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支配関係・完全支配関係の 定義と判定 組織再編税制の新しい考え方 特集1

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支配関係・完全支配関係の 定義と判定 組織再編税制の新しい考え方 特集1
特集1
組織再編税制の新しい考え方
特集1 組織再編税制の新しい考え方
支配関係・完全支配関係の
定義と判定
税理士法人プライスウォーターハウスクーパース
トランザクション/M&A部
シニアマネージャー
公認会計士・税理士
高野公人
グループ法人税制が導入された平成22年度税制改正において
は,法人税法上に「支配関係」及び「完全支配関係」の定義が置
かれることとなり,税務上の企業グループの概念がより明確化さ
れた。これらの定義規定の新設は,基本的には従前からの取扱い
の変更を意図するものではないと考えられる。ただし,100%
のグループ内組織再編の適格性の判定については,「完全支配関
係」の定義の新設によって従前の取扱いに若干の変更が加えられ
る結果となったため,この点には特に留意が必要である。
1 組織再編における支配関係・
完全支配関係
平成22年度税制改正においては,グルー
プ法人税制の導入を機に,法人税法上,新
を受けて「連結完全支配関係」の規定にも
改正が加えられているが,その実質的な内
容は従来と変わりはない。
2 支配関係
たに「支配関係」及び「完全支配関係」の
定義が置かれることとなった。この「支配
関係」
,
「完全支配関係」の定義は,組織再
編における適格性の判定等においても関係
することとなるため,特に企業グループ内
1 当事者間の支配の関係
⑴ 定 義
「支配関係」には,大きく分けて「当事
で組織再編行為を行おうとする場合には,
者間の支配の関係」と「一の者との間に当
その実行の前にこれらの定義を今一度正確
事者間の支配の関係がある法人相互の関
に確認しておくことが重要である。
係」の2類型があるが,「当事者間の支配
そこで,本稿では,改正後における条文
の関係」とは,一の者が法人の発行済株式
上の規定の仕方を再確認するとともに,ど
等の総数又は総額の50%を超える数又は金
のような法人同士の関係が法人税法上の
額の株式又は出資を保有する場合における
「支配関係」あるいは「完全支配関係」に
当該一の者と法人との間の関係(以下「直
該当するか,事例を踏まえながら解説する
接支配関係」という。)をいうものとされ
こととしたい。
ている(法法2十二の七の五,法令4の2
なお,法人税法に「支配関係」及び「完
①前段)。この場合において,以下のよう
全支配関係」の定義規定が設けられたこと
なときには,当該一の者は当該他の法人の
10 税務弘報 2010. 8
●支配関係・完全支配関係の定義と判定
発行済株式等の総数又は総額の50%を超え
かれる(法法2十二の七の五)。なお,発
る数又は金額の株式又は出資を保有するも
行済株式には,普通株式だけでなく,無議
のとみなすこととされている(法令4の2
決株式や優先株式等の種類株式も含まれ
①後段)
。
る。したがって,議決権ベースの判定とは
イ 当該一の者及びこれとの間に直接支配
なるものではないことに留意が必要である。
関係がある一若しくは二以上の法人が他
の法人の発行済株式等の総数又は総額の
⑵ 事例による判定
50%を超える数又は金額の株式又は出資
① 一の者による直接支配関係
を保有するとき
上記のとおり,一の者が法人の発行済株
ロ 当該一の者との間に直接支配関係があ
式等の総数又は総額の50%を超える数又は
る一若しくは二以上の法人が他の法人の
金額の株式又は出資を保有する場合におけ
発行済株式等の総数又は総額の50%を超
る当該一の者と法人との間の関係がある場
える数又は金額の株式又は出資を保有す
合には,当事者間の支配の関係があるとさ
るとき
れる。
なお,上記における「一の者」と「発行
したがって,S1社がP社によって発行
済株式等」については,それぞれ以下のと
済株式等の50%超を保有されている下記の
おりに取り扱われる。
ような資本関係にある場合には,P社(一
① 一の者
