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サステナビリティコラム 米国における財務報告上の持続可能性情報開示 -Sustainability Accounting Standards Board(SASB)の動向- ㈱あらたサステナビリティ認証機構

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サステナビリティコラム 米国における財務報告上の持続可能性情報開示 -Sustainability Accounting Standards Board(SASB)の動向- ㈱あらたサステナビリティ認証機構
サステナビリティコラム
米国における財務報告上の持続可能性情報開示
-Sustainability Accounting Standards Board(SASB)の動向-
㈱あらたサステナビリティ認証機構
取締役 寺田 良二(公認会計士)
これまで持続可能性情報の開示については目立つことのなかった米国において、サンフ
ランシスコを拠点とする Sustainability Accounting Standards Board(以下、SASB)が、財
務報告上の持続可能性情報の開示に関する動きを活発化させています。
2013 年 5 月 17 日
SASBは非営利の民間団体であり、米国上場会社が米連邦証券取引委員会(SEC)に
提出を義務付けられている財務書類において持続可能性情報を開示する際の基準を設
定することを目的としています。
具体的には、開示基準を 89 のインダストリーごとに設定することによって、各インダストリ
ーに関連の強い持続可能性問題を抽出し、環境、社会およびガバナンス課題に対して
会社とその関係者が協調して行動するための基礎を提供することを目指しています。
基準の設定が予定されるインダストリーのうち、トップを切ってヘルスケア産業の基準案が
2013 年 3 月に公表されたのに続いて、5 月には金融セクターの基準案が公表され、今後、
順次、各インダストリーの案が策定公表される予定となっています。
米国での財務報告については、民間団体である Financial Accounting Standards Board
(FASB)が米国の企業会計の基準をとりまとめる機関としてSECに正式に認められてい
ますが、SASBは、非財務情報の開示に関してそれと同じポジションを目指しています。
SASBは既にSECとコミュニケーションを行い、理事会メンバーには元SEC委員も加わっ
ていることから、今後の動向が注目されています。
以下では、SASBのホームページの情報をもとに、その考え方と概要をご紹介しましょう。
1.SASBの主な特徴
(1)SASBが定める開示基準は、各企業の情報を比較可能なものとし、投資家の適正な
意思決定に資する。
(2)SASBは、規則に定められた年次報告書上の開示にフォーカスしており、国際統合
報告評議会(IIRC)やグローバルレポーティングイニシアティブ(GRI)とはアプローチが
異なるもののその目的は共通である。
(3)SASBは、インダストリーごとの基準策定を目指しており、各インダストリーの重要な課
題について最低限の基準を示す。
(4)SASBは、開示の費用対効果を高めるため、既にほかの報告に利用している情報を
添付できることを検討している。
2.SASBのアプローチ
SASBは、会社が、そのパフォーマンスと長期的な価値創造に影響を及ぼしている具体
的な持続可能性問題を説明するための簡潔で適切な基準の開発を目指し、その基準は、
Form 10-K、20F とほかの必須のSECファイリングの開示に適合するものとなります。
基準はインダストリーごとに設定され、インダストリーが直面する持続可能性問題と、会社
の戦略、ビジネス・モデルおよび商習慣との間のつながりを明らかにします。この基準に
沿って開示された情報によって、投資家は、会社の長期的な価値創造に向けた組織体
制と、価値創造能力の鍵となるリスクと機会を評価することが可能となります。
3.インダストリーの区分
SASBは、インダストリーの区分に当たって、ブルームバーグの産業分類システムを利用
した Sustainable Industry Classification System™(SICS™)を使用しており、このシステムは、
以下の3つのレベルによって構成されています。
レベル 1 – THEMATIC SECTORS(10)
標準的な分類体系へのマップであり、SICS を従来のセクターとテーマごとに見ることがで
きます。
レベル 2 – INDUSTRY WORKING GROUPS(35)
持続可能性への影響と潜在的な類似点に基づいてグルーピングされており、基準を開発
するインダストリーワーキンググループ(IWG)はこのレベルで召集されます。
レベル 3 – INDUSTRIES(89)
実際の基準はこのレベルで開発され、各会社もこのレベルで分類されます。すべての
SICS インダストリーは、少なくとも 1 つの BICS(従来のブルームバーグの分類システム)
