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国際税務研究会 「国際税務」 2012 年 2 月号掲載 「2012 年オランダ税制改正と日本企業への影響」

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国際税務研究会 「国際税務」 2012 年 2 月号掲載 「2012 年オランダ税制改正と日本企業への影響」
国際税務研究会 「国際税務」 2012 年 2 月号掲載
「2012 年オランダ税制改正と日本企業への影響」
プライスウォーターハウスクーパース アムステルダム事務所
シニアマネージャー アルノ・フルヌワウト
マネージャー 白土 晴久
1 2012 年オランダ税制改正の概要
2011 年9月 15 日,オランダ政府は,2012 年の税制改正案を発表しています。この税制改正案では,オランダ政府のよ
り簡素,堅実かつ魅力ある税制を実現するためのものとなっています。全体として 2012 年税制改正は,既存の税制の濫
用の防止及び税制優遇措置を含んだ内容となっています。改正の主な内容としては,オランダ法人税における連結納
税グループ内での買収資金調達のための借入金から生じる支払利息の損金算入制限,源泉所得税を回避するための
Cooperative(COOP)を使用するストラクチャーに対する配当課税,オランダ国外の恒久的施設に関する欠損金の使用
制限に関する追加的な控除及び外国人駐在員に関する 30%ルーリングの改正等が上げられます。
2011 年初め,オランダ政府は,2011 年税制改正により 25.5%から 25%へ引き下げられた法人税率の 24%への追加的
な引き下げを検討していましたが,この法人税率の引き下げは,当時から現在に及ぶ税収への懸念のため見送られまし
た。従って,法人税率の引き下げとともに検討されていた,出資持分の取得に伴う銀行などの第三者への支払利息に対
する包括的な損金算入制限措置の導入も同時に見送られています。現行のオランダ法人税法において,出資持分の取
得に関連する借入金の利息の損金算入制限は,オランダ法人税法第 10 条 a において規定されていますが,当該規定
は関係会社借入に限定されておりました。こうした包括的な利息の損金算入制限は上記の法人税引き下げに伴う税収
の低下を補うためにあわせて検討されるべきものでしたが,将来,税率の引き下げとともに検討される可能性は依然とし
て考えられます。こうした改正は,日本企業の持株会社やグループ内金融会社が多く存在するオランダにおいて,大き
な影響を及ぼす可能性があるため,今後もオランダの税制改正については注視し続ける必要があると考えます。
2012 年の税制改正案の承認手続きはオランダ議会の下院,上院の承認を経て,通常 2011 年末までに完了します。
2012 年税制改正案の殆どは,2012 年1月1日より適用となっています。
また,新日蘭租税条約に関しては 2011 年4月 15 日の日本の国会における承認の後,2011 年 11 月 15 日にオランダ
議会上院で新日蘭租税条約が承認され,その後の交換公文の手続きの完了を経て,2011 年 12 月 29 日に発行となり
ます。これにより,2012 年1月以降,源泉税等,順次新条約の規定が適用されることとなります。本稿においては,新日
蘭租税条約の導入を踏まえ,2012 年の税制改正の重要事項を日本企業への影響とともに解説します。
(本稿は 2011 年 11 月 30 日時点の情報に基づき作成されています。 1)
1
2011 年 12 月 20 日に本稿の内容から大きな変更なくオランダ議会上院の承認を受けています。
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2 2012 税制改正のオランダ法人を使用したストラクチャーへの影響
2‐a オランダ連結納税における支払利息の損金算入制限(法人税)
オランダ政府は,オランダ持株会社がオランダ法人を買収し,その後,そのオランダ法人がオランダ法人税の連結納税
グループに加入した場合の,買収資金調達のための借入金等から生ずる支払利息等の損金算入制限を設けています。
なお,オランダ法人税における連結納税グループは,95%以上の株式の保有が認められる親子会社間で申請により適
用可能な制度です。この損金算入制限は,買収資金調達のための借入金から生じた支払利息を,買収した法人が営む
事業から生じる所得と相殺すること(いわゆる連結納税を利用したデットプッシュダウン)を制限することを意図したもので
す。この支払利息の損金算入制限は,オランダ法人の買収資金調達のための借入金等であり,支払利息,借入に付随
