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3 相続税評価額差による追加的な課税 C A S E 二国間で評価額が大きく乖離する場合の
Selection C A S E 3 相続税評価額差による追加的な課税 税理士法人プライスウォーター ハウスクーパース 税理士 UESTION 塩谷 洋子 二国間で評価額が大きく乖離する場合の 対応と外国税額控除の限界 私(日本国籍 ・ 日本居住者)の父(日本 産評価額が日本と韓国で大きく乖離するこ 国籍 ・ 韓国居住者)は、韓国内に非上場株 とが考えられます(試算では、韓国の相続 式を保有しています。 税法に基づく評価額は約 20 億円、日本で 将来、父に相続が発生した場合、父が保 の 相 続 税 法 に 基 づ く 評 価 額 は 約 100 億 有する非上場株式は韓国の相続税の対象と 円)。 なると聞きました。日本と韓国の双方で相 このような場合、外国税額控除により二 続税が課される場合、この非上場株式の財 重課税は完全に排除できるのでしょうか。 日本の相続税法上、国外財産の評価 国税庁質疑応答事例においても、「取引相場 は日本の財産評価基本通達に基づき評 のない外国法人の株式を評価する場合には、 価することとされており、その法人の設立国 類似業種比準方式に準じて評価することがで 等における評価額を用いることはできません。 きない」旨が記載されています(国税庁質疑 ご質問のケースでは、「韓国の非上場株式 応答事例「国外財産の評価−取引相場のない の相続税評価額が、韓国の相続税法に基づく 株式の場合(1)」参照)。 評価額では 20 億円、日本の相続税法に基づく 評価額では 100 億円」であり、両国における 相続税評価額が大きく乖離しています。この 通達に定める評価方法により評価することに 完全には二重課税が排除できないこととなり 留意する。なお、この通達の定めによって評価 ます。 することができない財産については、この通 このように、ある財産について二つの国で 達に定める評価方法に準じて、又は売買実例 相続税が課される場合で、その相続税評価額 価額、精通者意見価格等を参酌して評価する が大きく乖離する場合には、外国税額控除を ものとする。 とがあります。 40 zeimu QA 5- 2 国外にある財産の価額についても、この ようなケースでは、次頁〔図表 1〕のとおり、 適用しても完全に二重課税が排除できないこ 参 考 相法 20 の 2 相基通 20 の 2-1 評基通 5-2 国税庁質疑応答事 例「国 外 財 産 の 評 価−取引相場のな い株式の場合 (1) 」 『相続税法基本通達 逐条解説 (平成22年 版) 』 加藤千博編(大 蔵財務協会) 【財産評価基本通達】 解説 (注)この通達の定めによって評価することが できない財産については、課税上弊害がな い限り、その財産の取得価額を基にその財 1 国外財産に係る評価の原則 産が所在する地域若しくは国におけるその 日本の財産評価基本通達5-2では、「国外 財産と同一種類の財産の一般的な価格動向 にある財産の価額についても、この通達に定 に基づき時点修正して求めた価額又は課税 める評価方法により評価することに留意す 時期後にその財産を譲渡した場合における る」として、国外財産については、財産評価 譲渡価額を基に課税時期現在の価額として 基本通達に基づき評価する旨が留意的に示さ 算出した価額により評価することができる。 れています。また、2012 年1月に公表された 2012.11 CASE 3 相続税評価額差による追加的な課税 〔図表1〕相続税評価額が大きく乖離しているケース 日本 相続人が居住 韓国 被相続人が居住 非上場 株式A 日本での評価額:100 100×50%=50 相続税 外国税額控除 納税額 韓国での評価額:20 20×50%=10 相続税 △10 40 40 評価額差により 生ずる追加的課税 10 納税額 50 ● 韓国側からみれば納税額が10で済むところ、評価額の違いから結果的にトータルで50の納税となる。 