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中央経済社 「税務弘報」 2011 年 10 月号 「連結納税と税効果」 あらた監査法人 公認会計士 市原順二

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中央経済社 「税務弘報」 2011 年 10 月号 「連結納税と税効果」 あらた監査法人 公認会計士 市原順二
中央経済社 「税務弘報」 2011 年 10 月号
「連結納税と税効果」
あらた監査法人
公認会計士 市原順二
税理士法人プライスウォーターハウスクーパース
税理士・公認会計士 望月文太
連結納税制度適用法人においては,単体納税を適用する場合に比して税効果会計の適用がより複雑化する。これは,
連結納税制度の下では繰延税金資産の回収可能性の判定を連結納税グループ全体で行うこと,連結納税が地方税に
は適用されないこと,欠損金の持込みや所得通算等に一定の制限が課されていることによる。本稿では連結納税制度
の平成 22 年度改正にも触れながら,連結納税における税効果会計の留意点を解説する。
はじめに
連結納税制度は,わが国企業の国際的な競争力を高める観点から,一定の要件を満たす複数の会社をまとめて1つの
納税単位として法人税を申告・納付する制度であり,平成 14 年度税制改正により創設されている。連結納税制度を適
用する場合,親会社と子会社の所得を通算できることから,欠損を生じさせる子会社を有する納税単位においては一定
の節税効果が期待できるものの,連結納税制度の適用にあたっては,手続が煩雑である,連結子法人の単体納税時代
の繰越欠損金が切り捨てられる等のデメリットがあったことから,幅広い制度の適用には至っていなかった。
しかしながら,平成 22 年度税制改正により,一定の要件を満たす子会社の欠損金については,連結納税制度の開始・
加入後においても当該子会社の個別所得の範囲内で欠損金の繰越控除が容認されることになった。このように連結納
税制度を適用することによるデメリットが緩和してきたことにより,今後連結納税制度の適用が広がっていくことも考えられ
る。
一方,企業会計においては,税効果会計の導入以後,とりわけ繰延税金資産の回収可能性の判定は常に重要な論点
として位置づけられているが,連結納税制度を採用している企業集団及び当該企業集団を構成する各企業においては,
税効果会計の適用は複雑であり,十分な考え方の理解が求められているところである。
連結納税制度の適用下における税効果会計の取扱いを明らかにしているものとして,実務対応報告5号「連結納税制
度を適用する場合の税効果会計に関する当面の取扱い(その1)」(以下,「実務対応報告その1」という)及び実務対応
報告7号「連結納税制度を適用する場合の税効果会計に関する当面の取扱い(その2)」(以下,「実務対応報告その2」
という)がある。平成 22 年度税制改正に伴い,これらの実務対応報告の改正もあわせて行われている。
本稿では,これらの実務対応報告の取扱いも含めて,連結納税制度を採用する場合の税効果会計の適用に関して主
要な論点を解説する。なお,本稿において意見にわたる部分は筆者の私見であることをあらかじめお断りしておく。
1 検討対象
□
1 計算単位の相違
(1) 企業会計における計算単位
企業会計においては,一定のルールに従い一体として考えられる親会社及び子会社群を対象とする「企業集団」を計算
対象とした「連結財務諸表」と,法的な実体を1つの計算単位とした「個別財務諸表」が作成される。企業会計において
は,これらの会計上の計算単位をベースに財務諸表を作成することになる。
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(2) 税制における計算単位
一方,わが国の税制においては,伝統的に法的な実体を1つの計算単位として納税計算を行うこととし,各内国法人に
納税義務を課している(法法 4①)が,連結納税制度の場合,内国法人及び当該内国法人と完全支配関係のある内国
法人を1つの計算単位として納税計算を行うこととし,当該内国法人に納税義務を課している(法法4の2)。
(3) 連結納税制度を適用していない場合の相違
