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3 会計方針の変更による 遡及適用の会計処理と税務処理 C A S E

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3 会計方針の変更による 遡及適用の会計処理と税務処理 C A S E
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会計方針の変更による
遡及適用の会計処理と税務処理
C A S E
3
税理士法人プライスウォーター
ハウスクーパース 公認会計士・税理士
UESTION
参 考
企 業 会 計 基 準 第 24
号「会計上の変更及
び誤謬の訂正に関す
る会計基準」
(2009
年 12 月 4 日、企 業 会
計基準委員会)4(5)
、
4(9)
企業会計基準適用指
針第 24 号「会計上の
変更及び誤謬の訂正
に関する会計基準の
適用指針」
(同上)
会社法 435 ②
法法 22
法基通 7-3-3 の 2
法人課税課情報第 3
号、審 理 室 情 報 第 1
号、調 査 課 情 報 第 1
号『法 人 が「会 計 上
の変更及び誤謬の訂
正に関する会計基準
を適用した場合の税
務処理について(情
報)
』
(平成 23 年 10 月
20 日、国税庁法人課
税課審理室調査課)
平成 12 年 12 月 4 日裁
決(
「裁 決 事 例 集 」
No.60・28 頁)
『法人税基本通達逐
条解説(六訂版)
』森
文人編著(税務研究
不動産取得時に生ずる不動産取得税及び
登録免許税の処理
当社は不動産賃貸業を営んでおり、都内
を集計したところ、期首に保有している物
に多数の賃貸用不動産を所有しています。
件について、支出時の費用として処理した
状況に応じて賃貸物件の売却や新規取得を
不動産取得税及び登録免許税のうち、土地
しており、毎期数件の賃貸物件の入換えも
に係る金額が 300 百万円、建物に係る金
行ってきています。
額が 400 百万円(仮に取得価額として減
これまで、不動産(土地、建物)を取得
価償却をした場合の期首簿価と実際の期首
した際に生ずる不動産取得税及び登記に要
簿価との差額は 200 百万円)でした。し
する登録免許税については、固定資産の取
たがって、当期は遡及適用の会計処理とし
得価額に算入せず、支出時の費用として会
て、土地 300 百万円及び建物 200 百万
計処理し、税務上も支出時の損金として処
円の期首会計簿価の増額、及びこれに対応
理をしてきました。
する利益剰余金等の増額調整が必要となり
しかし当期の取得物件から、不動産取得
ます。この会計処理により、過年度に会計
時に生ずる不動産取得税及び登録免許税に
上費用処理し、税務上も固定資産の取得価
ついては、固定資産の取得価額として処理
額に含めずに損金処理を選択した不動産取
する方法へ、会計処理を変更しました。ま
得税及び登録免許税が、当期に実質的に戻
た、この処理に関して会計監査人から、
「こ
入れされることになります。
れは会計方針の変更に該当するものであり、
この 500 百万円については、過年度の
過年度に取得して現在保有している物件に
修正申告が必要でしょうか。あるいは、過
係る不動産取得税及び登録免許税について、
年度の修正申告ではなく、当期の益金の額
遡及適用の会計処理を行うように」という
として課税所得に含める必要があるでしょ
指導がありました。
うか。本件に係る適切な税務処理を、具体
そこで、遡及適用の会計処理に係る金額
的にご教示ください。
1 貴社は、過年度(不動産取得税及
に応じて加算 ・ 留保され、建物に係る 200
び登録免許税を費用・損金処理した
百万円については当期以降の建物の減価償
事業年度)の法人税等の修正申告を行う必要
却及び除売却等に応じて加算・留保される
はありません。
ことになります。
2 遡及適用の会計処理による 500 百万円の
解説
資産及び利益剰余金等の増額修正について
1 過年度遡及会計処理について
は、当期の益金の額として課税所得に含め
2009 年 12 月4日に、企業会計基準委員会
る必要はありません。
から企業会計基準第 24 号「会計上の変更及び
3 法人税申告書別表五(一)の期首利益積立
誤謬の訂正に関する会計基準(過年度遡及会
金額の記載内容の調整(合計額は不変)を
計基準)」及び企業会計基準適用指針第 24 号
することになります。なお、土地に係る 300
「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計
会出版局)
30 zeimu QA
山田 盛人
2013.4
百万円については当期以降の土地の譲渡等
基準の適用指針(過年度遡及会計適用指針)」
CASE 3 会計方針の変更による遡及適用の会計処理と税務処理
が公表され、2011 年4月1日以後開始事業年
【遡及適用による期首残高調整の会計処理】
過年度遡及会計基準では、会計方針の変更
建物 200 があった場合は遡及適用による遡及処理を行
また、下記 2 にてご説明しますが、当該遡
