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# 05 マエストロの解説 □□□□■ □□□□■□□□□■□□□ □■□□□□■ 複雑になりすぎた 法人税をもう 一度勉強しよう マエストロの解説 BEPS プロジェクトでは、15 項目の行動計画 を設け、それぞれ期限を決めて議論が進んでい る。このうち、さる 9 月 16 日に、7 項目の「報 告書」が公表され、10 月 31 日には、行動計画 7 (恒久的施設認定の人為的回避の防止)、11 月 3 税務における第一人者 〝税務マエストロ 〟による税実務講座 日に行動計画 10(移転価格税制−他の租税回 今週のマエストロ&テーマ 避の可能性が高い取引)についての報告書が公 BEPSプロジェクト の進捗と税制改正へ の影響② 表された。 # 126 品川克己 税理士法人プライスウォ ーターハウスクーパース (ディレクター) 報告書概要―行動計画 2 BEPS 行動計画 2 は、 「ハイブリッド・ミス マッチの効果の無効化」を主題としているが、 その報告書はこれまでの報告書の中でも、最も 複雑かつ長文に及ぶものであり、2015 年に発表 される他の行動計画とも関連する項目が少なく ないことから、来年まで引き続き検討が行われ ることとなっている。なお、本報告書の勧告の 実施指針は来年 9 月を目途に公表される予定で あるが、我が国においてはすでに「外国子会社 略歴 89年より大蔵省主税局に勤務。90年7月より同国 際租税課にて国際課税関係の政策立案・立法及 び租税条約交渉等に従事。96年ハーバード・ロー スクールにて客員研究員として日米租税条約につ 配当益金不算入制度」が見直される方向である。 ハイブリッド・ミスマッチとは、特定の金融 商品や事業体に対する税務上の取扱いが、関連 いて研究。97年より00年までOECD租税委員会 する複数の国において異なることをいう。こう に主任行政官として出向(在フランス) し、 「 OECD したミスマッチを利用した税負担の軽減が多国 移転価格ガイドライン」及び「OECDモデル条約」 の改定、及び関連会議の運営に従事。01年9月財 務省を辞職し現職。 籍企業によって行われているという実態を踏ま え、これらの効果を否定するため、国内法及び モデル租税条約の規定の見直しの勧告を行うこ 次回のテーマ 127 # とが「ハイブリッド・ミスマッチの効果の無効 経営戦略に応える 企業再編成税制 化」であり、行動計画 2 の目的となっている。 朝長英樹 ブリッド金融商品とその譲渡、②ハイブリッド 税理士 経営戦略の1つとして組織再編成税制を活 用できる方法を、同税制等の創設を主導し た筆者が事例形式で解説する。 ※取り上げて欲しいテーマを編集部にお寄せください。 [email protected] 24 1 No.573 2014.12.1 具体的には、国内法の改正に関連して、①ハイ 主体間の支払い、③ミスマッチの輸入及びリ バース・ハイブリッド、の 3 つに分けて議論が 行なわれてきているが、多くの重要な項目に関 して未だ議論が進行中となっている。 【表】 ハイブリッド・ミスマッチの類型 ミス マッチ D/NI 類 型 ハイブリッド金融商品 (Hybrid Financial Instrument) ・金融商品自体が貸付両方の性質を有する (例、オーストラリアの MRPS) ハイブリッド・トランスファー (Hybrid Transfer) ・資本と貸付両方の性質を有する取決め(例、Sale and repurchase arrangement(“repo” transaction) ) 無視される支払い (Disregarded payment) ・事業体が法人格とパススルー事業体双方の性質を有す る場合に、支払いが受取者において所得として認識さ れない取決め(例、Delaware GP Structure) リバース・ハイブリッドへの支払い (Payments to Reverse Hybrid) ハイブリッド事業体の控除可能な支 払い(Hybrid Entity Payments) DD 概 要 ・事業体が法人格と双方のパススルー事業体の性質を有 する場合に、支払いが 2 カ国で損金算入される取決め (例、UK Tower Structure) ・居住者の判定法(例、設立国 vs. 