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01 02 03 04
#
05
マエストロの解説
□□□□■
□□□□■□□□□■□□□
□■□□□□■
複雑になりすぎた 法人税をもう
一度勉強しよう
マエストロの解説
BEPS プロジェクトとは、昨年(2013 年)7
月に OECD 租税委員会が取りまとめた「税源浸
食と利益移転(BEPS:Base Erosion and Profit
Shifting)行動計画」をベースとして、現行の
国際課税原則の問題点を洗い出そうとするもの
税務における第一人者 〝税務マエストロ 〟による税実務講座
である。このプロジェクトは 2015 年までの計
今週のマエストロ&テーマ
画が示されているが、さる 9 月 16 日に中間報告
BEPSプロジェクト
の進捗と税制改正へ
の影響①
的な位置づけとして、一部のテーマについて
#
124
「報告書」が公表された。この報告書では、早
速いくつかの政策提言がなされており、今後、
日本では毎年の税制改正に影響を及ぼすことに
なると考えられる。たとえば、すでに「国外配
当の益金不算入制度」の見直しが税制調査会で
議論の遡上に上がっているところである。
品川克己
税理士法人プライスウォ
ーターハウスクーパース
(ディレクター)
1
BEPS 行動計画は、2012 年 6 月に、OECD 租
税委員会の中に立ち上げられたプロジェクトで
1
あるが、G20 諸国 からの支持も取り付けたこ
略歴
89年より大蔵省主税局に勤務。90年7月より同国
際租税課にて国際課税関係の政策立案・立法及
び租税条約交渉等に従事。96年ハーバード・ロー
スクールにて客員研究員として日米租税条約につ
とから、単に OECD 内のプロジェクトではな
く、主要国のほとんどが参加する世界的規模の
プロジェクトという評価がなされている。この
いて研究。97年より00年までOECD租税委員会
プロジェクトは、具体的には「近年、各国が
に主任行政官として出向(在フランス)
し、
「 OECD
リーマンショック後に財政状況を悪化させ、よ
移転価格ガイドライン」及び「OECDモデル条約」
の改定、及び関連会議の運営に従事。01年9月財
務省を辞職し現職。
り多くの国民負担を求めている中で、グローバ
ル企業が税制の隙間や抜け穴を利用した節税対
策により税負担を軽減している問題が顕在化し
次回のテーマ
125
#
2
ている」という問題意識のもと、「各国が、二
個人事業者の
消費税実務
重非課税を排除し、実際に企業の経済活動の行
熊王征秀
め、OECD は、行動計画の各項目について、
税理士
消費税率引上げ、それに伴う課税の適正化
など、消費税法の改正が続く。消費税マエス
トロが実務ポイントを解説する。
われている場所での課税を十分に可能とするた
1
2
※取り上げて欲しいテーマを編集部にお寄せください。
[email protected]
34
BEPS 行動計画
No.569 2014.11.3
OECD 非加盟国の G20 メンバーは、中国、インド、ロシ
ア、アルゼンチン、ブラジル、インドネシア、サウジアラ
ビア、南アフリカ。
税制調査会「BEPS プロジェクトの進捗状況について」
(平成 26 年 4 月 4 日、際 D3 − 5)
2014 年 9 月から 2015 年 12 月の間に、新たに国
と、対内投資促進・国内経済の活性化のために
際的な税制の調和を図る方策を勧告することと
法人税率の引下げや特定の優遇措置の検討を進
3
している」というものである(下線部筆者)
。
める一方で、税収確保を理由とした課税強化を
つまり、グローバルに事業展開を行う多国籍企
進めることは、明らかに政策矛盾といえよう。
業が租税回避を行っており、そのために各国の
租税回避防止に名を借りた課税強化ではなく、
財政状況が悪化している。それゆえ租税回避を
租税回避を防止しつつ、経済活動・経済交流を
やめさせ、企業の経済活動が行われている国で
促進させる税制を構築していくことが、あるべ
十分な課税ができるような税制を世界的調和の
き方向と考えられる。事業活動の海外展開と所
もとで構築していこうという主張と考えられ
得の隠ぺい・海外移転を明確に区別したうえで
る。
議論を進める必要があると考えられる。
しかしながらこの問題意識には、根本的な問
題点が存在している。たとえば、経済活動と所
得の発生の関係、所得源泉(所得発生)の理由
2
公表された報告書と大臣談話
について何ら検討することもなく、ある 1 国で
BEPS プロジェクトは、15 の行動計画を設
絶対的な納税額がないことを、
「節税対策によ
け、それぞれの期限を決めて議論が進んでい
り税負担を軽減している」と決めつけている点
る。このうち、さる 9 月 16 日に、次の行動計画
が、きわめて扇動的な発信であるといえよう。
に係る「報告書」が公表された。
納税が生じないのは、利益を隠しているわけで
・行動計画 1:電子経済の課税上の課題への対
はなく、課税に服する利益が生じていないため
とも考えられる(少なくともそうしたケースが
大半であろう)
。税源浸食(Base Erosion)の
処
・行動計画 2:ハイブリッド・ミスマッチ取決
めの効果の無効化
原因は、節税対策によって所得が海外に移転し
・行動計画 5:有害な税制上の慣行への対処
