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4 連結納税グループ内再編 C A S E 孫会社を直属子会社とした場合の
Selection C A S E 4 連結納税グループ内再編 税理士法人プライスウォーター ハウスクーパース 税理士 UESTION 飯島 哉文 孫会社を直属子会社とした場合の 税務上の取扱いについて 当社(3 月決算法人)グループは、当社 (3) S 1 社 が S 2 社 株 式 を 分 配 資 産 と し 、 を連結親法人、S1 社、S2 社及び S3 社 当社へ現物分配(税制適格現物出資に を連結子法人として連結納税を行っていま より実施) す(〔図表 1〕参照)。 それぞれの手法を採用した場合の、税務 上の取扱い及び注意点について教えてくだ 〔図表 1〕現在の資本関係図 さい。 当社 (連結親法人) 100% S1社 (連結子法人) 〔図表 2〕再編後の資本関係図 当社 (連結親法人) 100% S3社 (連結子法人) 100% S2社 (連結子法人) 100% S1社 (連結子法人) 100% S2社 (連結子法人) 100% S3社 (連結子法人) なお、上記のほか、本件の検討に必要な このたび当社グループでは、子会社 S1 社の所管事業として孫会社 S2 社で開発し 参 考 ていた事業が本格化したため、S2 社を当 法法2 十二の九ロ・ 社の直属の子会社とすることが決まりました。 十二の十一イ・ 十二の十五、 25 これに関連して、当社ではグループ編成 の2 を〔図表 2〕の「再編後の資本関係図」に 57④、 61の13 62の2② 示すような形態にできるよう検討していま 62の5③④ す。その手法として、次の(1)∼(3)を考 62の7、 81の6② えております。 81の9⑤ 旧法法14①十二 (1)S1 社が保有する S2 社株式の、当社 法令4の3⑥一 への譲渡 9①六・七カッ コ書き・9②一 (2)S1 社を分割法人、当社を分割承継法 イ・ロ、 9の2① 人として、S2 社株式を分割資産とする 一ロ・四・五・② 分割(税制適格分割型分割により実施) 112、113 119の3⑤ 122の14 123の9 ご質問にある三つの手法に係る税務 平成 22 年法附則 10、 上の取扱い及び注意点について、それ 16、25 消法2 ① 八 、4 、6 ① ぞれ解説していきます。 別表第一2 1 株式の譲渡による子会社化 消令2①四 消基通5-2-8 (1)時価譲渡 所法24① 地令20の3② 子会社化する手法として「株式の譲渡」を 36 zeimu QA 2011.3 事実関係は以下のとおりです。 ● S2 社株式の時価総額は 2,000 百万 円、S1 社が所有する S2 社株式の税務 上の帳簿価額は投資簿価修正前 1,000 百万円、投資簿価修正後の帳簿価額は 1,100 百万円です。 ● 当社が所有する S1 社株式の帳簿価額 は 3,000 百万円です。 ● S1 社の税務上の簿価純資産価額は 5,000 百万円(資本金等の額 3,000 百 万円、利益積立金 2,000 百万円)です。 ● 当社グループでは平成 17 年 4 月 1 日 から連結納税を開始し、開始以来現在に 至るまで資本関係の変更はありません。 選択した場合、その取引価額については時価 となり、多くの場合、譲渡法人において譲渡 損益が発生します。 (2)投資簿価修正 連結法人株式を譲渡した場合には、譲渡し た連結法人株式の帳簿価額を修正する「投資 CASE 4 簿価修正」が必要となります。連結子法人株 ● 金銭債権 式の譲渡等により生ずる譲渡損益には、連結 ● 繰延資産 子法人で獲得した利益又は損失に基因する部 連結納税グループ内再編 (4)消費税の取扱い 分が含まれており、さらにその一部について 本件譲渡取引は「有価証券の譲渡」である は連結納税において既に課税済み又は控除済 ため、譲渡法人において非課税取引に該当し、 みのものが含まれています。 消費税は課されません(消法6①、別表第一 これらについて何ら調整を行わないと、連 結グループという同一納税主体の中での二重 2) 。 (5)本ケースの場合 それを避けるため、連結子会社株式の譲渡等 支配関係のある内国法人間で行われ、かつ、 が生じた場合に、二重課税又は二重控除部分 S 2社株式の税務上の帳簿価額が 10 百万円以 を連結法人として連結納税を行っていた期間 上であることから、当該譲渡取引により発生 の利益積立金額の増減部分であると仮定し、 した譲渡益は繰り延べられます。なお、投資 当該株式の帳簿価額の調整を行います(法令 簿価修正により、譲渡直前の S 2社株式の税 9①六、9の2①四、119 の3⑤) 。 務上の帳簿価額は 1,100 百万円となり、この (3)譲渡損益の繰延べ 資産の譲渡取引が完全支配関係のある内国 法人間(100 %グループ法人間をいい、連結 完全支配関係を包含する概念となっていま 帳簿価額をもとに譲渡益が計算されます。 具体的な譲渡法人及び譲受法人の税務処理 は以下のとおりです。 【S 1社(譲渡法人)の税務処理】 す。)で行われ、かつ、譲渡の対象となった 資産の譲渡直前の税務上の帳簿価額が 10 百 万円以上の場合には、譲受法人がその資産を (単位:百万円) (借)現金預金 2,000 (貸)S 2社株式 (投資簿価修正後)1,100 譲渡する等の一定の事由が発生する時点又は 譲渡法人と譲受法人との間の完全支配関係が なくなるまで、譲渡法人において発生した譲 有価証券譲渡益 (貸)繰延収益 【貴社(譲受法人)の税務処理】 なる資産は「譲渡損益調整資産」と呼ばれ、 (借)S 2株式 2,000 61 の13、法令 122 の14)。 ● 固定資産 900 (借)有価証券譲渡益 900 渡損益は繰り延べられます。繰延べの対象と 以下に掲げるものを対象としています(法法 (貸)現金預金 900 飯島 哉文 IIJIMA saimon 2,000 (6)寄附金認定された場合の取扱い 譲渡取引が時価で行われず、譲渡対価と時 ● 土地(土地の上に存する権利(借地権等) 価との差額が大きいと、多くの場合で寄附金 を含み、固定資産に該当するものを除きま 課税の問題が生じます。「時価>実際の取引 す。 ) 価額」の場合には、譲渡法人で寄附金の損金 有価証券(譲渡法人において売買目的有 不算入、譲受法人で受贈益について益金不算 価証券と取り扱われているもの及び譲受法 入の処理が必要です(法法 25 の2、81 の6 人において売買有価証券として取り扱われ ②) 。 ● るものを除きます。) CASE 4 本ケースの場合、当該譲渡取引が連結完全 Selection Q&A 課税又は二重控除が生じることとなります。 仮に S 2社株式を無償で譲渡した場合には、 2011.3 税理士法人プライスウ ォーターハウスクーパ ース連結納税部マネー ジャー・税理士。 1978 年神奈川県生ま れ。慶應義塾大学経済 学部卒業。2002 年9月 税理士法人プライスウ ォーターハウスクーパ ースに入所。日系及び 外資系企業の申告書 作成業務、税務顧問業 務、連結納税・組織再 編等に係るアドバイ ス業務に従事。 zeimu QA 37 Selection C A S E 4 CASE 4 連結納税グループ内再編 譲渡法人及び譲受法人の税務処理は以下のと 人に対して株式を発行しない(分割対価資産 おりです。なお、S 2社株式を無償で譲渡し がない、いわゆる無対価分割)場合であって た場合であっても上記(3) と同様、時価と税 も、分割承継法人が分割法人の発行済株式の 務上の帳簿価額の差額については繰延べの対 全部を保有する関係がある場合には、適格分 象となります(法法61 の 13) 。 割型分割に該当することになります。 【S 1社(譲渡法人)の税務処理】 また、適格分割型分割に該当した場合には、 (単位:百万円) (借)寄附金(損金不算入) 2,000 ることから、分割移転資産に係る含み損益が (貸)S 2社株式(投資簿価修正後)1,100 実現しないことになります(法法2十二の九 900 ロ・十二の十一イ、62 の2②、法令4の3 有価証券譲渡益 900 (借)有価証券譲渡益 ⑥一) 。 