ファーマ2020:ビジネスモデルの変化と挑戦 岐路に立つ医薬品業界 Pharmaceuticals and Life Sciences
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ファーマ2020:ビジネスモデルの変化と挑戦 岐路に立つ医薬品業界 Pharmaceuticals and Life Sciences
Pharmaceuticals and Life Sciences ファーマ2020:ビジネスモデルの変化と挑戦 岐路に立つ医薬品業界 Table of contents 本シリーズの既刊 Pharmaceuticals Pharmaceuticals and Life Sciences Pharmaceuticals and Life Sciences Pharma 2020: The vision Which path will you take?* Pharma 2020: Virtual R&D Which path will you take? Pharma 2020: Marketing the future Which path will you take? *connectedthinking Pharma 2020: The vision pwc # ファーマ2020: ビジョン 岐路に立つ医薬品業界 2007年6月刊行。本書では、2020年まで に医薬品業界に大きく影響を与えると予想 されるさまざまな問題に焦点を当てた。ま た、製薬企業が株主や社会に提供する価値 を向上させる潜在的可能性を現実のものと するため、最善と目される変化の方向につ いても概説している。 Pharma 2020: Virtual R&D 1 ファーマ2020: バーチャルR&D 岐路に立つ医薬品業界 2008年6月刊行。本書では、R&Dプロセス 改善の機会に詳細な検討を加えた。新技術 により仮想(バーチャル)R&Dの実現が可 能になることを紹介した。医薬品業界が研 究者、政府、医療費支払者および医療サー ビス提供者らと連携することにより、刻々 と変化する社会の要求に、より効果的に対 応することができる。 ファーマ2020: マーケティングの未来 岐路に立つ医薬品業界 2009年2月刊行。本書では、医療費支払 者、医療サービス提供者および患者などの 影響力の高まりや医薬品市場再編の主要な 牽引力と21世紀にふさわしいマーケティン グおよび営業モデルの創出に求められる変 化について説明する。 これらの変化を通じ て、医薬品業界ではよりコスト効率の高い 方法で製品のマーケティングや営業が可能 になり、新たな機会が創出でき、結果、ヘ ルスケア業界全体で顧客ロイヤルティの向 上が期待できると考えられる。 “Pharma 2020: Challenging business models” is the fourth paper in the Pharma 2020 series on the future of the pharmaceutical industry to be published by PricewaterhouseCoopers. This publication highlights how Pharma’s fully integrated business models may not be the best option for the pharma industry in 2020; more creative collaboration models may be more attractive. This paper also evaluates the advantages and disadvantages of the alternative business models and how each stands up against the challenges facing the industry. 本シリーズは全て、www.pwc.com/pharma2020からダウンロードして閲覧することができます。 目次 はじめに 1 単独での利益か共同での利益か 1 未来を回想する 2 サインを読み取る 2 価値提供の範囲の拡大とバリューチェーンの管理 4 多様なコラボレーションモデルからの選択 6 •連合モデル •バーチャル型連合モデル •ベンチャー型連合モデル •完全多角化モデル 成功への進路を切り開く 12 おわりに 13 謝辞 15 参考文献 17 Pharma 2020: Challenging business models Table of contents はじめに プライスウォーターハウスクーパース* が2007年6月に刊行した白書「ファーマ 2020:ビジョン」で指摘したとおり、医 薬品市場には大きな変化が起きている1。 これらの変化は、製薬企業が採用すべき ビジネスモデルに大きく影響することに なるだろう。 ほとんどのビックファーマは伝統的に、研 究開発から製品販売に至るまでのすべてを 行ってきた。しかし、私たちは2020年まで にこのモデルは多くの企業で機能しなくな ると予想している。ビックファーマが繁栄 するには、研究開発生産性を改善し、費用 を削減し、新興各国の可能性を最大限に引 き出し、医薬品の販売からアウトカムの管 理へと移行しなければならないが、こうし た活動を単独で達成できる企業は存在する としても多くはないだろう。 有効性の高い新薬をより経済的に開発 し、患者が自身の健康を管理することを サポートし、自社が提供する製品とサー ビスを真に差別化するためには、大手製 薬会社といえども他社とのコラボレーシ ョンが必要となるだろう。さらには、全 く関係ない業界にまで必要な連携相手を 求めなければならない場合もあるかもし れない。 私たちは、医薬品業界が将来に備えるに 当たり、連合型および完全多角化型とい う2種類の主要なビジネスモデルが出現 すると考えている。現在の経済不況もま た、これらの新しいビジネスモデルへの 移行を促進するのではないかと考えてい る。支払いに対して得られる価値を最大 にしなければならないという医療費支払 者に対する圧力という極めて重要な原因 によるものと、必要とされるネットワー クを構築したり買収したりする新たな機 会が切り開かれるということによるもの だ。 以下では、より協働的なアプローチの必 要性を決定づける主な動向について考察 する。また、さまざまなビジネスモデル の長所・短所と、業界が直面する課題に どのように立ち向かうかについて検討 する。 単独での利益か、共同での 利益か ビックファーマの従来のビジネスモデル は、有望な候補物質を特定し、それらを大 規模臨床試験でテストし、広範な営業・ マーケティング活動により宣伝する能力を 有するか否かにかかっている(欄外補足記 事「ビジネスモデルとは」を参照)。この モデルの一般的な手法では概して、ある企 業が自社の業務を補完するために請負業者 を利用する場合、その目標は自社で利益を 上げることにある。すなわち、その会社は 「単独で利益」を求めるという選択肢を選 んでいる。 しかし2020年までには、単独で数少な い候補物質に莫大な資金を注ぎ込み、 マーケティングに力を入れ、その医薬 品をブロックバスターに育てるという 戦略は通用しなくなるだろう。グラク ソ・スミスクライン(GlaxoSmithKline)の 前CEO、J.P.Garnier氏が最近指摘したとお り、それは「10年から12年ごとに大損失 を出すことが決まっているようなビジネ スモデル」なのである2。 より重要なことには、それは市場のニー ズに合わなくなるであろうビジネスモデ ルなのである。経営学の権威、Clay Christensen氏は、さまざまな業界にお いて破壊的イノベーションが、普及し ているビジネスモデルをどのように退 場させてきたのかについて説得力のあ る実証分析を行っている。つまりイノ ベーションにより、新規参入者は最も 利益の上がらない顧客層を対象にする ところからスタートし、徐々にあらゆ る顧客の需要を満たすまでに発展する ことが可能となる。