な構成員がそろっているか?
現在の環境の発展性、規制当局の圧力、監査委員会へ
の期待の全般的な高まりを考えると、今日においては、監
査委員会の職責を果たすために経験や専門知識の最適
な構成を確保することの重要性が大幅に増している。
と、適正な質問をすること、経営陣などから得た回答に
納得できないときには追加情報を徹底的に検討するこ
とが必要であり、このプロセスの一環として、自己のビ
ジネス経験、直観力、独立した立場での判断力を用い
なければならない。
監査委員会に関する基準のリストアップ――出発点
米国の証券取引所においては、監査委員会の構成に関
して最低限の基準を定めている。ニューヨーク証券取引所
(NYSE)やナスダックは、監査委員会構成員を最低 3 名に
するよう求めている。各構成員は、独立した立場にあり、財
務の知識を有していなければならない。両取引所はまた、
財務に関する専門知識または高度の知識を有する者を含
めるよう求めている。通常、監査委員会は、企業の顧問弁
護士と連携し、これらの基準を順守するようにしている。し
かしながら、監査委員会の構成を適切にするには、基準の
順守だけでは十分ではない。明敏な取締役は、監査委員
会の構成の最適化が業務遂行にどのように寄与するかに
ついて検討している。
どの特性が本当に重要なのか?
監査委員会には、監督責任を果たすことを可能にする
経歴や一連のスキルを有する構成員が必要である。取締
役の大半(92%)が、財務の専門知識が取締役における重
要な特性であると考えており、3 分の 2 近くがリスク管理の
専門知識について同じことを述べている 3。 6
3
4
PwC「2014 年度企業取締役調査」2014 年 9 月
役割、構成およびパフォーマンス

