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総合的財政貢献調査 Total Tax Contribution 2011 平成21年度および平成22年度 www.pwc.com/jp/tax

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総合的財政貢献調査 Total Tax Contribution 2011 平成21年度および平成22年度 www.pwc.com/jp/tax
www.pwc.com/jp/tax
総合的財政貢献調査
Total Tax Contribution 2011
平成21年度および平成22年度
日本企業が負担・徴収する税金
および社会保険料等の公的負
担の実額を把握し、年度別・産
業別に分析を試みた類例のない
PwC調査の第2回報告書
総合的財政貢献調査−平成21年度および平成22年度
税理士法人プライスウォーターハウスクーパース
目次
はじめに
第1章
調査結果の概要
1
調査の概要
1
平成21年度および平成22年度の調査結果の概要
3
第2章
調査の内容と実施方法
14
総合的財政貢献調査の枠組み
14
調査実施方法
15
税務コンプライアンスコストに係る調査
15
第3章
平成21年度および平成22年度の調査結果
17
調査への参加と回答状況
17
調査参加企業が回答した負担税目と徴収税目の数
18
総合的財政貢献額(Total Tax Contribution)
18
負担税目
19
徴収税目
21
国税と地方税の構成
22
分配された付加価値に占める総合的財政貢献額の割合
23
総合的財政貢献額の国内売上に対する比率
24
雇用に係る公的負担
24
総合的公的負担率(Total Tax Rate)
26
総合的公的負担率の2年通期ベースによる分析
27
総合的公的負担率の国際比較−「Paying Taxes」調査より
29
第4章
4事業年度比較
32
調査の内容と方法
32
分析対象となった企業グループの内訳と概要
32
総合的財政貢献額の推移
33
負担項目の推移
34
徴収項目の推移
34
総合的財政貢献額の国内売上に対する割合
35
分配された付加価値に占める総合的財政貢献額の割合
35
総合的公的負担率の推移
37
総合的公的負担率の2年通期ベースによる分析
38
第5章
産業別分析
39
本調査における産業分類
39
産業別総合的財政貢献額
39
産業別総合的公的負担率
41
日本の法人税制が総合的公的負担率に与える影響
43
第6章
税務コンプライアンスコスト
46
税務に携わる年間延べ日数
46
延べ日数の税目別分析
46
税務コンプライアンスコストの総計と税目別分析
48
事務負担の大きい事項
49
近年の税制改正に伴う事務負担の減少
50
おわりに
はじめに
本調査は、PricewaterhouseCoopers
みたものである。企業の事業活動に伴っ
税の企業の公的負担に占める比率が景
LLP(PwC英国)が独自に開発した総合
て発生する租税等の公的負担は、企業
気低迷下にあっては社会保険料に比して
的財政貢献調査(Total Tax Contribu-
の国際競争力や企業立地選択等に大き
低くなり、企業における社会保険料負担
tion Survey)と同様の手法を用いて、税
な影響を与えると考えられる。しかし、従
の企業コストとしての相対的重要性が高
理士法人プライスウォーターハウスクー
来、このような国内外の公的負担水準に
まっていく様子なども、今後の調査でよ
パースが日本企業を対象に平成23年7月
ついては、主に税制度上の実効税率の
り明らかにされるであろう。
から11月にかけて実施したものである。
相違に基づき議論されるに留まり、企業
今回で2度目となる本調査は、一般社
団法人日本経済団体連合会(経団連)の
協力のもと、各業界で日本を代表する41
企業グループの参加を得ることができ
た。今回の調査では、平成21年度(2010
年3月期)および平成22年度(2011年3
の公的負担全体の実額を踏まえて分析
されたものではなかった。本調査は、公
的負担の実額に基づいて、企業の公的
負担の全体像を明らかにし、これを年度
別および産業別に比較分析を試みた類
例のない実証分析である。
本調査を将来にわたり継続的に実施
することにより、法人にかかわる税制改
正や社会保険料負担等、法人税以外の
企業の公的負担の観点から行われる日
本企業の国際競争力の維持・強化に向
けての議論に有用な視点および資料を
提供できるものと考える。さらに近年、主
月期)を対象とし、両事業年度において
平成23年度税制改正による法人税率
として大企業セクターによる国家財政へ
企業が日本国内で負担した全ての租税
の軽減と、その一方での課税ベースの拡
の貢献度を明らかにし、その透明性を高
および社会保険料等の実額に加えて、企
大、さらには東日本大震災復興税負担
めることが国際的趨勢として求められる
業が政府の代理機関として従業員や顧
が、企業の法人税の実負担としてどのよ
傾向にあるが、本調査はそのような要請
客等から徴収し、国庫に納付した租税等
うな影響を与えることになるのかについ
にも応えていくことができるものと期待
の公的負担の実額(これら公的負担の
ては、今後も本調査を継続することによ
される。
総額を「総合的財政貢献額」と定義)を
って明らかになることが期待される。ま
把握し、さまざまな角度からの分析を試
た、景気の変動に大きく左右される法人
平成24年5月
税理士法人プライスウォーターハウスクーパース
代表社員 宮川和也
顧問 林 幹
第1章 調査結果の概要
1.調査の概要
(1)調査の目的
• 本調査の目的は、経団連会員企業を
対象としたサンプリング調査により、
日本企業が日本国内において負担お
よび徴収・納付した租税および社会
保険料等の公的負担額を実額で把
握し、その実証データに基づいて、民
間企業セクターによる国家財政への
貢献について多角的分析をすること
にある。
(2)総合的財政貢献額(Total Tax Contribution)と総合的公的負
担率(Total Tax Rate)
• 本調査では、企業とその従業員に関
払総額の占める比率を「総合的公的
負担率(Total Tax Rate: TTR)」と
定義する。この総合的公的負担率
は、会計ベースで理論計算される制
度的税率である法人税の実効税率と
は異なり、分子の直接的負担税目の
範囲には法人税以外の全ての租税や
社会保険料等が含まれており、また
調査対象年度中に支払われた実額を
用いて算定されている。
(3)調査の実施方法および回答状況
• 経団連および税理士法人プライスウ
ォーターハウスクーパースによる本調
査への参加呼びかけに応じ、回答を
負担を「負担税目」と「徴収税目」に
得た41企業グループを対象に(以下、
区分する。負担税目は、企業が直接
「調査参加企業」)、質問票を電子
的な費用として負担し、純利益に影
メールで送付し、記入された回答票
響を与える項目であり、徴収税目は、
を電子メールで返信を受ける方法に
企業が実質的には税務当局の代理
より実施された。
的負担項目である(日本国内での納
付額であり、調査回答企業が海外で
納付した租税等を含む数値ではな
い)。この負担税目および徴収税目に
• 質問票において対象とした日本の租
税および社会保険料は、企業が負担
すると想定される57税目である。
• 調査参加企業には、日本の株式時価
ついて把握された金額の合計額を
総額上位50社のうちの20社が含ま
「総合的財政貢献額(Total Tax
れており、調査参加企業の平成22年
Contribution:TTC)」と定義する。
Total Tax Contribution
目加算調整後)に対する負担税目支
連する社会保険料を含む全ての公的
機関として徴収し国庫に納付する公
1
• 本調査では、税引前純利益(負担税
度の国内売上総額は96兆4,945億
円、従業員数977,933人である。
• これら41企業グループが納税した総
合的財政貢献額の総計は4.3兆円
(平成21年度)であり、同年度の政
府歳入総額に対する比率は3.3%であ
った。日本の全法人数298万社1のう
ちの極めて限られた調査参加企業数
をサンプルとしているが、これらの限
られた企業のみで政府歳入総額の
3.3%を負担・納付しているという事
実から、本調査結果には、日本を代
表する企業グループの財政貢献を分
析するためのデータとして有効性が
あると考える。
• 調査参加企業の産業は、化学・製
薬、石油・ガス・情報通信、機械・金
属、商社、金融、運輸、の6グループ
に分類され、各分類ごとの総合的財
政貢献額および総合的公的負担率
を分析した。平成19年度と平成20年
度を対象にした前回調査における参
加は38企業グループであったが、こ
のうち24企業グループは前回調査に
引き続き今回調査にも参加してい
る。41企業グループを対象とした今
回調査は原則として平成21年度
(2010年3月期)、平成22年度
(2011年3月期)の2年度を調査対
象としているが、継続参加した24企
業グループについては別途4年度比
較を行った。
1
出所:「国税庁統計年報(平成22年度版)」
Total Tax Contribution
2
2.平成21年度および平成22年度の調査結果の概要
(1)総合的財政貢献額(Total Tax Contribution:TTC)
ポイント
▶▶ 法人税等が負担税目に占める割合は景気低迷下では決して高くはない
▶▶ 法人税等は企業の利益変動の影響に大きく左右されるため、税収としての安
定性に欠ける面がある
▶▶ 負担税目における最大項目は社会保険料事業主負担分であり、法人税等を大
幅に超過
▶▶ 利益変動の影響に左右されない固定資産税も、法人税等に並ぶ企業にとって
の重要負担税目
▶▶ 企業による徴収税額は利益に連動する税目が少なく、安定した国家歳入に貢
献している
▶▶ 調査参加企業による徴収税目のうち最大項目は社会保険料従業員負担分で、
揮発油税がこれに次ぐ
▶▶ 揮発油税は、限られた業種、企業数による徴収税目であり、歳入面から見た効
率性は高い
▶▶ 調査参加企業のTTCは、それら企業の給与総額に次ぐ支出額であり、税引後
利益のほぼ2倍に上る
• 調査参加企業の総合的財政貢献額
(TTC)は、平成21年度は4兆3,243
度)、7,405億円(平成22年度)であ
億円(国家歳入総額の3.3%)、平成
り、社会保険料事業主負担分(平成
22年度は4兆6,587億円であった。こ
21年度:1兆223億円、平成22年
れらの負担税目および徴収税目の内
度:1兆691億円)よりもかなり低い
訳はそれぞれ、2兆3,554億円と1兆
金額となっている。
9,689億円(平成21年度)、2兆7,112
億円と1兆9,475億円(平成22年度)
であった。
• 負担税目のうち、法人の所得にかか
Total Tax Contribution
• 法人税等が負担税目の合計額に占め
る割合は平成21年度において19.2%、
平成22年度において27.3%と増加傾
向にあるものの、最大の負担税目に
わる法人税、住民税、事業税所得割
はなっておらず、景気変動に左右され
および地方法人特別税(以下、
「法人
やすい側面が表れている(図1)。
税等」)の合計額はそれぞれの事業
3
年度において4,528億円(平成21年
図1 負担税目の内訳と構成割合
100%
90%
その他
12.9%
14.2%
固定資産税
社会保険料事業主負担分
事業税(外形標準)
80%
17.3%
19.7%
地方法人特別税
事業税(所得割)
70%
住民税
法人税
60%
39.4%
50%
43.4%
40%
30%
20%
10%
3.4%
3.2%
3.4%
5.4%
3.1%
3.9%
2.5%
5.1%
法人税等
19.2%
法人税等
27.3%
15.8%
7.3%
0%
平成21年度
平成22年度
• 調査参加企業の徴収税目合計額は、
金額の14.4%を占めていた。一部の
平成21年度は1兆9,689億円、平成
徴収税目が特定の企業に集中してお
22年度は1兆9,475億円と安定的に
り、このことが歳入面から見た徴収の
推移している。最も金額が大きい税
効率性を高めているという実態が前
目は社会保険料従業員負担分であ
回調査に引き続き、明らかとなった。
り、揮発油税等と雇用に係る源泉所
得税がこれに次ぐ金額であった。石
油石炭税について回答があった企業
5社の平成21年度の合計額は、当該
税目の平成21年度の政府歳入金額の
21.5%を占めており、また、揮発油税
について回答があった2社の平成21
年度の合計額は、当該税目の同歳入
Total Tax Contribution
4
平成22年度:21.1%)のほぼ2倍を占
• 調査参加企業の税引後純利益、純支
めている(図2)。
払利子、給与総額と総合的財政貢献
額の合計を企業が生み出す付加価値
(現金)の総額と認識し、給与総額
• 調査参加企業の社会保険料事業主
負担分の合計額は、平成21年度で1
の付加価値総額に対する割合を労働
兆223億円、平成22年度で1兆691億
分配率とした場合、労働分配率は、
円と横ばいで推移しており、安定的に
税引後純利益の増加に伴い平成21
財政に貢献している様子が窺える。
年度は47.3%、平成22年度は42.6%
負担税目のうち社会保険料事業主負
と減少しているものの、付加価値全
担分と、徴収税目のうち給与等源泉
体の4割以上と高い分配率を示して
所得税、特別徴収住民税および社会
いる。総合的財政貢献額の付加価値
保険料従業員負担分との合計を「雇
総額に占める割合を公共分配率とし
用に係る公的負担」とした場合、従業
た場合、公共分配率は平成21年度が
員一人当たりの雇用に係る公的負担
33.6%、平成22年度が33.5%と、生み
の平均値は、平成21年度は266万
出した付加価値のほぼ3分の1を政府
円、平成22年度は269万円と極めて
等の公共部門に分配しており、これは
安定的に推移している。
税引後純利益(平成21年度:16.4%、
図2 分配された付加価値に占める総合的財政貢献額の割合
