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2 分社型分割と分割型分割との比較 C A S E 会社分割における課税関係と有利不利判定
Selection C A S E 分社型分割と分割型分割との比較 2 税理士法人プライスウォーター ハウスクーパース 公認会計士 白井 啓資 UESTION 会社分割における課税関係と有利不利判定 当社(P 社)の 100%子会社である は 200 百万円であり、S1 社の会社分割時 S1 社の事業の一部(A 事業)を、第三者 の税務上の貸借対照表は以下のとおりです。 に譲渡することになりました。買い手から S1 社の資産のうち会社分割で S2 社に の要請により、「A 事業を会社分割により 移転するのは、A 事業資産 250 百万円に 新設法人(S2 社)に移転した直後に、 なります。A 事業資産には多額の含み損が S2 社株式を譲渡する」という形をとる予 あるため、買い手との間で A 事業資産の 定です。 時価(=S2 社株式の譲渡価額)は 100 百 そこで当社では、会社分割の手法として、 分社型分割と分割型分割のいずれを採用す 万円と合意しています。 S 1 社貸借対照表(税務) るか検討しています。各手法における当社 グループの課税関係について説明してくだ さい。 A事業資産 250 資本金等の額 200 B事業資産 150 利益積立金額 200 なお、当社が保有する S1 社株式の簿価 400 分社型分割の場合 S1社 A事業移転 400 分割型分割の場合 S2社株式の分配 当社 S2株 単位:百万円 S1社が S2社株式を譲渡 S2社株式交付 S2株 当社 当社が S2社株式 を譲渡 S2社 株式交付 S1社 S2社 S2社 A事業移転 参 考 法法2十二の十一イ 24①二 61の2①④ 61の13①③ 62①、 62の8 法令4の3⑥一・二 8①七・十五 9①九、23①二 119①六・二十六 119の8 123の10① 26 zeimu QA 貴社が検討されている二つの手法に することが見込まれていないため、この分社 おける、貴社、S1社及びS2社の課 型分割は非適格分割として取り扱われます 税関係について、以下検討していきます。 (法法2十二の十一イ、法令4の3⑥一)。 1 (2)S1 社の課税関係 分社型分割の処理 (1)分社型分割の適格性 非適格分社型分割の場合、分割法人は、分 分割法人S1社は、分社型分割によりA事 割承継法人に移転する資産及び負債を分割時 業資産を分割承継法人S2社に移転した直後、 の時価で譲渡したものとして取り扱われます 分割の対価として交付されたS2社株式を譲 (法法 62 ①)。そのため、分割法人S1社は 渡することを予定しています。したがって、 分割承継法人S2社に対して、A事業資産を 分割後に分割法人S1社と分割承継法人S2 時価譲渡した処理をすることになり、分割承 社との間に、当事者間の完全支配関係が継続 継法人S2社から分割の対価として交付され 2012.4 CASE 2 分社型分割と分割型分割との比較 たS2社株式を時価(100 百万円)で受け入 調整勘定に関する規定(法法 62 の8)にあ れ(法令 119 ①二十六)、A事業資産の簿価 る非適格分割等(分割承継法人が、分割法人 (250 百万円)と分割の対価として交付され からその営む事業及び事業に係る資産又は負 るS2社株式の時価との差額が譲渡損として 債のおおむね全部の移転を受けたとき(法令 認識されます。 123 の 10 ①))に該当する場合のものであり、 法人税法 62 条の8の適用がない(資産調整 1社と分割承継法人S2社との間には完全支 勘定が認識できない)場合の資本金等の増加 配関係があるため、分割法人S1社で認識さ 額は、分社型分割で移転した資産の価額から れる譲渡損のうち、法人税法 61 条の 13 に規 負債の価額を減算した金額になります(法令 定する譲渡損益調整資産に係る譲渡損益は繰 8①七括弧書き)。 り延べられます(法法 61 の 13 ①) 。 (会社分割時の仕訳) (借)A事業資産 100 /(貸)資本金等 (会社分割時の仕訳) (借)S2社株式 100 譲渡損 (貸)A事業資産 250 100 (4)P 社の課税関係 150 分社型分割の場合、貴社は取引当事者には 150 次に、S1社が分社型分割の対価として交 付されたS2社株式を第三者に譲渡すると、 ならないため、課税関係は生じません。 