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国際税務研究会 「国際税務」 2013 年 10 月号掲載

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国際税務研究会 「国際税務」 2013 年 10 月号掲載
国際税務研究会 「国際税務」 2013 年 10 月号掲載
「米国連邦税 - 日本法人が留意すべき税務手続き」
PricewaterhouseCoopers LLP
ニューヨーク事務所 税務パートナー 徳弘高明
ワシントン DC 事務所 税務マネジャー 小林 徹
米国連邦税制は、外国法人による米国事業から生じる所得、および米国源泉の所得について、外国法人が行う
べき様々な税務手続き、すなわち、申告、納税、開示等を規定している。しかしながら、日本法人が、これらの手続
きに必ずしも通じていないこともあり、税務コンプライアンスの観点から問題となる事案は少なくない。
このような状況を踏まえ、本稿では、日本法人が留意すべき米国連邦税制上の税務手続きについて、「申告課
税」および「源泉徴収課税」のそれぞれについてご案内する。(「申告課税」および「源泉徴収課税」の概要につい
ては、本誌 2012 年 11 月号掲載「米国連邦法人税制の概要」もご参照ください。)
なお、本稿内の米国連邦税法上の申告書様式(Form)の名称は以下のとおりである。
Form 1120
U.S. Corporation Income Tax Return
U.S. Income Tax Return of a Foreign Corporation
申 Form 1120-F
U.S. Income Tax Return of an S Corporation
告 Form 1120S
課 Form 1065
U.S. Return of Partnership Income
税 Form 7004
Application for Automatic Extension of Time To File Certain Business Income Tax,
Information, and Other Returns
Form SS-4(*)
Application for Employer Identification Number
源
Form W-8BEN
Certificate of Foreign Status of Beneficial Owner for U.S. Tax Withholding
泉
Form 8833(*)
Treaty-Based Return Position Disclosure Under Section 6114 or 7701(b)
徴
Form 5472(*)
Information Return of a 25% Foreign-Owned U.S. Corporation or a Foreign
収
Corporation Engaged in a U.S. Trade or Business
課
Form 1042
Annual Withholding Tax Return for U.S. Source Income of Foreign Persons
税
Form 1042-S
Foreign Person’s U.S. Source Income Subject to Withholding
(*) 本稿では「源泉徴収課税」に分類しているが、「申告課税」にも関連する Form である。
1 申告課税
(1) 原則
申告課税においては、内国法人は所得の源泉地に関わらず全ての所得を課税対象とする(全世界所得課税)
一方、外国法人については「米国実質関連所得」を課税対象とする。「米国実質関連所得」とは、"income which is
effectively connected with the conduct of a trade or business within the United States" 1のことで、直接または(代
理人を通じた)間接を問わず、米国内の事業活動に有機的に関連した所得とされる。
日米租税条約では、条約上の特典条項を満たす日本法人は、米国に所在する「恒久的施設」を通じて米国事
業を行う場合においてのみ、当該恒久的施設に帰属する所得について申告納税義務を負うとされる。事業開始に
先立つ市場調査等、準備的または補助的な性格の活動を目的とする駐在員事務所は、租税条約が規定する恒
久的施設に該当せず、連邦税制上の課税対象外となる 2。本格的な事業開始に際し、(i) 米国支店が事業を行え
ば、日本法人が外国法人として、支店に帰属する米国実質関連所得について申告納税義務を負い、(ii) 米国子
会社が事業を行えば、当該子会社が内国法人として、全世界所得について申告納税義務を負う。
(2) 米国拠点の法的性格と申告形態
1
内国歳入法第 882 条(a)(1)
日米租税条約は州税および地方税に適用されないため、州税法、地方税法によっては、駐在員事務所が課税対象となることもあ
る。
2
PwC
1
日本法人の米国での事業展開において、事業の拡大に伴い、(i)駐在員事務所、(ii)支店、(iii)子会社と、米国拠