ている(見方によっては租税回避)からではな
・行動計画 6:租税条約の濫用防止
く、課税ベースとなる利益が発生していないこ
・行動計画 8:移転価格ガイドライン第 6 章(無
とや、利益の発生起因である事業活動そのもの
形資産)の改正案
が移転していることも大きな理由とも考えられ
・行動計画 13:移転価格文書化の再検討
る。その意味で、税源浸食(課税ベースの減
・行動計画 15:多国間協定の導入についての
少)を防止する税制は、別の見方をすれば、事
提言
業の海外移転、つまり海外事業展開を阻害する
これに合わせ、麻生財務大臣から次のように
税制となる可能性があることも否めない。
談話が発表されている。
また、現状 BEPS プロジェクトは OECD 租税
1 .昨年 7 月に OECD 租税委員会が取りまとめ
委員会という税制担当部局・課税部局のみで進
た「 税 源 浸 食 と 利 益 移 転(BEPS) 行 動 計
められ、産業政策担当部局の意見、ポリシーが
画」をうけ、本日、最初の報告書が公表さ
反映されない「欠席裁判」的なプロジェクトに
れ、G20 財務大臣・中央銀行総裁会議に提出
なってしまっている点も極めて問題であると言
された。これは、国際課税に関する国際的な
わざるを得ない。特に、日本全体の観点に立つ
協力の歴史において転機となる取組みである
3
同資料。
No.569 2014.11.3
35
「BEPS 行動計画」が着実に前進しているこ
とを示すものであり、歓迎する。
る必要がある。
我が国税制に対する直接的な影響としては、
2 .市場経済において、公平な競争条件を阻害
「外国子会社配当益金不算入制度の見直しの視
するような国際的な脱税・租税回避に利用さ
点」として、「我が国の外国子会社(配当)益
れうる税制の隙間や抜け穴をふさぎ、公正な
金不算入制度において、外国子会社から受ける
企業活動を促進することは、各国経済の堅実
配当について、現地で損金算入される配当も制
な成長や、納税者の税制に対する信頼を確保
度の対象とされており、こうした損金算入配当
する上で重要である。一方、一国による対応
については二重非課税の問題が生じている。」
には限界があり、各国がこれに協調して取り
「BEPS プロジェクトにおいて、二重非課税が
組むことが不可欠である。
4
生じないように、配当益金不算入制度を採用し
3.
「BEPS 行動計画」については、私も G20
ている国は、損金算入配当を益金不算入の対象
などの場で議論に積極的に関与してきてお
外とするよう求められていることを踏まえ、我
り、日本はこれを強く支持している。今後、
が国においても、損金算入配当を外国子会社配
報告書に示された内容に適切に対応していく
当益金不算入制度の対象外としてはどうか。」。
とともに、引き続き国際的な場における議論
と、すでに具体的な税制改正項目として挙げら
を先導していきたい。
れているところである。
5
(2)問題点
3
国外配当益金不算入の見直し
① 政策趣旨との関係
外国子会社配当益金不算入制度は、平成 21
(1)税制調査会の議論
年度税制改正において、それまでの二重課税排
税制調査会においても、「BEPS プロジェク
除の方法としての外国税額控除制度に代えて導
トを踏まえた我が国の国際課税見直し」とし
入されたもので、海外の子会社から配当として
て、BEPS の検討項目のいくつかが具体的に取
日本国内に還流する利益が、設備投資、研究開
り上げられ、すでに税制改正を見据えた議論
発、雇用等幅広く多様な分野で我が国経済の活
が開始されている。特に、行動計画 2(ハイブ
力向上のために用いられることを期待して導入
リッド・ミスマッチ取決めの効果の無効化)
されたものである。「平成 21 年度の税制改正に
においては、他国の租税の取扱いに自国の租
関する答申」においても、「我が国経済の活性
税の取扱いをリンクさせる国内法(リンキン
化の観点から、我が国企業が海外市場で獲得す
グルール)の導入及びその調整ルールについ
る利益の国内還流に向けた環境整備が求められ
ての提案が報告されている。より具体的には、
る中、企業が必要な時期に必要な金額だけ戻す
平成 26 年 4 月 4 に提出された資料(際 D3 - 5)
ことができることが重要である。(略)企業の
において、「ハイブリッド・ミスマッチが生じ
配当政策の決定に対する中立性の観点に加え、
ないように、配当免税制度を採用している国
適切な二重課税の排除を維持しつつ、制度を簡
は、支払者において損金算入となっている配
素化する観点も踏まえ、間接外国税額控除に代
当については、免税を与えないようにしなけ
えて、外国子会社からの配当について親会社の
ればならない。」と記されている点には留意す
益金不算入とすることが適当である。」とされ
4
5
36
税制調査会「BEPS プロジェクトを踏まえた我が国の国際課税見直し」(平成 26 年 4 月 24 日、際 D4 − 1)
同資料。
No.569 2014.11.3
ている。
非課税措置と受取側の非課税措置が別個に存在
このように、海外子会社配当の益金不算入制
しているのであり、これをリンクさせることの
度は、単に二重課税排除ということのみでな
合理性は全く見いだせない。2 法人間で二重非
く、制度の簡素化及び海外からの受取配当を非