900 (貸)繰延収益 【貴社(譲受法人)の税務処理】 (借)S 2株式 以前は、分割型分割を行った場合、分割法 人は当該分割の日の前日を末日とするみなし 2,000 (貸)受贈益(益金不算入) 事業年度(以下「分割前みなし事業年度」と 2,000 上記の税務処理方法は、平成 22 年度の税 いう。)を設けて申告納税を行う必要があり ましたが、平成 22 年度の税制改正により、 制改正により規定されたもので、平成 22 年 平成 22 年 10 月1日以後の分割型分割では分 10 月1日以後に完全支配関係のある内国法 割前みなし事業年度が廃止され、申告納税は 人間で行われる寄附から適用されることにな 不要となりました(旧法法 14 ①十二、平成 りました。平成 22 年度の税制改正以前には 22 年法附則10)。 譲受法人側での受贈益の益金不算入の規定は また、仮に非適格分割に該当したとしても、 なく、二重課税が生じる取扱いとなっていま 完全支配関係のある内国法人間で行われた取 した(平成 22 年法附則16、25) 。 引については譲渡損益の繰延べの規定が適用 また、完全支配関係のある内国法人間で寄 附を行った場合に要求される寄附修正は、本 件のような連結法人間での寄附の場合につい ては不要です(法令9①七カッコ書き、9の されるため、譲渡の場合と同様に譲渡損益は 繰り延べられます(法法61 の 13) 。 (2)投資簿価修正 連結納税グループ内での適格分割の場合、 2①五)。 分割対象資産に連結法人株式が含まれていた 2 場合であっても、S 2社株式の投資簿価修正 株式の分割による子会社化 (1)適格分割型分割 子会社化する手法として分割型分割を選択 は不要です(法令9②一イ、9の2②)。 (3)欠損金の使用制限及び特定資産の譲渡 した場合、分割対価資産として分割承継法人 等損失の損金算入制限規定 株式以外の資産が交付されず、かつ、分割前 支配関係(50 %超のグループ化)成立後、 後において分割法人と分割承継法人との間に 5年以内に適格分割を行った場合、分割承継 完全支配関係が継続する見込みがある場合に 法人において欠損金の使用制限及び特定資産 は、適格分割型分割に該当します。 の譲渡等損失の損金算入制限規定を考慮する なお、分割に際し、分割承継法人が分割法 38 zeimu QA 税務上の帳簿価額での資産の引継ぎ可能とな 2011.3 必要があります。ただし、①分割法人と分割 CASE 4 連結納税グループ内再編 〔図表 3〕欠損金の使用制限及び特定資産の譲渡等損失の損金算入制限 欠損金の使用制限 (1)法人税(連結欠損金個別帰属額) 原則として、制限なく使用可能 (2)住民税(控除対象個別帰属税額及び控除対象 原則として、制限なく使用可能 個別帰属調整額) (3)事業税 特定資産の譲渡等損失の損金算入制限 (法人税・住民税・事業税共通) みなし共同事業要件の充足又は時価純資産超過額の特 例等の適用を受ける場合を除き、使用制限を受ける。 承継法人との間に分割の日の属する連結事業 適格分割型分割に該当した場合の分割法人 年度開始の日の5年前の日、分割法人の設立 及び分割承継法人における税務処理は、以下 の日若しくは分割承継法人設立の日のうち最 のとおりです。 も遅い日から継続して支配関係がある場合又 【S 1社(分割法人)の税務処理】 は②みなし共同事業要件を充足する場合又は ③時価純資産超過額の特例に該当する場合等 (単位:百万円) (借)資本金等の額 (*) 利益積立金(**) なお、連結納税を行っている場合、連結欠 600 400 (貸)S 2社株式 損金個別帰属額(法人税法上の欠損金)及び 【貴社(分割承継法人)の税務処理】 控除対象個別帰属税額又は控除対象個別帰属 (借)S 2株式 調整額(住民税法上の欠損金)については、 原則として使用制限の適用はありません(法 分割承継法人での適用関係を簡単にまとめ 利益積立金(**) (借)資本金等の額 引であるため消費税は課されません(消法2 ①八、4、消令2①四) 。 (5)本ケースの場合 400 600 (*)資本金等の額 3,000×0.2 (4)消費税の取扱い る資産の譲渡等の範囲から除かれ、不課税取 600 600 (貸)S 1株式(***) ると〔図表 3〕のとおりです。 