国際税務研究会 「国際税務」 2012 年 12 月号掲載 「中国 PE 課税の申告納税実務と対応ポイント」 税理士法人プライスウォーターハウスクーパース
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国際税務研究会 「国際税務」 2012 年 12 月号掲載 「中国 PE 課税の申告納税実務と対応ポイント」 税理士法人プライスウォーターハウスクーパース
国際税務研究会 「国際税務」 2012 年 12 月号掲載 「中国 PE 課税の申告納税実務と対応ポイント」 税理士法人プライスウォーターハウスクーパース 中国ビジネスグループ 公認会計士・税理士 簗瀬 正人 中国では現在,徴税強化の一環として外国企業に対する PE(Permanent Establishment;恒久的施設)課税が広く発生 している。特に,長期の技術指導,ならびに長期の据付・組立工事及び関連監督活動に対する課税が顕著である。本 稿では,中国の税制度関連リスク及び PE 課税の概要を解説すると共に,実際の PE 認定における申告納税実務を計 算事例及び申告書サンプルを含めて解説することとする。 PE 課税は現地子会社が申告納税の手続きを代行するとしても,課税対象,納税義務者は外国企業(日本企業)である ことを本社自身が正確に認識すべきであり,挙証責任が納税者(外国企業)に帰属する中国においては,PE 認定にお ける課税根拠(適用条文,通達及び租税条約の取扱い),並びに課税対象範囲等について,申告納税実施前に外国企 業(日本企業)自ら,確認し,必要に応じて当局と交渉することが重要である。 I. 中国の税制度 1)中国税制度の特徴及びリスク 中国の税制度の特徴は,端的にいえば納税者不利にあるといえる。たとえば,挙証責任は納税者に帰属しており,税務 当局による過少申告,課税漏れ指摘に対して納税者が当局に適切に説明,説得できなければ課税されるリスクがある。 即ち,中国税収徴収管理法及び企業所得税法には日本の法人税法第 130 条に規定される更正理由の付記義務が規 定されていないので,更正理由が明記されることなく,課税根拠条文のみ記載の課税通知が発行されることがある。また, 納税者の反論,質問への回答も無く,一方的に課税通知が発行されることもある。 更に,税務当局の誤指導(責任)により,過少納付が生じた場合における本税の3年間遡及追徴が認められており(税収 徴収管理法第 52 条第1項),この場合の税務当局の誤指導(責任)事実の挙証責任も納税者に帰属することがある。 中国では,延滞金及び加算税が非常に重く,延滞金は年率 18.25%であり,日本のように1年経過後の更正処分等に係 る控除期間の規定が無いため,例えば,6年前の案件であれば 109.5%となり,延滞金徴収額が本税よりも大きくなって しまう。また,加算税は 50%から 500%までと規定されており,過重であると共に,税務当局の裁量余地が大きいため, 税務当局との交渉には慎重を期する必要がある。なお,過大納付における還付加算金については請求可能と規定され ている(税収徴収管理法第 51 条)。 2)中国の税体系と外国為替管理制度 ⅰ)中国の税体系 中国の税体系は下表のように,基本的に欧米先進国と大差ないが,流通税として物品販売を対象とする付加価値課税 である増値税と,役務提供,無形資産(ロイヤルティーを含む)取引等を対象とする営業税に分かれている点が特徴的で PwC 1 ある。なお,中国政府は増値税と営業税の統合を目指しており,一部取引に関して,営業税から増値税への移行を上海 市にて 2012 年に試行開始し,順次その地域を拡大している。 対象 企業・個人 所得税 企業所得税 個人所得税 流通税 増値税(付加価値税): 物品販売・加工対象(日本の消費税に類似) 営業税(売上税): 役務提供、無形資産等対象(取引の都度課税) 消費税(蔵出税): 嗜好品対象 関税 その他諸税 土地増値税、都市維護建設税、固定資産投資方向調節税 房産税、車船税 資源税、都市土地使用税 印紙税、契税、車両取得税 煙草税 ※増値税および営業税に関しては,当該税金を課税標準として,都市維護建設税(1%~7%),教育費付加(3%)等が加算される。 ⅱ)中国の主たる徴税体系:分税制(所管税務機関と財源) 中国では,所管税務機関が基本的に国家税務局と地方税務局に分かれており(上海を除く),PE 課税に関しては,国 家税務局が企業所得税を所管し,地方税務局が営業税及び個人所得税を所管しているため,納税者(外国企業)は, 各々の税務当局に対して,必要に応じての交渉及び申告納税を行う必要がある。 