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2 C A S E 債権金額未満で貸付債権を取得する場合における 買収方法の検討
Selection 株式と貸付債権を買収する場合の留意事項 税理士法人プライスウォーター ハウスクーパース 公認会計士 UESTION 債権金額未満で貸付債権を取得する場合における 買収方法の検討 手法②: DES 実行後に、株式の取得対価として このたび当社は、内国法人 A 社の100% 5 億円支払う 子会社である内国法人 B 社の株式及び A ・ 当社による B 社株式の取得前に、A 社の B 社向け貸付金を、合計 5 億円で買 社の B 社向け貸付金 10 億円をデット・ 収することを計画しています。B 社は債務 エクイティー・スワップ(以下「DES」 超 過( △ 5 億 円)の状態にあり、A 社か という。)により B 社株式へ転換する。 Selection Q&A 設を有していません。 ・ DES 実行後に、当社は B 社株式を らの借入金が 10 億円あります。 5 億円で取得する。 このような状況下で、当社は、以下の三 手法③: つの買収方法を検討しています。 いわゆる「疑似 DES」実行後に、株式 さい。 の取得対価として 5 億円支払う 手法①: ・ 当社による B 社株式の取得前に、A 貸付金の取得対価として 5 億円支払う 社 は B 社 に 対 し て 10 億 円 の 出 資 を ・ B 社が債務超過であるため、B 社株 行 い、B 社 は 当 該 払 込 金 額 に よ り A 式の譲渡対価は 1 円とした上で全株 社からの借入金を全額返済する(いわ 式を取得する。 ゆる「疑似 DES」)。 ・ A 社 の B 社 向 け 貸 付 金 10 億 円 を、 CASE 2 各手法の課税関係について説明してくだ ・ 疑似 DES 実行後に、当社は B 社株 式を 5 億円で取得する。 債権金額未満の 5 億円で取得する。 〔現状の出資関係図〕 〔現状のB社の貸借対照表〕 内国法人A社 100% 諸資産 15億円 B社株式 1億円 内国法人B社 15億円 諸負債 10億円 A社からの借入金 10億円 資本金等 1億円 利益積立金 △6億円 15億円 A社からの借入金 10億円 〔手法①実行後の出資関係図〕 〔手法②/③実行後の出資関係図〕 当社(外国法人) 貸付金 5億円 2 白井 啓資 当社は外国法人で、日本国内に恒久的施 貸付金 10億円 C A S E 100% 当社(外国法人) B社株式 ‐億円 貸付金 ‐億円 100% 内国法人B社 内国法人B社 当社からの借入金 10億円 当社からの借入金 ‐億円 B社株式 5億円 貴社が検討されている三つの手法の それぞれを選択した場合の貴社及び B 社の課 課税関係について、順を追って検討し 税関係を、次いで 4 では A 社の課税関係をご ていきます。まず、1 ∼ 3 では、手法①∼③ 説明し、5 において総括します。 2013.3 参 考 法法 2 十二の十四イ 25 の 2、37 59 ①一 61 の 2 ① 138 一、138 五イ 141 四 所法 161 五イ、178 179 一、212 ① 213 ①一 法令 4 の 3 ⑩一 8 ①一、9 ①七 119 ①二 119 の 3 ⑥ 法基通 2-3-14、9-4-1 9-4-2 zeimu QA 41 Selection C A S E 2 CASE 2 株式と貸付債権を買収する場合の留意事項 1 手法①の課税関係(貴社及び B 社) 貴社による B 社株式及び A 社の B 社向け貸 との間に完全支配関係があるため、B 社で認 付債権の取得時には、特段の課税関係は生じ 識される債務免除益は全額益金不算入とされ ません。 る受贈益(法法 25 の2)として取り扱われま ただし、貴社による B 社買収後、B 社の経 す。 営状態が改善し、B 社が貴社に対して借入金 他方、A社による DES が、 「その損失負担を 10 億円の全てを返済することも想定されま しなければ今後より大きな損失を蒙ることに す。この場合、貴社の B 社向け貸付金の取得 なることが社会通念上明らかであると認めら 価額5億円を上回る回収がされることになり、 れる」(法基通9-4-1)場合であれば、A 社 貴社では5億円の益金(債権回収益)が認識 で生じる債権譲渡損は損金算入されますが、 されます。 