2 分割型分割の処理 (1)分割型分割の適格性 形式的にはS2社株式の譲渡原価と譲渡対価 分割型分割の場合、分割法人S1社はA事 との差額が譲渡損益として認識されます(法 業資産を分割承継法人S2社に移転し、S1 法 61 の2①)。ただし、会社分割の直後に株 社が分割の対価として交付されるS2社株式 式を譲渡するため、S2社株式に係る譲渡対 を貴社へ配当します。また、貴社は分割法人 価と譲渡原価は一致し、実質的には、譲渡損 S1社から受け取ったS2社株式を分割型分 益は生じないと考えられます。 割の直後に第三者に譲渡します。この場合、 また、S1社がS2社株式を第三者に譲渡 分割後に分割法人S1社と分割承継法人S2 すると、S1社とS2社との間の完全支配関 社との間に同一の者(貴社)による完全支配 係がなくなり、分社型分割の際に繰り延べら 関係が継続することが見込まれていないため、 れた譲渡損が実現します(法法 61 の 13 ③)。 この分割型分割は非適格分割として取り扱わ (S2社株式譲渡時の仕訳) (借)Cash 100 /(貸)S2社株式 100 (借)譲渡損 150 /(貸)繰延譲渡損 150 (3)S2 社の課税関係 非適格分社型分割の場合、分割承継法人は、 CASE 2 (借)繰延譲渡損 150 /(貸)譲渡損 Selection Q&A また、分社型分割の時点では、分割法人S れます(法法2十二の十一イ、法令4の3⑥二)。 白井 啓資 (2)S1 社の課税関係 SHIRAI keiji 非適格分社型分割の場合と同様に、分割法 人は分割承継法人に移転する資産及び負債を 分割時の時価で譲渡したものとして取り扱わ 分割法人から移転した資産及び負債を分割時 れます(法法 62 ①)。そのため、分割法人S の時価で受け入れ、分割承継法人の資本金等 1社は分割承継法人S2社に対してA事業資 の額を分割法人に交付した分割承継法人株式 産を時価譲渡した処理をすることになり、分 の時価だけ増加させます(法令8①七)。な 割承継法人S2社から分割の対価として交付 お、この資本金等の増加額の取扱いは、資産 されたS2社株式を時価(100 百万円)で受 公認会計士。同志社大 学大学院商学研究科修 了。 2003 年 10 月中央青山 監査法人京都事務所 (現 京都監査法人)入 所。2007 年 8 月税理士 法人プライスウォータ ーハウスクーパース入 所。 日系・外資系企業の 申告書作成など税務関 連業務に従事。 2012.4 zeimu QA 27 Selection C A S E 2 CASE 2 分社型分割と分割型分割との比較 け入れ(法令 119 ①二十六)、A事業資産の簿 税務上の簿価純資産 400 百万円(資本金等の 価(250 百万円)と分割の対価として交付さ 額 200 百万円と利益積立金額 200 百万円の合 れるS2社株式の時価との差額が譲渡損とし 計)を用いて上記算式に基づき減少資本金等 て認識されます。 の額を計算すると、減少資本金等の額は 125 また、分割型分割の時点では、分割法人S 百万円と計算されます。これは、貴社に分配 1社と分割承継法人S2社との間には完全支 するS2社株式の時価 100 百万円を超過する 配関係があるため、分割法人S1社で認識さ ため、減少資本金等の額はS2社株式の時価 れる譲渡損のうち、法人税法 61 条の 13 に規 100 百万円になります。この場合、貴社に交 定する譲渡損益調整資産に係る譲渡損益は繰 付されるS2社株式の時価と減少資本金等の り延べられます(法法 61 の13 ①)。 額が一致するため、分割法人S1社の利益積 (会社分割時の仕訳) (借)S 2 社株式 100 譲渡損 立金額は減少しません。 (貸)A事業資産 250 150 (借)繰延譲渡損 150 /(貸)譲渡損 (借)資本金等の額100/(貸)S2社株式 100 150 なお、貴社がS2社株式を第三者に譲渡す 次に、分割法人S1社から貴社へのS2社 ると、S1社とS2社との間の完全支配関係 株式の配当の処理については、分割法人S1 がなくなり、分割型分割の際に繰り延べられ 社の資本金等の額と利益積立金額を減少する た譲渡損が実現します(法法 61 の13 ③) 。 ことになります。分割法人において減少させ る資本金等の額及び利益積立金額の具体的な 計算方法は、以下のとおりです(法令8①十 五、9①九) 。 ・減少資本金等の額 (借)譲渡損 150 /(貸)繰延譲渡損 150 (3)S2 社の課税関係 分割承継法人の処理は、分社型分割の場合 と同様になるため、前述の説明を参照ください。 