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資産除去債務の会計・税務 岩尾健太郎 固定資産の有効な実務処理 特集1

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資産除去債務の会計・税務 岩尾健太郎 固定資産の有効な実務処理 特集1
特集1
固定資産の有効な実務処理
特集1 固定資産の有効な実務処理
資産除去債務の会計・税務
あらた監査法人
パートナー 公認会計士
岩尾健太郎
税理士法人プライスウォーターハウスクーパース
マネージャー 公認会計士
清宮陽二
2010年4月1日以降開始事業年度から適用が義務付けられる
資産除去債務の会計基準により,企業は有形固定資産の除去に関
する法的義務について,資産と負債の両建て計上が求められる。
その対象案件の把握と負債金額の見積りのためには企業グループ
全体を対象とした調査が必要であり,その網羅性の確保について
は十分な検討が必要である。一方税務上は会計上認識された資産
と負債は税務上の資産・負債として認められず,税務申告調整項
目として取り扱われることになる。
は じ め に
の取扱いなど,実務上迷うケースも生じて
いると考えられる。そこで,本稿では,資
わが国においては,従来,資産除去債務
産除去債務の会計基準等の概要と実務対応
の会計基準が存在せず,一般に資産除去債
上の留意事項にまとめ,税務上の留意点に
務の会計処理は行われてこなかったが,国
も言及することとした。
際的な会計基準とのコンバージェンスの一
なお,本稿中の解釈部分は筆者の個人的
環として,平成20年3月31日付けで,資産
見解であり,今後の議論により異なる実務
除去債務に関する会計基準(以下「基準」
対応となる可能性があることにご留意され
という)及び資産除去債務に関する会計基
たい。
準の適用指針(以下「適用指針」という)
が公表された。この基準及び適用指針は
1 基準の概要
2010年4月1日以降開始事業年度からの適
用が義務付けられているが,それ以前の事
業年度からの適用も認められているため,
2010年3月期からの適用も可能である。
1 定義と対象範囲
基準では,資産除去債務を,「有形固定
資産除去債務の履行までは,相当の期間
資産の取得,建設,開発又は通常の使用(意
が存在する場合も多いため,債務の見積り
図した目的のために正常に稼動させるこ
にあたっては不確実な要素が存在すること
と)によって生じ,当該有形固定資産の除
が想定される。各社では,すでに適用に向
去に関して法令又は契約で要求される法律
けての準備が進められていると思われる
上の義務及びそれに準ずるもの」と定義し
が,債務の対象や見積り方法,また税務上
ている(基準第3項⑴)。
18 税務弘報 2010. 3
●資産除去債務の会計・税務
実際の適用範囲を検討する際に留意すべ
き事項としては以下が考えられる。
かわる除去債務が借手側に存在する場合
には,借手が資産除去債務を計上する。
・ 有形固定資産を除去する義務のほか,
・ オペレーティング・リース取引で使用
有形固定資産自体の除去そのものでなく
する固定資産は,借手側でオフ・バラン
とも,それに使用されている有害物質の
ス処理され,除去の対象となる有形固定
除去の義務は対象となるため(基準第3
資産が借手の貸借対照表上に存在しない
項⑴)
,例えばアスベストを含む建物を
ことになるため,資産除去債務も存在し
所有している場合には,その建物の解体
ないと解されるようである。
の際に生じるアスベスト廃棄のための追
・ 賃借オフィス・スペースに自己の所有
加費用は資産除去債務に該当することに
資産として什器備品を据え付け,賃借終
留意する。ただし,建物の除去自体が法
了時にその原状回復のための債務が存在
的義務でない場合には,建物の通常の解
する場合には,当該什器備品にかかる資
体・撤去費用は資産除去債務の対象では
産除去債務として会計処理されることに
ない。
