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01 02 03 04
#
05
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マエストロの解説
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マエストロの解説
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複雑になりすぎた 法人税をもう
一度勉強しよう
多国籍企業の国際的租税回避問題は、現在最
も注目を集めている税務関連のトピックである
が、同時に、財政当局、政策当局にとっても積
極的な対応策が求められている問題でもある。
各国政府は、単独での対応ではなく、OECD
1
税務における第一人者 〝税務マエストロ 〟による税実務講座
(経済協力開発機構)の場 を利用して世界的に
今週のマエストロ&テーマ
多国籍企業の
国際的租税回
避問題②
#
91
品川克己
税理士法人プライスウォ
ーターハウスクーパース
(マネージング・ディレクター)
協調した対応策の検討をまさに開始したところ
である。
1
OECD における議論の推移
(1)タックスヘイブンと有害な租税政策
OECD が有する問題意識と言うのは、結局、
OECD という組織ではなく、OECD に加盟し
ている各国政府がそれぞれ有しているものであ
る。OECD 加 盟 国 は、 こ れ ま で、OECD の 場
(会議等)を通じて、租税に関する問題を検
討、解決してきている。古くは、二重課税排除
のためのモデル租税条約や解釈コメンタリーの
制定、CFC(タックスヘイブン)対策の議論、
略歴
89年より大蔵省主税局に勤務。90年7月より同国
移転価格ガイドラインの制定などがあげられ
際租税課にて国際課税関係の政策立案・立法及
る。こうしたこれまでの議論の多くは、主に二
び租税条約交渉等に従事。96年ハーバード・ロー
重課税の排除と租税回避の防止の二つが主要論
スクールにて客員研究員として日米租税条約につ
いて研究。97年より00年までOECD租税委員会
点であった。企業のグローバルな事業活動の促
に主任行政官として出向(在フランス)
し、
「 OECD
進、つまり自国企業の海外進出を促す一方で、
移転価格ガイドライン」及び「OECDモデル条約」
企業行動としての「租税回避」は防止していく
の改定、及び関連会議の運営に従事。01年9月財
務省を辞職し現職。
というスタンスである。そこには適正・公平な
課税の実現といった理念が背景に見える。
次回のテーマ
#
92
無対価分割の取扱い
税理士
朝長英樹
経営戦略の1つとして組織再編成税制を活
用できる方法を、同税制等の創設を主導し
た筆者が事例形式で解説する。
※取り上げて欲しいテーマを編集部にお寄せください。
[email protected]
16
No.517 2013.9.30
1
OECD は、国際連合と同様、国際機関の一つであるが、
その位置づけ、性格は国際連合とは異なる部分が多い。国
際連合は各国政府から独立した地位を有し、独立した「国
家」的な機能を果たす一方で、OECD は「事務局」によっ
て構成され、各国政府の議論の場を提供することを主たる
機能としている。また、そこでの決定事項は OECD の決定
事項というより、各国政府(またはその代表者)による決
定との性格を持つ。それゆえ、国際連合は「International
Organization」 で あ る が、OECD は「Inter-Governmental
Organization」と言われることもある。
そして、このスタンスは 1995 年以降徐々に
変化してきている。それまでは、特定の企業行
動を租税回避行為として問題視し、その対応策
を検討してきていたが、次第に企業行動の問題
ではなく国レベルの問題として捉え、その対象
が特定の国・地域の租税政策に移行していった
のである。これは、極端な租税優遇策を採る国
に自国の産業(及びその所得)が流出してし
まっているという懸念、問題意識が顕在化して
きたためである。主要国は国家財政の悪化を背
景として、適正・公平な課税の実現といった理
念よりも、自国の税収確保といった現実的な問
題が至上命題となっていたのである。そして、
そのために不当な税制を有する国をタックスヘ
