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5 ストックオプションに係る課税関係 C A S E ストックオプションに係る日本の課税関係の整理と

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5 ストックオプションに係る課税関係 C A S E ストックオプションに係る日本の課税関係の整理と
Selection
C A S E
ストックオプションに係る課税関係
5
税理士法人プライスウォーター
ハウスクーパース 税理士
UESTION
深田 かおり
ストックオプションに係る日本の課税関係の整理と
海外赴任者に付与された場合の留意点
上場会社である当社(A 社)は、株主総
12 月 1 日)に、同日の株式時価と権利行
会決議を経て株式報酬型のストックオプシ
使価格との差額が給与として課税されるそ
ョン制度を導入しました。平成 20 年 12
うです。
月 1 日に、A 社の役員及び執行役員、米国
甲氏は、平成 20 年 7 月 1 日より 3 年間
子会社(B 社)の現地役員となっている甲
の出向契約で米国に勤務しています。甲氏
氏などの海外赴任者等(邦人)に対して、
は日本に帰国した後(平成 23 年 7 月 1 日
ストックオプションを付与しました。
以後)にストックオプションの権利を行使
このたび、甲氏に係る課税関係について
米国の税務顧問に確認したところ、米国に
する意思がありますが、この場合に留意す
ることがあれば教えてください。
おける税務上の取扱いが日本とは随分異な
なお、甲氏は、B 社に赴任する前は A 社
ることが判明しました。A 社のストックオ
の執行役員でした。また、米国赴任期間に
プションの場合、米国では権利確定時(本
おいて、業務上の理由で日本に帰国したこ
件ストックオプションの場合、平成 21 年
とはありません。
〔図〕甲氏の米国勤務とストックオプションとの関係
H20/7/1 甲氏米国勤務開始
H20/12/1
付与
参 考
所法7①一・三、34①
36①②、95①③
161八
所令84①④
111の2②、
222
(2)
所基通23∼35共-6
161-28
措法29の2
66の4③
措令19の3①
法法34①、
54①②
「金銭の払込みに代
えて報酬債権をもっ
て相殺するストック
オプションの課税関
係」国税庁質疑応答
事例
日米租税条約議定書
第10項
日米租税条約25
企業会計基準第 8号
4、
5
36 zeimu QA
H21/12/1
権利確定
H23/7/1日本に帰国予定
米
国
所
納得
付税
帰国後
権利行使予定
A 社の株価 1,000 円)
本件新株予約権割当契約書の規定より抜
粋した制度の概要は下記のとおりです。
・
・
・
・
譲渡制限:本件新株予約権の譲渡は禁
止されている。
求権との相殺による方法により、新株予
約権を発行する。この報酬請求権は、同
権利行使期間:平成 21 年 12 月1日
から 15 年間
発行方法:金銭の払込みに代えて、被
付与者の役務提供の対価としての報酬請
将来
株式売却予定
・
権利行使条件:付与後1年間 A 社若
日に A 社から被付与者に付与されるが、
しくはその関係会社に在籍していること
新株予約権の払込金との相殺に供される
を条件に、権利行使期間末日まで行使可
他はいかなる事情があっても金銭支給さ
能である。但し、権利行使期間中に退職
れない。
する場合には、退職後 10 日以内に行使
権利行使価格:1円(参考:付与時の
する必要がある。
1 日本の所得税法上の取扱い
オプションという現物財産を報酬として受領
(1)被付与者の課税関係の整理
したことと同じですから、本来は「それが付
ストックオプション制度は、会社に対する
与された時点における時価をもって収入(給
役務提供の対価として、被付与者がストック
与所得)を認識する」というのが、わが国の
2011.5
ストックオプションに係る課税関係
CASE 5
税法の原則的な考え方です(所法 36 ①②)。
差額について給与課税が生じることになりま
ただし、役務提供の対価として付与されたも
す(所令84 ①)。
ので譲渡制限等が付されている場合、その課
なお、ご質問のように、金銭の払込みに代
税時期は権利行使時まで繰り延べられ、権利
えて報酬請求権との相殺による方法でストッ
行使時の株式時価と権利行使価格との差額に
クオプションを発行する取引を、会社法上は