公共分配率
33.6%
公共分配率
33.5%
徴収税目合計
15.3%
負担税目合計
18.3%
税引後利益
(注)16.4%
平成21年度
総額12兆8,553億円
純支払利子
2.7%
給与総額
(徴収税目を除く)
47.3%
徴収税目合計
14.0%
負担税目合計
19.5%
純支払利子
2.7%
税引後利益
(注)21.1%
平成22年度
総額13兆9,127億円
給与総額
(徴収税目を除く)
42.6%
(注)本図で示されている税引後利益とは、会計上の税引前利益から同じ年度中に支出された法人税等の金額を控除して求められたものであり、
会計上の税引後利益とは異なる。
5
Total Tax Contribution
(2)総合的公的負担率(Total Tax Rate :TTR)
ポイント
▶▶ 調査参加41企業グループを一つの企業グループとみなして算定したTTRは
52.8%(平成21年度)および48.0%(平成22年度)
▶▶ 両年度のデータを合算した2年度通期のTTRは50.1%
▶▶ 日本の法人税率は高いと認識されているが、景気低迷下のTTRに占める法人
税の構成比率は高くない
▶▶ 一方、企業の利益変動の影響が小さい社会保険料事業主負担分や固定資産
税のTTRに占める構成比率は高い
▶▶ 中小企業モデルによりTTRを国際比較した世界銀行調査での日本のTTRは
49.1%と本調査に近似
▶▶ 日本のTTRの高さは調査対象183ヵ国中138位。シンガポールは27.1%(32位)、
韓国は29.7%(42位)
• 全体的な総合的公的負担率(TTR)
• 本調査においては企業の負担税目に
を計算するにあたり、各企業グループ
ついて現金主義で把握しており、税
の公的負担率を単純平均する方法
引前純利益と「期ずれ」が生じる。こ
(損失を計上している企業グループ、
の「期ずれ」の影響を緩和するた
総合的な公的負担率がマイナスであ
め、2事業年度の基礎データを合算
る企業グループおよび100%を超過し
した上で総合的公的負担率を求めた
た企業グループを除いてデータを集
ところ、50.1%であった。このうちの
計)、および調査参加企業全体を1つ
法人税等の比率は11.8%であった。
の企業グループとみなして合算値で
計算する方法の両方を試みた。前者
の単純平均法の計算結果は、平成21
年度は30企業グループが対象となり
43.0%、平成22年度は37企業グルー
プが対象となり41.8%となった。ま
た、後者の全企業グループを合算し
て求めた公的負担率は、平成21年度
が52.8%、平成22年度が48.0%とな
った。企業の業績回復に伴う税引前
純利益の増加率の高さを主な要因と
して若干の減少傾向にある(図3)。
せることは困難であることを示してい
ると考えられる。
• 日本の法人税率は高いと一般的に認
識されているが、2年通期の総合的
公的負担率に占める割合は24%に過
ぎず、企業が負担する総合的公的負
担率の最大の税目とはなっていな
い。むしろ、社会保険料事業主負担
や固定資産税などの利益変動の影響
が少ない項目が金額的にもより重要
な税目となっている。これは、法人税
率の軽減のみをもって公的負担面か
らの日本企業の国際競争力を向上さ
Total Tax Contribution
6
図3 総合的公的負担率の推移と内訳
60.0%
その他
固定資産税
52.8%
50.0%
社会保険料事業主負担分
9.3%
48.0%
地方法人特別税
7.7%
事業税(所得割)
住民税
40.0%
10.4%
法人税
8.3%
30.0%
10.0%
1.7%
1.8%
2.8%
3.8%
0.0%
平成 21年度
• PwCが世界銀行等と共同で毎年実施
法人税等
10.1%
1.9%
1.2%
2.5%
7.6%
法人税等
13.1%
平成22年度
同等の水準であり、フランス(65.7%)
• 制度上の法人税実効税率が日本より
している税負担に係る調査、
と比べると低い率である。構成比率
も低い海外諸国における法人税率の
「Paying Taxes」では、単一の中小企
を見ると、日本と米国の総合的公的
構成比率はさらに低く、この面から
業のモデルケースを適用することによ
負担率は法人税等の負担税目に占め
も、法人税率の軽減のみをもって日
り世界183ヵ国の総合的公的負担率
る割合が高いのに比べて、ドイツ、フ
本企業の国際的競争力を高めるのは
を算定している。この2011年調査にお
ランスなどは社会保険料などの雇用
難しいと言うことができる。
ける日本の総合的公的負担率は49.1%
に係る公的負担の割合がかなり高く
であり、規模のより大きい実際の企業
なっている。アジア諸国との比較にお
を対象とした本総合的財政貢献調査
いては、シンガポール(27.1%)、韓国
の結果に近似する結果となった。
(29.7%)および台湾(35.6%)など
• 「Paying Taxes」調査における日本
の総合的公的負担率は、その低い順
からランキングして138位に位置して
いる。この総合的公的負担率は米国
およびドイツ(ともに46.7%)とほぼ
7
18.9%
22.9%
20.0%
Total Tax Contribution
は日本よりもかなり低い総合的公的
負担率となっており、アジアの主要国
で日本よりも高い総合的公的負担率
となっているのは中国(63.5%)、インド
(61.8%)の2ヵ国のみである(図4)。
図4 総合的公的負担率の国際比較
80.0%
68.5%
70.0%
61.8%
60.0%
49.1%
46.7%
5.9%
40.0%
30.0%
23.0%
0.1%
27.1%
29.7%
1.5%
4.7%
13.0%
5.3%
35.6%
3.5%
17.6%
5.8%
21.8%
19.0%
5.6%
43.4%
9.1%
10.0%
16.5%
18.2%
13.7%
27.6%
27.0%
19.0%
24.6%
6.5%
0.0%
香港
シンガポール
利益に係る税
韓国
51.7%
49.6%
18.4%
23.1%
15.2%
46.7%
37.3%
3.2%
11.0%
15.9%
10.0%
2.3%
7.9%
50.0%
20.0%
63.5%
65.7%
台湾
雇用に係る税
英国
その他
ドイツ
米国
日本
インド
22.8%
6.0%
8.2%
中国
フランス
イタリア
出所:「Paying Taxes 2012」(PwC)
Total Tax Contribution
8
(3)4事業年度比較
ポイント
▶▶ 法人税等は平成20年度から平成21年度にかけて激減した一方で、社会保険料
負担等は極めて安定的に推移
▶▶ TTRはリーマンショックの影響により平成20年度に異常値(75%)となった
が、その他の年度は44.9%~52.5%と一定水準で推移
▶▶ 法人税等以外の税目の総額は平成20年度から平成21年度にかけて僅かに減
少したが、そのTTR構成比率は高くなっている
• 前回および今回の調査の双方で回答
を得られた24企業グループを対象と
んだ一方で、前年実績に基づき法人
して、平成19年度から平成22年度ま
税等を負担した平成20年度が高い
での4事業年度の総合的財政貢献額
数値となったが(75.0%)、平成21年
および総合的公的負担率などの年次
度、22年度は52.5%、50.1%と一定割
比較分析を行った。
合に落ち着いていることが分かる。
• 総合的財政貢献額は平成20年度か
ら平成21年度にかけて大きく減少し
ている。これは平成20年度の企業業
績に落ち込みに伴う法人税等の納付
額減少(還付額増加)の影響が平成
21年度に生じていると考えられる。そ
の一方で社会保険料事業主負担分
や徴収税目は4事業年度を通じて、
企業業績の変動に大きな影響を受け
ず推移している。
• 分配された付加価値の4事業年度の
推移を見ると、平成21年度に前年の
急激な企業業績の落ち込みの影響に
よる相対的な労働分配率の増加
(47.7%)が見られるが、総じて言え
ば、企業の労働分配率は付加価値全
体の4割強、公共分配率は3割強であ
り、企業の内部留保は2割程度に留
まっているという実態が窺える。
9
Total Tax Contribution
• 総合的公的負担率は、業績が落ち込
また、4事業年度の総合的公的負担
率の推移を2年通期ベースで見ると、
公的負担率の構成割合に違いが表れ
ているものの(法人税等の比率の低
下)、調査参加企業は調整後当期純
利益(当期純利益+負担税目)の
50%前後を毎年度負担していると言
うことができる(図5)。
• この4事業年度における社会保険料
事業主負担分および固定資産税など
の利益変動の影響が少ない税目は、
極めて安定的に推移している。その
結果、継続参加24企業グループの利
益が減少した平成20年度以降の3事
業年度において総合的公的負担率に
占めるこれら税目の構成比率は高く
なっている。
図5 総合的公的負担率の4事業年度推移
80.0%
7 5 .0%
70.0%
18.4%
60.0%
5 2 .5%
50.0%
4 4 .9%
40.0%
10.0%
30.0%
11.4%
21.1%
20.0%
10.0%
0.0%
5 0 .1%
17.1%
14.4%
22.4%
19.8%
13.0%
15.9%
平成 21年度
平成 22年度
35.5%
23.5%
平成19年度
法人税等
平成 20年度
社会保険料事業主負担分
その他
Total Tax Contribution
10
(4)産業別分析
ポイント
▶▶ TTRは業種ごとに大きなバラつきが見られ、運輸は70.3%、商社は4.1%
▶▶ 国内をビジネスの中心とする業種のTTRは、国際展開をしている業種のTTRよ
りもかなり高い
▶▶ 国際展開をしている業種は、外国子会社配当益金不算入と外国税額控除の適
用により、TTRが低い
▶▶ 製造業共通のTTRの引下げ要因となり得る試験研究費特別控除の影響は相
対的に小さい
• 調査対象41企業グループを6つの産
きく異なる。すなわち、商社や機械・
業(化学・製薬、石油・ガス・情報通
金属など、海外への事業展開を進め
信、機械・金属、商社、金融、運輸)
ている業種ではその効果は大きく
別に分類し比較分析を行った。
(TTRは低い)、国内サービス中心の
• 石油・ガス・情報通信事業に属する
企業グループ(3企業グループ)は、
調査参加企業(41企業グループ)の
• 試験研究費特別控除の恩典による総
合的公的負担率の引下げ効果は、化
58.5%を占めている。国内市場向け
学・製薬および機械・金属の2業種に
サービスを中心とし、安定した企業業
表れている。しかし、調査参加企業
績と固定資産税等の固定的な負担税
全社ベースで見て、海外子会社配当
目の大きさが、高い総合的財政貢献
益金不算入制度による引下げ効果が
額の要因となっていると考えられる。
3.7%であるのに対し、試験研究費特
の総合的公的負担率を見ると、運輸
(70.3%)および石油・ガス・情報通
別控除は1.5%と、その効果は相対的
に低い。
• 調査参加企業で見る限り、欠損金の
信(65.1%)で高い負担率を示してい
繰越控除は金融業と化学・製薬業に
る。総合的財政貢献額同様、国内市場
おいて総合的公的負担率への影響
向けサービスを中心とする産業の数値
が大きく出ている。
が高いという特徴が見られる(図6)。
• 外国税額控除や外国子会社配当益
Total Tax Contribution
に小さく(TTRは高い)なっている。
平成22年度の総合的財政貢献額の
• 平成21年度と平成22年度の2年通期
11
運輸や石油・ガス・情報通信では逆
• 海外への積極的な事業展開の結果も
たらされる利益の増大は、海外での
金不算入制度などの各種税制を適用
納税を増加させ、その一方で、日本の
することにより総合的公的負担率が
歳入増加に対する貢献を減らしてい
引き下げられる効果は業種により大
ると言える。
図6 産業別総合的公的負担率と各種税制による影響(2年通期)
80.0%
7 5 .1 %
6 8 .0 %
60.0%
6 2 .0 %
6 2 .7 %
6 3 .8 %
7 1 .4 %
40.0%
70.3%
65.1%
20.0%
0.0%
47.3%
2 9 .7 %
4.1%
-0.1%
-1.8%
-7.8%
-0.5%
-6.4%
-1.9%
-0.2% -10.2%
-0.8%
-5.1%
-20.0%
-10.1%
50.1%
48.3%
41.2%
-0.2%
-0.2%
-3.2%
-14.4%
-2.1%
-12.2%
-1.0% -3.7%
-0.2% -3.6%
-3.1%
-2.1%
-1.5%
-9.5%
-4.7%
-40.0%
化学・製薬
TTR
石油・ガス・
情報通信 試験研究費特別控除
機械・金属
外国税額控除
商社
欠損金の繰越控除
金融
運輸
全社
外国子会社配当益金不算入
(注)上のグラフの中でマイナス表示されている率は、各種税制の適用によりTTRが引き下げられた効果を示している。各グラフの上部
にある率は、TTRとこれらの率を絶対値で合算したものであり、いわばこれらの税制がなかったと仮定した場合のTTRを表して
いる。
Total Tax Contribution
12
(5)税務コンプライアンスコスト
ポイント
▶▶ 税務コンプライアンスコストの60.4%は法人税等の管理コスト
▶▶ 国内税務で負担に感じている項目のトップは税務調査対応、国際税務では移
転価格税制における文書化
▶▶ 近年の外国税額控除制度およびタックスヘイブン対策税制の改正は事務負
担軽減に寄与
• 本調査における税務コンプライアン
スコスト(税務申告事務負担)の調査
り、国際税務に関する上位項目は、
は平成22年度を対象とし、38企業グ
「移転価格税制における文書化対
ループから有効な回答が得られた。
応」、
「外国税額控除額の計算」およ
• 税務部門および非税務部門において
従業員が税務業務に携わる年間延べ
日数の合計値を、年間一人当たりの
合算所得金額の計算」であった。
• 近年の税制改正(外国子会社配当益
金不算入制度に伴う間接外国税額控
たりの平均値を求めたところ、税務
除の廃止、タックスヘイブン対策税
部門では7.2人、非税務部門では6.3
