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帰属主義(AOA)導入に関する欧州の経験 と対応及び BEPS での議論の最新動向 リチャード・コリアー 鬼頭 朱実

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帰属主義(AOA)導入に関する欧州の経験 と対応及び BEPS での議論の最新動向 リチャード・コリアー 鬼頭 朱実
帰属主義(AOA)導入に関する欧州の経験
と対応及び BEPS での議論の最新動向
PricewaterhouseCoopers LLP(PwC 英国)
グローバルシニアタックスパートナー ポリシー
リチャード・コリアー
税理士法人プライスウォーターハウスクーパース
パートナー
鬼頭 朱実
税理士法人プライスウォーターハウスクーパース
常任顧問
岡田 至康
本稿は,平成25年11月28日開
パートナーで,今まで金融関連の税務を中心に
催 の 会 員 懇 談 会 に お け る,Pricewaterhouse
長く経験を積んできている者です。現在は PwC
Coopers LLP(PwC 英国)グローバルシニア
全体の税務政策に関わる部門のグローバルシニ
タックスパートナー
はしがき
国際課税
リチャード・
アタックスパートナーとして,OECD をはじ
コリアー氏,税理士法人プライスウォーターハ
め,いろいろな国際機関にアドバイスをしてお
ウスクーパースパートナー
ります。
ポリシー
鬼頭
朱実氏,税
理士法人プライスウォーターハウスクーパース
常任顧問
岡田
至康氏の『帰属主義(AOA)
本日はメインスピーカーとしてリチャードの
方から次年度に日本で導入されるだろうと期待
導入に関する欧州の経験と対応及び BEPS で
されております AOA についてヨーロッパでは,
の議論の最新動向』と題する講演内容をとりま
どのような経験があったのか,それから,今現
とめたものである。尚,当日の配布資料を,本
在 BEPS はどのような動きになっているのか
文末尾にまとめて掲載している。
について話させていただきます。
イントロダクションとしまして,皆様もご存
じのように,先月の10月24日に帰属主義の導入
はじめに
に関するリポートが税制調査会で発表されてお
りますので,最初の15分ほど私の方からそのリ
ただ今ご紹介にあずかりました
ポートの内容についてお話しさせていただきた
PwC 英国のリチャード・コリアーと税理士法
いと思います。その後,リチャードに話をつな
人プライスウォーターハウスクーパースの岡田
ぎまして,最後に,岡田から BEPS について
至康,私,鬼頭朱実の3名です。よろしくお願
企業側の反応についてお話しさせていただきた
いいたします。
いと思っております。約2時間お付き合いいた
(鬼 頭)
リチャード・コリアーは,先ほどご紹介いた
ただければと思います。
だきましたとおり,ロンドン在住のタックス
258
租 税 研 究 2014・2
もう1つはあたかも支店が1つの企業であるか
のように資本を配賦して計算をするというとこ
ろにあるかと思います。この動きについては
2010年の OECD モデル租税条約の改訂を受け,
平成23年,24年,25年と税制改正大綱の検討項
目に上がってきたものです。この12月の大綱に
は税制改正項目としてとりあげられるのではな
いかと多くの方が期待しているところです。
これに至るまでに官公庁から欧米のいろいろ
な国の調査がなされておりますけれども,その
鬼頭
朱実
うちの英国部分はリチャード・コリアーがイン
税理士法人プライスウォーターハウスクーパース
プットをしております。
パートナー
1―2.外国法人課税に係る論点
国内源泉所得の範囲・構造については皆様も
1.AOA に基づく帰属主義の日本
ご存じのところかと思います。条約だけではな
くて,国内法でも支店に帰属する所得について
への導入
のみ国内源泉所得としようということになりま
まず,AOA の導入についてと報告書の内容
した。
私自身は金融を専門としますので,今までは
ファンドが日本に投資してきているときや,
サーバを通じて外国法人がトレーディングする
1―1.AOA 導入へ向けた現在の状況
今回の報告書は,先般の税制調査会での増井
ようなときにうっかり PE ができてしまったと
教授の言葉を借りますと,2段ロケットになっ
か,例えばサーバ1つが PE になってしまった
ています。1段ロケットは総合主義から帰属主
というときに,日本に全く帰属していないオー
義に日本の国内法が変わるというものになって
ストラリアやシンガポールにあるような PE か
おります。2段ロケット目というのが OECD
らの日本株のキャピタルゲインにまで日本の税
で2010年以来,議論されてきましたいわゆる独
が及ぶのはいかがなものかと常々感じていたと
立企業の原則を支店についても導入するという
ころです。
実務においては世界中でいろいろな方々の資
ものになっています。
今回こういった導入の動きが多くの方々にと
金を集めて,お金の流れが動いているものです
っては外国法人の日本支店にとっての影響と捉
ので,より実務にあわせて日本の税法が国際化
えられていた側面も大きいかと思うのですけれ
されてきたのかなと,思います。日本へ投資し
ども,同じ定義がミラーの形で内国法人にも適
ようという動きもより加速するのではと期待し
用され,外税控除の適用という場面で影響があ
ているところです。
るため思った以上に多くの方々の関心が集まっ
今回の報告書の中で一番皆様方が関心を持た
れているのは文書化だと思います。今までは同
ています。
AOA のポイントとしては2つあると言われ
一法人内では契約ができないということを前提
ております。1つ目は支店と本店を独立企業と
に,外国法人が日本で支店を開設したときに
とらえ,内部取引を認識するということです。
「本支店間でローン契約書を締結する必要があ
租 税 研 究 2014・2
259
国際課税
について簡単に整理させていただきます。
るか」という質問を受けた時には「同じ法人内
の第三者と取引をしたならば対価のやりとりが
なのだから締結の必要はない」とお話をしてき
行われるようなものかどうかというところに区
たところです。本支店間の取引について何らか
分点を求めるとなっております。
の文書で担保していくことが今後必要になって
こういった ALP の考え方,機能分析の考え
くる点が一番大きな実務上の影響と思います。
方は移転価格の考え方になってくるかと思いま
外国法人についてだけではなくて,内国法人
す。今ちょうど私の向かいに PwC の移転価格
の外税控除についても AOA の影響があります。
チームの者が援軍で来てくれているのですが,
日本法人で外国に支店を持っているところはも
彼や彼女に言わせると,対価のやりとりがない
ちろん,あまりあってほしくはないことだと思
取引なんてないのではないかと言っております
うのですが,例えば中国やインド,又はロンド
ので,本当に費用配賦とはどんなものになるの
ンやアメリカにうっかり PE を引き起こしてし
かというのが今後詰めていくべき点と思われま
まって納税となったようなときに外税控除でき
す。
るかという話があると思います。そういう場合
特に本店所在地国が欧米の場合,属地主義に
に外税控除を図るに当たっても何らかの文書が
なっており,本国でもある程度のマージンを取
結果的には必要になってくると思われるところ
らないと,本店の税務調査が持たない,マーク
が今後一番大きく関心を引くところではあるか
アップしてチャージしないと困るのだ,という
と思います。
ような事例を私どもも今までいくつも見ました。
国際課税
税制調査会の報告書は40ページを超えるよう
今日は課税庁の方もご出席いただいていると思
な長いものですので,いろいろ論点があるので
うのですけれども,そういう事情があるのだと
すけれども,私どもの方で勝手に5点ほどピッ
いうところをぜひご理解いただければ大変あり
クアップさせていただきました。
がたいなと思っているところです。
内部取引については独立企業間と同様に認識
もう1つの論点は資本の配賦という考え方に
あるかと思います。資料10(巻末)の右端にあ
すべきことになります。
内部利子,内部使用料についても益金,損金