なるものと解される。
・ 有形固定資産の使用期間中に実施する
環境修復や修繕は,有形固定資産の除去
にかかわるものではないので,資産除去
債務の対象とはならない(基準第24項)
。
・ 通常の使用とはいえない不適切な操業
2 会計処理
⑴ 資産除去債務の負債計上
資産除去債務は,有形固定資産の取得,
建設,開発又は通常の使用によって発生し
等の異常な原因によって発生した場合に
た時に負債として計上する(基準第4項)。
は,基準の対象ではなく,引当金の計上
このため,法令や契約により,資産の取得
や減損会計基準の適用対象となる(基準
時点で除去にかかる義務が存在するものに
第26項)
。
ついては,その義務を資産の取得時に資産
・ 有形固定資産の除去が企業の自発的な
除去債務として計上することになる。
計画のみによって行われる場合は,法律
取得時には義務が存在しなくても,有形
上の義務に準ずるものには該当しない
固定資産の稼働等に従って,使用の都度発
(基準第28項)
。
・ 除去の様態には,売却,廃棄,リサイ
クルその他の方法による処分等がある
生する場合や,法令変更等によりあらたに
義務が発生した場合には,その時点で資産
除去債務を負債として計上することになる。
(基準第3項⑵)。
・ 除去には,使用が継続される転用や用
途変更,また資産が遊休状態になること
は含まれない(基準第3項⑵)。
⑵ 資産除去債務の合理的な見積り
資産除去債務の計上にあたっては,その
発生時に当該債務の金額を合理的に見積も
・ ファイナンス・リース取引で使用する
ることが必要となる。もし,資産除去債務
固定資産は,原則として借手側でオン・
の合理的な見積りができない場合には,当
バランス処理されるため,その資産にか
該債務額を合理的に見積もることができる
税務弘報 2010. 3  19
特集1 固定資産の有効な実務処理
ようになった時点で負債として計上するこ
生した除去費用の実績など,合理的で説
とになるが(基準第5項),資産除去債務
明可能な仮定及び予測に基づいて自己の
の合理的な見積りができない場合とは以下
支出見積りを計算する。
のように限定的に解されていることに留意
・ 見積金額には,生起する可能性の最も
すべきである。
高い単一の金額(最頻値)又は,生起し
・ 資産除去債務の合理的な見積りができ
得る複数のキャッシュ・フローをそれぞ
ない場合とは,決算日現在入手可能なす
れの確率で加重平均した金額(期待値)
べての証拠を勘案し,最善の見積りを行
のいずれかを用いる。
ってもなお,合理的に金額を算定できな
い場合である(基準第35項)。
・ 多数の有形固定資産について同種の資
産除去債務が生じている場合には,個々
・ 資産除去債務の履行時期や除去の方法
の有形固定資産に係る資産除去債務の重
が明確にならないことなどにより,その
要性の判断に基づき,有形固定資産をそ
金額が確定しない場合でも,履行時期の
の種類や場所等に基づいて集約し,概括
範囲及び蓋然性について合理的に見積も
的に見積もることができる。
るための情報が入手可能なときは,資産
② 割引率
除去債務を合理的に見積もることができ
割引計算に使用する割引率は,貨幣の時
る場合に該当し,負債を計上することが
間的価値を反映した無リスクの税引前の利
必要になる(適用指針第17項)。
率である。したがって,原則として将来キ
ャッシュ・フローが発生するまでの期間に
⑶ 資産除去債務の算定
資産除去債務は,それが発生したときに,
対応した利付国債の流通利回りなどを参考
に割引率を決定する(基準第6項⑵)。
有形固定資産の除去に要する割引前の将来
支出(キャッシュ・フロー)を見積もり,
⑷ 資産除去債務に対応する除去費用の資
割引後の金額(割引価値)で算定する(基
産計上と費用配分
準第6項)
。
資産除去債務に対応する除去費用は,資
① 割引前将来キャッシュ・フローの見積り
産除去債務を負債として計上したときに当
割引前将来キャッシュ・フローを見積も
該負債の計上額と同額を,関連する有形固
