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4 外国の信託会社による信託の 引受けがあった場合の贈与税 C A S E

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4 外国の信託会社による信託の 引受けがあった場合の贈与税 C A S E
Selection
C A S E
4
外国の信託会社による信託の
引受けがあった場合の贈与税
税理士法人プライスウォーター
ハウスクーパース 税理士
深田 かおり
UESTION
パススルー信託による国際贈与
私は、長年、仕事の関係で家族とともに
しました。
海外で生活していましたが、昨年妻ととも
この信託契約は、プライベートに設計さ
に帰国し、現在は日本で生活しています。
れたいわゆる「パススルー信託」ですが、
ただし、海外の学校を卒業した子供達(A、
信託設定時に日本でどのような課税関係が
B)は、そのまま現地企業に就職し、日本
生じるのでしょうか。また、新しく制度化
には帰国せず引き続き海外で暮らしていま
された国外財産調書への記載は必要でしょ
す。A は日本国籍ですが、B は現地国の国
うか。
籍を取得しています。
なお、この外国の信託会社は、日本には
このたび外国の信託会社との間で、私が
営業所等を有していません。
日本に保有する不動産 C、D を信託財産と
子 A と子 B の国籍、居住地や相続税法
する信託契約を締結し、その信託受益権者
上の納税義務者区分は、次のとおりです。
をそれぞれ子 A と子 B に設定することに
国籍
参 考
相法 1 の 4 三
2の2②
9 の 2 ①⑥
10 ①一・九
所法 2 ①三
送法 5 ①③
送令 10 ⑥
送規 12 ③四
48 zeimu QA
住所地
納税義務者区分
子A
日本
外国居住
非居住無制限納税義務者
子B
外国
外国居住
制限納税義務者
本事例のような、いわゆる「パスス
険事故、債務免除など、民法上の本来の贈与
ルー信託」に関する権利は、その設定
行為とは異なる事象によって、実質的に贈与
時の信託の委託者と受益者が異なる場合、委
を受けたと同様の経済的効果がもたらされる
託者から受益者に対し当該信託財産に属する
場合には、税負担の公平性確保の見地から、
個々の資産や負債の贈与があったものとみな
これらの行為により利益を受けた者が贈与に
されます。したがって、親から子 A、B に対
より財産を受けたものとみなして、贈与税の
し、それぞれ日本の不動産 C、D の贈与があっ
納税義務を課しています。例えば信託の場合、
たものとして、贈与税の納税義務が生じます。
退職年金支給目的等の信託以外の信託は、そ
本事例における信託受益権の所在は日本国
の信託設定時に信託の委託者から受益者(適
内にあると判断されますので、制限納税義務
正な対価を負担していない場合に限る。)に
者である子 B への贈与であっても、日本の贈
対し、信託に関する権利の贈与があったもの
与税の対象です。
とみなされます(相法 9 の 2 ①)。
なお、国外財産調書は、所得税法上の居住
なお、外国の信託会社が現地法令に準拠し
者が提出すべきものですので、子 A、B には
て引き受けた信託契約について、日本の税務
提出の義務はありません。
上どのように取り扱うべきかについての明文
解説
規定はありません。しかし、日本における課
1 みなし贈与
税関係ですので、あくまでも当該信託契約の
相続税法上、信託設定や生命保険契約の保
性質を日本の税法に照らして課税関係を整理
2013.1
CASE 4 外国の信託会社による信託の引受けがあった場合の贈与税
することになります。
以上より、本事例のように親が委託者、子
〔表 1〕贈与税の納税義務者区分と課税財産の範囲
外国居住
A、B が受益者となるパススルー信託を設定
した場合には、相続税法 9 条の 2 第 1 項の規定
により、信託設定時に親から子への贈与が
日本国籍
受贈者
贈与者
日本居住
あったものとして子に贈与税の納税義務が生
2 贈与財産の所在判定
は、非居住無制限納税義務者として、贈与に
より取得した国内財産と国外財産のすべてに
5年以内のい
ずれかの時に
おいて国内に 居住無制限
納税義務者
住所あり
5年以内のい
ずれの時にお
いても国内に
住所なし
非居住無制限納税義務者
国内財産 ・ 国外財産の
両方に課税
制限納税義務者
国内財産にのみ課税
になりますので、当該信託受益権は国内財産
