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国際税務研究会 「国際税務」 2011 年 11 月号掲載 「日系企業が台湾に進出する際に知っておくべき台湾国際課税のポイント(下)」 税理士法人プライスウォーターハウスクーパース

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国際税務研究会 「国際税務」 2011 年 11 月号掲載 「日系企業が台湾に進出する際に知っておくべき台湾国際課税のポイント(下)」 税理士法人プライスウォーターハウスクーパース
国際税務研究会 「国際税務」 2011 年 11 月号掲載
「日系企業が台湾に進出する際に知っておくべき台湾国際課税のポイント(下)」
税理士法人プライスウォーターハウスクーパース
パートナー 加藤 雅規
マネージャー 周 泰維、堀越 大三郎
3.源泉地国としての台湾における課税の方式
(1) 源泉徴収と申告納税
台湾所得税法第 88 条第1項は,以下のように規定される。
「納税義務者に以下の各種所得がある場合,源泉徴収義務者は支払時に規定の源泉徴収税率または源泉徴収規定に
基づいて源泉徴収し,第 92 条の規定によりこれを納付しなければならない。(中略)
第2号 機関,団体,学校,事業,破産財団または業務執行者が給付する給与,利息,賃貸料,手数料,権利金,競技,
試合または確率抽選の賞金あるいは給付額,定年退職金,解雇手当,退職金,自己都合の退職金,終身年金,保険給
付に属さない養老年金,告発あるいは情報提供賞金,仕組債取引の所得,業務執行者の報酬,および中華民国の領
域内に固定した営業場所および営業代理人を有していない外国営利事業に給付する所得。(後略)」
従って,支払者が外国営利事業にある所得を支払う際には,当該外国営利事業が台湾国内に恒久的施設を有している
かを判断する必要がある。
それに対して,台湾所得税法第 73 条第1項前段の規定は以下の通りである。
「中華民国領域内に居住していない個人,および中華民国領域内に固定した営業場所および営業代理人を有していな
い営利事業に,中華民国領域内において本法第 88 条に規定する各種所得がある場合は,本法第 71 条の確定申告
に関する規定を適用せず,その納付すべき所得税は,源泉徴収義務者が支払の時に規定の源泉収税率により源泉徴
収する。」
この条文の反対解釈により,「中華民国領域内に固定した営業場所および営業代理人を有している営利事業が本法第
71 条の確定申告に関する規定を適用する」という結論が導かれる。すなわち,台湾に恒久的施設を有する外国営利事
業は,台湾における恒久的施設を経由して,台湾当局に台湾源泉所得を課税標準とした申告納税義務を負うこととなる。
(2) PE の認定原則
台湾所得税法第 10 条第1項は,以下のように規定される。
「本法において言う固定した営業場所とは,事業を経営する固定した場所を指し,管理事務所,支店・代表事務所,事
務所,工場,作業場,倉庫,鉱場および建築工事現場を含む。但し,専ら商品の購入用に使われる倉庫または保管場
所で,商品の製造加工に使用されない場所は含まれない。」
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この内容からは,日本の法人税法第 141 条に規定する1号PEと2号(建設作業)PEに類似している。ただし,建設作業
PEの認定について,日本の法人税法第 141 条第2号は「1年を超えて行う」という「12 ヶ月」基準を設けているのに対し,
台湾の法律には同様の基準がないため,台湾国内の建設工事が固定した営業場所に該当しているかどうかをめぐって
しばしば争いが発生している。
台湾所得税法第 10 条第2項は,以下のように規定される。
「本法において言う営業代理人とは,下に挙げる条件の1つに該当する代理人を指す。
第1号 購入業務の代理を行うと共に,経常的にその代理する事業を代表して商談かつ契約締結の権限を有する者。
第2号 経常的にその代理する事業の製品を保管し,かつ代理する事業を代表してその製品を他人に納品する者。
第3号 経常的にその代理する事業のために受注を行う者。」
この規定は,日本の法人税法第 141 条に規定する3号(代理人)PEと類似している。ただし,本条第1号と第2号に規定
する営業代理人は日本国内法(法人税施行令第 186 条)での常習代理人と在庫管理代理人と同様であるものの,日本