連結納税制度を適用する場合の税効果会計の難しさは,この計算単位が相違することにある。図表1のとおり,連結納
税制度を適用していない場合,個別財務諸表においては納税単位と企業会計の計算単位が一致するため,個別財務
諸表レベルにおける税効果会計の適用にあたっては,当該会社における会計上の資産負債と税務上の資産負債の相
違を一時差異として認識すればよいこととなる。
また,連結財務諸表における税効果会計の適用にあたっては,連結財務諸表の作成過程における「消去等」の局面で
連結企業集団を構成する各会社の税務上の資産負債との差額を生じさせる可能性があり,ここで一時差異が発生する
場合がある(「連結財務諸表固有の一時差異」)。
【図表1】 個別会社単位で納税計算を行っている場合
(4) 連結納税制度を採用している場合の相違
一方,連結納税制度を採用している場合,図表2のように,納税単位と企業会計における個別財務諸表の計算単位が
一致していないため,連結納税を実施するために必要な連結納税会社間の取引に係る調整項目を各会社に配分する
手続が必要となる。また,連結納税を適用できる会社群と企業会計上の企業集団とは通常は一致しないため,連結納税
における連結納税主体と企業会計上の連結財務諸表とはその単位は同じではない。
図表2においては,灰色部分が連結納税の単位と一致しており,連結財務諸表の中に連結納税主体が包含される形と
なっているが,場合によっては,連結納税主体を構成する連結納税法人の一部が企業会計上の連結子会社となってい
ない場合も考えられる(この場合の取扱いは実務対応報告その1Q11 参照)。
なお,本稿では,それぞれの主体を次のように記述する。
・連結納税主体:連結納税制度を適用する各会社の会社群(実務対応報告その1「範囲」参照)であり,親法人及び連結
子法人の集合体
・連結納税会社:連結納税制度を適用する各会社(実務対応報告その1「範囲」参照)であり,連結親法人及び各連結子
法人
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2 連結納税制度の適用対象となる税金と税効果会計
税効果会計は,利益を課税標準とする税金を対象としているため,法人税,住民税,事業税が税効果会計の対象となる
(「税効果会計に係る会計基準注解」(注1))。しかしながら,連結納税制度は法人税についてのみ適用されるものであり,
住民税,事業税は連結納税制度の適用範囲に含まれていない。このような状況から,連結納税制度を適用している会
社(及び子会社)の税効果会計の計算は,法人税部分については連結納税をベースとして行うが,住民税,事業税部分
は,法人税とは切り離して,各連結納税会社単位で行う必要があり,この点でも煩雑な事務処理を必要とすることに留意
する必要がある。
なお,本稿では,住民税及び事業税については検討の対象としていない。
【図表2】 連結納税制度を適用して納税計算を行っている場合
2 繰延税金資産の回収可能性に関する属性判定
□
1 概 要
税効果会計を適用する上で最も問題となるのは,繰延税金資産,特に繰越欠損金に係る繰延税金資産の回収可能性
の判定に関してである。実務的には,監査委員会報告 66 号「繰延税金資産の回収可能性の判断に関する監査上の取
扱い」(以下,「委員会報告 66 号」という)を踏まえて,その回収可能性を判断していると考えらえる。
委員会報告 66 号では,過去の課税所得の推移及び一時差異等の残高などから,将来の課税所得創出能力を5つのカ
テゴリー(以下,「例示区分」という)に分割し,それぞれのカテゴリーごとに回収可能性にあたっての判断の指標を示して
いる(図表3参照)。第1分類が最も回収可能性の高いレベルであり,第5分類が最も回収可能性の低いレベルである。
2 例示区分の判定
委員会報告 66 号における例示区分の判定は,通常,納税単位を基礎として判断することになる。そのため,連結納税
制度を適用している場合,一義的には例示区分は連結納税主体を1つの単位として判定することとなる。そのため,連
結納税制度を適用している場合,一義的には例示区分は連結納税主体を1つの単位として判定することとなる。
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【図表3】監査委員会報告 66 号における属性判定