する必要,為替差損益もその制限対象に含めています。ここでの借入金等は,関係会社からの借入金等のみならず,銀
行からの借入のような第三者からの借入金等も含みます。従って,オランダ法人税法上,関係会社借入のみに係る支払
利息の損金算入制限を規定した,オランダ法人税法第 10 条 a 及び第 10 条 d(過少資本税制)に追加する形での新た
な規制の導入となっています。
原則として,オランダの連結納税下では,連結納税に加入している異なる法人の損益を互いに相殺することが可能です。
しかしながら,この税制改正により買収をした親法人により計上される支払利息等(買収資金の調達に係る借入金等に
限る)と,買収した子法人で生じた所得との相殺は一定の制限が生じます。一方,こうした支払利息等は,買収を行った
親法人の所得及び既に連結納税グループに加入している他の法人の所得と相殺することが可能となります。従って,こ
うした親法人等の所得計算の方法についても別途,定められ,関係会社間取引により親法人の課税所得を増加させるこ
とには制限が課されます。
【図 2(a)-1】
1.改正前
2.改正後
連結納税
グループ
連結納税
グループ
買収法人
(オランダ)
借入
買収法人
(オランダ)
支払利息
支払利息
買収
買収
被買収法人
(オランダ)
課税所得
借入
相殺
可
被買収法人
(オランダ)
相殺
制限
課税所得
一方でこの損金算入制限においては,金額の制限が設けられており,買収資金の調達のための借入金等から生じる支
払利息等が年間百万ユーロ以下である場合(複数の買収を行っている場合は,各買収に関連する借入金等の総額,但
し,連結納税に加入するオランダ法人の買収に限る),この規制の適用は受けません。さらに,この規制は,借入金等が
過大であると認められる場合のみ適用を受けます。すなわち,買収価額の 60%を超過する借入を行う場合,過大である
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と取り扱われます。そして,この割合は,毎年5%ずつ低下していき,最終的には 25%まで低減します。これは,一定程
度の借入は認めるもののその後の返済を要求する趣旨で導入されるものです。この点について,当初の改正案では税
務上の貸借対照表に基づく連結納税グループ全体での負債資本比率が2:1を超えない場合は,この規定の適用がな
いとされていましたが,借入超過の判定の導入より負債資本比率の判定は,導入されないこととされています。
なお,この損金算入規制により損金に算入されなかった支払利息は,その損金算入が次年度以降に繰り越されます。
上記のように,この損金不算入制度は企業買収を想定したものとなっており,現状のヨーロッパ経済に対する強い懸念
はあるものの,円高を背景に日本企業の M&A によるヨーロッパにおける一定の投資は継続すると考えられます。しかし
ながら,この新たな制度は,オランダ法人が別の一定の事業を有するオランダ法人を買収したときのみ適用されることを
考慮するとその影響は限定的と考えます。なお,グループ内の再編においてもグループ内のオランダ法人の取得を借
入金等で資金手当てした場合,同様の問題が生じえる点注意が必要と考えます。また,この新制度は,2011 年 11 月
15 日前に買収を実施し連結納税に加入した子法人には適用はありません。
2‐b COOP に対する配当課税(配当源泉税)
Cooperative(COOP)とは,オランダにおける BV(Besloten Vennootschap),NB(Naamloze Vennotschap)などとともにオ
ランダ会社法における一つの法人形態です。法的性質としては,最低二人の組合員(法人も可)が必要となる点や定款
の内容など法人組織に柔軟性があるなど多々ありますが,近年は BV とともに多国籍企業において頻繁に用いられてい
る会社形態です。その理由の一つとして,一定の条件を充足する COOP に対してオランダ税法において配当源泉税が
課されないことがあげられます。従って,一義的には EU 指令や租税条約により配当源泉税が免除されない国又は地域
からオランダに投資を行う際に COOP が用いられてきた経緯があります。
こうした源泉税回避があった背景から,オランダ政府は,2012 年の税制改正において,一定の条件下において,COOP
にオランダ配当源泉税の源泉徴収義務を課すこととしました。この制度は,既に利益が累積しているオランダ法人の利
益配当についてオランダにおける配当源泉税を回避することを主な目的として COOP がオランダ法人の株式を保有す
る場合に適用となります。ただし,この制度は,COOP の組合員としての地位が,組合員の事業の一部を構成する場合
には適用ありません。例えば,組合員の事業と COOP を通じた投資先の事業に一定の関連性が認められる等一定の条