ついて収入(給与所得)を認識することにな
有償発行の一形態と整理しています。しかし、
ります(所令 84 ④)。
この報酬請求権はいかなる事情があろうとも
を充足する場合には税制適格ストックオプシ
オプションの払込金との相殺に供する目的に
ョンとして、付与時や行使時には課税関係が
おいてのみ生ずるものとされているとともに、
生じず、行使により取得した株式の売却時に
権利行使がなされるまではその経済的利益が
所得を認識することになります(措法 29 の
実現しないことから、付与日における報酬請
2)。この場合、課税時期が遅くなるだけで
求権の付与をもって所得税法 36 条の「収入
なく、売却時の株式時価と権利行使価格との
すべき金額」が生じることはありません(国
差額について、他の所得と区分した申告分離
税庁質疑応答事例)。
課税が適用されますから、総合課税(給与所
2
CASE 5
現実に金銭が支払われることなく、ストック
Selection Q&A
さらに、ストックオプションが一定の要件
海外赴任者に関する留意点
得)となる税制非適格ストックオプションと
ご質問の甲氏の日本における課税関係は
比較すると、被付与者にはとても有利な制度
〔図表 1〕のとおりです。甲氏が日本に帰国
した後に権利を行使する場合、次の 2(2 )
となっています。
(2)本問のストックオプションの場合
に述べるとおり、今回米国税務顧問に確認し
ご質問のストックオプションは、適格要件
たことにより判明した、権利確定時に米国で
のうち権利行使期間(2年以上 10 年以内)
納付すべき外国所得税に関する日本と米国間
や権利行使価格(付与時の価額以上)に関す
の二重課税が排除できない結果となります。
る要件を充足していませんので、税制非適格
(1)甲氏が米国赴任期間中に権利行使する
ストックオプションに該当します。譲渡禁止
場合
条項が付されていますから、A 社の役員及び
日本の所得税法上、非居住者は日本に源泉
執行役員には、付与時に課税関係は生じず、
のある国内源泉所得のみが課税の対象となり
権利行使時に行使時時価と権利行使価格との
ます(所法7①三)。甲氏が付与時から行使
深田 かおり
〔図表 1〕甲氏の日本における課税関係
時点
各
時
点
に
お
い
て
付与時
米国居住者に
該当する場合
日本居住者に
該当する場合
権利確定時
・
課税なし
FUKADA kaori
権利行使時
・
課税なし
ただし、外
国所得税額の
繰越し手続き
検討
・
・
・
課税なし
課税なし
権利行使時の株式時価と
権利行使価格との差額につ
いて、給与所得課税
・ 全世界所得課税
・ 外国税額控除の適用検討
株式売却時
・
課税なし
・
原則 20 %の税率に
よる申告分離課税
・ ただし、現行では
税率 10 %の時限立法
あり
2011.5
税理士。早稲田大学商
学部卒業。2004 年 2 月
税理士法人プライスウ
ォーターハウスクーパ
ース入所。
日系、
外資系
企業に対する税務コン
サルティング業務(主
にグループ内組織再編
及び事業承継等に関す
るコンサルティング業
務)
に携わっている。
zeimu QA 37
Selection
C A S E
5
CASE 5
ストックオプションに係る課税関係
〔図表 2〕甲氏の帰国時期と二重課税排除との関連性
時まで連続して米国勤務であった場合、行使
により得た利益には日本国内源泉所得が含ま
①甲氏が米国赴任期間中に権利行使する場合
れませんので、日本における課税は生じませ
ん。甲氏は権利確定時及び権利行使時ともに
米国でのみ納税することになりますので、国
際的二重課税は生じません(〔図表 2〕①参
米国課税
照)
。
1,000円
(2)甲氏が日本に帰国した後に権利行使す
米国課税
二重課税なし
1円
る場合
① 給与所得課税
権利付与
権利確定
権利行使
米国赴任期間中、甲氏は A 社との雇用契約
売却
米国居住者
日本居住者
②甲氏が権利確定後、権利行使時までの間に日本に帰国した場合
(ご質問のケース)
ではなく、B 社の役員の地位を有しています。
ご質問のストックオプションは、甲氏の勤労
意欲の向上等が結果として A 社の業績向上に
寄与することを目的として付与されていると
考えられることから、当該利益は雇用契約に
外国税額控除○
国赴任期間に対応する利益も甲氏の給与所得
米国課税
1,000円
外国税額控除×
日本課税
二重課税
米国課税
として扱われます(所基通23 ∼35 共-6(2))。
