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3 M&A における株式取得と 事業譲受の相違点 C A S E
Selection C A S E M&A における株式取得と 事業譲受の相違点 税理士法人プライスウォーター ハウスクーパース 税理士 UESTION 3 駒井 栄次朗 株式取得と事業譲受を比較した、 税務上のメリット・デメリット 当社は、a 事業を営む内国法人です。当 なると思われます。しかし本件では、X 社 社は、現在、事業拡大の観点から、関連す の主たる事業である b 事業のみを、事業譲 る b 事業及び c 事業を営む X 社の買収を検 受により直接取得することも考えています。 討しています。X 社は、Y 社の 100 %子 そこで、「株式を取得する場合」と「事 会社です。 業譲受により事業を取得する場合」とにお 一般的な企業買収に則して行うと、当社 が Y 社より X 社の全株式を購入する形に ける、当社の課税関係の相違点及び留意点 について、それぞれ教えてください。 〔株式取得〕 Y社 当社 a事業 100% Y社 Selection Q&A 〔現在〕 X社 当社 b事業 a事業 c事業 100% 〔事業譲受〕 X社 b事業 c事業 Y社 当社 a事業 b事業 CASE 3 100% X社 c事業 M & A における株式取得と事業譲受 の比較では、税務上各種の論点があり、 各論点によって、どのような課税関係が生じ るかを整理・把握して、検討する必要があり ます。 一般的に、税務上の論点は次頁〔表1〕の ように整理できます。 以下、具体的にみていきます。 1 税務リスクの承継 例えば X 社が、「将来の税務調査において 否認されると、多額の納税が発生する取引」 を行っていた場合を考えてみます。 (1)株式取得の場合 株式取得では、X 社という会社自体を取得 するため、その税務リスクもそのまま承継す ることとなります。税務リスクが実現してし まった場合は、M & A の後、当初想定してい なかった多額の納税をしなければならなくな るため、税務デューデリジェンスが不可欠と なります。 2011.11 参 考 通法70①②⑤ 徴法38、 39 法法61の12① 62の8①③④⑤ ⑦⑧ 81の9②一・③ 一 法令54①六 123の10 133、 、 133の2 耐用年数省令3 消法6 地法73の15 地法附11の2 登録免許税法 9、別 表第一・一 (二) ハ 措法72①一 zeimu QA 43 Selection C A S E 3 CASE 3 M&A における株式取得と事業譲受の相違点 〔表 1〕株式取得と事業譲受における税務上の論点整理 税務リスク 繰越欠損金 資産調整勘定 簿価のステップアップ 株式取得 承継する X 社において使用可 計上されない なし 事業譲受 承継しない X 社において使用可 計上される あり その他 不動産取得税 非課税 発生しない 発生しない 土地:3% 土地:1.3% 仕入が発生 建物:4% 建物:2% 税務デューデリジェンスは、法人税に係る 更正の期間制限が5年であるため(通法 70 ①)、過去5年分の申告を対象に実施する必 越欠損金を使用できるか」という点が M & A では論点となります。 (1)株式取得の場合 要がありますが、実務的には過去3年分を対 株式取得では株主変更が行われるのみであ 象とするケースも多いようです。なお、更正 り、原則として買収対象となった法人の繰越 の期間制限は、偽りその他不正の行為があっ 欠損金に異動はありません。したがって、貴 た場合や、繰越欠損金に関する更正について 社が 100 %親会社となった後も、X 社の各事 は7年とされています(通法 70 ②⑤)。 業年度の所得から繰越欠損金を控除すること (2)事業譲受の場合 一方で、事業譲受の場合は、会社をそのま が可能です。 ただし、貴社が連結納税を採用している場 ま取得するのではなく、会社の事業のみを取 合には留意が必要となります。その場合は、 得するため、株式取得のような税務リスクを 株式取得により X 社が貴社の 100 %子会社と 承継することは基本的にありません。 なると同時に、X 社は貴社の連結納税グルー たしかに国税徴収法では、事業譲受に関し プに加入することとなります。連結納税グル て第二次納税義務 1が規定されています。し ープに加入する際には、単体納税時に発生し かしこれは、「親族その他の特殊関係者に事 た法人税上の繰越欠損金は連結納税に持ち込 業を譲渡し、かつ、その譲受人が同一とみら むことができず、切り捨てられますので、こ れる場所において同一又は類似の事業を営ん の点に留意が必要となります。 でいる場合(徴法 38)」や、「無償又は著し また、X 社の連結納税グループへの加入を い低額の対価による譲渡の場合(徴法 39)」 基因として、X 社が保有する一定資産 2の時 には、譲受人(ご質問では貴社)に第二次納 価評価が必要となり(法法 61 の 12 ①)、連結 税義務が生ずるとされているものです。その 納税加入直前事業年度においてその損益を認 ため、通常の第三者間における事業譲受では 識する必要も生じます。 