件を充足する場合です。この点に関しては,各配当ごとに継続的に適用の有無を確認する必要があります。
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【図 2b-1】
1.COOPを使用しない場合
P社
(日本)
BV
(オランダ)
2.COOPを中間に設立する
場合(改正前)
P社
(日本)
P社
(日本)
利益配当
利益配当
源泉税
源泉税
累積利益
COOP
(オランダ)
BV
(オランダ)
3.COOPを中間に設立する
場合(改正後)
利益配当
源泉税
課税
COOP
(オランダ)
利益配当
利益配当
源泉税
源泉税
累積利益
BV
(オランダ)
累積利益
しかしながら,COOP の組合員としての地位が,組合員の事業の一部を構成する場合でも,既に存在する資本関係の
中間に割り込む形で COOP を設置するようなケースについては,この制度の適用により配当源泉税が課されます。一方,
COOP 以下の法人も新設されるようなストラクチャー,すなわち COOP によって保有されるオランダの法人において過去
の利益が蓄積されていない場合,既にオランダ法人からの配当に対して源泉税が課されない株主から COOP が株式の
譲渡を受ける場合や COOP も含めたストラクチャーが事業上の観点から十分な合理性を有する場合においては,改正
による変更は原則としてないとされ引き続き COOP において配当源泉税は課されないと考えられます。
旧日蘭租税条約下では,オランダでの配当源泉税の免除は認めておらず,持株要件などの一定の条件を充足する場
合でも,最低5%の配当源泉税がオランダで課されてきました(オランダ国内法の配当源泉税率は 15%)。こうした背景
から,日本企業にとって,COOP を用いたストラクチャーは,オランダ配当源泉税の負担を軽減することを可能にしてきま
した。しかしながら,冒頭で触れた新日蘭租税条約下では,日本居住者である法人株主が,配当前
の6ヶ月間,オランダ法人の 50%以上の議決権株式を有している場合で,かつ,新条約第 21 条における特典条項を充
足する場合,オランダの配当源泉税が免除されます。従って,上記の COOP に対する配当源泉税の課税強化の動きが
ある一方で,一般的には,今後日本企業にとって COOP を用いるストラクチャーは以前ほど有効ではなくなると考えてい
ます。
しかしながら,今後も依然として一定の場合において COOP を用いるストラクチャーの有効性は存在すると考えられます。
例えば,日本からオランダ法人への出資割合が 50%未満でオランダの配当源泉税が免除されないケースです。この場
合,依然として COOP を用いることによりオランダにおける税負担の軽減を図ることが可能となります。参考までに同様の
効果は,日本の法人株主の 100%子会社である BV をオランダで設立し,BV からオランダ法人へ少数株主として出資
するような場合でも見られますが,会社数が多数になることから会社の維持管理コストが比較的割高になると考えられま
す。なお,こうした COOP への少数株主としての出資は,日本の法人税における外国子会社配当益金不算入制度にお
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ける 25%の持株要件が新条約下では日米租税条約や日豪租税条約と同様に 10%に引き下げられている点からも,実
行可能性が存在すると考えられます。
【図 2b-2】
2.COOPを使用する場合
1.COOPを使用しない場合
株主1
(日本)
30%
株主2
(日本)
30%
株主3
(日本)
株主1
(日本)
40%
30%
利益配当
株主2
(日本)
30%
株主3
(日本)
利益配当
源泉税
BV
(オランダ)
COOP
(オランダ)
40%
源泉税
免除
従って,2012 年の税制改正により COOP によるオランダ源泉税の回避につき一定の歯止めがなされているものの,引き
続きオランダで COOP を用いられる可能性は存在すると考えられます。
3 オランダ国外に恒久的施設(PE)を有するストラクチャーへの影響(法人税)
これまでは,オランダ国外に支店のような恒久的施設(以下,PE)を有する場合,その PE において損失を認識した場合,
オランダ国内で生じた課税所得と相殺することが認められていました。一方,過去,このようにオランダ国外における損失
をオランダ国内の課税所得と相殺していない場合(すなわち,オランダ法人税上,損失と取り扱っていない場合)では,
オランダ国外の PE で生じた所得は,オランダ法人税の課税が免除されていました(一定の為替差損益を除く)。すなわ
