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国際税務研究会 「国際税務」 2015 年 3 月号掲載 韓国の 2015 年税制改正及び実務への影響 税理士法人プライスウォーターハウスクーパース 公認会計士(韓国) 李炅宅

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国際税務研究会 「国際税務」 2015 年 3 月号掲載 韓国の 2015 年税制改正及び実務への影響 税理士法人プライスウォーターハウスクーパース 公認会計士(韓国) 李炅宅
国際税務研究会 「国際税務」 2015 年 3 月号掲載
韓国の 2015 年税制改正及び実務への影響
税理士法人プライスウォーターハウスクーパース
公認会計士(韓国) 李炅宅
Samil PricewaterhouseCoopers(三逸会計法人)
公認会計士(韓国) 盧映錫
2014 年9月,公表された税制改正案が一部修正を経て 2014 年 12 月国会を通過し,その改正税法を
規定する税法施行令改正案が 2015 年1月 27 日に閣僚会議を通過しました。
韓国における経済状況は世界経済の回復が遅れたことから内需は伸び悩んでおり,それに伴う賃上
げ率と就業者増加率の伸び悩みなどにより韓国国民が感じる景況感は依然として厳しい状況にありま
す。また,高齢化が OECD 加盟国の中で最も速く進み,生産可能人口及び消費余力の減少などの問
題が生じています。所得格差は 2011 年以後少しずつ改善されているものの,高齢層の相対的貧困率
は OECD 加盟国の中で最も高い水準を記録しています。
上記のような社会及び経済の状況を鑑みて,韓国政府は内需の活性化を通じて景気回復を図り,家
計所得の増大などを通じた民生安定を税制の側面で積極的に支援するとともに,課税の公平性の実現
及び納税便宜の向上など,税制の合理化も持続的に推進する方向へと税制改正を実施しました。
2015 年税制改正(主に外国人投資企業に関する内容)は,①経済活性化の側面,②課税の公平化
の側面,③税制の合理化の側面の3つの観点から類型化され,主な改正事項は次の通りです。
① 経済活性化の側面
・家計所得の増大のために勤労所得増大税制(賃金増加企業に対して増加分の5%または 10%を税
額控除)の導入
・企業所得還流税制(投資,賃金増加,配当などが当期所得の一定額を満たさない場合,本来納付す
る法人税のほかに追加で 10%を課税)の導入
・投資及び消費を拡大させるために雇用創出投資税額控除制度の控除税率の改正
・外国人勤労者課税特例適用期限の延長や外国人投資企業の同一事業場内の減免対象範囲の拡大
② 課税の公平化の側面
・外国人技術者の誘致を支援するために所得税減免対象となる外国人技術者の範囲の拡充
・域外脱税の防止を強化するために,居住者判定基準の強化(1年以上から 183 日以上)
・海外金融口座申告制度の改善(過怠金の引き上げや修正申告・期限後申告時の過怠金減免引き上
げ)
・国際取引明細書申告期限内未提出に対する過怠金(1千万ウォン)賦課
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1
・過少資本税制適用基準の強化(3倍から2倍)
・海外オープンマーケットから購入する電子的サービス(アプリ,音楽・映画ファイルなど)を付加価値税
の対象とする改正
・デリバティブ所得に対する譲渡所得課税の改正
③ 税制の合理化の側面
・納税者の権利保護のために内国税と関税の課税価格間事前合意制度の導入
・国税及び関税の更正請求期間が3年から5年に拡大
・国外関連者との取引価格算出と関連した資料提出の簡素化,海外旅行者携帯品の免税限度額の引
上げ及び未申告者に対する加算税の増額
以下は 2015 年税制改正のうち,主に外国人投資企業に関する内容について説明するとともに,実務
への影響についても簡単に述べます。
1.経済の活性化を図るための税制改正
(1) 家計所得の増大に資する税制
1) 勤労所得増大税制の新設
勤労所得の増大を通じて家計の可処分所得が増加するように,賃金を増やした企業に対して賃金の
増加分の 10%(大企業5%)を税額控除できるという規定が新設されました(租特法11 第 29 の4,租特令
2
2 第 26 の4)。一次的な優遇対象は企業ではあるものの,勤労者の賃金増加につながると期待されるこ