そして、その時点 で古いビジネスモデルは破綻するので ある3。 ビジネスモデルとは? 「ビジネスモデル」という言葉は、ビ ジネスの中核要素をフォーマルなもの からインフォーマルなものまで幅広く 包含して説明する。本書ではこの言葉 を次の意味で使用している。「ある会 社のビジネスモデルとは、その企業が 利益を上げる手段のことである。つま り企業が市場に取り組む方法、展開す る事業、これらを実現するための取引 関係といったものである」。 医薬品業界は現在、そのような破壊的イ ノベーションの時期にある。2020年まで に、ほとんどの医薬品の対価は、効果に 応じて支払われるようになる。アウトカ ムに影響する要因は数多くあるため、医 薬品業界は健康管理のサービスを行う必 要に迫られるだろう。それは、医薬品業 界が製品価値を維持するために、そして 新規参入者に主役の座を奪われるのを阻 止するためである。各国政府と医療費支 払者がプレミアム価格の支払いに応じる ような画期的新薬を創出するには、医薬 品業界は、政府や医療費支払者が有する アウトカムデータへ確実にアクセスする ために必要な協力体制とインフラを構築 しなければならない。 要するに、ゲームのルールは劇的に変化 しているのである。そして、ロンドンビ ジネススクールのMichael G. Jacobides准 教授(国際戦略経営学)が指摘するとお り、「産業構造」が根本から転換すると きに変わるのは、「誰が何をするか」だけ でなく、「誰が何を得るか」でもある4。 2020年までには「単独で利益を上げる」 ことのできる製薬企業はなくなるだろ う、それに替わって学術機関や病院、新 技術提供会社からそのほか一般企業に至 る広範の組織からなる共同体に参加し、 服薬遵守プログラムや栄養学的アドバイ ス、ストレス管理、理学療法、運動施 設、健康診断などのサービスを提供する ことで、「協働して利益を上げ」ねばな らなくなるだろう。 *「プライスウォーターハウスクーパース」とは、プライスウォーターハウスクーパース・インターナショナル・リミテッドのメンバーファームによって構成された ネットワークを意味し、各メンバーファームはそれぞれ独立した法人である。 ファーマ2020::ビジネスモデルの変化と挑戦 1 Appleのコラボレーションのコア戦略 ロンドンビジネススクールのMichael G. Jacobides教授は、成功している企業は 業界における競争に参加するのではな く、その業界の特性を形作るのだと論 じている。こうした企業はバリューチ ェーン上で自らが占める位置を再定義 し、同業他社との連携を合理的にデザ インすることで付加価値のほとんどを 維持する。 このように、コラボレーションは同じ ことをより効率的に行うためのツール に留まるものではない。最も効果的な 場合には、アップルの例のように市場 全体を作りかえる可能性がある。アッ プルはiTunesソフトウェアを通じた支配 権を手放すことなくデバイス本体およ び附属品の製造を外注することにより 携帯音楽市場を変えた。言うなれば、 取引関係のネットワークを創出し調整 役となることで、すなわち所有するこ とよりも管理することで、金を稼げる と認識したのである。 アップルはゲームのルールを変えるた めに3つの特別な方策を取った。いつで も首をすげ替えられる可能性があるこ とを理解しているサプライヤー数社を 抱えることで、自社の存在感がまった く希薄である分野の部品調達における 機動性を強化した。音楽フォーマット を手放さず、iPodと互換性のあるファイ ルはiPodデバイスでのみ再生可能にす ることで自らボトルネックを作り上げ た。そして、自社が附属品市場に参入 するのではなく、他社が開発するよう に仕向けることで、誰が何をするかと いうことの定義を変えたのである。こ れにより、アップル自らは資金提供を 全くせずに、iPodのアーキテクチャを支 えるサプライヤーたちの努力から恩恵 を得ることが可能となった。 2 PwC 未来を回想する もちろん、製薬企業の中にはすでに他 組織との協力を試みているところもあ る。ローヌプーラン・ローラー(RhonePoulenc Rorer:現在はSanofi-Aventisに統 合)は、1994年に世界初のバイオテクノ ロジーネットワークであるRPRジェンセ ルを設立した 5。多くの大手製薬企業は 1990年代に疾患管理プログラムを創設し たこともあったが、ほとんどが成功しな かった。これは主に、医療費支払者が製 薬業界の行う疾患管理に懐疑的なためで あった 6。私たちは、これらの初期の取 り組みと2020年に一般的となる可能性の 高いビジネスモデルとの間の違いにはっ きりと白黒つけようとしているのではな い。ただし、大きな違いは2つあると考 えている。 まず、現在ではコラボレーションを推進 するための技術的および文化的な前提条 件が整っている。1990年代半ばでは、 インターネットはまだ黎明期にあり、コ ラボレーションを可能にするツールの多 くが存在していなかった。しかし今日で はこうしたツールは豊富にあるうえに、 企業文化が劇的に変化した。IBM、アッ プル、アマゾンといった企業はオープン プラットフォームの力を明らかにし、ネ ットワーキングに対する企業の姿勢を変 え、単独ではなく共に利益を上げること で、はるかに大きな報酬が得られること を示した(欄外補足記事「アップルのコ ラボレーションのコア戦略」を参照)7。 次に、2020年までには、製薬企業にと っても、医療費支払者にとっても、ほか との連携は「行うか、さもなくば死か」 というくらいの差し迫った要求になる だろう。コラボレーションは製薬企業に とって、有効性の高い新薬を開発し、支 払金額のリターンを査定することができ るようになった医療費支払者の要求に 応えるために不可欠となるだろうし、医 療費支払者にとっては、急激に上昇する 医療費に対処するために不可欠となるだ ろう。 サインを読み取る さまざまな力により、医薬品業界の事業環 境と、医療分野における各関係者の相対的 地位に変化が生じている。こうした傾向は すべて、より大規模なコラボレーションの 必要性を指し示している(図1参照)。 高齢化が進展し、新たなメディカルニー ズが生じ、発展途上国の疾病構造がます ます先進国型に近づいていくにつれ、医 療費は世界的に上昇してきている。この ため、各国政府および健康保険運営者は 医療費を抑えようと苦闘している。この 問題は、現在の経済の低迷によりさらに 悪化しており、支払者の側にはさらに 大きな金銭的圧力がかかることになるだ ろう。 先進国ではすでに、医療費支払者が医師 の処方に要求を出している。英国国営 医療保健サービス(NHS:National Health Service)は、新薬の価格を治療結果に応 じて引き下げたり引き上げたりできる柔 軟な価格設定制度も導入した8。米国のオ バマ政権は、「安全な」国からのより安 価な医薬品の輸入を許可したうえ、米国 市場を開放しジェネリック医薬品間の競 争をより促進させようという方針だ9。 発展途上国にもやがて同様の圧力がかか るだろう。新興国における医薬品需要 は、今後11年間で最も急激に伸びると 見られるが、多くの国が(全てではない にしても)その需要に応じた資金を捻出 するのに苦労することになるだろう。た とえば中国政府は、国の経済発展水準を 超えない範囲で国民皆保険の導入を計画 している。しかし医療費の大幅な増加 を伴わずに計画を実現する方法は不明で ある10。 先進国でも発展途上国でも、医療費支 払者はより詳細に治療結果を評価する ようになっており、疾病予防の重要性 をより重視するようになっている。彼ら は、2020年までには医薬品業界が患者 の自己健康管理を補助するための予防お よび医療パッケージを提供することによ り、「医薬品を越えて」活動するように なると期待している。さらに、患者が 医薬品に費やす金額が増える上に、イン ターネットからより多くの情報が得られ るようになるため、治療方法の決定にお ける患者の役割ははるかに大きくなるだ ろう。