る際には以下の点に留意する(基準第6項
定資産の帳簿価額に加える。有形固定資産
⑴)
。
の帳簿価額に加えられた資産除去債務に対
・ 有形固定資産の除去作業のために直接
応する除去費用は,減価償却を通じて,当
要する支出のほか,保管や管理のための
該有形固定資産の耐用年数にわたり,各期
支出等処分に至るまでの支出も含まれ
間に費用配分される(基準第7項)。
る。
なお,土地の原状回復等が法令又は契約
・ 対象となる有形固定資産の除去に必要
で要求されている場合の支出は,一般に当
な平均的な処理作業に対する価格の見積
該土地に建てられている建物や構築物等の
りや過去において類似の資産について発
有形固定資産に関連する資産除去債務であ
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●資産除去債務の会計・税務
ると考えられるので,土地の原状回復費用
る(基準第10項)。
等は,当該有形固定資産の減価償却を通じ
将来キャッシュ ・フローが増加する場合
て各期に費用配分されることとなることに
には,増加時点で新規の資産除去債務が発
留意する(基準第45項)。
生したものとして,その時点の割引率を用
いて,将来キャッシュ・フローの増加部分
⑸ 資産除去債務が使用の都度発生する場
に対応する割引価値を,資産除去債務の帳
合の処理
簿価額と関連する有形固定資産の帳簿価額
資産除去債務が取得時には存在しない
に増額する。
が,有形固定資産の稼働等にしたがって汚
将来キャッシュ・フローが減少する場合
染等が発生し,将来において原状回復のた
には,負債計上時の割引率を用いて,将来
めの除去の支出が生ずる場合には,当該資
キャッシュ ・フローの減少分に対応する割
産除去債務をその発生した各期において負
引価値を,資産除去債務の帳簿価額と関連
債として計上するとともに,資産除去債務
する有形固定資産の帳簿価額から減額する。
に対応する除去費用を資産計上する。この
資産除去債務に係る負債及び関連する有
場合,除去費用を関連する有形固定資産の
形固定資産の帳簿価額に加減された調整額
残存耐用年数にわたり減価償却を通じて費
は,減価償却を通じて残存償却期間にわた
用配分するか,いったん資産計上したのち
り費用配分される。
に同額を同じ期に費用処理する方法も合理
的方法として認められている
(基準第8項)
。
⑻ 法令の改正等
資産除去債務が法令の改正等により新た
⑹ 時の経過による資産除却債務の調整額
資産除却債務は割引価値で負債計上され
ているため,時の経過に応じて割引価値が
増加し,それに伴う負債額の調整が必要と
に発生した場合,⑺の見積りの変更と同様
に取り扱う(基準第10項)。
2 会計上の個別論点
なる。当該調整額は,その発生時の費用と
して処理し,期首の負債の帳簿価額に負債
計上に当初使用した割引率を乗じることに
より算定する。なお,割引率の見直しは行
わず,資産除去債務の決済時まで,当初の
割引率を使い続けることに留意する(基準
第9項,第49項)。
以下では,基準で議論されている個別論
点についての留意事項をまとめる。
1 資産除去債務が複数の有形固定資
産から構成されるケース
資産除去債務の対象が複数の有形固定資
産から構成され,そのうち一部の資産(B資
⑺ 資産除去債務の見積りの変更
産)について全体の除去以前により短い周
割引前の将来キャッシュ・フローの見積
期で除去され再び取得される場合では,主
りに重要な変更が生じた場合には,その変
たる資産(A資産)の除去に伴い除去される
更に応じて負債及び資産の調整が必要にな
B資産の除去費用をA資産の除去費用と一
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特集1 固定資産の有効な実務処理
括して資産除去債務を見積もり,対応する
又は固定負債の区分に,資産除去債務等そ
除去費用をA資産の帳簿価額に加えるよう
の内容を示す科目により表示する。
に処理する。