一方の受贈者である子 B(外国居住かつ外
ということになります(相法 10 ①一)。
国国籍)は、制限納税義務者に該当します。し
したがって、親から非居住無制限納税義務
たがって、現行法上、親の居住地や国籍にか
者である子 A、制限納税義務者である子 B に
かわらず、国内財産の贈与のみが日本の贈与
対し、それぞれ国内不動産 C、D の贈与があっ
税の課税対象となります(相法 1 の 4 三、2 の
たものとして、子 A、B ともに贈与税の申告
2 ②、
〔表 1〕参照)。以上から、子 B が取得し
義務が生じます。外国の信託会社を通じて設
た信託受益権の所在判定が、子 B の納税義務
定したからといって、制限納税義務者への国
成立との関連で重要なポイントとなります。
外財産の贈与として、子 B に日本の贈与税が
外国の信託会社を通じて設定した信託受益
生じないわけではありません。
権について、「外国の信託会社が発行した受
3 国外財産調書制度との関係
益証券である」と誤解し、
「信託の引受けをし
平成 24 年度税制改正により、居住者のオフ
た信託会社が外国に所在するため、その証券
ショア関連取引や国外財産の把握を強化する
が国外財産に該当するのではないか」と考え
目的で、「内国税の適正な課税の確保を図る
る人もいるようです。しかし、それは集団投
ための国外送金等に係る調書の提出等に関す
資信託や法人課税信託に関する受益権の場合
る法律」(以下「送法」という。)が改正され、
に限られます(相法 10 ①九)。
国外財産調書制度について法制化されました。
いわゆるパススルー信託の受益者は、その
従来より、同法には 100 万円超の国外送金に
信託財産に属する個々の資産や負債をそれぞ
係る国外送金等調書の規定がありましたが、
れ贈与により取得したものとみなされますの
本改正により新たに国外財産調書に関する規
で(相法 9 の 2 ⑥)、個々の資産ごとにその所
定が盛り込まれました。
在を相続税法 10 条に基づき判定します(次頁
国外財産調書制度は、所得税法に定義され
〔表 2〕参照)。本事例の場合、信託財産であ
る居住者が提出するもので(送法 5 ①)、平成
る不動産の所在地により内外判定を行うこと
25 年 12 月 31 日時点に保有する国外財産から
CASE 4
対し贈与税が課されます。
Selection Q&A
者の一人である子 A(外国居住かつ日本国籍)
外国居住
は、日本に住んでいます。したがって、受贈
5年以内のい
ずれの時にお 外国籍
いても国 内に
住所なし
日本居住
じます。
本事例の場合、贈与者である信託の委託者
5年以内のい
ずれかの時に
おいて国 内に
住所あり
深田 かおり
FUKADA kaori
税理士。早稲田大学商
学部卒業。2004 年2月
税 理 士 法 人プライス
ウォーターハウスクー
パース入所。主に日本
企 業の法人税申告業
務、事業承継・組織再
編・資産税に関するコ
ンサルティング業務に
従事。
共著に
『三訂版 完全ガ
イド 事 業 承 継・相続
対 策 の 法 律 と税 務 』
(税務研究会出版局)
、
『国際資産税ガイド∼
国外財産・海外移住・
国 際 相 続をめぐる税
務』
(大蔵財務協会)が
ある。
2013.1
zeimu QA 49
Selection
C A S E
4
CASE 4 外国の信託会社による信託の引受けがあった場合の贈与税
適用が開始されます。ここでいう「居住者」
なお、信託受益権の場合、相続税の課税対
とは、日本に住所又は 1 年以上継続する居所
象となる財産の内外判定と国外財産調書制度
を有する個人を指します(所法 2 ①三)ので、
の内外判定とは異なる規定となっています。
本事例の子 A、子 B は、そもそも国外財産調
相続税の課税対象となる財産の内外判定は、
〔表 2〕のとおりですが、国外財産調書に記載
書を提出する義務はありません。
すべき財産の内外判定は、原則として相続税
〔表 2〕相続税法の財産の所在
財産の種類
動産
所在の判定
条文番号
同規定に記載のない財産について別段規定を
その動産の所在
不動産又は不動産の上に
その不動産の所在
存する権利
相法 10 ①一
船籍又は航空機の登録をした機
関の所在
船舶又は航空機
鉱業権、租鉱権、採石権 鉱区又は採石場の所在
法の規定(相法 10 ①②)を準用しながらも、
設けているものがあります(送法 5 ③、送令
10 ⑥)。本事例のような信託に関する権利に