制におけるトリガー税率の引下げ)に
人が携わっている結果となった。
ついては事務負担が軽減されたとい
値の内訳をみると、60.4%が法人税
等の管理コストであった。
• 税務コンプライアンス活動につき、
調査参加企業が負担に感じている項
目を3つ選択する質問を行ったが、国
内税務に関する上位項目は、
「税務
調査対応」、
「会計基準と法人税法と
の差異に関する申告調整」および
Total Tax Contribution
び「タックスヘイブン対策税制による
労働日数を240日と仮定して、一社当
• 税務コンプライアンスコストの平均
13
「法人税申告書の添付資料」であ
う好意的な回答が多く見受けられ
た。
第2章 調査の内容と実施方法
1.総合的財政貢献調査の枠組み 総合的公的負担率
負担税目と徴収税目
PwCが実施している総合的財政貢献
調査(Total Tax Contribution
Survey)においては、企業に関連する租
税負担を「負担税目」と「徴収税目」に
区分して分析を行っている。
負担税目は、企業が直接的な費用とし
て負担し、純利益に影響を与える税目を
いう。一方、徴収税目は、企業が実質的
に税務当局の代理機関として徴収する
税であり、原則として支出の際に費用負
担が生じないものをいう(ただし徴収・
管理に係る事務的費用を除く)。企業に
とっての徴収税目は、その企業の経済活
これらのことから、総合的公的負担率
(Total Tax Rate)
に計算は、実効税率の計算とは異なるこ
総合的な公的負担率とは、ある事業
年度における税引前純損益(負担税目
調整後)に対する、当該事業年度に支出
負担額のマイナスとして把握している。
合として、下に示すとおり計算される。
分母の税引前純損益に対する調整
は、税引前純損益の計算上、費用処理さ
れている負担税目(たとえば租税公課勘
定に含まれる固定資産税等)の額を足し
戻すという考え方に基づいているが、調
整する負担税目額は現金主義で把握さ
れた金額であるため、会計上の数値を用
いた分析とは異なる。
また、本調査においては企業の負担税
献であるという側面と、徴収納付に係る
目について現金主義で把握しているた
事務コスト、ビジネスのキャッシュフロー
め、法人税等に関しては前年度の確定申
に与える影響、徴収漏れが生じた場合の
告納付額および当年度の中間納付額が
税務リスク等を徴収義務者として抱える
当年度分の負担額として把握されること
という側面がある。
になり、税引前純利益の動向と法人税等
(Total Tax Contribution)
付した法人税等が還付された場合には
した企業の負担税目の総額が占める割
動がなければ創出されない財政への貢
総合的財政貢献額
とに留意する必要がある。なお、前年納
の納付額が一事業年度分の「期ずれ」を
生じる。
負担税目に係る納付額および徴収税
目に係る徴収額の合計額を、総合的財
政貢献額と定義し、企業活動から生み出
される付加価値の総額に対する割合等
総合的な公的負担率 =
企業の負担税目の総額
税引前純損益+(企業の負担税目の総額-法人税等*)
*法人税等とは法人税、住民税、事業税所得割および地方法人特別税の合計額をいう
の分析に用いる。
Total Tax Contribution
14
2.調査実施方法
今回の調査において、経団連および税
3.税務コンプライアンスコスト
に係る調査
理士法人プライスウォーターハウスクー
税務コンプライアンスコストの調査に
パースの呼びかけに応じて参加意思表
際しては、税務コンプライアンス活動の
示を行った調査参加企業は41企業グル
定義を明らかにし、例を示した上で、当
ープであった。企業グループの一体的運
該活動を担当する税務部門ならびに非
営の進展を踏まえると、連結会計ベース
税務部門の担当人員および当該活動に
でのグループ全体の公的負担を把握で
関する外部委託費用等についての定量
きることが望ましいが、日本企業の広範
データの提供と、企業の負担となってい
囲に及ぶ資本結合関係の特殊性も考慮
る税務コンプライアンス活動に関する定
し、親会社を中心として、企業グループ
性的な質問についての回答を求めた。
の動向が把握できる範囲で実施されて
いる。
本調査は調査参加企業に対して平成
23年7月7日に質問票を電子メールで一
斉配信を行い、回答期限とした同年8月
末日までに全調査参加企業の質問票が
電子メールにより返信された。税理士法
人プライスウォーターハウスクーパース
は入手した質問票の回答に記載された
データを匿名化し統計的に分析した。な
お、分析の過程において、企業から提供
された質問票の回答データの正確性に
ついて検証する作業は行っていない。
本調査の対象とした日本の租税およ
び社会保険料は表7に掲げる57税目で
ある。1
1
社会保険料については、表では事業主負担分と従業員負担分に区分表示されているが、税目数と
しては1つとしてカウントしている。ただし、労働保険料(雇用保険および労災保険)は申告方法等
が異なるため、健康保険および厚生年金保険料とは別の税目としてカウントしている。また、消費税
および地方消費税については、表では控除対象外消費税を区分して表示しているが、税目数として
は1つとしてカウントしている。同様に、核燃料税、核燃料等取扱税および核燃料物質等取扱税もま
とめて1税目としている。
15
Total Tax Contribution
表7 対象税目一覧
負担税目
徴収税目
<利益に係る税(Profit Tax)>
負担税目
徴収税目
<生産活動に係る税(Product Tax)>
1
法人税
X
2
事業税所得割
X
控除対象外消費税
X
3
地方法人特別税
X
32
揮発油税および地方揮発油税
X
X
4
市町村住民税
X
33
石油ガス税
X
X
5
都道府県住民税
X
34
石油石炭税
X
X
6
道府県民税配当割
X
35
航空機燃料税
X
7
道府県民税利子割
X
36
軽油引取税
X
X
8
道府県民税株式等譲渡所得割
X
37
石油価格調整税
X
X
9
源泉徴収所得税(給与以外)
X
38
酒税
X
10
鉱産税
39
たばこ税および特別たばこ税
X
31
X
<資産に係る税(Property Tax)>
消費税および地方消費税
X
40
道府県たばこ税
X
11
自動車取得税
X
41
市町村たばこ税
X
12
自動車税
X
42
関税
X
13
自動車重量税
X
43
電源開発促進税
X
14
事業所税
X
44
狭小住戸集合住宅税
X
15
共同施設税
X
45
ゴルフ場利用税
16
固定資産税
X
17
都市計画税
X
18
宅地開発税
X
19
軽自動車税
X
20
鉱区税
X
21
不動産取得税
X
22
特別土地保有税
X
23
印紙税
X
24
とん税および特別とん税
X
25
別荘等所有税
X
26
水利地益税
X
46
給与等源泉所得税
X
28
特別徴収住民税
X
社会保険料従業員負担分
47
登録免許税
48
宿泊税
X
49
入湯税
X
X
核燃料税
X
核燃料等取扱税
X
核燃料物質等取扱税
X
51
使用済核燃料税
X
50
27
社会保険料事業主負担分
X
<環境税(Planet Tax)>
<雇用に係る税(People Tax)>
29-30
事業税外形標準
(収入割、資本割および付加価値割)
X
X
X
52
産業廃棄物税
X
X
53
環境未来税
X
X
54
砂利等採取税
X
55
乗鞍環境保全税
X
X
56
環境協力税
X
X
57
歴史と文化の環境税
X
X
Total Tax Contribution
16
第3章 平成21年度および平成22年度
の調査結果
調査への参加と回答状況
調査参加企業41企業グループは幅広
調査参加企業には、日本の株式時価
総額上位50社のうちの20社が含まれて
おり、平成21年度の総売上高は92兆
5,073億円、従業員数は964,344人、総
合的財政貢献額は4兆3,243億円、政府
い業種を含んでいるが、業種の分類は、
データの匿名性、機密性を保持するため
に必要となる企業グループ数(1つの業
種につき3企業グループ以上)を考慮の
上、図8に示す7分類にまとめた1。
歳入に占める割合は3.3%であり、調査
本調査で把握された調査参加企業の
結果は日本の大企業の公的負担を分析
売上高、税引前純損益、従業員数、給与
する上で有効なデータであると考える。
総額、受取および支払利子額は表9に示
すとおりである。
図8 調査参加企業の産業別構成
その他
5
化学・製薬
6
石油・ガス・
情報通信 3
運輸
7
41企業グループ
機械・金属
10
金融
5
商社
5
1
その他に分類された企業グループは、3社以上から有効な回答を得ることのできなかった小売、不
動産、建設の各産業の属する企業グループである。
17
Total Tax Contribution
表9 調査参加企業の売上高等の概要
平成21年度
平成22年度
92兆5,073億円
96兆4,945億円
2兆5,608億円
3兆6,795億円
従業員数
964,344人
977,933人
給与総額
7兆6,207億円
7兆4,915億円
支払利息
7,542億円
7,031億円
受取利息
4,075億円
3,208億円
売上高
税引前純損益
調査参加企業が回答した負担税目と
総合的財政貢献額
は、法人税等(法人税、住民税、事業税
徴収税目の数
(Total Tax Contribution)
所得割および地方法人特別税)の納付
本調査において、実際に納税を行って
負担税目と徴収税目の金額の合計で
いると回答した負担税目の数は各社平均
ある総合的財政貢献額について、調査
で平成21年度は16.0税目、平成22年度
参加企業の合計額は、平成21年度は4兆
本調査の調査参加企業グループは計
は15.9税目であった。また、調査参加企
3,243億円、平成22年度は4兆6,587億
41企業グループであるが、日本政府の歳
業が納税している徴収税目の数は、平成
円であった。平成21年度の金額は同年度
入の3.3%(平成21年度)の貢献をしてお
21年度は6.8税目、平成22年度は6.9税
の政府等の歳入金額の3.3%を占めてい
り、数少ない大企業が日本の財政に貢献
目であり、負担税目、徴収税目とも、平均
る。総合的財政貢献額は、平成21年度か
している割合は高いと言える。
値は平成21年度と平成22年度で大きな
ら平成22年度にかけて3,344億円増加
変化は見られない。
している(7.7%増)が、この主たる原因
額が全体で2,877億円増加していること
である(表10)。
表10 調査参加企業の総合的財政貢献額
平成21年度
法人税等
平成22年度
4,528億円
7,405億円
1兆223億円
1兆691億円
8,803億円
9,016億円
2兆3,554億円
2兆7,112億円
徴収税目
1兆9,689億円
1兆9,475億円
総合的財政貢献額
4兆3,243億円
4兆6,587億円
131兆3,636億円
-
3.3%
-
負担税目
社会保険料事業主負担分
その他
小計
日本政府歳入合計(注)
総合的財政貢献額の歳入合計に占める割合
(注)日本政府歳入合計は、租税および印紙収入、社会保険料収入および地方税収入の合計額を表す。法人が負担することのない相続税等も含まれる
ことに留意。
Total Tax Contribution
18
負担税目
調査参加企業が納税した負担税目の
合計額は、平成21年度で2兆3,554億
円、平成22年度で2兆7,112億円であり、
平成21年度に納税した負担税目の合計
額が平成21年度の政府の社会保険料お
よび税収入の合計額に占める割合は
1.8%であった(表11)。
負担税目の内訳を見ると、法人税等が
事業主負担分(43.4%)、固定資産税
最大負担税目とはなっていないことが分
(19.7%)より負担税目の総額に占める
かる。法人税等が負担税目の総額に占め
割合は低くなっている。これは、法人税
る割合は増加傾向にはあるが、平成21年
など企業所得を基準として課される税金
度は19.2%(4,528億円)、平成22年度
は景気の変動の影響を直接受けるため
は27.3%(7,405億円)に過ぎない。特に
税収基盤として脆弱である一方、社会保
平成21年度はその前年に企業業績が大
険料事業主負担分や固定資産税などの
きく落ち込んだ影響により、社会保険料
税目は、景気変動の影響を受けにくい固
表11 調査参加企業の負担税目の年度別内訳と歳入との比較
(単位:億円)
主な負担税目
平成21年度
平成22年度
調査集計金額
政府等の歳入金額
1,716
63,564
10,223
関税
割合
調査集計金額
政府等の歳入金額
割合
2.7%
4,275
89,677
4.8%
261,147
3.9%
10,691
-
-
677
7,319
9.2%
682
7,859
8.7%
印紙税・登録免許税(注2)
145
10,676
1.4%
150
10,240
1.5%
石油石炭税
161
4,868
3.3%
167
5,019
3.3%
揮発油税
465
27,152
1.7%
525
27,501
1.9%
法人住民税(注3)
1,270
24,620
5.2%
1,389
27,114
5.1%
法人事業税(外形標準課税を含む)
1,595
27,011
5.9%
1,522
22,530
6.8%
固定資産税(注4)
4,650
101,255
4.6%
4,684
102,219
4.6%
事業所税
274
3,275
8.4%
276
3,295
8.4%
軽油引取税
899
8,147
11.0%
920
9,175
10.0%
1,479
774,602
-
1,832
-
-
23,554
1,313,636
1.8%
27,112
-
-
国税等
法人税
社会保険料事業主負担分(注1)
地方税
その他(注5)
合計(注6)
<政府等の歳入金額の出所>財務省「決算の説明(平成 21年度、平成 22 年度)」、総務省「地方財政白書(平成 23 年版、平成 24 年版)」、国立社会
保障人口問題研究所「平成 21年度社会保障給付費」、国税庁「統計年報(平成 21年、平成 22 年)」
