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公立大学法人 和歌山県立医科大学 数 字 で み る 9 56 23 研修医を引きつけてやまない病院として、熱い視線が集まる和歌山県立医科大学(通称「和医大」)。 マッチ 者数は地方大学としては断然トップ、今年度はついに全国 9 位に食い込んだ。他大学出身者が半数前後を占め、 初期研修医が後期研修医として残る割合も高い。 人気の要因は、すでによく知られている自由度の高いプロ 1˜3 グラムのほかにも多々ありそうだ。 和医大を象徴するいくつかの数字をキーに、魅力の源を探ってみよう。 次 位 名 施設 51 % ① ンタビュー 研修医イ ② ンタビュー 研修医イ 臨床も研究も極めたい。将来の姿をイメージして和医大へ 小林良平医師(1 年目研修医・京都府立医科大学卒) 志望の変更に即対応できる自由度の高いプログラムが魅力 酒谷佳世医師(2 年目研修医・島根大学卒) 和医大は、1次から3次救急まで幅広く診療する一方、大学病院として先端医療を地域に提供しています。 またアカデミックな面でもレベルが高く、研究に対する理解や支援が充実していることも和医大に研修先を 決めた大きな要因の一つです。将来的には、臨床だけでなく研究や後輩の教育もできる医師になりたいと努 力しています。学生のころから外科系に興味があり、肝胆膵ですぐれた論文を発表している消化器外科へと 考えていましたが、6 〜 8月に回った循環器科の心臓カテーテル治療のデータにも関心がわき、いま悩んでいるところ。3カ 月ごとにローテート先を検討できるので、もう少し考えて最終的な進路を定めていきたいと思っています。 5 年生の夏頃に和医大を見学。プログラムの自由度が高く幅広い選択肢が用意され、他大学出身の研修医 がたくさんいてなじみやすそうなことから、ここで研修しようと決めました。はじめは内科志望でしたが、 1 年目の 10 〜 12 月に救急を回って面白い! と感じ、救急医志望に転向。1 〜 3 月は内科救急を集中的に学 ぶために南和歌山医療センターへ。その後も外科、整形外科、循環器科など救急医療で重要な科を重点的 に回っています。最近は個々の患者さんの病態に向き合えるようになり、やりがいが増しています。和医大は自分のやり たいことを実現できる病院。ぜひ見学に来て実際に確かめてみてください。 ‖ マッチング 9 位 2 年目研修医で、3 カ所の協力病院を回ったという井 合的な診療能力と専門 悩みながらいろいろなことを吸収して成長していき 口孝司先生(和歌山県立医科大学卒)は、 「学生時 分 野、 そ し て サ ブ ス ペ たいと思います。56 人も同期がいると、将来どこか 医師臨床研修制度が始まって以来、着実にマッチ者 代から一貫して泌尿器科医を目指し、必修以外は泌 シャリティーをもつと で再びつながることがきっとあるはず。そう思うと 数が増え、ここ数年は高水準を維持している和医大。 尿器科を中心にローテートしました。内科研修に赴 強い。1 次から 3 次まで 心強い」と話す中田先生。 平成 25 年度は全国 114 施設中 9 位と、ついにトップ いた病院でも、泌尿器科志望であることを伝えると、 バランスよく経験でき、 日々切磋琢磨しながら、ときには悩みを打ち明ける。 10 入りを果たした。大都市の有名大学病院が前後 指導医が泌尿器科の手術によんでくれるなどフレキ 指導のマンパワーもあ そんな仲間の存在は生涯の財産になるはずだ。 にひしめく中、異色ともいえる和医大が、これほど シブルな対応をしてもらえて、とても感謝していま る当センターは、 『早く までに研修医を引きつける魅力とはいったい何か。 す。協力病院での研修は、地域医療の理解、現場の 一人前になりたい』と 院長の岡村吉隆先生に聞いてみた。 医師やスタッフとのつながりなど将来に生きる収穫 いう研修医の希望にしっかり応えられます」と話す。 「他大学出身が多く、自然に馴染めた」 (酒谷先生) も。とても有意義な時間であり、人間的にも成長で 指導医、3 〜 2 年目研修医が 1 年目研修医の指導に というのは、他大学出身者に共通する感想だ。和医 研修内容のよさに尽きると思います。