所管税務局 国家税務局 地方税務局 財源 中央・地方 (共通税) 地方 所得税 企業所得税 個人所得税 (国 60%、地方 40%) 流通税 増値税 営業税 (国 75%、地方 25%) その他 印花税、土地増値税 ⅲ)中国外国為替管理制度と税務 中国では外国為替管理規制と税務が密接に関連し,一回当たりの外貨送金が3万米ドルを超える非貿易取引(役務提 供報酬,ロイヤルティー等,貿易取引は通関の関係で税関が所管する)に関しては,下表のように事前に税務当局の承 認が必要とされている(匯発(2008 年)第 64 号通達,国税発(2008 年)第 122 号通達)。そのため,日本や欧米のように, 送金(回収)した上で,税務上の取扱いを別途税務当局と協議する方法は取れない。即ち,税務当局が承認しなければ 送金(回収)そのものが認められず,また,送金が認められないものは税務実務上,合理性の無い対価として基本的に 損金算入も認められないことになる。 外貨送金に関しては,外国為替管理規制により銀行が責任を負うため,各銀行は3万米ドル以上の外貨送金に関して 税務証明が無ければ,外貨送金業務は受けないこととなる。 PwC 2 結果的に税務上の問題が解決(税務当局の承認を取得)できなければ,日本企業にとっては,対価の回収ができずに 国外関連者寄附金認定(全額損金不算入の貸倒損失)となり,一方,中国現地法人では損金処理ができないリスクが生 じる(二重課税の発生)。 同様に,ライセンス契約は所管部門(技術ライセンス契約は商務部門,商標ライセンスは商標局,システムライセンスは 版権局)への登録が義務付けられており,未登録ライセンス契約の対価(ロイヤルティー)は,外国為替管理規制により, 原則として銀行も送金業務を受け付けず,税務当局も損金処理,税務証明の発行を認めない(所管部門が登録承認し ない契約の対価については,税務当局も合理的費用(損金)と認めない)。 中国での課税 企業所得税 ロイヤルティー 源泉徴収 10% (使用料) 留意事項(必要手続き) 営業税等 5.5% ライセンス契約の登録義務 (技術ライセンス免税) ・技術ライセンス: 商務部門 ・商標ライセンス: 商標局 ・システムライセンス: 版権局 役務提供対価 PE 課税 5.5% 営業税等は PE 認定に拘わらず課税 (推定課税有り) 貸付利益 源泉徴収 10% 5.5% 外国債務登記: 外国為替管理局 配当 源泉徴収 10% 非課税 租税条約優遇適用(居住者証明) ※一回当たりの外貨送金が3万米ドルを超える非貿易取引の決済に際しては,事前の税務登記(承認)が必要とされる。 II. 中国 PE 課税の概要 1. 非居住者外国企業に対する徴税強化 中国税務当局は,以下のように外国企業に対する徴税強化を積極的に進めている。 1)首相による徴税強化指示 2009 年4月に,徴税強化が温家宝首相自身によって表明,指示された。当該声明は,2009 年第一四半期(1月~3月) の経済実績に対する次のような経済政策総括におけるものであり,2008 年9月の米国リーマンショックによる世界的な経 済不況の中国経済への悪影響を軽減すべく採られた4兆元の財政出動の財源確保が目的と考えられる。 1.~7.投資,消費拡大,外需拡大,農業安定,民生,金融 8.財政の増収・節約に努めるとともに,税金の徴収・税務調査を強化すること。税法に基づく徴収を厳格に実施し,徴 収可能な税金は全て徴収する。全ての不必要な支出は禁止する。 2)徴税強化体制の整備:関連通達公布 外国企業に対する徴税の厳格化及び強化のために 2008 年末から 2010 年前期の短期間に,外国企業課税に関する 多くの徴税関連規定が集中的に公布,発遣された。 PwC 3 ⅰ)課税関連通達 ① 租税条約に係る配当条項の執行に関する通達」(国税函(2009 年)81 号) (優遇措置適用受益者に関する規定,他) ②「国外機構の中国国内企業人員派遣サービスに係る企業所得税徴収状況の調査に関する通達」(際便函(2009) 103 号) (出向者 PE の実態調査要領) ③「租税条約の(特許権)使用料条項の執行問題に関する通達」(国税函(2009 年)507 号) 「租税条約関連条項の執行問題に関する通達」(国税函(2010 年)46 号) (専有技術使用料及び技術サービスに関する規定,他) ④「租税条約における“受益権者”に係る解釈及び認定に関する通達」(国税函(2009 年)601 号) (受益者定義に関する規定,他) ⑤「非居住者企業の持分譲渡所得に係る企業所得税管理強化に関する通達」(国税函(2009 年)698 