しかしながら,一方で,連結納税主体を構成する各連結納税会社の将来の課税所得創出能力には通常ばらつきがある。
将来の課税所得を捻出することが難しい連結納税会社は,同一連結納税主体内の他の連結納税会社の所得を利用し
て繰延税金資産の回収を図り,逆に自社の繰延税金資産の回収を行ってもなお回収余力がある場合は,他の連結納
税会社の繰延税金資産の回収に充てることとなる。
連結納税制度を適用する場合の税効果会計の適用にあたっては,連結納税主体における例示区分のみならず,連結
納税主体を構成する各連結納税会社の例示区分をあらかじめ特定する必要がある。繰延税金資産の回収可能性は,
連結納税主体における例示区分と連結納税法人の例示区分の組み合わせをもとに判断していくことになる。
3 一時差異に係る繰延税金資産の回収可能性判定
(1) 連結法人税個別帰属額の精算過程
連結納税制度においては,各連結納税会社単位で負担される法人税の額が計算される。これを連結法人税個別帰属
額といい,通常,連結親法人が連結納税主体全体における連結法人税を納付した上で,連結親子間でそれぞれの連
結法人税個別帰属額の精算を行うことになる。
そのため,例えば,ある連結納税会社において欠損金額が認識された場合であったとしても,連結納税主体で十分な課
税所得が計上されているならば,連結納税主体全体の税負担を軽減する効果を有することになり,その効果に見合う経
済的利益が,上記の連結法人税個別帰属額の精算過程で流入することになる(例示:図表4)。
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【図表4】 連結法人税個別帰属額の精算の例示
(2) 繰延税金資産の可能性
この観点で繰延税金資産の回収可能性をみれば,仮にある連結納税会社における例示区分が低いレベルのものであ
ったとしても,連結納税主体全体の例示区分が高いレベルであるならば,連結納税主体全体の回収可能性の枠組みで
判定することが可能となることを意味する。
逆に,ある連結納税会社の例示区分が高いレベルであるにもかかわらず,連結納税主体全体の例示区分が低いレベル
である場合,連結納税主体全体としては繰延税金資産の回収が困難であったとしても,上記の連結法人税個別帰属額
の精算過程により,その連結納税会社の立場では繰延税金資産の回収が可能になり,個別財務諸表においては回収
可能性を認識できる場合が生じる。
このように,連結納税制度のメカニズムから,連結納税主体全体の繰延税金資産の回収可能性と,連結納税主体を構
成する各連結納税会社の繰延税金資産の回収可能性とが相違する場合があることに留意する必要がある(実務対応報
告その2Q4及び設例4参照)。
4 連結欠損金に係る繰延税金資産の回収可能性判定(特定連結欠損金がない場合)
連結上の繰越欠損金(連結欠損金)については,欠損金を計上した連結納税会社の欠損の金額を基礎として各連結納
税会社に按分させることになり,この各連結納税会社に按分された金額を「連結欠損金個別帰属額」という。
連結欠損金個別帰属額を有する連結納税会社が,仮に当該連結欠損金個別帰属額を十分に上回る所得を単体として
計上した場合であっても,他の連結納税会社が多額の欠損を計上する等により,連結納税主体全体で当該連結欠損金
を十分に上回る課税所得の計上が見込まれない場合には,連結欠損金の控除による損金算入もできず,3に掲げるよう
な連結親子間の連結法人税の精算の対象にもならないため,回収可能性を認めることはできないことになる。このように,
同じ繰延税金資産であっても,一時差異に係る繰延税金資産と,連結欠損金に係る繰延税金資産とでは,回収可能性
判定の考え方により取扱いが異なる場合があるので留意が必要である。
また,一方で,仮に過去に認識された連結欠損金個別帰属額について,当該連結納税会社単体では所得の発生が見
込めないとしても,連結納税主体全体で連結欠損金を十分に上回るほどの課税所得の発生が見込まれるならば,当該
連結納税会社として連結欠損金個別帰属額に回収可能性があるものと判断できる。
5 連結欠損金に係る繰延税金資産の回収可能性判定(特定連結欠損金がある場合)