とから,企業よりは勤労者に優遇を与える制度であるといえます。政府は「企業の所得が家計へ流れる
必要があるのに,これが行き詰まって勤労者の可処分所得が減っている」とし,「今回のインセンティブ
を通じて勤労者の所得が増えることを期待する」と制度の趣旨を説明しています。
勤労所得増大税制の内容を簡単にまとめると下記の通りとなります〈表1〉。
1
租特法:租税特例制限法,以下同じ
2
租特令:租税特例制限法施行令,以下同じ
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2
〈表1〉
区分
内容
適用対象者
すべての企業3 (個人事業者含む)
適用要件
①及び②を満たす
①適用年度における常時勤労者の平均賃金増加率>直前 3 年間平均賃上げ率の
平均。なお、平均賃金計算においては役員と高額年俸者(1.2 億ウォン以上の
者)など除外がされる。
②適用年度の常時勤労者数 ≧ 直前年度常時勤労者数
税額控除率
中小企業4及び中堅企業510%、大企業65%
税額控除額
- [適用年度平均賃金-直前年度平均賃金 × (1 +直前 3 年平均賃上げ率の平均)]
×直前年度勤労者数* × 税額控除率
* 雇用増加効果を排除するため
適用期間
2015 年 1 月 1 日から 2017 年 12 月 31 日までの間に終了する事業年度
なお,適用要件において「総賃上げ率」ではなく,「平均賃上げ率」が用いられています。これは,総賃
金を基準とした場合,勤労者の賃金が増加しなくても雇用が拡大することにより税制優遇が受けられる
こととなり,このような弊害を避けるためです。
2)企業所得還流税制の新設
企業が稼得した所得を投資,賃金増加及び配当に活用させるためにこれら投資等が当期所得の一
3
韓国の税法においては,法人を中小企業,中堅企業及び大企業に区分し,中小企業及び中堅企業には大
企業に比し,税制上の優遇規定が適用されています。具体的な区分は脚注4,5,6のとおりです。
4
中小企業とは下記の要件をすべて満たす企業です。
①
不動産賃貸業など特定業種に該当しないこと
②
直前3課税年度の売上高の平均金額が一定金額(業種別に 400 億ウォンから 1,500 億ウォン)以下
の企業
③
相互出資制限企業集団(いわゆる,財閥企業)に属しないこと,かつ直前年度総資産額が 5,000 億
ウォン以上の法人に 30%以上の持分を保有されている企業でないこと
④
5
6
資産総額が 5,000 億ウォン以上の企業ではないこと。
中堅企業とは下記の要件をすべて満たす企業です。
①
中小企業でないこと
②
不動産賃貸業など特定業種に該当しないこと
③
相互出資制限企業集団に属しないこと
④
直前3課税年度の売上高の平均金額が 3,000 億ウォン未満の企業であること
大企業とは中堅企業と中小企業に該当しない企業
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3
定額を満たさない(基準未達額)場合,本来納付する法人税のほかに追加で課税(単一税率 10%)する,
企業所得還流税制が新設されました(法人税法第 56,法人税令第 93)。
韓国政府は,最近の景気低迷の原因には企業の利益が社内留保される傾向があるとの認識の下,投
資,賃金増加及び配当を促す仕組みとして企業所得還流税制を新設しました。この制度は,自己資本
が 500 億ウォンを超える法人(中小企業除外)や相互出資制限企業集団に所属する企業が対象とされ,
大企業と中堅企業に直接的な影響を及ぼすことになると思われます。
企業所得還流税制の内容を〈表2〉にまとめました。
〈表2〉
区分
適用対象者
内容
自己資本 500 億ウォン超過法人(中小企業除外)または相互出資制限企業集団に所
属する企業
税額計算方式
(a)または(b)のいずれかを選択(※最初に選択する時は 3 年間継続して適用)
(a) [当期所得* × 80% - (投資額**+賃金増加額***+配当額など****)] × 10%
(b) [当期所得 × 30% - (賃金増加+配当額など)] × 10%
*当期所得:法人税法上所得金額から一定の項目を加減調整
**投資額:事業用の有・無形資産(機械装置など)取得などの資産取得額7
***賃金増加額:職員(役員・高額年俸者除外)賃金の増加額
****配当額など:現金配当(中間‧決算配当)、自社株購入(消却)など
適用期間
2015 年 1 月 1 日から 2017 年 12 月 31 日までの間に終了する事業年度