の者)とS1社(法人)との間には「支配
「一の者」には,内国法人だけでなく,
外国法人や個人も含まれる。なお,
「一の者」
が個人である場合には,その者及びこれと
特殊の関係のある以下の個人(法令4①)
関係」があることとなる。
P社
他の株主
(一の者)
が含まれる。
ロ その者と婚姻の届出をしていないが事
実上婚姻関係と同様の事情にある者
関係
支配
イ その者の親族
50%超
ハ その者の使用人
ニ イ〜ハに掲げる者以外の者でその者か
ら受ける金銭その他の資産によって生計
を維持しているもの
S1社
(法人)
ホ ロ〜ハに掲げる者と生計を一にするこ
れらの者の親族
② 発行済株式等
「支配関係」の定義における「発行済株
② 一の者及びこれとの間に直接支配関係が
ある法人による支配関係
直接支配関係の判定にあたっては,当該
式等」とされる発行済株式及び出資には,
一の者及びこれとの間に直接支配関係があ
当該法人が有する自己の株式又は出資は除
る一若しくは二以上の法人が他の法人の発
税務弘報 2010. 8  11
特集1 組織再編税制の新しい考え方
行済株式等の総数又は総額の50%を超える
されている。
数又は金額の株式又は出資を保有するとき
したがって,S2社がP社と直接支配関
は,当該一の者は当該他の法人の発行済株
係にあるS1社によって発行済株式等の50
式等の総数又は総額の50%を超える数又は
%超を保有されている下記のような資本関
金額の株式又は出資を保有するものとみな
係にある場合,すなわち,P社がS2社を
すこととされている。
間接に50%超保有している場合にも,P社
したがって,S2社がP社及びP社と直
(一の者)はS2社(他の法人)を直接に50
接支配関係にあるS1社によって発行済株
%超保有するものとみなされ,P社とS2
式等の50%超を保有されている下記のよう
社との間には,みなし直接支配関係として
な資本関係にある場合,すなわち,P社が
の「支配関係」があることとされる。
S2社を直接・間接に50%超保有している
場合には,P社(一の者)はS2社(他の
P社
50%超
関係
支配
法人)を直接に50%超保有するものとみな
され,P社とS2社との間には「支配関係」
があることとされる(本稿では,このよう
S1社
(法人)
他の株主
50%超
な「みなし」による「支配関係」を,以下,
便宜的に「みなし直接支配関係」という。)。
P社
他の株主
(一の者)
S2社
(他の法人)
他の株主
(一の者)
50%超
関係
支配
30%
④ みなし直接支配関係の連鎖による支配関
S1社
(法人)
他の株主
40%
S2社
(他の法人)
係
上記②及び③においては,P社(一の者)
とS2社(他の法人)との関係はみなし直
接支配関係による支配関係があることとさ
れるが,このみなし直接支配関係はいわゆ
る曾孫会社レベル以下の法人についても連
③ 一の者との間に直接支配関係がある法人
鎖して判定が行われることとなる。すなわ
による支配関係
ち,いわゆる間接保有のケースである上記
直接支配関係の判定にあたっては,当該
②及び③のいずれの場合においても,P社
一の者との間に直接支配関係がある一若し
とS2社との間にはみなし直接支配関係が
くは二以上の法人が他の法人の発行済株式
あるとされるため,仮にS2社によって発
等の総数又は総額の50%を超える数又は金
行済株式等の50%超を保有されているS3
額の株式又は出資を保有するときも,当該
社がある場合には,P社(一の者)とS3
一の者は当該他の法人の発行済株式等の総
社(他の法人)との間についても,みなし
数又は総額の50%を超える数又は金額の株
直接支配関係としての「支配関係」がある
式又は出資を保有するものとみなすことと
こととなる。
12 税務弘報 2010. 8
●支配関係・完全支配関係の定義と判定
P社
他の株主
(一の者)
P社
他の株主
(一の者)
50%超
50%超
S1社
30%
他の株主
40%
S2社
(みなされた法人)
S1社
50%超
S3社
(他の法人)
2 一の者との間に当事者間の支配の
関係がある法人相互の関係
50%超
S2社
他の株主
他の株主
(法人)
支配関係
支配関係
(法人)
他の株主
(みなされた法人)
50%超
S3社
