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Document 2543448
マエストロの解説
内国法人が海外事業展開を図り、海外に所有
する子会社が、その本店所在地国で租税優遇措
置などにより税負担が 20%以下である場合に
は、その子会社は特定外国子会社等に該当する
こととなる。通常、実態のともなう事業展開で
税務における第一人者 〝税務マエストロ 〟による税実務講座
ある場合には、こうした特定外国子会社等は適
今週のマエストロ&テーマ
タックス ヘイ
ブン対策税制
─資産性所得の合算課税
#
58
品川克己
いこととなろう。しかしながら、こうした場合
であっても、一定の「資産性所得」について
は、その持分に応じた部分が合算課税の対象と
なる(措法 66 の 6 ④)。
1
総
論
特定外国子会社等が、平成 22 年 4 月 1 日以後
に開始する事業年度において、適用除外基準を
日本公認会計士協会租税
調査会専門委員(国際租
税専門部会)
税理士法人プライスウォーターハウスクーパ
ース
(マネージング・ディレクター)
満たすことから、実際には適用対象金額が合算
略歴
国子会社等に係る内国法人の持分に応じて計算
89年より大蔵省主税局に勤務。90年7月より同国
際租税課にて国際課税関係の政策立案・立法及
び租税条約交渉等に従事。96年ハーバード・ロー
スクールにて客員研究員として日米租税条約につ
いて研究。97年より00年までOECD租税委員会
に主任行政官として出向(在フランス)
し、
「 OECD
移転価格ガイドライン」及び「OECDモデル条約」
の改定、及び関連会議の運営に従事。01年9月財
務省を辞職し現職。
次回のテーマ
59
#
課税の対象とならない場合であっても、次に掲
げる資産性所得の金額(特定所得の金額)の合
計額(部分適用対象金額)のうち、その特定外
した金額(部分課税対象金額)は、特定外国子
会社等の事業年度終了の日の翌日から 2 月を経
過する日を含む内国法人の事業年度の益金に算
入することとなる(措法 66 の 6 ④)。この制度
は、一般に「資産性所得の合算課税」と言われ
ており、平成 22 年度税制改正により導入され
たもので、平成 22 年 4 月 1 日以後開始する特定
外国子会社等の事業年度から対象となっている
経営戦略に応える
企業再編成税制
税理士
朝長英樹
経営戦略の1つとして組織再編成税制を活
用できる方法を、同税制等の創設を主導し
た筆者が事例形式で解説する。
※取り上げて欲しいテーマを編集部にお寄せください。
[email protected]
20
用除外基準を満たし、合算課税の対象とならな
No.473 2012.10.29
(図参照)。
2
対象となる資産性所得―特定所得
この合算課税の対象となる資産性所得は「特
定所得」とされ、次のように限定列挙されてい
る(措法 66 条の 6 ④一〜七)。なお、これらは
【図】 資産性所得の合算課税の概念図
部分適用対象金額
各「特定所得」の合計金額
−特定の配当
−特定の利子
−特定のロイヤルティ
×
など
持分割合
=
部分課税対象金額
※特定所得および部分適用対象金額について、主たる事業との関連
による除外規定および金額基準による除外規定が定められている。
法令上「残額」という用語であることから、す
特定外国子会社等が受領する債券の利子で、
べてプラスの概念とされている点に注意する必
【図
要がある。これは、次の①から⑦までの各特定
当該債券の利子の合計額から、この利子を得る
所得の中に費用等を控除した後の金額がマイナ
が控除される(措法 66 の 6 ④二、措令 39 の 17
スになるものがあった場合、それはゼロ(無い
の 2 ④)。
以上
特定外国子
もの)として捉えることとなり、他のプラスに
月
社
する
なる特定所得の金額と通算することはできない
所有
の子
ということになる(措通
66 の同
6 - く特定外
18 の 2)
。
上記以外
①
剰余金の配当等
特定外国子会社
配
除外を満たさな
等に該当
特定外国子会社等が受け取る剰余金の配当等
で、特定外国子会社等が有する直接持分(自己
合算 課 を
特 外
株式を除外して計算)が配当等の支払法人の株
等に該当しない
受けた所得 ら
の配当が該当
式等のうち 10%未満である場合のみ対象とな
る。
なお、この持分を判定する時期については、
ために直接要した費用の額及び一定の支払利息
③
債券の償還差益
特定外国子会社等が受領する債券の償還差益
で、当該償還差益の合計額から、この差益を得
るために直接要した費用の額及び一定の支払利
【図3】
受取配 の除外(原則)
息が控除される(措法
66 の 6 ④三、措令 39 の