なお、税額計算方式においては、(a)と(b)のいずれかを選択できるように規定していますが、両方式の違
いは「投資」項目の有無であることから、当期所得の 50%以上を投資に使う企業は(a)を選択することが有
利であり、投資金額が当期所得の 50%未満の企業は(b)を選択することが有利だと言えます。
(2) 投資及び消費の拡大
1)雇用創出投資税額控除制度の整備
雇用創出投資税額控除制度は,雇用創出型投資を促進するために,雇用創出人員により投資税額
控除優遇を受けられるように,2011 年税制改正時に設けられた制度(租特法第 26,租特令第 23)で,
2011 年1月1日以後の投資から適用されています。
なお,控除税額は,事業用資産8に投資したうえで,常勤の勤労者数が前年度下回らなかった9場合に
7
ただし,国内投資を喚起するために,海外投資・持分取得は投資の範囲から除外されます。
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該当事業に主に使用される有形資産(主に機械装置)とソフトウェアなど。土地と建築物,車両運搬具,
工具や機構,備品などは除く。
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は,下記の①及び②の合計額となります。
① 基本控除額:
投資金額に対して基本控除率(1~4%)を乗じた額
② 追加控除額:
雇用の増加人数に比例した控除額10と投資金額に対して追加控除率(3%)を乗じた金額のいずれ
か少ない金額
政府では,2015 年税制改正において雇用の拡大を促す投資をより促進するために基本控除率を1%
引き下げ(中堅企業及び中小企業)又は廃止(大企業)し,その代り追加控除率を1%引き上げ(中堅企
業及び中小企業)又は現行どおり維持(大企業)しました。また,地域経済活性化及び雇用促進効果の
大きいサービス業支援のために,地方投資又はサービス業に対しては,追加控除率をそれぞれ1%引
き上げました。
税制改正による雇用創出投資税額控除率の変動は次のとおりです〈表3〉。
〈表3〉
(単位:%)
大企業(3%~5%)
中堅企業(5%~8%)
中小企業(7%~9%)
区分
基本控除
首都圏内
首都圏外
首都圏内
首都圏外
首都圏内
首都圏外
1 → 0
2 → 0
2 → 1
3 → 2
4 → 3
4 → 3
追加
一般
3 → 3
3 → 4
3 → 4
3 → 5
3 → 4
3 → 5
控除
サービス業
3 → 4
3 → 5
3 → 5
3 → 6
3 → 5
3 → 6
一般
4 → 3
5 → 4
5
6 → 7
7
7 → 8
サービス業
4 → 4
5 → 5
5 → 6
6 → 8
7 → 8
7 → 9
合計
2)外国人勤労者課税特例適用期限の延長
韓国においては,従来から高度な技術を有する外国人の受入れを通じて成長力を強化するために,
外国人勤労者に対する課税特例を規定しています。その内容は,課税特例の対象になる外国人勤労
者の所得に対し韓国の一般的な所得税率(6%~38%)の代わりに,国内勤務開始日から5年間は
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中小企業の場合には,常勤勤労者数が減少する場合にも基本控除の適用が可能。ただし,基本控除額か
ら減少した常勤労働者数に1千万ウォンを乗じた金額を差し引いた金額が税額控除額になる。
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増加した勤労者数に1千万ウォン~2千万ウォンを乗じた金額
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17%の単一税率が適用されます。なお,地方所得税11についても同様に税額が軽減される(1.7%)こと
になります(租特法第 18 の2②)。
ただし,これは恒久的措置ではなく一時的な措置であり,その適用期限は 2014 年 12 月 31 日までと
規定されていました。しかし,2015 年税制改正によりヘッドクォーター認証企業については上記の適用
期限を廃止して恒久的に適用できるように改正され,その他の企業については,適用期限を2年延長し
2016 年 12 月 31 日までとしました12。
ここでヘッドクォーター認証企業とは,海外に多くの活動拠点を有する,いわゆるグローバル企業で,
韓国において事業戦略,人事管理,研究開発機能などのヘッドクォーター機能を有する企業として外