点の形態が変化していくこともあろう。表 1 のとおり、米国拠点の形態により、米国における申告納税義務、申告手
続きも異なってくる。
〔表 1 日本法人の米国拠点の形態による申告課税の対象および手続き〕
申告納税
米国拠点の形態
課税所得
義務
駐在員事務所
(課税対象外)
無(*)
予防申告 (後述)
支店 /
恒久的施設
恒久的施設に帰属する
米国実質関連所得
申告主体
日本法人
申告書様式
(Form)
1120-F
有
子会社(**)
子会社の全世界所得
米国子会社 1120
(*) 申告すべき所得は無いため、その意味では申告書の提出は不要であるが、租税条約の適用により免税となっ
ている場合は条約の特典を受けている旨の開示申告(Form 1120-F と後述の Form 8833 による)が必要となる。
(**) 「事業体課税」が適用される通常の内国法人(C corporation)を想定
米国拠点の形態として支店と子会社のいずれかを選択する際、子会社を選択する時の有力な理由として、一般
に、日本法人とは別法人である米国子会社が事業主体となることで、米国事業に伴う債務全般(製造者責任、使
用者責任等を含む)について日本法人が距離を置くことが出来るということがある。税務に関しても、米国子会社
の場合、申告主体である米国子会社が負う申告納税義務について、日本法人は直接的な責任は負わない。一方、
米国支店であれば、申告主体である日本法人が直接的な申告納税義務者であり、例えば、税務調査の時は、当
局の調査権限が日本法人本店に及ぶことになる。
(3) 支店申告
表 2 は、内国法人、外国法人を含む事業体の別により、申告書様式、課税方式、申告期限をまとめたものである。
〔表 2 事業体による申告手続き〕
事業体
内
国
事
業
体
LLC および
パートナーシップに
よる選択(*)
内国法人
(C corporation)
LLC および
パートナーシップ
申告書
様式
(Form)
課税方式
1120
事業体課税
申告期限(**)
延長申請
延長申請
しない場合
した場合
事業年度終了から
2 ヶ月 15 日
8 ヶ月 15 日
(6 ヶ月延長)
3 ヶ月 15 日
8 ヶ月 15 日
(5 ヶ月延長)
事業体課税
パススルー課税
1065
パススルー課税
小規模法人
8 ヶ月 15 日
1120S
2 ヶ月 15 日
(***)
(6 ヶ月延長)
(S corporation)
支店/
8 ヶ月 15 日
外
事業体課税
2 ヶ月 15 日
恒久的施設
(6 ヶ月延長)
国
1120-F
予防申告
11 ヶ月 15 日
法
(課税対象外)
5 ヶ月 15 日
人
(後述)
(6 ヶ月延長)
(*) LLC(Limited Liability Company)およびパートナーシップは、いずれも、「事業体課税」または「パススルー課
税」を選択出来る。
(**) 申告期限の延長申請は、申告期限までに IRS に Form 7004 を提出すれば、自動的に認められる。例えば
「内国法人」について、暦年事業年度であれば、申告期限は 3 月 15 日(延長申請した場合は 6 ヶ月延長により 9
月 15 日)、3 月 31 日終了事業年度であれば、申告期限は 6 月 15 日(延長申請した場合は 6 ヶ月延長により 12
月 15 日)となる。なお、納税期限の延長は、認められない。
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2
(***) 外国法人は小規模法人(S corporation)の株主となることが認められない。
日本法人を含む外国法人が申告主体になる支店申告は、通常の内国法人が用いる Form 1120 ではなく Form
1120-F により行う。支店に帰属する米国実質関連所得は、支店に帰属する総益金から総損金を控除して算定す
る。法人所得に乗じる税率は、累進課税も含め、内国法人と外国法人で同一である。また、申告期限も、事業年度
終了から 2 ヶ月 15 日(6 ヶ月間の延長が認められる)と、内国法人(Form 1120)と外国法人(Form 1120-F)で同
一である(ただし、 後述する「予防申告」の場合を除く)。
支店の課税所得算定において、日本法人が留意すべき事案として、米国のパススルー事業体への投資がある。
日本法人の投資の形態が、内国法人(C corporation)の株式の保有であれば、前述の米国子会社のケースと同
様に、法人税の申告主体はあくまで投資先の米国法人であり、出資者である日本法人が新たに申告納税義務を
負うことは無い。一方、「事業体課税」ではなく「パススルー課税」を選択したパートナシップや LLC への投資であ
れば、原則として、出資者である日本法人が投資先であるパススルー事業体の活動を通じ米国に恒久的施設を
有するとみなされ、パススルー事業体の課税所得のうち日本法人に帰属する部分は、日本法人の米国実質関連
所得に含まれる。
パススルー事業体への投資のうち、日本法人による LLC への投資のケース(図1)は、特に注意が必要である。