(他の法人)
間には「支配関係」があることとされる。
他の株主
P社
(一の者)
他の株主
⑴ 定 義
上記の「当事者間の支配の関係」に加え
て,
「一の者との間に当事者間の支配の関
50%超 50%超
係がある法人相互の関係」も「支配関係」
の類型の一つとされる(法法2十二の七の
S1社
(法人)
五)
。すなわち,この類型においては判定
対象となる法人同士においては50%超の株
式保有関係にはないが,それぞれの法人が
ある共通の一の者との間に当事者間の支配
の関係がある場合には,当該法人同士もま
た支配関係にあるとされる。
支配関係
S2社
(法人)
3 「支配関係」の定義と組織再編関連
規定
⑴ 組織再編における適格性の判定
組織再編における適格性の判定において
は,組織再編行為を行おうとする法人同士
⑵ 事例による判定
の資本関係の結びつきの度合いによって充
上記のとおり,一の者との間に当事者間
足しなければならない適格要件の範囲が異
の支配の関係がある法人相互の関係は,
「支
なることとなっているが,この資本関係の
配関係」であるとされる。
結びつきの度合いについては,従来より,
したがって,S1社とS2社がいずれもP
①100%のグループ内組織再編,②50%超
社によって発行済株式等の50%超を保有さ
100%未満のグループ内組織再編,③共同
れている下記のような資本関係にある場合
事業を行うための組織再編,と大きく3つ
には,S1社(法人)とS2社(法人)との
に区分され,それぞれの区分ごとに適格要
税務弘報 2010. 8  13
特集1 組織再編税制の新しい考え方
件の充足の判定が行われるという仕組みが
して取り扱われるかどうかの判定に係る被
とられている。
合併法人と合併法人の関係(当事者間の支
したがって,従業員引継要件や事業継続
配の関係がある場合)についての新旧の条
要件等の具体的な適格要件の充足を検討す
文規定(括弧内省略,下線筆者)を以下に
る前に,まずは当該組織再編行為がグルー
引用しておく。
プ内組織再編であるかどうか,グループ内
① 改正前の規定(旧法令4の2③一)
組織再編である場合には,100%のグルー
「合併に係る被合併法人と合併法人との
プ内組織再編であるか,あるいは50%超
間にいずれか一方の法人が他方の法人の発
100%未満のグループ内組織再編であるか
行済株式等の総数の百分の五十を超える数
どうかを判定する必要がある。上記のとお
の株式を直接又は間接に保有する関係があ
り,
平成22年度税制改正おいて「支配関係」
る場合における当該関係」
の定義が法人税法に規定されたことによっ
② 改正後の規定(法令4の3③一)
て,グループ内組織再編であるかどうかの
「合併に係る被合併法人と合併法人との
判定に関する条文の構造が変わっているた
間にいずれか一方の法人による支配関係が
め,これらの定義の正確な確認が必要とな
ある場合における当該支配関係」
る。この点,改正前と改正後でその実質的
な内容について変更はないものと考えられ
⑵ 組織再編における繰越欠損金等の制限
るため,この改正が組織再編行為の税務上
措置
の取扱いに与える実質的なインパクトはな
適格合併が行われた場合,原則として,
被合併法人の繰越欠損金は合併法人に引き
いものと考えられる。
本稿では,誌面の都合上,それぞれの組
継がれることとなるが(法法57②),グル
織再編行為についての関係条文番号(法,
ープ内の合併の場合には,繰越欠損金を不
施行令)を紹介するのみとしたが(図表1
当に利用することを防止する観点から,繰
参照)
,一例として,適格合併の判定にお
越欠損金の引継ぎに関する制限措置が設け
いて50%超100%未満のグループ内合併と
られている(法法57③)。この繰越欠損金
【図表1】支配関係のある法人間の適格組織再編成に係る条文
適格組織再編成の種類
法人税法
法人税法施行令
適格合併
法法2十二の八ロ
法令4の3③一(当事者間の支配関係)
法令4の3③二(同一の者による支配関係)
適格分割
法法2十二の十一ロ
法令4の3⑦一(当事者間の支配関係)
法令4の3⑦二(同一の者による支配関係)
適格現物出資
法法2十二の十四ロ
法令4の3⑪一(当事者間の支配関係)
法令4の3⑪二(同一の者による支配関係)