国人投資促進法で規定しています。海外子会社に対する意思決定と経営支援活動を総括する拠点を
誘致する場合,高級就職先の創出,国内調達増大,後続生産施設投資などの効果を得ることができま
す。このようなヘッドクォーターを誘致するためには,高度な技術を有する人材の住居環境改善,海外
子会社と頻繁な移転取引に対する税制の合理化などが重要であることから,このような点を勘案してヘ
ッドクォーターに勤める外国人勤労者に対し,所得と関係なく特例措置である 17%の税率を恒久的に
適用できることとなりました。
3)外国人投資企業の同一事業場内減免対象範囲の拡充
外国人(法人又は個人)投資は,長期的に安定した外資の確保,雇用創出,先進技術及び経営手法
の移転,構造改革の円滑化など多様な経済効果を発生させます。このような経済効果をもたらす外国
人投資を促進するために,韓国においては外国人投資に対して法人税及び所得税,地方税,関税及
び付加価値税などにおいて多様な租税特例を与えています。
そのうち,外国人投資企業に対する法人税の減免は,租税特例制限法で定めている減免対象となる
事業を営むことによって発生した所得に対する減免です(租特法第 121 の2)。その減免率は,高度技
術を伴う事業及び産業支援サービス業の場合,最初の5年間で 100%,それ以降の2年間で 50%となっ
ており,その他の場合(経済自由区域入居企業など)は,最初の3年間で 100%,それ以降の2年間は
50%となっています。
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所得税の納税義務がある個人は地方所得税を納税する義務があります。韓国における地方所得税は日本
の個人住民税及び法人税と同様の性格を持つ地方税ですが個人所得税の納税義務があるかどうかを判断す
る際,韓国内に当該納税義務者が住所を有するかどうかを問わないという点で,日本の個人住民税とは異
なります。
12
(適用時期)2015 年1月1日以後初めて労働を提供する所得から適用。
ただし,2015 年1月1日以降のヘッドクォーターの認証を受けた企業に対して勤労を提供した者も改
正規定を適用。
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なお,外国人投資企業が,同じ事業所内で既存事業とは異なる新たな事業を開始する場合は,その
新たに追加された事業もまた外国人投資減免対象事業に該当することがあります。この場合,従来の制
度では,同じ事業所内においては,減免率が異なる減免対象事業を1事業のみ適用できるとしていまし
たが,2015 年税制改正では外国人投資支援の実効性を高めるために,同じ事業所内で減免率が異な
る減免対象事業が複数ある場合には,区分経理することを条件に,それぞれが減免を受けられるように
しました。
2.課税の公平化を図るための税制改正
(1) 非課税・減免制度の整備
1)外国人技術者に対する所得税減免対象調整
韓国では優秀な技術を保有した外国人勤労者の誘致を支援するために,一定の要件を充たす外国
人技術者が国内で内国法人に勤労を提供する場合,当該外国人技術者が国内で最初に勤労を提供
した日から5年となる日が属する月までに発生した勤労所得に対しては所得税を免除しています(租特
法第 18,租特令第 16)。
ここで外国人技術者とは,従来は①特定研究機関・政府出資機関・非営利法人研究機関に勤務する
研究員,②産業分野(企業の研究所など)に5年以上従事する者または,該当分野学士のうち3年以上
従事する者,③エンジニアリング技術導入契約による技術提供者などが該当していましたが,2015 年税
制改正では上記の要件の中で①と②に該当する者は所得税減免対象から除外する一方,高付加価値
の外国人投資を支援するために外国人投資企業 R&D センターに勤務する研究員を新たに追加しまし
た(2015 年1月1日以後最初に勤労を提供する分から適用)。これは,内国人との公平性を図るために
所得税の免除対象技術者の範囲を縮小させたものと考えられます。
ここで,「外国人投資企業 R&D センター」とは,外国企業が独立した研究施設を設置し自然系分野修
士または,3年以上の研究経験を有する学士を5人以上常時雇う施設をいいます。そのため,韓国に子
会社を設立して研究所を運営する日系企業の場合は新しく対象者に追加される可能性があるので,
「外国人投資企業 R&D センター」に該当するかについての検討が必要となります。