イブンとし、加盟国が率先して糾弾することに
よって、自国企業及びその所得の移転を防止し
よ う と す る 方 策 を 採 っ た の で あ る。 当 時 の
OECD に お け る「 有 害 な 税 の 競 争(Harmful
Tax Competition)プロジェクトでは、1998 年
に次の 4 つの基準をタックスヘイブンと判定す
る基準(いずれかに該当する場合)として発表
し、2000 年に「タックスヘイブン・リスト」
2
として 35 カ国・地域を公表した 。
[タックスヘイブン判定基準]
(1998 年)
i . 金融・サービス等活動から生じる所得に
対して無税若しくは名目的課税
ii . 実効的な情報交換の欠如
iii. 税制の透明性の欠如
iv. 誘致される金融・サービス等の活動につ
いて実質的な活動が行われることが要求
されない
[タックスヘイブン・リスト](2000 年)
アンドラ公国、アンギラ(英領)
、アンティ
グア・バーブーダ、アルバ(蘭領)
、バハマ
国、バハレーン国、バルバドス、ベリーズ、
英領ヴァージン諸島、ドミニカ国、クック諸
島(ニュージーランド)
、ジブラルタル(英
領)
、グレナダ、ガーンジー(英領)
、マン島
(英領)
、ジャージー島(英領)
、リベリア共
和国、リヒテンシュタイン公国、モルディブ
共和国、マーシャル諸島共和国、モナコ公
国、モンセラット(英領)
、ナウル共和国、
蘭領アンティール、ニウエ(ニュージーラン
ド)
、パナマ共和国、サモア共和国、セイシェ
ル共和国、セント・ルシア、セント・クリス
トファー・ネイヴィース、セント・ビンセン
ト及びクレナディーン諸島、トンガ王国、
タークス及びカイコス所得(英領)
、米領
ヴァージン諸島、バヌアツ共和国
(備考)バーミューダ―諸島、ケイマン諸島(英領)、サン
マリノ共和国、マルタ共和国、キプロス共和国、
モーリシャス共和国の 6 カ国・地域については、
タックスヘイブンとしての要素を除去することを約
束したため、リストには掲載されなかった。
(2)税に関する情報交換
1998 年に策定されたタックスヘイブンの判定
基準は 2001 年に見直しが行われた。その結果、
租税の賦課は主権の問題であること、また金融・
サービス等の実質的な活動の判定は困難である
ことから、タックスヘイブンの判定基準は、
「実
効的な情報交換の欠如」及び「税制の透明性の
欠如」の二つに絞られ、この後は税に関する情
3
報交換の実効性に焦点が移行したと言える 。
こうした動きに拍車をかけたのが、2008 年
2
3
リストに掲載された国・地域は、無税若しくは名目的課税の国が多くあるが、実際に加盟国企業が移転したケースはほとんど
ないと考えられる。このプロジェクトは、表向きはこうしたタックスヘイブンを対象としつつ、一方で加盟国内での産業誘致の
駆け引きがあったと言われている。具体的にはアイルランドのダブリンドック優遇税制、英国シティの金融業に対する優遇税制、
オランダの持株会社に対する優遇税制などである。また、スイスの銀行機密も議論の俎上に上がった時期もあったようである。
2005 年に、OECD モデル条約 26 条が改正され、銀行機密の否定、自国に課税上の利益がない場合でも情報を収集し提供す
る、といった内容が加えられ、実質的に情報交換の根拠規定の強化が図られた。 No.517 2013.9.30
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ごろ勃発した米ベアー・スターンズの破たん、
の問題である。これは、多国籍企業が税制上よ
リーマンショック等の金融経済危機及び UBS
り有利な地域へ利益を移転させ、自国や所得源
銀行巨額損失事件である。こうしたことを背景
泉地国の税源を浸食させてしまっているという
として、金融システム安定化等の観点から、い
懸念でもある。
わゆるタックスヘイブンへの不透明な資金の流
昨今の報道では、スターバックスやアマゾン
れが諸外国で問題視され、2009 年 4 月の G20 サ
といった多国籍企業が「租税回避」をしている
ミットを契機に、国際基準に即した税務当局間
という単純化された内容となっているが、この
の納税者情報や銀行機密情報の交換を行う動き
「租税回避」はかつて問題視された「租税回
が 加 速 し て い っ た。OECD で は、2009 年 9 月
避」とはその範囲が異なっているといえる。か
に、
「税の透明性と情報交換に関するグローバ