この場合,A資産の除却の前に
資産除去債務に対応する金額を有形固定
行われる短い周期でのB資産の除去は資産
資産の取得原価に含めて資産計上する場
除去債務の対象とならないことに留意する。
合,実務上の負担等を勘案すると,関連す
また,個々の資産が除去に係る法的義務
る有形固定資産に含めずに別の資産として
等を有するときには,当該複数の有形固定
管理することは妨げられないが,その場合
資産に対し,一括して資産除去債務を見積
でも,財務諸表上は,有形固定資産として
もるのではなく,個々の有形固定資産につ
表示することに留意する。
いて見積もり,対応する除去費用を個々の
有形固定資産の帳簿価額に加える処理を行
うことが必要である。
2 敷 金
2 損益計算書上の表示
⑴ 資産除去債務に対応する除去費用の費
用配分額の表示
減価償却を通じて費用配分される資産除
建物等の賃借契約において,当該賃借建
去債務に対応する除去費用の費用配分額
物等に係る有形固定資産(内部造作等)の
は,関連する有形固定資産の減価償却費の
除去などの原状回復が契約で要求されてい
計上区分と同じ区分に含めて表示する。こ
ることから,当該有形固定資産に関連する
のため,有形固定資産の使用目的に応じて,
資産除去債務を計上しなければならないこ
製造の用に供している有形固定資産であり
とがある。
減価償却費が製造原価の区分に表示される
この場合,当該賃借契約に関連する敷金
場合には,資産除去債務に対応する除去費
が資産計上されているときは,当該計上額
用の費用配分額についても製造原価の区分
に関連する部分について,当該資産除去債
に表示され,販売活動及び一般管理活動の
務の負債計上及びこれに対応する除去費用
用に供している有形固定資産であり減価償
の資産計上に代えて,当該敷金の回収が最
却費が販売費及び一般管理費の区分に表示
終的に見込めないと認められる金額を合理
される場合には,資産除去債務に対応する
的に見積もり,そのうち当期の負担に属す
除去費用の費用配分額についても販売費及
る金額を費用に計上する方法によることが
び一般管理費の区分に表示されるものと解
できる。
される。
3 開 示
⑵ 時の経過による資産除却債務の調整額
の表示
1 貸借対照表の表示
資産除去債務は,その履行の時期に応じ
てワン・イヤー・ルールにより,流動負債
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時の経過による資産除却債務の調整額
は,損益計算書上,資産除去債務に関連す
る有形固定資産の減価償却費の計上区分と
同じ区分に含めて表示する。
●資産除去債務の会計・税務
⑶ 資産除去債務の履行時に生じる決済の
の支出額についてはキャッシュ・フロー計
差額
算書上「投資活動によるキャッシュ・フロ
資産除去債務の履行時において,それま
ー」の項目として取り扱う。
でに計上してきた資産除去債務の負債残高
重要な資産除去債務を計上したときは,
と実際支出額の差額については,原則とし
キャッシュ・フロー計算書に「重要な非資
て,資産除去債務に対応する除去費用の減
金取引」として注記を行う。
価償却費の表示区分と同じ区分で表示する。
ただし,除去が当初の予定よりも著しく
4 税務上の取扱い
早期に行われる場合など,その差額が異常
な原因により生じたものである場合には,
当該差額は特別損益として処理することが
要求されていることに留意する。
3 注 記
⑴ 通常の注記
重要性の乏しい場合を除いて,基準で要
1 資産除去債務の「債務計上額」の
税務上の取扱い
資産除去債務については,①資産の取得
時点で除去にかかる義務が存在するものに
ついては,その義務を資産の取得時に計上
し,②取得時には義務が存在しなくても,
求されている事項を注記する。多数の有形
有形固定資産の稼働等に従って,使用の都
固定資産について資産除去債務が生じてい
度発生する場合や,法令変更等によりあら
る場合には,有形固定資産の種類や場所等
たに義務が発生した場合には,その時点で