えば米国では被相続人(の遺産)が納税義務 産評価基本通達に基づき評価する旨が定めら 者であり、一方、日本では相続人が納税義務 れており、その法人が設立されている国にお 者であるというように、「一つの財産に係る ける評価を準用すること等は認められていま 相続税の納税義務者が異なる場合に、外国税 せん。したがって、日本の相続税の計算上、韓 額控除を適用することができるのか」という 国の非上場株式については日本の財産評価基 疑問が生じることがあるようです。 Selection Q&A このように、国外財産の評価については財 しかし、相続税の外国税額控除は、あくま 本通達に基づく評価額(100 億円)を用いる 〔図1〕□□□□■□□□□●□□□□■□□□□●□□□□■□□□□●□□□□■□□□□●□ でも財産について二重の課税が生じている場 ちなみに、韓国における非上場株式の評価 合に適用することができることとされている 方法は、韓国の相続税法で原則として下記の ため、相手国の課税方式が遺産課税方式であ とおり定められており、損益の要素が考慮さ る場合であっても適用が可能です(相基通 20 れています。 の2-1、 『相続税法基本通達逐条解説』391 頁 <韓国における非上場株式の評価方法> 参照)。なお、韓国の相続税の課税範囲は被相 一株あたりの株式評価額 続人の保有財産をベースに決定されますが、 塩谷 洋子 一株あたりの 一株あたりの ×3+ ×2 純損益価値 純資産価値 = 5 2 なぜ評価額差による追加的な課税が 生じるのか (1)外国税額控除の適用対象者 相続税の納税義務者は日本と同様に財産取得 者とされており、遺産課税方式でありつつも、 米国、英国とは異なる方式が採用されていま す。 (2)追加的な課税が生じる場合 本事例のように、韓国に「非上場株式 A」と 米国、英国、韓国のように遺産課税方式が いう財産があり、被相続人が韓国居住者、相 採用されている場合には、課税範囲は被相続 続人が日本居住者である場合、この相続人は 人の財産とされ、その財産に対して相続税が 双方の国において無制限納税義務者(全世界 課されることとされています。そのため、例 財産課税)となり、この財産は韓国と日本の 2012.11 CASE 3 45Qさげ こととなります。 SHIONOYA yoko 税理士。中央大学経済 学部卒業。会計事務所 勤務を経て、2001 年9 月、税理士法人プライ スウォーターハウスク ーパース入所。日系企 業及び外資系企業に対 する税務関連業務に従 事。 共著に『三訂版 完全ガ イド 事業承継・相続対 策の法律と税務』 (税務 研究会出版局) 、 『国際 税務ハンドブック』 (中 央経済社) がある。 zeimu QA 41 Selection C A S E 3 CASE 3 相続税評価額差による追加的な課税 両国において相続税の課税対象となるため、 税が発生し、財産所在地国における課税の水 二重課税が発生します(〔図表 2〕参照)。 準から見た場合、不合理な結果となることが 考えられます。 〔図表 2〕日本と韓国における相続税の課税方式の比較 3 評価額差による追加的な課税への対応 課税方式 課税範囲 納税義務者 日本 遺産取得課税方式 相続人が取得する財産 相続人 上記の追加的な課税に対する回避策として 韓国 遺産課税方式 被相続人が保有する財産 相続人 は、評価額の水準を一致させることですが、 現在、日本の財産評価基本通達5-2による この場合、その一つの財産についての評価 と、原則として、国外財産についても日本の 額が、それぞれの国において異なる結果とな 財産評価基本通達に基づき評価することとさ ることも実務上想定されます。その相続税計 れ、少なくとも第一義的には現地国における 算上の評価額の乖離が大きければ大きいほど、 評価方法が原則として認められていません。 4 4 4 4 「税率差による追加的な課税」ではなく、「評 4 42 zeimu QA 通達のなお書きでは、「通達の定めによっ 4 価額差による追加的な課税」が生じることに て評価することができない財産」と言ってお なります。 り、「通達の定めによって評価することが適 二国間で相続税が課税される場合において、 切ではない財産」とは言っていません。