るように資本配賦アプローチと過少資本アプ
として認識していくのだということです。ただ,
ローチの両方が認められているという記載にな
後ほどリチャードからも説明があるかと思うの
っております。資本を支店に配賦し,支店で認
ですけれども,今現在日本の締結する条約は内
識している内部利子,外部利子をひっくるめた
部利子,内部使用料を認めない2010年より前の
ところで支払い利子の一部を損金不算入にする
旧タイプの条約になっているので,条約を締結
という考え方になっています。
しているところについては事業法人の内部利子,
私自身がここで思い出すのが,2000年だった
内部使用料については認識しないという方向で
かと思うのですけれども,PwC の海外会議の
進むことになるかと思われます。しばらくは2
ときにリチャードから「これから OECD はこ
段構えの適用になるのではないかと思われます。
ういう考え方をして,支店に資本を配賦する考
内部取引について対価のやりとりが必要か,
え方になるのだ。」と言われ,計算させられた
又は源泉徴収は必要か,については,議論の結
果,不要と整理されています。
ことです。13年ほど前なのですが。
そのときに出席していた各国のアジア諸国の
私が実務で一番影響があると思っております
1人ずつに「支店と本店で取引をしたときに,
のが費用配賦と内部取引という考え方が並存す
あなたの国ではその取引を認識するのか」とい
るというところです。その2つの区分としては,
うのを順番に聞いていっておりました。「日本
右側の吹き出しにありますように,実際に独立
では1つの法形態というのを重視するから,本
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租 税 研 究 2014・2
支店の取引なんか全く認識しないのだ」と言っ
りとりしたかのように計算をして,国外所得を
たところ,香港のパートナーが「自分のところ
計算していくことになります。
は支店と本店は別のエンティティとして認識す
ただし,報告書の中において,外税控除の適
るのだ」という答えをしたのを明確に覚えてい
用上のものだから,幾つかの例外があるとされ
るのです。
ています。国外 PE 帰属所得に係る文書化は青
その当時,アジア諸国では日本は1強でした
色申告法人の帳簿保存義務の対象にはしないと
ので,「他の国はあまりよく税理論が発達して
か,また,無償資本の配賦も,配賦計算をしま
いないからこういう答えになるのかな」と失礼
すとより国外所得が大きくなる方向になると思
な が ら も 思 っ て い た の で す が,今 は む し ろ
われますので,要件を充足したときにのみ,そ
OECD の動向も含め,支店と本店は別々に捉
の計算を認めるという選択性になっております。
え る し,資 本 の 配 賦 は す る と い う こ と で,
また,PE を閉鎖したときの時価評価も不要と
OECD の動向は何年も経てようやく現実のも
いう記載になっています。
のになってくるのだなと自分自身の体験として
実際にこういった形で適用するときに,PE
身を持って染みているところです。ちなみにア
の所在地がどこかということにもよるとは思う
ジア諸国の会議で各アジア諸国は大変強くなっ
のですけれども,相手国との間の意見が相違し
てきましたので,その意味でも大変感慨深い思
た場合は APA で調整すべしとなっています。
いをしております。
ただ,APA となると,相手国の事情もあり,
業界ごとにいろいろな資本の計算方法が定め
皆様方が子会社との間で移転価格でやっておら
れるのと同じような大変長いプロセスを経ての
調整になるものですから,本当はもっと実務的
せていただきます。
に,合理的な範囲で早く合意できるのが望まし
日本法人だけでなく,外国法人にも外税控除
が可能となります。今日のご出席の方々に大き
いと実務家の方々は皆さん望んでいるところで
はないかと思います。
な影響があると考えられるのは,内国法人の外
特に欧州諸国では AOA とともに属地主義を
税 控 除 の 適 用 上,国 外 所 得 の 計 算 に お い て
導入しているところが多く,日本のように全世
AOA のコンセプトが反映されるというところ
界所得課税になっていて,かつ AOA のコンセ
です。
プトを導入して課税する国とは,課税方式が異
国外所得が積極的に定義されるとともに,国
なっています。日本での AOA の実際の適用場
外 PE 帰属所得の計算において内部取引を認識
面においてはプラグマティズムを持って運用さ
するという考え方になってきますので,先ほど
れるところを期待するところですが,イギリス,
来ご説明させていただいたような外国法人の本
ヨーロッパではどうだったのか。リチャードの
店と支店等の取引においてどちらがどちらに
方から詳しく説明させていただきたいと思いま
サービスをしているのかということを日本法人
す。
内でも機能分析をした上であるべきフィーをや
租 税 研 究 2014・2
261
国際課税
られています。資料11をご覧いただければおわ
かりのところかと思いますので,説明は割愛さ
す。影響力という言葉をあえて申し上げました
けれども,それはいわゆる TP(移転価格)ルー
ルと比べて,この帰属ルールの持つ力の強さと
いうことについて申し上げたいのです。この点
については実際にこの講演でその部分について
お話をする際にもう少しわかりやすくお伝えで
きればと思っております。そして,この話の最
後で PE 並びに BEPS について少し申し述べた
いと思っております。
こ の 部 分 の お 話 を す る 際 に は,そ も そ も
リチャード・コリアー
BEPS がなぜあるのかということ,それが本質
PricewaterhouseCoopers LLP(PwC 英国)
的 に ど の よ う な も の で あ る の か,ま た,
グローバルシニアタックスパートナー
ポリシー
Threshold PE ルールに関してどのようなイン
パクトを与え得るのかということも考えてみた
2.欧州での AOA 導入時の経験と
対応及び BEPS で の 議 論 の 最
に総括をさせていただき,また,今後考慮する
べき幾つかのアクションポイントも申し述べる
ことができればと思います。
新動向
国際課税
(コリアー)
いと思います。そして,今回の講演の一番最後
また,今日お話しいたします講演の4つの
皆様,こんにちは。今日はこう
テーマのうち最初の3つのテーマというのは言
やってお話しできることを大変うれしく,また,
う な れ ば 帰 属 PE に つ い て の 話 で す。そ し
光栄に存じます。
て,4番 目 の ポ イ ン ト は 第5条,す な わ ち
本日は4つのテーマについてお話をしたいと
思います。最初に AOA の経緯について申し上
Threshold PE ルールに係るお話であるとご理
解ください。
げたいと思います。本来でしたらこのような歴
多くの税務プロフェッショナルの方々と同様
史的な経緯の話をするのは大変失礼とは思いつ
に,こういったテーマのお話をする上ではどう
つも,今後の進み方に関して2つのポイントに
しても数多くの略称を避けることができません。
重要性があると思いますので,あえてそれを指
これらの略称は皆様にとってなじみ深いもので
摘させていただきます。
あると思っております。ただ,資料17で2点だ
実際に AOA に関してわれわれが取り組む中,
け指摘させてください。
今までイギリス並びにヨーロッパで体験いたし
まず第1点ですが,2つ目の箱にあります
ましたことから幾つか教訓を申し述べることが
PE です。PE ルールと言った場合,実は2つ
できればと思います。AOA については既に鬼
の異なることを指している可能性があるという
頭の方からご説明があったとおりですけれども,
ことです。この中で PE と言った場合,考えら
それに関連して,まず PE の帰属の問題並びに
れる2つのルールについてあえて分けて考えて
TP(移転価格)との関連性について申し上げ
おります。まず1つがいわゆる PE,帰属 PE
たいと思います。
ル ー ル と い う も の,も う1つ は Threshold
この中で申し上げたいのは,AOA がもたら
ルールというものです。先ほど申し上げました