B 社で認識される債務消滅益は益金算入され この債権回収益は、法人税法 138 条1号の ます。 「国内にある資産の運用又は保有により生じ る所得」に含まれるものと思われ 、国内に恒 1 久的施設を有していない貴社であったとして 公認会計士。同志社大 学大学院商学研究科 修了。 2003 年10月中 央青 山 監査法人京都事務所 (現 京都監査法人)入 所。07年 8月税理士法 人プライスウォーター ハウスクーパース入所。 日系・外資系企業の申 告書 作成など税 務関 連業務に従事。 42 zeimu QA ご説明します。 (2)配当金に対する源泉所得税 手法②の場合、DES により B 社の借入金が り扱われる可能性があることに留意が必要で 消滅するため、手法①のように貴社が B 社か す(法法 141 四)。 ら借入金の返済を受けることはなく、貴社は 2 手法②の課税関係(貴社及び B 社) B 社からの配当金で投資を回収することにな ると想定されます。 貴社が B 社株式を取得する前に実行する 貴社の受取配当金については、外国法人に DES は、実行後に A 社が B 社株式を貴社へ譲 対する所得税の課税標準(所法 178、161 五イ) 渡することが見込まれているため、非適格現 に含まれ、原則として 20%の源泉所得税が課 物出資として取り扱われることになります されることになります(所法 179 一、212 ①、 (法法2十二の十四イ、法令4の3⑩一)。 SHIRAI keiji A 社の DES の取扱いについては、後述 4 で も、日本で課税される国内源泉所得として取 (1)B 社における債務消滅益 白井 啓資 (法法 37)場合、DES 実行時点では A 社と B 社 213 ①一)。ただし、貴社の所在地国と日本と 現物出資の対価として B 社が発行する新株 の間に租税条約が締結されている場合には、 式の時価を、本件買収価額の5億円と仮定し 租税条約で定める配当に係る源泉税の限度税 ます。その場合、B 社では、A 社からの借入 率が優先して適用されますので留意してくだ 金 10 億円と株式の発行価額5億円との差額 さい。例えば、貴社がオランダに所在する場 が債務消滅益として認識されると考えられま 合、日蘭租税条約第 10 条の規定により、貴社 す(法法 59 ①一括弧書き)。 による B 社株式の取得後6か月以上経過した 以下、B 社で生じる債務消滅益の課税関係 後に行われる配当については、配当に係る源 について見ていきます。 泉税が免税になります。 DES 実行時に A 社で生じる債権譲渡損(法 他方、国内に恒久的施設を有しない外国法 基通2-3-14)が寄附金として取り扱われる 人が、内国法人から受ける配当に対して法人 1 『〔第 4 版〕外国企業との取引と税務』仲谷栄一郎、井上康一、梅辻雅春、藍原滋著(商事法務)202 頁 2013.3 CASE 2 株式と貸付債権を買収する場合の留意事項 税が課されることはありません(法法 141 四、 いになるか否か」によって、A 社の課税関係 138 五イ)。 が異なることになります。次の①②で検討し したがって、手法②によった場合は、貴社 ます。 が B 社から受け取る配当金に対する課税は、 ① DES による債権譲渡損が寄附金扱いに 源泉所得税のみで日本における課税関係が完 なる場合 A 社は、DES の実行によって B 社株式を時 3 手法③の課税関係(貴社及び B 社) 価の5億円で取得します。A 社による DES 貴社が B 社株式を取得する前に実行する疑 が、「その損失負担をしなければ今後より大 似 DES は、A 社から B 社に金銭出資を行い、 きな損失を蒙ることになることが社会通念上 その払い込まれた金銭をもって B 社が A 社に 明らかであると認められる」 (法基通9-4-1) 対して借入金を弁済する取引です。これは、 と考えられない場合には、DES による B 社株 「金銭出資」と「債務の弁済」という二つの法 式の取得価額5億円と貸付債権の簿価 10 億 円との差額である債権譲渡損は、完全支配関 そのため、 「金銭出資」の払込金額により B 係のある法人に対する寄附金として全額損金 社の資本金等の額は増加し(法令8①一)、A 不算入になります(法法 37 ②)。 