しか それぞれの国から見た国外財産について、そ し、その場合においても、非上場株式に係る れぞれの国の国内法における外国税額控除規 評価額についての「精通者意見価格」として、 定に基づき、それぞれの国で課税された税額 現地国の専門家による評価額を用いることが を限度としてそれぞれの国において精算する できるかどうかについて検討する余地がある ことになります。本事例のように、韓国に所 かもしれません。 在する非上場株式 A の価値が日本では 100、 4 バスケット方式の外国税額控除 韓国では 20 と評価された場合、外国税額控除 日本は、相続税の外国税額控除について、 の適用状況は具体的にはどのようになるで いわゆるバスケット方式を採用しています。 しょうか。 バスケット方式とは、外国税額控除を適用す 前頁〔図表 1〕のとおり、日本における外 る際に、国ごと又は財産ごとに外国税額控除 国税額控除の適用後の納税額は 40 となり、韓 を分けて計算せずに、すべての国外財産につ 国における納税額 10 と合わせると 50 となり いて一括して外国税額控除を適用することを ます。韓国相続税の観点から見ると、この財 いいます。 産 A についての納税は 10 で済むところ、財産 このバスケット方式が適用されている場合、 取得者が日本に所在したことにより、結果と ある財産については日本の評価額の方が大き して 50 の納税が発生してしまいます。これ いことにより評価額差が生じている場合で は、適用税率差ではなく評価額差により生じ あっても、別の財産については逆の現象が生 る追加的な課税といえます。 じている、つまり相手国(本事例での韓国) このように、財産所在地国ではない国に納 の評価額の方が大きいことにより評価額差が 税義務者が存在する場合で、かつ、その国の 生じている場合には、その影響は外国税額控 規定に基づく評価額が財産所在地国のそれよ 除の計算過程において相互に相殺され、結果 りも大きい場合には、このような追加的な課 として全体の評価額差による追加課税の影響 2012.11 4 CASE 3 相続税評価額差による追加的な課税 額は小さくなることも考えられます。 しくない状況にあることから、今後の実務に ただし、個々の財産の評価額又はその財産 おいて、日本の相続税の計算上「財産所在地 への適用税率いかんにより、その影響は異な 国の国内法に基づく評価額を採用することの ります。そのため、バスケット方式が採用さ 可否」についての検討が必要な局面が出てく れている外国税額控除の計算において、この ることが想定されます。 評価額差による追加課税の影響額の分析を行 また、外国税額控除について上述の“バス うことは、実務上煩雑となります。 ケット方式”が適用されていますので、合わ 5 外国税額控除による二重課税の排除の限 せてこの点も考慮しながら外国税額控除の適 界にどのように対応するか 用範囲を検討していくことが必要となるもの 最近は海外に財産を保有することがめずら と思われます。 コメント 完全には(あるいは全く)二重課税が排 (所得税課税)」が行われる場合や、いわゆ 除できないケースとしては、本事例のよう る第三国に財産が所在する場合などが想定 な「評価額差による二重課税」以外に、相 されます。 Selection Q&A 手国において相続時に「みなし譲渡益課税 CASE 3 ●相続にまつわる税務・法務の総合解説書! 六訂版民法・税法による 遺産分割の手続と相続税実務 小池 正明 著 B5判・720頁 定価 4,830円(税込) お問い合わせ・お申し込みは 税務研究会お客さまサービスセンター ◇本書は、相続の実務に不可欠な民法相続編の各規定 に基づいて、遺産分割をはじめ相続放棄や限定承認 相続の手続、遺留分やその減殺方法など、多種多様な 実務処理とそれを的確に実行するためのポイントを解説 しています。 〒101-0065 東京都千代田区西神田1-1-3(税研ビル) TEL 03(3294)4741 FAX 03(3233)0197 http://www.zeiken.co.jp 2012.11 zeimu QA 43