つての「租税回避」は、ある意味合法ではある
ルフォーラム」を立ち上げ、情報公交換の法
が制度の濫用の要素があり、それゆえ規制の対
制・執行の両面から、OECD 非加盟国を含め
象となっていたものといえる。それは、こうし
120 カ国・地域の相互審査を進めている。
た行為、企業行動そのものが悪であるという前
また、日本を含め OECD 加盟国は、タック
提に立っていたといえよう。しかしながら、
スヘイブンと言われる地域・国と税に関する情
BEPS における問題意識は、こうした旧来の租
4
報交換を主な内容とする 2 国間条約の締結 を
税回避のみならず、新たな視点を含んだもので
進めると同時に、積極的な情報交換のスキーム
ある。それは、新しいビジネスモデルや事業環
を提供している「税務行政執行共助条約」を
境の変化に現行制度が対応できていないのでは
OECD 非加盟国にも開放し、現在 56 カ国が署
ないかといった問題意識である。特に電子商取
名に至っている。
引の発展及び知的財産の重要性の増加に応じ
て、現在の国際課税制度を根本的に見直す必要
2
BEPS プロジェクトのターゲット
があるのではないかといった指摘も生じてきて
いる。
OECD 加盟国を中心に各国政府は、個別の企
OECD では、こうした問題意識から、2012
業行動としての租税回避を防止すべく、まずは
年11月20日にBEPSプロジェクトを立ち上げ、
租税回避防止のための国内制度(CFC 税制、
2013 年 2 月 12 日 に 準 備 報 告 書「Addressing
過少資本税制、移転価格税制など)を確立し、
Base Erosion and Profit Shifting」を公表して
次に、租税回避を誘引する他国の制度を糾弾す
いる。そこでは次の 6 点が重点検討項目とされ
るため、税制の透明性の確保と情報交換の促進
ている。
を担保すべく、その土俵の構築に努めてきたと
i . ハイブリッド事業体及びハイブリッド商品
いえる。ここで改めて国際課税の現状に目を配
ると、そこには依然として大きな問題が存在し
ている。それがまさに昨今の多国籍企業の国際
的租税回避問題といわれる「税源浸食と利益移
転(BEPS - Base Erosion and Profit Shifting)」
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への各国の取扱いの差異
ii . デジタル商品及びサービスの提供から生じ
る利益への租税条約の適用
iii. 関連者間の金融サービス、キャプティブ保
険及びその他のイントラグループ金融取引
日本は、マン島、ジャージー、ガーンジー、リヒテンシュタイン、ケイマン、バハマ、バミューダ、サモアとの間でこうし
た情報交換を主体とした条約を締結している。また、香港との租税条約は、形式的には一般的な租税条約の形態をとっている
が、目的は情報交換といえる。
No.517 2013.9.30
に係る税務上の取扱い
し、移転価格、租税条約、税務行政など個別の
iv. 移転価格、特にリスク及び無形資産の移転、
観点から取り組んできたが、BEPS の問題につ
関連会社間での資産所有権の人為的分割や
いては、各プロジェクトをすべて集約して取り
特異な取引への対応
組む必要があるとして、本年 7 月 19 日に「BEPS
v . 一 般 的 な 租 税 回 避 防 止 規 定(GAARs)
、
に関する行動計画(15 項目)」を発表したとこ
CFC 税制、過少資本税制、租税条約濫用防
ろである。
止規定の活用
(次回の 10 月 28 日号(No.521)にて、
「BEPS
vi. 特定の活動に関する有害な優遇措置の利用
に関する行動計画(15 項目)」について個別に
解説予定)
可能性
OECD は、これまで、こうした問題点に対
記事に関連するお問い合わせ先
記事に関するお問い合わせは週刊「T&Amaster」編集部にお寄せください。執筆者に質問内容を
お伝えいたします。
TEL:03-5281-0020 FAX:03-5281-0030 e-mail:[email protected]
※なお、内容によっては回答いたしかねる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
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