社保有の B 社株式の簿価も増加します(法令 一方で、完全支配関係のある法人間で寄附 119 ①二)。他方、B 社による「債務の弁済」 が行われた場合には、親法人は子会社株式の という行為により、B 社の借入金が消滅(A 社 簿価を修正する(法令 119 の3⑥)とともに、 の B 社向け貸付金が減少)し、原則として、A 自己の利益積立金額を増減させる(法令9① 社及び B 社において課税関係は生じないと考 七)ことになります。手法②においては、A えられます。 社が保有する B 社株式の簿価を5億円増加さ また、手法②と同様に、貴社は B 社からの せるとともに、A 社の利益積立金額を5億円 配当金で投資を回収することになると想定さ 増加させます。 れますが、貴社が B 社から受け取る配当金に 結果として、貴社への B 社株式譲渡直前に 対する課税関係は、手法②と同じ取扱いにな おける A 社保有の B 社株式の簿価は、11 億円 4 手法①~③の A 社の課税関係 (1)手法①の場合 (当初簿価1億円+ DES による取得5億円+ 寄附修正による増加5億円)になります。A 社は、DES 実行後に5億円で B 社株式を譲渡 A 社は貴社に B 社株式を1円で譲渡するた しますので、A 社では株式譲渡損が6億円(譲 め、B 社株式簿価1億円が譲渡損として実現 渡対価5億円− B 社株式簿価 11 億円)実現す します(法法 61 の2①)。また、貸付債権(簿 ることになります(法法 61 の2①)。 価 10 億円)を5億円で譲渡するため、債権譲 ② DES による債権譲渡損が損金算入される 渡損が5億円実現し、合計6億円の譲渡損が 実現することになります。 (2)手法②の場合 CASE 2 律構成をとるものです。 ります。 Selection Q&A 結します。 場合 A 社による DES が、「その損失負担をしな ければ今後より大きな損失を蒙ることになる 前述のとおり手法②については、DES によ ことが社会通念上明らかであると認められ り A 社で認識される債権譲渡損が「寄附金扱 る」(法基通9-4-1)と考えられる場合には、 2013.3 zeimu QA 43 Selection C A S E 2 CASE 2 株式と貸付債権を買収する場合の留意事項 A 社で生じる債権譲渡損5億円は損金算入さ 11 億円)実現することになります(法法 61 の れます。A 社は、DES 実行後に譲渡対価5億 2①)。 円で B 社株式を譲渡しますので、A 社では株 (4)小括 式譲渡損が1億円(譲渡対価5億円− B 社株 このように A 社の課税関係は、それぞれの 式簿価6億円)実現することになります(法 手法ごとに異なるものの、いずれの手法で 法 61 の2①)。 あっても実現する譲渡損は6億円になります。 (3)手法③の場合 したがって、A 社にとっては、いずれの手法 A 社は B 社に対して、金銭による出資を 10 を選択しても、その課税関係に有利不利はな 億円行いますので、A 社保有の B 社株式の簿 いといえます。 価が 10 億円増加することになります(法令 5 総括 119 ①二)。A 社は、金銭出資後に B 社から貸 手法①から手法③における貴社及び B 社、 付金の弁済を 10 億円受けますが、貸付金の弁 並びに売り手である A 社の主な課税関係をま 済によって特段の課税関係は生じません。 とめると、〔図表 1〕のとおりになります。 これらの金銭出資と貸付金の弁済(疑似 貴社が B 社から受領する配当の課税関係に DES 実行)後に、A 社は譲渡対価5億円で B ついては、三つの手法とも同じ取扱いになり 社株式を譲渡しますので、A 社では株式譲渡 ます。しかし、手法①の場合には、A 社から 損が6億円(譲渡対価5億円− B 社株式簿価 B 社向け貸付金を債権金額(10 億円)未満の 〔図表 1〕貴社・B 社・A 社における主な課税関係 手法① 貴社 B 社からの 債権回収益 5 億円について 借入金の回収 日本で課税される。 手法② 手法③ − − B 社からの 20%の源泉税 20%の源泉税 配当金の受領 (租税条約の適用がない場合)(租税条約の適用がない場合) 20%の源泉税 (租税条約の適用がない場合) B社 受贈益(法法 25 の2)の適用の場合、債務免除 益は課税されない。 