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2 繰越欠損金や含み損資産を有する法人を 買収した場合の税務上の留意点 C A S E

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2 繰越欠損金や含み損資産を有する法人を 買収した場合の税務上の留意点 C A S E
Selection
C A S E
2
繰越欠損金や含み損資産を有する法人を
買収した場合の税務上の留意点
税理士法人プライスウォーター
ハウスクーパース 税理士
UESTION
前田 貴子
欠損等を有する法人を買収した後、
適格合併を行った場合の税務上の留意点
当社は Y 社との共同出資(出資比率は
事業を行う子会社の整理により多額の繰越
それぞれ 50 %)により、民法上の任意組
欠損金を有しています(下記【A 社グルー
合(以下「組合」という。)を設立してい
プの状況】参照)。
ます。このたび、同組合を通じ、食品小売
当社及び Y 社は、経営資源の集中化に
業を行っている A 社グループを買収する
よる経営効率の向上及びコストダウンを実
ことになり、2010 年 3 月に A 社株式の
現するため、買収後に A 社、B 社及び C
全部を取得することになりました。
社を合併することを検討しております。
A 社は B 社(食品小売業)及び C 社
この場合、合併後の法人において A 社
(食品の製造加工販売)の株式全部を保有
が有していた繰越欠損金を、税務上使用す
する持株会社であり、過年度に行った外食
2. A 社は株式保有のみを行っており、配当以
【買収、合併のイメージ】
当社
ることはできるのでしょうか。
Y社
外の収益が計上されておらず、従業員もお
りません。
50%
組合
50%
3. A 社は買収事業年度(2010 年 3 月期)に
おいて前事業年度から繰り越された青色欠
①株式取得 100%
損金(以下「繰越欠損金」という。)を有
②合併
A社
100%
100%
しています。
4. A 社、B 社及び C 社は、含み損資産を有し
ていません。
B社
C社
5. A 社は 2003 年に株式移転により設立さ
れており、設立から継続して B 社及び C 社
【A 社グループの状況】
1. A 社、B 社及び C 社は、3 月決算の内国法
人です。
24 zeimu QA
6. A 社、B 社及び C 社の合併は、適格合併に
該当します。
回答
配された欠損等法人の欠損金の繰越しの不適
結論から申し上げると、ご質問のケ
用措置等」という制度が設けられています
ースについては、合併後の法人において A 社
(法法 57 の2)。ご質問のケースについては、
が有していた繰越欠損金を使用することはで
この制度の適用により、A 社が有していた繰
きないと考えられます。
越欠損金の使用に制限が課されることになる
繰越欠損金や含み損資産を有する法人を買
参 考
法法57②、
57の2
60の3
法令113の2、
118の3
法規3①、
26の5
株式を保有しています。
と考えられます。
収し、その法人に利益の見込まれる事業を移
ただし、買収前に合併を行う場合には、合
転することによって、同法人の繰越欠損金や
併後の法人において A 社が有していた繰越欠
含み損を不当に利用するといった租税回避行
損金を使用することができる可能性がありま
為を防止するため、「特定株主等によって支
す。A 社、B 社及び C 社の 100 %資本関係は
2010.5
繰越欠損金や含み損資産を有する法人を買収した場合の税務上の留意点
CASE 2
既に5年を経過しているため、この合併が適
う制度です。
(1)繰越欠損金の使用制限
格合併に該当する場合には、A 社の繰越欠損
金の使用及び引継に関して、制限は課されな
欠損等法人の適用事由が生じた日の属する
いものと考えられます(法法 57 ②)。
事業年度以後の各事業年度において、その適
売り手との交渉次第となりますが、A 社グ
用事業年度前の各事業年度において発生した
ループ買収前に合併を行うことについて検討
繰越欠損金を使用することができない(法法
することも一考の余地があるかと思われます。
57 の2)
(下記〔図表 1〕参照)
。
(2)資産譲渡等損失額の損金算入制限
解説
欠損等法人が特定支配日において有する含
た欠損等法人の欠損金の繰越しの不適用措置
み損のある一定の資産について、適用事業年
等」の内容をご紹介し、ご質問のケースにつ
度開始日から3年を経過する日(又は特定支
いて検討・解説していきます。
配日から5年を経過する日のいずれか早い
1
日)までの期間にその資産の譲渡等により損
制度の概要
失が生じた場合には、その損失について損金
の欠損金の繰越しの不適用措置等」とは、繰