した1つの結果といたしまして帰属ルールの持
と お り,本 日 の 講 演 の 中 で は 主 に い わ ゆ る
つ力というものがより明確になったという点で
AOA,すなわち帰属に係るルールについて時
262
租 税 研 究 2014・2
間を割くことにいたしまして,最後のところで
は同じように呼応して変わっていくのかという
Throshold ルールについて触れたいと思ってい
問題です。この点についてはまた後ほど戻りた
ます。
いと思います。AOA の歴史的な経緯が現在に
2点 目 で す け れ ど も,資 料17の 一 番 下 の
KERTs,SPFs についても触れるつもりです。
持つ2つ目の影響ということで申し上げたいと
思います。
この点について皆様は十分ご存じのことと思い
それは何かと言えば,その複雑性です。資料
ま す け れ ど も,本 日 は KERTs に し て も,
19のチャートにも出ておりますけれども,第7
SPFs にしても本質的には重要な人的機能とい
条,すなわち主要なルールそのものも改定して
う意味でのお話ですので,KERTs,そして,
きました。また,その主たるルールに関するガ
SPFs をほぼ同じ意味,同義語として扱うとい
イダンスも改定してきたわけです。主たるルー
うことをどうぞご了承ください。
ルに関するガイダンスに係るガイダンスも変え
てきたということなのです。ちなみにガイダン
2―1.The Genesis of the AOA
スの改定は OECD の PE リポートにおけるも
AOA の過去の経緯の中でも現在特に関連性
があると思う2つのことについて指摘したいと
のです。ご覧のとおり,これらは異なったス
ピードで改定が行われています。
思います。資料18にも出ておりますけれども,
また,われわれが作り上げてしまったある怪
OECD アプローチの長所,強さというものは
物のことも忘れてはなりません。すなわちモデ
同時にその弱さでもあるということです。
ル租税条約の第6条におきましてコメンタリー
といいますのは,OECD が AOA に対する取
という1ページのガイダンスが示されています。
当然のことながら,われわれは第7条に関心が
味合いとか,また,現時点における解釈,運用
あります。というのは,ここから AOA が始ま
について十分なクラリフィケーションを行わな
っているからです。しかし,今や第7条には2
かったのです。彼らは言うなればほぼ白紙で始
つのバージョンがあります。この件に関して
めたわけです。そして,どのようなルールにし
OECD のコメンタリーにおいてはガイダンス
ようかというところから始めたのではなく,こ
として46ページのものが加えられています。す
のルールはどうあるべきかというあるべき論か
なわち1ページにはとどまっていないのです。
ら始めてしまったということなのです。
また,PE リポートにおきましてはガイダンス
従って,このような AOA の歴史的な経緯が
のガイダンスとしてたった240ページしかござ
ありますので,例えば今後その用語に関して新
いません。ちな み に PE リ ポ ー ト2008年 版 と
たな意味,ないしは新たな解釈を加えようと思
2010年版と2つあるということすらまだ私は申
った場合,既に交渉中の,ないしは存在してい
し上げていませんでしたね。
るさまざまな二重課税防止協定などの文脈の中
実際にこのリポートを読んだ体験のある人の
に新しい意味,ないしは解釈がどのような形で
話を聞きますと,「1回読んだらまた読まなけ
入ってくるのかということが問題となります。
ればならない。そして,理解するためにはさら
イギリスにおいても,また,私が理解する限
にもう1回読まなければならない」という声を
り,アメリカにおいても,この新しい OECD
聞いています。また,私の理解している限り,
のガイダンスと二重課税防止協定との関連性に
税務当局の方々も AOA に係る規定について本
ついてさまざまな不確実要因があると聞いてい
当に全面的に理解する上では大変苦労があった
ます。すなわち OECD のモデル条約に順応す
ということを伺っております。どうしてこのよ
る形で既存の条約におけるさまざまな意味合い
うに複雑になってしまうのか。これは AOA に
租 税 研 究 2014・2
263
国際課税
り組みを始めたときに,実は既存のルールの意
係るガイダンスに由来するもののみならず,
います。
AOA 自体に由来する複雑性もあります。AOA
この条約における適用可能な第7条に関して
そのものの性質については皆様も本当によくご
は,その第7条自体並びにコメンタリーの改定
存じだと思いますし,既に同僚の鬼頭からも説
のタイミング が そ れ ぞ れ ず れ て い た が た め
明があったとおりです。
に,3つの可能性のある解釈ができてしまいま
私が1つここで申し上げたいのは,資料20を
した。こうやってタイミングのずれがありまし
使いまして,実際に AOA の運用がいかに複雑
たので,例えば場所によっては旧第7条プラス
になり得るかということなのです。この資料で
旧コメンタリーの組み合わせもあれば,旧第7
は実際に AOA に関わる要件を簡単にまとめて
条プラス改定コメンタリーの可能性,また,新
みました。
しい第7条プラス新しいコメンタリーというさ
例えば最後の2点をご覧いただきますと,こ
まざまな組み合わせが可能なのです。
国際課税
れは例えば本店と PE との間で実質的な移転価
国によっては新しい第7条を全く否定してい
格に関わる分析を要求しているようなものなの
るところもありますので,そういったところで
です。しかしながら,その前の2つの点,すな
は旧第7条が適用されます。その良い例が例え
わち上から3番目,そして,4番目の点をご覧
ばニュージーランドです。このようにさまざま
いただきますと,ここでは全く違ったことが書
な組み合わせが可能であるということです。従
かれているのです。ここでは例えばアセット,
って,例えば二重課税防止協定などの検討をす
リスク,そして,資本のロケーションに関わる
る上ではその対象となっている第7条がどの
ドクトリンということになるかと思います。こ
バージョンのものであるのか。それを精査しな
れは一切 TP とは関係がないということになり
ければならないのです。といいますのは,資料
ます。全く違ったことを言っているわけで,全
21にあるような3つの異なる組み合わせ状況が
く違ったものなのです。従って,AOA という
あり得るということです。そして,それぞれ成
のは1つのことではなく,2つのことが包含さ
果といいますか,帰結が異なる可能性があるの
れているということでしょう。
です。
繰り返しになりますけれども,AOA が語っ
例えば旧7条の場合,コストの配賦にも認め
ている2つのことは,税のドクトリン上,内部
られるケースがあります。ところが,新第7条,
取引においてアセット,それから,リスク並び
すなわち AOA ではそのようなコストの配賦は
に資金がどこに配賦されるかという場所を制定
認められないとか,そういった違いはあるので
しているということです。これは大変重要なポ
す。また,新旧第7条によって,例えばコスト
イントでありまして,この講演の第3部の中で
並びにサービスのチャージアウトがあるのかど
もう一度触れたいと思っております。
うかということも異なってきます。無形資産に
同僚の鬼頭,それから,早川から聞いたので
関してもチャージができるかどうか。これにつ
すけれども,AOA というのはあまりいい翻訳
いても新旧第7条で違いが出てくる可能性があ
ではないと聞いております。私どもに言わせれ
ります。従って,AOA,新しい OECD のガイ
ば,イギリスの英語の観点から見ても,この
ドラインと二重課税防止協定との関係というも
AOA に係る規定の英語は非常に悪い英語であ
のは英国でも非常に議論の的となっておりまし
ると申し上げたいと思います。先ほど申し上げ
て,この点に関してはかなり前の段階から訴訟
た複雑性並びに今の条約との関係で新しいルー
も起きています。
ルがどのような関係となるのか。この2つのポ
第1部は以上としたいと思いますけれども,
イントを1つにまとめてもう一度触れたいと思
ここでとにかくお伝えしたい点は OECD にお
264