なお、甲氏が行使時に日本居住者である場
合、所得の源泉地にかかわらず全世界所得課
1円
権利付与
類する関係に起因して受けるものとして、米
権利確定
権利行使
米国居住者
売却
日本居住者
(注)権利確定時における米国課税部分は、日本において外国税額控除は適用できない。
③甲氏が権利付与後、権利確定時までに日本に帰国した場合
税となります(所法7①一)ので、行使時時
価と権利行使価格との差額の全額が給与所得
となります。
② 外国税額控除
日本で全世界所得課税となる甲氏は、権利
行使時〔A〕や権利確定時〔B〕に米国で納付す
る外国所得税について、外国税額控除の適用
外国税額控除○
米国課税
1,000円
〔A〕甲氏が権利行使時に米国源泉所得部分
外国税額控除△
日本課税
一定の場合 二重課税
米国課税
権利確定
米国居住者
につき米国で納付する外国所得税
この外国所得税は、行使年分の日本の確定
申告書上、外国税額控除(所法 95 ①)を適
1円
権利付与
を検討する必要があります。
権利行使
売却
日本居住者
(注)権利確定時における米国課税部分は、一定の要件を満たす場合、日本において外国
税額控除が適用可能。
用することで控除することができます(注)。
〔B〕甲氏が権利確定時に米国源泉所得部分
につき米国で納付する外国所得税
次に、甲氏が権利確定時に納付する外国所
38 zeimu QA
2011.5
CASE 5
ストックオプションに係る課税関係
得税についてはどうでしょうか(〔図表 2〕
以内に権利行使することで外国税額控除を適
②参照)。
用し二重課税を排除することもできます
日本の税法上、非居住者は将来外国税額控
(〔図表 2〕③のケース)
。
なお、日本と米国の場合、日米租税条約議
除の適用を受けるための外国所得税額の繰越
定書 10 項においてストックオプションの利
したがって、権利確定に係る外国所得税は、
益に係る日米間の二重課税の排除が困難とな
甲氏がその納付時において日本非居住者であ
る場合には、日米租税条約 25 条の相互協議
ることから、日本で外国税額控除の適用がで
にて解決することを合意しています。相互協
きず国際的二重課税が排除できないこととな
議とは、納税者が二重課税を排除する目的で、
ります。
日本と租税条約締約国の権限ある当局に政府
仮に、甲氏が権利確定時に既に日本に帰国
間の直接協議を申請するものですが、通常は
していた場合はどうでしょう(〔図表 2〕③
手間やコストの問題から、巨額な移転価格の
参照)。
更正を受けた法人等が申請するケースがほと
米国では権利確定時時価と権利行使価格と
の差額について、付与から権利確定までの期
国源泉所得として課税されると考えられます。
んどです。
3
日本の法人税法上の取扱い
(1)発行法人の課税関係の整理
ストックオプションの発行法人は、会計上、
この場合、甲氏は権利確定時に既に日本居住
付与時やその後の各会計期間において、ブラ
者となっていますから、日本の確定申告書上
ックショールズモデル等を用いて算定した公
将来外国税額控除の適用を受けるための繰越
正な評価額をもって株式報酬費用を計上する
し申告を行います (注)。ただし、外国所得税
ことが求められます(企業会計基準第8号4、
額の繰越しは3年までに限られますので(所
5)
。
法 95 ③)、3年経過後に権利行使する場合、
一方税務上は、譲渡制限付きのストックオ
この権利確定に係る外国所得税の二重課税は
プションにつき被付与者側で給与等課税事由
排除できません(
〔図表 2〕③参照)。
が生じたときにはじめて発行法人が当該役務
(注)外国税額控除は、個人が納付した外国所得
の提供に係る費用の額を損金に算入すること
税と控除限度額とを比較して、いずれか小さ
になります(法法 54 ①)。具体的には、会計
い方を控除することになりますので、必ずし
上株式報酬費用として計上された額を、税務
も外国所得税の全額を控除できるとは限りま
申告書上で留保項目として加算調整しておき、
せん(所令222)。
権利行使時に減算処理することになります。
③ 留意点
仮に被付与者が発行法人の役員であった場合
甲氏のケースでは、甲氏が日本に帰任する
でも、当該費用の額について役員給与の損金
前の米国赴任期間中に権利行使することで、
不算入規定が適用されることはありません
国際的二重課税の発生を回避することが可能
です(〔図表 2〕①のケース)。また、仮に甲
CASE 5