国内法の「注文取得代理人」は「その事業に関し,契約を締結するための注文の取得,協議その他の行為のうちの重要
な部分をする者」と定義され,台湾所得税法第 10 条第2項第3号の「代理する事業のために受注を行う者」と比べると,
文理解釈上は日本国内法の方が範囲が広いと思われる。
従って,日本法での「恒久的施設」の感覚で,台湾の「固定した営業場所と営業代理人」の判定をする場合には,台湾
の税務当局の意見と相違するおそれがある。
(3) 申告納税義務に関する過料
外国営利事業が,実際には台湾にPEを有していないにもかかわらず,PEを有しているものと誤って判定してしまった場
合には,不要な申告・過剰な納付をしてしまう可能性がある。外国営利事業が,実際には台湾にPEを有しているにもか
かわらず,PEを有していないものと誤解する場合には,過少申告または無申告となる可能性が高く,税務当局に過料を
科される場合もある。
台湾所得税法第 110 条は以下のように規定される。
「納税義務者が本法の規定によって確定申告,決算申告あるいは清算申告をして,本法の規定により申告課税されるべ
き所得額について,申告洩れまたは過少申告をした場合には申告洩れ額の2倍以下の過料を科す 10。」
過剰納付を行った場合には納税還付という救済手段 11があるが,過少申告または無申告により過料が科された場合に
は,あまり有効な救済手段はない。外国営利事業がPEを有していると判定すべきか否か不明確な場合においては,リス
10
日本の国税通則法の規定では重加算税の場合(過少申告加算税又は無申告加算税に代え)でも増差税額の 35‐40%であるの
に比較すると,厳しい規定であると言える。
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台湾税金徴収法第 28 条第一項;「納税義務者は自ら法令の適用または計算の錯誤により過剰納付した税金につき,納付してか
ら5年以内に,具体的な証拠を添付した上で納税還付を申請することができる,ただし,5年間の期限を超えているものについては,
その還付を申請できない。」
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クをコントロールするため,まずはPEを有しているものとして台湾税務当局に申告納税を行い,その後仮にPEがなかっ
たと判明した場合には納税還付を申請するという方法を採ることも考えられる。
なお,外国営利事業がPEを有しているという認定は正しいものの,台湾源泉所得を台湾源泉所得でないものと誤って判
断してしまったことにより,当該所得に対する営利事業所得税が無申告または過少申告となってしまった場合にも,台湾
所得税法第 110 条により過料を科される可能性がある。
(4) 源泉徴収義務に関する過料
台湾源泉所得の受益者である外国営利事業が実際にはPEを有しているにも関わらず,当該所得の支払者が受益者は
PEを有していないものと誤認する場合には,当該支払の際に過剰に源泉徴収を行い,受益者の権利を侵害する可能
性がある。一方,台湾源泉所得の受益者である外国営利事業が実際にはPEを有していないにも関わらず,当該所得の
支払者が受益者はPEを有しているものと誤認する場合には,当該支払の際の源泉所得税について過少納付もしくは不
納付となってしまう可能性が高く,税務当局に過料を科される場合もある。
台湾所得税法第 114 条は以下のように規定される。
「源泉徴収義務者に下記の事由のいずれか1つに該当する場合は,それぞれ各号の規定に従って処罰する。
第1号 源泉徴収義務者が第 88 条の規定により源泉徴収を行っていない場合,期限を設けて,源泉徴収を命じたが源
泉徴収していないあるいは源泉徴収が過少となっている税額について,源泉徴収票の追加作成・提出を行なうことを命
ずると共に,源泉徴収していないあるいは過少源泉徴収となっている税額と同額以下の過料を科す。期限までに源泉徴
収していないあるいは過少源泉徴収の税額を追加申告していない場合,あるいは事実に基いて源泉徴収票を追加作
成・提出していない場合,源泉徴収していないあるいは過少源泉徴収となっている税額の3倍以下の過料を科す。
第2号 源泉徴収義務者が本法により税額の源泉徴収をしたが,第 92 条に規定する期限までに事実に基づいて源泉
徴収票を作成・提出あるいは発行していない場合は,期限を設けて,追加作成・提出または追加発行を命じ,源泉徴収