租 税 研 究 2014・2
ける新しいアプローチというもの,AOA に関
実際にこれが非常に難しくなり得るケースとい
わる取り組みというものは,特に既存の条約と
うのは多々あります。
の関連性において潜在的に問題をはらんでいる
このコメントをさらに膨らませてみたいと思
ということ,また,複雑であるということを申
います。例えば SPFs に相当程度貢献があり得
し述べたいと思います。しかしながら,複雑で
る会社の全てのロケーションを特定し,それを
あるというテーマはまだ終わっておりません。
割ったらいいではないかという発想です。しか
というのは,複雑であるということは今回の講
し,銀行セクターであるならば決してこれはあ
演のほぼ全編を通して出てくるテーマでありま
り得ないことなのです。すなわち人というアセ
して,通訳の方も苦労すると思います。
ットをこうやって分けるということはまず想定
できません。異なる管轄,法域間で多方面にわ
2―2.Issues presented by enactment of
たるさまざまなアセットを分けるという状況に
対応するだけのシステムも,また,能力もない
new OECD approach
第2部では英国並びにヨーロッパで AOA の
のです。
運用に関してわれわれが直面したさまざまな実
従って,実際はどうするかといいますと,そ
際の問題について触れたいと思います。資料22
もそもその価値を生み出す上で非常に貢献が高
ではあえて1枚にまとめてみましたけれども,
いリード的な管轄,法域というものをまず特定
本来ならば3∼4ページにもわたるコメントが
いたします。そして,AOA の TP(移転価格)
可能であったかと思います。手短に2∼3点だ
アプローチを活用して,それ以外の法域に関し
けハイライトいたしましょう。
ての貢献については調整をするということです。
もう1つ別の難しさについて触れたいと思い
のは金融セクターにおきまして本店と支店との
ます。OECD の中で SPFs の重要な人的機能と
間で帰属をどうするのかという問題が非常に大
いうものは,例えばリスクの配分,ないしはそ
変だったがために生まれたようなものです。従
のリスクを担っている人々であるという前提と
って,銀行が行いましたクレジットビジネスに
なっています。実際にそのリスクのマネージに
関わる PE リポートの第2部でこのテーマが扱
当たる人々に対して実際にそのリスクを担う
われたのもそういった経緯があるからなのです。
人々に関わる例えばバリューの帰属とか,配分
銀行の場合,その事業における KERTs とい
については何も指摘がありません。公平な見方
うものの認識は比較的容易です。しかしながら,
をすれば,それはケースバイケースで状況が違
銀行以外となりますと,その重要な人的機能的
うからできなかったということかもしれません。
なものを特定するというのはより難しくなりま
従って,非常に複雑であるということはご理
す。例えば私の会社が無形資産を持っている会
解いただけるかと思います。まず SPFs そのも
社だったといたします。その無形資産のさまざ
のをいかに特定するのかということです。実際
まな開発などを本部において私が監督している
に SPFs をスプリットするような状況について
と想定しましょう。そして,無形資産の開発に
対応するようなことができるのかどうか。また,
当たっているのが東京支店における非常に優秀
リスクのマネジメント並びにリスクを実際に担
なチームだったと想定いたします。このチーム
う人々のケースに関してどう扱うのか。そのガ
も例えば戦略とか,その考え方に非常に大きく
イダンスも全くないということです。
貢献していたといたしましょう。その場合,
しかしながら,この複雑な状況はさらに続き
KERTs/SPFs がどちらにあるのかということ
ます。例えば戦略的なリスク,ないしはパラ
を確信を持って特定できるものなのでしょうか。
メータセッティング的なものについては考慮す
租 税 研 究 2014・2
265
国際課税
一番上の部分です。そもそも AOA というも
るべきではないと OECD は言っているのです。
受できません。なぜならば,1つの同じ会社の
従って,例えばリスクマネジメント並びにリス
話であるならば,信用格付けは同等であるとい
クの引き受けに関わる SPFs というものを考慮
う前提があるからです。しかしながら,ヘッジ
する上で,日々の業務に関わるものを考えると
な い し は リ ス ク の 移 転 に 関 し て は OECD の
いうわけです。しかしながら,状況によっては,
ルールがもう少し明確であってもおかしくない
例えば事業運営に関して戦略的なリスクの設定
と思います。これらのアレンジメントについて
とか,ないしはリスクパラメータのマネジメン
は十分 OECD の原則に照らし合わせて明確に
トが最も重要である状況も十分考えられると思
すべきであると思います。日本では必ずしもそ
います。
うなっていないと承っております。
また,標準的な契約というものがあった場合
いろいろなテーマにどんどん飛んでいるよう
はどうするのでしょうか。すなわちリスクに関
に聞こえるかもしれません。要するに,ここで
わる規定というものがほぼ全てのケースにおい
申し上げたいのは,別会社に関わる資本という
て全く同等である場合はどうしたらいいのでし
ものを考えた場合,それをどういうルールで扱
ょうか。AOA の下でこの SPFs という概念を
うのか。どのように扱うのか。これによって財
適用する上でのさまざまな問題点というものに
務諸表などに相当程度影響があるということな
ついて少しずつ今お話ししたことで明確になっ
のです。
国際課税
ていれば幸いです。また,どういった取引が認
非常に複雑であるということについて時間を
識されるのか否か。これについては今日は触れ
かけてまいりましたので,今度は AOA のルー
ません。また,文書に関わるスタンダードにつ
ルの解釈がイギリスではどうなっているかとい
いては TP に関連するものより厳しい水準のも
う話をさせていただきたいと思います。既に私
のが適用されているということだけ申し上げた
の話から少し感じ取っていただけているかと思
いと思います。
いますけれども,イギリスにおいて AOA を適
資本の扱いについてお話をする前に私は少し
躊躇しています。一見単純な話に聞こえるかも
しれませんが,実は終わりのないぐらい本当に
用する上でさまざまな困難な点を私自身は体験
してまいりました。
イギリスの中で最も議論を呼んでおりますの
深い穴の複雑性に落ち込むことになるからです。
が一番最初に触れた点です。すなわち既存の二
OECD のガイダンスにおきましては資本に係
重課税防止協定と新しい OECD のガイダンス
るアプローチは1つのものとなっていないとい
との関係なのです。こういった問題がスタート
うことで,私はこれは本当にひどいことだと思
地点となり,例えば資本に関わる通貨はどうす
っています。
るのかとか,その背景にある前提が何であるの
通貨といったような根本的なことについて
かということが問題となっているのです。確か
OECD はガイダンスを示しておりません。例
にさまざまな議論はあったのですけれども,英
えば英国で展開している日本企業は日本企業だ
国の税務当局並びに納税者は AOA の適用,運
から円建てでやるのか。それともヨーロッパに
用にあたって非常に現実的なアプローチを取っ
いるのだからユーロ建てでやるのか。ないしは
てきたと思います。
英国でやっているのだからポンド建てにするの
日本企業の方々の中で AOA の運用について
か。ないしは金融市場に関わっているので,そ
懸念を抱いている点があるとすれば,海外の支
の金融市場は米国勢が席巻しているが故にドル
店との関係だと思います。この点に関して英国
建てでやるのか。
の税務当局は非常に現実的なアプローチを取っ
クレジットサポートに関してはその控除も享
266
てきたと思います。現実主義が大変顕著に見ら
租 税 研 究 2014・2
れておりますので,私はその点について評価し
そして,資本のロケーションの点について明確
ていいのではないかと思います。
になったということです。もう1つは,PE に
先 ほ ど 申 し 上 げ ま し た と お り,OECD の
帰属すべき利得についての評価の問題です。