(2) 域外における脱税防止の強化
1)居住者判定基準の強化
韓国所得税法においても日本と同様,個人を居住者と非居住者に区分して課税範囲を規定していま
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す。つまり,居住者は,国内源泉所得と国外源泉所得すべてに対し無制限に納税義務を有する13もの
の,非居住者は,国内源泉所得に対して制限的に納税義務が生じることになります。
ここで居住者とは,韓国国内に住所を有する個人及び1年以上居所を有する個人をいうものとされて
います。1年以上韓国内に居住することを必要とする職業を有するか,家族,職業,資産などの状況を
勘案して1年以上韓国内に居住するものと認められる場合は,韓国内に住所を有すると見なされます
(所得法第1の2,所得法令第2,第2の2,第4,相贈法14第1①)。
一方,非居住者とは引き続き1年以上国外に居住することを必要とする職業を有する者(内国法人の
国外事業場または 100%海外子法人に派遣された役員又は職員は除外),外国国籍を取得した者及
び外国の永住権を取得した者(国内に生計を共にする家族がいない者に限る)をいいます。また,職業
と資産状況を勘案し,再入国して主に国内に居住すると認められない場合も非居住者とみなされまし
た。
政府は,事実上,韓国内で活動しながらも「1年以上国外に居所を有する」という現行所得税法上の非
居住者の規定を利用する租税回避行為が増加している状況を問題視し,2015 年税制改正において1
年以上と規定されていた居住期間要件を,183 日以上に変更しました。すなわち,韓国内に 183 日以上
居所を有した個人,183 日以上韓国内に居住することを必要とする職業を有する者,家族,職業,資産
などの状況を勘案し,183 日以上韓国内に居住するものと認められる場合は韓国で居住者と判定される
ことになりました。なお,2課税期間にわたって 183 日以上居住する者は,国内に 183 日以上居所を有
することになります。
このため,税制改正により 2015 年1月1日以後居住者と判定される場合には韓国国内外のすべての
所得に対し無制限納税義務が発生することになるので,このような点を事前に認識して所得申告漏れ
がないように留意する必要があります。特に,韓国に技術者などを長期出張形式で,派遣させる日本企
業が少なくないものと理解されるところ,当該出張者の所得税の課税関係について再検討する必要性
があると思われます。
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ただし,課税期間終了日 10 年前から国内に住所や居所を有した期間の合計が5年以下である外国人居
住者については国内で支払いがされた国外発生所得及び,国内へ送金された所得に対して課税が行われま
す。
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相贈法:相続税法及び贈与税法,以下同じ
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2)海外金融口座申告制度の改善
海外金融口座申告制度は,居住者15や内国法人が保有している 10 億ウォン以上の海外金融口座を
国税庁に申告する制度をいいます。これは域外脱漏税源を把握して海外へ不当流出された資本を正
常課税権内へ引戻し,国内資本の不当な海外流出と域外所得脱漏を事前に抑制するために 2011 年
に初めて導入されました(国租法16第 34 の2,第 34 の3,第 35,国租令17第 51)。
このような海外金融口座について適正な申告を促すとともに,自己申告する納税者との公平感を確保
するため,2015 年税制改正では海外金融口座申告制度が一部改正されました。
① 過怠金の引き上げ
海外金融口座を申告しなかった場合に課される過怠金が下記のとおり引上げられました。
○未申告金額が 20 億ウォン以下分:未申告金額の4%=>10%
○未申告金額が 20 億ウォン超 50 億ウォン以下分:未申告金額の7%=>15%
○未申告金額が 50 億ウォン超過分:未申告金額の 10%=>20%
また,申告金額について説明ができない時に課される過怠金が未釈明金額の 10%から 20%へ引き
上げられ,未申告金額が 50 億ウォンを超過する場合の刑事処罰が現行の「未申告金額 10%以下罰金