彼らは教育用ウェブサイト、討論 会およびブログから得た知識を活用し、 より良質で安全な医薬品を求めるだけ 図1:現在起きている主要な動向と医薬品企業に対する影響 Trends 動向 市場の動向 Market trends 保健および医療の動向 Health and healthcare trends •患者の保有する情報量が増加している • Patients are becoming better informed •患者による費用負担割合が増加して • Patients are picking up a bigger share ofいる the bill •オーダーメイド医療(個別化医療)に • Demand for personalised medicine is 対する要求が高まっている increasing •患者が求めるも(の治療から治癒へと • Patients want cures, not treatments 変化している) • The emerging markets are becoming •新興市場の重要性の増加 more important •慢性疾患の負担および費用が急増して • The burden of – and bill for – chronic いる is soaring disease •医療費支払者により治療プロトコルが • Healthcare payers are establishing 確立されてきている treatment protocols •成果に応じた支払いという枠組みが生 • Pay-for-performance is on the rise じてきている • The boundaries between different forms •セルフケア、一次医療、二次医療など ofの境界があいまいになっている care are blurring • Financial constraints on payers are •医療費支払者への財政的制約が増大し increasing ている 科学技術上の動向 Scientific and technological trends •研究開発の仮想化が進んでいる • R&D is becoming more virtualised ••研究拠点のアジア移転が進展している The research base is shifting to Asia •遠隔モニタリングが急速に進歩して • Remote monitoring is improving rapidly いる Implications 影響 医薬品企業の「医薬品を超えた」活動 研究開発においては実験室の外に目を 医薬品企業と医療のバリューチェーン R&D will need to go beyond the lab Pharma will need to go “beyond the The Pharma and healthcare value chains が必要となる 向けることが必要となるだろう の結合が強化されるだろう medicine” will become much more intertwined •医薬品企業は製品にではなくアウトカム • Pharma will be paid for outcomes, への対価を受け取るだろう not products •アウトカムデータが医療政策の決定要因 • Outcomes data will drive healthcare となるだろう policy •医療における予防の重要性が増すだろう • Prevention will gain a higher healthcare •医薬品企業は「医薬品プラスα」の治療 profile パッケージを提供しなくてはならないだ • Pharma will need to offer “medicineろう plus” packages of care •医薬品企業はより柔軟な価格戦略を取ら なくてはならないだろう • Pharma will have to adopt more flexible pricing strategies •医薬品企業はアウトカムデータへのアク • Pharma will need access to outcomes セスを必要とするだろう data •医薬品企業は研究開発の仮想化に向け技 • Pharma will have to work with 術ベンダーと協力しなくてはならないだ technology vendors to virtualise R&D ろう • Pharma will need a wider, more •医薬品企業はより広範で多分野に渡るス multi-disciplinary skills base キルを必要とするだろう • Pharma will need to expand its •医薬品企業はアジアでのプレゼンスを拡 presence in Asia 大しなければならないだろう •医薬品企業は金額に見合う「真の」価値 • Pharma will need to demonstrate “real” を提供しなければならないだろう value-for-money •医薬品企業は規制当局とより密接に協力 • Pharma will have to work more closely しなければならないだろう with the regulators •医薬品企業は医療費支払者、医療機関お • Pharma will have to collaborate with よび医療従事者と協力して継続的に試験 payers and providers to perform を実施しなければならないだろう continuous trials •医薬品企業は治療パッケージを提供する • Pharma will have to collaborate with ためにさまざまなサービス提供者と協力 numerous service providers to deliver しなければならないだろう packages of care Business models based on collaboration コラボレーションに基づくビジネスモデル 出典:PricewaterhouseCoopers ファーマ2020::ビジネスモデルの変化と挑戦 3 新たなコラボレーションネットワーク いくつかの製薬企業がすでにより進ん だコラボレーションモデルを利用し始 めている。その例の1つがイーライリ リー(Eli Lilly)である。同社は現在、 自らの枠を超えた幅広いリソースを 利用できるように、従来の自己完結 型の製薬企業から、完全統合型の製薬 ネットワークへと変化しつつある。 イーライリリーは、仮想研究開発プ ログラムを通じてほかの機関と協力 することで、イノベーションに対して より積極的になり、費用を削減し、 リスクをより効果的に管理し、生産 性を高めることができると見込んで いる。たとえば、コーラスプロジェク ト(Chorus Project)は候補物質を PoC(プルーフ・オブ・コンセプト) 段階まで迅速に進めるためのバーチ ャルな組織である。また、イーライリ リーは候補物質の開発のために、ピ ラマル・ライフ・サイエンス(Piramal Life Sciences)、ハチソン・メディフ ァーマ(Hutchison MediPharma)、スベ ン・ライフサイエンス(Suven Life Sciences)などの第三者から成る外部ネッ トワークも活用している。 スイスのバイオ医薬品開発専門会社デ ビオファーム(Debiopharm)はより急進 的なアプローチを生み出した。同社は 有望な新候補物質を学術機関やバイオ テクノロジー企業から導入・開発した 後、ビッグファーマへと導出する。デ ビオファームの成功には、2007年度に 世界中で合計26億米ドル以上を売上げ た3製品が含まれる。 現行のコラボレーションモデルのほと んどは、研究開発に限られている。し かしほかのさまざまな組合せも容易に 想像できる。