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3 適格合併を行った場合の特定資産譲渡等 損失の損金算入制限について C A S E

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3 適格合併を行った場合の特定資産譲渡等 損失の損金算入制限について C A S E
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C A S E
3
適格合併を行った場合の特定資産譲渡等
損失の損金算入制限について
税理士法人プライスウォーター
ハウスクーパース 公認会計士
UESTION
白井 啓資
100%子会社を吸収合併する場合の
税務上の留意点
当社は、家電製品の製造販売を行ってい
る内国法人(3 月決算)です。昨今の経済
〔当社及び A 社の状況等〕
1
します。
環境の悪化に対応するため、グループ会社
が保有する経営資源を集中させることによ
当社と A 社の合併は、適格合併に該当
2
当社及び A 社の 2009 年 3 月期にお
って、経営の効率化と意思決定の迅速化を
ける売上高、資本金及び従業員数は以下
目的とする組織再編を計画しています。
のとおりです。なお、資本金及び従業員
数については合併直前まで変動がありま
まず当該組織再編の一環として、2010
年 4 月 1 日付けで当社の 100 %子会社で
せん。
ある A 社(内国法人、3 月決算)を当社に
2009 年 3 月期の当社及び A 社の規模
吸収合併させる予定です。なお、A 社は、
当社
A社
2007 年 4 月 1 日に当社の事業部の一つ
売 上 高
600 億円
100 億円
を新設分社型分割により切り出し設立した
資 本 金
30 億円
3 億円
法人です。
従業員数
3,000 人
500 人
以下の状況のもとで、A 社を吸収合併す
3
るにあたって、税務上留意すべき点につい
て教えてください。
当社及び A 社は、繰越欠損金を有しま
せん。
4
A 社の役員は、合併後の当社の役員に
就任しない予定です。
06 / 4 / 1 07 / 4 / 1 08 / 4 / 1 09 / 4 / 1 10 / 4 / 1 11 / 4 / 1 12 / 4 / 1
当社
分社型分割
合 併
A社
回答
貴社が 2007 年4月1日前から保有
する特定保有資産について、2010 年4月1
日から 2012 年3月 31 日の間に譲渡等の事由
で生じる損失額は、貴社の損金に算入されな
参 考
法法57③、
62の7
法令112④、
123の8
123の9
法規27の15②
27の15の2
改正法案附則10
32 zeimu QA
い可能性があります(法法 62 の7)。ただし、
貴社の 2007 年3月 31 日における時価純資産
価純資産価額の算定根拠などを保存していれ
ば、特定資産譲渡等損失額に係る損金算入制
限を受けません(法令123 の9)
。
解説
1 特定資産譲渡等損失の損金算入制限
(1)制度の趣旨
適格合併により移転する資産及び負債は、
価額が簿価純資産価額以上である場合には、
その適格合併に係る被合併法人の帳簿価額で
貴社の 2011 年3月期の確定申告書に別表 14
引き継ぐことになります。グループ会社間の
(4)及び別表 14(4)付表を添付し、かつ、時
合併は、比較的容易に税制適格要件を充足す
2010.3
CASE 3
適格合併を行った場合の特定資産譲渡等損失の損金算入制限について
ることが可能であり、含み損が生じている資
産を適格合併により帳簿価額で他のグループ
保有する関係
②
二の法人が同一の者(当該者が個人であ
会社へ移転した後に、当該資産に係る含み損
る場合には、当該個人及びこれと特殊の関
失を実現させることで、恣意的に合併法人の
係のある個人)によってそれぞれの法人の
課税所得を圧縮することが可能です。
発行済株式の総数の 50 %を超える数の株
このような資産の含み損を利用した租税回
式を直接又は間接に保有される関係
ご質問のケースでは、A 社は貴社の 100 %
関係を有することとなった法人との間で適格
子会社であるため、A 社は特定資本関係法人
組織再編を行った法人が、その適格組織再編
に該当します。
により移転を受けた資産の譲渡等を行い実現
また、貴社と A 社との間で特定資本関係が
した含み損の損金算入について一定の制限が
生じた日は分社型分割を行った 2007 年4月
設けられています。