誠実性および性格 ― 監査委員会構成員は、明確な
「トップの姿勢(tone at the top)」を支援するために必
要な性格の強さを有し、経営陣などに業務遂行につい
ての説明責任を常に果たさせなければならない。
また、同僚や経営陣からの高い評価や信頼も維持しな
ければならない。従業員による不正行為の申し立てが
あった場合、しばしば監査委員会には、取締役会に代
わって調査を実施して結論を下す仕事が課せられる。
このような状況においては誠実性や客観性がますます
重要となり、不正行為者を罰するために性格の強さが
求められることがある。
リーダーの慎重な選出
監査委員会委員長が確立したリーダーシップが強いか
どうかが、監査委員会の最終的な実効性に直接影響を及
ぼす。財務報告、内部統制、リスク管理の理解に加えて、
監査委員会委員長は、強力なファシリテーションスキルを
要するとともに、業務上の有効な関係を、監査委員会構成
員、経営者との間で、また内部監査人や外部監査人との間
で促進できることが求められる。
順調に職務を遂行している監査委員会委員長は、相手の
話を聞く力が非常に発達しており、コミュニケーションにお
けるニュアンスの違いを判別することができる。監査委員
会委員長の経歴に関する最大の共通点は、退任した経営
陣幹部(取締役会長、CEO 社長)であるということであり、
28%がこれに該当する。以前に CFO、財務担当役員また
は財務マネージャーであった者は 25%である。現時点で、
S&P500 企業のうち、現役の取締役会長、CEO、社長が監
査委員会委員長であるのは 8%にすぎない 4。 9おそらく、
監査委員会委員長が多くの時間を要する職位であるから
だろう。
業務の習熟
通常、堅牢なオンボーディングプロセス(新任取締役研
修)においては、新任の監査委員会構成員に対し、自己の
役割に自信を持つ必要があるということを教える。オンボー
ディングプロセスには、CEO、リーダーシップチーム構成員、
同僚の監査委員会構成員、ならびに外部監査人や内部監
査人との討論が含まれることがある。
新任の監査委員会構成員向けオンボーディングプロセス
において、何を取り上げるべきか?
実効的な監査委員会委員長は、監査委員会構成員を
最大限に活用することができる上、同僚の取締役の業務遂
行が期待レベルに達していないときには、当該取締役に勧
告するか、更迭を提言することさえいとわない。このことは、
取締役の業務遂行が期待レベルに達していないことにつ
いての話し合いが難しいこともあり得るため、特に重要であ
る。実際のところ、取締役の 36%が、取締役会の誰かを更
迭すべきであると考えており、その者を更迭する上で唯一
の最も大きな妨げは、取締役会のリーダーがこの問題の対
処に消極的なことである 5。従って、厄介な議論を敬遠しな
い監査委員会委員長がいる場合、監査委員会における業
務の品質向上を達成する大きな助けとなり得る。
現在の環境の発展性、規制当局
の圧力、監査委員会への期待の
全般的な高まりを考えると、
今日においては、監査委員会の
職責を果たすために経験や専門
知識の最適な構成を確保すること
の重要性が大幅に増している。
監査委員会の適正規模
監査委員会の平均規模(中央値)は、4 名である 5。 一般
的に、3 名~6 名で構成される監査委員会がほとんどであり、
それにより、管理可能な規模を維持するとともに、効率化を
可能にする。引き継ぎ手続きを円滑に進めることができるよ
う特定の時点で規模の拡大を選択し、新構成員と在任期
間が長い構成員との間で十分な知識が移転されるようにす
る監査委員会もある。しかしながら、監査委員会の規模が
大きすぎると、関与する者が多くなったときに場合によって
は意見交換の焦点がぼやけるきらいがあり、逆効果となる
可能性がある。監査委員会の適正規模を決定する場合、
業務負荷の多さと構成員のスキルとのバランスを取ることが
鍵となる。
10
分野
主要なトピック
財務報告
・重要な会計方針
・重要な見積もり
・財務報告に係る内部統制
・セグメントの事業
・資金調達および流動性
・規制上の要求事項
・経営者の利益予想に係る
業務
・SEC への提出書類の時期
およびプロセス
コンプライアンス
・内部通報制度
・行動規範
監査委員会のプロセス
・監査委員会規則
・会議の議題
支援およびリソース
・監査委員会の自己評価