LLC は、法的には「Limited Liability Corporation」の名称のとおり法人格を有する一方、税務上「パススルー課税」
を選択するとパートナーシップ(「事業体課税」を選択しない場合)と同一の扱いとなるため、誤解を招きやすい。
「パススルー課税」を選択した LLC は Form 1065 による申告(課税所得および出資者情報からなる情報申告)を
行うものの納税主体ではなく、出資者である日本法人が、LLC の課税所得のうち出資割合に応じた帰属分を、他
の米国実質関連所得と合算して Form 1120-F により申告納税しなければならない(図 1 の事例 1)。なお、日本
法人が 100%持分を保有する LLC(「事業体課税」を選択しない場合)は、米国連邦税法上「Disregarded Entity」
(税務上、あたかも支店のように、出資者の一部とみなされる)となり Form 1065 の申告義務を負わないが、出資者
である日本法人は、LLC の課税所得全額を、他の米国実質関連所得と合算して Form 1120-F により申告納税し
なければならない(図 1 の事例 2)。
図 1 日本法人による LLC への投資のケース
事
例
1
2
申告主体
甲 LLC
日本親会社
他の出資者
乙 LLC
日本親会社
保有
割合
申告
義務
有
60%
40%
100%
納税 申告書
申告内容
義務
様式
無
1065 課税所得を情報申告
有
1120-F 米国実質関連所得は、甲 LLC 課税所得の 60%を含む
有
1120 全世界所得は、甲 LLC 課税所得の 40%を含む
無
(非該当)
有
1120-F 米国実質関連所得は、乙 LLC 課税所得の 100%を含む
(4) 予防申告(Protective Return)
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3
前出のとおり、日本法人は、米国に所在する恒久的施設を通じて米国事業を行う場合、当該恒久的施設に帰属
する米国実質関連所得について、申告納税義務を負う。ここで問題になるのが、恒久的施設の有無の判断が、租
税条約が規定する恒久的施設の判定基準に照らしても、容易ではないケースである。仮に、日本法人が「米国に
恒久的施設は無く申告納税義務を負わない」との税務ポジションに基づき Form 1120-F を提出しない場合でも、
将来の税務調査において、IRS(Internal Revenue Service / 内国歳入庁)が「米国に恒久的施設を有する」との税
務ポジションをとり、更正を行うことがあり得る。このような無申告の Form 1120-F に対する更正の影響については、
以下の 2 点に留意する必要がある。
第 1 は、経費の損金不算入のリスクである。外国法人の費用の損金算入および税額控除は一定の期限内に申
告を行った場合のみ認められると規定されているため、無申告に対する更正においては、益金総額を課税所得と
される場合があるので留意が必要である 3(表 3)。
〔表 3 1120-F の税額計算例〕
期限内
申告
恒久的施設に
益金
1,000
帰属する
損金
900
課税所得
100
税率(35%と仮定)
35%
法人税額
35
無申告
の更正
1,000
0
1,000
35%
350
第 2 に、除斥期間の無起算である。連邦税法では原則として申告書の提出時に除斥期間が起算されるため、無
申告の年度については除斥期間が起算されず、実務的には 6 年程度の遡及が上限とされているようであるが、
IRS は無期限に遡及して更正することが出来るので留意が必要である。
このように、Form 1120-F に対する潜在的な更正金額および更正期間を考慮すると、「米国に恒久的施設は無く
申告納税義務を負わない」との税務ポジションは、税務上の不確実性を伴うとも考えられる。こうした不確実性を除
く手続きとして、財務省規則に規定される「予防申告(Protective Return)」がある。これは「米国に恒久的施設は無
く申告納税義務を負わない」という税務ポジションを取りつつ、課税所得および税額を記載しない 1120-F を期限
内に申告することで、経費の損金算入の権利を留保するとともに、除斥期間を起算させるというものである。予防申
告における 1120-F は、納税者名、納税地、納税者番号等、課税所得および税額以外の限定的な情報申告にと
どまることから、「Skeleton 1120-F(骨格だけの 1120-F)」と呼ばれることもある。なお、予防申告の申告期限は、支
店申告より 3 ヶ月間猶予があり、事業年度終了から 5 ヶ月 15 日で、6 ヶ月間の延長が認められる。
(5) 予定納税
日本法人が申告納税義務を負う場合、税額が発生する事業年度においては、事業年度終了後である申告に先
立ち、事業年度内に予定納税が必要である。米国の法人税予定納税は、原則として、当事業年度の見込課税所
得に基づき、当事業年度中の各四半期ごとに 4 回(表 4)である。
〔表 4 予定納税期限〕
累積納税
四半期
12 月決算
3 月決算
必要割合(*)
第1
25%
4 月 15 日
7 月 15 日
第2
50%
6 月 15 日
9 月 15 日
第3
75%