(注1)社会保険料に係る政府等の歳入金額は、事業主負担分の金額である。平成 22 年度は未公表(平成 24 年 3月時点)
(注 2)印紙税・登録免許税に係る政府等の歳入金額は、国の決算における印紙収入の額である。
(注3)法人住民税に係る政府等の歳入金額は、道府県民税の法人分ならびに市町村民税の法人均等割および法人税割を含み、道府県民税の個人
分および利子割ならびに市町村民税の個人均等割および所得割を除いた金額である。
(注4)固定資産に係る調査集計金額および政府等の歳入金額には、都市計画税が含まれている。
(注5)政府等の歳入金額の「その他」の金額には、徴収税目に区分される税目も含まれている。
(注6)日本政府歳入合計は、租税および印紙収入、社会保険料収入および地方税収入の合計額を表す。法人が負担することのない相続税等も含ま
れることに留意。
19
Total Tax Contribution
定的な負担税目として、安定的な政府歳
た。軽油引取税の政府歳入金額に占め
入の基盤となっていることを示している
る割合も11%と、同様に少数の大企業だ
(図12)。
けで大きな負担をしていることも明らか
また、各負担税目を政府歳入金額と比
になった。
較して見ると、平成21年度の関税の政府
歳入金額に占める割合が9.2%と、商社
を中心に調査参加企業41グループで大
きな負担をしている実態が明らかになっ
図12 調査参加企業の負担税目に占める法人税等の割合
100%
90%
その他
12.9%
14.2%
固定資産税
社会保険料事業主負担分
事業税(外形標準)
80%
17.3%
19.7%
地方法人特別税
事業税(所得割)
70%
住民税
法人税
60%
39.4%
50%
43.4%
40%
30%
20%
10%
3.4%
3.2%
3.4%
5.4%
3.1%
3.9%
2.5%
5.1%
法人税等
19.2%
法人税等
27.3%
15.8%
7.3%
0%
平成21年度
平成22年度
Total Tax Contribution
20
徴収税目
がなく(1.1%減)安定的である(表13)。
調査参加企業の平成21年度の徴収税
また、揮発油税については、調査参加
目合計額は1兆9,689億円、平成22年度
企業41グループで平成21年度の当該税
は1兆9,475億円であり、調査参加企業
目からの歳入金額の14.4%を納付してお
が平成21年度に納付した徴収税目の合
り、石油石炭税は、同様に平成21年度の
計額は、政府等の歳入金額の1.5%を占
当該税目からの政府税収の21.5%を納
めている。調査参加企業が納付した徴
付している。これら徴収税目について徴
収税目でその合計額が最も高かったも
税負担を負っているのは調査参加企業
のは、社会保険料従業員負担分であり、
41グループの中でも一部の企業に限ら
これに揮発油税等および雇用に係る源
れ、徴税負担が特定の企業に集中してお
泉所得税が続いている。平成21年度か
り、政府歳入面から見ると徴収効率の良
ら平成22年度にかけて負担税目が15%
い税目となっていることが分かる。
程度増加する中、徴収税目は大きな変動
表13 調査参加企業の徴収税目の年度別内訳と歳入との比較
(単位:億円)
主な徴収税目
平成21年度
調査集計金額
政府歳入金額
平成22年度
割合
調査集計金額
政府歳入金額
割合
国税等
源泉所得税(雇用)
3,609
88,889
4.1%
3,536
87,309
4.0%
社会保険料従業員負担分(注1)
9,056
292,978
3.1%
9,538
-
-
576
37,037
1.6%
543
36,724
1.5%
▲1,499
98,075
-1.5%
▲1,945
100,333
-1.9%
揮発油税
3,909
27,152
14.4%
4,023
27,501
14.6%
石油石炭税
1,046
4,868
21.5%
1,168
5,019
23.3%
2,779
122,632
2.3%
2,514
113,636
2.2%
74
1,651
4.5%
83
1,502
5.5%
141
640,354
-
15
-
-
19,689
1,313,636
1.5%
19,475
-
-
源泉所得税(雇用以外)
消費税
地方税
特別徴収住民税(注2)
住民税利子割・配当割
その他(注3)
合計(注4)
<政府等の歳入金額の出所>財務省「決算の説明(平成 21年度、平成 22 年度)」、総務省「地方財政白書(平成 23 年版、平成 24 年版)」、国立社会
保障人口問題研究所「平成 21年度社会保障給付費」、国税庁「統計年報(平成 21年、平成 22 年)」
(注1)社会保険料に係る政府等の歳入金額は、従業員負担分の金額である。平成 22 年度は未公表(平成 24 年 3月時点)。
(注 2)特別徴収住民税に係る政府等の歳入金額は、道府県民税の個人分ならびに市町村民税の個人均等割および所得割の合計金額である。
(注3)政府等の歳入金額の「その他」の金額には、負担税目に区分される税目も含まれている。
(注4)日本政府歳入合計は、租税および印紙収入、社会保険料収入および地方税収入の合計額を表す(前述)。
21
Total Tax Contribution
国税と地方税の構成
総合的財政貢献額に占める国税と地
方税の構成は、平成21年度も平成22年
度もほぼ変わらず、国税が約7割、地方
税が約3割を占めている。これは前回の
調査での結果(平成20年度:国税74%)
とほぼ同じ比率となっている(図14)。
図14 総合的財政貢献額に占める国税と地方税の構成
地方税
29.6%
地方税
27.6%
平成 21年度
平成22年度
国税
70.4%
国税
72.4%
Total Tax Contribution
22
分配された付加価値に占める総合
分配された価値であると考えることがで
的財政貢献額の割合
きるため、これを本報告書では公共分配
企業が生み出した付加価値(現金)
率と呼ぶことにする。
は、賃金、利子、配当、内部留保などの源
調査参加企業の労働分配率は、平成
泉となり、分配面から見た国民所得を構
21年度で47.3%、平成22年度で42.6%
成する。調査参加企業から提供された
と、平成21年度で特に高い割合となって
純支払利子額、給与総額(事業税の付
いる。平成21年度に企業が支出した給
加価値割の課税標準として用いる数値)
与総額自体は減少したが、税引後利益が
および税引後純利益の額に、負担税目と
減少しているため、相対的に労働分配率
徴収税目の合計額(総合的財政貢献
が高くなっている(図15)。
額)を加えた額を、企業が生み出した付
加価値総額であると想定した場合、給与
総額の付加価値総額に対する割合は労
働分配率であると考えることができる。
一方、総合的財政貢献額の付加価値総
額に対する割合は、政府等の公共部門に
今回の調査において公共分配率は、平
成21年度が33.6%、平成22年度が
33.5%であり、企業が生み出す付加価値
全体の3分の1程度が政府等の公共部門
へ分配されていたと言える。
図15 分配された付加価値に占める総合的財政貢献の割合
公共分配率
33.6%
公共分配率
33.5%
徴収税目合計
15.3%
負担税目合計
18.3%
税引後利益
(注)16.4%
平成21年度
総額12兆8,553億円
純支払利子
2.7%
給与総額
(徴収税目を除く)
47.3%
徴収税目合計
14.0%
負担税目合計
19.5%
純支払利子
2.7%
税引後利益
(注)21.1%
平成22年度
総額13兆9,127億円
給与総額
(徴収税目を除く)
42.6%
(注)本図で示されている税引後利益とは、会計上の税引前利益から同じ年度中に支出された法人税等の金額を控除して求められたものであり、
会計上の税引後利益とは異なる。
23
Total Tax Contribution
総合的財政貢献額の国内売上に対
する比率
表16 総合的財政貢献額の国内売上に対する比率
(単位:億円)
調査参加企業が支払う租税および社
平成21年度
会保険料の総額が売上高に占める比率
の平均値を求めた。結果は、平成21年度
法人税等
社会保険料事業主負担分
負担税目
が4.7%、平成22年度が4.8%と大きな変
平成22年度
4,528
7,405
10,223
10,691
8,803
9,016
その他
動はなかった。総合的財政貢献額を法
徴収税目
19,689
19,475
人税等とそれ以外に区別して売上高との
総合的財政貢献額(TTC)
43,243
46,587
比率を見てみると、売上高と法人税等の
売上高
925,073
964,945
納付額が同程度増加したことにより、結
法人税等/売上高
0.5%
0.8%
果として当該比率が横ばいとなっている
法人税等以外/売上高
4.2%
4.0%
ことが窺える(表16)。
TTC/売上高
4.7%
4.8%
雇用に係る公的負担
調査参加企業の平成22年度の従業員
数の合計である977,933人は厚生労働
省の労働力調査による平成22年度の就
業者数である6,257万人の約1.6%に相
当する。その一方で、調査参加企業の社
会保険料事業主負担分の平成21年度の
本調査において、負担税目のうち社会
保険料事業主負担分と、徴収税目のうち
給与等源泉所得税、特別徴収住民税お
よび社会保険料従業員負担分との合計
を、雇用に係る公的負担と定義する。調
査参加企業の雇用に係る公的負担の総
額は表17に示すとおりである。
合計額は1兆223億円であり、平成21年
度の社会保険料事業主負担分の政府等
表17 調査参加企業の雇用に係る公的負担の総額
の歳入金額の約3.9%を占めている(前
(単位:億円)
掲表11参照)。
平成21年度
景気後退により法人税等の納付金額
が減少する中であっても、大企業は雇用
金額
負担税目
に係る一定の固定的な負担を行っている
ことが分かる。調査参加企業が納税した
法人税の税額が平成21年度の政府法人
税収入額の2.7%に過ぎないことと比較
徴収税目
社会保険料事業主負担分
構成比率
平成22年度
金額
構成比率
10,223
39.8%
10,691
40.7%
給与源泉所得税
3,609
14.1%
3,536
13.4%
特別徴収住民税
2,779
10.8%
2,514
9.6%
社会保険料従業員負担分
9,056
35.3%
9,538
36.3%
25,667
100.0%
26,279
100.0%
雇用に係る公的負担総額
しても、調査参加企業の社会保険料事
業主負担分の合計額が政府歳入金額に
占める割合が高いことが理解できる。
Total Tax Contribution
24
調査参加企業の従業員一人当たりの
雇用に係る公的負担の平成22年度の単
表18 調査参加企業の従業員一人当たりの雇用に係る公的負担
純平均は、平成21年度で266万円、平成
平成21年度
平成22年度
22年度で269万円であった。平成22年
従業員数
964,344人
977,933人
度の内訳は、社会保険料事業主負担分
社会保険料事業主負担分/従業員数
1,060千円
1,093千円
が109万円、給与等源泉所得税、特別徴
給与源泉所得税/従業員数
374千円
362千円
収住民税、社会保険料従業員負担分の
特別徴収住民税/従業員数
288千円
257千円
合計が160万円となっている(表18)。
社会保険料従業員負担分/従業員数
939千円
975千円
2,661千円
2,687千円
次に、給与総額に対する雇用に係る公
雇用に係る公的負担/従業員数
的負担の比率を求めたところ、平成21年
度の平均は33.7%、平成22年度の平均
は35.1%と、雇用に係る負担税目に若干
表19 調査参加企業の給与総額に対する雇用に係る公的負担の比率
の増加が見られたものの、ほぼ同水準で
推移していることが分かった(表19)。
平成21年度
平成22年度
76,207億円
74,915億円
雇用に係る負担税目/給与総額
13.4%
14.3%
雇用に係る徴収税目/給与総額
20.3%
20.8%
雇用に係る公的負担/給与総額
33.7%
35.1%
給与総額
総合的公的負担率
その結果、平成21年度および平成22
(調査参加企業全体を1つの企業グル
(Total Tax Rate)
年度の総合的公的負担率、およびその
ープとみなす方法)。その結果が表20の
サンプル数とサンプルの範囲は表20に
「合算値に基づく総合的公的負担率で
示すとおりとなった。
ある。
実施した。1つの方法は、各企業グループ
単純平均による総合的公的負担率の
両者の数値には違いがあるが、この2
ごとの公的負担率の単純平均を求める
算出方法では、単純平均であるが故に、
年度の傾向が若干の右下がりである点は
ものである。この計算においては次に該
サンプルとなる各社の企業規模が公的
共通している。これは主として、企業業
当する企業グループを除外している。
負担率の計算に反映されないことになる
績の回復に伴い当期純利益が増加して
が、その一方で、法人税実効税率など制
いるが、その増加率が、公的負担率の分
度上の総合的公的負担率との比較につ
子を構成する法人税等の納付額の増加
き異常値を除外して検証することには適
率と比べ大きかったという結果に起因し
している。
ている(図21)。
調査参加企業全体の総合的公的負担
率を求めるにあたり、2つの計算方法を
• 税引前純損失を計上している企業グ
ループ
• 公的負担率がマイナスの企業グルー
プ
• 公的負担率が100%を超えている企
業グループ
25
Total Tax Contribution
2つ目の計算方法として、調査参加企
業の基礎データを全て合算した上で、全
体の公的負担率を計算する方法を試みた
表20 調査参加企業の総合的公的負担率
算出方法
単純平均による
公的負担率
平成21年度
公的負担率
平成22年度
43.0%
41.8%
サンプル企業数
30
37
サンプルの範囲
2.9%~90.3%
4.4%~97.8%
52.8%
48.0%
合算値に基づく総合的公的負担率
図21 総合的公的負担率の推移と内訳
60.0%
その他
固定資産税
52.8%
50.0%
40.0%
社会保険料事業主負担分
9.3%
48.0%
地方法人特別税
7.7%
事業税(所得割)
住民税
10.4%
法人税
8.3%