・監査委員会委員長の役割
・継続教育
主要な関係
・外部監査人
・内部監査部門
・IT 部門
・法務部門
大半の監査委員会構成員が、オンボーディングプロセス
に加えて、継続的に実施されている継続教育に参加してい
る。継続教育に関しては、さまざまな形態があり、経営陣
から入手した最新情報を補完するものである。取締役の
70%が、年次継続教育に最低 4 時間参加していると述べて
いる 6。規制環境が変化していき、会計基準も変更されてい
くことを考えると、監査委員会にとって教育はとりわけ重要
である。取締役の中には、取締役に焦点を合わせた組織ま
たは大学が主催するプログラムへの参加の方を好む者もい
れば、よりカスタマイズされたアプローチ(通常、外部の専
門家により提供され、特に監査委員会を対象としたアプ
ローチ)の方を好む者もいる。これらのアプローチを組み合
わせることにより、多種多様な教育経験を与え、物事への
関心を常に引き起こすことが可能である。
4
Spencer Stuart 「2014 US Board Index」2014 年 11 月
PwC「2014 年度企業取締役調査」2014 年 9 月
5
The Conference Board「2013 U.S. Directors’ Compensation and
Board Practices Report」2013 年 2 月
5
6
PwC「2013 年度企業取締役調査」2013 年 9 月
監査委員会 優れた実務シリーズ~卓越した実務を目指して~
5
適切な長さとは?
構成員の在任期間が長い場合、経験が深く、事業を理
解し、自社のプロセスに精通していることから、監査委員会
に大きなメリットがもたらされることもあり得る。しかし、在任
期間の長さから生じる潜在的リスクが存在する可能性があ
る。構成員の在任期間が長い取締役会または監査委員会
については、現状に安住し、経営陣からの独立性を失って
いる可能性があるため、構成員の入れ替えが望まれるが、
専門知識(例、リスク監督)を有する監査委員会構成員を入
れ替えるのは、容易ではない可能性がある。取締役会構成
員全員が適格ではないかもしれないし、または業務に習熟
することや時間を投入して監査委員会の仕事をすることに
意欲的ではないことがある。その上、交代が必要なときに、
監査委員会構成員全員が、監査委員会委員長の役目を
引き継ぐことを希望するとは限らない。
一部の取締役会では、監査委員会の任期を制限する制
度を公式または非公式に採用しており、任期に関しては通
常 7 年~10 年までの幅がある。しかしながら、取締役会のう
ち委員会構成員のローテーションを求める方針を定めてい
るのは、5 分の 1 にも満たない 7。 7一方、取締役を普通に入
れ替えることで、現状への安住や独立性に係る潜在的な問
題に十分に対処できると考える向きもある。監査委員会構
成員のローテーションを選択した取締役会においては、
個々の構成員の任期をずらすことが一般的である。これに
より、新任の構成員が、在任期間の長い構成員の経験から
学べるようにし、どのようなときでも、監査委員会における組
織の知識不足が放置されることがない。
これらを理由として、構成員のローテーションに関する手
法を再評価している監査委員会もある。
他社の監査委員会の兼務
取締役が務める可能性のある監査委員会の数の制限を
検討する際に、考慮に入れるべき要素が内部・外部を問わ
ず存在する。取締役の「多重兼務」に対する懸念を表明す
る機関投資家や議決権行使助言会社が少なくない。実際の
ところ、議決権行使助言会社では、一定数を超える取締役
会または委員会を兼務する取締役選任議案に反対するよう
勧めることが多い。加えて、NYSE 規則により、取締役が 3 社
超の公開会社の監査委員会を兼務する場合には、それぞ
れの取締役会から承認を得るよう義務付けられている。
S&P500 企業の取締役会の半数近く(46%)において、取
締役が兼務可能な監査委員会の数を制限する方針を策定
しており、しかもそのうちの 92%が、自社における他社の監
査委員会構成員の数を 2 名に制限している 8。 8監査委員
会構成員の需要が引き続き拡大していることから、取締役
会においては、他社の監査委員会の兼務に対する制限に
係る方針を定期的に見直すことが望ましい。
監査委員会の検討項目:

構成員の特性が、自社の監査委員会にとって最も有
益であるかどうかを評価する。

意思決定における監査委員会委員長の役割を重視す
る。監査委員会委員長が、監査委員会構成員、経営
陣、監査人との間における業務上の望ましい関係を促
進するスキルを示しているか?

効率的かつ生産的な監査委員会の適正規模を決定
する。

オンボーディングプロセスが、新任の構成員を早期に
業務に習熟させる上で十分なものであるかどうかを検
討する。

監査委員会構成員向けの継続的な教育研修を奨励・
促進する。

監査委員会構成員のローテーションまたは兼務の制
限について見直しを行う。
実効的な監査委員会委員長は、監査
委員会構成員を最大限に活用すること
ができる上、同僚の取締役の業務遂行
が期待レベルに達していないときには、
当該取締役に勧告するか、更迭を提言
することさえいとわない。
4. 監査委員会の自己評価 ―
どの程度有効か?
自己評価が効果を発揮した場合には、業務における品質
向上を達成することが可能になる。
NYSE上場会社など多くの公開会社では、監査委員会
の業務遂行について毎年評価を行うことが求められている。
しかしながら、自己評価により、単なるコンプライアンスの領
域を超えて、監査委員会の包括性や効率性のための手法
を検討する機会がもたらされ、必要があれば、改善のため
の変更点が明確になる。トップクラスの監査委員会では、業
務遂行の継続的な改善に努めており、堅牢な自己評価プ
ロセスを行うことで、実効性を向上させることが可能となる。
とはいえ、自己評価には厳しい課題が伴う。まず、自己評
価が価値のあるものとなるためには、取締役が自己の見解
を表明する際に率直であることが求められる。ただし、取締
役の大半が、自己の見解を口にすることに苦労している。
7
The Society of Corporate Secretaries & Governance
Professionals「Current Board Practices, Sixth Study」
8
Spencer Stuart「2014 US Board Index」2014 年 11 月
6
役割、構成およびパフォーマンス
自己評価において率直であることについて、取締役のうち
70%がいずれにせよ多少は難しいと述べており、5 分の 1
近くが非常に難しいと考えている。さらに、取締役のほぼ
3 分の 2 が、自己評価についていずれにせよ「回答欄に
チェックマークを付ける」練習問題のようなところが多少ある
と考えている 9。従って、率直であることを奨励し、かつ、自
己評価を戦略的に位置付ける方法で、評価を促進するとと
もに、基本的スキル(いわばアメフトにおけるブロックやタッ
クル)の範囲にとどまらないアプローチを構築することが、
監査委員会委員長の責務である。
取締役のうち、直近の自己評価で識別された問題を受
けて、変革を進めていると述べているのは半数にすぎな
い 10 が、識別された問題が放置されたままだと、自己評価
全体がその価値を失う。繰り返しになるが、監査委員会
委員長には、適切なフォローアップを確実に行うようにす
る極めて重要な役割がある。自己評価を受けて変革を進
めている取締役会または監査委員会における措置の最
大の共通点は、取締役会にさらなる専門的知識を追加
すること、取締役会の構成を変更すること、取締役会構
成員に助言を与えることである。
一般に、監査委員会の総合自己評価では、次の事項が検
討される。
評価分野
質問例
監査委員会の構成
監査委員会において保有して
いれば役立つことになるが、実
際には不足しているスキルま
たは経験があるか?
監査委員会構成員は、自社の事
業や業務について適切に理解
しているか?
監査委員会構成員がデジタル分
野についてもっと深い専門知識
を有することが望まれるか?
監査委員会の業務
自己評価のアプローチ
監査委員会構成員は、重要な見
積もり、判断、通例でない取引
といった、財務上の適正な開示
を重視しているか?
監査委員会の自己評価には、さまざまなアプローチがあ
る。その上、監査委員会が、アプローチを毎年変更すること
に決めていることもある。書面による質問票を用いている監
査委員会(80%)もあれば、外部の弁護士その他のガバナ
ンス専門家による面談を利用している監査委員会(約 3 分
の 1)もある 11。共通している取り組み分野として、監査委員
会構成員間における業務遂行に関する話し合い、監査委
員会の活動と監査委員会規則との照らし合わせ、監査委
員会の活動とトップクラスの監査委員会活動やベンチマー
クデータとの比較などが挙げられる。
監査委員会が自己の構成について考慮するとき、自己
評価が有用なツールとなる可能性がある。自己評価により、
監査委員会の構成の再評価、欠落部分の識別、監査委員
会の活動力の評価を行うことが可能になる。その結果、一
部の監査委員会では、個々の構成員の業務遂行に関する
評価も行っている。この評価においては、会議への出席、
関与状況、必要な時間の投入に関する積極性に加えて、
各構成員の貢献、判断、コミュニケーションスキル、自社の
事業の理解についても検討される。各構成員の評価の実
施により、取締役が引き続き適格であると確認することが可
能になる。取締役の 5 分の 1 近くが、個々の取締役の評価
が行われないことが、業務遂行が期待レベルに達していな
い取締役を更迭する妨げになっていると述べていることが
その背景にある 5。
PwC「2014 年度企業取締役調査」2014 年 9 月
PwC「2014 年度企業取締役調査」2014 年 9 月
11
The Conference Board
「2013 U.S. Directors’ Compensation and Board Practices Report」
2013 年 2 月
9
10
監査委員会構成員は、トップの
姿勢(tone at the top)
、企業文化、
内部統制、不正防止について適
正な質問を行っているか?
監査委員会が関与を深めるべ
き事項があるか?
監査委員会は、内部監査人や外
部監査人を適切に活用してい
るか?
監査委員会は、監督対象とする
リスクについて十分に理解し
ているか?
会議のダイナミクス
監査委員会構成員のうち、発言
が他の者に比べて多い者がい
るか?
今まで、会議に特定の個人が出
席していることが議論の妨げ
となったことはあるか?
プレゼンテーションと議論と
のバランスは適切か?
会議の頻度や時間配分は
適切か?
経営陣、内部監査人、外部監査
人との非公開会議に配分され
た時間は適切か?
監査委員会 優れた実務シリーズ~卓越した実務を目指して~
7
評価分野
質問例
資料の質
会議の資料において、監査委員
会が必要とする情報が漏れな
く、かつ効果的に提供されてい
るか?
監査委員会構成員は、会議に十
分先立って資料を受領してい
るか?
通常、監査委員会は、評価結果やアクションプランについ
て、指名委員会やガバナンス委員会、または取締役会全
体と一緒に検討し、対応を協議している。
監査委員会の検討項目:

堅牢な自己評価プロセスにより、意見交換の促進、良
好な活動力の推進、業務における品質向上の達成と
いう点で、監査委員会が得ることができる価値につい
て理解する。

現行の評価方針が最も実効性のある方法で機能して
いるかどうかを評価し、監査委員会が評価結果につい
て検討・議論するようにする。

自己評価プロセスの結果、監査委員会が実際に適切
な変革を進めているかどうかを判定する。
8
役割、構成およびパフォーマンス
お問い合わせ先
小林 昭夫
パートナー
(080) 3158 6271
[email protected]
久禮 由敬
パートナー
(080) 3270-8898
[email protected]
辻田 弘志
パートナー
(090) 1424 3247
[email protected]
井坂 久仁子
ディレクター
(080) 3253 3881
[email protected]
宇塚 公一
ディレクター
(080) 3755 2909
[email protected]
岡本 晶子(大阪)
ディレクター
(080) 3254 7973
[email protected]
西村 智洋(名古屋)
ディレクター
(080) 3124 3153
[email protected]
阿部 功治
シニアマネージャー
(080) 3508 9914
[email protected]
島袋 信一
シニアマネージャー
(080) 3211 1349
[email protected]
手塚 大輔
シニアマネージャー
(080) 4073 4034
[email protected]
平岩 修一(名古屋)
シニアマネージャー
(080) 9430 6898
[email protected]
その他のトピック
優れた実務シリーズ」で取り上げたその他のトピックは以下のとおりです。
※は、日本語訳を作成しています。
「監査委員会

企業の将来予測情報に関する実務ガイダンスおよび見積もり一致の潜在的リスク
(2014 年 3 月)

財務報告の監督(2014 年 5 月)

内部監査の監督(2014 年 7 月)※

外部監査人の監督(2014 年 9 月)※

会計方針の変更の監督―新しい収益認識基準を含む(2015 年 2 月)

当局の検査に対応する(2015 年 6 月)

サイバーメトリクス―取締役が知っておくべきこと(2015 年 9 月)

不正防止における監査委員会の役割(2015 年 12 月)※
詳細な情報(英語)は、以下からアクセスできます。
www.pwc.com/us/en/governance-insights-center/audit-committee-excellence-series.html
PwC の iPad アプリケーション(英語)は、以下からダウンロードできます。
pwc.to/Get365
www.pwc.com/jp
PwC Japan は、日本における PwC グローバルネットワークのメンバーファームおよびそれらの関連会社(PwC あらた監査法人、京都監査法人、PwC コン
サルティング合同会社、PwC アドバイザリー合同会社、PwC 税理士法人、PwC 弁護士法人を含む)の総称です。各法人は独立して事業を行い、相互に連
携をとりながら、監査およびアシュアランス、コンサルティング、ディールアドバイザリー、税務、法務のサービスをクライアントに提供しています。
PwC は、社会における信頼を築き、重要な課題を解決することを Purpose(存在意義)としています。私たちは、世界 157 カ国に及ぶグローバルネットワー
クに 208,000 人以上のスタッフを有し、高品質な監査、税務、アドバイザリーサービスを提供しています。詳細は www.pwc.com をご覧ください。
本報告書は、PwC メンバーファームが 2015 年 5 月に発行した『Audit Committee Excellence Series – Achieving excellence: Role, composition, and
performance』を翻訳したものです。翻訳には正確を期しておりますが、英語版と解釈の相違がある場合は、英語版に依拠してください。
電子版はこちらからダウンロードできます。 www.pwc.com/jp/ja/japan-knowledge/thoughtleadership.html
オリジナル(英語版)はこちらからダウンロードできます。
www.pwc.com/us/en/governance-insights-center/publications/assets/pwc-audit-coimmittee-composition-evaulation-aces-may-2015.pdf
日本語版発刊月: 2016 年 3 月
管理番号: I201602-3
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