算入することができない(法法 60 の3)
。
越欠損金や含み損資産を有する法人(以下
2
欠損等法人とは
「欠損等法人」という。後述 2 参照)が、特
本制度における「欠損等法人」とは、特定
定の株主によりその発行済株式総数の過半数
支配日の属する事業年度において、前事業年
の株式を直接又は間接に取得された場合(以
度から繰り越された青色欠損金又は含み損の
下「特定支配関係」という。後述 3 参照)に
ある一定の資産を有する法人をいいます(法
おいて、その特定支配関係が生じた日(以下
法57 の2①)
。
「特定支配日」という。)から5年以内に事業
ご質問のケースでは、A 社は、買収事業年
内容に著しい変化を生じる一定の事由(以下
度(2010 年3月期)において前事業年度か
「適用事由」という。後述 4 参照)が生じた
CASE 2
「特定株主等によって支配された欠損等法人
Selection Q&A
以下、この「特定株主等によって支配され
ら繰り越された青色欠損金を有しているため、
場合に、次の(1)
( 2)の制限が課されるとい
欠損等法人に該当することになります。
前田 貴子
MAEDA takako
〔図表 1〕青色欠損金の繰越控除の不適用のイメージ
税理士法人プライスウォ
ーターハウスクーパース
アシスタントマネージャー。
税理士。
2000年司法書士資格取
得、司法書士事務所に
て会社法務、登記関連
業務に従事。
05 年 9 月税理士法人プ
ライスウォーターハウス
クーパース入所。
現在、
主に法人・個人の
税務顧問業務、組織再
編その他 M&A 関連税
制等に関する税務コン
サルティング業務に携
わっている。
特定支配関係発生
特定支配日以後5年を経過した日の前日まで
2009/3
2010/3
2011/3
2012/3
2013/3
2014/3
2015/3
2016/3
適用事由発生事業年度
欠損
欠損
欠損
所得
所得
所得
所得
相殺できない
適用事由発生事業年度以後の各事業年度において、適用事業年
度前の各事業年度において生じた青色欠損金の繰越控除不可
2010.5
zeimu QA 25
Selection
C A S E
2
CASE 2
3
繰越欠損金や含み損資産を有する法人を買収した場合の税務上の留意点
特定支配関係について
特定支配関係とは、特定の株主によりその
ることが見込まれていること。
②
欠損等法人が旧事業の事業規模のおおむ
発行済株式総数の過半数の株式を直接又は間
ね5倍を超える資金の借入れ又は出資によ
接に取得される関係をいいます(法令 113 の
る金銭その他の資産の受入れ(以下「資金
2①)。組合を通じて欠損等法人の株式を取
借入れ等」という。)を行うこと。
得した場合には、民法上、各組合員がそれぞ
ここでいう事業規模とは、売上金額、収
れ欠損等法人の株式を取得したものと考えま
入金額その他事業の種類に応じて、政令で
すが、特定支配関係の判定においては、他の
定めたものをいいます(法令 113 の2⑫)
。
組合員の株式数も含めて判定を行う、すなわ
(3)特定の株主等が欠損等法人に対する特定
ち、組合が取得した株式総数により行うこと
債権を取得している場合
になります(法令 113 の2①⑤)
。
欠損等法人が次の①及び②に該当する場合
ご質問のケースでは、貴社と Y 社の組合へ
の出資比率はそれぞれ 50 %となっているた
をいいます(法法 57 の2①三)
。
①
特定の株主又は特定の株主の関連者が欠
め、民法上、貴社及び Y 社がそれぞれ A 社株
損等法人に対する特定債権を取得している
式を 50 %取得したことになります。特定支
こと。
配関係の判定上は、貴社の株式保有割合
ここでいう特定債権とは、欠損等法人に
50 %に他の組合員である Y 社の株式保有割合
対する債権で、その取得の対価の額がその
50 %を含めて判定を行いますので、A 社は特
債権の額(額面金額)の 50 %未満の場合
定の株主により株式の全部を取得されたこと
で、かつ、その取得した債権が取得のとき
になり、特定支配関係が生じることになりま
における欠損等法人の債務の総額の 50 %
す。
超である場合のその債権をいいます(法令
4
113 の2⑲)
。
適用事由について
本制度における「適用事由」とは、次の(1)
か
ら(5)までを指します。
(1)欠損等法人が事業を営んでいない場合
欠損等法人が、次の①及び②に該当する場
②
借入れ等を行うこと。
(4)欠損等法人が適格合併等により解散する
場合
欠損等法人が次の①から③のいずれかに該
合をいいます(法法57 の2①一)
。
①
欠損等法人が、特定支配日直前において
事業を営んでいないこと。
②
欠損等法人が、特定支配日以後に事業を
開始すること。
(2)欠損等法人が事業のすべてを廃止する場合
欠損等法人が次の①及び②に該当する場合
