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01 02 03 04
#
05
□□□□■
マエストロの解説
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□■□□□□■
複雑になりすぎた 法人税をもう
一度勉強しよう
マエストロの解説
BEPS 行動計画 6 では、「租税条約の濫用を防
ぐための措置」について検討が進められてい
る。この行動計画 6 については、平成 26 年 3 月
に、 す で に 第 一 次 の 討 議 草 案(Discussion
Draft)が公表され、それに対して産業界から
税務における第一人者 〝税務マエストロ 〟による税実務講座
実務的なコメントがなされている。これらコメ
今週のマエストロ&テーマ
BEPSプロジェクト
の進捗と税制改正へ
の影響③
#
128
品川克己
税理士法人プライスウォ
ーターハウスクーパース
(ディレクター)
ントを踏まえ、9 月にこの討議草案を改正した
「報告書」
(2014 Deriverable)が公表され、さ
らにこの報告書において「更なる検討が必要」
とされた事項についての追加的討議草案
(Discussion Draft:Follow up work in BEPS
Action6)が 11 月に出されるなど議論は活発に
展開している。
第一次の討議草案においては、租税条約の濫
用等を防止するため、OECD モデル条約の本文
を改正することに加え、租税条約が「二重非課
税」の状態を作り出すためのものではないこと
を明らかにするよう、タイトルや序文の改正が
提言されていた。また、締約国が、租税条約を
締結するか否かの判断を行う際に検討すべき租
略歴
89年より大蔵省主税局に勤務。90年7月より同国
際租税課にて国際課税関係の政策立案・立法及
び租税条約交渉等に従事。96年ハーバード・ロー
スクールにて客員研究員として日米租税条約につ
税政策についても提言されていた。特に、この
討議草案では、特典制限規定(LoB:Limitation
of Benefits)として米国が締結した租税条約の
いて研究。97年より00年までOECD租税委員会
条文例を採用し、さらにその中に、「主要目的
に主任行政官として出向(在フランス)
し、
「 OECD
テスト(main purpose test)」や「一般的濫用
移転価格ガイドライン」及び「OECDモデル条約」
の改定、及び関連会議の運営に従事。01年9月財
務省を辞職し現職。
防止規定(General Anti-abuse Rule)」を組み
込ませることが提案されていた。
今般の報告書では、この濫用防止規定や主要
次回のテーマ
129
#
目的テストを LoB 条項の中に組み込ませて 1 つ
経営戦略に応える
企業再編成税制
の条項とする方法に代えて、条約濫用を防止す
朝長英樹
目的テストのいずれかを採用することが提案さ
税理士
経営戦略の1つとして組織再編成税制を活
用できる方法を、同税制等の創設を主導し
た筆者が事例形式で解説する。
※取り上げて欲しいテーマを編集部にお寄せください。
[email protected]
る「最小限の防御策」として、LoB 条項と主要
れている。また、他国の居住者に所有される事
業体にも租税条約の恩典を認める際の基準とし
て「Derivative Benefits Test」が提案されて
いる点も注目される。
No.577 2015.1.5
21
1
租税条約の特典制限条項(LoB)
に証券取引所で取引されている場合に適格居住
者とする基準で、さらに次のどちらかの基準を
(1)米国タイプの採用
クリアする必要がある。
報告書では、米国が締結している租税条約に
・居住地国(設立地)の証券取引所で取引され
含まれる特典制限規定(LoB)を OECD モデル
ること
条約に導入することが提案されている。この米
・管理支配の場所が居住地国であること
国タイプの LoB は、一般的に、二国間条約の
多くの企業がこのテストを充足すると思われ
対象国以外の者(第三国居住者)が、条約対象
るが、居住地国の取引所が小さい場合には、他
国に法人を設立し、所得をその設立した法人経
国のよりメジャーな取引所に上場しているケー
由で稼得することによって、その租税条約の適
スも想定されるところである。さらに、居住地
用を受けるといった濫用のケースをターゲット
国の取引所に限定することは、EU 法に違反し
としている。具体的には、米国タイプの LoB
ている可能性があるとの指摘がある。また、管
では、こうした濫用を防止するため「適格居住
理支配の場所によるテストは、会社管理の分権
者」にのみ条約の恩典(benefits)を与えるこ
化に反することになるとの指摘もある。こうし
ととしている。この適格居住者とは、法人が、
たことから、今般の報告書では、上場企業とい
第三国の居住者が条約の恩典を享受することを
う条件は居住性の判断としては十分である一
主な目的として設立したものではなく、その国
方、条約の恩典を与えるための経済的関係とい
に設立されたことに十分な関連性・理由がある
う点に鑑みれば、これら追加的なテストは必要
法人(居住者)をいい、一定の基準(テスト)
な条件であるとされている。しかしながら、上
で判断することとなるが、この基準を定めるも
場企業テストをクリアすれば条約濫用の可能性
のが LoB である。現行の日米租税条約にも同
が低いと認識できるという長年採用されていた
様の条項が定められている。
従来の共通理解と比較すると、さらに追加的な
米国タイプの LoB は、きわめて包括的で、
要件を付加することになり、かなり限定的な基
日米租税条約をはじめ、すでにいくつかの租税
準となってしまうことは否めない。一般的な考
条約で採用されているところであるが、現段階
えとして、上場企業であっても租税条約が適用
では世界的に認知された規範というところまで
されないという事態は、そもそも租税条約の存
は至っておらず、一部の規定は、必要以上に制
在意義を否定することにもなりかねず、あまり
限的な側面があるとの評価もある。
にも厳しい基準となるといえよう。
(2)提案された LoB
また、従来の OECD モデル条約では、上場
報告書において提案された LoB は、基本的
企業の子会社も適格居住者としている。具体的
に米国タイプの LoB と同様のものであり、条
には、直接および間接に 50% の持分を 5 以下の
約の恩典を享受することができる適格居住者で