適格株式交換
法法2十二の十六ロ
法令4の3⑮一(当事者間の支配関係)
法令4の3⑮二(同一の者による支配関係)
適格株式移転
法法2十二の十七ロ
法令4の3⑲一(当事者間の支配関係)
法令4の3⑲二(同一の者による支配関係)
14 税務弘報 2010. 8
●支配関係・完全支配関係の定義と判定
の引継制限規定において,従前は50%超の
②前段)。この場合において,以下のよう
資本関係(詳細は旧法令112④参照)を条
なときには,当該一の者は当該他の法人の
文上表現するために「特定資本関係」とい
発行済株式等の全部を保有するものとみな
う用語が用いられていたが,平成22年度税
すこととされている。
制改正おいて「支配関係」の定義が法人税
イ 当該一の者及びこれとの間に直接完全
法に規定されたことによって,「特定資本
支配関係がある一若しくは二以上の法人
関係」と表現されていた部分は「支配関係」
が他の法人の発行済株式等の全部を保有
に置き換えられている。合併法人側の繰越
するとき
欠損金の使用に関する制限措置(法法57④,
ロ 当該一の者との間に直接完全支配関係
旧法法57⑤)
,特定資産に係る譲渡等損失
がある一若しくは二以上の法人が他の法
額の損金不算入規定(法法62の7)におい
人の発行済株式等の全部を保有するとき
ても同様の改正が行われているが,「特定
なお,上記における「一の者」と「発行
資本関係」が「支配関係」に置き換えられ
済株式等」については,それぞれ以下のと
たことそれ自体の改正が直接的に組織再編
おりに取り扱われる。
行為の税務上の取扱いにインパクトを与え
① 一の者
ることはないものと考えられる(ただし,
「完全支配関係」定義における「一の者」
支配関係が設立日から継続してある場合や
の定義は,上記の「支配関係」の定義にお
支配関係が複数ある場合の制限措置の除外
ける「一の者」の定義と同じである。すな
規定が別途講じられているので注意された
わち「一の者」には,内国法人だけでなく,
い。
)
。
外国法人や個人も含まれ,「一の者」が個
3 完全支配関係
人である場合には,その者及びこれと特殊
の関係のある個人(法令4①)が含まれる。
② 発行済株式等
1 当事者間の完全支配の関係
⑴ 定 義
「完全支配関係」の定義における「発行
済株式等」には,普通株式だけでなく,無
議決株式や優先株式等の種類株式も含ま
「支配関係」の場合と同様,
「完全支配
れ,当該法人が有する自己の株式又は出資
関係」には,大きく分けて「当事者間の完
は除かれる点は「支配関係」の定義におけ
全支配の関係」と「一の者との間に当事者
るそれと同様である。ただし,「完全支配
間の完全支配の関係がある法人相互の関
関係」の定義における「発行済株式等」に
係」の2類型があるが,「当事者間の完全
は,従業員持株会の所有株式及び役員又は
支配の関係」とは,一の者が法人の発行済
使用人のストックオプションによる所有株
株式等の全部を保有する場合における当該
式の合計が自己株式を除いた発行済株式等
一の者と法人との間の関係(以下「直接完
の5%未満である場合におけるそれらの株
全支配関係」という。)をいうものとされ
式が除かれる(法令4の2②)。
ている(法法2十二の七の六,法令4の2
税務弘報 2010. 8  15
特集1 組織再編税制の新しい考え方
⑵ 事例による判定
がS2社を直接・間接に100%保有している
① 一の者による直接完全支配関係
場合には,P社(一の者)はS2社(他の
上記のとおり,一の者が法人の発行済株
法人)を直接に100%保有するものとみな
式等の全部を保有する場合における当該一
され,P社とS2社との間には「完全支配
の者と法人との間の関係がある場合には,
関係」があることとされる(本稿では,こ
当事者間の完全支配の関係があるとされる。
のような「みなし」による「完全支配関係」
したがって,S1社がP社によって発行
を,以下,便宜的に「みなし直接完全支配
済株式等の全部を保有されている下記のよ
関係」という。)。
うな資本関係にある場合には,P社(一の
P社
者)とS1社(法人)との間には「完全支
(一の者)
配関係」があることとなる。
100%
関係
支配
完全
P社
(一の者)
30%
S1社
(法人)