をいいます(法法 57 の2①二)
。
①
26 zeimu QA
2010.5
欠損等法人が特定支配日直前において営
欠損等法人が旧事業の5倍を超える資金
当する場合において、自己を被合併法人とす
る適格合併を行う、又は欠損等法人(特定株
主と 100 %の支配関係があるものに限る。)
の残余財産が確定する場合をいいます(法法
57 の2①四)
。
①
欠損等法人が特定支配日直前において事
業を営んでいない場合
②
欠損等法人が旧事業のすべてを特定支配
む事業(以下「旧事業」という。)のすべ
日以後に廃止し、又は廃止することが見込
てを特定支配日以後に廃止し、又は廃止す
まれている場合
CASE 2
繰越欠損金や含み損資産を有する法人を買収した場合の税務上の留意点
特定の株主又は特定の株主の関連者が欠
合併を行った場合には、上記(4)の「欠損等
損等法人に対する特定債権を取得している
法人が適格合併等により解散する場合」に該
場合
当することになると考えられます。
③
(5)役員のすべてが退任し、使用人のおおむ
また、A 社を合併法人とした場合であって
ね 20 %相当数の者が退職する場合
も、合併により B 社及び C 社の事業を承継す
欠損等法人が次の①、②及び③に該当する
ることとなり、上記(1)②の「欠損等法人が
場合をいいます(法法57 の2①五)
。
特定支配日以後に事業を開始すること」に該
①
当することになると考えられます。
特定支配関係を有することになったこと
「特定株主等によって支配された欠損等法人
の役員のすべてが退任すること。
の欠損金の繰越しの不適用措置等」の適用事
表取締役、代表執行役、専務取締役若しく
由に該当することになり、合併後の法人にお
は常務取締役又はこれらに準ずる者で法人
いて A 社の適用事業年度前の各事業年度にお
の経営に従事している者をいいます(法令
いて発生した青色欠損金については繰越控除
113 の2@1)
。
をすることができないものと考えられます。
特定支配関係を有することになったこと
(注)「事業を営んでいないこと」の判定につい
に基因して、特定支配日直前において欠損
て明文規定はありませんが、適格組織再編に
等法人の業務に従事する使用人(以下「旧
おける事業関連性の判定に関し、事業性の判
使用人」という。)のおおむね 20 %相当数
定基準の規定があります(法規3①一)
。
の者が退職すること。
③
5
事例のポイント
組合を通じて欠損等法
人の株式を取得した場
合の特定支配関係の判
定は、他の組合員の株
式数も含めて判定を行
います。
すなわち、
組合
この規定によると、「事務所等の固定施設
非従事事業(旧使用人が特定支配日以後
を所有又は賃借していること」、「従業者があ
その業務に実質的に従事しない事業をい
ること」、「自己の名義をもって、かつ、自己
う。)の事業規模が旧事業の事業規模のお
の計算において商品販売等を行っているこ
おむね5倍を超えることとなること。
と」のすべての要件に該当するものが事業性
本事例の場合
が取得した株式総数に
より判定を行うことに
なります(法令113の2
①⑤)
。
事業を営んでいない欠
損等法人
(例えば、
株式
保有のみを行っている
SPC など)を買収し、
ありと判定されます。
ご質問のケースについては、欠損等法人で
欠損等法人の事業性についてもこの規定に
ある A 社は株式保有のみを行っており、税務
準じて考えた場合、ご質問の A 社には事業性
上、事業を営んでいないと考えられます (注)。
がなく「事業を営んでいないこと」に該当す
欠損等法人である A 社が事業を営んでいない
ると考えられます。
その後、その欠損等法
人を被合併法人とする
適格合併を行う場合に
は、その欠損等法人が
有する繰越欠損金につ
いては使用制限が課さ
れ、合併法人に引き継
場合において、A 社を被合併法人とする適格
ぐことはできません。
また、その欠損等法人
を合併法人とする適格
コメント
合併を行った場合にお
いても、
適用事由である
欠損等法人を買収した場合には、欠損等
買収日から5年以内に事業内容を著しく
「事業を営んでいない
法人の繰越欠損金の使用制限や欠損等法人
変更する場合や組織再編を行う場合には適
法人が新たな事業を開
が有する資産の譲渡等損失額の損金算入制
用事由に該当する可能性がありますので、
始した場合」に該当し、
限が課される場合があります。
留意が必要です。
繰越欠損金の使用制限
が課されることになり
ます。
2010.5
zeimu QA 27
CASE 2
ここでいう役員とは、社長、副社長、代
②
Selection Q&A
以上より、A 社は、合併を行うことにより、
に基因して、欠損等法人の特定支配日直前
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