減少資本金等の額= (会社分割時の仕訳) 分割法人の分割 分割移転純資産の帳簿価額 × 型分割の直前の 分割法人の前事業年度末 資本金等の額 の簿価純資産 (借)A事業資産 100 /(貸)資本金等 ただし、非適格分割型分割の場合、上記算 100 (4)P 社の課税関係 非適格分割型分割が行われた場合、分割法 人の株主が分配を受ける資産の時価のうち、 式により計算した金額が、分割法人が株主に 分割法人の資本金等の額に対応する部分を超 分配する分割承継法人株式その他の資産の時 える金額は、みなし配当として認識されます 価を超えるときは、分割承継法人株式等の時 価を限度に資本金等の額を減少します(法令 8①十五括弧書き)。 ・減少利益積立金額 減少利益積立金額= 分割型分割により株主 −減少資本金等の額 に交付した資産の時価 ご質問のケースの場合、仮に会社分割時の 28 zeimu QA (S2社株式の配当時の仕訳) 2012.4 (法法 24 ①二、法令 23 ①二) 。 みなし配当金額= 交付資産時価−資本金等の額× 分割移転純資産 分割直前に有し の帳簿価額 ていた株式数 × 分割法人の前事業年度末 発行済株式数 の簿価純資産 ご質問のケースの場合、分割法人S1社の 資本金等の額に対応する金額は 125 百万円 CASE 2 (S1社の資本金等の額 200 百万円×分割移 転純資産 250 百万円/S1社の簿価純資産 400 百万円)となりますが、貴社が分配を受 株式の譲渡原価と譲渡対価との差額が譲渡損 益として認識されます(法法61 の2①)。 100 (借)Cash けるS2社株式の時価 100 百万円を上回るた め、貴社においてみなし配当は認識されません。 分社型分割と分割型分割との比較 25 譲渡損 3 また、金銭の交付がなく、分割承継法人株 (貸)S2社株式 125 課税関係の比較 以上見てきたとおり、ご質問のケースでは、 分社型分割、分割型分割のいずれの手法を採 主において分割法人株式の帳簿価額の一部を 用したとしても非適格分割となります。分割 分割承継法人株式に振り替える処理が行われ 法人S1社における処理(A事業資産の時価 ます(法法 61 の2④、法令 119 ①六、119 の 譲渡)は同一になり、分割法人S1社で認識 8)。分割承継法人株式に振り替える金額は、 されるA事業資産に係る譲渡損の金額にも差 以下の算式で計算します。 異はありません。 Selection Q&A 式だけが交付された場合には、分割法人の株 一方、S2社株式の譲渡損については、分 分割法人株式の減少額(譲渡原価)= 分割直前におけ 分割移転純資産の帳簿価額 × る分割法人株 分割法人の前事業年度末 式の帳簿価額 の簿価純資産 社型分割の場合は分割法人S1社においてS ご質問のケースの場合、分割法人株式の減 る貴社でS2社株式の譲渡損が認識されるこ 少額は 125 百万円(貴社保有のS1社株式簿 とになります。このように貴社グループ全体 価 200 百万円×分割移転純資産 250 百万円/ で見ると、その課税関係は、分社型分割と分 S1社の簿価純資産 400 百万円)と計算され 割型分割との間で異なることになります。分 ます。 割型分割を採用した場合のほうが、譲渡損失 CASE 2 (借)S 2 社株式 125 /(貸)S1社株式 125 2社株式の譲渡損が認識されませんが、分割 型分割の場合には分割法人S1社の株主であ が多く計上されることになります。 分割法人S1社の譲渡損 S2社株式譲渡損 合計 次に、貴社がS1社から分配を受けたS2 分社型分割 ▲ 150 百万円 − 百万円 ▲ 150 百万円 社株式を第三者に譲渡したときには、S2社 分割型分割 ▲ 150 百万円 ▲ 25 百万円 ▲ 175 百万円 コメント 本事例においては、分割型分割の分割法 社のS2社株式への簿価付替え額は 100 百 人の株主(P社)においてS2社株式の譲 万円となり、P社でS2社株式の譲渡損失 渡損失が生じています。P社でS2社株式 は生じません。 の譲渡損失が生じるのは、分割法人S1社 本事例のように、分割で移転する資産が の前事業年度末の純資産(400 百万円)に 多額の含み損を抱えているような場合には、 対する分割移転純資産の帳簿価額(250 百 前述の割合における分子(分割移転純資産 万円)の割合が大きく、S1社株式の譲渡 の帳簿価額)が相対的に大きくなり、分割 原価(S2社株式への簿価付替え額)が多 型分割の分割法人の株主において譲渡損失 額になるためです。仮に分割移転純資産の が計上される可能性が高くなります。 帳簿価額が 200 百万円であるとすると、P 2012.4 zeimu QA 29