完全支配関係
70%
100%
S2社
(他の法人)
S1社
(法人)
③ 一の者との間に直接完全支配関係がある
法人による完全支配関係
直接完全支配関係の判定にあたっては,
② 一の者及びこれとの間に直接完全支配関
当該一の者との間に直接完全支配関係があ
係がある法人による完全支配関係
る一若しくは二以上の法人が他の法人の発
直接完全支配関係の判定にあたっては,
行済株式等の全部を保有するときも,当該
当該一の者及びこれとの間に直接完全支配
一の者は当該他の法人の発行済株式等の全
関係がある一若しくは二以上の法人が他の
部を保有するものとみなすこととされてい
法人の発行済株式等の全部を保有するとき
る。
は,当該一の者は当該他の法人の発行済株
したがって,S2社がP社と直接支配関
式等の全部を保有するものとみなすことと
係にあるS1社によって発行済株式等の全
されている。
部を保有されている下記のような資本関係
したがって,S2社がP社及びP社と直
にある場合,すなわち,P社がS2社を間
接完全支配関係にあるS1社によって発行
接に100%保有している場合にも,P社(一
済株式等の全部を保有されている下記のよ
の者)はS2社(他の法人)を直接に100%
うな資本関係にある場合,すなわち,P社
保有するものとみなされ,P社とS2社と
16 税務弘報 2010. 8
●支配関係・完全支配関係の定義と判定
の間には,みなし直接完全支配関係として
関係はいわゆる曾孫会社レベル以下の法人
の「完全支配関係」があることとされる。
についても連鎖して判定が行われることと
なる。すなわち,いわゆる間接保有のケー
P社
スである上記②及び③のいずれの場合にお
(一の者)
いても,P社とS2社との間にはみなし直
接支配関係があるとされるため,仮にS2
100%
関係
支配
完全
社によって発行済株式等の全部を保有され
S1社
(法人)
ているS3社がある場合には,P社(一の者)
とS3社( 他 の 法 人 ) と の 間 に つ い て も,
みなし直接完全支配関係としての「完全支
100%
配関係」があることとなる(下記参照)。
2 一の者との間に当事者間の完全支
配の関係がある法人相互の関係
S2社
(他の法人)
④ みなし直接完全支配関係の連鎖による完
⑴ 定 義
上記の「当事者間の完全支配の関係」に
全支配関係
上記②及び③においては,P社(一の者)
加えて,「一の者との間に当事者間の完全
とS2社(他の法人)との関係はみなし直
支配の関係がある法人相互の関係」も「完
接完全支配関係による完全支配関係がある
全支配関係」の類型の一つとされる(法法
こととされるが,このみなし直接完全支配
2十二の七の六)。すなわち,この類型に
P社
P社
(一の者)
(一の者)
100%
100%
完全支配関係
(法人)
70%
S1社
完全支配関係
S1社
30%
(法人)
100%
S2社
S2社
(みなされた法人)
100%
S3社
(他の法人)
(みなされた法人)
100%
S3社
(他の法人)
税務弘報 2010. 8  17
特集1 組織再編税制の新しい考え方
おいては判定対象となる法人同士において
100%のグループ内組織再編であるかどう
は100%の株式保有関係にはないが,それ
かの判定方法には若干の変更が加えられた
ぞれの法人がある共通の一の者との間に当
ことになったため,この点には注意が必要
事者間の完全支配の関係がある場合には,
であるといえる。すなわち,従前において
当該法人同士もまた完全支配関係にあると
は,100%のグループ内組織再編であるか
される。
どうかの判定の際に,従業員持株会による
所有株式や役員又は使用人のストックオプ
⑵ 事例による判定
ション行使による所有株式がある場合に
上記のとおり,一の者との間に当事者間
は,これがたとえ1%の株式保有割合に過
の完全支配の関係がある法人相互の関係
ぎない場合であっても100%のグループ内
は,
「完全支配関係」であるとされる。
組織再編には該当せず,50%超100%未満
したがって,S1社とS2社がいずれもP
のグループ内組織再編として取り扱われる
社によって発行済株式等の全部を保有され
こととなっていたが,上記1⑴で説明した
ている下記のような資本関係にある場合に