AOA の下では資金のルールに関して複数のア
2つ目は AOA 導入前,すなわち比較的最近
プローチがあります。その結果,さまざまな地
までということになります。すなわち比較的最
域,国々においては,例えばその法域において
近まで税務当局というものは TP に関わる結論
イギリスの企業の支店について利得はどのよう
をそのまま喜んで受け入れていたということで
な形で配賦していいのかどうかということにつ
す。そして,あえてわざわざ PE を設定すると
いて見解も異なっています。これは日本の企業
いうことはいたしませんでした。
の方々にとっても懸念のテーマでありましょう。
第3点目はこの姿勢がどうやら変わりつつあ
例えば特に国際的な税制ルールに関するアプ
るようだということを申し上げたいのです。す
ローチがどちらかといえば正統派ではなく,そ
なわち当局というものは AOA ルールを活用し
の王道を行っていない地域,法域において自分
て,PE の帰属をより主張する可能性を感じ取
たちの事業に対する影響はどうなるのか。そう
っているということです。すなわち今度は当局
の方でもより PE の設定というものを主張する
いった懸念があるかと思います。
トレンドが見られます。これは私が多少誇張し
でありまして,海外の税務当局との間でさまざ
ているかもしれませんけれども,PE ルールと
まな交渉を重ね,その取り扱いについて合意な
TP ルールとの間の均衡が崩れつつあると申し
ども重ねてきました。従って,納税者が適切に
上げたいのです。非常に大げさに聞こえるかと
その税金に係るルールを適用しているというよ
思います。ここであえて申し上げているのは,
うな感触さえ得れば,英国の税務当局はほぼ全
税務当局の方では TP ルールに対して PE ルー
てのケースにおいて非常に協力的であると私は
ルの持つ力というものを模索し,活用しつつあ
考えます。
るということなのです。
今,申し上げたことは実際の例を申し上げて
2―3.A change in the balance of power―PE
ご説明した方がよりわかりやすいかと思います。
資料25の例です。まず前提として Capital/Book-
attribution and TP
それでは,AOA だけに触れてきた部分から,
ing Company と い う 会 社 と Service/Trader
今度はいわゆる帰属ルールと TP ルールとの関
Company のそれぞれ異なったロケーションに
連性,すなわち第3パートに移らせていただい
あ る と 想 定 し て く だ さ い。Capital/Booking
てよろしいでしょうか。あまりにも単純化して
Company は,資本はたっぷりあるけれども,
いるかもしれませんけれども,ある1つの提案
人はいないと想定していただけますでしょうか。
といいますか,案を申し上げたいと思います。
Service/Trader Company は全く逆で,人はた
これは実際に私の視点から見た例えば税務当局
くさんいるけれども,資金はないという会社で
並びに納税者が体験してきたことに関してです。
す。
こういった主張です。まず1つの主張という
この事例では Service/Trader
Company の
ものは今まで十分明確でなかった部分に関して
スタッフが,事業は何でも結構なのですけれど
AOA が導入されたことによってより明確にな
も,ある事業に関わっています。そして,マー
ったという説です。より明確になった点は1つ
ケットで取引をしています。その取引というも
だけではなく,2つの部分に関してあります。
のは Capital/Booking Company に対してブッ
まず1つは内部取引に関わるアセットとリスク,
キングがされるということです。従って,非常
租 税 研 究 2014・2
267
国際課税
しかし,イギリスの税務当局は非常に現実的
に単純化した例ではありますけれども,Serv-
みましょう。例えば Capital/Booking Company
ice/Trader Company が関わっている通常の販
という会社があります。この会社は資本は潤沢
売 活 動 の 結 果 と い う も の が Capital/Booking
だけれども,人はいない。ところが,その海外
Company に対してブッキングされるという事
支店は,人はたくさんいて,資金が潤沢ではな
例です。
い。そして,その事業活動全てが当該 PE 支店
ここで指摘したいのは私どもが長年対応して
で行われていると想定してみましょう。
国際課税
きたある動きなのです。ここで1つの論点とし
こういったケースですと,PE に帰属する利
て挙がっているのが,例えばこのような取引を
得がどのようなものであるのかということを聞
することで,Service/Trader Company が立地
くこと自体が全く無意味だと思います。AOA
している法域,管轄において,この取引がある
の下におけるその解答は明確です。本社は資本
が 故 に Capital/Booking Company の PE が 存
があるだけなので,本社に帰属するということ
在するとみなされるのか否かということです。
はないということです。そして,全ての人的機
一般論といたしましては,わざわざ Service
能といいますか,SPFs は全部 PE,支店側に
/Trader Company が立地して拠点を持ってい
あるということです。従って,この事例の場合
る法域において Capital/Booking Company の
に利得100%をその支店帰属としない理由は全
PE を設立する意味はないということです。と
くありません。もちろんこの事例が本当に非現
いうのは,Service/Trader Company が得てい
実的であるということは重々承知の上です。あ
る利得は Capital/Booking Company のサービ
くまでも原則を運用した場合にどうなるかとい
ス機能に対する対価として支払われてしまうか
うことを説明するための事例であるということ
らという考え方です。すなわちこういったケー
をご了解いただければ大変ありがたいと思いま
ス に お い て Capital/Booking Company の PE
す。
の存在を議論すること自体が無意味であるとい
次にこの事例で支店が行っていた全てのもの
う こ と で す。と い う の は,結 局,zero-sum
を今度は別会社が行っていたと想定してみまし
game だからということです。これは資料26に
ょう。そこで全く同じ質問を考えてみましょう。
示されています。
その TP のリワードというものを考えた場合で
要するに,こういったことであるわけです。
す。この場合は,事業活動によって得られた利
実際に例えば意図的ではない PE があったと想
得の何%がこの Service/Trader Company に帰
定したとしても,結局,第7条の下において
属 し,何%が Capital/Booking Company に 帰
Capital/Booking Company に 対 し て Service/
属するのかということを考えてみたいと思いま
Trader Company が得ている利得というものは,
す。
Capital/Booking Company に対してサービスの
先ほどの事例で既に明確になりましたけれど
対価として支払っているので,意味がないとい
も,支店の場合は100%その支店側ということ
う発想です。恐らくこの点については大体全て
でしたね。別会社の場合は果たしてどうなるの
の人々がそういったものであろうと落ち着いて
かという解答が私はないのですけれども,少な
受け入れてきたと思います。
くとも別会社100%ということはあり得ないと
これと対比して,例えば AOA ルールと照ら
思います。というのは,TP ルールの場合,結
し合わせて考えてみましょう。すなわち TP
局,その取引を行っているのは Capital/Book-
ルールというものをもしも適用した場合にどう
ing Company であると想定するからです。そ
なるかということです。まず AOA のアプロー
して,Service/Trader Company は,自分たち
チから始めたいと思います。こうやって考えて