上場企業に所有されている場合が該当すること
あるために満たさなければならない基準がいく
となる。報告書においても、同様の基準が提案
つか定められている。
されているが、間接所有については、中間法人
① 上場企業テスト
がどちらかの締約国の居住者であることを求め
第 1 の 基 準 は、 上 場 企 業 テ ス ト(Publicly
ており、より厳しい基準となっている。多国籍
Traded Company Test)と呼ばれる基準であ
企業は、健全な事業上の理由から、多くの国に
る。これは、法人の主たる種類の株式が継続的
関連企業を設立するため、この要件が障害とな
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No.577 2015.1.5
る可能性がある。
の恩典を得ることができる者が該当する。この
② 支配・浸食テスト
DBT を満たす場合には、そもそも同等適格者
報告書では、支配・浸食テスト(Ownership-
が同等以上の恩典を得ることができることか
Base Erosion Test)が提案されている。これ
ら、当該条約の濫用という要素は見出せないこ
は、50% 以 上 の 持 分 を 居 住 地 国 の 適 格 者
とに根拠がある。なお、DBT における間接所
(Qualified Persons)に所有され、かつ、その
有の中間法人はいずれかの締約国の居住者に限
適格者以外の者に対する支払総額が総所得
定されている。この制限は、上場企業の子会社
(gross income)の 50% 未満であることを要件
の場合と同様、その根拠が不明であり、実務的
とするテストである。
には大きな障害となる可能性があるといえよ
この支払総額と独立企業間価格の問題や、な
う。
ぜ株主が居住地国の適格者でなければならない
⑤ 権限ある当局による認定
かについて十分な説明はされていない。
これら LoB の各テストを満たせない者は、
③ 事業活動基準
その所得源泉地の権限ある当局(日本では国税
事業活動基準とは、企業が、居住地国で実態
庁)に、条約恩典の承認を得ることができるこ
のある事業を営み(active conduct of a trade
とも定められている。ただし、この方式は、こ
or business)
、その事業に付随して得られた所
れまでの経験から、時間や費用がかかる点が懸
得についても条約の恩典が供与されるというも
念されている。
のである。同様の基準は、すでに日米租税条約
にもみられるところであるが、
「実態のある事
業」の解釈・認定は容易なことではなく、実務
2
主要目的テスト
上、条約の適用をしようとする納税者企業と条
主要目的テストは、討議草案において「Main
約を適用させまじとする課税当局との間で、条
Purpose Test」とされていたもので、今回の
約の適用の可否について論争となるケースが増
報告書では「Principal Purpose Test:PPT」
加することも否定できないと考えられる。
とされた。内容は、条約の恩典の利用が主要目
④ 同等受益者基準
的の一つである場合には、条約を適用しない
同等受益者基準は、討議草案の段階でも検討
(つまり恩典を与えない)というものである。
されていましたが、今般の報告書では、新たに
「条約の恩典利用が主要目的の一つか否か」と
「Derivative Benefits Test:DBT」 と し て 提
いう判断基準は、きわめて曖昧で主観的なもの
案さている。これは、次の 2 つの基準を満たし
となってしまう。主要か否かの判断もさること
た法人に条約の恩典を与えるという基準であ
ながら、恩典利用を考えていたということや、
る。
逆に目的の一つではなかったということを事後
・95% 以上の持分を、直接および間接に、7 以
的に証明することは容易ではなく、恣意的な課
下の同等適格者(Equivalent Beneficiaries)
税を誘発する事態も想定できる。また、条約の
に所有されていること
恩典利用を根本的に否定するのであれば、そも
・同等適格者以外の者への支払いが、総所得の
50% 未満であること
そも租税条約など必要ないことになろう。租税
条約の内容やその存在に不知であり、意図せず
この同等適格者とは、いずれかの締約国の適
与えられた恩典しか認めないといっているに等
格者および、第三国の者で当該条約と同等以上
しいのではないだろうか。
No.577 2015.1.5
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なお、報告書では、この PPT を、条約本文
に導入することが提案されている。いくつかの
国 で は、 国 内 法 の 一 般 的 租 税 回 避 防 止 規 定
(GAAR)の運用により条約を適用しないこと
3
その他の項目
報告書では、上記 LoB に関する提案に加え、
以下の提案もされている。
ができるようであるが、一般的には、国内法で
・親子間配当のように一定の持分を有する法人
条約の規定・適用に制限を加えることができな
からの配当には、一般的により低い源泉税率
いため、こうした対応ができないこととなる
が適用されるが、この低い源泉税率の適用対
(通常は憲法上の問題であり、日本をはじめ多
象とするよう持分を操作することを防止する
くの国が該当する。
)
。そのため、条約の適用制
ための 365 日保有基準の設定
限として、条約そのものに規定する必要がある
・不動産化体株式譲渡の要件の強化
ためである。
・二重居住者の tie-breaker rule の改正
なお、報告書では、LoB と PPT の双方が採
・低課税国の PE への金融資産の移転により生
用される場合には、PPT は付属的な位置づけ
で、LoB の運用の制限とならないようにすべき
じる所得への課税強化
・建設 PE の継続期間要件の適用の強化
とされている。
記事に関連するお問い合わせ先
記事に関するお問い合わせは週刊「T&Amaster」編集部にお寄せください。執筆者に質問内容をお
伝えいたします。
TEL:03-5281-0020 FAX:03-5281-0030 e-mail:[email protected]
※なお、内容によっては回答いたしかねる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
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