うという取扱いが示されています。この「会
及適用による過年度の修正申告及び当期の益
計方針の変更」とは、従来採用していた一般
金認識は不要であるため、上記の会計処理に
に公正妥当と認められた会計方針から他の一
より、土地及び建物の会計上の帳簿価額と税
般に公正妥当と認められた会計方針に変更す
務上の帳簿価額との間に差異(会計簿価>税
ることをいい(同基準4
(5))、
「遡及適用」と
務簿価)が生ずることとなります。これは将
は、新たな会計方針を“過去の財務諸表に
来加算一時差異であることから、次の税効果
遡って適用していたかのように”会計処理す
に関する会計処理(実効税率 36%と仮定しま
ることをいいます(同基準4(9))。
す)もあわせて遡及適用が必要となります。
したがって、会計方針の変更に基づく遡及
利益剰余金 180 / 繰延税金負債 180
適用がされた場合には、過年度の期間に関す
2 過年度の修正申告の要否について
る累積的影響額を、表示する財務諸表のうち
上記のような過年度遡及会計基準に基づく
最も古い期間の期首の資産、負債及び純資産
遡及処理(遡及適用)は、当期の計算書類の
の額に反映することになります。
作成作業において期首残高への調整処理を行
ここで、「表示する財務諸表のうち最も古
うものであり、過年度において既に「確定し
い期間」について考えてみます。会社法上の
た決算」の内容を修正するものではありませ
計算書類は、当期分のみを作成するものとさ
ん。したがって、このような遡及処理が行わ
れています(会社法 435 ②)。これを前提とす
れたとしても、過年度の確定申告において
れば、「表示する財務諸表のうち最も古い期
誤った課税所得の計算を行っていたのでなけ
間」とは「当期」であり、つまりは会計方針
れば、過年度の課税所得の金額や税額に対し
の変更を行った事業年度の期首残高を調整す
て影響を及ぼすことはないと理解されます。
る会計処理を行うことになります。
ただし、前期末残高と当期首残高が不一致
固定資産(土地、建物)を取得した際に付
となることから、当期の法人税申告書別表五
随して発生する不動産取得税及び登録免許税
(一)において所要の調整が必要となります。
を固定資産の取得価額に含める処理、反対に
この取扱いは、2011 年(平成 23 年)10 月 20
取得価額に含めずに費用として計上する処理
日に国税庁法人課税課審理室調査課より発信
は、いずれも一般に公正妥当と認められた会
された『法人が「会計上の変更及び誤謬の訂
計方針といえます。
正に関する会計基準を適用した場合の税務処
したがって、貴社の行った処理の変更は、
理について(情報)』にも示されており、また
会計方針の変更に該当するものと理解されま
同(情報)では会計方針の変更の設例として
す。そのため、過年度の期間に関する累積的
は、棚卸資産の評価方法、売上計上基準の変
影響額(土地 300 百万円、建物 200 百万円)を
更のケースにおける具体的処理が解説されて
期首残高に調整する会計処理が必要となりま
います。
す。
今回のケースにおける不動産取得税及び登
CASE 3
土地 300 利益剰余金 500
Selection Q&A
度から適用が開始されています。
山田 盛人
YAMADA morito
公認会計士・税理士。
1995年慶応 義 塾 大 学
経済学部卒業。
Big4系
列の監査法人・税理士
法人を経て、
2004年7月
税 理 士 法 人プライス
ウォーターハウスクー
パース入所。主に日系
企 業の法人申告業 務、
事業承継・組織再編・
資産税に関連するコン
サルティング業務従事
等の他、証券会社プラ
イベート・バンキング部
門への出向経験もある。
主な著書として「三訂
版事業承継・相続対策
の法律と税務」
「資本取
引 税 務 ハンドブック」
「 国 際 資 産 税 ガイド」
(いずれも税理士法人
PwC編)
等があり、日本
公認会計士協会実務
補習教材検討委員等
も務めている。
2013.4
zeimu QA 31
Selection
C A S E
3
CASE 3 会計方針の変更による遡及適用の会計処理と税務処理
録免許税を固定資産の取得価額に算入しない
この裁決事例からは、取得価額に算入する
ことができるという税務処理は、法人税基本
若しくは算入しないという処理の選択は、実
通達7-3-3の2において明示されています。
務上、会計処理と税務処理は統一されてきた
過年度に不動産取得税及び登録免許税を費用
と理解されますが、通達及びその解説におい
計上し、そのような決算書を基礎として税務
ては損金算入(取得価額に算入しない)処理
上も損金算入をしても、過年度の確定申告に
をすることについての損金経理(会計上の費
おいて誤った課税所得の計算を行っていたこ
用処理)の要件は示されていません。
とにはなりません。したがって、過年度の課
税所得の金額及び税額に対して影響を及ぼす
以上の規定・解説・裁決事例等に鑑みれば、
ことはなく、修正申告の必要はありません。
過年度における決算及び税務処理は適正なも
3 当期申告における益金認識の要否について
のであり、当年度の会計方針の変更による遡
(1)法基通の規定
