...

月刊「国際税務」 2011 年 5 月号掲載 「インドネシアにおける相互協議及び APA に関する新規則の公表」 税理士法人 プライスウォーターハウスクーパース

by user

on
Category: Documents
13

views

Report

Comments

Transcript

月刊「国際税務」 2011 年 5 月号掲載 「インドネシアにおける相互協議及び APA に関する新規則の公表」 税理士法人 プライスウォーターハウスクーパース
月刊「国際税務」 2011 年 5 月号掲載
「インドネシアにおける相互協議及び APA に関する新規則の公表」
税理士法人 プライスウォーターハウスクーパース
パートナー 宮嶋 大輔
シニアマネージャー 野田 幸嗣
プライスウォーターハウスクーパース(PwC)インドネシア
パートナー Ay-Tjhing Phan(アイ・チン・ファン)
1.はじめに
2010 年 11 月号(vol.30)では,2010 年9月6日付で公表された移転価格税制に関する新規則(「PER‐43/PJ/2010」)
を含むインドネシア移転価格税制の概略を紹介した。加えて,インドネシア移転価格税制の執行状況と実務上の留意点
を解説した。
ある国で移転価格課税が行われた場合,その取引に関連する国の権限ある当局に対し経済的二重課税状態を解消
するために相互協議の申立てを行い,更に,同様の課税処分による将来の二重課税リスクを回避するため,二カ国間事
前確認(“Bilateral Advance Pricing Agreement”以下,「BAPA」)の申請を行うケースが多い。しかし,「PER‐43/PJ/
2010」では,移転価格税制を執行する際の一般的な内容に加えて相互協議や事前確認(“Advance Pricing Agreement”
以下,「APA」)制度について言及はあるものの,これらの実務上の詳細な規定がなく,相互協議,APA に関する規則の
公表が待ち望まれていた。
この度,2010 年 11 月3日付で相互協議に関する新規則(「PER‐48/PJ/2010」),同年 12 月 31 日付で APA に関す
る新規則(「PER‐69/PJ/2010」)が相次いで公表された。インドネシアの移転価格税制における制度面での大きな前
進であり,インドネシアに拠点を置く多国籍企業にとって,今後,相互協議と BAPA は一つの有効な選択肢となりうる。
本稿では,PER‐48/PJ/2010 と PER‐69/PJ/2010 について本邦移転価格税制との対比を行いながら解説する。
規則の単なる解説に留まらず,インドネシア税務当局の担当者に確認した内容も踏まえた解説となっている。しかし,こ
れらの規則が制定されてからまだ一年に満たない状況であるため,関連する法令規則の解釈等,実際の移転価格税制
の執行においては本稿で記載した内容と整合しない実務が行われることも考えられる。従って,実務上の判断を行うに
当たっては,その時点での最新の法令規則の解釈及び執行状況を踏まえて適切な対応を行って頂きたい。なお,本稿
の PER‐48/PJ/2010 の解説については移転価格税制に関連する部分の解説に絞っている。
2.相互協議に関する新規則
(「PER‐48/PJ/2010」)の概要
(1) 「PER‐48/PJ/2010」の概要
「PER‐48/PJ/2010」は以下の内容で構成されている。
第1章:一般規定(第1条~第2条)
第2章:インドネシア国内納税者又は租税条約締結相手国で納税するインドネシア国民からの相互協議の申請及び実
施手順(第3条~第9条)
第3章:租税条約締結相手国からの相互協議の申し入れに関する実施手順(第 10 条~第 18 条)
第4章:国税総局が主体的に行う相互協議に関する実施手順(第 19 条~第 22 条)
第5章:相互協議に関するその他の項目(第 23 条~第 26 条)
PwC
1
添付資料Ⅰ:相互協議の申請に関する実施手順【補足】
添付資料Ⅱ:相手国からの相互協議の申し入れに関する実施手順【補足】
添付資料Ⅲ:国税総局が主体的に行う相互協議に関する実施手順【補足】
(2) 第1章:一般規定(第1条~第2条)
第1章では,PER‐48/PJ/2010 の基本的な用語の解説と相互協議が行われるための要件について規定されている 1。
(3) 第2章:インドネシア国内納税者又は租税条約締結相手国で納税するインドネシア国民からの相互協議の申請及
び実施手順(第3条~第9条)
第2章では,インドネシア国内納税者又は租税条約締結相手国(「相手国」)で納税するインドネシア国民が,相互協