号) (間接持分の譲渡益課税に関する規定,他) ⑥「外国企業駐在員事務所税収管理暫定弁法」(国税発(2010 年)18 号) (駐在員事務所の原則課税に関する規定,他) ⑦「非居住者企業所得税の査定徴収管理弁法」(国税発(2010 年)19 号) (外国企業の課税方法及びみなし利益率に関する規定,他) ⑧「中国シンガポール租税条約の解釈通達」(国税発(2010 年)75 号) (PE 認定規定等を含む条約全般に関する解釈規定,他の租税条約への準用の規定有り) ⅱ)徴税管理関連通達 ①「非居住者の工事請負及び役務提供に関する税収管理暫行弁法」(国家税務総局令(2009 年)19 号) (外国企業税務登記管理に関する規定,他) ②「サービス貿易等の対外的支払に係る税務証明の発行管理弁法」(国税発(2008 年)122 号) (非貿易取引送金の税務証明に関する規定,他) ③「非居住者企業に係る所得税の源泉徴収管理暫行弁法」(国税発(2009 年)3号) (外国企業取引の源泉徴収に関する規定,他) ④「非居住者企業の(企業)所得税の確定申告管理弁法」(国税発(2009 年)6号) (外国企業取引の申告納税に関する規定,他) ⑤「一部の国(地域)の税収居住者証明様式の公布に関する通達」(国税函(2009 年)395 号) (居住者証明様式に関する規定) ⑥「非居住者の租税条約優遇の適用に係る管理弁法(試行)」(国税発(2009 年)124 号) (租税条約優遇措置適用に関する規定,他) 2. PE 課税の内容1)PE の定義と影響 PE 課税は,外国企業による中国における活動(中国源泉所得)に対する課税であり,納税義務者は外国企業(日本企 業)である。 PwC 4 ⅰ)PE の定義 PE(Permanent Establishment;恒久的施設)とは,事業を行う一定の場所として,租税条約・国内法により定められている 課税上の概念であり,以下の特徴を有する。 ①PE とは課税上の概念である ②PE の具体例としては,事業の管理の場所,支店,事務所,工場,作業場などがある。 (中国において駐在員事務所は原則 PE 課税であるが,租税条約(非課税)適用申請は可能とされている) ③PE は物理的施設には限らず,役務提供も対象とされる。 ④役務提供の例 ・長期(6カ月超)の建設,据付け工事の監督業務(スーパーバイジング) ・長期のコンサルティング(技術指導を含む)業務 ⅱ)PE 認定課税の影響 PE 認定されると,中国企業所得税が課税されると共に,関与出張者に対する個人所得税の 183 日免税ルールが原 則不適用となる。 2)PE 課税の判定基準 PE 課税は外国企業(日本企業)の中国における活動に対する課税であることから,(日中)租税条約が適用されるが,租 税条約に詳細な取扱いが規定されていない場合には,租税条約の解釈に当たって中国税務通達に依拠することになる。 なお,広大な中国では,中国税務通達の解釈,適用に当たって,しばしば地域に拠る差異が生じることに留意すべきで ある。 ⅰ)日中租税条約の PE 判定規定 ①日中租税条約 第5条第3項(工事関連 PE) 建築工事現場または建設,組立工事もしくは据付工事もしくはこれらに関連する監督活動は,6カ月を超える期間存続 する場合に限り,「恒久的施設」とする。 ②日中租税条約 第5条第5項(サービス PE) 日本の企業が中国国内において使用人その他の職員を通じてコンサルタントの役務を提供する場合には,このような活 動が単一の工事または複数の関連工事について 12 カ月の間に6カ月を超える期間行なわれるときに限り,当該日本の 企業は,中国国内に「恒久的施設」を有するものとされる。 なお,コンサルティングは工事に限定されず役務提供を含み,日中租税条約の正文である英文では,Project と表記さ れている。 ⅱ)中国税務通達の PE 判定規定及び判定実務 ①1日の業務滞在でも概ね1カ月と判定し,累積6カ月超を以って PE と判定する解釈 中国香港租税条約の解釈通達(国税函(2007)403 号通達)において,香港企業が中国でのサービスを提供する場合, 当該企業からの派遣職員がサービス提供のために初めて中国に到着(入国)した月からサービス終了後,最後に中国を PwC 5 出国した月までを計算期間として,その間に連続 30 日間中国国内でサービスを提供しない場合は,当該計算期間(月 数)から1カ月を控除して計算することができるとされていた。 即ち,1カ月のうち1日でも中国に出張滞在実績があれば,概ね1カ月とカウントされることになる。また,当 通達は,他 の租税条約(PE 条項)の解釈への準用が規定されていた。 ※当該通達は,国家税務総局公告(2011 年)2号により廃止されたが,一部地域では継続適用されている。 ②累積日数 183 日超を以って6カ月超(PE)と判定する解釈 中国・香港租税条約の第二議定書(2008 年1月 30 日)では,コンサルティングの役務提供の PE 認定基準を当初の上 記解釈通達の6カ月から 183 日に修正された。 ※PE の累積 183 日は連続する任意の 12 ヶ月で計算され(日中租税条約第5条第5項),個人所得税の 183 日は暦 年(1月~12 月)で計算される(日中租税条約第 15 条第2項)。 ③実務上の取り扱い 実務上は地域により取扱いに差異が散見されるので,現地管轄税務当局への事前確認が重要である。 中国出張者:A,B,C ○:中国滞在勤務 ×:日本帰国 ◎:PE 対象日数 9月3日 9月4日 9月5日 9月6日 9月7日 累積日数 企業日数 ◎ ◎ ◎ - ◎ 4 日間 A氏 × ○ ○ × × - B氏 ○ ○ × × × - C氏 ○ ○ × × ○ - 12 年 8 月 12 年 9 月 12 年 10 月 12 年 11 月 12 年 12 月 13 年 1 月 13 年 2 月 期間(月数) A氏 5 ヶ月 B氏 4 ヶ月 C氏 3 ヶ月 企業 7 ヶ月 ⅲ)PE 判定計算例 ①役務提供(技術サービス等)期間の計算例 役務提供関与使用人の中国滞在累積日数 183 日の累績計算は,以下の事例においては4日間と計算される。即ち, 役務提供者である外国企業の使用人の誰か1人でも業務滞在していれば,関与人数に関係なく1日としてカウントされる。 即ち,関与出張者の業務滞在延べ日数の合計ではない。 PwC 6 ②据付・組立工事の監督業務期間の計算例 据付・組立工事の監督業務期間の判定は,最初の担当者の入国から最終担当者の出国までの期間とされ,下記計算 例では,A 氏入国(2012 年8月)から C 氏出国(2013 年3月)までの期間,7ヶ月(2012 年8月~2013 年2月)とカウントさ れることになり,出張者個々人の業務滞在期間の累積ではない。 3)PE 認定に伴う課税関係 PE 認定されると以下のように,企業所得税及び個人所得税の課税が生じる。なお,営業税は PE 判定の有無に拘わら ず課税されるが,申告納税の手続き上は一括処理されることが多い。 ⅰ)PE 課税の留意点 ①企業所得税 報酬額へのみなし利益率適用による推定課税が一般的に適用されている。 ②個人所得税 出張者(中国非居住者)への 183 日免税ルールが不適用となり,課税が生じる。 ※中国では推定課税に伴い出張者人件費はみなし経費に含まれるとして,PE 負担とみなされる。 ※中国個人所得税の会社補填分は給与としてグロスアップ課税が適用される。 ③営業税 中国居住者との取引が営業税の課税対象とされるため,PE 認定にかかわらず課税が生じる。 ⅱ)企業所得税の課税 ①課税所得の計算:推定課税方式 (「非居住者企業所得税の査定徴収管理弁法」(国税発(2010 年)19 号)) 報酬額にみなし利益率(15%~50%)を乗じて課税所得が算定される。 a)請負工事,設計,コンサルティング業務のみなし利益率:15%~30% b)管理サービス業務のみなし利益率:30%~50% c)その他の役務提供および経営活動業務のみなし利益率:15%以上 なお,後述のように実際利益課税方式が適用されることもある。 ②税額計算 課税所得に税率を乗じて税額が算定される。 企業所得税率は 25% ③日本での取扱い 法人税確定申告において(直接)外国税額控除の適用対象とされる。 PwC 7 ⅲ)営業税等(流通税)の課税 ①課税対象取引 中国居住者企業との取引および中国国内での役務提供取引等が課税対象取引とされる。 PE 認定にかかわらず課税される。 ②課税収入(取引額)の計算 課税収入=〔役務提供対価〕+〔価格外費用〕 課税対象価格外費用には当該取引に関連して発生する立替金,立替費用が含まれる。 ③税額計算 課税収入に税率 5.5%もしくは 3.3%を乗じて税額が算定される。 なお,適用税率には,営業税率に,営業税額を課税標準とする都市維護建設税((1%~)7%),教育費付加(3%)等 が加算される。 ・役務提供,技術サービスの営業税率は5% ・据付,組立工事の営業税率は3% ④日本での取扱い 中国営業税は外国税額控除の対象とはならず,損金(費用)として処理される。 ⅳ)中国個人所得税の課税 ①183 日免税ルールの不適用 PE 認定(推定利益課税適用)により,出張者の人件費を PE が負担したとみなされるため,183 日免税ルールは不適用 となり,中国では税額按分方式が適用されるため理論的には1日の業務滞在でも課税が生じる。 ※個人所得税の 183 日は暦年(1月~12 月)で計算され,PE の累積 183 日は連続する任意の 12 ヶ月で計算される。 ②非居住者の日数按分課税 中国業務(滞在)期間分の課税 日数按分は,課税所得(所得按分)ではなく税額に適用される。 ③183 日免税ルールの要件 次の全ての要件を満たす場合のみ適用可能とされている(日中租税条約第 15 条第2項)。 a)中国の滞在日数が年間 183 日以下であること b)報酬が中国国外の雇用者によって支払われること c)報酬が中国の PE 等へ付替えられていないこと ※みなし利益率の適用により,みなし経費に出張者人件費が含まれていると考えられるため,結果的にc)を充足しな いことになり,183 日免税ルール適用は不可となる。 PwC 8 ④ 補填税金の取扱い 中国:会社補填個人所得税は給与所得としてグロスアップ対象(中国源泉所得)とされる。 日本:給与所得として課税対象(永住居住者(日本人)は全世界所得が課税対象)とされる。 (誤りの事例) ・会社補填中国個人所得税を給与処理(源泉徴収対象)せず,租税公課処理する。 ・中国個人所得税を日本所得税上給与所得(源泉徴収課税)とせずに所得税の外国税額控除を適用する。 ⑤日本での取扱い a)会社補填中国個人所得税については,日本において給与所得として源泉徴収課税を適用する。 b)中国個人所得税の外国税額控除は個人の所得税確定申告において実施する。 c)所得税外国税額控除申告による控除不能分については,経験的に外税控除額は 30%程度となるため,未控除 分 70%はタックスオンタックスとなる可能性がある。 Ⅲ.PE 課税の申告納税実務 以下,PE 課税における税務当局への確認協議及び申告納税実務上のポイントについて述べることとする。 1.PE 課税に関する税務当局への事前確認1)国家税務局(企業所得税を所管) ⅰ)課税関係事項の確認 ①業務内容の確認: a)据付・組立工事もしくは関連監督業務(租税条約5条3項) b)役務提供業務(技術指導,各種支援業務)(租税条約5条5項) (上記何れに該当するかは,PE 判定基準に影響するため,確認は重要である。) ②PE 判定基準(6カ月超のカウント方法)の確認: a)工事及び関連監督業務:最初の担当者の入国から最終担当者の出国までの期間で判定する。 b)役務提供(中国香港租税条約議定書):現地業務期間が累積 183 日超で判定する。 c)役務提供(旧中・香租税条約解釈通達):1日の現地業務でも概ね1カ月とカウントし,6ヶ月超で判定する。 ③課税方式: a)推定課税方式:みなし利益率(15%~30%)の確認が必要である。 b)実際所得課税方式:課税所得計算妥当性検証方法(会計士監査)の確認が重要である。 (現地中国公認会計士が担当する場合には,日本出張,日本語資料の中文訳が必要となる可能性がある) ⅱ)申告納税手続きの確認事項 ①納税時期の確定方法の確認: a)請負業務(据付・組立工事等):検収(完了)報告書をもって確定する。 b)役務提供:6カ月超過時点で確定する。 PwC 9 ②(臨時)税務登記の要否の確認: a)必要:臨時税務登記の実施(登記申請資料の確認),日本企業として申告納税を実施する。 b)不要:報酬支払者による源泉徴収により完結する。 ③申告手続きの確認: a)紙ベースの申告:申告書を提出する。 b)電子申告:データを入力したメモリーステック等を提出する。 ⅲ)納税手続きの確認 ①納税手続き(使用納税口座): a)税務局直接送金は原則不可である。 b)実務上,中国子会社または会計事務所の納税口座を使用して納税することになる。 ②送金手続き(取扱銀行への事前確認が重要): a)事前送金:納税見積額を事前に中国子会社または会計事務所に送金し,子会社等から納税する。 b)事後送金:中国子会社が立替納税後に実額を日本から子会社に外貨送金する。 ⅳ)納税(完税)証明の発行(日本外国税額控除に使用) 納税者(日本企業)名称明記を確認する。 (中国子会社名の場合には,日本での外国税額控除適用に支障が生じる) 2)地方税務局(営業税,個人所得税を所管)ⅰ)課税関係事項の確認 ①業務内容(営業税率等)の確認 a)据付・組立工事および関連監督業務の営業税率は3% b)役務提供業務の営業税率は5% c)教育費付加および都市維護建設税の適用税率:課税標準は営業税 (地域により適用税率が異なる。また,更に地方教育費付加が課される地域有り。) d)印花税率の確認 (契約締結地に関係なく,中国法令適用文書は課税対象) ②PE 判定基準(6カ月超のカウント方法の確認及び個人所得税への影響確認): a)工事及び関連監督業務:最初の担当者の入国から最終担当者の出国までの期間で判定する。 