又は2年以下懲役」から,「未申告金額 20%以下罰金又は2年以下懲役」へ強化され,海外金融口座
の適正な申告を促す仕組みとしました。
② 修正申告・期限後申告時の過怠金減免引き上げ
1)のとおり,未申告又は未釈明時に課される過怠金又は罰金は引き上げる一方,海外金融口座修正
申告及び期限後申告については過怠金減免率は引き上げました(納税者が自主的に修正申告又は期
限後申告をする場合に限る)。
具体的な減免率は,修正申告の場合,申告期間以後6ヵ月以内に申告する場合の減免率が 50%か
ら 70%,1年以内は 20%から 50%,2年以内は 10%から 20%に変更されており,4年以内(10%)の区
間が追加で新設されました。また,期限後申告の過怠金減免率も,申告期間以後1ヵ月以内は 50%か
ら 70%,6ヵ月以内は 20%から 50%に変更されており,1年以内(20%)および2年以内(10%)の期間
が追加で新設されており,自己申告する納税者に対し負担を減少させる改正と言われています。
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'居住者'には外国人居住者も含まれるので,日本から韓国に派遣され,居住者になった日本人駐在員など
も対象になることに留意する必要があります。
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国租法:国際租税調整に関する法律,以下同じ
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国租令:国際租税調整に関する法律施行令,以下同じ
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3)国際取引明細書申告期限内未提出に対する過怠金賦課
韓国では国外特殊関係者と国際取引を行う納税義務者は,国外特殊関係者の人的事項及び国外特
殊関係者との取引状況が記載された国際取引明細書を,法人税申告期限までに納税地管轄税務署長
に提出することとされています。
既存の法令では上記の国際取引明細書を法人税申告期限まで提出しない場合,課税当局が提出を
要求することができ,正当な事由なく期限まで提出しなかった場合や虚偽の資料を提出した場合には7
千万ウォンの過怠金を課することができるように規定されていました。
2015 年税制改正では,国際取引に対する課税の実効性を向上させるために国際取引明細書を法人
税申告期限まで提出しなかった納税義務者にも1千万ウォンの過怠金を課するように改正したことから,
法人税申告時に関連書式の提出漏れがないように留意する必要があります(国租法第 12,国租令第
51)。
4)過少資本税制適用基準の強化
資本に対する配当は損金と認められないものの,借入金に対する支払利息は損金と認められることか
ら,韓国の内国法人が外国法人(国外支配株主18)から資金を調達する際,出資よりは借入れにより行
われる場合が多いと言えます。このように過大な借入金に対する利子を損金と認めない制度が過少資
本税制です。
日本と同様に韓国の税法にも過少資本税制が存在し,韓国の内国法人が国外支配株主からの借入
金が出資金額の業種別倍数(一般業種は3倍,金融業は6倍)を超過する場合,その超過借入金に対
する支払利息を損金不算入とするように規定していますが,最近頻発している多国籍企業の租税回避
に対する課税強化の一環として,2015 年税制改正では一般業種のブラック業種別倍数を既存の3倍か
ら2倍に強化しました(国租法第 14,第 15)。
また,過少資本税制が適用される借入金の範囲についても一部改正が行われ,過少資本税制の適
用対象になる借入金の範囲を既存の国外支配株主からの借入だけでなく,国外支配株主の親族など
特殊関係者などからの借入も含めるようにしました。なお,国外支配株主の親族など特殊関係者とは,
次のとおりです。
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内国法人の持分の 50%以上を直接/間接的に所有している外国株主及びその外国株主が株式の 50%以上
を直接/間接的に所有している外国法人など
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○国外支配株主と次の関係にある者(国税基本法上特殊関係者)
①血族・親せきなど親族関係*
*6親等以内の血族,4親等以内の親せき,配偶者(事実婚姻含む)等
②役員・使用人など経済的相関関係*