に基づいて,注記をまとめて記載すること
計上することとされている。その本質は将
ができる。
来除去費用の引当債務である。
具体的な注記事項については資産除去債
法人税法上,負債の計上が認められるの
務に関する会計基準16項及び同適用指針10
は法的にも確定した債務に限定されてい
項〜 13項並びに28項,
29項を参照されたい。
る。履行の義務があるとはいえ,支出金額
及び支出時期が未確定な資産除去債務は法
⑵ 資産除去債務の合理的な見積りができ
人税法上の債務とは認められない。したが
ない場合の注記
って,租税特別措置法上の準備金に該当し
資産除去債務は発生しているが,その債
ない限り,資産除去債務の計上が行われた
務を合理的に見積もることができないた
事業年度において,申告書上は「債務未確
め,貸借対照表に資産除去債務を計上して
定未払費用」等として加算処理が必要とな
いない場合には,当該資産除去債務の概要,
る(別表五㈠)。
合理的に見積もることができない旨及びそ
の理由を注記する。
4 キャッシュ・フロー計算書
資産除去債務を実際に履行した場合,そ
2 資産除去債務の「資産計上額」の
税務上の取扱い
法人税法上,償却資産の取得価額に算入
すべき金額は,①資産の購入の代価(引取
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特集1 固定資産の有効な実務処理
運賃,荷役費,運送保険料,購入手数料,
こととなる(別表四,五㈠)。
関税(関税法第2条第1項第4号の2(定
また,割引前の将来キャッシュ・フロー
義)に規定する附帯税を除く)その他当該
の見積りに重要な変更が生じたことによる
資産の購入のために要した費用と,②当該
見積りの変更が行われた場合はキャッシ
資産を事業の用に供するために直接要した
ュ・フローの増加又は減少により,資産・
費用の額の合計額である(法法54①一)
。
負債の増額又は減額を行うこととなるた
固定資産の帳簿価額に加算された資産除去
め,損益への影響はないものの,申告書上
債務相当額部分は上記のいずれにも該当し
での資産・負債の調整が必要となる(減額
ないため,法人税法上は資産計上が認めら
の場合には,別表五㈠において,取得時の
れないものである。したがって,固定資産の
負債の加算調整額を一部減算,資産の減算
一部として資産計上が行われた事業年度に
調整額を一部加算の処理が行われる)。
おいて,
申告書上は「固定資産過大計上額」
等として減算処理が必要となる
(別表五㈠)
。
3 減価償却費の取扱い
会計上資産除去債務を計上した場合,期
末において固定資産計上額に対応する減価
5 資産の除却時の取扱い
税務上,資産除去債務は実際の資産の除
去に伴い当該債務が法的な債務として成立
した時点において初めて税務上の債務とし
て認識され,損金算入が認められる。
償却費が計上されるが,税務上の償却限度
ここで,仮に資産除去債務の当期までの
額(承認による増加償却額及び措置法上の
計上額と実際の除去費用の支出額が同額で
特別償却額を含む)を超える額は損金算入
あったと仮定した場合,会計上,当該除去
が認められないため,
「減価償却超過額」
費用は資産除去債務の取崩しにより全額手
等として加算調整されることとなる(別表
当されることより,特段会計上の損失は発
四,
五㈠)
。固定資産について減損損失が認
生しないこととなる。
識された場合も同様である。このように,
一方,法人税上,除去費用については,
取得時において減算調整された一時差異の
実際の資産の除却時に法的債務が成立し,
金額は毎期の減価償却超過額の加算調整を
税務上の債務として確定することより,資
通じて,解消されていくのである。
産除去債務の過年度否認額がこの時点で減
4 資産除去債務の調整額等の取扱い
算認容されることとなる。
また,資産取得時に資産計上された資産
資産除去債務については時の経過に応じ
除去債務の額について「固定資産過大計上