議を申請する場合の申請開始から合意に至るまでの流れについて規定している。
① インドネシア国内納税者による相互協議の申請
インドネシア国内納税者は,一定の場合に相互協議の申請が認められている 2。移転価格税制関連の要件としては,
インドネシア国内納税者が相手国に所在するインドネシア国内納税者の国外関連者との間における取引に関して移転
価格課税を受け,又は受ける恐れがあると認められる場合において相互協議の申請が認められている。
② 相互協議の申請手続
相互協議の申請は,必要事項を記載した申請書類を納税者の所轄税務署経由で国税総局(「DGT」)宛に提出するこ
とにより行われる 3。所轄税務署は,納税者が提出した申請書類に不備がないか否か確認する。不備がない場合は,申
請を受けてから 30 日以内に第二租税規則局 4 へ回付する 5。不備がある場合は,申請を受けてから 15 日以内に納税
者に対してその旨を通知する 6。
第二租税規則局は,所轄税務署から回付された申請書類を受理するか否か検討し 7,受理する場合,相手国の権限
ある当局に対して書面で相互協議の申し入れを行う 8。但し,1)相手国との租税条約で定められた申請期限 9 を経過し
ている場合,2)インドネシア国内納税者が相互協議を申請している案件について異議申立てを行い取り下げていない
場合,3)税務裁判所への提訴を行い取り下げていない場合,第二租税規則局は相互協議の申立てを受理しないことが
規定されている 10。この規定は,相互協議と国内救済手続の関係を規定する非常に重要な条項であるが,原則として
異議申立ての結論が出た後でなければ税務裁判に進む事ができないインドネシア税制の下では,2)に加えて3)の規
定をおく意味が不明であるなど解釈が困難な規定ぶりとなっている。DGT に対しこの条項の趣旨を確認したところ,納税
者が異議申立て等の国内救済手続に進むか相互協議に進むかは二者択一であり,一旦,異議申立ての結論が出た場
合には,相互協議に進む事はできないことを規定したとの事であった。逆に,異議決定前に異議申立てを取り下げた場
合は,相互協議に戻ることは可能となる。DGT は,このような解釈を行う一つの根拠として,異議決定の内容を変更でき
るのは,インドネシア国内法上は税務裁判のみである事を上げている。租税条約における二重課税排除の機会を,この
ような規定で制限することは不合理であるように思われるが,現地での課税事案に直面している納税者は,DGT が相互
協議と国内救済手続との関係につき,このような立場をとっている事につき特に留意して頂きたい。
また,次のような論点もある。インドネシアでの移転価格調査は通常の税務調査の一環として行われ,一つの更正通知
の中で移転価格税制と移転価格税制以外の課税処分が合わせて行われる。また,インドネシアの移転価格税制は国外
PwC
2
の関連者との取引だけでなく,国内の関連者との取引も課税処分の対象となり,国内取引と海外取引の両方で移転価
格課税を受けるケースもある。上述の通り相互協議に進むか国内救済手続に進むかは二者択一であることから,仮に納
税者が相互協議に進む場合には,相互協議に進む事が出来ない他の課税項目について国内救済手続に進む道が閉
ざされる事になる。この点,実務上は Tax Administration Law 第 36 条の規定に基づいて柔軟な解釈が行われる余地が
あると思われる為,このような複数の課税処分が同時に行われた納税者は,相互協議又は国内救済手続の選択を行う
に際しては,事前に DGT に確認を行うなどの対応も検討するべきである。
③ 相互協議申請と納税猶予制度について
2008 年1月以降,インドネシアでは納税猶予制度が導入され,納税者が課税処分に対して異議申立てを行う場合,納
税者は追徴税額を納付しないことも可能である 11。
一方,相互協議の申請を行う場合には,納税猶予制度の適用を受けられるか否かについて法令で明確に規定されて
いないため,納税者は課税された追徴税額を一旦全額納付する必要があると考えられる。相互協議を行う場合に限り納
税猶予制度が認められる日本とは全く逆の取り扱いとなる。
④ 相互協議が合意に至るまでのプロセス
DGT は,相手国の権限ある当局と相互協議が合意に至ると認められる状況となった場合には,合意に先立ち,合意案
の内容を書面で申請者に通知する 12。申請者は通知を受けた日から 30 日以内に当該合意内容に同意するか否か決
定しなければならない。申請者が当該合意内容を受け入れた場合,DGT は相手国の権限ある当局と合意する 13。合
意後,DGT は申請者に書面で合意内容を通知する 14。合意に至るまでのプロセスは日本とほぼ同様である。