が受け取る利得,対価というものはあくまでも
268
租 税 研 究 2014・2
TP 原則のみに立脚したものしかないという発
ち戻りたいと思います。
税務当局としても TP ルールの代わりに好き
想です。
先ほどの支店の事例にまた立ち戻ってみたい
勝手に帰属ルールを適用することはできません。
と思います。この支店の事例の場合は AOA に
彼らがそれをできるとすれば,Threshold PE
おける2つの側面というものを活用しているわ
ルールの下で PE が存在している場合です。そ
けです。まず1つ目の側面は TP と全く同じな
の点についてお話をいたします。
のですけれども,Service/Trader Company が
まず第一に AOA のルールが導入されたこと
何をやったかという実際の活動というものが関
によって明確になったということです。そして,
わってくるというものです。もう1つは先ほど
それが TP ルールに対してより力を持ち得ると
のロケーション,拠点です。すなわちアセット
いう可能性についても申し上げました。この帰
とか,リスク並びに資本がどこにあるかという
属 ル ー ル の 話 か ら 少 し 外 れ ま し て,今 度 は
ロケーションに関わるドクトリンも関わってく
Threshold PE ルールの下で PE の存在の有無
るということです。だからこそ,TP の場合と
というものを主張できるのかどうか。そこで
AOA の場合,AOA の下における帰属ルール
BEPS の話となります。
の場合に帰結が異なってくるということです。
2―4.What s next―the BEPS impact and Art5
ローチの共通項が何かと言えば,まずは TP 分
より厳密に申し上げるならば,BEPS プラス
析というものを行うというのが1つの共通項だ
Threshold ルールであります第5条に対して
と思います。だからこそ,資料29の一番下の箱
BEPS がどのような影響を及ぼしているのかと
で双方に私はチェックを入れたわけです。すな
いう点です。イントロということで,簡単に2
わち AOA の第7条並びに TP ルールの第9条
分だけ BEPS について申し上げます。
においては,実際に行った行動に対する対価を
払うという意味でこの側面は同じなのです。
皆様はご存じと思いますが,BEPS プログラ
ムでは15のアクションプランが7月に発表され,
先ほどガイダンスによってより明確になった
その幾つかが今回の資料の一番最後にまとめら
点があると申し上げました。まさにそれは何か
れております。これをご覧いただければ,ワー
と言えば,AOA は実は異なった扱いも出てく
クプログラムが非常に複雑なものがありますし,
るということなのです。すなわちアセットとか,
さまざまな目的も掲げられております。BEPS
リスク並びに資金に係るロケーション,属地主
の本質をご紹介すれば多少参考になるかと思い
義といいますか,これは TP ルールではあり得
ます。
ないわけです。そういったロケーションに関わ
この BEPS が実際に何であるのかというこ
る主義が適用されるということです。だからこ
となのですけれども,2つの要件を満たす限り,
そ,先ほど申し上げたとおり,税務当局によっ
その企業によるさまざまな税制の構想に対する
ては TP ルールと比べて,AOA の持つ潜在的
全面戦争の宣言であるとも言えます。2つの条
な力というものに目を付けているのです。ちな
件は何か。実際に価値が生み出されている場所
みにこの主張を全てのセクターに対して適用す
と価値あるアセットが置かれているロケーショ
るという観点からこの表をまとめてみました。
ンを分離するというものなのです。もう1つは
資料30でどうして TP ルール,ないしは TP
非二重課税,すなわち誰もその税金を払わない
の解決策というものが受け入れられないのかと
という状況です。OECD の中では新しいフレー
いうことも説明しています。ただ,細部につい
ズといいますか,新しい double non taxation
ては今回は触れず,私の主たるテーマにまた立
(二重非課税)という言葉なのですけれども,
租 税 研 究 2014・2
269
国際課税
この場合は TP のアプローチと AOA のアプ
策を強化するというのがその狙いです。
これが出てきています。
これはやはり事例でご紹介した方がわかりや
OECD になじみがある方であるならば,こ
すいかと思います。例えば Cayman company
の BEPS ルールは今後そんなに進まないので
という会社があったとしましょう。彼らは非常
はないかと思われるかもしれません。例えば
に重要な知的財産を持っています。しかし,実
OECD において変化に関わるコンセンサスを
質それはコスト・プラス法にのっとって,ドイ
得るのが非常に難しいということがあるかもし
ツの子会社が生み出しているものと考えます。
れません。また,あまりにもワークロードが重
もう1つの例は,UK Co.
という会社がマー
過ぎるとか,このタクスの改良に与えられた時
ケットにおいて非常に価値ある投資のオリジ
間があまりにも短過ぎるということです。例え
ネーションを行います。そして,今度は契約を
ば加盟国の中でも税に係る競争を促進するもの
持って,その Cayman company に対してサー
と税に係る競争を一切廃止したいという異なる
ビス・コントラクトを通してそれを支払うとし
立場を持っている加盟国があるということです。
ます。
また,先進国と後進国との間で掲げているアジ
この2つの事例をご覧いただきますと,価値
あ る 財 産 を 所 有 し て い る の は 実 は Cayman
ェンダにあまりにもばらつきがあるということ
があります。
国際課税
Company.
であるということです。しかしなが
これが通常の OECD のプログラムの話であ
ら,実際にバリュー,価値を調達した,生み出
れば全く通るチャンスはないだろうと申し上げ
した当事者側に残る利得は非常に少ないのです。
るところです。しかし,実はそうではありませ
従って,Cayman company を含め,どちらも
ん。非常に高いレベルの政治的な支援がありま
全く課税を免れることができるという考え方で
すので,恐らく BEPS は成功裏に実行される
す。
確率が高いと私は思っています。とはいうもの
こういった状況がある中,税務当局であるな
の,OECD が当初に狙った全ての目的がかな
らばどう対処するでしょうか。当然のことなが
うということを言っているわけではありません。
ら,可能な限り使える武器を探します。例えば
しかし,成功という評価を得るだけの進捗は得
CFC(Controlled Foreign Company),ないし
られると私は思います。
は TP ルールを使います。ないしはその控除を
実は BEPS の影響は3つの段階で既に見ら
拒絶するとか,そういった可能性があるかと思
れます。まずは OECD 自体がもたらす変化で
います。また,アセットを所有しているのが
す。また,BEPS に対応するということで,既
Cayman company であるという説も否定する
に一方的な変化が導入されているケースがある
という可能性もあるかと思います。ないしはア
ということです。例えばフランス,ドイツ,メ
セットを持っていないとしても,源泉国におけ
キシコ,オランダ等々においてです。私に言わ
る PE があるではないかという立場を取ること
せれば3つ目の段階における変化が最も大きい
もできます。ないしは Cayman company とい
と思います。すなわち税務当局の行動面での変
うものがどのようなビジネスモデルを持ってい
化です。その最たる例が今回の講演のテーマで
るのかということを含めて,その会社に対して
あります PE に関しての英国の税務当局の姿勢
さらなる情報が欲しいとか,今まで何らかの裁
の変化です。今回はこの Threshold PE ルール
判における判断を受けたのかどうか。そういっ
とのコンテキストで BEPS についても触れた
た追加情報を求めるという方策もあるかと思い
かったので,ご説明させていただきました。
ます。まさにこれが BEPS の範疇に入る話で,
税務当局にとってこの状況に対応するための対
270