たとえば、異なる治療分 野に焦点を当て、研究開発から販売お よびマーケティングまでのすべてを網 羅するネットワークや、ゲノミクス、 プロテオミクスおよび幹細胞研究など の異なる基盤技術に重点的に取り組む ネットワーク、特定の患者集団におけ るアウトカムの管理に特化したネット ワークなどである。 4 PwC でなく、個別のニーズに合わせた幅広 い付随的サービスを求めるようになるだ ろう。 医薬品業界がこれらの市場の変化に適応 するためには、現在萌芽が表れている科 学技術のトレンドに資金提供しているよ うに、はるかに広い範囲で協力していか なければならないだろうが、実際すでに そのようなことは起こりつつある。たと えば、研究基盤も変化している。OECD 非加盟国が世界の研究開発に占める割合 は、1996年には11.7%であったが、2005 年には18.4%となった。同時期にアジア の研究者が申請した特許の件数は、そも そも低い水準からであるにせよ大幅に増 加している11。そこで業界は、これらの 国々の最も評価の高い科学研究機関との 間により密接な関係を築く必要があるだ ろう。 一方で、新技術は新たな知識源をもたら している。オンラインやワイヤレスネッ トワークでつながれた家庭内患者見守り システム、携帯用の医療機器や埋め込み 型製品により、医療現場以外の環境での リアルタイムの患者のモニタリングが促 進される。しかし、医薬品企業が遠隔モ ニタリングによるアウトカムデータにア クセスするためには、こうした情報を持 つ病院や診療所とのコラボレーションが 必要となる。 また私たちが「ファーマ2020:バーチ ャルR&D」で述べたとおり、技術の進歩 により研究開発プロセスの多くは仮想 (バーチャル)化が可能になるだろう12。 先進的な製薬企業の中にはすでにセマン テック技術やコンピュータを使った分子 設計の可能性を探求しているところもあ る。さまざまな学術機関やバイオインフ ォマティクス企業もまた、「仮想人体」 を創造するという究極の目標のもと、さ まざまな臓器や細胞のコンピュータモデ ルを構築している。しかしこのようなモ デルの開発には、ヒトゲノム計画の完了 に必要とされた労力をはるかに超える、 途方もなく大きなコラボレーションが必 要となるだろう13。 変化がもたらす経済的な影響は明らかで ある。収益成長率と利幅の低下は株主利 益率を低下させ、製薬企業は変化を迫ら れることになるだろう。ほかとの連携体 制の強化が欠かせない場合もある。2020 年の世界で薬物療法を医療費支払者と患 者に提供するためには、新しいスキル、 技術、チャネルが必要となるが、これ らの必要なインフラを自分たちのみで構 築することは、最大手企業を除き誰にと っても経済的に割に合うものではないだ ろう。 つまり、医薬品およびヘルスケアの分野で 現在起きている社会的、経済的、技術的に 重要な変化により、医薬品企業1社が単独 で提供できるよりもはるかに広範囲のスキ ルの利用を可能とする多国籍・多分野ネッ トワークの開発が不可欠なものとなる。か つて離れた場所に拠点を置く企業間の協力 を妨げていた制約条件は一斉に消えつつあ り、新しいビジネスモデルへと進む道が開 かれている(欄外補足記事「新たなコラボ レーションネットワーク」を参照)14。次 のセクションでは、価値提供の範囲が拡大 することや、既存のさまざまなモデルが変 容すること、それらにより引き起こされる さまざまな機会とリスクの影響について見 てみたい。 価値提供範囲の拡大とバリ ューチェーンの管理 医薬品企業は現在、新薬(および少数の 診断薬)の開発により価値を創出してい る。ヘルスケア分野の主要な関係者とより 緊密に協力することで、医薬品業界が取り 組むことのできる範囲が拡大すると同時 に、医薬品業界のバリューチェーンを、医 療費支払者と医療従事者のバリューチェー ンにより近づけることが可能になる。 私たちが「ファーマ2020:マーケティ ングの未来」において詳細に述べたとお り、3者のバリューチェーンは相互に大 きく関連している。医療費支払者が創出 する価値は、彼らが利用する医療従事 者の治療方針と実際の診療内容に依存す る。医療従事者が創出する価値は医療費 支払者の収益と医薬品企業が生産する医 薬品に依存する。医薬品企業が創出する 価値は、医療従事者がサービスを提供す る患者へのアクセスを得ることと、これ らの医療従事者に支払いをする医療費支 払者からの収入に依存する。しかし異な る当事者間の関係は対立し合うことが頻 繁に見受けられ、対立している限りはそ れぞれの目標達成に腐心するのみである 15 。医薬品企業が価値提供の範囲を拡大 するならば、このギャップを解消してい くことができるだろう。アウトカムデー タを得るためのフィードバックシステム を構築することは、医薬品企業が医療費 支払者と医療従事者との間により力強い 関係を築くために役立つだろう。さまざ まなサプライヤーから調達した幅広い製 品とサービスを含む医療パッケージを提 供するために必要なネットワークを構築 することも同様に役立つだろう。最終的 には、今日存在する個別の直線状のバリ ューチェーンは収束し、単一の円形のバ リューチェーンが出現することになるだ ろう(図2参照)。 図2:2020年までに医薬品業界、医療費支払者、医療従事者のバリューチェーンはより密接に相互に関連するようになる tc. es e icど v r な se Pr 支 olo 疫gi学 ca o vi 払 l的 stu si い nalys リAス 調die on i s ク 査s, popul集団of 、A at の R 業・ting 営 arke ング M ティles 達 l 調ing 増Col マー&ケSa s , 金 資ai a定xeやs R rt o設 ms格 ムiu価 ア rem ingミp aisレ Rプ a M o in己 g 負 nc ou担 e t-o金 Payer 医療費支払者 f-pの oc徴 ke収 Provider 医療提供者 t pa ym ents h rc 研s究 ea Re のa 用 P p 費Bill 事g者& 支 払 & n D生i 産ufac st ・流 tu rib 通 rin uti g f 税 F on e自 ct ina Pharma 製薬企業 aisin かy of資 g 金調 ay らmeい f i nan達 m のn ce en 請 t to 求 fh の ea モニ lth タ car リ e p ング rovi と ders’ 支払 bills Patient 患者 ns etc. tioど luaな ion at分ri析 sk ent emi re Epid & ert ダ d ー iar リケ ar ( シャ y ア y 三 、 次 リーcケ a 医 療 ア ) va価 m ic e評 m的 ンgトe no学 ジnメa co済 ネ a coe経 care マM rm薬a剤 termア の ng- 期ケ es pスha、 Lo 長 ン 示er 提ov iveビス t fのC isサ traー 囲 o n i 範 m務 on d事 nti e ev予防 Pr M e Prac診 tic療 e gガ イeドラ di医 uid lineイ ca療 l Sサ s,ン cl、 ini臨 ca床 eー l g rvビス uガid ic Primary care プライマリケア イanダ Sカ セ ce ec , o ン タT n Deve開 lo発 pment 従n 療ori 医 nit o 、m nt, 管e理 の m e 介 g ana への紹 医 ferral m Re師 出典:PricewaterhouseCoopers ファーマ2020::ビジネスモデルの変化と挑戦 5 多様なコラボレーションモ デルからの選択 しかし、重要な疑問が1つ残っている。 こうした変化を実現するために企業はど のようなモデルを採用すべきなのだろう か。私たちは連合モデルおよび完全多様 モデルという2種類の主要なモデルが出 現すると考えている。私たちはまた、連 合モデルには2つのタイプがあることを 認識している。