間のうちの米国勤務日数に相当する部分が米
Selection Q&A
し申告を行うことができません(所法 95 ③)。
(法法34 ①かっこ書き)
。
なお、税制適格ストックオプションの場合、
氏が権利確定にかかる外国所得税の納付時に
被付与者において給与等課税事由が生じませ
既に日本に帰国していた場合には、その3年
んので、発行法人は当該費用の額を永久に税
2011.5
zeimu QA 39
Selection
C A S E
5
CASE 5
ストックオプションに係る課税関係
務上の損金の額に算入することはできません
行使した場合、行使時に日本非居住者である
(法法 54 ②)。
甲氏には日本の所得税法上の給与所得が生じ
(2)本問のストックオプションに係る費用
ませんので、法人税法 54 条に規定する給与
の額
等課税事由が生じないことになります。した
ご質問のストックオプションは、譲渡制限
がって、A 社は甲氏に係る費用を税務上損金
付きの税制非適格ストックオプションである
ため、A 社の役員及び執行役員による権利行
に算入することはできません(法法 54 ②、
〔図表 2〕①のケース)
。
使時に給与等課税事由が生じ、A 社で当該費
では甲氏が、付与時から行使時までごく頻
用の額を税務上の損金に算入することになり
繁に日本に出張していた場合にはどうでしょ
ます。
う。行使時に日本非居住者である甲氏は、原
(3)甲氏が日本に帰国した後に権利行使す
則として所得税法 161 条8号所得に該当する
る場合
国内源泉所得部分(行使時時価と権利行使価
甲氏は米国赴任中の期間(付与時から B 社
格との差額について、付与から行使までの期
での勤務終了まで)は B 社に役務を提供して
間のうちの日本出張部分に相当する部分)に
いましたので、甲氏に係る費用のうち当該米
つき日本で納税しなければなりません(所基
国勤務期間に対応する額を、A 社が税務上の
通 161-28)が、一般に日本非居住者の8号所
損金に算入することは、理論的には関係会社
得は給与等課税事由には該当しないと解され
間の費用の負担関係の問題が生じ、税務当局
ていますので、この場合も A 社は甲氏に係る
プションに関するさま
より国外関連者への寄付ではないかと指摘を
費用を税務上損金に算入することはできない
ざまな税制が存在しま
受ける可能性もあります(措法 66 の4③、
と考えられます(法法54 ②)。
事例のポイント
外国にも、ストックオ
す。特に欧米諸国の税
〔図表 2〕②③のケース)。
制は発達しており、中
には日本の税制適格ス
(4)甲氏が米国赴任期間中に権利行使する
トックオプションと類
場合
似する制度が存在する
国もあります。
仮に甲氏が日本への帰任前に米国で権利を
一方、米国等では報酬
制度が複雑化傾向にあ
コメント
る現状を鑑み、課税の
繰延べ制度が柔軟とな
う可能性もあります。発行法人が被付与者
り過ぎないよう、税制
報酬制度が多様化し、各企業がさまざま
非適格ストックオプシ
なストックオプション制度を導入していま
の行使条件を拘束することはできませんが、
ョンのうち一定のもの
すので、個人及び法人の本邦税法上の税務
予め適切な情報を提供したり、事前に協議
処理を整理しておく必要があります。また、
しておくなど、被付与者の不利益を回避す
りも低い割引オプショ
被付与者に海外赴任者が含まれる場合には、
べく配慮する必要があるでしょう。
ン等)
について、
厳格な
留意が求められます。
(例えば、
権利行使価格
が付与時の市場時価よ
規定を設けています。
この場合、課税繰延べ
上述のような外国税額控除では排除でき
また、税制非適格ストックオプションの
場合、発行法人はその費用の額を権利行使
ない所得税の二重課税は、同一の所得に対
時に税務上の損金とすることが通例ですが、
課税時期の問題のみな
する外国と日本の課税時期の相違により生
海外赴任者に係る費用を安易に損金算入す
らず、通常と比較して
じます。この場合、同一所得に日本及び外
ることは税務当局から指摘を受ける可能性
税率が高くなる場合も
国の所得税率が課され、結果として個人に
があります。
が認められないという
ありますので留意が必
残る税引後利益はほとんどなくなってしま
要です
(例:米国歳入法
典Section409条A)
。
40 zeimu QA
2011.5
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