9 月 15 日 12 月 15 日
第4
100%
12 月 15 日 3 月 15 日
(*) (過年度繰越税額 + 当期予定納税額) / 確定年税額
申告書提出により確定した年税額に基づき、各四半期の予定納税期限ごとに累積納税必要割合を満たしてい
たか判定され、不足していた予定納税額に対して加算税(Penalty)が賦課される(季節変動が激しい場合、各四
3
日米租税条約では課税所得の計算上経費を控除できる旨が規定されており、米国国内税法上の当該損金算入否認規定がそのまま
適用されるとは限らないが、実務上の対応として予防申告を検討することも必要と思われる。
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半期の実績に基づき年間税額を見積もり納税する場合等については特則あり)。なお、日本法人が持分を保有す
るパートナーシップや LLC(パススルー課税を選択している場合)の所得の帰属分も考慮して予定納税額を算定
する必要がある。
2 源泉徴収課税
(1) 原則
米国で事業を行う外国法人の米国源泉所得のうち、「定期的所得」に該当する所得は、「米国実質関連所得」の
申告課税とは別に、源泉徴収課税の対象となる。「定期的所得」とは、"fixed, determinable, annual or periodical
gains, profits, and income" 4のことで、各語の頭文字から「FDAP所得」とも呼ばれ、配当、利子、賃貸料、使用料、
報酬、その他の定期的な所得等が該当する 5。
国内法上、国外に支払われる FDAP 所得の源泉徴収税率は 30%である。ただし、米国と各国が締結する租税条
約は、所得の種類(配当、利子、使用料等)毎に軽減税率を規定している。日米租税条約により、特典条項を満た
す日本法人の FDAP 所得の源泉徴収において適用される軽減税率は表 5 のとおりである。
〔表 5 日米租税条約が定める軽減税率〕
配当
議決権株式の保有割合(直接または間接)
50%超(12 ヶ月以上保有)
10%以上 50%以下
10%未満
利子
金融機関向け
その他
使用料
0%
5%
10%
0%
10%
0%
以下(2)および(3)において、図 2 の日本法人が米国法人から FDAP 所得を受領するケースを念頭に、日本法人
および支払者(米国法人)の税務手続きについて概観する。
〔図 2 日本法人が米国法人から FDAP 所得を受領するケース〕
(2) 日本法人の税務手続き
4
5
内国歳入法第 881 条(a)(1)
これらの所得のうち米国実質関連所得に該当するものは、源泉課税ではなく申告課税の対象となる。
PwC
5
日本法人を含む外国法人が、米国における FDAP 所得の源泉徴収において租税条約の軽減税率を適用する
ためには、表 6 の各手続きが必要である。
〔表 6 FDAP 所得を有する日本法人の税務手続き〕
Form
提出先
内容
a) SS-4
IRS
納税者番号の取得
b) W-8BEN 支払者 租税条約適用対象である
ことを提示
c) 8833
IRS
租税条約による恩典の内
容を開示
a)
Form SS-4
内国法人、外国法人を問わず、法人は、Form SS-4 を IRS に提出し、所在地、事業内容、事業体形態等を登録
することで、納税者番号(Employer Identification Number / EIN)を取得する。Form SS-4 の申請は、内国法人の
場合、インターネット、電話、ファックス、または郵便による。外国法人の場合、インターネットによる申請は認められ
ないが、電話とファックスを併用して申請すると、通常、その場で納税者番号が取得出来る。
納税者番号は一身専属であり、法人格が継続する限り、単一の納税者番号を、全ての Form において使用する。
b) Form W-8BEN
FDAP 所得の受領者である外国法が、軽減税率等の租税条約の特典を受けるためには、FDAP 所得の支払い
に先立ち、支払者に Form W-8BEN を提出して、条約の恩典を受ける資格を有していることを提示する必要があ
る。支払者は、Form W-8BEN の内容に基づき、軽減税率により源泉徴収を行う。(このように Form W-8BEN は、
日本の租税条約届出書と類似した効果を持つ。ただし、租税条約届出書が所轄税務署長への提出を要するのに
対し、Form W-8BEN は IRS への提出は不要である。また、租税条約届出書「特典条項に関する付表(様式 17)」
は「居住地国の権限ある当局が発効した居住者証明」を必要とするのに対し、Form W-8BEN は居住者証明を必
要としない。)
Form W-8BEN は、FDAP 所得の種類ごとに、作成することが必要である。例えば、日本法人が、米国子会社か
ら、貸付金利子と、使用料を受け取る場合、Form W-8BEN を、2 枚作成する。また、Form W-8BEN は、記載内容
に変更が無い限り、原則として、作成年の 12 月 31 日から 3 年間有効である。例えば、2011 年 10 月に作成した
Form W-8BEN は、2014 年 12 月 31 日まで有効である。