1日となり、貴社の適格合併の日の属する事
また、逆さ合併を行うことでこの損金算入
業年度開始の日(2010 年4月1日)の5年
制限を回避することを防止する観点から、合
前の日である 2005 年4月1日以後に生じて
併法人が保有する特定の資産についても同様
いることになります。
(2)制度の概要
本制度は、内国法人と特定資本関係法人
(4)特定適格合併の範囲
特定適格合併とは、適格合併のうち、みな
し共同事業要件を満たさない合併をいいます
(下記(3)参照)との間で、その内国法人を
(法法 62 の7①)。みなし共同事業要件とは、
合併法人とする特定適格合併((4)参照)が
以下の要件のうち、①∼③又は①と④の両方
行われた場合に、特定資本関係が合併法人の
を満たすものをいいます。
適格合併の日の属する事業年度開始の日の5
① 事業関連性要件
年前の日以後に生じているとき((3)参照)
被合併法人の被合併等事業(当該被合併法
には、その内国法人の適用期間((5)参照)
人等の当該適格合併等の前に営む主要な事業
において生じる特定資産譲渡等損失額((6)
のうちのいずれかの事業をいう。以下「被合
参照)は、その内国法人の各事業年度の損金
併事業」といいます。)と当該適格合併等に
の額に算入しないというものです(法法 62
係る合併法人等の合併等事業(当該合併法人
の7①③)
。
等の当該適格合併等の前に営む事業のうちの
(3)特定資本関係法人と特定資本関係
特定資本関係法人とは、その法人との間に
いずれかの事業をいう。以下「合併事業」と
いいます。)とが、相互に関連するものであ
特定資本関係がある法人をいいます(法法
ること。
62 の7①)。この特定資本関係とは、次の①
② 事業規模要件
又は②の関係をいいます(法令 112 ④)。
白井 啓資
SHIRAI keiji
被合併事業と合併事業(被合併事業と関連
二の法人のいずれか一方の法人が他方の
する事業に限ります。)のそれぞれの売上金
法人の発行済株式(自己が有する自己の株
額、従業者数、資本金の額又はこれらに準ず
式を除く。以下②において同じ)の総数の
るものの規模の割合が、おおむね5倍を超え
50 %を超える数の株式を直接又は間接に
ないこと。
①
CASE 3
の損金算入制限が設けられています。
Selection Q&A
避を防止する観点から、一定期間に特定資本
2010.3
公認会計士。同志社大
学大学院商学研究科修
了。
2003 年 10 月大手監査
法人入所。2007 年 8 月
税理士法人プライスウ
ォーターハウスクーパ
ース入所。
日系・外資系
企業の申告書作成など
税務関連業務に従事。
zeimu QA 33
Selection
C A S E
3
CASE 3
適格合併を行った場合の特定資産譲渡等損失の損金算入制限について
③ 事業規模継続要件
合には、その5年を経過する日)までの期間
被合併事業と合併事業(被合併事業と関連
をいいます(法法 62 の7①)。
する事業に限ります。)とが、特定資本関係
ご質問のケースの適用期間は、〔図表〕の
発生時から適格合併直前まで継続して営まれ
とおり、2010 年4月1日から 2012 年3月 31
ており、かつ、その間の売上金額、従業者数
日までとなります。
その他これらに準ずるものの規模変動割合が
(6)特定資産譲渡等損失額
特定資産譲渡等損失額とは、次の①及び②
おおむね2倍を超えないこと。
④ 経営参画要件
の合計額をいいます(法法62 の7②)
。
被合併法人の特定役員(社長、副社長、代
①
特定引継資産(合併法人が特定資本関係
表取締役、代表執行役、専務取締役、常務取
法人から特定適格合併により移転を受けた
締役又はこれらの者と同等に法人の経営の中
資産で、特定資本関係法人が特定資本関係
枢に参画している者をいいます。)のいずれ
発生日前から有していた資産)に係る譲渡
かの者と合併法人の特定役員のいずれかが、
等による損失の額から譲渡等による利益の
それぞれ適格合併後においても合併法人の特
額を控除した金額
定役員になることが見込まれていること。
②
特定保有資産(合併法人が特定資本関係
ご質問のケースでは、貴社の売上高、資本
発生日前から有していた資産)に係る譲渡
金及び従業員数が A 社の各々の指標の5倍超
等による損失の額から譲渡等による利益の
となっていますので、事業規模要件を充足し
額を控除した金額
ません。また、A 社の役員が合併後の貴社の
また、次の(a)∼(e)のような資産は、上
役員に就任しないため経営参画要件を充足し