課税ととらえるのではなく、単に最初の法人が
課税(益金不算入)とすることにより、配当に
非課税とされているにすぎないと考えることも
よる資金の国内還流を促進させることを制度趣
できよう。また、法人所得は、必ず課税を受け
旨としている。外国子会社配当益金不算入制度
なければならないという前提であれば、これは
の見直しに当たっても、この制度趣旨を十分に
二重非課税の問題ではなく、最初に適用を受け
認識すべきと考えられる。
た優遇措置(非課税措置)の是非の問題ともい
なお、税制調査会の資料では、イギリス、ド
えよう。
イツが損金算入配当を益金不算入の対象から除
なお、損金算入とされる配当は支払者の法人
外していることが今回の見直しの理由のひとつ
税の計算に当たって損金算入されるだけであ
として挙げられているが、そもそもイギリス、
り、一般的には、支払に当たって源泉所得税
ドイツが国外からの配当を益金不算入の対象と
が課税されるものである(受取者に対する課
していた理由は主に二重課税の排除であり、我
税)。少なくともこの文脈では、二重非課税と
が国と政策趣旨がまったく異なる点に留意すべ
いう概念を用いることはできないものといえ
きである。
よう。
② 「二重非課税」論の問題点
③ 税負担軽減(軽減税率)との関係
BEPS プロジェクトにおいては「二重非課
支払配当の損金算入は、法人税の負担軽減効
税」の概念が曖昧なまま議論が進められてい
果を目的の一つとしている。損金算入部分が非
る。二重非課税と一般的な非課税の違いが曖昧
課税とされることにより、法人税の実効税率が
であり、特に損金算入配当が受取側で益金不算
引き下げられることとなるが、その意味では特
入とされることにより「二重非課税」が生じて
例としての法人税の免税措置と異ならない。
「二重非課税」という用語で、配当支払原資が
いると捉えることは疑問でもある。
受取配当については、一般的に、異なる法人
法人税負担を負っていないことを問題視するの
間の同一所得に対する二重課税を排除するため
であれば、通常の非課税措置により免税とされ
益金不算入とされているところであるが、本来
た法人所得からの配当も同様に悪となってしま
は「法人」及び「法人税」の性質の議論と切り
おう。法人税の免税を受けた法人利益からの配
6
離して考えることはできない問題である 。仮
当と損金算入配当と区別する合理的な理由は見
に、法人税を配当受領者である株主に対する所
いだせない。
得税と切り離して、独自の税と考えれば、そも
また、支払配当の損金算入という制度そのも
そも支払側で法人税が課税されることと受取側
のを問題視するのであれば、そもそも我が国に
で課税されることは全く別の次元の問題であ
も同様の制度がある。仮に、何らかの対応が必
り、これらを混同して必ずどちらかで課税を受
要だとするのであれば、それは受取側の制度変
けなければならないものと認識する必要はない
更で対応する問題ではなく、支払側の制度変更
のではないか。それぞれ、もともとの支払側の
により対処すべき問題であろう。
6
法人税を株主の所得税の前取りととらえるか、独自の税ととらえるかといった問題であり、いわゆる「法人擬制説」及び「法
人実在説」の問題と関連づけて議論される。
No.569 2014.11.3
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④ 投資形態変更のコスト
ば、その計画を見直す必要が生じるが、たとえ
損金算入配当が海外子会社配当益金不算入制
ば「交際費の損金不算入」等の通常の損金項目
度の対象となることについては、これまで国税
についての改正とは異なり、投資形態(どうい
7
当局は明示的に認めてきている 。特に、オー
う法人形態とするか)の変更等、根本的な対応
ストラリアやブラジルといった具体例まで紹介
が求められ、容易に対応できる問題とは考えら
され、各企業は配当の益金不算入を前提に投資
れない。
計画を立て、事業を行っているものと考えられ
「OECD での議論を踏まえる」ということで
る。
はなく、我が国のとった政策判断、その時の制
海外子会社配当益金不算入の見直しは、納税
度趣旨、さらには実社会に与える影響を十分に
者に不利益を与える改正である。投資に当たっ
踏まえ、慎重に対処する必要がある問題と考え
て予定されたリターンが得られないのであれ
られる。
7
国税庁ホームページにおける質疑応答事例「外国子会社配当益金不算入制度の対象となる剰余金の配当等の額の範囲につい
て」
。
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記事に関するお問い合わせは週刊「T&Amaster」編集部にお寄せください。執筆者に質問内容をお
伝えいたします。
TEL:03-5281-0020 FAX:03-5281-0030 e-mail:[email protected]
※なお、内容によっては回答いたしかねる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
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No.569 2014.11.3
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