管理国)の違いを利 二重居住者による支払い 用して支払いが 2 カ国で損金算入される取決め (Deductible Payments by Dual Consolidated Company) 間 接 的 な ミスマッチの輸入 D/NI (Imported Mismatches) ・直接的な D/NI 又は DD ミスマッチの効果を第三国へ 展開 本報告書の第 1 部(国内法関係)では、ハイ 金融商品自体がハイブリッドな仕組みとなっ ブリッド・ミスマッチを類型化し、その効果を ているもので、オーストラリアの "MRPS" に代 無効化するための国内法上の措置の勧告を行っ 表されるような出資証券(株式)が該当する。 ている。特に、主要なミスマッチを次の 3 形態 こうした出資では、被投資国では、税務上出資 に分類している ではなく借入れとして取り扱われるため、支払 イ)支払者損金算入、受取者益金不算入 配当に見合うリターンは支払利息として認識さ (D/NI:Deduction/ No Inclusion) れ、損金算入されることとなる。一方、受取国 ロ)費用の二重控除 (DD:Double Deduction) では、受取配当の益金不算入の対象とされれ ハ)間接的な D/NI ば、結果的に二重非課税が生じると考えられて さらに、この 3 形態のミスマッチについて 7 いる。 つのハイブリッド・ミスマッチの具体例を基に しかしながら、二重非課税か否かは議論のあ 分析し、"Linking rule" の導入を勧告している。 るところであり、国外への支払利息として源泉 "Linking rule" は、主要規定(Primary rule)と 課税される点にも配意すべきと考えられる(前 防止規定(Defensive rule)に分かれ、ハイブ 回 569 号参照)。 リッド・ミスマッチが生じる場合には主要規定 (2)ハイブリッド・トランスファー (Primary rule) が 優 先 さ れ る よ う な 制 度 と なっている。 (Hybrid Transfer) レポ取引 (Sales and Repurchase arrangement) のように、出資と貸付の両方の性質を有する取 2 主なハイブリッド・ミスマッチ (1)ハイブリッド金融商品 (Hybrid Financial Instrument) 決めが該当するとされている。レポ取引は、本 質的には、買戻契約付き譲渡と考えることがで き、被投資国で出資証券(株式)を担保とする 貸付けとして捉えれば、被投資国側では支払配 No.573 2014.12.1 25 当を支払利息として処理し、受取側では受取配 算入)場合であっても、B 国支店の所得を支払 当(益金不算入)とされる場合に、二重非課税 利息控除前で認識することとなろう。果たして が生じるというものである。ただし、通常のレ 二重非課税を生み出すミスマッチといえるかは ポ取引では、買戻しによるキャピタルロスをど なはだ疑問である。こうしたミスマッチをこと のように取扱うのかが論点になるものであり、 さら問題視する根拠がまったく不明である。 レポ取引をハイブリッド・ミスマッチとして認 (4)リバース・ハイブリッド事業体への支払い 識することには違和感を覚える。 ハイブリッド事業体を介した 3 か国にまたが (3)ハイブリッド事業体の支払い(無視され る取決めが挙げられている。図 2 にあるよう る支払い) 2 国間で取扱いの違う事業体を利用したス に、B 国法人が B 国においてパススルー事業体 【図1】 となる場合、C 国から払われる利子が B 国法人 キームを問題視している。図 1 にあるように、 A国 の所得として認識されないことを問題視してい A法人 B 国の関連法人が、B 国法制上一般法人ではな る。しかしながら、このケースでも、B 国にお く、何らかの特殊な事業体(米国 LLC やパー いて B 国法人の所得として認識されないが、A トナーシップなど)であることから、A 国の法 国法人の 利息 B国 B 国支店の所得として取り扱われるこ 制上、法人として認識しない(パススルー事業 A国税制上 ととなろう。事業体そのものは B 国に存在して 体であり、A 国法人の支店扱いされる)場合、 いるのであり、支払及び受取そのものが無視さ B 国における B 法人の法人税上支払利息として れることはないものと考えられる。非常に奇異 認識される一方、A 国では同一法人間の金銭の なケース、取り扱いを想定しているといえよ 移転であることから、受取利息として認識せ う。 ず、税務上影響しないこととなる。 