何といっても きました」という。 当たる文字通りの屋根瓦方式。夜間も救急医、内科 大は臨床研修制度開始当初から他大学出身者の割合 自由度の高い研修プログラムが研修医を引きつけて 研修医インタビューに登場している酒谷先生も、血 医、外科医、3 年目研修医など 6 〜 7 人の診療体制 が多く、最近は毎年半数前後を占める。 いるようです。和医大のもう一つの特徴は、高度救 液内科、麻酔科、必修の救急以外は協力病院で腕を を敷き、1 〜 2 年目研修医が安心して経験が積める 卒後臨床研修センター長の上野雅巳先生は、 「日本 命救急センターを中心に、Common Disease から希 磨いている。自分のキャリアプランに沿って、さま ようサポートする。和医大での救急研修は、研修医 一の研修病院を目指す和医大がみているのは全国。 少疾患まで幅広い症例に数多く触れられること。基 ざまなタイプの病院、診療所を自由に選べるメリッ の期待を越えるものかもしれない。 どの地域、どの大学から来た研修医でも、富士山の 本的な臨床経験を積みたいという研修医のニーズに トは大きい。 「多くの方からこの質問をされるのですが、やはり 十分に応えることができます」 ‖ 1 〜 3 次救急 ‖ 研修医 56 名 ‖他大学出身率 51% 裾野のような幅広いプライマリ・ケア能力と、その 頂上のように高い専門性を兼ね備えた医師に育てる 出身地も将来の希望もさまざまな研修医 56 名が集 という私たちの気持ちは同じです。和医大出身者は、 高度救命救急センターの受け入れ患者数は年間約 う和医大。研修医はみな自分の将来を見定め、それ 指導医や看護師などのスタッフが分け隔てなく接す 修医が研修に求めるものもそれだ。和医大の研修は、 15,000 人、うち救急車受け入れ数は年間約 5,200 台、 に向かって歩んでいる。 るのを学生時代からみているので、それが当たり前 制度の理念に合致し、かつ研修医が自分の目標に向 ドクターヘリ出動回数は年間約 350 回。ドクターヘ 前出の井口先生は、泌尿器科志望者だ。 になっています」と話す。 かってのびのびと研修できる環境がそろっているの リは 1 日に 3 〜 4 回出動することもある。同センター である。 の ER には 64 列 CT 撮影室、血管造影室、手術室が たいし、できれば海外留学もしたいと思っています。 和医大が育てようとしているのは、医師として確固 ■マッチ者数推移 臨床研修制度の目的は、「プライマリ・ケアの基本 的な診療能力を身に付けること」であり、多くの研 「せっかく大学病院にいるのだから、大学院に進み 隣接。高度医療を迅速に行う環境が整う。さらに、 和医大は、前に出てやる気をみせれば何でもやらせ たる自信と誇りをもち、それでいて決して驕ること 70 翌日まで経過観察できるオーバーナイトベッド 12 てくれる。ここに骨を埋めるつもりで地域医療に貢 なく、地に足の着いた医師だ。 50 床を有する。 献したい」と語り、若いパワーで泌尿器科を盛り上 30 その一方で、一般病院の救急外来としての機能も担 げていくと誓う。 日本の医療の未来そのものであり、その可能性は無 う和医大は、ウォークインで受診する患者さんも多 1 年目研修医の中田久実子先生(和歌山県立医科大 限大です。一人一人がその能力を存分に花開かせる く、一般診療室、眼科、耳鼻咽喉科、歯科の診療室 卒)は、1 歳 2 カ月の子どものママ。研修と子育て ことができるよう、私たちも無限大のエネルギーを が整備されている。 を両立させながら、産婦人科医を目指している。 注いでいます」という上野先生。 このように、1 次から 3 次救急までの受け入れ体制 「産婦人科はハードというイメージがありました 院長の岡村先生は、 「その人の 10 年後 20 年後を見据 和医大の研修協力病院は、県内 18 施設、県外 5 施設 が万全であることは、大きな特徴の一つであり、研 が、子どもが 1 歳未満のうちは当直がないなど柔軟 え、いまのプログラムや指導体制に満足せず、より の計 23 施設に及ぶ。これらに加え、県内と沖縄の 修医が集まる大きな要因だ。 に対応してもらえるため、無理なく研修を続けられ よい研修を提供する努力を重ねていきたい」と力強 診療所が計 2 施設。