b)役務提供(中国香港租税条約議定書):現地業務期間が累積 183 日超で判定する。 c)役務提供(旧中・香租税条約解釈通達):1日の現地業務でも概ね1カ月とカウントし,6ヶ月超で判定する。 ③183 日免税ルール(個人所得税): a)適用無し:PE 認定(出張者人件費の PE 負担)により 183 日免税ルール適用要件充足せず課税 b)適用有り:関与出張業務(監督業務,役務提供等)に対する PE 認定無し PwC 10 ④課税対象範囲(期間)の証明資料: 契約書(注文書),検収(完了)通知書,その他 ⑤課税計算(営業税): a)(下請)据付・組立工事もしくは関連監督業務(租税条約5条第3項) b)役務提供業務(技術指導,各種支援業務)(租税条約5条第5項) ⑥課税計算(個人所得税): 課税対象期間は,PE 認定業務関与出張期間(日数)のみであることを確認する。 ⑦印花税 税率:据付・組立は 0.03%,技術サービスは 0.03%,ライセンス契約は 0.05% 中国印花税は契約締結地の中国国内外に拘わらず中国法適用文書(登録等)に課税される。 ⅱ)申告手続きの確認 ①納税時期の確定方法の確認: a)請負業務(据付・組立工事等):検収(完了)報告書をもって確定する。 b)役務提供:6カ月超過時点で確定する。 ②税務登記の要否の確認: a)必要:臨時税務登記の実施(登記申請資料の確認),日本企業として申告納税を実施する。 b)不要:報酬支払者による源泉徴収により完結する。 ③申告手続きの確認: a)紙ベースの申告:申告書を提出する。 b)電子申告:データ入力メモリーステック等を提出する。 ⅲ)納税手続きの確認 ①納税手続き(使用納税口座): a)税務局直接送金は原則不可である。 b)実務上,中国子会社または会計事務所の納税口座を使用して納税することになる。 ②送金手続き(取扱銀行への事前確認が重要): a)事前送金:納税見積額を事前に中国子会社または会計事務所に送金し,子会社等から納税する。 b)事後送金:中国子会社が立替納税後に実額を日本から子会社に外貨送金 PwC 11 ⅳ)納税(完税)証明の発行(日本外国税額控除に使用) ①納税者(日本企業及び出張者個人)名称の明記を確認する。 (中国子会社名の場合には,日本での外国税額控除適用に支障が生じる) 所管税務機関 国家税務局 地方税務局 税種: 企業所得税 営業税 個人所得税 PE 判定基準に影響 適用税率 - 確認事項: ①課税関係 業務内容と適用税率 (据付・組立/役務提供) 役務提供の PE 判定基準 (6 カ月のカウント方法) 課税計算方式 3%または 5% 1 日でも 1 カ月 - 1 日でも 1 カ月 または累積 183 日 または累積 183 日 実学課税または推定課 税(適用みなし利益率) - 按分課税 183 日免税ルール適用可否 - - PE 判定で不可 教育費不可・都市維護建設税 - 適用税率(地域差異) - 印花税 - (Gross-up 計算) 印花税率 確認事項: ②手続き関係 臨時税務登記の要否 申告方法(紙ベース/電子申告) 納税方法(使用納税口座) 会社税務登記 会社税務登記 個人税務登記 税務局の指示に従う 税務局の指示に従う 税務局の指示に従う 海外から税務局直接送金原則不可のため、子会社/会計事務所の口座利用 3)PE 課税内容の税務当局事前確認サマリー 上表参照。 4)PE 課税における社内準備資料 ⅰ)業務内容関連資料 契約書,注文書,他 ⅱ)業務期間及び納税期限関連資料 契約書,検収報告書,他 ⅲ)会社の臨時税務登記関連資料 会社登記簿謄本,代表取締役のパスポートコピー,税務居住者証明,他 ⅳ)個人の税務登記及び課税計算関連資料(個人別) 給与証明,中国出入国記録,パスポートコピー,他 PwC 12 2.PE 課税の税額計算と申告納税の実施 1)企業所得税の計算と申告納税 ⅰ)(臨時)税務登記の実施 申告納税時に税務登記番号が必要とされる。 ⅱ)税額計算 ①推定課税方式の適用: a)(推定)課税所得=報酬対価×みなし利益率(事前確認 15%~50%) b)税額=課税所得×25%(企業所得税率) ②実額課税方式 a)(実際)課税所得=収入-実際原価 (所得計算監査報告書要求に関する事前確認が重要) b)税額=課税所得×25%(企業所得税率) ⅲ)申告 紙ベースの申告書提出もしくは電子申告により実施する。 ⅳ)納税の実施 納税資金の事前もしくは事後送金を実施する。 事前確認した納税口座使用により納税する。 ⅴ)(臨時)税務登記の抹消 企業名納税証明書の取得後速やかに実施する。 