DES の 課税関係 − 上記以外は、債務免除益が益金になるため、B 社 原則として、課税は生じない。 で課税が生じる(又は欠損金が減少する)ことに なる。 ① DES による債権譲渡損が寄附金扱いになる場合 株式譲渡損6億円 =譲渡対価5億円− B 社株式簿価 11 億円(注1) A社 株式譲渡損 1 億円 譲渡対価 B 社株式 = − 1円 簿価1億円 株式譲渡損、 債権譲渡損5億円 債権譲渡損 譲渡対価 貸付債権 = − 5億円 簿価 10 億円 譲渡損の合計 6 億円 (注1)B 社株式簿価 11 億円の内訳 当初株式簿価1億円+ DES による増加5億円+寄附修 正による増加5億円 ② DES による債権譲渡損が損金算入される場合 (注3)B 社株式の簿価 11 億円の内訳 債権譲渡損5億円 当初株式簿価1億円+疑似 DES による B 社株式の 貸付債権 DES による払込金額 10 億円 = − 取得価額5億円 簿価 10 億円 譲渡損の合計 6 億円 株式譲渡損1億円 =譲渡対価5億円− B 社株式簿価6億円 (注2) (注2)B 社株式簿価6億円の内訳 当初株式簿価1億円+ DES による増加5億円 譲渡損の合計 6 億円(①②共に) 44 zeimu QA 2013.3 株式譲渡損6億円 譲渡対価 B 社株式 = − 5億円 簿価11億円(注3) CASE 2 株式と貸付債権を買収する場合の留意事項 A 社の課税関係については、それぞれの手 権回収益5億円が認識され、この債権回収益 法ごとに課税関係は異なるものの、いずれの が日本で課税されることになります。 手法であっても A 社で実現する譲渡損は6億 B 社の課税関係については、手法①では B 円になります。 社で特段の課税関係は生じません。しかし、 以上のことから、A 社で実現する譲渡損は、 手法②では、DES に伴う債務消滅益が受贈益 いずれの手法でも同一となることを勘案する (法法 25 の2)として取り扱われない場合に と、貴社の所在地国における課税関係も考慮 は、債務消滅益が益金として取り扱われるこ した上で、貴社及び B 社にとって有利な課税 とになり、B 社で課税が生じる(又は欠損金 関係となる買収ストラクチャーを、売り手で が使用される)ことになります。手法③の疑 あるA 社に提案することになると考えられま 似 DES については、原則として、B 社におい す。 Selection Q&A 5億円で取得することを起因とし、貴社で債 て課税は生じません。 コメント 仮に、貴社が日本国内に子会社を有して 買収ストラクチャーを検討するべきです。 例えば、 「みなし共同事業要件」の一つで あ る 規 模 要 件( 法 令 112 ③ 二 ) に つ い て、 適格合併による「欠損金の引継・使用制限」 (法法 57 ③④)及び「特定資産譲渡等損失 CASE 2 おり、B 社買収後に、既存の子会社と B 社 を合併することを検討している場合には、 資本金の額で充足するのであれば、 「手法② の DES」及び「手法③の疑似 DES」による に係る損金算入制限」(法法 62 の7)にお B 社の資本金の増加が、規模要件の充足に ける「みなし共同事業要件」 (法令 112 ③など) どのような影響を及ぼすかという点も考慮 を充足するかどうかという点も考慮して、 することになります。 ●経理・財務・経営企画部門担当者に必携の書! グループ企業の 並木 安生・ 磯部 真一 共著 A5判・258頁 定価 2,100円(税込) 決算業務と税務処理 ◇本書では、 グループ会社の決算と税務を2部構成で詳しく解説 しています。 第1部・決算編では、連結決算とコスト計算の本質を中心に、第 2部・税務編では、 グループ企業が事業運営、事業再生・企業 再編やM&A等の企業活動を実行する際に理解が必須となる 税務を中心に解説しております。 お問い合わせ・お申し込みは 税務研究会お客さまサービスセンター 〒101-0065 東京都千代田区西神田1-1-3(税研ビル) TEL 03(3294)4741 FAX 03(3233)0197 http://www.zeiken.co.jp 2013.3 zeimu QA 45