いわゆる「たすき掛け方式」で 救急集中治療部の山添真志先生は、「大学病院でし ます。院内保育所は夜間保育もあり、女性が働くた く語る。 はなく、ローテート先として自由に選ぶことができ かできないことと、ふつうの大学病院ではできない めのサポートが充実しています。産婦人科はお産か 今年よりも来年、来年よりも再来年と、和医大の研 るのが特徴だ。 こと、その両方が経験できる環境は貴重。医師は総 らターミナルまでカバーする難しさはあるけれど、 修は無限大の進化を続けていく。 10 平成 15 16 17 18 ‖ 23 の協力施設 51 19 20 21 22 23 24 年 「医師としての一歩を踏み出したばかりの研修医は、 KOKUTAI 2013 6 月号 52 『 KO K U TAI 』 編集部の和 医 大 潜 入 記 研修医が活動する主なフィールドは、病院と、それに隣接する高度医療人育成センターだ。同センターは2009 高度救命救急センターでは先輩に見守られながら患者さんを診察し、ときにはドクターヘリにも搭乗する研修医。 年 12 月に完成し、その 3 階に“ 研修医の医局 ” 卒後臨床研修センターがある。2 階の臨床技能研修センター(ス 彼らが日々研鑽を重ねる場所をのぞいてみた。 キルスラボ)には、SimMan 3G などの最新のシミューレーターや da Vinchi トレーナーなどがそろい、4 階は ® ® OSCE(客観的臨床技術試験)室になっている。 この日の高度救命救急センターは比較的落ち着いており、 指 導医と研修医で患者さんの症例検討が行われていた。 救急外来では子どもを連れた母親が受診中。研修医が診療に 当たった。 眼前には和歌浦湾、 背後には桜の名所としても 有名な紀三井寺という風光明媚な立地に位置す る和医大。 和歌山県内を広くカバーするドクターヘリ。 希望すれば研修医 も搭乗可能。ヘリポートからは和歌浦湾が一望できる。 卒後臨床研修センター 上野雅巳センター長 スキルスラボに設置されているSimMan®3G。さまざ まな状況を作り出せるようになっている。 da Vinchi®トレーナーは 3Dビジョンの視野などをリ アルに再現しており、 質の高いトレーニングが可能。 1 〜 2 年目研修医の机が置いてある、 卒後臨床研修 センター。「机上には研修医の個性が出る」というの は上野先生の言葉。同じ場所で過ごすことで縦横のつ ながりが強固になり、何でも言い合える仲間ができる。 岡村吉隆病院長 「私たちには、社会に出たばか 広い心で研修医を見守る上野 りの研修医を人間的に成長さ 先 生。「 明日のことや 2 〜 3 せる責務もあります。 時間が 年後のことだけでなく、20 年 守れない者には厳しく接する 後 30 年後のことも考えて初 こともあります。 患者さんを 期研修の 2 年間を過ごしてほ 不快にさせないマナーも身に しい」と、将来を見据える大 付けてほしいですね」という 切さを語る。 医療制度は今後 院長の岡村先生。 厳しい面も 大きく変化する可能性があり、それに伴って医師を取り巻く環 あるが、胸の奥には大きな愛を秘めている。現役の心臓外科医 境も変わる。 変化に取り残されてしまう医師が出現するであろ としてメスを振るい、この日も手術と会議の合間を縫ってイン うことは、すでに指摘されていることだ。「どんな時代が来ても タビューに答えてくれた。 やっていける医師」を育てるために、エネルギーを注ぐ。 病院 DATA 和歌山県立医科大学附属病院 〒641-0012 和歌山県和歌山市紀三井寺 811-1 ▪ TEL:073-447-2300 ▪ URL:http://www.wakayama-med.ac.jp 診療科 糖尿病・内分泌代謝内科、消化器内科、呼吸器・アレルギー内科、循環器内科、血液内科、神経内科、小児 科、神経精神科、皮膚科、放射線科、心臓血管外科・呼吸器外科・乳腺外科、消化器外科・内分泌・小児外科、 脳神経外科、整形外科、リハビリテーション科、麻酔科、産科・婦人科、泌尿器科、耳鼻咽喉科・頭頸部外科、 眼科、歯科口腔外科、腎臓内科、救急・集中治療部 ▪病床数 800 床 53 マッチング情報 ▪ 2012 年度募集定員 69 名 ▪同マッチング結果 62 名