⑤ 減額更正等
相互協議の合意内容がインドネシアでの納税額に影響を与える場合,DGT は更正決定の修正,減額,又は撤回を行
う 15。
⑥ 相互協議の終了
一定の場合,DGT は納税者に相互協議を終了することを書面で通知する 16。具体的には,申請者が DGT に対して
1)相互協議の取り下げや合意案に応じない旨を通知した場合,2)必要な資料を提出しない場合,3)虚偽の情報を提
供する場合,である。加えて,相互協議が合意する前に当該課税年度について申請者が異議申立て又は税務裁判所
へ提訴した場合も,上記②の相互協議の申請手続で記述した内容と同趣旨で相互協議は終了することになる。
(4) 第3章:租税条約締結相手国からの相互協議の申し入れに関する実施手順(第 10 条~第 18 条)
第3章では,相手国からの相互協議の申し入れがあった場合の合意までの一連の流れが規定されている。
① 相手国から相互協議の申し入れがある場合
移転価格税制に関連するのは,1)インドネシア国外の納税者がインドネシア国内の恒久的施設を通じて行う営業活動
又は業務に関して移転価格課税を受けた場合,2)相手国がインドネシア国内納税者と取引を行う国外関連者に対して
移転価格課税を行い,相手国から対応的調整の要請があった場合である 17。
PwC
3
租税条約に対応的調整の規定がない相手国からの相互協議の申し入れに対して DGT は相互協議を拒否する権限
を有する旨が規定されている 18。従って,対応的調整の規定がない日本との租税条約が適用される本邦移転価格課税
案件について,国税庁から相互協議の申し入れがあった場合,DGT は相互協議を拒否する権限がある。
② 相手国から相互協議の申し入れがあった場合の手続き
第二租税規則局は納税者の所轄税務署に相手国から相互協議の申し入れがあった旨を通知する 19。更に,第二租
税規則局は,納税者に対して相互協議を申請するか否かについて書面で確認し,納税者からの申請が行われない場
合には相手国からの相互協議の申し入れを拒否することになる 20。
③ 相互協議が合意に至るまでのプロセス
DGT は,相手国からの相互協議の申し入れを受理した後,相手国の権限ある当局と協議する 21。相互協議に合意す
れば,DGT は納税者の所轄税務署経由で納税者に合意内容を書面で通知する 22。
④ 対応的調整又は減額更正
日本とインドネシアとの間の租税条約では対応的調整の規定は置かれていない。しかしながら,DGT に対応的調整を
行う姿勢がなければ日本からの相互協議の申し入れをそもそも受理しないと考えられることから,DGT が日本と相互協
議を行うことを了承し相互協議が合意に至れば,対応的調整が行われる可能性は高いと考えられる 23。
⑤ 相互協議の終了
この規定に該当する場合,DGT は相手国からの相互協議の申し入れを拒否するか又は相互協議を終了することにな
る 24。移転価格税制に関連するのは,1)相手国との租税条約で定められた申請期限 25 を過ぎている場合や租税条約
の規定範囲外の場合,2)相手国から相互協議終了の申し入れがあった場合,3)インドネシア国内納税者が相互協議
を申請しない場合や DGT より更正を受けているインドネシア国内納税者が相互協議に関して十分な書類を提出しない
場合,4)相互協議に必要な情報が収集できない場合である。また,相手国からの相互協議の申し入れによる相互協議
が合意する前に,インドネシア国内納税者が当該課税年度についてインドネシア側で異議申立てを行った場合にも相
互協議は終了する 26。
(5) 第4章:国税総局が主体的に行う相互協議に関する実施手順(第 19 条~第 22 条)
DGT が必要と認める場合,DGT が主体的に相手国に対して相互協議の申し入れを行うことができる旨が規定されて
いる 27。具体的には1)インドネシア国内納税者又は相手国から受領した情報や文書に誤りがあった場合,2)インドネシ
ア側での移転価格課税案件について DGT が相手国に対して対応的調整を要請する場合,3)租税条約の解釈又は適
用に関して疑義が生じた場合,4)租税条約の適用にあたって他に協議が必要な事項がある場合,である。
(6) 第5章:相互協議に関するその他の項目(第 23 条~第 26 条)
第5章では,相互協議に関する DGT 内部の組織体制について規定されている。
相互協議は,第二租税規則局又は第二租税規則局から委任された担当者が窓口となり,相手国の権限ある当局と行
われる 28。相互協議にあたり,第二租税規則局又は第二租税規則局から委任された担当者は DGT の方針に従ってポ
ジションペーパーを作成する 29。