なお、Form W-8BEN は、従来の FDAP 所得の源泉徴収制度に加え、2014 年 7 月 1 日から FATCA(Foreign
Account Tax Compliance Act / 外国口座税務コンプライアンス法)による源泉徴収制度が導入されるのに伴い、
近日中の改定が予定されている。公開(9 月 17 日現在)されている仮の申告書様式によると、外国居住者である
個人と外国法人は別の様式となり、また、FATCA による源泉徴収義務の有無に関する項目が加えられる。今後、
新しい様式に移行する際には、現行様式の効力および新しい様式による再作成の必要性等に関するガイドライン
が明らかにされると予想される。
c) Form 8833
Form 8833 は、FDAP 所得の受領者である外国法人が、租税条約の特典の内容を、IRS に対し開示する様式で
ある。外国法人は、特典の種類ごとに、また、FDAP 所得の支払者ごとに、適用する租税条約の条項、取引内容、
特典による金額等の開示義務を負う。Form 8833 は、Form 1120-F に添付して申告する。前述の支店申告の対象
外で予防申告もしていない外国法人であっても、Form 8833 による開示義務を負えば、名称、住所、納税者番号
等の納税者情報のみを記載した Form 1120-F に Form 8833 を添付して申告する。
なお、Form 8833 による開示義務は、Form 1042-S(後述)上に適切に記載された取引については、(i) 支払者が
関係会社間取引として Form 5472(日本の法人税申告書別表 17(4)「国外関連者に関する明細書」に相当)にお
いて開示する、または、(ii) 受取額が事業年度を通じ総額 500,000 ドル以下である、等を要件として免除される。
(3) 支払者の税務手続き
外国法人に対する FDAP 所得の支払者は、以下のとおり、支払毎に源泉徴収義務を負うとともに、各暦年毎に
Form 1042 の申告義務を負う。
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6
a)
源泉徴収
FDAP 所得の支払時に源泉徴収した税額の IRS の納税期限は、(i) 12 月 31 日時点の未納税額が 200 ドル未
満のときは、翌年の 3 月 15 日、(ii) 各月末の未納税額が 200 ドル以上 2,000 ドル未満のときは、翌月 15 日、(iii)
各月の 7 日、15 日、22 日、末日の未納税額が 2,000 ドル以上のときは、3 日以内、とされる。
納税手続きは、多くの場合、財務省の Electronic Federal Tax Payment System (EFTPS)のウェブサイトを活用し
て行われている。
b) Form 1042
FDAP 所得の支払者は、毎年 3 月 15 日を申告期限(Form 7004 による 6 ヵ月延長が認められる)として、前年
の FDAP 所得の支払額、源泉徴収税額、支払四半月等を記載した Form 1042 の申告義務を負う。納税額に不足
がある場合は納税も行う。
Form 1042 の申告は、FDAP 所得の種類ごとに、さらに、源泉徴収の有無にかかわらず、行われなければならな
い。例えば、日米租税条約において免税とされる使用料のケースで、使用料の支払先が日本法人のみで源泉徴
収税額が無い支払者でも、支払使用料について Form 1042 の申告義務を負っている。
受領者ごとの明細票である Form 1042-S は、Form 1042 と併せて申告するだけでなく、写しを受領者に交付す
る。Form 1042-S は、所得税法上の源泉徴収票および支払調書と同様、収入および源泉徴収税額を証明する書
類である。例えば、日本の法人税申告の直接外国税額控除制度において保存が求められる納税証明(法人税法
第 69 条第 10 項/施行規則第 29 条の 3 第 2 項)に該当する。
3 まとめ
日本法人には、米国税務コンプライアンスは米国子会社の問題で自分たちには関係が無いだろう、あるいは前
年の税務手続きを踏襲すればよいだろうというアプローチが垣間見られることがあり、米国事業が安定局面にあり
米国子会社が順調に事業遂行しているような場合、このような傾向がより強い。
こうした日本法人でも、営業、納品・据付、アフターサービス、研究開発者の派遣等の活動を自ら米国で行って
いれば、恒久的施設を認定されるリスクと完全に無縁ではないと考えられる。また、源泉徴収課税の観点から、日
本法人は、米国に恒久的施設を有するか否かにかかわらず、米国子会社から配当、利子、または、使用料を受領
する場合には、米国での申告が必要となる場合がある。
米国で事業を展開する日本法人は、米国連邦税制上の手続きについて常に注意を払い、例えば、Form 1120F による予防申告、Form 8833 による日米租税条約の特典享受の開示、Form W-8BEN の提出状況の確認等を
継続して行うことが、米国税務コンプライアンスの遵守のために有効であると考えられる。
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