及処理が会計上行われ、固定資産の簿価と利
法人税基本通達7-3-3の2では、不動産取
益剰余金の期首残高を増額調整したとしても、
得税及び登録免許税等は固定資産の取得に関
それを当期の益金の額に算入する根拠はなく、
連して支出するものであっても、これを固定
また取得価額への算入の選択を認めている趣
資産の取得価額に算入しないことができると
旨からも問題はないと理解されます。
示しています。
また、会計方針の変更に基づく遡及適用は
この規定について国税庁の担当官は、「こ
利益剰余金への増減調整をするものであり、
れらの租税公課等は一種の事後費用であるう
損益計算書での収益又は費用計上を行うもの
え、その性格も流通税的なものないしは第三
ではありません。
者対抗要件を具備するための費用であって、
したがって、法人税法 22 条を根拠として
必ずしも固定資産の取得原価そのものとはい
も、今回のケースにおける遡及処理 500 百万
いきれない面がある。そこで、これらの租税
円(土地 300 百万円、建物 200 百万円)を当期
公課等を取得価額に算入するかどうかは法人
の益金の額に算入する必要はないと理解され
の判断に任せることとされている。」と解説
ます。
しています(『法人税基本通達逐条解説(六訂
4 具体的な税務処理について
版)』527 頁)。
今回のケースにおける遡及処理については、
(2)関連する裁決例
32 zeimu QA
(3)本ケースの場合
前述のように過年度の修正申告及び当期の課
また、過去の裁決例では、不動産取得税及
税所得への影響はありません。ただし、前期
び登録免許税を固定資産の取得価額に算入す
末残高と当期首残高が不一致となることから、
る会計処理・税務処理をしたが、会計処理の
当期の法人税申告書において所要の調整が必
選択誤りであったとして損金算入を求める更
要です。
正の請求を行ったところ、法人が認められて
具体的には、別表五(一)の記載内容を調整
いる複数の処理の中から選択したものであり、
することが必要であり、次頁〔図表 1〕のよ
当該会計処理に誤りはなかったものであるこ
うな調整結果となります。
とから、更正の請求は認められないとされた
〔図表 1〕の別表五
(一)
の調整が意味してい
事例もあります(平成 12 年 12 月4日裁決)。
るところは、会計上の遡及処理にあわせて表
2013.4
CASE 3 会計方針の変更による遡及適用の会計処理と税務処理
〔図表 1〕別表五(一)における調整
別表五(一)利益積立金額の計算に関する明細書
(遡及適用がなかった場合の状況)
区分
(遡及適用に伴う調整後)
期首現在
利益積立金額
①
利 益 準 備 金
500
任 意 積 立 金
1,000
遡及適用の反映
利 益 準 備 金
500
任 意 積 立 金
1,000
繰延税金負債
180
土地
△ 300
土
地
△ 300
建物
△ 200
建
物
△ 200
320
繰 越 損 益 金
2,320
0
差 引 合 計 額
2,000
利益剰余金
3,500
合計
:
差 引 合 計 額
①
Selection Q&A
180
繰延税金負債
繰 越 損 益 金
期首現在
利益積立金額
区分
:
3,500
た土地が全て譲渡等されれば、300 の加算留
合計額に与える影響はゼロであることから、
保の申告調整がなされ、別表五(一)の「土地
税務上は「当該遡及処理がなかった」ものと
△ 300」の額はゼロになります。
していると理解されます。
また、調整後に記載されている「建物△
調整後に記載されている「土地△ 300」に
200」については、減価償却に対応して当期以
ついては、今後土地の譲渡等が行われるまで
降加算留保の申告調整が行われ、減価償却が
留保され続けることになります。当期以降に
終了するまで又は建物が除売却されるまで残
おいて土地を譲渡等した場合、遡及適用によ
額が留保されることになります。遡及適用後
り増額された帳簿価額が譲渡原価となり、会
は、遡及適用により増額された帳簿価額(取
計上は譲渡益(損)が、遡及適用をしなかった
得価額)を基礎として減価償却が行われるた
場合に比べ少なく(多く)計上されることに
め、会計上は遡及適用をしなかった場合に比
なります。したがって、その際には譲渡した
べて、より多く減価償却費が計上されること
土地に対応する額を加算留保処理により申告
になりますので、その分の金額を毎期加算留
調整することになります。仮に、遡及適用し
保により申告調整していくことになります。
CASE 3
示内容を調整しているものの、利益積立金の
コメント
過年度遡及会計基準における遡及処理は、
及処理の場合は、原則として過年度の税務
会計方針の変更、表示方法の変更、過去の
申告の誤りはないものと考えられますが、
誤謬の訂正といった事態が生じた場合に適
過去の誤謬の訂正の場合には、内容によっ
用されます。
て修正申告や更正の請求が必要となるケー
会計方針の変更及び表示方法の変更の遡
スもありますので注意が必要です。
2013.4
zeimu QA 33
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