平成 22 年度税制改正前は,連結納税制度の開始又は加入前に連結子法人が有していた単体納税時代の欠損金は,
連結納税の開始又は加入により切り捨てられることとされていたが,平成 22 年度税制改正により,時価評価対象外とな
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る連結子法人が単体納税時代に有していた欠損金は,「特定連結欠損金」として連結納税制度の下で,繰越控除の対
象として認められることとされた。(法法 81 の9③)。
ただし,特定連結欠損金は,その連結法人の個別所得を限度として控除可能とするといった一定の使用制限が課され
ている(法法 81 の9①)。
上記4にも記載のとおり,連結欠損金の回収可能性の判定は大枠として「連結納税主体を一体として判定する」ことにな
るが,特定連結欠損金の場合,連結納税主体を一体として連結欠損金の繰越控除限度額の計算を行うにあたり,特定
連結欠損金を持ち込んだ連結納税会社の控除対象個別所得金額も判定の要素として考慮する必要があることから,連
結欠損金に係る繰延税金資産の回収可能性の判定においても同様に,連結所得見積額のみならず,個別所得見積額
も考慮する必要がある(実務対応報告その1Q1,Q4)。
したがって,仮に連結納税主体全体として将来所得が十分期待される場合であっても,特定連結欠損金に関しては,当
該特定連結欠損金を有する連結納税会社の将来所得が十分でない場合には,回収可能性があるとは判断できない。ま
た,仮に当該特定連結欠損金を有する連結納税会社の将来所得が十分と見込まれる場合であっても,連結納税主体
全体の将来所得が十分に見込まれない場合には,回収可能性があると判断できない場合があり得る。このことから,特
定連結欠損金に係る繰延税金資産の回収可能性判定においては,連結所得見積額と個別所得見積額の両方を考慮
する必要があることとしている(実務対応報告その2Q1,Q3)。
以上,繰延税金資産の回収可能性判定に関しては,図表5のとおり,それぞれの区分に応じて監査委員会報告 66 号を
適用することになる。
3 連結納税会社間の資産の譲渡に関する税効果会計の適用
□
1 概 要
企業会計においては,連結会社間の資産の譲渡に係る損益に関して,譲渡対象となる資産が連結グループ内部にとど
まっている場合は,当該取引により売主側で認識された損益は未実現であったとして消去することとされている。
このような未実現損益の消去は連結財務諸表作成過程における調整であり,「連結財務諸表固有の一時差異」(会計制
度委員会報告6号「連結財務諸表における税効果会計に関する実務指針」(以下,「連結税効果実務指針」という)3項)
と称されるものの1つである。
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【図表5】 連結納税制度を適用している場合の監査委員会報告 66 号の適用
2 税務上の譲渡損益調整資産
連結納税制度を適用している場合には,連結納税会社間で行われた譲渡損益調整資産(固定資産,有価証券等)の譲
渡に係る損益を繰り延べることとなっており,譲渡損益調整資産を譲り受けた法人がさらに譲渡するか,もしくは償却によ
り段階的に損金処理するか等にあわせて,当該譲渡に係る損益を益金もしくは損金の額に含めることとされている。
これは,連結財務諸表における未実現利益の考え方と同様に,連結納税主体を1つのグループと見た場合に,いまだ
実現している損益ではないことから,課税所得計算から当該損益を除外するものである。ただし,法人税法上の「譲渡損
益調整資産」は,固定資産,有価証券,繰延資産など通常売却が想定されていないもので,譲渡直前の税務上の帳簿
価額が1千万円以上のものに限定されるが,前述の会計上の未実現利益の消去は棚卸資産も対象に含まれ金額の制
限は特に定められてない点で,その範囲は同一ではない。
なお,平成 22 年度税制改正において,これらの譲渡損益調整資産の繰延べの取扱いに関して連結納税制度を適用し
ている会社に限ることなく,完全支配関係のある会社間の譲渡取引に係る譲渡損益に広く適用することとされている(法
法 61 の 13)。
3 税効果会計における取扱い
企業会計上の個別財務諸表では,未実現損益の消去は行わないため,税務上,2のように譲渡損益調整資産に係る譲