分割による資産の移転は、課税の対象とな 1,000 1,000 (貸)資本金等の額(*) 123 の9、地令 20 の3②)。 CASE 4 を除きます。 法 57 ④、62 の7、81 の9⑤、法令 112、113、 Selection Q&A みなし共同事業要件の充足又は時価純資産超過額の特 例の適用を受ける場合を除き、一定期間について損金 算入の制限を受ける。 移転純資産 1,000 = 600 S 1社の簿価純資産 5,000 (**)利益積立金額 1,000 −600 = 400 (***)株式振替 3,000 ×0.2 = 600 3 株式の現物分配による子会社化 (1)適格現物分配 子会社化する手法として現物分配を選択し 本ケースの場合、貴社と S 1社との間の支 た場合、完全支配関係のある内国法人間で現 配関係成立後5年超を経過していることから、 物分配が行われた場合には、適格現物分配に 分割承継法人である貴社における欠損金の使 該当します。 用制限及び特定資産の譲渡等損失の損金算入 適格現物分配に該当した場合には、現物分 制限の規定の適用はありません。また、S 2 配の直前の税務上の帳簿価額で分配されたこ 社株式の投資簿価修正も不要です。 とになるため、現物資産に係る含み損益を認 2011.3 zeimu QA 39 Selection C A S E 4 CASE 4 連結納税グループ内再編 識する必要はありません。また、被現物分配 (5)本ケースの場合 法人では、その現物分配を受けたことによる 本ケースの場合、完全支配関係のある貴社 収益は全額益金不算入となります(法法2十 と S 1社との間での現物分配であることから、 二の十五、62 の5③④)。 適格現物分配に該当します。また、S 2社株 (2)投資簿価修正 式の投資簿価修正も不要です。 適格現物分配に該当した場合の現物出資法 連結納税グループ内での適格現物分配の場 合、分配資産に連結法人株式が含まれる場合 人及び被現物出資法人における税務処理は、 であっても投資簿価修正は不要です(法令9 以下のとおりです。 【S 1社(現物分配法人)の税務処理】 ②一ロ、9の2②一ロ) 。 (3)欠損金の使用制限及び特定資産の譲渡 等損失の損金算入制限規定 (単位:百万円) 1,000 (借)利益積立金 支配関係(50 %超のグループ化)成立後、 1,000 (貸)S 2社株式 5年以内に適格現物分配を行った場合、上記 【貴社(被現物分配法人)の税務処理】 2(3)と同様、被現物分配法人において欠損 (借)S 2株式 金の使用制限及び特定資産の譲渡等損失の損 (貸)受取配当金(益金不算入)1,000 金算入制限規定を考慮する必要がありますの で、注意が必要です。 1,000 なお、適格現物分配に該当する場合には、 当該現物分配について現物分配法人における (4)消費税の取扱い 所得税の源泉徴収は不要です(所法24 ①)。 現物分配は、課税の対象となる資産の譲渡 4 等の範囲から除かれ、不課税取引であるため 消費税は課されません(消基通5-2-8)。 まとめ 上述三つの手法における S 2社株式移転の 税務上の取扱いをまとめると〔図表 4〕のと おりです。 〔図表 4〕孫会社を直属子会社とする手法 時価 / 簿価取引 譲渡法人における 含み益の実現の有無 譲受法人における 欠損金の制限等の有無 消費税上の 取扱い 1.譲渡 時価取引 実現するが繰延べ 無 非課税取引 2.適格分割型分割 簿価取引 実現しない 有 不課税取引 3.適格現物分配 簿価取引 実現しない 有 不課税取引 手法 コメント 平成 22 年度税制改正の適格現物分配の 定資産譲渡等損失の損金算入制限の規定及 創設、無対価組織再編の取扱いの明確化、 び会社法の取扱い(現物分配における配当 分割型分割に係るみなし事業年度の廃止な 可能限度計算など)を総合的に考慮して判 ど、従前に比べ孫会社の子会社化が容易と 断する必要がありますので、ご注意くださ なりました。どの手法を選択するかを検討 い。 するにあたり、繰越欠損金の使用制限、特 40 zeimu QA 2011.3