PwC
4
課税処分に係る相互協議の場合,DGT は第二租税規則局,税務調査・徴収局などの課税案件に関与した担当者の
中から構成される特別チームを編成する。特別チームに任命されたメンバーは DGT の方針に従ってポジションペーパ
ーを作成する 30。納税者が情報や文書の提出に協力しない場合,相互協議は終了する 31。
(7) 添付資料ⅠからⅢ【PER‐48/PJ/2010 の補足】
添付資料Ⅰ:相互協議の申請に関する実施手順【補足】
インドネシア国内納税者又は租税条約締結相手国で納税するインドネシア国民から提出された申請書類に関する一
連の処理について記載されている。
添付資料Ⅱ:相手国からの相互協議の申し入れに関する実施手順【補足】
相手国から相互協議の申し入れがあった場合の一連の手続きについて記載されている。
添付資料Ⅲ:国税総局が主体的に行う相互協議に関する実施手順【補足】
DGT が主体的に相互協議を行う場合の一連の手続きについて詳細に記載されている。DGT 側で相互協議を申請す
る案件について取り纏め,相手国の権限ある当局へ協議を申し入れる。
3.APA に関する新規則(PER‐69/PJ/2010)の概要
(1) PER‐69/PJ/2010 の概要
PER‐69/PJ/2010 は以下の内容から構成されている。
第1章:一般規定(第1条)
第2章:目的及び適用範囲(第2条)
第3章:APA 手続の全体の流れ(第3条)
第4章:事前相談(第4条~第8条)
第5章:APA の申請(第9条)
第6章:APA で審査する内容(第 10 条~第 12 条)
第7章:確認対象内容の文書化(第 13 条)
第8章:APA の効果及び評価(第 14 条~第 19 条)
第9章:その他の項目(第 20 条~第 21 条)
添付資料Ⅰ:事前相談申請の指定様式Ⅰ【FORM APA‐1】
添付資料Ⅱ:APA 申請の指定様式Ⅱ【FORM APA‐2】
(2) 第1章:一般規定(第1条)・第2章:目的及び適用範囲(第2条)
第1章では,PER‐69/PJ/2010 の基本的な用語が解説されている 32。第2章では,「APA は移転価格問題を解決す
る手段であり,インドネシア国内納税者の行う国外関連取引の全部又は一部について APA を申請することができる」旨
が明記されている 33。
また,PER‐69/PJ/2010 は特段の記載がない限り,ユニラテラル APA を想定した規定となっている。
(3) 第3章:APA 手続の全体の流れ(第3条)
第3章では,APA の開始から合意に至るまでの流れが規定されている。
PwC
5
事前相談の目的
DGT と納税者は,APA 申請に先立ち事前相談を実施しなければならない 34。事前相談では以下について審査が行
われる。
● APA の必要性
● 納税者が提案する独立企業間価格算定方法
● インドネシア国外の税務当局が APA に関与する可能性
● 納税者が作成したドキュメンテーション又は移転価格に関する分析
● 確認対象期間
● APA 申請に関するその他の関連事項
日本では APA 申請前に事前相談を行うか否かは納税者の任意であるが 35,インドネシアでは事前相談は必須となっ
ている。インドネシアの事前相談では,納税者が作成したドキュメンテーションが利用される。インドネシアでは 2008 年
開始事業年度より,いわゆるドキュメンテーションルールが導入されているため,毎年ドキュメンテーションを作成している
ことが前提となっている。
事前相談から合意に至るまで
納税者は,事前相談で APA 申請を行う事を認められた後に正式に APA を申請できる 36。ユニラテラル APA の場合
は,APA 申請後,DGT と納税者が合意すべき内容について協議を行い,双方が合意すれば APA 合意文書が発行さ
れる 37。一方,BAPA の一般的なプロセスは以下の通りである。
( BAPAの 流れ)
<インドネシア>
<相手国>
事前相談申請
インドネシアでは、事前相談は必須
である。
正式申請を拒否された場合、申請内
容の見直し後、再申請が可能である。
※DGTは事前相談での審査結果
について納税者に3ヵ月以内に
書面で回答する。
拒否※
事前相談
事前相談
受理※
正式申請
正式申請
国内審査
国内審査
相互協議(相手国-インドネシア政府間協議)
相互協議合意
合意文書の発行
APAの適用開始
年次報告書の提出
PwC
6
(4) 第4章:事前相談(第4条~第8条)
事前相談は,納税者が DGT へ事前相談の申請書(FORM APA‐1)と必要な添付書類を提出し,かつ納税者の所轄