とおり,改正後においては,株式保有割合
は,S1社(法人)とS2社(法人)との間
の判定の際に用いられる「発行済株式等」
には「完全支配関係」があることとされる。
には,従業員持株会の所有株式及び役員又
は使用人のストックオプションによる所有
P社
株式の合計が自己株式を除いた発行済株式
(一の者)
等の5%未満である場合におけるそれらの
株式が除かれる(法令4の2②)こととさ
100%
S1社
(法人)
れ,100%グループ内の組織再編に関する
100%
完全支配関係
適格性要件の実質的な緩和が図られている。
S2社
(法人)
3 「完全支配関係」の定義と組織再編
関連規定
⑴ 組織再編における適格性の判定
本稿では,誌面の都合上,それぞれの組
織再編行為についての関係条文番号(法,
施行令)を紹介するのみとしたが(図表2
参照),一例として,適格合併の判定にお
いて100%のグループ内合併として取り扱
われるかどうかの判定に係る被合併法人と
上記23⑴のとおり,組織再編における
合併法人の関係(当事者間の完全支配の関
適格性の判定においては,グループ内組織
係がある場合)についての新旧の条文規定
再編であるかどうか,また,グループ内組
(括弧内省略,下線筆者)を以下に引用し
織再編である場合には,これが100%のグ
ておく。
ループ内組織再編であるかどうかを判定す
① 改正前の規定(旧法令4の2②一)
る必要がある。上記のとおり,平成22年度
「合併に係る被合併法人と合併法人との
税制改正おいて「完全支配関係」の定義が
間にいずれか一方の法人が他方の法人の発
法 人 税 法 に 規 定 さ れ た が, こ れ に よ り,
行済株式等の全部を直接又は間接に保有す
18 税務弘報 2010. 8
●支配関係・完全支配関係の定義と判定
【図表2】完全支配関係のある法人間の適格組織再編成に係る条文
適格組織再編成の種類
法人税法
法人税法施行令
適格合併
法法2十二の八イ
法令4の3②一(当事者間の完全支配関係)
法令4の3②二(同一の者による完全支配関係)
適格分割
法法2十二の十一イ
法令4の3⑥一(当事者間の完全支配関係)
法令4の3⑥二(同一の者による完全支配関係)
適格現物出資
法法2十二の十四イ
法令4の3⑩一(当事者間の完全支配関係)
法令4の3⑩二(同一の者による完全支配関係)
適格現物分配
法法2十二の十五
適格株式交換
法法2十二の十六イ
法令4の3⑭一(完全親法人による完全支配関係)
法令4の3⑭二(同一の者による完全支配関係)
適格株式移転
法法2十二の十七イ
法令4の3⑰一(同一の者による完全支配関係
法令4の3⑰二(同一の者による完全支配関係)
る関係がある場合における当該関係」
は明らかにされていない。今後税務当局等
② 改正後の規定(法令4の3②一)
より,記載方法の手引き等が公表されるこ
「合併に係る被合併法人と合併法人との
とが期待される。
間にいずれか一方の法人による完全支配関
係がある場合における当該完全支配関係」
4 完全支配関係がある法人との関係
を系統的に示した図の添付要件
今回の改正により,確定申告を行おうと
する内国法人は,当該内国法人との間に完
全支配関係がある法人との関係を系統的に
示した図を法人事業概況書の一部として,
確定申告書に添付しなければならないこと
とされた(法規35)。
しかし,具体的にどのような形式でこれ
[Profile]
高野 公人(たかの きみひと)
税理士法人プライスウォーターハウスクーパース
トランザクション/ M&A部シニアマネージャー。
公認会計士・税理士。事業再生研究機構税務問題
委員会委員。日本公認会計士協会経営研究調査会
再生支援専門部会専門委員。主な著書:
「デット・
エクイティ・スワップ(DES)活用のポイント」
(『税経通信』2009年12月号),「第二会社方式
の産活法利用」
(『税務弘報』2009年7月号),
『ア
ジアM&Aガイドブック』(共著,中央経済社),
『事
業再生における税務・会計 Q&A』
(共著,
商事法務)
他。
を作成すべきかについては本稿執筆時点で
税務弘報 2010. 8  19
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