2)営業税等の計算と申告納税 ⅰ)(臨時)税務登記の実施 申告納税時に税務登記番号が必要とされる。 ⅱ)税額計算 ①営業税: a)課税取引額=報酬対価+価格外費用(立替金等) b)税額=課税取引額 x 税率(3%または5%) ②教育費付加,都市維護建設税: a)課税取引額=営業税額 b)税額=課税取引額×税率 c)税率:教育費付加(3%),都市維護建設税(1%~7%) PwC 13 ⅲ)申告 紙ベースの申告書提出もしくは電子申告により実施する。 ⅳ)印花税の取扱い 印花税の納税を営業税申告納税時に併せて実施するケースがある。 ⅴ)納税の実施 納税資金の事前もしくは事後送金を実施する。 事前確認した納税口座使用により納税する。 ⅵ)(臨時)税務登記の抹消 企業名納税証明書の取得後速やかに実施する。 3)個人所得税の計算と申告納税 ⅰ)税額計算(月次確定申告) ①税額計算方法 (税務当局に対して計算サンプルを提示して事前確認) 手取り保証:企業補填(負担)の個人所得税は給与としてグロスアップ計算を適用する。 手取り給与・賞与額:日本所得税・住民税および会社負担社会保険料を調整する。 月次給与:税額按分(月中の中国滞在日数により課税される) 賞与:所得按分(通常6カ月で按分し,中国滞在月数により課税される) ②月次給与(日数按分課税): a)月次税額=((手取月次給与-基礎控除-速算控除額)÷(1‐税率))×税率-速算控除額 b)税額=月次税額÷30 日 x 滞在日数 ③賞与: a)滞在月の賞与=手取賞与額÷6カ月 b)税額=((滞在月数の賞与額‐速算控除額)÷(1‐税率))×税率‐速算控除額 ※賞与については,年一回分賞与についてのみ軽減税率適用が可能とされている。 ⅱ)税務登記 個人別税務登記 ⅲ)申告 申告書(一般に電子申告)および給与証明の提出 ※税務局の電子申告システムが按分課税に対応できていない場合には,按分後の税額から逆算して,月次給与額を 算出し,申告するケースがある。 PwC 14 ⅳ)納税の実施 納税資金の事前もしくは事後送金を実施する。 事前確認した納税口座使用により納税する。 ⅴ)(臨時)税務登記の抹消 出張者個人名納税証明書の取得後速やかに実施する。 3.日本における納付中国税金の取扱い(外国税額控除と源泉徴収) 1)日本における中国税金の取扱い ⅰ)(中国)企業所得税 日本の法人税上,直接納付の外国法人税として外国税額控除の適用対象となる。 ⅱ)(中国)営業税等 日本の法人税上,納付した営業税,教育費付加および都市維護建設税等は損金となる。 ⅲ)(中国)印花税 日本の法人税上,納付した印花税は損金となる。 ⅳ)(中国)個人所得税 日本の法人税上,納付した出張者中国個人所得税は給与として損金となる。 日本の所得税上,納付した出張者中国個人所得税は給与として源泉徴収の対象となる。 ※源泉徴収に当たっては,手取り保証のため日本においてもグロスアップ計算が必要となる。 2)日本における中国税金(個人所得税)の取り扱い:出張者個人 ⅰ)外国税額控除の適用 日本の所得税上,納付した個人所得税は外国税額控除(確定申告)の対象となる。 ⅱ)出張と納税の年度が異なる場合の対応 外国税額控除は納税日の属する年度の確定申告において適用される。 中国出張の時期が納税日と異なる場合には,出張日の属する年度において外国税額控除余裕額(外税控除の枠取り) の計算が必要である。 ※会社補填中国税金の(外税控除)還付であるとして,企業に返却する場合には,給与のマイナスとなる。 4.PE 計算事例と申告関連資料サンプル 業務内容:技術サービス(技術ライセンス契約未締結,単独の技術サービス) 報酬額:10,000,000 元(諸経費・印紙税込)(=10,000 元/日/人×(10 人x100 日)) 担当者(関与出張者):10 名(給与,出張日数,中国および日本所得税等は全員一致と仮定する) 業務期間:2012 年1月~9月(各人の出張日数は 100 日であるが,累積日数は6ヶ月超である) PwC 15 ・企業所得税(推定課税方式) みなし利益率は 20%(報酬額の 20%を課税標準とみなす)とする。 企業所得税税率は 25%。 ・営業税等 営業税税率5%(報酬額を課税標準)とする。 都市維護建設税7%,教育費付加3%(営業税額を課税標準)とする。 ・個人所得税 PE 認定により関与出張者に対しては,183 日免税ルールは不適用とする。 月次給与は日数按分課税,賞与は月数按分課税とする。 会社負担日本社会保険料は課税対象とする。 