て割引価値が増加し,それに伴う負債額の
額」等として減算調整した金額については
調整が必要となる。当該調整額は,その発
原則として毎期の減価償却超過額により調
生時の費用(利息費用)として処理される
整されることになるが,残額がある場合(例
が,そもそも資産除去債務が税務上の負債
えば,耐用年数経過前に除却した場合等)
として認められないことより「債務未確定
は,実際の資産除去時,すなわち債務確定
未払費用」の増加額として加算調整される
時において加算認容される。
24 税務弘報 2010. 3
●資産除去債務の会計・税務
6 資産除去債務が税務上認められる
場合
上記の議論は,資産除去債務が税務上の
債務として認められず全額否認されるケー
スを前提としているが,一方,除去費用を
適切に計上する方法が別途法令で規定され
られる金額を合理的に見積もり,そのうち
当期の負担に属する金額を費用に計上する
方法によっている場合は,当該費用計上額
を加算調整するに留まる(別表四,五㈠)。
おわりに
多くの企業において,本基準の適用は,
ており,税務上も特別の法令により損金算
強制適用になる2010年4月1日以降開始事
入が認められている場合には,上述のよう
業年度からになるものと思われるが,その
な税務調整は不要となる点に留意が必要で
際には会計基準の変更に伴う会計方針の変
ある。
更として取り扱われ,適用初年度期首時点
例えば,現行,原子力発電所の解体費用
の累積的影響額を一時の損益として認識す
は会計上,一定の算式をベースに引当計上
ることが要求されている。したがって,四
することとされており(原子力発電施設解
半期報告書を提出する企業では適用初年度
体引当金に関する省令),税法上も一定の
第一四半期の決算において期首の影響を確
要件の下,この引当金の損金算入が認めら
定する必要がある。
れている(措法57の4)
。この点,今後資
産除去債務会計基準の制定を受け,原発解
体費の費用計上方法が多少変更される可能
性もある(この場合,会計上の償却費用を,
措置法上の原子力発電施設解体準備金とし
て積み立てた費用に読み替える必要があ
る)が,
いずれにせよこのような場合には,
税務上上述のような税務調整は基本的に不
要となる点に留意が必要である。
7 敷 金
賃借建物等に係る有形固定資産(内部造
作等)の除去などの原状回復義務が契約で
取り交わされている場合で,資産計上され
ている敷金に関連して,当該資産除去債務
の負債計上及びこれに対応する除去費用が
資産計上される場合には,上記の場合と同
様に,申告書上において資産の減算,負債
の加算処理を行う(別表五㈠)。一方,当
[Profile]
岩尾 健太郎(いわお けんたろう)
あらた監査法人 パートナー 公認会計士。慶
應義塾大学経済学部卒業。1987年青山監査法
人プライスウオーターハウス入社,1997年~
2000年米国プライスウォーターハウスクーパ
ース・シカゴ事務所に駐在,2006年あらた監
査法人入社,現在に至る。現在,あらた監査法
人TICEインダストリー・アシュアランス部門イ
ンフォコムセクターリーダーとして国内上場会
社,米国SEC登録会社等の監査責任者を担当。
主要著書に,『2008-2010新会計基準の実務』
(共著,中央経済社),
『アメリカの会計原則』(共
著,東洋経済新報社)がある。
清宮 陽二(きよみや ようじ)
税理士法人プライスウォーターハウスクーパー
ス マネージャー 公認会計士。東京大学文学
部卒業後,総合商社勤務を経て,2001年プラ
イスウォーターハウスクーパース税務事務所入
所。2006年~2009年英国プライスウォータ
ーハウスクーパースLLPロンドン事務所にて駐
在。現在,事業法人部に所属し,主に海外で事
業展開をする日本企業への国際税務コンサルテ
ィングサービスに従事する。
該敷金の回収が最終的に見込めないと認め
税務弘報 2010. 3  25
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