税務署にこれらの写しを提出することで開始される 38。FORM APA-1に添付すべき資料が規定されているが 39,インド
ネシアの事前相談で必要とされている書類は,日本で APA を申請する際に必要な情報の殆ど全てを網羅するほど膨大
なものである。つまり,事前相談第1回目のミーティング前に,日本で APA 申請時に必要とされる書類を作成し DGT に
提出できるよう準備しなければならない。日本を含む多くの OECD 加盟国では,事前相談の段階でここまで詳細な情報
は要請されていない。更に,インドネシア特有の要求資料として,会計システム,製造プロセス及び意思決定プロセス,
並びに競合他社の情報も必要とされている。
事前相談での審査
納税者からの事前相談の申請に基づき,DGT は事前相談の日程を調整する 40。納税者は,事前相談の審査におい
て,DGT が必要と認める資料を提出しなければならない 41。DGT は,事前相談の申請があった日から3カ月以内に
APA の申請を認めるか否か書面で申請者へ回答する 42。事前相談において APA 申請が認められなかった場合,納
税者は APA を申請できない。但し,事前相談で APA の正式申請を拒否されたとしても,再度,その内容を変更し事前
相談を申請することが可能である 43。
(5) 第5章:APA の申請(第9条)
APA の提出書類
APA 申請にあたり,納税者は APA 申請書(FORM APA-2)とその添付資料を DGT に提出しなければならない 44。イ
ンドネシアでは申請期限についての明確な規定はない 45。これは APA の合意の時から APA の確認対象年度が開始
することが規定されていることが理由であると考えられる。納税者が APA 申請時に添付しなければならない資料は以下
のとおりである 46。
● 事前相談の議事録
● 申請者が提案する独立企業間価格算定方法及び申請者が作成したドキュメンテーション
● 当該独立企業間価格算定方法を適用した詳細な理由
● 当該独立企業間価格算定方法及びドキュメンテーションが独立企業原則に準拠していることの詳細な説明
● 重要な前提条件
添付資料として事前相談の議事録が要請されている点,加えて,重要な前提条件について詳細に例示列挙 47 されて
いる点が特筆すべき点としてあげられる。
ユニラテラル APA と BAPA
納税者がユニラテラル APA では二重課税が生じる恐れがあると考える場合に BAPA を申請することができる 48。
BAPA に係る相互協議の申請手続は PER‐48/PJ/2010 の規定に準じてDGTに相互協議を行うように書面で要請で
きる 49。
(6) 第6章:APA で審査する内容(第 10 条~第 12 条)
APA で審査すべき事項
PwC
7
APA 申請後,DGT は納税者と合意した日程で APA 申請の内容について審査を行う 50。DGT は,主に以下の項目
について審査する 51。
● 確認対象取引及び確認対象年度
● 比較可能性分析及び比較対象企業の選定
● 適用する独立企業間価格算定方法
● 独立企業間価格算定方法の決定にあたり考慮すべき要素や条件
● BAPA の必要性
確認対象期間とロールバック期間
日本とは異なり,インドネシアでは APA が合意した年度から起算して最長3年間が確認対象期間となる 52。また,(1)
税務調査が行われていない年度,(2)異議申立てが行われていない年度,(3)税金にかかる犯罪の兆候がない年度,
についてはロールバックの適用が可能であるとされている 53。
税務調査が行われた事業年度についてはロールバックを適用することはできないことから,インドネシアでは法人税の
還付申告となる場合,1年以内に必ず税務調査が行われるので還付申告となる事業年度についてロールバックを適用
できない。逆に言えば,納税者がロールバック申請を行っても税務調査が行われる可能性がある。
(7) 第7章:確認対象内容の文書化(第 13 条)
審査結果に基づいて,規定内容を網羅した合意案が作成される 54。ここでは,APA 合意の対象年度,適用する独立
企業間価格算定方法,独立企業間価格,利益,又はレンジなどが記載される。審査の最終日から 20 営業日以内に双
方が合意案に署名することにより,最終合意文書となる 55。合意内容は DGT と納税者を拘束する。
(8) 第8章:APA の効果及び評価(第 14 条~第 19 条)
APA の効果
納税者が APA の合意内容に従って取引を行っている場合,独立企業原則に準拠しているとみなされる 56。
補償調整
インドネシアでは,確認対象期間における補償調整の手続きは明記されていない。一方,ロールバック期間について