OECD は過去20年ほぼ一貫してこの PE の問
題について取り組んできたわけです。最初は帰
租 税 研 究 2014・2
属ルールということで,1997年から2010年にか
か。これは2つ目の従属代理人 PE ルールです。
けて,もう1つが Threshold PE ルールで,こ
例えば鬼頭から私が依頼を受けて,彼女の名前
れは2008年から2013年の5カ年計画で対応して
で契約を妥結する立場になった場合,それは私
きました。ですから,BEPS 前 の OECD の 取
が彼女の従属代理人であるということになるわ
り組み並びに BEPS そのものについてもコメ
けです。しかもそれを繰り返しやった場合です。
ントいたします。
ただ,定まった事業を行う場所のルールと異な
1つご理解いただきたいのは,AOA,すな
って従属代理人ルールのテストはもっと正式的
わち帰属 PE ルールについてあれだけ時間をか
なものです。まずテストの基準となるのは私自
けて整備してまいりましたので,BEPS はあま
身が契約の妥結を行っているかどうかというこ
り帰属 PE に関心はなく,どちらかといえば
とです。
Threshold PE ルールの方との関連性が強いの
具体的に何を意味するのか。私が例えば4カ
です。このような方々を前にわざわざ Thresh-
月交渉して,400ページの契約を結んだとしま
old PE ルールについて申し上げる必要もない
す。それに関する承認を例えば Cayman com-
と思います。ただ,BEPS という文脈において
pany に送付しなければならないのか。すなわ
はこの点について少し戦略的に捉えていただき
ち定まった事業を行う場所,ルールという実態
たいと思います。そうやっていただければ,最
的なものとは違って,この場合はより正式なコ
初のポイント,すなわち一定の定まった事業を
ンセプトにのっとっているということになりま
行う場所というルールは実は BEPS ルールと
す。ちなみに申し上げるならば,例えば独立代
非常に整合しているのです。
理人に対する除外規定に関しても,また,今申
し上げました従属代理人に関わるテストに関す
重視したルールであるということです。例えば
る規定にしましても,OECD のモデル租税条
私が日本を訪問する場合に,私にとって何か定
約の中で最もガイダンスが曖昧な側面であると
まった事業を行う場所を設定するわけではあり
いうことを申し上げたいと思います。だからこ
ません。しかし,私が頻繁に日本に来るように
そ,OECD がこのテストに非常に焦点を当て
なって,何か事業,ないしはオペレーションを
ているということは決してサプライズでもあり
立ち上げたとすれば,当然のことながら,私自
ません。
身は経済的なプレゼンスというものを持つこと
そ れ で は,BEPS 以 前 の 段 階 の Threshold
になるわけで,課税の対象になり得るという経
PE ルールに対する OECD の取り組みについて
済活動が生まれます。すなわち私は実態的に事
申し上げたいと思います。この作業は2008年か
業活動を行うことになるということです。
ら2013年 に か け て,実 際 に 既 存 の Threshold
このように実態を重視する税制ルールである
PE ルールに関わるガイダンスについて25の
ということは私は一般論として非常にいいこと
テーマを特定して取り扱っています。この25の
だと思います。BEPS についてそう申し上げら
テーマのうち19がアクションプランの対象とな
れます。だからこそ,BEPS 自体が一定の定ま
ります。この作業はほぼ終わっています。テー
った事業を行う場所がある PE ルールというも
マの中には皆様の関心の高くないものも含まれ
のを重要視していないとしても当然だと思うの
ています。例えば農家が PE であるのか否か。
です。厳密に申し上げるならば,少なくともこ
これは恐らく皆様にとっても,われわれにとっ
れは最も優先度の高いものではないということ
てもトッププライオリティとは言えないと思い
です。
ます。
BEPS 上で何がトッププラオリティでしょう
しかし,非常に重要なテーマも含まれており
租 税 研 究 2014・2
271
国際課税
すなわちこのルールというのは非常に実態を
ます。例えば PE の存続に関する期限はどうな
で私がある行動を行った場合です。コミッショ
るのかとか,下請け(サブコントラクター)を
ネア・アレンジメントの場合は何が不思議かと
使った場合に PE の存在と見なされるのか。ま
いいますと,コミッショネアというものは実は
た,PE に関して出向が行われた場合にどうな
誰かの別の人間に成り代わるわけではなく,間
るのか。このテーマだけで本当に別のセッショ
接的な代理人として自らそのアレンジメントを
ンをさせていただきたいぐらいなのですけれど
行うというものです。
も,配布いたしました資料の中で重要な側面は
OECD はこの点についても非常に関心を寄
十分ハイライトさせていただけたかと思います。
せておりまして,BEPS の中でさらにこの作業
ちなみに合意に到達した変更内容というものは
を進めております。従って,この中では例えば
もう既に導入予定ができておりまして,BEPS
あるプリンシパルに対して私は代理人であるの
に関わる Threshold PE についての作業の結果
かどうかということに加えて,私が連続してさ
を待っているという状況です。
まざまな契約を結ぶことができるのかどうかと
OECD における Threshold PE ルールに対す
いうことも考えています。例えば私がマーケッ
る企業側,経済界の反応は2つありました。ち
トとの間である契約を結び,連続して今度は鬼
なみに今日私自身が申し上げましたさまざまな
頭と契約を結んだとします。その場合,果たし
主張と関連性があります。まず1つのリアクシ
て私は従属代理人のテストに対してどう見なさ
ョンとしては,全般的な Threshold そのもの
れるのかということが問題となるわけです。従
の引き下げられたようだという反応です。もう
って,申し上げたいのは Threshold PE ルール
1つのリアクションとしては,Threshold
国際課税
PE
に関して OECD が取り組んでいる分野が非常
に関してブライトラインが非常に少なくなって
に幅広いということです。そして,ただ単に狭
います。従って,改定されたテストに合わせて
い意味でのコミッショネア・アレンジメントだ
確認することが本当に不可能であるというもの
けを取り上げているわけではないという点です。
でした。従って,BEPS に関わる Threshold PE
私が理解する限り,非常に幅広い意味での
ルールの作業さえ終われば,全ての作業は実行
Threshold PE ルールについて検討していると
の予定ができています。
いうことです。場合によってはアクションポイ
では,BEPS,そして,PE の話をいたしま
ントの第7番目のもので示されている以上によ
し ょ う。ま ず BEPS 前 の OECD に お け る PE
り幅広い対応が今後定まる可能性があります。
の作業の1つの大きなテーマは,そもそも契約
従って,この Threshold PE ルールに関しては
の中で何を定めるべきかという点でした。この
今後さまざまな動きが出てくると思います。先
テーマについては BEPS の作業の中でもっと
ほど BEPS の中で3つのレベルの影響がある
もっと進展しています。例えばコミッショネア
と申しました。恐らく OECD 自体も Threshold
(問屋)に関わるアレンジメントです。特に企
PE ルールについて改定を加えてくるでしょう
業サイドによって非常に大きな重篤な濫用があ
し,一方的な改定も今後出てくるでしょう。ま
ったと税務当局がみなした場合のコミッショネ
た,税務当局の中には既に行動面で変わってき
アのアレンジメントの問題です。
ている側面もあります。
コミッショネアについては皆様はよくご存じ
先ほど申し上げましたある主張にまた戻りた
だと思います。特に従属代理人のテーマに関し
いと思います。今日お話ししたかった全体像を
て非常に不思議な状況となっています。先ほど
うまく完成できると思います。AOA によって
の事例でありましたけれども,私が従属代理人
導入されました明確さ,AOA によってより明