17 の 2 ⑨)。
社
(
なお、償還差益の額は、銘柄を同じくする債
配
5
基
券(同一銘柄債券)の償還を受けるごとに、そ
・6ヶ月以上
の計算上減算
所有
の償還金額が、法人税法施行令第 119 条の規定
配
上記以
基
得金額
に準じた場合の取得金額を基礎として移動平均
「配当等の支払に係る効力が生じる日」の状況
法によって計算した 1 単位あたりの帳簿価額
で判断することとなる(措法 66 の 6 ④一)
。こ
に、償還を受けた債券の数を乗じて計算した金
の「配当等の支払に係る効力が生じる日」と
額を超える部分となる(措令 39 の 17 の 2 ⑤)。
は、原則として 配当の効力を生じる日である
邦
に基づ
準
計
図
が、配当を支払う法人の所在地国の法令に別の
ただし、移動平均法に替えて、総平均法を用い
定めがある場合には、配当の額が確定したとさ
法 税
措 法 より
また、移動平均法及び総平均法の選択は、債
れる日となる(措通
66 の 6 - 18 の 3)
。
計算される所得
ることもできる(措令 39 の 17 の 2 ⑥)。
券の種類ごとに行うことができるが、選択した
また、この配当等を得るために直接要した費
方法を変更する場合は、あらかじめ納税地の税
用の額及び一定の負債利子が、配当等の額から
務署長の承認を受けなければならないこととさ
加
付法人
控除される(措令 39 の 17 の 2 ③)
。なお、この
(
15 二)
「直接要した費用の額」には、各特定所得の金
還 法
税
1
(措令39の15①三)
額に係る源泉税等の額が含まれる
。
②
1
(
債券利子
れている((措令 39 の 17 の 2 ⑦、⑧)。
④
株式等の譲渡所得
特定外国子会社等が得る株式等の譲渡所得
で、配当等と同様、特定外国子会社等が有する
各特定所得の金額に係る源泉税等は、平成
(減算 控除対象配当等 23 年税制改正に「直接要した費用の額」に含まれることとされた。同改正前は明
示的に含まれないとされていた(旧措令 39 の 17 の2②)。
(
令3 の15③④)
No.473 2012.10.29
21
直接持分(自己株式を除外して計算)が 10%
なお、この直接要した費用の額には、特定外
未満である場合の株式等の譲渡のみ対象とな
国子会社等が有する特許権等に係る償却費の額
る。なお、この持分を判定する時期について
が含まれるが、これは、本邦法令(具体的には
は、譲渡の直前となる(措法 66 の 6 ④四)
。ま
法人税法第 31 条)に準じて計算される(措令
た、譲渡は、証券取引所での譲渡(証券会社等
39 の 17 の 2 ⑯)。また、本邦法令に替えて現地
への売委託によるものを含む)に限定されてい
法令により計算することもできるが、自由償却
る(措令 39 の 17 の 2 ⑩)
。
は認められない(措令 39 の 17 の 2 ⑱)。また、
なお、株式の取得価額につき、法人税法施行
一度選択した方法を変更する場合には、事前に
令第 119 条の規定に準じた場合の取得価額を基
納税地の税務署長の承認を得なければならない
礎として移動平均法によって計算した 1 単位あ
こととされている(措令 39 の 17 の 2 ⑲)。
たりの帳簿価額に、譲渡した株式の数を乗じて
この使用料の範囲は、法令上限定列挙ではあ
計算した金額を「株式等の譲渡に係る原価の
るが、実務的にはブランド料を含め、広く一般
額」とされる(措令 39 の 17 の 2 ⑫)
。ただし、
的に捉える必要があろう。ただし次のものは除
移動平均法に替えて、総平均法を用いることも
外される(措令 39 の 17 の 2 ⑮)。
できる(措令 39 の 17 の 2 ⑬)
。
⃝特定外国子会社等が自ら行った研究開発の成
また、移動平均法及び総平均法の選択は、株
果に係る特許権等の使用料
2
式の種類ごとに行うことができるが、選択した
⃝特定外国子会社等が対価を払って取得し、か
方法を変更する場合は、あらかじめ納税地の税
つ、事業の用に供している特許権等の使用料
務署長の承認を受けなければならないこととさ
⃝特定外国子会社等が対価を払って使用許諾を
れている(
(措令 39 の 17 の 2 ⑬)
。
⑤
債券の譲渡所得
受け、事業の用に供している特許権等の使用
料
特定外国子会社等の得る債券の譲渡所得で、
なお、これら使用料については、その旨を明
債券の譲渡収入の合計額から、この債券の取得
らかにする書類を保存していることが求められ
価額及び譲渡収入を得るために直接要した費用
ているが、実務上は、自ら行った研究開発か否
の額が控除される(措法 66 の 6 ④五)
。なお、
かといった問題や、事業に供しているか否かと
譲渡された債券に係る原価の額の計算について