その1つのバーチャル型 では、企業は活動の多くの部分または全 部をアウトソースする。ベンチャー型で は、企業は投資ポートフォリオを管理す る(図3参照)。一企業の中で2種類のモ デルが両立しないわけではない。完全多 様モデル企業が自社事業の特定部分につ いて連合モデルの採用を選択する可能性 もあり、逆の可能性もある。しかし私た ちは、主に導入までの期間が短く、費用 も抑えられるという理由から、連合モデ ルが最終的に主流となると考えている。 連合モデル 連合モデルアプローチでは、企業はイン フラを共有する別個の法人からなるネッ トワークを形成する。この中には、さま ざまな国の大学、病院、診療所、技術サ プライヤー、データ分析会社、ライフス タイルサービスの提供者が含まれる。ま た、企業内に独立して設立された事業部 門が含まれるかもしれない(図4参照)。 このネットワークへの参加者は、たとえ ばある特定の患者集団におけるアウトカ ムの管理など、共通の目標を持つ。彼ら はまた、資金、データ、患者へのアクセ ス、バックオフィス機能を共有し、この 相互依存が彼らを結び付ける絆となる。 たとえば平均寿命、あるいは質調整生存 年の向上を指標として各々の貢献が評価 される。ネットワーク内の各企業はその 貢献に関する実績を反映した報酬を得る (欄外補足記事「ケーキをどのように分 けるか?」を参照)16。 図3:異なるビジネスモデル コラボレーション:連合モデル Collaborative: Federated Model • Network of separate entities •別個の法人からなるネットワーク • Based on shared goals & infrastructure •共有された目標とインフラを基盤とする • Draws on in-house and/or external assets •自社内外の資産を活用 • Combines size with flexibility •規模と柔軟性を兼備 所有:完全多様モデル Owned: Fully Diversified Model •単一の親会社が所有する複数の子会社の • Network of entities owned by one parent company ネットワーク • Based on provision of internally integrated •製品とサービスのパッケージを内部で統 product-service mix 合した形で提供することを基盤とする • Spreads risk across business units •複数事業部門へのリスク分散 Virtual Variant バーチャル型 Venture Variant ベンチャー型 • Network of contractors • Portfolio of investments • Activities coordinated by one company •ハブ役の会社による作業の調整 acting as hub • Based on sharing of intellectual property/ •知的財産や資本の増加を共有 capital growth • Operates on project-by-project basis • Stimulates entrepreneurialism & innovation •契約に基づくネットワーク •プロジェクト単位での仕事 •「サービスへの対価」の財務構造 • Fee-for-service financial structure 出典:PricewaterhouseCoopers 6 PwC •投資ポートフォリオ •起業家精神とイノベーションを促進 ••ポートフォリオ全体でのリスク分散 Spreads risk across portfolio デ Dー atタ a A分n析 aly会 s社 ts Ph y C ジ ェ Ma メGeネ nuー neリr ッ fa カ i ク ct ー ologyー n術 h技 Tecプラpイ eヤrs サSup li 病院 ls Hospita 服 om C薬 サpポ liaー ncト e コC ーaル ll セ Ceン nタ treー cs ers ur 連合 Federation Cli nin 診療 c 所s t igh 理 t We 管men 体重 ageタeー s Manセン tr Cen さらに重要なことに、連合モデルは柔軟 性を損なうことなく相互理解の深化と生 産性の大幅な向上を促すかもしれない。 連合モデルには全体で良い成績を上げよ うというインセンティブが働くため、ネ ットワーク内のより強力なメンバーは、 弱いメンバーの成長を助けるだろうが、 いつまでも成績が上がらない参加者は交 代させられるかもしれない。 図4:連合モデル py 法ra he ーs t療 学 io タ re 理s ン nt セe 連合モデルを通じて、製品およびサービ スの統合パッケージを構築し、それによ り1社のみの得意分野に留まらない提案 が可能となる枠組みが提供される。それ はまた、機動力と規模の利点を合わせ持 っている。各社とも自社以外のほうがう まくできそうなことは連合内の他社に任 せ、自社は特定分野における専門性を強 化、その専門性に基づき競合優位性を確 保し、自社の製品、ナレッジ、スキルを 提供することが可能となる。 Fiフィ tn ッ e ト クsラs C ネ ブlubス s Pharmaceutical 製薬企業 Company s tie rsi e v i 学 Un 大 出典:PricewaterhouseCoopers ケーキをどのように分けるか? 異なる参加者が創出した価値を測ること は、2つの理由から難しい場合がある。 第1にいかなる協力関係における参加者 も、自分の貢献度をほかの参加者のもの より高く評価しがちである。これは綿密 な契約、確固たる業績指標、良質のガバ ナンス、適切なデータ記録により解決し 得る問題ではある。第2に異なる形式の 関与の影響を評価することは、実際非常 に難しい可能性がある。 たとえば、医薬品、食生活、運動はすべ て、循環器系疾患への対応において一定 の役割を果たすが、正確にはどの程度の 貢献を果たしているものなのだろうか。 さまざまな研究によりいくつかのパラ メータが明らかになっている。たとえ ば、頻繁な運動が心臓病患者の心肺の状 態を少なくとも10%改善し、その結果死 亡率を15%減少させる可能性があること を示す研究結果がある。各国の医療費支 払者が予防策をより重視するようになる につれ、薬物治療以外の効果を評価する ための研究が今後さらに活発になると考 えられる。 このアプローチは基本的に、現在行われ ている共同開発および共同販売契約をよ り複雑にしたものである。企業がより的 確に協力して活動するために、提供する 製品・サービスと価値の評価指標を事前 に明確にしておくことが不可欠である。 ウトカムとベネフィットに対する理論的 分析と実際のモニタリングの結果を組み 合わせて決定される。訴訟リスクまたは 独占権の制約を避けるために、連合はす べての関係者間の相互信頼により裏付け られる必要があるが、ブランド価値を評 価しそれに応じた対価を支払うフランチ ャイズモデルのように、このアプローチ がうまく機能した例もある。 連合内の各組織が提供した価値が決定さ れると、次に各組織が得るべき報酬が告 げられる。これは患者にもたらされるア ファーマ2020::ビジネスモデルの変化と挑戦 7 Table of contents 図5:バーチャル型連合モデル バーチャル型連合モデルにはほかの利点 もある。これにより企業は当初の資本支 出を抑制し、固定費の一部を変動費に転 換し、リソースをより効率的に利用し、 8 PwC g rin Dis t 流rib 通uti o Management マネジメント ハブ Hub Sa les 営業・ マ &M ーケ arketing ティ ング ent lop 発m ve開 e D 大手製薬企業の多くも、社内リソース を補うために外部契約業者を利用して いるが、それ以上のことをしている会 社はほとんどない(欄外補足記事「シャ イアー(Shire)の仮想ビジョン」を参 照)18。