30.0%
20.0%
10.0%
0.0%
18.9%
22.9%
1.7%
1.8%
2.8%
3.8%
平成 21年度
法人税等
10.1%
1.9%
1.2%
2.5%
7.6%
法人税等
13.1%
平成22年度
Total Tax Contribution
26
総合的公的負担率の2年通期ベース
の総合的公的負担率を同様の方法で求
による分析
めた結果は56.6%であった。リーマンシ
ョック後の急速な景気悪化に伴い、企
総合的公的負担率の算式上、分子の
業業績は大きく変動したが、その中でも
負担税目は現金主義により把握される
納税額を用いており、分母の会計上の利
益と期間が対応していない。この「期ず
日本の大企業は総じて50%を超える高
い公的負担を行っている実態が窺え
る。
れ」の影響を緩和するため、両年度の基
礎データを合算した上で2年通期の総合
この2年通期の総合的公的負担率の
的公的負担率を求めた。
内訳を見ると、法人税等(11.8%)より社
会保険料事業主負担分(20.7%)の割
今回の調査対象である41企業グルー
プの基礎データを全て合算した上で算出
した総合的公的負担率(上述の後者の
合が大きく、企業における雇用に係る公
的負担が大きいことが分かる(図22)。
方法によるもの)は、50.1%であった。調
この総合的公的負担率と法人税実負
査対象となる企業グループの内訳は異な
担率(法人税等/税引前純利益)および
るため単純比較はできないが、前回調査
狭義の公的負担率((法人税等+社会保
で平成19年度と平成20年度の2年通期
険料事業主負担分)/(税引前純利益+
図22 2年通期の総合的公的負担率、および法人税実負担率と狭義の公的負担率
60.0%
60.0%
50.0%
50.0%
40.0%
40.0%
30.0%
30.0%
50.1%
20.0%
10.0%
0.0%
20.0%
39.4%
法人税実負担率
Total Tax Contribution
20.7%
10.0%
19.1%
11.8%
狭義の公的負担率
総合的公的負担率
(TTR)
0.0%
法人税等
27
17.6%
総合的公的負担率
(TTR)
社会保険料事業主負担分
その他
社会保険料事業主負担分))を比較して
30.2%、地方税19.9%から構成される。
みると、総合的公的負担率は法人税実
地方税の中で割合が高い税目は固定資
負担率(19.1%)と比べ著しく高く、ま
産税(9.2%)であり、住民税、事業税所
た、狭義の公的負担率(39.4%)と比べ
得割および地方法人特別税の合計
ても高いことが分かる。社会保険料事業
(5.9%)を上回っている(図23)。
主負担分をはじめとする法人税等以外
の税目がここ2年度、企業にとっての大き
な負担税目となっている事実がこの比較
からも明らかである。
この事実は、法人税率の軽減のみをも
って公的負担面での日本企業の国際競
争力を大幅に向上させることは困難であ
ることを示していると言えよう。
総合的な公的負担率を国税と地方税
という視点から分析すると、全体の総合
的公的負担率である50.1%は、国税
図23 総合的公的負担率の国税と地方税の構成
35.0%
軽油引取税
30.0%
固定資産税
19.9%
0.8%
1.8%
0.5%
15.0%
10.0%
5.0%
0.0%
30.0%
事業所税
25.0%
20.0%
35.0%
その他
9.2%
1.8%
1.6%
1.5%
2.6%
地方税
地方法人特別税
事業税(外形標準)
その他
30.2%
1.3%
1.0%
1.3%
25.0%
地方税
19.9%
揮発油税
関税
社会保険料
事業主負担分
法人税
20.0%
事業税(所得割)
15.0%
住民税
国税
30.2%
20.7%
10.0%
5.0%
5.9%
0.0%
国税
Total Tax Contribution
28
総合的公的負担率の国際比較
-「Paying Taxes」調査より
世界銀行は毎年、183ヵ国を対象に各
国でビジネスを遂行することにかかわる
各種制度・規制を分析・比較調査してお
り、その項目の1つに、PwCと共同で実
施される税負担に係る調査、
「Paying
Taxes」がある。この調査における一項目
として、単一の中小企業のモデルケース
を適用して183ヵ国の総合的公的負担率
が算定されている。この2011年調査での
日本の総合的公的負担率は49.1%であ
なっており、アジアの主要国で日本より
も高い総合的公的負担率となっている
のはインド(61.8%、156位)および中国
(63.5%、161位)の2ヵ国のみである。
ちなみに、中国の総合的公的負担率が
高いのは、利益にかかわる租税の負担
比率がわずか6.0%であるのに対して、雇
用にかかわる公的負担が49.6%と極めて
高い比率となっていることによる(図24、
25、表26)。
先に日本の法人税率は総合的公的負
論計算した総合的公的負担率も、規模
担率を構成する相対的には低い税目の1
のより大きい実際の企業を対象とした本
つに過ぎないと言及したが、制度上の法
実証調査の結果の近似値となってい
人税率が日本よりも低い海外諸国におけ
る。
る法人税の構成比率はさらに低いことが
負担率は、その低い順からランキングし
て138位に位置しており、一般的に認識
されている法人税実効税率の高さも反
映してかなりの高率国であるという結果
を示している。日本の総合的公的負担率
はドイツ(46.7%、130位)および米国
(46.7%、131位)とほぼ同等の率であ
り、フランス(65.7%、164位)より低い
率となっている。しかしながら、その構成
比率を見てみると、日本と米国の総合的
公的負担率は法人税等利益を課税標準
とする負担税目の割合が高いのに比べ
て、ドイツ、フランスなどは、社会保険料
などの雇用にかかわる公的負担の構成
割合がかなり高くなっている。また、アジ
ア諸国との比較においては、シンガポー
ル(27.1%、32位)、韓国(29.7%、42
Total Tax Contribution
本よりもかなり低い総合的公的負担率と
り、企業規模の小さいモデルケースで理
この調査における日本の総合的公的
29
位)および台湾(35.6%、75位)などは日
分かる。そのため、日本の法人税率の軽
減が、公的負担面での日本企業の国際
的競争力を高めることに貢献することが
期待されているが、その一方において、
総合的公的負担率に占める法人税等以
外の公的負担割合の高さから考えて、法
人税率の軽減のみをもって日本企業の
国際的競争力を高める結果を求めるの
は難しいと言うこともできよう。
図24 「Paying Taxes 2012」 - アジア・太平洋地域の主要国との比較
70.0%
61.8%
60.0%
7.9%
50.0%
46.5%
40.0%
30.0%
20.0%
27.1%
23.0%
0.1%
5.3%
4.7%
34.5%
0.1%
34.0%
1.4%
29.7%
1.5%
17.6%
15.6%
香港
13.0%
利益に係る税
韓国
3.0%
5.7%
17.0%
台湾
47.7%
49.1%
1.3%
5.6%
20.4%
16.5%
19.0%
18.2%
49.6%
11.3%
21.0%
13.7%
マレーシア インド
ネシア
14.2%
28.8%
23.6%
15.2%
シンガ
ポール
35.6%
3.5%
18.4%
6.5%
0.0%
37.5%
10.6%
15.9%
10.0%
63.5%
26.0%
27.0%
24.6%
6.0%
タイ
フィリピン オースト
ラリア
日本
インド
67.1%
68.5%
2.3%
中国
その他
雇用に係る税
図25 「Paying Taxes 2012」 - 欧米その他の主要国との比較
70.0%
65.7%
5.8%
60.0%
50.0%
37.3%
40.0%
3.2%
30.0%
28.8%
6.8%
40.5%
1.5%
11.0%
18.1%
23.1%
20.9%
46.7%
5.9%
46.7%
9.1%
46.9%
5.8%
52.7%
1.4%
5.6%
16.5%
10.0%
21.8%
49.1%
3.8%
26.8%
40.9%
43.4%
22.4%
22.8%
51.7%
32.1%
20.0%
12.6%
10.0%
9.4%
27.0%
27.6%
19.0%
9.0%
24.5%
8.2%
0.0%
カナダ
英国
利益に係る税
オランダ ドイツ
雇用に係る税
米国
ロシア
日本
メキシコ フランス ブラジル イタリア
その他
Total Tax Contribution
30
表26 「Paying Taxes 2012」 - 公的負担率に係るランキング
順位
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
23
32
42
75
82
96
130
131
132
133
138
156
161
164
168
170
国名
東ティモール
バヌアツ
モルディヴ
マケドニア
ナミビア
カタール
UAE
ザンビア
サウジアラビア
バーレーン
香港
シンガポール
韓国
台湾
英国
オランダ
ドイツ
米国
ロシア
オーストラリア
日本
インド
中国
フランス
ブラジル
イタリア
公的負担率
利益に係る税
0.0%
0.0%
0.0%
6.3%
4.0%
0.0%
0.0%
1.5%
2.1%
0.0%
17.6%
6.5%
15.2%
13.7%
23.1%
20.9%
19.0%
27.6%
9.0%
26.0%
27.0%
24.6%
6.0%
8.2%
22.4%
22.8%
「Paying Taxes」調査について
「Paying Taxes」とは、PwCが世
界銀行および国際金融公社(IFC)と
0.0%
4.5%
0.0%
0.0%
1.0%
11.3%
14.1%
10.4%
12.4%
14.6%
5.3%
15.9%
13.0%
18.4%
11.0%
18.1%
21.8%
10.0%
32.1%
20.4%
16.5%
18.2%
49.6%
51.7%
40.9%
43.4%
その他
0.2%
3.9%
9.3%
3.4%
4.8%
0.0%
0.0%
2.6%
0.0%
0.4%
0.1%
4.7%
1.5%
3.5%
3.2%
1.5%
5.9%
9.1%
5.8%
1.3%
5.6%
19.0%
7.9%
5.8%
3.8%
2.3%
合計
0.2%
8.4%
9.3%
9.7%
9.8%
11.3%
14.1%
14.5%
14.5%
15.0%
23.0%
27.1%
29.7%
35.6%
37.3%
40.5%
46.7%
46.7%
46.9%
47.7%
49.1%
61.8%
63.5%
65.7%
67.1%
68.5%
指標としては、公的負担率の他に、
主要な税金等の納税に要する時間お
よび納税回数が用いられている。
・従業員数は60人であり、福利厚生
として社会保険に加入している。
・売上は一人当たり所得の1,050
共同で実施する調査であり、世界
「Paying Taxes」調査においてモ
倍。初年度(2009年)は損失を
183ヵ国の「納税のしやすさ」を、公
デル化されている企業の前提事項は
計上したが、2年目(2010年)は
的負担率を含む3つの指標で測定
概ね次のとおりである。
20%の売上高利益率を確保して
し、その結果をランキング形式で報
告するものである。この「Paying
Taxes」調査では、総合的財政貢献
調査のように企業から得られた実額
を基準として実証分析を行うのでは
なく、一定の条件の下でモデル化さ
れた企業が調査対象国で負担するこ
とになる全ての税金等を推計し、比
較分析を行うことを特徴としてい
る。
「Paying Taxes」調査での分析
31
雇用に係る税
Total Tax Contribution
・その国で最も一般的な有限責任
会社で、最も財政的に大きい都市
に所在している。
・5人の居住者である個人が株主で
ある。
・主たる事業は植木鉢の製造・販
売であり、国内取引のみ行なう。
・土地、建物、機械装置、器具備品
および車両を有している。
いる。
・2年目の期首に土地の一部を売却
した。また、同期末に利益の50%
を株主に配当した。
なお、
「Paying Taxes」の最新の調
査結果については、フルレポートを
参照(http://www.pwc.com/gx/
en/paying-taxes/index.jhtml)。
第4章 4事業年度比較
調査の内容と方法
前回調査(平成19年度、20年度を対
比例して、給与総額も同年度に減少して
いる(前年度比5.9%減)。
象)と今回調査(平成21年度、22年度を
対象)の結果を合わせれば4事業年度分
のデータを分析することができる。ただ
し、前回調査(38企業グループ)と今回
調査(41企業グループ)で回答を得られ
図27 4事業年度比較の対象となった企業グループの産業別内訳
た企業グループの構成が異なるため、前
回調査と今回調査の結果を単純に比較
その他
2
し分析することは適切でない。
そこで、前回調査および今回調査の双
化学・製薬
5
商社
4
方で回答を得られた企業グループを抽
出し、各種指標の4事業年度の年次比較
を行うことを試みた。
石油・ガス・
情報通信
3
分析対象となった企業グループの内
訳と概要
抽出された企業は24企業グループで
あり、その内訳と売上等の概要は図27お
機械・金属
10
よび表28に示すとおりである。
リーマンショック後の景気後退の局面
で売上高は平成20年度以降減少してい
るが、平成22年度に上昇(前年度比5.2
表28 4事業年度比較の対象となった企業グループの売上等の概要
%)に転じている。税引前純利益も、平
成19年度から平成20年度にかけて57%
の大幅な減少を見たが、平成22年度より
回復傾向にある(前年度比30.4%)。
売上高
平成19年度
平成20年度
平成21年度
平成22年度
95兆9,088億円
88兆1,699億円
74兆815億円
77兆9,615億円
税引前純利益
5兆8,223億円
2兆5,034億円
2兆2,112億円
2兆8,824億円
売上高利益率
6.1%
2.8%