いった問題で議論となることが予想される。
は、株式等の場合と同様である(措令 39 の 17
⑦
の 2 ⑭)
。
特定外国子会社等が受領する船舶・航空機の
⑥
使用料(ロイヤルティ)
船舶・航空機リース
貸付けによる対価の額で、当該対価の額から、
特定外国子会社等が受領する特許権、実用新
当該対価を得るために直接要した費用の額が控
案権、意匠権もしくは商標権又は著作権(出版
除される。なお、船舶又は航空機に係る償却費
権および著作隣接権を含む)の使用料(ロイヤ
の取り扱いは、特許権の場合と同様である。ま
ルティ)で、これら使用料の合計額から当該使
た、この貸付の対価は、いわゆる裸傭船を対象
用料を得るために直接要した費用が控除され
としており、定期用船は含まれないものと考え
る。
られる。
2
22
「特定外国子会社等が自ら行った研究開発」には、特定外国子会社等が他の者に研究開発の全部又は一部を委託して行う場合
であっても、その特定外国子会社等が、自ら当該研究開発に係る企画、立案、委託先への開発方針の支持、費用負担及びリス
ク負担を行うのであれば、自ら行った研究開発と判定される(措通 66 の 6 − 18 の 3)。
No.473 2012.10.29
3
合算対象となる金額の計算
(1)部分適用対象金額の計算
るポートフォリオ投資としての株式の配当、債
券の利子又はこれらの譲渡益などが該当しよ
う。なお、株式等もしくは債券の保有を主たる
事業とする場合、工業所有権、著作権等の提供
(部分適用対象金額)となる。これを「部分適
を主たる事業、船舶・航空機の貸し付けを主た
用対象金額」と呼んでいるが、そもそも特定所
る事業とする場合(特定事業)には、この取り
得の金額は直接経費等の控除後の「残額」とさ
扱いの適用はないこととされている。ただし、
れていることから、これらはすべてプラスの概
業種としては具体的に列挙されていないことか
念で捉える必要がある。したがって、ある特定
ら、実務上は、その資産性所得が外国子会社の
所得について直接経費を控除した結果、その値
業務との関係においてどのような状況であるの
がマイナスとなる場合にはそれをゼロと捉える
かを総合的に勘案することとなり、税務調査等
ことになり、その結果損失額の通算はできない
において議論となる可能性が多くなると考えら
こととなる(措通 66 の 6 - 18 の 2)
。
れる。
(2)部分課税対象金額の計算
②
セーフハーバー(少額基準)
資産性所得の合算にあたり、次の少額基準に
特定外国子会社等の持分(特定外国子会社等の
よる例外規定が設けられている(措法 66 の 6
事業年度終了時における請求権勘案保有株式等
⑤、措令 39 の 17 の 2 ⑳、㉑)。これらに少額基
の割合)に応じた部分の金額が、実際の合算課
準に該当する場合には、合算課税は行われない
税の対象額となり、これを部分課税対象金額と
こととなる。なお、この場合には、これら例外
いう(措令 39 の 16 ②一、措令 39 の 17 の 2 ①)
。
となる旨を別表に記載し、その旨が明らかとな
なお、この部分課税対象金額は、課税対象金
る書類等を保存しなければならないこととされ
額に相当する金額を上限とされる(措法 66 の 6
ている(措法 66 の 6 ⑦)。
(ア)各事業年度における部分適用対象金額に
④)
。
係る収入金額が 1,000 万円以下である場合
4
①
資産性所得の合算課税における
適用除外
主たる事業との関連
特定所得として掲げられる所得に該当する場
(イ)各事業年度の決算に基づく所得の金額
(税引前所得、ただし直接要した費用とさ
れた源泉税は除く。)のうちに部分適用対
象金額の占める割合が 5%以下である場合
合であっても、その所得が、特定外国子会社等
なお、部分適用対象金額に係る収入金額が
が行う事業の性質上重要で欠くことができない
1,000 万円以下であるか否かの判定における収
業務から生じたものである場合には、これらの
入金額は、特定所得となる金額の合計となる。
所得の金額は特定所得の金額から除かれること
つまり、この場合も、特定所得に該当する各種
と な る( 措 法 66 の 6 ④ )
。 こ れ は、 特 定 所 得
の所得のプラスの金額のみを合計することとな
が、いわゆる本業としての事業活動に関連して
り、たとえば譲渡損失はゼロと捉えることとな
生じた場合が該当することとなり、たとえば銀
る(措令 39 の 17 の 2 ⑳)。
行や金融商品取引業を営む外国子会社が稼得す
No.473 2012.10.29
23
にお寄せください。
[email protected]
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