*役員,使用人,本人の金銭やその他の財産で生計を維持する者など
<適用時期>2015 年1月1日以後開始する課税年度分から適用
このようなことから,従来過少資本税制の適用対象ではなかった場合でも,税制改正により過少資本
税制の適用を受ける可能性もありますので十分な検討が求められます。
(3) 新規財源の確保
1)海外オープンマーケットで購入する電子的サービス(アプリ,音楽・映画ファイルなど)VAT 課税
韓国の付加価値税法では韓国の消費者が海外オープンマーケット(グーグル・アップルなど)を通じて
アプリを購入する場合,韓国内開発者アプリは付加価値税が課税されていますが,海外開発者アプリ
には課税されませんでした(〈表4〉参照)。
〈表4〉
マーケットの
区分
アプリなど
国内オープンマーケット(SKT、KT な
海外オープンマーケット(グーグル・ア
どのアプリストア)から購入時
ップルなどのアプリストア)から購入時
開発者の区分
国内開発者アプリな
(VAT 課税) 国内開発者申告・納付
(VAT 課税) 国内開発者申告・納付
海外開発者アプリな
(VAT 課税) 国内オープンマーケット
海外開発者・海外オープンマーケット
ど
事業者などが申告・納付
事業者いずれも納付しない
ど
すなわち,海外オープンマーケットで販売された電子的サービスであっても国内開発者が開発して販
売したアプリに対しては付加価値税が課税される反面,海外開発者が開発したアプリで対しては付加
価値税が課税されませんでした。
2015 年税制改正では海外オープンマーケット事業者が海外開発者アプリに対して付加価値税を納付
するという制度を韓国でも導入することとしました。また,国内開発者と海外開発者間の課税公平及び
課税基盤を拡大するという趣旨で海外開発者アプリの場合には,海外オープンマーケット事業者が国
税庁ホームページにオンラインで簡便事業者登録をし,付加価値税を納付するように改正しました。な
PwC
11
お,本改正は 2015 年7月1日以後提供する役務から適用されます(付価法19新設)(付価令20第 96 の2
新設,付価令第 71①,第 73①)。
2)デリバティブ譲渡所得課税
今まで韓国ではデリバティブ市場の活性化を目的に,デリバティブに対する所得については非課税と
してきました。しかし,2015 年の税制改正では他の所得との課税公平などを勘案してデリバティブの譲
渡所得に対しても 2016 年1月1日以後の取引から課税(税率 10%)することになりました(所得税法第
94①5号など新設)。
ただし,デリバティブ課税導入初期であることを考慮して,国内デリバティブは KOSPI20021先物・オプ
ションを対象として課税することとし,国外デリバティブは海外デリバティブ市場で取引される取引所デリ
バティブを課税対象と規定しました。
3.税制の合理化を図るための改正
(1) 納税者の権利保護
1)内国税と関税の課税価格間事前合意制度の導入
2015 年税制改正においては,課税当局が課税価格変更処分をする前に国税と関税の課税価格を調
整できる制度を導入して納税者の不便を解消できるようにしました(国租法第6の3及び関税法第 37 の
2新設)。
つまり,内国税である法人税の事前合意制度(APA:Advance Pricing Agreement)の申請時,または関
税の課税価格事前審査(ACVA:Advance Customs Valuation Arrangement)の申請時に,APA または
ACVA を同時に申請することが可能となり,申請を受けた国税庁長官と関税庁長官は課税価格の評価
方法及び適正範囲を協議して決めるようにした制度です。
これに関する実務的な申請手続きについて簡単にまとめると下記〈表5〉のとおりになります。
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付加法:付加価値税法,以下同じ
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付価令:付加価値税法施行令,以下同じ
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KOSPI200 は,日本語では「韓国 200 種株価指数」とも呼ばれ,韓国取引所の全上場銘柄から市場代表
性や業種代表性,及び流動性を勘案して決定された 200 のプルーチップス(優良株式銘柄)を対象とする
時価総額加重型の株価指数をいう。