ついては、その信託の引受けをした営業所等
相法 10 ①二
の所在により判定することとされています
漁業権、入漁権
漁業に最も近い沿岸の属する市
町村又はこれに相当する行政区 相法 10 ①三
画の所在
預金、貯金、積金
その受入れをした営業所又は事
相法 10 ①四
業所の所在
保険金
その保険契約に係る保険会社等
相法 10 ①五
の本店又は主たる事務所の所在
退職手当金等
その給与等を支払った者の住所
又は本店若しくは主たる事務所 相法 10 ①六
の所在
産であるため、国外財産調書への記載を失念
貸付金債権
その債務者の住所又は本店若し
相法 10 ①七
くは主たる事務所の所在
社により外国で設定された信託の受益者は、
社債、株式、出資
その社債若しくは株式の発行法
人、出資のされている法人の本 相法 10 ①八
店又は主たる事務所の所在
集団投資信託又は法人課 これらの信託の引受けをした営
相法 10 ①九
税信託
業所又は事務所の所在
特許権、実用新案権、意
その登録をした機関の所在
匠権、商標権等
相法 10 ①十
(送規 12 ③四)。
仮に、本事例のケースで受益者である子が
日本居住者であった場合、信託設定後の当該
不動産の所有権が受託者である信託会社名義
であることや、個々の信託財産が日本の不動
してしまう可能性があります。外国の信託会
当該信託受益権を国外財産として国外財産調
書に記載して提出する必要がありますので留
意が必要です。
4 平成 25 年度税制改正の可能性
本事例は、国内不動産 D が制限納税義務者
である子 B に対し贈与されたケースでしたが、
著作権、出版権、著作隣 これを発行する営業所又は事業 相法 10 ①
接権
所の所在
十一
現行法上、制限納税義務者に対する国外財産
相法 7 条の規定により贈 そのみなされる基因となった財
相法 10 ①
与又は遺贈により取得し 産の種類に応じ、この条に規定
十二
たものとみなされる金銭 する場所
とは、前述の〔表 1〕のとおりです。
上記以外の財産以外の財
産で営業上、事業上の権
その営業所又は事業所の所在
利(売掛金等のほか、営
業権、電話加入権等)
日本の国債、地方債は法施行地
(日本)に所在、外国又は外国
相法 10 ②
の地方公共団体等の発行する公
債は、その外国に所在
国債、地方債
その財産の権利者であった被相
相法 10 ③
続人又は贈与者の住所の所在
その他の財産
50 zeimu QA
相法 10 ①
十三
2013.1
の贈与は日本の贈与税の課税対象外であるこ
ただし、平成 25 年度税制改正において、外
国籍の相続人や受贈者に対する日本居住の被
相続人や贈与者からの国外財産の相続・贈与
を新たに相続税・贈与税の課税対象とすべく、
納税義務の範囲を検討することが、平成 24 年
11 月 14 日の政府税制調査会において協議さ
れています。これは、子や孫等に外国籍を取
得させることにより、国外財産への課税を免
CASE 4 外国の信託会社による信託の引受けがあった場合の贈与税
れるような租税回避事例が生じていることに
対して、財務省が改正要望として税制調査会
〔表 3〕平成 25 年度税制改正後の贈与税の納税義務者区分と
課税財産の範囲(推定)
外国居住
に提案したものです。
日本国籍
本改正案が実現した場合、相続税の納税義
務者区分と課税財産の範囲は〔表 3〕のよう
相続人
被相続人
日本居住
になるものと推定されますが、平成 25 年度税
制改正の動向は、本稿作成時において明確に
5年以内のい
ずれかの時に
おいて国 内に
住所あり
5年以内のい
ずれの時にお 外国籍
いても国 内に
住所なし
国外財産
にも課税
日本居住
はなっていません。
いても国内に
住所なし
国内財産にのみ課税
Selection Q&A
外国居住
5年以内のい
非居住無制限納税義務者
ずれかの時に
居住無制限
おいて国内に
納税義務者
住所あり
国内財産 ・ 国外財産の
5年以内のい
両方に課税
制限納税義務者
ずれの時にお
CASE 4
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〒101-0065 東京都千代田区西神田1-1-3(税研ビル)
TEL 03(3294)4741 FAX 03(3233)0197
http://www.zeiken.co.jp
2013.1
zeimu QA 51
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