第三者との提携を通じてより多 くの機会、専門スキルおよび市場へのア クセスをもたらし得る研究開発、生産お よび販売促進活動については、製薬企業 がこれらをアウトソーシングすべき十分 な理由がある。アウトソーシングするこ とにより製薬企業は、付加価値を生み出 す機能、すなわちプロジェクトマネジメ ント、事業開発、薬事規制対応、知的財 産管理、キーオピニオンリーダーや医療 サービス提供者との良好な関係の構築と いった自分たちの有する関係、技能、市 場に関する知識などを活用する活動に集 中することができる。 tu ac産 f nu生 n バーチャル型連合モデルでは、ある企業 の大半のまたはすべての業務はアウト ソーシングされ、その企業自体はマネジ メント活動の中心の役割を果たし、パー トナー各社の業務を調整する(図5参 照)。いくつかの業界ではすでにこの モデルの一部を取り入れている。たとえ ば、半導体業界は一般的に、製品開発に 集中するため生産を外注しており、多く の医療機器会社も現在、同様の方向に向 かっている17。また、航空宇宙、コンピ ューター、エレクトロニクスといった業 界でも、設計・生産のサプライヤーへの 戦略的アウトソーシングにより、生産機 能の見直しが行われている。 M a バーチャル型連合モデル Res研究 earch 出典:PricewaterhouseCoopers シャイアー(Shire)の仮想ビジョン シャイアー(Shire)は典型的な仮想企業である。同社は創薬から治験モニタリン グ、データ管理、統計、メディカルライティングまで、ほぼすべての業務をアウト ソースしている。遺伝子治療部門を除き、同社が開発する製品はすべて、ライセン ス導入や買収を通じて外部から取得されたものである。 製薬企業は投資を特定の治療領域に集中 させるか、あるいはリスクを低減するた めに多くの分野に分散するかを選ぶ。投 資期間の終了時に、創出された知的財 産を要求するか、または第三者に導出す る。知的財産を創出した企業(1社のこ ともあるし、複数社のこともある)が当 該知的財産を保有しつづけ、それを製品 化し、スポンサー会社に対して投資のリ ターンを支払うこともある(図6参照)。 グラクソ・スミスクライン(GlaxoSmithKline)は長年にわたり、一種のベン チャー型構造を採用してきた。同社のフ ァンドであるSR Oneは1985年に設立し、 図6:ベンチャー型連合モデル Third party 第三者 導出 Out-licensing t t資 me n y Roヤ ロイ arm tい 支en払 ym paィ テ y t l aル ph Pharmaceutical 製薬企業 company 導入・導出 Out-licensing/In-licensing Growth 成長企業 company る よ y に 用 to pan 利 IP 産 of al com 財 rn ticり 的 etu eu返 知 R ac見 バリューチェーンの各参加者が自身の提 供サービスに対する見返りを期待するた め、製薬企業は収益の希薄化という事態 に見舞われるかもしれない。しかし一般 的にある業務に特化した業者は、すべて の機能を有する製薬企業よりもコストが 安いため、理屈の上ではこうしたことは 起こらない。実際、ある研究によれば、 企業内である特定の前臨床開発業務を実 施している会社は、これらの業務をすべ て第三者にアウトソースした場合の2倍 以上の費用をかけている可能性があると 報告されている19。しかし、生物学的製 剤生産などの特定分野においては、高品 質のサービスを提供できる会社や専門家 が不足しているため、価格は上昇する可 能性がある。 ベンチャー型連合モデルでは、特定の業 務を外注するのではなく、知的財産の持 分と知的財産により発生する資本増加の 片方、または両方をもとに、企業のポー トフォリオに対して投資を行う。特別目 的事業体(SPV:special purpose vehicles) にはリスク共有と知的財産保護の面でい くつかの利点があるため、このような投 資のマネジメントに利用されることが ある。 現在では創薬、開発および薬物送達系 の検討を目的とした約30の公開・非公 開のバイオテクノロジー企業に5億米ド ル以上を投資している 20 。ノバルティ ス(Novartis)やファイザー(Pfizer) のようなそのほかの大手製薬会社もま た、ベンチャー・キャピタル・ファン ドを設立しており 21 、アストラゼネカ (AstraZeneca)は消化器領域研究事業の 一部を、非公開投資会社の連合の支援を 受ける新会社へとにスピンオフした22。 米国の投資銀行ゴールドマン・サックス (Goldman Sachs)はすでに独自のベンチ ャーファンドを立ち上げ、この分野へ足 を踏み入れている(欄外補足記事「薬の ポートフォリオ」を参照)23。 投 es しかし、バーチャル型にはいくつかの重 大な欠点もある。力関係においてサプラ イヤーが優位に立つようになる可能性が ある。これは、自動車業界ですでにある 程度起こっており、現在多くのTier1サプ ライヤーが自身のサプライチェーンを管 理している。別の可能性として主要なサ プライヤーが財務上の問題を抱え、提供 するサービスの質が低下するか、債務不 履行にまで陥る事態が生じるかもしれな い。しかしこのようなリスクは、可能な 限り多数のサプライヤーを利用すること で対処可能である。 ベンチャー型連合モデル Inv 組織により高い柔軟性を持たせることが 可能になる。同様に重要なことに、業 界のトップ企業が、さらなる大型合併に 頼らずに(それまでは別個の企業であっ た2社を統合することで起こるさまざま な難題に直面することもなく)またイノ ベーションを阻害しがちな大企業病に屈 することなく、新規の製品・サービス分 野、市場に進出することを後押ししてく れる可能性がある。 知的財産創出 Generation of IP IP 知的財産 知的財産利用による見返り Return of IP to growth company 出典:PricewaterhouseCoopers ファーマ2020::ビジネスモデルの変化と挑戦 9 薬のポートフォリオ ゴールドマン・サックスは、新たな 「研究プール」に出資している。製薬 企業はこのプールに、ある疾患領域の フェーズ1および2の段階にあるさま ざまな候補物質を投入することができ る。生物系科学者、化学研究者および 臨床研究機関を含む外部の専門家が、 物質を創製した会社の科学者に協力す る。ゴールドマン・サックスは、この アプローチがビックファーマの持つコ ストの高さや大企業病といった弊害を 軽減することになると主張している。 また、類似の医薬品を研究するライバ ル会社が、同様の作業を各社で個別に 行うのではなくそのリソースを1箇所に 集めて研究開発に取り組むことができ るようになる可能性もある。 この契約では、グラクソ・スミスクラ インが85%、ファイザーが15%の持分を 有し、すべてのマイルストーンが達成 された場合、ファイザーの持分が24.5% まで増加することになっている。新会 社の現在の収益は16億ポンドに相当 し、11製品と、創薬パイプライン上の 物質を17有する。新会社の投資を用い てこれらの薬品を開発する研究開発契 約は、グラクソ・スミスクラインやフ ァイザーとの間で直接締結される。新 会社はこれらの製薬大手2社により開発 されたHIV薬に関して、最初に交渉する 優先権を得る。利点としては、この新 会社はジョイントベンチャーとしてよ り事業を継続しかつ広範に活動でき、 商業的にシナジー効果がある。 2009年4月、グラクソ・スミスクライ ンとファイザーはHIV専門の新会社を設 立し、両者のリソースを集結させる予 定であると発表した。 しかしながら、これらの取り組みは総 じて非常に小規模である。