ち,日本法人税においては在外支店の所得に対しては,一度課税所得に算入したうえで日本の法人税を課し,日本国
外で課された税金を控除する外国控除方式をとっているのに対して,オランダにおいては国外所得免除方式をとってい
ると言えます。一方,上述のとおりオランダ国外の PE で生じた損失をオランダ国内の所得と過去相殺していた場合でそ
の後オランダ国外の PE で所得が生じた際は,その所得は過去相殺した損失の金額を上限として,オランダの法人税が
課されることとなります(“リキャプチャールール”)。
こうした制度を背景に,2012 年の税制改正では,オランダ国外の PE に対する免税措置に関して改正がなされています。
これにより,オランダ国外の PE から生じた損失については今後,オランダ国内で生じた所得と相殺することは認められ
なくなりました。一方,オランダ国外の PE から生じた所得については,引き続き免税となります。改正案では,オランダ国
外から生じた所得は,現行どおり,まず納税者の全世界所得に含まれ,一旦税額計算等を行い,最後に PE から生じた
所得は,全世界所得から除かれます(この順序により若干,20%及び 25%の法人税の段階税率の適用が異なってきま
す)。
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【図 3-1】
1.PE利益(改正で変更無)
2.PE損失(改正前)
BV
(オランダ)
BV
(オランダ)
課税所得
相殺
可能
課税所得
PE
PE
免税
3.リキャプチャー(改正前)
損失
4.PE損失(改正後)
BV
(オランダ)
BV
(オランダ)
課税所得
相殺
制限
課税所得
PE
PE
課税
損失
※PE損失後の課税所得
オランダ国外の PE に対する課税免除は,オランダ税法上,いわゆる外国ポートフォリオ投資会社と認定された場合には
適用がありません。その結果,オランダ国外の PE で生じた所得はオランダ法人税が課され,一定の条件を充足の上,オ
ランダ国外で課された(又は課されたとみなさた)税金に関しては,外国税額控除が認められます。
上記のとおり,オランダ国外の PE で生じた損失はオランダ国内の課税所得と相殺できないこととなりますが,例外として,
PE からの最終的な損失と認められる場合は相殺が認められます。すなわち,恒久的にオランダ国外の PE の事業活動
が終了する場合や PE における事業を第三者に譲渡する場合に生じる損失は相殺が認められます。後者の PE におけ
る事業を第三者に譲渡する場合に関しては,その第三者が譲渡により生じた損失を引き継がず,将来の利益と相殺でき
ないということが追加の条件とされています。
また,こうした改正とともに,一定の租税回避防止策は今後不要と考えられるため改正又は廃止されます。例えば,資本
参加免税の適用を制限しているオランダ法人税法第 13 条 c があります。これは,オランダ国外の PE で生じた損失をオ
ランダ国内の所得と相殺後,オランダ国外の PE をオランダ国外の子会社とし,その子会社の事業から生じた利益の配
当は資本参加免税の適用を受け,リキャプチャールールの適用を回避するという租税回避行為を防止するための規定
です。こうした規制は,原則としてオランダ国外の PE から生じた損失がオランダ国内の課税所得と相殺不可となり,今後
必要なくなると考えられ廃止されます。
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この改正に関し,日本企業が保有するオランダ子会社がオランダ国外に PE を有するケースとして,欧州単一法人ストラ
クチャーを採用している場合,PE となるようなオランダ国外の資産(一定の船舶等)を保有している場合,オランダ法人を
通じてオランダ国外の天然資源の探鉱や開発活動を行っている場合などが近年ですとみられます。しかしながら,こうし
た場合,この改正の影響は限定的と考えられます。すなわち,オランダ法人を核とした欧州単一法人ストラクチャーを採
用している場合,オランダ法人が有するヨーロッパ各地に展開される各支店は限定的な機能とリスクのもとで活動するた
め,移転価格の観点から多額の損失を計上することは通常ないと考えられ,一定の資産や資源開発に従事するオラン
ダ法人の場合,オランダ国内の事業内容は限定的であり,オランダ国外の PE で生じる可能性がある多額の損失と相殺
するに足るオランダ国内の所得を獲得するのは稀なためです。従って,例外的なケースはあると思われますが一般的に
は,今回の改正が今後の日本企業のオランダを通じた海外での事業活動を阻害するとは考えにくいと思われます。
4 30%ルーリングに関する改正(個人所得税)
一般にある国の労働者が,別の国に出向し勤務するような場合,その労働者を海外駐在員(“エクスパット”)と呼ばれま