3.0%
3.7%
従業員数は、人員削減の効果が平成
従業員数
857,156人
861,241人
775,802人
790,211人
21年度に現れ(前年比9.9%減)、これに
給与総額
6兆6,125億円
6兆5,446億円
6兆1,580億円
6兆833億円
Total Tax Contribution
32
総合的財政貢献額の推移
平成21年度から平成22年度にかけて
総合的財政貢献額は平成20年度から
平成21年度にかけて大きく減少している
(27.3%減)。その主な要因は、法人税
等の減少(67.7%減)にある(図29)。
総合的財政貢献額は増加しているが(前
年度比7.3%増)、これは概ね法人税等
の納税額が回復したことに伴う増加であ
る。
前述のとおり、本調査においては法人
税等を現金主義で把握しており、前年度
の確定申告納付額が翌年度の法人税等
の金額として把握されるため、税引前純
利益の動向と法人税等の納付額に「期
ずれ」が生じる。平成20年度に税引前純
損益が大きく減少した影響で、平成21年
度の法人税額の納付額が著しく減少し、
総合的財政貢献額全体の数値を引き下
げている。また、従業員数の減少に伴う
雇用関連の徴収税目(源泉徴収税、社会
保険料従業員負担分)の減少も総合的
財政貢献額低下の要因となっている。
図29 総合的財政貢献額の4事業年度推移
(単位:億円)
60,000
50,000
50,468
40,000
17,189
30,000
7,420
0
7,610
8,740
17,438
平成 19年度
法人税等
33
17,024
8,421
20,000
10,000
48,073
Total Tax Contribution
14,700
平成20年度
社会保険料事業主負担分
その他負担税目
37,521
34,970
15,749
6,244
8,230
15,549
6,329
8,691
4,747
6,953
平成 21年度
平成22年度
徴収税目
負担項目の推移
負担税目に区分される各税目の4事業
年度の推移を見ると、法人税等が平成
21年度に大きく減少している一方で、社
会保険料事業主負担分や固定資産税
等、企業の業績に連動しない固定的な
負担税目は4事業年度の間大きく変動し
ておらず、景気変動にかかわりなく、大
企業が高いレベルで負担をし続けてい
るという実態が明らかになっている。
業の法人税等納付額の落ち込みが政府
となる性質の税目でないため、主に金融
歳入の減少に大きな影響を及ぼしている
業で多く見られる控除対象外消費税(
ことを示している。この事実は、政府歳
費用計上)を除いて、原則として総合的
入の安定化を図るためには、大企業の法
財政貢献額に表れることはない。その一
人税等、利益連動型の税収に依存する
方で、調査参加企業の中の主に輸出型
べきではないということを示唆している
産業を中心に還付申告を行うケースが多
と言えよう(表30)。
く見られ、結果として調査集計金額は毎
徴収項目の推移
年度マイナスの値を示している。調査対
次に徴収税目に区分される各税目の4
が、総合的財政貢献額は消費税率の増
事業年度の推移を見ると、雇用に係る公
平成20年度から平成21年度にかけて
的負担(源泉所得税、特別徴収住民税、
の法人税等の減少額は1兆10億円であ
社会保険料従業員負担分)の減少が平
り、これは同年度の政府歳入金額の同税
成20年度から平成21年度にかけて見ら
目の減少額合計(6兆8,352億円)の
れるが(15.5%減)、概ね安定的に推移
14.6%に当たる。これは、僅か24の大企
している。消費税は、企業が最終負担者
象とするサンプル企業の構成にもよる
減の影響を大きくは受けないものと推察
される。この傾向については今後の調査
においても引き続き注視する必要があろ
う。
表30 調査参加企業の各種税目の年度別内訳と歳入との比較
(単位:億円)
平成19年度
集計
法人税
住民税
事業税/地方法人特別税
負担 社会保険料事業主負担分
税目 固定資産税
関税
その他
負担税目合計
源泉所得税(雇用)
特別徴収住民税
社会保険料従業員負担分
徴収 揮発油税
税目 石油石炭税
消費税
その他
徴収税目合計
総合的財政貢献額(注)
10,395
3,207
4,526
8,421
2,931
914
2,885
33,279
3,265
2,881
7,595
4,306
1,245
▲2,942
839
17,189
歳入額
平成20年度
割合
集計
147,444 7.1% 8,156
41,982 7.6% 2,779
56,077 8.1% 4,397
272,010 3.1% 8,740
99,447 2.9% 2,907
9,410 9.7%
795
- 3,275
- 31,049
101,387 3.2% 3,262
121,163 2.4% 3,058
296,730 2.6% 7,865
21,105 20.4% 3,716
5,129 24.3% 1,308
128,411 -2.3% ▲3,026
841
- 17,024
50,468 1,481,591
歳入額
平成21年度
割合
集計
歳入額
平成22年度
割合
集計
歳入額
割合
100,106 8.1% 2,348 63,564 3.7% 4,264 89,677 4.8%
38,154 7.3% 1,095 24,620 4.4% 1,193
27,114 4.4%
52,026 8.5% 1,879 33,750 5.6% 2,095 36,730 5.7%
273,261 3.2% 8,230 261,147 3.2% 8,691
101,189 2.9% 2,895 101,255 2.9% 2,879 102,219 2.8%
8,831 9.0%
674
7,319 9.2%
655
7,859 8.3%
2,101
- 2,196
- 19,222
- 21,973
99,880 3.3% 2,598 88,889 2.9% 2,559 87,309 2.9%
124,225 2.5% 1,969 122,632 1.6% 1,749 113,636 1.5%
301,215 2.6% 7,426 292,978 2.5% 7,878
18,894 19.7% 3,909
27,152 14.4% 4,023 27,501 14.6%
5,110 25.6% 1,046
4,868 21.5% 1,168
5,019 23.3%
124,430 -2.4% ▲1,664 98,075 -1.7% ▲2,144 100,333 -2.1%
465
316
- 15,749
- 15,549
-
3.4% 48,073 1,412,734
3.4% 34,971 1,313,636
2.7% 37,522
-
-
(注)日本政府歳入合計は、租税および印紙収入、社会保険料収入および地方税収入の合計額を表す。
Total Tax Contribution
34
総合的財政貢献額の国内売上に対
分配された付加価値に占める総合
て40%を超える高い分配率となっている
する割合
的財政貢献額の割合
(表32、図33)。
調査参加企業の総合的財政貢献額の
調査参加企業の4事業年度の各分配
公共分配率に着目すると、税引後純利
売上高に対する割合の4事業年度の推
率の推移を見ると、税引後純利益の大
益が大きく落ち込む一方で、前年度の業
移を見ると、平成20年度から平成21年
幅な減少により相対的に平成20年度に
績に基づく税負担が大きくなっている平
度にかけて減少が見られる他は安定的
大きく増加した労働分配率が、平成21年
成20年度に42.9%と高水準の分配率に
であると言える。この減少は法人税等の
度に47.7%と更に増加していることが分
なっているが、当該年度以外は、概ね
減少によるものである。法人税等以外の
かる。この間、人員削減等の影響で給与
34%前後で推移している。総じて言え
税目は、売上高の推移と同程度に変動す
支給総額は減少しているのであるが
ば、企業は生み出した付加価値の4割強
る傾向にあり、結果として売上高との比
(3.3%減)、負担税目(法人税等)に係
を従業員に、3割強を国に分配してお
率に大きな変化が見られない(図31)。
る分配が大きく減少し(38.1%)、これに
り、2割程度を企業の内部留保としてい
伴い分配される付加価値全体も減少し
る実態が窺える。
ているため(7.2%減)、結果として労働
分配比率が拡大していることを表してい
る。税引後純利益と公共分配率がやや
回復した平成22年度になって労働分配
率は相対的に減少しているが、依然とし
図31 総合的財政貢献額の国内売上に対する割合
6.0%
5.5%
5.3%
4.7%
5.0%
1.9%
1.8%
4.0%
2.1%
3.0%
2.0%
1.0%
0
0.9%
0.9%
1.0%
1.8%
法人税等
35
0.8%
平成 19年度
1.7%
平成 20年度
社会保険料事業主負担分
Total Tax Contribution
4.8%
その他負担税目
0.9%
1.1%
2.0%
0.8%
1.1%
0.6%
0.9%
平成21年度
平成22年度
徴収税目
表32 分配価値の内訳
(単位:億円)
平成19年度
平成20年度
平成21年度
平成22年度
税引後利益
40,785
10,334
17,365
21,871
給与総額(徴収税目を除く)
52,384
51,261
49,587
48,648
2,211
2,404
2,134
2,091
負担税目
33,279
31,049
19,222
21,973
徴収税目
17,189
17,024
15,749
15,549
145,848
112,072
104,057
110,132
純支払利息
合計
図33 分配価値に占める総合的財政貢献の割合
公共分配率
42.9%
公共分配率
34.6%
徴収税目合計
11.8%
徴収税目合計
15.2%
税引後利益(注)
28.0%
負担税目合計
22.8%
平成19年度
総額14兆5,848億円
平成20年度
総額11兆2,072億円
負担税目合計
27.7%
公共分配率
33.6%
公共分配率
34.1%
徴収税目合計
15.1%
負担税目合計
18.5%
純支払利子
2.1%
給与総額
(徴収税目を除く)
45.7%
給与総額
(徴収税目を除く)
35.9%
純支払利子
1.5%
給与総額
(徴収税目を除く)
47.7%
純支払利子
2.1%
徴収税目合計
14.1%
税引後利益(注)
16.7%
平成21年度
総額10兆4,057億円
税引後利益
(注)
9.2%
負担税目合計
20.0%
純支払利子
1.9%
税引後利益(注)
19.9%
平成22年度
総額11兆132億円
給与総額
(徴収税目を除く)
44.2%
(注)本図で示されている税引後利益とは、会計上の税引前利益から同じ年度中に支出された法人税等の金額を控除して求められたものであり、
会計上の税引後利益とは異なる。
Total Tax Contribution
36
総合的公的負担率の推移
以下、企業規模が反映され、調査参加
する法人税等の確定納付額は前年度の
企業全体の動向を一体として捉えること
利益に基づいて算出されたものであり、
のできる②の方法(合算値に基づく総合
当年度の当期純利益ほどの落ち込みに
的公的負担率)を前提に総合的公的負
はならなかった(15.7%減)。結果とし
担率を分析していくこととする。
て、公的負担率自体は大きく増加した。
と、②対象となる企業グループの基礎デ
リーマンショック後の景気後退により
平成21年度は、当期純利益の減少が
ータを全て合算した上で、総体としての
平成20年度の企業業績は大きく落ち込
小幅に留まったものの(11.7%減)、法人
公的負担率を計算する方法により実施し
み、公的負担率の計算上、分母の額を構
税等の納付額が大幅に減少したため
た。その結果は表34に示すとおりであ
成する当期純利益は大幅に減少した
(67.7%減)、公的負担率は52.5%まで
る。
(57.0%減)。しかし、分子の額を構成
減少した。平成22年度は、当期純利益の
調査対象となった24企業グループ全
体の総合的公的負担率を求めるにあた
り、前章と同様に、①各企業グループの
公的負担率の単純平均を求める方法
表34 調査参加企業の総合的公的負担率
算出方法
単純平均による
公的負担率
平成19年度
公的負担率
サンプル企業数
サンプルの範囲
合算値に基づく総合的公的負担率
平成20年度
平成21年度
平成22年度
40.6%
20
55.0%
16
40.1%
17
38.1%
21
12.8%~72.5%
44.9%
28.0%~83.1%
75.0%
5.1%~90.3%
52.5%
4.4%~73.7%
50.1%
図35 調査参加企業の総合的公的負担率の推移と内訳
80.0%
7 5 .0%
70.0%
18.4%
60.0%
5 2 .5%
50.0%
4 4 .9%
40.0%
10.0%
30.0%
11.4%
21.1%
20.0%
10.0%
0.0%
17.1%
14.4%
22.4%
19.8%
13.0%
15.9%
平成 21年度
平成 22年度
35.5%
23.5%
平成 19年度
法人税等
37
5 0 .1%
Total Tax Contribution
平成 20年度
社会保険料事業主負担分
その他
回復に伴い、公的負担率は僅かに減少し
総合的公的負担率の2年通期ベース
では社会保険料事業主負担分等の利益
ている(図35)。
による分析
に連動しない固定的な負担税目が70%
この総合的公的負担率の4事業年度
前述の税引前純利益の動向と法人税
の推移からも、利益連動型の法人税等
等の納付額との間の「期ずれ」の影響を
景気後退の局面であっても大企業は、
は景気変動の影響を受けやすい不安定
緩和し、年次比較する数値の平準化を図
雇用に係る公的負担を中心に調整後当
な税目であることが明らかであり、また、
るために、図36に示すとおり、2年通期
期純利益の50%超と大きな負担をして
平成20年度は計算上の「期ずれ」の影
ベースにより総合的公的負担率の分析
いることがこの分析にも示されている。
響から数値が大きくなってしまっている