2003年から 2006年9月にかけて、企業のベンチャー キャピタリストが米国のライフサイエン ス業界に投資した金額は15億米ドルを わずかに上回っただけであった24。これ は、米国研究製薬工業協会(PhRMA)の 会員会社が2006年だけで費やしたと予想 される110~150億米ドルもの創薬研究の 費用と比べるとほんのわずかの金額であ る25。このようなベンチャーの大多数は 研究のみに従事しているが、同様のアプ ローチが開発、生産、流通、マーケティ ングおよび営業にも適用可能である。 ベンチャー型がより大規模になり、バリ ューチェーンのほかの領域にまで広がる としたら、何がもたらされるのだろう 10 PwC か。バイオテクノロジー産業の資金調達 問題は改善されるかもしれない。バイオ テクノロジー産業では、ベンチャーキャ ピタリストが製品発売前に手を引こうと するため、企業は多くの場合、2度目、3 度目の資金調達に難航する。この問題は 信用収縮により悪化してきており、現在 の経済不況によりさらに悪化する可能性 が高い26。ベンチャー型はビックファー マの企業文化の締め付けを受けることな く、有望なスタートアップ企業がビック ファーマの経験に頼ることができるよう になるという側面もあるを利用できるよ うにもなるだろう。いずれの流れもより 大規模なイノベーションを引き起こすだ ろう。 同様にベンチャー型は、ロンザ(Lonza) がジェネンテック(Genentech)と共同で シンガポールに生産工場を開設したよう に27、既存の受託サービス会社に戦略的 な長期投資を行うインセンティブを与え ることになる。また、ベンチャー型の採 用により製薬企業は特定のプロジェクト に過剰に肩入れすることなく、さまざま な新規の研究開発領域を探求したり、全 世界で生産・販売の可能性を拡大したり することが可能になる。 ただ、ベンチャー型構造にも乗り越えな ければならないことがいくつかある。ま ず、保有するポートフォリオの管理に必 要なスキルは、可能性のある研究テーマ を評価し先に進める際に用いるスキルと は大きく異なる。また、時間軸について もベンチャーキャピタリストが利益を確 定するために設定してきたものとは異な る。そこでビックファーマは必要な専門 知識を備えた人材を採用し、いくつかの 相反するものを注意深くマネージする必 要があるだろう。 さらに、自社の研究ポートフォリオに加 えて大規模な企業ベンチャー・キャピタ ル・ファンドを運営する企業は、財務上 の影響についても注意深く検討しなけれ ばならないだろう。研究開発費は通常企 業の損益計算書に計上されるが、投資は 貸借対照表に計上され毎年減損が見直さ れる。これは企業に対する課税額と、 株式市場での評価に影響を与える。同様 に、企業のリスクプロファイルが増大し た場合、社外で実施される研究に対する コントロールの余地はより小さいため、 資本コストが増大する。 完全多角化モデル 完全多角化モデルは、企業が中核事業か ら、診断機器、ジェネリック医薬品、栄 養補助食品、健康管理といった関連商 品・サービスの提供へと拡大したモデル である(図7参照)。ジョンソン&ジョ ンソン(Johnson & Johnson)は、医薬品 業界でこのモデルをとる代表的な企業で ある。同社は2006年12月にファイザー のOTC医薬品事業を166億米ドルで買収 し、現在、世界最大のコンシューマーヘ ルスケア企業となっている28。また、第 3位の生物製剤製造販売会社、第6位の 医療用医薬品製造販売会社であり、幅広 い医療機器を揃え、診断業務を行ってい る29。また、最近では、ウェブベースの 「ヘルスコーチ」を提供するヘルスメデ ィア(HealthMedia)社を買収し30、健康維 持と予防医学のプラットフォームの構築 を開始した。 ほかの企業も現在、それに追随してい る。たとえば、ノバルティス(Novartis) は過去3年間で250億米ドルを投じてワク チン、ジェネリック、アイケア事業を強 化している31。ロシュ(Roche)は、分子 診断の専門知識を室内のアレルゲン測定 検査に用いるコンシューマー向け製品の 開発に活用している32。グラクソ・スミ スクラインはワクチン、コンシューマー ヘルスケアおよび新興市場への集中を以 前よりも強化することで「多角化とリス ク軽減」を図ると発表した33。 完全多角化モデルにはいくつかの利点が ある。特に、ブロックバスター医薬品へ 企業が依存するのを軽減し、ジェネリッ クとの競争に対する防波堤となる可能性 のある市場セグメントへ移行することに よりリスクを分散できるという利点があ る。このモデルは、連合モデルと同様 に、製品とサービスの混合パッケージを 提供し、治療より予防を重視する政策に 沿うことで、アウトカム管理への移行手 段にもなっている。 完全多角化モデルは、これらの利点に加 え、より強力なブランド開発と企業イ メージの向上の両方のチャンスを提供す るかもしれない。多くの研究が、医薬品 業界に対する世間の評価がこの10年間 でどれだけ低下したかを示している34。 製品に健康維持のためのサービス(「ウ ェルネス」サービス)を加えることで、 企業は外部に好印象を与えることができ るだろう。ただし、規制当局、医療提供 者、患者との関係の維持には細心の注意 が必要である。 しかし、完全多角化モデルには欠点もあ る。製品の提供とサービスの提供は大き く異なるため、企業文化を大きく変える だけでなく、新規の設備、施設、人材へ 多額の投資が必要となる。また、経営者 の注意が中核事業からそれることにより 図7:完全多角化モデル Ethical 医療用医薬品 Pharmaceuticals Mass-Market マスマーケット向け ••プライマリケア製品 Primary-care (貼付剤、吸入薬、 products (including 徐放性薬を含む) patches, inhalants •合剤 and controlled-release implants) 専門市場向け ••生物製剤 Poly-pills •オーファンドラッ Specialised-Market グ(希少疾患用医 • Biologicals 薬品) ••ワクチン Orphan drugs Diagnostics 診断・機器 & Devices •分子診断 • Molecular testing •臨床バイオマーカー • Clinical biomarkers •医療機器 • Medical devices ジェネリック医薬品 Generics •ブランドジェネリッ • Branded generics ク医薬品 • Commodity generics •(ブランドでない) • Super-generics ジェネリック医薬品 •スーパージェネリ • Follow-on biologicals ック •バイオシミラー コンシューマー Consumer ヘルスケア用製品 Health ••OTC医薬品 Over-the-counter •自己診断薬 medicines •栄養補助食品 • Consumer diagnostics • Nutraceuticals Health 健康マネジメント Management ••患者教育 Patient education •投薬・服薬サービス • Delivery and drug •モニタリングとカウン administration セリング services •理学療法 ••栄養指導 Monitoring and counselling •健康管理 • Physiotherapy • Nutritional advice • Wellness management • Vaccines 出典:PricewaterhouseCoopers ファーマ2020::ビジネスモデルの変化と挑戦 11 Table of contents 新たなリスクを生み出す。また通常、投 資家はリスク分散を好むため、投資家が 離れていってしまう可能性もある。 成功への進路を切り開く 企業による単数または複数のビジネスモ デルの選択が、直面する特定の課題、保 有する専門知識、業務を展開しようと考 えている市場といった各社の状況に左右 されることは間違いない。