す。オランダでは従来より,オランダの労働市場では見出し難い特異な技能又は能力を有する労働者を積極的に受け
入れ,支援していくために給与所得のうち 30%を非課税にするといういわゆる 30%ルーリングを導入しており,日本企
業を初め多くの多国籍企業のオランダ駐在員がその恩典を受け,労働者又は雇用者の税負担を軽減しています(雇用
者が実質的にオランダ個人所得税の負担を約束している場合,30%ルーリングの恩恵は雇用者である企業が受けること
となります)。
こうした 30%ルーリングの適用に関し,2012 年の税制改正において複数の改正が盛り込まれていますが,本稿ではそ
のうち日本企業にとって重要な点として,「特別な技能を有すること」という 30%ルーリングの適用条件の一つに関する
改正を中心に解説していきます。
「特別な技能を有すること」の要件は,30%ルーリングの適用における最も重要な要件となっており,実務上オランダ駐
在員の職位,職務内容,賃金,学歴,職歴などを勘案して判定されていましたが,この要件を客観的かつ明確な給与基
準額に基づき判定することとしました。この改正に基づき,毎年更新される後述の給与指標をあてはめると 2011 年では
約 50,000 ユーロの一年間の給与金額が基準となります。
すなわち,従来,「特別技能を有すること」の要件とは,一義的にはオランダの労働市場では見出し難い技能を有するこ
ととされていますが,こうした曖昧な条件下ではその充足は比較的容易とされていました。こうした事態は,30%ルーリン
グの制度趣旨からして望ましいものではないとし,この要件を給与基準と明確に関連付けることとしました。この給与基準
額は,就労ビザを取得する上での区分である知的労働者(いわゆる”Knowledge Migrant”)に要求される最低給与額と
同額とされており,毎年更新されます。この給与基準額を充足する労働者の場合,「特別な技能を有すること」の要件を
充足するとみなされます。
この給与金額に関して,2011 年9月に改正案が発表された当初,30%ルーリングの非課税枠を除いた金額で判定する
ことが検討されていました。例えば,仮に給与基準額を 50,000 ユーロとすると,30%ルーリングの非課税枠を考慮すると
71,428 ユーロ(50,000 ユーロ/ 70%)の非課税枠を含んだ給与総額がこの基準を充足するために必要となります(30%
の非課税枠をフルに活用する場合を想定)。しかしながらこうした当初案は,30%ルーリングの適用範囲を大幅に狭める
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ものになり,駐在員を受け入れている企業等からの反対を受け,現在は,30 歳以上の労働者を対象とした一般的な給
与課税基準額は,2011 年の場合,約 35,000 ユーロ(30%ルーリングにおける非課税枠を含めると約 50,000 ユーロ)とさ
れています。なお,30 歳未満の労働者,研究者等には,別途基準が別途設けられています。
日本企業における海外駐在員の場合,諸手当等を含めると当初基準の約 70,000 ユーロも充足するケースが多々あると
考えられますが,比較的若手の駐在員に関しては,30%ルーリングの適用対象外となる懸念がありました。適用対象外
となる場合,雇用者が税引後の給与を保証している場合,30%ルーリングの適用を受けられないことは雇用者における
人件費の増加を意味することとなります。このような懸念は,改正案の修正(給与基準額の引き下げ)の結果,解決され
たものの,代わりに 30%ルーリングの適用期間を現行の 10 年から8年に短縮する改正が含まれています。
最近,日本企業からの日本人駐在員の多くの方では,駐在期間は3年から5年となることが見られこの改正の影響を直
接受けるとは考えにくいといえますが,2度目のオランダの赴任のケースでは,30%ルーリングの適用は,過去 25 年間
の滞在履歴を考慮に入れて合計して上限8年となります。過去の赴任期間と合計して赴任期間が8年を超過してしまい,
30%ルーリングの適用を受けられないケースも生じることが懸念されます。なお,上記の過去 25 年間の滞在履歴を考慮
するという点に関しても,2012 年の税制改正により従来の 10 年又は 15 年から伸長されています。
なお,上記改正は,2012 年1月1日から適用となりますが,既に 30%ルーリングの適用が認められた駐在員に関しては,
経過措置により,少なくともオランダ滞在最初の5年間(60 ヶ月)は今回の改正に係りなく引き続き 30%ルーリングの適用
が認められます。
以上
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