渡損益の繰延べを行う場合,個別財務諸表では一時差異が生じることになり,税効果会計の対象となる。すなわち,連
結納税を適用している場合の譲渡損益調整資産に係る譲渡損益の消去は,連結納税制度の中で取り扱われ,その消
去額は連結納税主体を構成する連結納税会社に帰属することになるので,このような未実現損益を調整しない個別財
務諸表において「個別財務諸表固有の一時差異」(実務対応報告その1Q1)を認識することになるものである。
一方,企業会計上の連結財務諸表においては,企業会計においても1にあるような未実現損益の消去がなされることか
ら,会計と税務が一致し,税効果会計を考慮する必要がなくなることとなる(実務対応報告その1Q5)。なお,2にもあるよ
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うに,未実現損益の調整をする対象範囲が企業会計(連結財務諸表)と税務とでは異なるため,その範囲の相違により
税効果会計を考慮する場合があることに留意する必要がある。
4 適用される税率等
わが国の会計基準においては,税効果会計の適用にあたって資産負債法を採用しており,会計上の資産負債と税務上
の資産負債の差額を一時差異として認識し,これら一時差異に税率を乗じることで繰延税金資産負債を認識するアプロ
ーチをとっている。
しかし,未実現損益の消去に係る税効果について,連結税効果実務指針では資産負債法の例外処理としている。具体
的には,未実現損益の税効果は,費用収益の対応の観点から,利益の繰延べにあわせて,これに見合う税金費用の発
生も将来に繰り延べることを意図した損益法的なアプローチを採用したものであるため,適用する税率についても,一時
差異が解消されるときに適用されるであろう税率ではなく,実際に納付を行った年度において適用された過去の税率を
将来にわたって使用していくことになる(連結税効果実務指針 13 項)。
一方,連結納税制度において譲渡損益調整資産の譲渡に係る譲渡損益を調整する場合,資産負債法の原則的な適
用によることになる。そのため,適用する税率についても,一時差異が解消されると見込まれる将来の年度に適用する税
率を用いることになるので留意が必要である。
5 回収可能性の判定
通常の連結財務諸表作成過程においては,未実現利益に関する税効果として繰延税金資産が認識され,未実現損失
に関する税効果については繰延税金負債が認識されることになる。一般的に繰延税金資産については回収可能性が
問題となるが,この場合の繰延税金資産は,売却元での課税所得の計算上,未実現利益が所得して処理されたことによ
る税負担額を前払税金として認識しているものであり,回収可能性の問題には直結しない。むしろ,未実現損益を認識
した期に十分な課税所得がなかった場合には当該未実現損益に係る税効果を認識する必要がないといった点につい
ての確認が必要となる(連結税効果実務指針 15 項)。
一方,連結納税制度を適用している場合の譲渡損益調整資産の未実現損失の税効果は,売り主側の個別財務諸表上
で繰延税金資産として認識され得るが,その計上は売り主における将来の課税所得の認識が前提となるため,回収可
能性の判定が求められる。この未実現損失に係る繰延税金資産は他の将来減算一時差異と同様に回収可能性判定を
行うことになる。この場合の回収可能性は,まず連結納税会社の個別所得見積額を基礎として検討し,回収しきれない
部分について連結納税主体全体の連結所得見積額を基礎として検討することになる。
なお,これらの企業会計上の未実現損益の消去に関する税効果と税務上の譲渡損益調整資産の譲渡損益の繰延べに
関する税効果の取扱いの相違は,図表6を参照のこと。
4 連結納税と投資価額修正
□
1 投資価額修正の概要
投資価額修正とは,連結納税主体を構成する各連結納税会社が有する他の連結納税会社の株式の帳簿価額を修正
する税務上の処理である。
連結納税制度においては,毎連結事業年度において連結納税主体全体の課税所得が計算され,当該課税所得に見
合った法人税が課せられる。その一方で,各連結納税会社が有する他の連結納税会社の株式を外部に売却するような
場合,仮に当初取得原価を基礎として計算された売却損益に対して課税をしてしまうと,これまで連結納税制度により課