となるのは,例えば鬼頭の代わりに彼女の名前
確になったがためにいわゆる帰属 PE ルールと
272
租 税 研 究 2014・2
TP ルールとの間のバランスが変わりました。
ま た,特 に BEPS の 文 脈 に お け る Threshold
PE ルールの改定作業によりまして税務当局の
中では意図的ではない PE に対してより積極的
に対応することが可能になります。すなわち
TP ルールではなく,帰属ルールにのっとって
対応することが可能になるということです。
2―5.まとめ
少し時間を超えてしまいましたので,簡単に
岡田
まとめさせていただきたいと思います。まず
至康
AOA に関して非常に複雑であるということを
税理士法人プライスウォーターハウスクーパース
申し上げました。従って,納税者並びに税務当
常任顧問
局としてもこのような適用に関してはぜひ現実
的にやっていただきたいと思います。そうでな
いと,この状況はより難しくなると思います。
3.BEPS に関する企業側の反応
また,PE ルールの活用の傾向についても,
その使う傾向が高まっているということについ
(岡田)
ても申し上げたつもりです。あまりにも簡素化
ざいました。お疲れのところ申し訳ないのです
した事例をご紹介いたしました。何も一昼夜で
が,私の方から今お話がありました BEPS に
全てが変わるということを申し上げるつもりも
ついての企業側の反応という形で少しお話をさ
ありません。ただ,これがいずれ何らかのトレ
せていただきたいと思います。
コリアーさん,本当にありがとうご
念頭に置きながらご覧いただければと思います。
また,先ほど幾つかのアクションポイントも
3―1.国際課税における事業所得課税の不思
議
準備されていると申し上げました。比較的わか
こ の BEPS は,ご 承 知 の と お り,現 在
りやすいもので,恐らく帰属 PE ルール並びに
OECD で G20の意向を受けて昨年から大規模
Threshold PE ルールに関わる脆弱点を何とか
に検討されているわけです。わが国でも安倍総
解決しようとするアクションポイントになろう
理,或いは麻生大臣も言及をしておられて,こ
かと思います。
れに対して積極的に取り組んでいくというよう
では,少しお時間が超過いたしましたけれど
も,岡田にお返ししたいと思います。
なことを言っておられるところです。BEPS に
対 す る 民 間 企 業 の 反 応 と い う こ と で す が,
BIAC という団体はご存じだと思いますけれど
も,OECD に対する民間の諮問機関です。そ
の BIAC に寄せられた多数のコメントがござ
いますけれども,その中で少しご紹介できれば
と思っているところです。時間的な都合もあり
ますので,全体的なところだけ少しお話しさせ
ていただければと思っています。
もちろん当初の反応自体は予想されたとおり,
租 税 研 究 2014・2
273
国際課税
ンドになり得るのかどうか。皆様はそれをぜひ
「BEPS,BEPS と言うけど,実態は不明では
それから,これは G20が関与していますので,
ないのか」というふうな反応で,OECD 等で
OECD の非加盟国が8カ国入っているわけで
もっとリサーチをすべきであるというようなこ
す。条件も同じような形で入っているわけです。
とがございました。また,個別の企業で見ても,
従って,この影響,効果は地域的に非常に広範
アグレッシブなタックスプランニングをやって
囲になるというふうなことが言えると思います。
いるところというのはそんなにたくさんあるわ
3点目は取り扱うテーマ自体が極めて広範囲
けではないだろうということです。それから,
であるということです。国際課税の主要なテー
現在の法人税制を見ても,全体的に安定的に推
マをほとんど網羅しておりますし,その内容も
移しているのではないか。そういったのが最初
極めて意欲的ということです。
の当初の反応であったかと思うのです。企業側
4点目は重要な点だと思うのですが,広範な
もその後は全体的にこのプロジェクトの意義を
同等競争条件の確保を意図しているということ
だんだん理解してきていると思います。
です。この点はかなり重要かと思います。例え
ばこのプロジェクトが始まって,国際取引をや
っている企業は随分実効税率が低いではないか
3―2.プロジェクトの意義
私自身はこのプロジェクト自体は非常に歴史
と国内でしか取引のない企業から不満が出てい
的な意義があるのではないかと思います。幾つ
たというのはあります。そういった意味で国内
かの点があろうかと思います。思いつくままで
取引のみを行っている企業と国際取引をやって
も次の点があろうかと思うのです。まず政府の
いる企業の同等性を確保するというのがありま
首脳レベルが一致して多大な関心を示している
す。
国際課税
ということです。また,議論の進展をリードし
それから,デジタルとノンデジタルの同等競
ているということです。これについては先ほど
争を確保しようというのがあります。また,当
もございましたが,ポリティカルな面があると
然ながら,各国の諸制度の厳格性についても同
いうふうな話でした。このポリティカルな面と
等性をできるだけ確保していこうというふうな
いうのは2点ぐらいあると思います。
意味があり,これは重要な点だろうと思います。
1つは当然ながらハイレベルの政治家が関与
過去に有害な租税競争プロジェクトがござい
しているというのがあります。それと同時に各
ましたけれども,ここまで包括的かつ基本的な
国の課税権への影響があるということです。従
テーマを扱ったわけではないと思います。そう
って,各国の課税権が場合によっては制限を受
いった意味でこの BEPS というのは極めて歴
ける可能性もあるし,また,得する国もあるだ
史的な意義があると思います。これらを踏まえ
ろうし,そういった意味で非常にセンシティブ
ますと,この結果として,当局だけではなくて,
な面もあろうかと思います。
当然ながら民間企業にも幅広い対応を求められ
一方で,特にご承知のとおり,スターバック
るということだろうと思います。
スとか,いろいろな名だたる企業がイギリスの
このプロジェクトは多国籍企業バッシングで
議会等で問題になりました。そういった意味で
はないというふうなことが言われています。問
イギリスなどでは家庭でも議論されているとい
題なのは企業ではなくて,制度そのものです。
うことです。従って,このテーマ自体が主要国
より詳しく言えば,制度の差異と言ってもいい
政府の首脳レベルから家庭レベルまで本当に幅
かもしれませんけれども,幅広い取り組みが必
広い層で関心を持たれています。これまでこん
要であるということです。そういった意味で企
なことはなかったというようなことを向こうの
業への多大な影響があるということが言えるか
人も言っております。
と思います。
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租 税 研 究 2014・2
局,先ほどのように何も悪いことをしていない
3―3.企業側の対応
それらを踏まえた上で企業サイドとしてどう
企業にとっては競争条件を同等にしようという
いうふうに行動するかということです。取りあ
意図があると企業側自体も十分に理解すべきで
えずは OECD と協働して,できるだけ企業側
はないかという形でこれについて取り組んでい
の意見を反映させていきたいということです。
こうということです。
1つには企業のモラルのイシューとならないよ
時間がございましたら,15項目についての個
うに,客観的な形で十分な議論をしていきたい
別の意見等をご報告する機会でもあればと思い
ということがあろうかと思います。
ますけれども,時間もございます。また,リチ
あとは新興国への対応というのもございます。
ャードさんにひょっとしたらご質問したい方も
或いは先ほど来ありますように,いろいろなと
おありかもしれませんので,取りあえず私の方
ころでアグレッシブなタックスプランニングの
はこれだけにしておきたいと思います。ありが
報告とか,そういったことを企業側に求められ
とうございます。
ていますけれども,この制度自体によって,結
国際課税
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