該当しないものと考えられます。 2 44 zeimu QA 登録免許税 対象資産に応じて課税 株式取得 事業譲受 消費税 繰越欠損金 なお、適格株式交換等3により連結納税グ ループに加入した場合は、繰越欠損金が切り X 社に繰越欠損金がある場合は、「当社が 捨てられず、特定連結欠損金(その法人の個 100 %親会社となった後も、継続してその繰 別所得を限度として使用可)として連結納税 2011.11 CASE 3 M&A における株式取得と事業譲受の相違点 グループに持ち込むことができ、また、資産 入されます(法法 62 の8④⑤)。事業を譲り についての時価評価の必要もありません(法 受けた貴社では、その損金算入により税務メ 法 61 の 12 ①二、81 の9②一・③一) 。 リットが生じることとなります。逆に、ケー (2)事業譲受の場合 スとしては少ないのですが、上記算式による 一方で、事業譲受の場合は、事業が移転す 計算結果がマイナスになる場合(移転を受け るのみであるため、繰越欠損金が移転するこ た資産及び負債の純資産価額以下の対価を支 とはありません。たとえ繰越欠損金の発生が 払う場合)においては、資産調整勘定ではな b 事業に係るものだとしても、繰越欠損金は く「負債調整勘定」が税務上の負債として認 そのまま X 社に残ったままとなります。 識されます(法法 62 の8③)。負債調整勘定 3 は、税務上5年間で益金算入される点に留意 資産調整勘定 資産調整勘定とは、一般的に「のれん」と が必要となります(法法62 の8⑦⑧) 。 称されることがありますが、税務上ののれん なお、資産調整勘定は、事業の譲渡を行う を定義するものであり、以下の算式により算 法人のその事業譲渡の直前において営む事業 出されます(法法 62 の8①) 。 及びその事業に係る主要な資産又は負債のお 事業譲受等4により交付 移転を受けた資産及び − をした金銭等の額 負債の純資産価額 おむね全部が事業を譲り受ける法人に移転す その対価を X 社に支払い、事業に係る資産及 す(法令123 の 10)。 4 簿価のステップアップ 繰返しとなりますが、買収の手法として株 受け入れた資産及び負債の純資産価額と対価 式取得が行われる場合、X 社については株主 に差額がある場合、その差額を「資産調整勘 変更が行われるのみです。本件においては、 定」と定義しており、事業を譲り受けた貴社 X 社の株主が Y 社から貴社になるだけで、X において資産として認識されることとなりま 社が保有する資産の所有権は X 社のままであ す。したがって、資産及び負債が移転しない り、特段の変動はありません。 株式取得の場合には、資産調整勘定が認識さ 資産調整勘定は、税務上5年間で損金に算 CASE 3 び負債を受け入れます。法人税法では、その れることはありません。 Selection Q&A 事業譲受の場合、事業を譲り受けた貴社は、 るものに限って、その計上が認められていま 一方、事業譲受の場合においては、X 社が 保有する(b 事業に係る)資産の所有権が貴 社に移ります。ここで簿価のステップアップ 【脚注】 1 第二次納税義務とは、納税義務者が租税を滞納 した場合において、その財産について滞納処分を 執行してもなおその徴収すべき額に不足すると認 められる場合に、納税義務者と一定の関係を有す る者が、納税義務者に代わって租税を納付する義 額といずれか少ない金額)の資産とされています。 3 適格株式交換の他、連結親法人又は連結子法人 が完全支配関係のある法人を設立した場合(法法 61 の 12 ①一)、適格合併等により加入した子法人 務を第二次納税義務といい、この義務を負担する のうち、被合併法人の長期保有子法人(法法 61 の 12 ①三)、単元未満株式の買取り等により完全支 者を第二次納税義務者といいます(金子宏『租税 法』 )。 配関係が生じた子法人(法法 61 の 12 ①四)につ いても同様の措置が設けられています。 2 一定資産とは、固定資産、土地、有価証券、金 銭債権及び繰延資産で、含み損益が1千万円以上 (1千万円は資本金等の額の1/2に相当する金 4 事業譲受の他、非適格合併、非適格分割及び非 適格現物出資においても一定の要件を前提に資産 調整勘定は認識されます。 2011.11 駒井 栄次朗 KOMAI eijiro 税理士。2006年11月税 理士法人プライスウォ ーターハウスクーパー ス入社。 日系・外資系企 業の申告書作成のほか、 M & A、グループ内組 織再編、事業再生及び 事業承継等に関わる税 務コンサルティング業 務に従事。 zeimu QA 45 Selection C A S E 3 CASE 3 M&A における株式取得と事業譲受の相違点 が生じます。事業譲受は税務上「譲渡取引」 いて、その耐用年数は以下の期間とすること であるため、貴社は資産を時価で取得し、時 が認められています(耐用年数省令3)。 価をもって取得価額とします(法令54 ①六)。 ① したがって、仮に X 社が「帳簿価額 1,000、 時価 1,500」の資産を所有していた場合、事 可能期間 ② 建物、建物附属設備、構築物、機械及び 業譲受における貴社の取得価額は時価の 装置等で①の年数を見積もることが困難で 1,500 となり、簿価がステップアップします。 あるものは、以下の区分に応じそれぞれに 資産が減価償却資産である場合は、1,500 が 定める年数 償却費により損金算入されますので、貴社に (イ)法定耐用年数の全部を経過した資産 償却メリットが生じることとなります。当然 …その資産の法定耐用年数の 100 分の のことながら、この資産の時価が 800 の場合 20 に相当する年数 は、貴社は 800 でこの資産を取得し、800 の (ロ)法定耐用年数の一部を経過した資産 みが償却費として損金算入されますので、簿 …その資産の法定耐用年数から経過年 価のステップアップによる償却メリットは生 数を控除した年数に、経過年数の 100 分 じません。 の 20 に相当する年数を加算した年数 また、前述のとおり、事業譲受は税務上 「譲渡取引」であることから、貴社は資産を 新たに取得したこととなります。したがって、 5 その他の課税関係 (1)消費税 株式譲渡は、消費税法上「非課税取引」に その資産が減価償却資産である場合、以下の 該当するため、対価に消費税相当額が上乗せ 論点が生じます。 されることはありません(消法6)。なお、 (1)少額減価償却資産 Y 社においては、課税売上割合の計算上、そ その資産の時価が 10 万円未満の場合にお の対価の額の 100 分の5に相当する金額が分 いては、少額減価償却資産としてその資産を 母に含まれることにより、課税売上割合が減 事業の用に供した事業年度において損金算入 少し、仕入税額控除に影響を与える可能性が が可能となります(法令 133)。 あります。 (2)一括償却資産 一方、事業譲受は、事業に係る資産及び負 その資産の時価が 20 万円未満の場合にお 債の一切を含めて取得するものです。したが いては、一括償却資産の対象として、その資 って、その資産に課税仕入の対象となるもの 産を事業の用に供した事業年度から3年間で が含まれている場合には、その課税仕入に対 損金算入が可能となります(法令133 の2)。 応する消費税相当額を上乗せして対価を支払 (3)中古耐用年数 貴社が取得する資産は、既に X 社において 使用していた資産であるため、貴社にとって は、中古資産の取得となります。中古資産の 取得の場合は、その耐用年数について法定耐 46 zeimu QA その資産をその用に供した時以後の使用 う必要があります。ただし、上乗せした消費 税は当社が課税事業者であることを前提に仕 入税額控除が可能となります。 (2)不動産取得税 Y 社から貴社に X 社株式の譲渡が行われた 用年数を使用することを原則としながらも、 場合、X 社が不動産を有していても、その不 減価償却資産の耐用年数等に関する省令にお 動産の所有者は X 社のままであり、不動産取 2011.11 CASE 3 M&A における株式取得と事業譲受の相違点 (3)登録免許税 得税の論点は生じません。 一方、事業譲受の場合においては、その事 また、不動産を取得して所有権の移転登記 業に係る不動産があると不動産の所有者が X を行った場合、不動産の価額(原則として固 社から貴社に変更しますので、貴社に不動産 定資産税評価額)を課税標準として、土地に 取得税が課せられます。事業譲受の場合、不 ついては2%(平成 24 年3月末までは 1.3 %、 動産の価格(原則として固定資産税評価額) 平成 25 年3月末までは 1.5 %)、建物につい を課税標準として、土地については4%(平 ては2%の税率で登録免許税が課税されます 成 24 年3月末までは3%)、建物については (登録免許税法9、別表第一・一(二)ハ、措 4%の税率となっています(地法 73 の 15、 法 72 ①一)。 地法附 11 の2)。 コメント 場合、キャッシュフローに大きな影響を与 えるため、取引実行前に、それぞれの手法 し、税務上の主たる論点整理を行いました。 に応じた将来の税負担を検証しておくこと 多くの点で税務上の取扱いが異なります。 が不可欠となります。 Selection Q&A 簡単ではありますが、株式取得が行われ た場合と事業譲受が行われた場合とを比較 取引実行後に想定外の納税義務が生じた CASE 3 第2版 完全詳解 タックスヘイブン対策税制・ 外国子会社配当益金不算入制度 KPMG税理士法人 M&A/グローバル・ソリューションズ 編 A5判・512頁 定価3,780円(税込) ◇平成21年度税制改正において導入された外国子会社配当益金不算入制度により、 タ ックスヘイブン対策税制適用のリスク管理の重要性が高まっています。 ◇本書は、 タックスヘイブン対策税制について、制度の内容をはじめ、関連する裁判事例、 裁決事例を織り込み詳しく解説しています。 お問い合わせ・お申し込みは 〒101-0065 東京都千代田区西神田1-1-3(税研ビル) 税務研究会 TEL 03(3294)4741 FAX 03(3233)0197 http://www.zeiken.co.jp お客さまサービスセンター 2011.11 zeimu QA 47