【図1】 A国 貸付 パススルー B法人 A国においては、貸付および 受取利息が認識されない 【図2】 A国 A法人 B国 B国税制上 パススルー A法人 貸付 利息 B国 A国税制上 パススルー 貸付 B法人 (パススルー) B法人の受取利息 とは認識されない B法人 A国においては、貸付および 受取利息が認識されない 利息 C国 C法人 【図2】 しかしながら、A 国においては、そもそも貸 付けそのものも認識していないことから、関連 A国 A法人 (5)ハイブリッド事業体の支払(二重控除) するコストも認識できないこととなる。また、 ハイブリッド事業体により生じる二重控除 B 国法人の利益は支店利益と同様、発生ベース (損金算入)を問題視している。図 3 のように 【図3】 B 国法人が A 国税制上ハイブリッド事業体(パ り、B 国法人からの利息を認識しない(益金不 A国 ススルー事業体)とされる場合に、B 国法人が B国 B国税制上 で A 国法人の利益として取り込まれるのであ パススルー 26 貸付 B法人 (パススルー) B法人の受取利息 No.573 2014.12.1 とは認識されない 顧客 B国 A法人 A国税制上パススルー (B国支店となる) 【図2】 行動3 CFC税制の見直し 顧 パススルー B法人 (パススルー) 貸付 貸付 B法人の受取利息 とは認識されない 負担したコスト(たとえば支払利息)は、B 国 利息 において C国 B 法人の所得計算上損金として認識さ れる。同時に、A 国税制上、B 国法人はパスス C法人 ルー事業体(つまり A 国法人の支店扱い)で あるため、自らの負担コストと認識でき、A 国 における A 法人の所得計算上損金算入できる B法人 (パススルー) 顧客 顧 B法人の受取利息 で居住法人となる場合がある(二重居住者) 。 とは認識されない 【図2】 行動3 CFC税制の見直し この場合、B 国法人が負担したコストが A 国税 利息 C国 制上及び B 国税制上も二重に損金となるという A国 Z社所得の C国 合算課税 (タックス が厳しい) このケースも、そもそも二重居住者となるこ ヘイブン) X社 (CFC税制 C法人 ものである。 とにより、B 国法人は二重課税の状態になるの 事業流出 であって、その状態こそが問題であり、二重非 こととなる。 (BEPS) Z社 【図3】 が緩い) A国 Y社 なし 直接的なミスマッチによる二重非課税を第三 A国 国に展開するスキームを指している。図 4 にあ A法人 B国 A法人 るように、ハイブリッド金融商品により B 国法 B国にはPEを有 B国 A国税制上パススルー (B国支店となる) せず販売、サCー A 人が A 国法人より資金調達し、その資金を 国国 A国税制上パススルー コスト支払 B国 払配当を損金算入できる効果を第三国に及ぼす コスト支払 B法人 Z社所得の 顧客 顧客 B法人 ことができるというものである。 合算課税 ・B国法人税上、B法人の損金算入 これは、第三国である C 国ではハイブリッド ・A国法人税上、B国支店(A法人の一部) として損金算入 金融商品の制度がない場合に、当該制度を有す る B 国を介在させることににより、その効果を C 国に及ぼすことができることとなる。 しかしながら、二重控除といっても、B 国に 【図4】 おいて B 国の法人税の計算上損金算入し、同時 【図4】 A国 にA 国の法人税の計算上も損金算入している A国 のであって、2 つの法人税が課されることが前 A法人 A法人 ハイブリッド 提となる。つまり B 国法人はそもそも二重課税 国税庁 ハイブリッド 金融商品 金融商品 の状態におかれており、それぞれの計算上損金 B国 損金算入 とされるのであって、二重非課税との認識は疑 配当 B国 損金算入 配当 [米国] ②徴収共助要請 B法人 B法人 IRS 問である。 (6)二重居住者の支払い 貸付 利息 C国 二重居住者となる法人が負担したコストが、 Z社 合算 にお寄せください。 [email protected] ・B国法人税上、B法人の損金算入 ・A国法人税上、B国支店(A法人の一部) として損金算入 ビス提供が可能 支払 (B国支店となる) 法人に貸し付けることにより、B 国において支 この記事に関するご意見・お問合せは 課税という認識はやはり疑問である。 B国 【図3】 (CFC税制 合算課税 (7)ミスマッチの輸入 C国 二重に損金となることを問題視している。B 国 貸付 利息 ①租税債権 は法人居住地の判定に当たって設立地主義を C法人 [日本] ④送金 ③徴収 C法人 採っており、他方 A 国では管理支配地主義で ある場合など、B 国法人が A 国及び B 国の双方 米国納税者 米国納税者 の財産 27 調 法人 法人 関連者 関連者 No.573 2014.12.1