記の特定引継資産及び特定保有資産から除か
ません。したがって、貴社と A 社の適格合併
れます(法令 123 の8②⑫)
。
はみなし共同事業要件を満たさず、特定適格
(a)棚卸資産
合併に該当します。
(b)短期売買商品
(5)適用期間
(c)売買目的有価証券
この制度の適用期間とは、特定適格合併の
(d)特定適格合併の日(合併法人においては
日の属する事業年度開始の日から同日以後3
特定適格合併の日の属する事業年度開始の
年を経過する日(その経過する日が特定資本
日)における帳簿価額又は取得価額が
関係発生日以後5年を経過する日後になる場
1,000 万円に満たない資産
〔図表〕特定資産譲渡等損失の損金算入制限の適用期間
(e)特定資本関係発生日における時価が特定
資本関係発生日における帳簿価額を下回っ
適用期間
特定資本関係発生日
07 / 4 / 1 08 / 4 / 1 09 / 4 / 1 10 / 4 / 1 11 / 4 / 1 12 / 4 / 1 13 / 4 / 1
当社
分社型分割
を含む事業年度の確定申告書に時価及び帳
簿価額に関する明細書を添付し、かつ、時
合 併
価の算定根拠などを保存することが適用要
A社
3年
5年
ていない資産(ただし、特定適格合併の日
件とされています。)
ご質問の場合、A 社は特定資本関係発生日
(2007 年4月1日)に貴社が分社型分割によ
34 zeimu QA
2010.3
CASE 3
適格合併を行った場合の特定資産譲渡等損失の損金算入制限について
り設立した会社であるため、A 社が特定資本
2
平成 22 年度税制改正の影響
関係発生日(A 社設立)前から保有する資産
平成 22 年度税制改正に関する法案が 2010
は存在しないことから、貴社が適格合併によ
年2月5日に国会に提出されました。法人税
り引き継いだ資産は特定引継資産に該当しま
法改正法案第 62 条の7第1項では、特定資
せん。一方、貴社が特定資本関係発生日
産譲渡等損失の損金算入制限の適用対象から、
(2007 年4月1日)前より保有する特定保有
次の(a)∼(c)のうち最も遅い日から継続し
資産は、上記(5)の適用期間における特定資
て合併法人と被合併法人との間に支配関係
産譲渡等損失額について損金算入が制限され
(50 %超の出資関係)がある場合を除くとさ
(7)特例
Selection Q&A
れています。
ます。
(a)合併法人の特定適格合併の日の属する事
業年度の開始の日の5年前の日
特定資本関係法人の特定資本関係が発生し
た事業年度の前事業年度末における時価純資
(b)合併法人の設立の日
産価額が簿価純資産価額を超える場合には、
(c)支配関係のある被合併法人の設立の日
ご質問の場合、上記(a)∼(c)のうち最も
特定引継資産に係る特定資産譲渡等損失額は
遅い日は、(c)の A 社の設立日(2007 年4月
また、特定適格合併の合併法人についても、
1日)になります。貴社と A 社との間には A
特定資本関係が発生した事業年度の前事業年
社の設立の日から支配関係が継続しているた
度末における時価純資産価額が簿価純資産価
め、法人税法改正法案のもとでは特定資産譲
額を超える場合には、特定保有資産に係る特
渡等損失の損金算入制限の適用はないと思わ
定資産譲渡等損失額はないものとされます
れます。
CASE 3
ないものとされます(法令 123 の9①一)。
なお、この改正は 2010 年 10 月1日以後に
(法令123 の9④)
。
この特例の適用を受けるためには、特定適
合併する場合について適用するとされていま
格合併の日の属する事業年度の確定申告書に
す(改正法案附則第 10 条)。そのため、貴社
別表 14(4)及び別表 14(4)付表を添付し、か
と A 社の合併の時期を再検討することが望ま
つ、時価純資産価額の算定根拠などを保存す
れます。ただし、改正法案段階であり、法人
る必要がありますのでご留意ください。
税法施行令の改正も見込まれるため、今後の
改正法案の国会審議や法人税法施行令の改正
の動向に留意する必要があります。
コメント
100 %グループ内の合併であっても、特
金算入制限及び繰越欠損金の引継制限が適
定資本関係発生日から5年経過していない
用されるため、みなし共同事業要件を充足
合併の場合には、特定資産譲渡等損失の損
するかを確認することが重要となります。
2010.3
zeimu QA 35
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