にマップされます。
レベル 1
レベル 2
レベル 3
4.マテリアリティ
重要な持続可能性事象にフォーカスするため、SASB は、開発するすべての基準に関するマテリア
リティを明確に示す予定です。各々の基準は、そのインダストリーが強い関連を持つ持続可能性の
影響と機会の評価から導かれ、それは説明されるとともに測定と比較が可能なものとなります。
インダストリーごとのマテリアリティのプロファイルは、SASB の Materiality Map™によって作成され、
そのアプローチは、SEC のマテリアリティに関する考え方に対応するために、合理的な投資家の情
報ニーズの観点で考えられています。
この Map は、財務影響と長期的な持続可能性の考え方のバランスを考慮し、また、最小限の開示
に向け、計量モデルはインダストリーにとって最も重要な問題を優先させるように設計されています。
具体的には、「環境」、「社会資本」、「人的資本」、「ビジネス・モデルとイノベーション」および「リー
ダーシップとガバナンス」という5つのカテゴリーで分類される 43 の問題について、各々のインダスト
リーにおける重要性を分析します。この過程において、SASB は、特にビジネス・モデル、製品・サー
ビスおよびオペレーションに関連した潜在的影響を明らかにすることを重視しています。
5.基準
SASBが開発を予定している 89 のインダストリー別基準は、「インパクト」と「イノベーション」に分類
されたパフォーマンス指標とマネジメント開示によって構成されます。
これらは、各インダストリーにおいて一般的に報告されているパフォーマンスの測定とマネジメント開
示に基づきます。一般的な測定や開示が存在しないものについてはSASBが策定することになりま
すが、SASBは、インダストリーベースの基準を作ることによって報告プロセスを合理化しようと考え
ています。
SASB が考えるパフォーマンス指標に関するクライテリアは以下のとおりです。
【関連性】 重要な問題に関連したパフォーマンスあるいはパフォーマンスを代替する十分な記述で
あること
【有用性】 会社と投資家に対して意思決定に有用な情報を提供すること
【適用可能性】 KPIは当該インダストリーの大部分の会社に適用できること
【コスト効率性】 利用するデータは大部分が会社によってすでに集められているか、適時かつ低コ
ストで集められること
【比較性】 データは業種間比較を考慮すること
【完全性】 個別または組合せとしての指標は重要な問題と関連したパフォーマンスを理解するに
十分な情報を提供すること
【指向性】 KPIはパフォーマンスの向上/悪化を示す数値が増加もしくは減少したことを明確に示
すこと
【検証性】 KPI の基礎データは検証可能であること
SASBに参画するには
SASB は、サステナビリティ会計基準の開発について、企業、アナリスト、投資家、保証提供者、規
制当局、研究者、業界専門家、一般市民からのインプットとエンゲージメントを期待しています。
SASB とかかわる方法は、そのホームページにおいて示されていますのでご参考ください。
終わりに
持続可能性問題の多くは外部性を有し、強力な規制やインセンティブといったものがない
限りキャッシュフローへの影響は明確にはわかりません。そのため、過去、会社の財務報
告でこれらの情報が詳しく記述されることはほとんどなく、会社の行動に大きな影響を及
ぼすこともありませんでした。
1990 年台の後半以降、組織の社会責任にスポットを当て、その取り組みを誠実なイメー
ジに結びつけることによって自主的な CSR 報告の普及促進活動が行なわれてきました。
それは一定の成果を収めてきましたが、会社やその関係者の重要な意思決定に影響力
を及ぼすまでには至っていません。また、近年、IIRC を中心として次世代の企業報告を
模索する動きが広がりつつあるものの、その醸成にはもう少し時間がかかるものと考えら
れています。
その点、SASBの活動は、米国の規則に基づく財務報告書類への開示を標準化すること
にフォーカスされており、基準の対象が限定されている反面、スピーディーに開示を促進
させるという意味では期待できます。この組織がSECに認められることになれば、財務報
告において持続可能性に関する各会社の状況を比較可能な形で評価することが可能に
なるかもしれません。
ただ、より重要なこととして忘れてならないのは、こうした比較可能な情報をその利用者が
どのように活用し行動に反映していくかということであり、持続可能な社会を構築するため
の情報開示革命は、情報利用者の活用の仕方によってその成否が大きく左右されること
になるでしょう。
関連ページ
Sustainability Accounting Standards Board(SASB) ウェブページ
http://www.sasb.org/
株式会社あらたサステナビリティ認証機構
東京都中央区銀座8丁目21番1号住友不動産汐留浜離宮ビル(〒104-0061)
お問い合わせ: [email protected]
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