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税されてきた利益積立金について二重に課税されてしまうこととなる。そのため,これを避ける意味で,当該他の連結納
税会社の株式に関する税務上の帳簿価額の修正が行われる。
投資価額修正は,ある意味では税務上の帳簿価額にあたかも会計上の持分法を適用して評価額の修正を行うような効
果があるが,その帳簿価額の修正は毎連結事業年度ごとに行うのではなく,ある連結納税会社が他の連結納税会社株
式の全部又は一部を売却したとき等となる。
2 投資価額修正に関する個別財務諸表上の税効果
個別財務諸表上,連結納税主体を構成する各連結納税会社では,子会社株式等は原則として取得原価で計上されて
いるが,上記のとおり,連結納税を採用している場合は,その子会社株式を売却する際に投資価額修正が行われる。そ
の点で,実際に税務上の投資価額修正が行われていなくても,投資価額修正に係る一時差異が潜在的に存在するとい
える。
しかしながら,一般的に子会社株式は,通常短期の売買が想定されず,長期にわたり保有し続けることが前提となって
いると考えられるので,予測可能な将来,譲渡される可能性が高い場合を除いては,この部分に係る繰延税金資産及び
負債を計上しないことが適当とされている。また,将来減算一時差異に関しては,仮に譲渡される可能性が高い場合で
あっても当該将来減算一時差異に関する繰延税金資産の回収可能性があると判断されない限り繰延税金資産は
計上されないことになるものと考えられる(実務対応報告その2Q6⑴参照)。
3 投資価額修正に関する連結財務諸表上の税効果
連結財務諸表においては,連結納税主体に含まれる各連結納税子会社の株式は連結上の簿価で評価されていると考
えられる。投資価額修正後の税務上の簿価と連結上の簿価とは,過去の利益剰余金(利益積立金)の累積額を加算し
ていくという点で考え方としては近似するが,両者の簿価が同額になるとは限らない。実務的には,投資価額修正に係る
税効果をいったん取り消した後,改めて連結税効果実務指針 29 項に掲げる子会社の投資に係る税効果の認識を行う
ことになる(実務対応報告その2Q6⑴参照)。
【図表6】 未実現利益に係る税効果
なお,その際,現行の税制では,連結納税会社間の配当金の授受は益金不算入とされているため,一時差異のうち,将
来配当送金されると見込まれる部分の金額に対しては繰延税金負債の計上は不要と考えられる。予測可能な将来に売
却する意思決定がなされた場合には当該投資に係る一時差異に対する繰延税金資産及び負債が計上されるものと考
えられる(実務対応報告その1Q10 参照)。
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【図表7】 単体及び連結申告書上の一時差異と財務諸表上(連結,個別)の税効果についての考え方整理
5 表記載例
□
【設例 1】
(1) P社(3月決算法人) は×2年4月1日開始事業年度よりP社を連結親法人として連結納税を開始することで承認を受
けている。
(2) 連結納税開始により,P社が有していた繰越欠損金 1,000 のうち,法人税部分については回収可能性ありと判断して
いる。
(3) 法人税の税率を 30%とする(事業税部分については回収可能性なしとする)。
(4) 以上により,P社は連結納税を適用する最初の事業年度の直前事業年度において 300(1,000×30%)の繰延税金
資産を計上することが可能となる。
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【設例2】
(1) 連結親法人であるP社(3月決算法人) は×3年3月 31 日終了事業年度中に連結子法人S社(3月決算法人)に対
して土地(簿価 3,000)を譲渡価格 2,000 で譲渡している。
(2) 土地は譲渡損益調整資産であるため,P社における譲渡損失 1,000 を繰り延べるとともに,当該譲渡損失の繰延べ
に係る繰延税金資産 400(1,000×40%)を認識する。
(3) 実効税率を 40%とする。
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