2012 年 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10 月 11 月 12 月 合計 入国日数 業務(課税) 日数 21 日 21 日 0日 6日 15 日 11 日 17 日 4日 11 日 0日 0日 0日 106 日 20 日 20 日 0日 5.5 日 14.5 日 10 日 16.5 日 3.5 日 10 日 0日 0日 0日 100 日 ※入国日数(183 日免税ルール適用)は,入国日および出国日を各1日として計算する。 ※業務日数(日数按分課税)は,入国日および出国日を各 0.5 日として計算する。 技術サービス業務 収入額 A ① (千元) (1 元=12.5 円, 千円) 10,000 125,000 中国における課税関係 みなし利益 20% ② 2,000 企業所得税 25%(日本外税控除対象) ③ (500) (6,250) 営業税等 5.5%(日本損金処理) ④ (550) (6,875) 会社負担中国個人所得税 ⑤ (1,142) (14,270) 差引日本手取収入(①‐③‐④‐⑤) ⑥ 25,000 7,808 97,605 日本における課税関係 日本の税前利益(実際利益率も 20%と仮定) ⑦ 2,000 25,000 営業税は損金(外税控除対象外) ④ (550) (6,875) 会社負担中国個人所得税 ⑤ (1,142) (14,270) 日本所得税(外税控除還付・Gross‐up,手取保証) ⑧ (31) (389) 課税所得(⑦‐④‐⑤‐⑧) ⑨ 277 3,466 法人税等(国外所得事業税調整後の税率 33%) ⑩ (92) (1,144) 外国税額控除(他に外税控除余裕額無しと仮定) ⑩ 92 1,144 日本での納付税額(外税控除後) ⑪ 0 0 収入‐費用(給与+経費) ⑦ 2,000 25,000 中国企業所得税 ③ (500) (6,250) 中国営業税 ④ (550) (6,875) 中国個人所得税 ⑤ (1,142) (14,270) 日本所得税(外税控除還付・Gross‐up,手取保証) ⑧ (31) (389) 資金収支 PwC 16 日本法人税等(外税控除後) 日中の税負担合計(③+④+⑤+⑧+⑫) ⑫ 0 0 ⑬ (2,223) (27,784) 手取り額 B (①-⑬) ⑭ (223) (2,784) 手取り率 B/A (⑭÷①) ⑮ ‐2.2% ‐2.2% wq 上述のように,中国では非居住者外国企業に対する徴税強化が進んでおり,華南地区,華東地区においては,長期の (現地)技術指導および役務提供に対する厳格な PE 課税が実施されている。 また,中国現地税務当局が外国企業徴税強化方針に従って,強引に課税するケースも発生しているようである。 体面を重んじる中国においては,必ずしも合理的でない課税決定であっても,一旦交付された課税通知を撤回させるこ とは非常に困難であるので,中国における税務リスクマネジメントとして,事前のリスク評価・分析が重要であると共に,適 切・慎重・迅速な対応が重要である。 2)PE 課税対応上の留意点 ⅰ)本社主導の対応 PE 課税の対象は,日本本社であり,本社主導での対応が効果的,有効である。 個人所得税の税負担が大きいので,リスク分析に際しては人事部門の協力が必要である。 ⅱ)法令遵守(コンプライアンス) 中国政府の外国企業徴税強化の現状を考慮し,税務規定および日中租税条約に準拠したコンプライアンス体制の構築 が必要である。 ⅲ)実態と形式(契約)の整合性 中国税務当局は,「実質課税の原則」を重視しており,実態と乖離する形式(契約)は,租税回避行為(重い税務ペナル ティー)とみなされるリスクがある。 ⅳ)日本・中国両国における税務リスクマネジメント 日中双方の税務上の取扱いとインパクトを把握し,総合的に PE 課税のリスク軽減を図るアプローチの構築が必要と考え る。 ⅴ)その他 ①中国人通訳 一般的に,日本企業の中国人通訳は営業,技術関係に精通しているが,必ずしも税務,法務に精通しているとは云えな いため,関係当局に対して日本側の主張を正確,かつ十分に伝えているとの過度の期待,誤解があることに留意する必 要があると思われる。 PwC 17 ②中国官僚社会 中国では官僚社会の歴史は長く,役人である税務当局の職員(担当者)に対して,現地子会社の税務担当者及び通訳 が対等に税務議論することは,必ずしも容易でないことを理解する必要があると思われる。 参考:申告関連サンプル資料(別紙) ①企業所得税申告書 ②営業税等申告書 ③印花税申告書 ④個人所得税申告書 ⑤給与証明 ⑥入出国記録表 ⑦(日本)所得税グロスアップ計算表 ⑧工事完了報告書 ⑨臨時税務登記証 ⑩税務登記表 以上 PwC 18