は補償調整を行うことができる 57。補償調整の結果,還付ポジションとなる事業年度について DGT は税務調査を行う権
限を有している 58。この規定は還付申告において申告後1年以内に調査を行い課税処分を行わなければ,納税者の申
告税額が法的に確定してしまうため,税務調査の権限を DGT が有している事を確認的に述べたものと考えられる。ロー
ルバックを適用することで,過去年度について納付ポジションとなる場合,追加納付税額に対して通常のペナルティが課
される 59。
年次報告書の作成
納税者は,確認対象取引が APA の合意内容に準拠していることを説明した年次報告書を作成する。年次報告書は,
確認対象事業年度終了から4カ月以内に納税者の所轄税務署に提出されなければならない 60。年次報告書に記載す
る具体的な事項は以下のとおりである 61。
● 確認対象取引について,APA で合意された独立企業間価格算定方法が適用されていることの説明
● 当該独立企業間価格算定方法が正確かつ継続的に適用されていることの説明
PwC
8
● 当該独立企業間価格算定方法の基礎となる重要な前提条件の正確性についての詳細な説明
APA の終了
納税者が APA の合意内容に従わない,DGT に有効なデータや情報を提出しない場合には,DGT が APA を終了さ
せることができる 62。
これらの APA の終了事由は合意文書に記載される 63。APA を終了させる場合,DGT は納税者に対して書面で通知
する 64。
APA と移転価格調査の関係
APA の合意によってインドネシアの関連法令規則に基づく DGT の税務調査の権限がなくなるわけではない 65。但し,
APA 対象期間については,上記の年次報告書の内容確認が移転価格調査を代替することになると考えられ,ロールバ
ック期間については,APA の審査過程においてその内容を DGT が確認した上でロールバックを適用していることから,
移転価格に関する税務調査は通常は行われないと考えられるが,もし行われたとしても,その範囲や程度は厳しいもの
ではないと考えられる。
APA の過程で納税者が提供した書類や情報等の取扱い
DGT は,APA の過程で納税者から提供された書類や情報等に対して守秘義務を負う 66。APA が途中で終了した場
合や合意に至った場合,これらの書類は DGT から納税者へ返却され,以後の税務調査においては使用されない 67。
国内取引に係る対応的調整
本邦移転価格税制上は,適用対象が国外関連取引に限定されているが,インドネシアの移転価格税制では国内取引
も適用対象となる。APA 申請をした法人が確認対象年度又はロールバック年度において,APA の合意内容に適合した
追加納付税額を支払う場合,他方の法人で対応的調整が行われることとなる 68。
APA と移転価格文書の関係
PER‐69/PJ/2010 では,APA とドキュメンテーションの関係について明記されていない。従って,APA 対象期間にお
ける年次報告書が移転価格文書を代替するか否かは不明である。
(9) 第9章:その他の項目(第 20 条~第 21 条)
APA 関連業務は DGT が編成したチームが担当する旨が規定されている 69。
(10) 添付資料ⅠからⅡ【事前相談及び APA 申請にかかる指定様式】
FORM APA‐1
日本では事前相談の際に正式な申請書類を提出する必要はないが,インドネシアでは FORM APA‐1の提出が要請
されている。申請者は,基本情報(名称,住所,納税者番号など)と APA の申請理由などの情報を記載の上,FORM
APA‐1に署名し提出しなければならない。
PwC
9
FORM APA‐2
インドネシアでは,APA 申請時に FORM APA‐2の提出が要請されている。FORM APA‐2は,日本の「独立企業間価
格の算定方法等の確認に関する申出書」に相当する書類である。記載事項は,ほぼ FORM APA‐1と同様である。日本
のように確認対象取引や確認対象年度などの詳細な情報の記載までは要請されていない。
4.まとめ
インドネシアで事業を行う納税者にとって PER‐48/PJ/2010 と PER‐69/PJ/2010 は,移転価格リスク管理目的上,
非常に有用な指針となることは間違いないが,条項の意味合いが不明瞭な部分も多く,不十分な内容である事は否定
できない。インドネシアにおいて,相互協議,APA の制度を利用する場合には,本稿で解説したポイントを踏まえて十分
な効果が得られるか否かにつき慎重に検討を行った上で,両制度の利用を判断して頂きたい。
以上
PwC
10
Fly UP