を試みた。
ものの、総じて言えば、大企業は調整後
当期純利益(当期純利益+負担税目)の
50%前後を毎年度負担していることが窺
える。
超を占めている。
総合的公的負担率の値は、平成20年
度と平成21年度の通期でやや高くなって
いるが、おおよそ平準化された。平成19
年度と平成20年度の通期と平成21年度
と平成22年度の通期を比べると、全体
の公的負担率に大きな違いはないが、そ
の内訳は大きく異なる。すなわち、前者
は当期純利益も大きく、公的負担率のほ
ほ半分を法人税等が占めているが、後者
図36 2年通期による総合的公的負担率とその内訳
70.0%
64.5%
60.0%
55.7%
50.0%
17.8%
51.2%
13.0%
15.6%
40.0%
21.8%
14.9%
30.0%
21.0%
20.0%
27.8%
10.0%
24.9%
14.5%
0.0%
平成19年度・平成 20年度
法人税等
社会保険料事業主負担分
平成20年度・平成 21年度
平成 21年度・平成 22年度
その他
Total Tax Contribution
38
第5章 産業別分析
本調査における産業分類
査参加企業全体の平成22年度の総合的
財政貢献額(4兆6,587億円)の58.5%
今回の調査対象である41企業グルー
プは前回調査よりも幅広い業種を含んで
いる。分析を行う上での業種の分類は、
データの匿名性、機密性を保持するため
に必要となる企業グループ数(1つの業
種につき3企業グループ以上)を考慮の
上、表37に示す7分類とした。各産業別
の平成22年度の財務指標は表37に示す
とおりである。
を占めている。国内市場向けサービスを
中心としたビジネスモデルで安定的な企
業業績を維持していること、従業員数が
多く雇用に係る公的負担の額が大きいこ
と、設備を多く有するため固定資産税の
負担が大きい等が総合的財政貢献額を
押し上げている要因と考えられる。同様
の理由で、運輸産業でも総合的財政貢
献額の数値は比較的大きくなっている。
産業別総合的財政貢献額
平成22年度の総合的財政貢献額を産
業別に分析すると、その総額および内訳
に顕著な違いが見られる。
商社の平成22年度の総合的財政貢献
額はマイナス値となっているが、これは
法人税等および消費税が還付される状
況であったことに起因しており、輸出中心
石油・ガス・情報通信産業に属する企
である商社のビジネスの特性が表れてい
業グループの総合的財政貢献額は、3企
る(図38)。
業グループで2兆7,259億円であり、調
表37 平成22年度の産業別財務指標
石油・ガス・
情報通信 化学・製薬
サンプル数
売上高
税引前純損益
売上高利益率
従業員数
給与総額
6
3
機械・金属
10
商社
金融
5
運輸
5
その他
7
3兆5,684億円 18兆5,443億円 32兆7,085億円 26兆2,020億円 6兆1,007億円 5兆3,580億円
2,721億円 1兆6,030億円
5,139億円
6,680億円
1,317億円
2,637億円
合計
5
41
4兆126億円 96兆4,945億円
2,271億円 3兆6,795億円
7.6%
8.6%
1.6%
2.5%
2.2%
4.9%
5.7%
3.8%
38,263人
316,299人
380,551人
19,308人
45,823人
120,021人
57,668人
977,933人
3,353億円 2兆1,887億円 3兆2,186億円
2,918億円
3,051億円
8,271億円
3,249億円 7兆4,915億円
支払利息
216億円
1,100億円
1,392億円
822億円
1,312億円
1,608億円
581億円
7,031億円
受取利息
20億円
345億円
587億円
342億円
1,713億円
85億円
116億円
3,208億円
39
Total Tax Contribution
図38 平成22年度の産業別総合的財政貢献額とその内訳
(単位:億円)
30,000
27,259
25,000
12,066
20,000
15,000
3,814
10,000
4,282
5,000
0
2,655
5,616
1,485
2,519
7,098
2,328
243
383
7,319
3,670
937
764
▲491
化学・製薬
石油・ガス・
情報通信
機械・金属
▲312
742
303
▲603
▲754
商社
2,491
44
1,186
674
587
金融
1,382
1,081
635
運輸
▲5,000
法人税等
社会保険料事業主負担分
その他負担税目
徴収税目
Total Tax Contribution
40
産業別総合的公的負担率
を行っている一方で、固定資産税、石油
産業別の総合的公的負担率を分析す
るにあたり、税引前純利益の動向と法人
税等の納付額との間の「期ずれ」の影響
を緩和し、数値の平準化を図るべく、平
成21年度と平成22年度の2年通期ベース
で公的負担率を計算した。また、第3章
と同様に、各産業に属する企業グループ
の公的負担率の単純平均を求める方法
と、各産業に属する企業グループの基礎
データを全て合算した上で、産業全体の
関連諸税など、特有の固定的な税金の
負担を行っていることなどが、公的負担
率を引き上げている要因と考えられる。
機械・金属、および金融に属する企業グ
ループも雇用に係る負担を中心に多くの
公的負担を行っているものの、以下で分
析する各種税制の適用による影響もあ
り、公的負担率は41企業グループ全体の
総合的公的負担率を下回る結果となった
(図40)。
総体としての公的負担率を計算する方法
運輸や石油・ガス・情報通信等、公益
の2つの方法で算出した(表39)。
事業性の高い国内の社会インフラにか
産業全体の公的負担率を計算する方
法(上述の後者の方法)の結果を用いて
検討すると、まず、運輸に属する企業グ
ループの総合的公的負担率が70.3%、石
かわるビジネスの総合的公的負担率が
高いことは、結果的に日本の高コスト構
造の一因となっていると捉えることもで
きよう。
油・ガス・情報通信に属する企業グルー
プが65.1%と、41企業グループ全体の総
合的公的負担率(50.1%)を大きく上回
っていることが分かる。いずれも国内向
けのサービス提供を中心とする事業形
態であり、海外の景気動向や為替の影
響を大きく受けることなく、比較的業績
が安定しており、一定の法人税等の負担
表39 産業別総合的公的負担率(2年通期)
算出方法
平均値
単純平均法 サンプル数
石油・ガス・
情報通信
化学・製薬
機械・金属
商社
金融
運輸
全体
37.2%
70.5%
36.7%
17.8%
36.0%
60.8%
42.6%
4
3
6
4
4
6
32
サンプルの範囲 19.4%~45.0% 61.7%~86.6% 12.5%~79.4% 4.7%~33.9% 16.3%~76.2% 14.7%~88.9% 4.7%~88.9%
各産業合算ベースの総合的
公的負担率
41
Total Tax Contribution
47.3%
65.1%
41.2%
4.1%
48.3%
70.3%
50.1%
図40 産業別総合的公的負担率の内訳(各産業合算ベース)
80.0%
5.1%
41.2%
1.9%
7.0%
13.4%
6.5%
2.3%
0.8%
0.2%
65.1%
60.0%
47.3%
40.0%
20.0%
0.5%
4.8%
4.4%
2.9%
7.9%
5.5%
0.5%
0.2%
11.6%
70.3%
1.7%
48.3%
3.6%
8.1%
13.2%
17.6%
46.4%
4.1%
16.3%
9.8%
-22.9%
-20.0%
9.2%
5.4%
3.5%
1.8%
4.9%
2.6%
2.3%
1.3%
24.0%
0.6%
0.1%
20.7%
26.0%
4.6%
0.0%
50.1%
3.2%
8.8%
2.0%
21.6%
24.6%
-10.9%
-0.2%
-13.4%
商社
金融
9.3%
5.9%
運輸
全社
-0.9%
-40.0%
化学・製薬
法人税
石油・ガス・
情報通信
機械・金属
社会保険料事業主負担分
関税
その他国税
住民税
事業税・地方法人特別税
固定資産税
その他地方税
Total Tax Contribution
42
日本の法人税制が総合的公的負担
ヘイブン対策税制の各種税制の適用に
率に与える影響
より、所得控除または税額控除される金
総合的公的負担率の産業別分析にお
ける1つの視点を提供するものとして、日
本の法人税法上の各種税制、具体的に
は外国子会社配当益金不算入制度、欠
損金の繰越控除、外国税額控除および
試験研究費特別控除が公的負担率にど
の程度の影響を及ぼしているか、また、
それが産業ごとにどのような特色がある
のか分析を試みた。
図41は、外国子会社配当益金不算入
制度、欠損金の繰越控除、外国税額控
除、試験研究費特別控除およびタックス
額(タックスヘイブン対策税制の場合は
合算される所得金額)を、各産業の総合
的公的負担率計算上の分母(税引前純
利益+負担税目-法人税等)で除して算
出した率の累計である(所得控除につい
ては実効税率(40.69%)を所得控除金
額に乗じて税額を算出している)。なお、
総合的公的負担率の計算は、各産業に
属する企業グループの基礎データを全て
合算した上で産業全体の公的負担率を
計算する方法を用い、平成21年度と平成
22年度の2年通期ベースを基礎データと
している。
図41 各種税制が総合的公的負担率に与えている影響(2年通期ベース)
35.0%
30.1%
30.0%
4.7%
25.5%
10.1%
9.5%
25.0%
20.0%
16.5%
1.9%
15.0%
6.4%
10.0%
7.8%
0.0%
1.8%
3.1%
14.4%
12.2% 0.1%
0.2%
10.2%
0.2% 0.8%
1.9%
0.1%
-0.1%
化学・製薬
Total Tax Contribution
0.2%
石油・ガス・ 機械・金属
情報通信
外国子会社配当益金不算入
43
11.8%
1.5%
2.1%
5.1%
0.5%
5.0%
-5.0%
14.4%
2.1%
欠損金の繰越控除
4.7%
1.0%
3.2%
3.6%
3.7%
-0.5%
-0.1%
0.2%
-0.1%
商社
金融
運輸
全社
外国税額控除
試験研究費特別控除
タックスヘイブン対策税制
上述の各種税制が総合的公的負担率
また、公的負担率に影響を与えている
に与えている影響を調査参加41企業グ
税制の内訳も産業ごとに特色が表れてお
ループ全体で見ると、各種税制の適用に
り、化学・製薬では試験研究費特別控除
より総合的公的負担率が11.8%引き下げ
の影響が大きく(6.4%)、また、金融では
られていることが分かる。その内訳を見
欠損金の繰越控除による影響が大きい
ると、試験研究費特別控除の引下げ効
(12.2%)。
果が相対的に小さいが(1.5%)、外国子
会社配当益金不算入(3.7%)、欠損金の
繰越控除(3.6%)および外国税額控除
(3.1%)は、ほぼ均等に負担率低下の影
響を与えているように見える。しかし、こ
れは与えている引下げ効果の大きさを含
め、産業により大きく異なっている。
図42は各産業の総合的公的負担率を
正の領域に、上述の各種税制が与えてい
る影響(公的負担率引下げ効果)を負の
領域にそれぞれ示したものである。各グ
ラフの右にある数値がその絶対値を合
算したものであり、いわば、もし上述の各
種税制がなかったならば各産業の総合
機械・金属産業は、外国子会社配当
的公的負担率はどのような値になってい
益金不算入(10.2%)、外国税額控除
たかを表している。商社を除き、各種税
(10.1%)をはじめ、欠損金の繰越控除
制考慮前の総合的公的負担率は概ね60
および試験研究費特別控除からも公的
%から75%の範囲内にあり、機械・金属
負担率を引き下げる効果を得られてい
および化学・製薬は各種税制の適用によ
る。また、商社も外国子会社配当益金不
り総合的公的負担率が引き下げられ、一
算入(14.4%)および外国税額控除(9.5
方で各種税制の影響をあまり受けない
%)により公的負担率を引き下げる効果
石油・ガス・情報通信および運輸などは
を得られている。本報告書における分析
総合的公的負担率が高いまま維持され
手法である公的負担率は、日本国内にお
ている様子がよく表れている。これは、
ける税金等の納付額により公的負担の
外国子会社配当益金不算入制度や試験
多寡を分析しているものであり、海外事
研究費特別控除など、近年の税制改正
業展開を進める企業は日本国外で稼得
により導入された、あるいは見直された
する利益が大きくなることから、各種税
事項を含め、日本の各種税制がもたらす
制、特に外国子会社配当益金不算入およ
恩恵を享受できる度合いは、その企業の
び外国税額控除等の適用の結果、公的
事業内容により、大きく異なることを明
負担率が引き下げられる傾向にあると言
らかにしている。
える。一方、石油・ガス・情報通信および
運輸などの国内向けサービスが中心の
産業では、欠損金の繰越控除を除いて、
これらの税制の適用を受ける機会も少な
く、公的負担率引下げの影響は大きくな
い。
Total Tax Contribution
44
特に機械・金属産業において各種税制
ら、結果的に他の産業分野に比べて総
の適用による公的負担率の圧縮幅が他
合的公的負担率は低い結果となってい
に比べ大きいことは、同産業の海外への
る。
事業展開が積極的に進められており、い
わゆる日本企業の空洞化現象を表して
いると考えられ、この状況が歳入金額に
も影響を与えていると見ることができ
る。同様に、商社は、資源開発に代表さ
れるような海外における収益性の高いビ
ジネスの重要性が高まる中、このような
海外プロジェクトによる利益を日本に還
元することを通じて日本経済に大きな貢
献をしていると考えられるが、日本国内
における租税等を通じての財政貢献とい
う側面から見れば、その事業の特性か
図42 各産業の各種税制考慮前の総合的公的負担率
80.0%
60.0%
40.0%
65.1%
20.0%
47.3%
70.3%
68.0%
41.2%
63.8%