PwC
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〈表5〉
区分
事前合意申請対象
内容
○国税の独立企業間価格と関税の課税価格の評価方法が似ている場合
- (国税独立企業間価格)独立価格比準法、再販売価格基準法、原価基準法
(国租法第 5①1~3)
- (関税課税価格)同種・同質輸入物品取引価格法、類似輸入物品取引価格
法、国内販売価格逆算方法、算定価格方法(関税法第 31~第 34)
事前合意可能の有
○課税官庁は事前合意申込書の受付日から 90 日以内に事前合意申請者宛に
無通知
事前合意が可能か否かについて通知
-事前合意の不可通知を受けた場合、納税者は受領日から 30 日以内に APA と
ACVA の別途進行如何を課税官庁に回答
その他手続き
事前承認・審査方法及び手続きなどは APA と ACVA を準用
適用時期
公布日以後事前合意を申請する分から適用
韓国には,日本に比べて,外国の親会社からの資本財の輸入金額が大きい子会社が多いことから,
実務的に内国税と関税との摩擦問題がよく提起されており,輸入価格の決定に苦情を訴える会社が多
数ありました。しかし,このような制度の導入により,国税庁と関税庁が事前に輸入価格を相互合意する
ことで,このような問題を事前に解決できるとの点で納税者の権利保護に大変役立つ制度だと思われま
す。
2)国税及び関税更正請求期間の拡大
今まで納税者が申告した内容に対し,政府が追加で課税できる賦課除斥期間は5年でしたが,納税
者が政府に過大納付した税額を還付請求できる更正請求期間は3年と規定されていたため,納税者の
権利が制限されてきました。
このような状況を考慮して,2015 年の税制改正では,国税の賦課除斥期間と同じく納税者の更正請
求期間も5年に延長し,納税者の利益保護を強化しました。なお,適用時期は 2015 年1月1日からにな
ります(国税基本法第 45 の2①,関税法第 38 の3・4)。
(2) 納税協力事務の軽減
1)国際取引独立企業間価格算出関連書類提出の簡素化
納税者は国外特殊関係者との取引に際し最も合理的な独立企業間価格算出方法を選択して,選択
された方法及び理由を課税標準及び税額の確定申告時に納税地管轄税務署長に提出しなければなり
ません。ただし,小額の取引まで全て提出させるのは納税者に過度な負担となるため,一事業年度の
国際取引金額が下記の金額以下の場合には提出を要しないこととされました(国租令第7)。
PwC
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独立企業間価格算出方法選択理由書の提出免除基準
○全体財貨取引金額の合計が 50 億ウォン以下でかつ,役務取引金額の合計が5億ウォン以下
○国外特殊関係者別財貨取引金額の合計が 10 億ウォン以下,かつ役務取引金額の合計が1億ウォン
以下
2014 年1月に開催された外国人投資企業懇談会での外国人投資活性化案で提起された内容を基に,
2015 年税制改正では上記の提出免除基準を下記のとおり修正して納税者の負担を緩和しました。
○全体財貨取引金額の合計が 50 億ウォン以下でかつ,役務取引金額の合計が 10 億ウォン以下
○国外特殊関係者別財貨取引金額の合計が 10 億ウォン以下,かつ役務取引金額の合計が2億ウォン
以下
2)海外旅行者携帯品の免税限度上方修正及び未申告者に対する加算税の強化
海外旅行から帰ってきた旅行者が購入した免税品は一定金額の限度内で免除(基本免税)されます。
その基本免税金額は現行法では,US$400 ドルです。しかし,国民所得の向上及び国民厚生増大の見
地から 2015 年税制改正を通じて基本免税金額が US$600 ドルへ上方修正されています。なお,この規
定は,2015 年1月1日以後入国する旅行者携帯品から適用されます(関税法第 241,関税法規則第
48)。
一方,上記の免税限度金額を超える免税品については申告・納付しなければなりません。未申告者
に対する加算税率は現行法では 30%です。しかし,海外旅行者携帯品に対する自己申告を誘導する
ため,加算税を一般未申告は 40%,常習未申告(2年以内2回以上未申告)は 60%にまで上方修正さ
れています。なお,この規定は,2015 年1月1日以後入国する旅行者の携帯品から適用されます。
以上
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