税額の 20%の過料を科すが,最高でも 22,500 元とし,1,500 元を下回ってはならない。期限を過ぎたが自主的に申告
あるいは発行した場合は,過料を半額に減額する。税務当局が期限を設けて追加作成・提出または追加発行を命じた
が,源泉徴収義務者が期限以内に事実に基づいて追加作成・提出または追加発行していない場合は,源泉徴収税額
の3倍以下の過料を科す。但し,最高でも 45,000 元とし,3,000 元を下回ってはならない。
第3号 源泉徴収義務者が第 92 条に規定した期限を過ぎてから源泉徴収した税金を納付した場合は,期限を2日超過
する毎に1%の滞納金を追徴する。 1213
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日本の国税通則法の規定では重加算税(不納付加算税に代え)の場合でも増差税額の 35%であるのに比較すると,厳しい規定
であると言える。
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台湾税法における増差税額に対する過料の金額が高すぎるため,比例原則(すなわち,目的に対してそれを実現するための手
段が過重であってはならない)に違反しているのではないかとの批判がある。特に,源泉徴収義務者は無償で強制的に政府のために
税金の徴収をさせられており,その求められる注意の程度が有償でサービスを提供している者と同等に扱われるのは適当ではないと
の主張がある。最近,上記の過料規定は憲法違反であるとの理由で大法官(憲法裁判所)に控訴されたが,大法官はこの控訴につき,
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台湾では,源泉徴収対象となる所得の受益者・源泉徴収義務者のいずれもが源泉徴収の課税の当事者であることが通
説とされており,過剰納付があった場合には,受益者も過剰納付から5年以内であれば所轄当局に対して納税還付を申
請できる。源泉徴収義務を負うにも関わらず,過少源泉徴収または無徴収であると見なされる場合には,税務当局に過
料を科される可能性がある。
台湾源泉所得の受益者である外国営利事業がPEを有しているかどうか不明確な場合には,リスクをコントロールするた
め,当該所得の支払者が受益者はPEを有していないものとしてその台湾源泉所得の支払の際に源泉徴収し,その後
仮に受益者がPEを有していることが明らかになれば,受益者または支払者が納税還付を申請するという方法を採ること
も考えられる。
なお,受益者である外国営利事業がPEを有していないという認定は正しいものの,支払者が台湾源泉所得を台湾源泉
所得でないものと誤って判断してしまったことにより,当該所得について源泉徴収洩れまたは過少源泉徴収となってしま
った場合にも,台湾所得税法第 114 条により過料を科される可能性がある。
(5) 源泉所得の課税標準をネット金額とすることができるケース
台湾所得税法第 25 条第1項は,以下のように規定される。
「本部が中華民国領域外にある営利事業で,中華民国の領域内で国際運輸,建設工事請負,技術サービス提供あるい
は機器設備リースなどの業務を経営し,その原価費用配分計算が困難な場合は,中華民国領域内に支店あるいは代理
人を設置しているかどうかを問わず,財政部に認可を申請するか財政部が認定する方式で,国際運輸業務については
中華民国領域内の営業収入の 10%,それ以外の業務の中華民国領域内の営業収入については 15%を中華民国領
域内の営利事業所得額として認定する。但し,第 39 条の繰越欠損金控除の規定は適用されない。」
本来,台湾源泉所得を外国営利事業へ支払う際に,支払者は当該所得に関連する損金を差し引く前のグロス金額を課
税標準として源泉徴収すべきであるが,上記の事業について財政部の認定を受けた場合には,当該外国営利事業への
支払につき,損金(国際運輸業の損金率は 90%,他の列挙された事業は 85%)を差し引いたネット金額だけを課税標
準として源泉徴収することができる。
以上
大法官第673号解釈を作成した。大法官は源泉徴収制度の存在自体は違憲ではないが,義務違反の程度が軽いにも関わらず厳し
い過料が科される規定が何点かあるため,法令の改正をする必要があると指摘した。
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