0.0%
48.3%
71.4% 4.1%
-3.0%
-16.5%
-30.1%
-20.0%
-26.0%
29.7% -14.5%
75.1%
50.1%
62.7%
-4.6%
-11.9%
-40.0%
-60.0%
化学・製薬
石油・ガス・ 機械・金属
情報通信
各種税制の影響(合算)
45
Total Tax Contribution
TTR
商社
金融
運輸
全社
62.0%
第6章 税務コンプライアンスコスト
税務に携わる年間延べ日数
延べ日数の税目別分析
税務コンプライアンスコストを測るた
税務部門および非税務部門において
め、まず、税務に携わる年間延べ日数
コンプライアンス活動に要する年間延べ
を、税務部門 と非税務部門 に分けて調
日数を税目別に分析したところ、法人税
査した。本調査では、法人税等以外の幅
等が60.4%、雇用に係る税(給与等源泉
前回の総合的財政貢献調査において
広い税目を調査対象としていることか
所得税、特別徴収住民税および社会保
初めて、企業の税務コンプライアンスコ
ら、税務コンプライアンスコストについ
険料)が20.4%を占めていることが分か
ストの実態を数値で把握することが実
ても、税務を専門として行う部門のみな
った。
施された。今回の調査では前回に引き続
らず、社会保険料を含む税金の申告、納
き、各種納税事務や社会保険料を含め
付、徴収等に関与している従業員が属す
た公的負担に関連する手続に要する内
る部門である非税務部門で発生するコ
部・外部費用について定量的に把握・分
ストも調査対象とした。
税金に関して企業に発生する負担は税
負担額のみではない。税制の簡素化は、
各企業における税務コンプライアンスコ
ストを減らし、税率の引下げと同じ政策
的効果をもたらすことがある。
析を行うとともに、事務負担の高い業務
に関する定性的分析についても実施され
た。
1
2
ここで、税務部門のみを取り出してコ
ンプライアンス活動に要する年間延べ日
数の税目別構成を調べてみると、法人税
等が82.3%を占めている一方で、非税務
税務部門および非税務部門において
部門では、取り扱う税金のうち、雇用に
税務に携わる年間延べ日数を、年間一人
係る税がその年間延べ日数の43.3%を
当たりの労働日数を240日と仮定して一
占めていることが分かる(図44)。
本調査における税務コンプライアンス
社当たりの平均従事者数を求めたとこ
コストの調査は平成22年度を対象として
ろ、税務部門では延べ7.2人、非税務部
おり、38企業グループから有効な回答を
門では延べ6.3人が携わっており、税務
得ることができた。
コンプライアンス活動に要する延べ日数
の46.6%が非税務部門で発生しているこ
とが判明した(図43)。
1
税務部門とは、名称にかかわらず、その企業における税務を専門として担当する従業員が所属する部門、課、グループ等をいう。ただし、財務部や経
理部の中に税務課ないし税務グループが設置されているような場合には、当該財務部や経理部のような、より大きな部門全体をもって税務部門として
回答することも可能とした。
2
非税務部門とは、税務部門以外の部門で、税金(社会保険料を含む)の申告、納付、徴収等に関与している従業員が属する事業部、部門、課、グルー
プ等をいう。税務コンプライアンスにかかわる非税務部門としては、たとえば、工場に係る税務手続きを担当する工場の経理部、源泉所得税・社会保
険料の計算、申告事務を扱う人事部門、通関業者を介して関税および輸入消費税の申告を担当している各事業部や調達部門、法人税におけるタックス
ヘイブン対策税制や間接外国税額控除の別表作成のために海外子会社から情報を収集する国際事業部、税務コンプライアンスに関連するアプリケ
ーション・システムの保守・変更等を行うIT部門等がある。
Total Tax Contribution
46
図43 コンプライアンス活動に要する年間延べ日数 – 税務部門および非税務部門の構成
非税務部門
46.6%
税務部門
53.4%
図44 コンプライアンス活動に要する年間延べ日数 - 税目別構成
雇用に係る税
0.3%
消費税
7.0%
その他
10.4%
法人税等
35.3%
税務部門
法人税等
82.3%
47
その他
13.4%
その他
16.9%
Total Tax Contribution
非税務部門
雇用に
係る税
20.4%
合計
法人税等
60.4%
雇用に係る税
43.3%
消費税 消費税
4.5% 5.8%
税務コンプライアンスコストの総計
ことができる。
と税目別分析
また、日本のコンプライアンスコスト
上述の内部人件費のデータに外部委
の特徴として、消費税の占める割合が低
託費用 なども加えて、税務コンプライア
い(5.8%)ことが挙げられる。
3
ンスコストを算出した。
質問票では、税目ごとに従業員が税務
コンプライアンス活動に携わった年間延
べ日数を調査し、これに平成22年度賃
金構造基本統計調査の企業規模1,000
人以上から抽出した一日当たりの平均報
酬単価を乗じることにより費用の額を計
算した(表45)。
結果として、税務コンプライアンスコス
トの一社当たり平均は6,262万円で、税
目別で見た場合、費用の60.0%が法人税
等の管理コストであった。これは日本の
国税・地方税の税収合計額から、所得税
等および相続税を除いた金額に法人税
等の占める割合が24.4%に過ぎない(平
成21年度)ことと比較しても高く、税務
コンプライアンスコストの観点からは、
法人税等は効率の悪い税金であると言う
表45 コンプライアンスコストの税目別内訳
(単位:千円)
年間延べ日数
見積り報酬総額(注)
外部委託費用
73,875日
1,414,328
14,637
7,142日
136,736
雇用に係る税
24,904日
その他
法人税等
消費税
合計
コンプライアンスコスト
1社当たり平均
構成比率
1,428,965
37,604
60.0%
1,361
138,097
3,634
5.8%
476,779
18,628
495,407
13,037
20.8%
16,427日
314,498
2,676
317,174
8,347
13.3%
122,347日
2,342,340
37,302
2,379,642
62,622
100.0%
(注)大企業(1,000人以上)の男性の月収平均(382,900 円、厚生労働省「平成 22 年賃金構造基本統計調査」より)を20日で除した結果(19,145
円)を1日当たり平均報酬単価として計算した。
3
税務コンプライアンス活動に係る外部委託費用(顧問税理士、会計事務所、システム提供者等に対する支出)がある場合には、対象事業年度におい
て費用計上した金額の回答を求めた。
Total Tax Contribution
48
事務負担の大きい事項
といった項目について企業の負担感が
強い項目になっており、また、国際税務
調査参加企業に、事務負担が大きい
については「移転価格税制における文書
と感じられる事項について、国内税務お
化対応」、
「外国税額控除額の計算」、
よび国際税務それぞれ上位3項目を選択
「タックスヘイブン対策税制による合算
してもらった。その回答によれば、国内
所得金額の計算」といった項目が挙げら
税務については「税務調査対応」、
「会
れている(図46、47)。
計基準と法人税法との差異に関する申
告調整」、
「法人税申告書の添付資料」
図46 調査参加企業が負担に感じている項目 - 国内税務
税務調査対応
45
会計基準と法人税法との差異に関する申告調整
29
法人税申告書の添付資料
15
従業員の所得税等の源泉徴収(年末調整を含む)
13
償却資産の台帳管理(会計、国税、固定資産税)
8
連結納税の計算
8
自治体別の地方税申告
6
法人税の更正に伴う過去複数年度の修正申告
5
消費税の仕入税額控除の計算
4
事業税付加価値割の計算
3
印紙税の管理
1
電子申告に係る事務
1
0
5
10
15
20
25
30
図47 調査参加企業が負担に感じている項目 - 国際税務
移転価格税制における文書化対応
24
外国税額控除額の計算
20
タックスヘイブン対策税制による合算所得金額の計算
18 18
非居住者等への支払に係る所得税の源泉徴収手続き
14
適用除外基準を満たした特定外国子会社等の資産性所得の合算
9
租税条約に係る手続き(届出書の作成等)
8
その他(注)
(注) 「その他」の主な内容
・恒久的施設課税への対応
・国際税務に係る税務調査対応
・米国連邦税に係る業務
49
Total Tax Contribution
0
5
88
10
15
20
25
30
35
40
45
50
近年の税制改正に伴う事務負担の
ついては60%と、ともに過半数を占め
減少
た。
「いいえ」と回答をした企業の一部
近年、国際税務の分野で、納税者の事
務負担を軽減することを目的とした税制
改正が行われている。代表的な事項とし
て、平成21年度改正で外国子会社配当
益金不算入制度が導入されたことに伴い
は国内向けサービスが中心でこれらの税
制を適用するケースが少ない企業である
ことを考慮すると、全体として好意的に
受け取られていると考えてよいと思われ
る(図48)。
間接外国税額控除が廃止になったこと、
および平成22年度改正でタックスヘイブ
ン対策税制の対象となるトリガー税率が
20%に引き下げられたことが挙げられ
る。この2つの改正事項に関して、調査参
加企業に実際に当該改正により税務実
務の中で事務負担は軽減されたと感じ
られるか否か回答してもらったところ、
軽減されたと感じると回答した企業が、
外国子会社配当益金不算入制度の導入
と間接外国税額控除制度の廃止につい
ては76%、タックスヘイブン対策税制に
図48 近年の税制改正による事務負担軽減に係る賛否
いいえ
9
いいえ
15
間接外国税額控除
の廃止
タックスヘイブン
対策税制
はい
29
はい
23
Total Tax Contribution
50
おわりに
本総合的財政貢献調査は、平成19年度
のビジネスを中心としている業種ほど公
と平成20年度を対象として第1回調査が
的負担率が高くなるという傾向も見られ
実施されたが、日本の主たる企業の事業
た。また、海外展開を行う企業について
活動に伴い発生するあらゆる税金等の負
は、外国子会社配当益金不算入制度等の
担を対象とし、これらの実数値を把握す
税制改正による新たな制度の適用等によ
ることによって実証分析を行うという点に
り、日本における公的負担率が低くなると
おいて画期的な調査となり、発表後、様々
いう実態も見えてきた。
な反響を頂いた。リーマンショック後、な
かなか抜け切れない景気低迷下におい
て、今回の調査においても、日本の大企業
がどの程度、国家歳入に対して貢献して
いるか、また、どの税目が企業にとって負
担が重いものであるのかにつき注目され
た。結果としては、法人税等よりも社会保
険料等ないし固定資産税の負担感が増し
ている実態が明らかになるとともに、国内
51
Total Tax Contribution
今回の調査により、日本の大企業によ
る財政貢献の実態を示す有用な情報を
提供するものになったと考える。このよう
な実額に基づく客観的な分析を継続して
実施することにより、今後も税制改正や日
本企業の国際競争力の維持・強化に向け
ての議論に有用な視点および資料を提供
できるよう努めていきたいと考える。
編著者紹介
宮川 和也
税理士法人プライスウォーターハウスクーパース
代表社員 理事/公認会計士・税理士
国内外の企業に対し、主にM&A、組織再編、国際取引に
関する税務アドバイスを行っている。日本公認会計士協
会国際租税専門部会専門委員を務める。
林 幹
税理士法人プライスウォーターハウスクーパース
顧問/公認会計士・税理士
パートナーとして日本企業の海外進出・M&Aにかかわる
タックスアドバイザリーに長年関与。21世紀政策研究所
(日本経団連)国際租税研究会委員等を歴任。
鈴木 俊二
税理士法人プライスウォーターハウスクーパース
マネージャー/公認会計士・税理士
金融部および事業法人部マネージャーを経て、現在移転
価格コンサルティンググループに所属。移転価格税制の
専門分野に加え、クロスボーダーの事業再編、タックスヘ
イブン税制など国際税務問題全般に関してアドバイスを
提供している。
Total Tax Contribution
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本調査に関連するPwC調査報告書
平成19年度および平成20年度の総合的
財政貢献調査
Total Tax Contribution
Surveying The Hundred Group
Total Tax Contribution 2009
本調査の第1回調査報告書
(2010年12月発行)
英国で実施された総合的財政貢献調査
の最新報告書(2012年3月発行)
Paying Taxes 2012
The global picture
Paying Taxes
The compliance burden
Tax transparency: Communicationg
the tax companies pay
PwCと世界銀行、国際金融公社(IFC)
が共同で実施した世界183ヵ国の「納
税のしやすさ」に関する調査の最新報
告書(2011年11月発行)
各国の租税に係る行政手続きの違いが
企業の税務コンプライアンス負担に対
して与える影響を考察した報告書
(2011年9月発行)
PwC英国が大手企業の「税の透明性」
に関して実施した調査の最新報告書
(2011年11月発行)
各調査のフルレポートは、以下のサイトをご覧ください。
www.pwc.com/jp/TTC
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Total Tax Contribution
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(2012年5月発行)
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