たとえば、医 療用医薬品のみに特化した企業は、複数 の活動領域で事業を行った経験のある会 社よりも多角化が困難かもしれない。さ らに、連合モデルでは通常、従来の組 織階層よりも経営陣への負担が大きく なる。 外部関係者との国境を超えた、学際的な ネットワークの構築とその運用には多く の時間を要する可能性がある。また多く の場合、リスクを特定し、モニタリング し、マネジメントすることは、それ以上 に困難である。関係者らは文化、コミュ ニケーション方法、期待の内容という点 で多様であり、変革に長い時間を要す る場合もあるかもしれない。管理層に ある個人のネットワーク全体に対する権 限は相対的に小さなものとなる可能性が 高い。医薬品業界のような規制が厳しい 業界では、管理的統制が少しでも緩和さ れた場合の影響は大きい。そこでこうし た契約を全面的に締結する前に、契約の ガバナンスと資金面の負担、さらに知的 財産が発生した場合の分配について明 確な目標と指針を設定することが重要で ある。 既存の秩序を乱すことは、企業の短期 業績に多大な影響を与える可能性すら ある。グラクソ・スミスクラインが CEDD(Centres of Excellence for Drug 12 PwC Discovery)を設立した際、研究開発部門 で起きた混乱が、開発パイプラインに少 なくとも18カ月間影響を与えた35。 私たちは、連合モデルを選択する会社の 多くが、結果として段階的なアプローチ を採ることになると予測している。彼ら はまず日和見的に提携関係を構築し、最 も成功している提携関係を基盤として戦 略的でより長期的な連立関係を構築し、 最終的には最も成功している連立関係を 利用して長期パートナーによる完全な連 合ネットワークを構築する(図8参照)。 このような段階的な方法を取ることで、 最も効率的な事業が実行可能な組織を特 定できるだけでなく、二者以上の異なる 関係者間のやりとりを管理し実際に運用 する際に欠かせない技術インフラを構築 するための時間もできる。 クを監視できるサプライチェーンのマ ネージャー、各関係者の貢献度の価値を 測定できる医療エコノミストなどであ る。健康管理の分野に直接参入を図る企 業は、理学療法士、栄養士、カウンセ ラーを始め、かつては医薬品産業に見ら れなかったさまざまな人材を雇用しなけ ればならなくなるだろう。 しかるべき専門知識のある人材を見つけ ることは容易ではない。そのため多くの 企業が、自社で利用する業績評価とイン センティブ制度により、インセンティブ を与えるべき行動を確実に後押しするだ けでなく、新しい人材管理戦略を採用す る必要性がでてくるであろう。 ほとんどの企業が新たなスキルを持つ人 材の採用、あるいは自社の人材を訓練す る必要が出てくるであろう。たとえば、 商業上の必要性を理解できる研究者、ベ ンチャーキャピタリストの方法論に基づ く多様な投資機会を評価できるアナリス ト、提携関係の交渉と監督ができる経営 陣、サービス提供者の巨大なネットワー 図8:連合への段階的な道のり Opportunistic 日和見的な提携関係 Alliances ••臨時的な提携 Ad-hoc •短期的 • Short-term •2者間 • Two parties •1対1の関係 ••部分的な協力 One-to-one relationship • Partial alignment 出典:PricewaterhouseCoopers Strategic 戦略的な連立関係 Coalitions Full 完全な連合 Federation ••拡大した提携関係 Extended alliances •中期的 • Medium-term •3者間以上 • Three or more parties •1対多の関係 ••より緊密な協力 One-to-many relationship ••拡大した連立関係 Extended coalitions ••長期的 Long-term •多数の関係者 ••多対多の関係 Many parties ••全面的な協力 Many-to-many relationship • Closer alignment • Complete alignment 終わりに 医薬品業界の完全統合型のビジネスモデ ルは、株主が得た利益の実績が示すと おり、長年にわたり単独での利益を(し かも非常に効果的に)可能にしてき た。1985年から2000年の間に、トッ プ企業だけで時価総額は85倍に膨らん だ36。しかし現在、このモデルは窮地に 立たされており、2020年までに機能しな くなるだろう。医薬品業界が研究開発の リターンを向上させたいならば、コスト を削減し、新興市場により効率よくサー ビスを提供し、単なる医薬品の製造から アウトカムの管理へと転換しなければな らない。医療費支払者、医療サービス提 供者、患者の要求がますます厳しくなり つつあり、医薬品業界は業界内外の組織 と連携しなければならなくなるだろう。 医薬品業界単独ですべてを処理すること はできない。さらに、コラボレーション の幅を広げることにははっきりとした経 済的利点がある(欄外補足記事「“Show me the money”(金のありかは?)」を 参照)。 さらに、多くの会社が迅速に行動を起こ す必要があるだろう。ヘルスケアの状況 が変化し、ネットワーク管理能力が科学 的専門知識よりも重視されるようになる につれ、新規市場参入者との競合の可能 性が増すことになる。すでに製薬企業以 外の企業が数社、この分野に進出してい る。たとえばボーダフォン(Vodafone) はスペインの遠隔治療プロバイダーのメ ディクロニック・サルード(Medicronic Salud)と医療機器メーカー、アエロテ ル・メディカル・システムズ(Aerotel Medical Systems)と協力し、ワイヤレス の家庭用モニタリングサービスを提供 している37。同様に、英国の大手保険会 社プルデンシャル(Prudential)はバージ ン・アクティブ・ヘルス・クラブ(Virgin Active Health Club)と協力し、スポーツジ ムの会員権に補助金を出し、定期的に運 動する加入者には保険料の割引を行うと いう契約を提供している42。大手製薬会 社が迅速に自社のビジネスモデルに変革 を与えることができないならば、ヘルス ケアの分野において、これらの企業が最 終的に製薬会社以上に大きな役割を果た すようになるだろう。 “Show me the money”(金のありかは?) 早期の処置および緻密な患者と治療のマネジメントにより、費用削減の大きなチャンスがあることを示した事例は数多くある。 連合モデルにより、これらの費用削減はより組織的に、予測可能な範囲で実現できるようになり、このモデルの参加者は自らが 生み出す価値に基づき報酬を得るようになる。以下のように、リスクとインセンティブを適切に調整することが、これらのメリ ットを実現する鍵となる。 •RANDコーポレーションの調査では、米国において4つの疾患(ぜんそく、慢性閉塞性肺疾患、糖尿病、うっ血性心不全)の ための疾患管理プログラムへ全面的に参加することによる財政上の節減が試算された。それによると、保険制度におけるネ ットの節減額は280億米ドル(米国の医療費全体の約2%)と予測され、さらに患者の病気による欠勤が減るという点におい ても経済上のメリットがある38。 •英国監査委員会は英国の病院における有害事象の規模を調査した。調査結果によれば、入院患者の10.8%が有害事象を経験し ており、うち46%が回避可能であった。有害事象の3分の1が症状の悪化または死亡につながっており、英国国営保険サービ ス(NHS)に年間11億英ポンドの負担がかかっている39。 •最も高額費用である5大疾患を合計すると、医療費全体の32.7%を占める。私たちが「ファーマ2020:ビジョン」で指摘した とおり、そのほかのサポートサービスと協力して、強化された治療計画に対する患者のコンプライアンスを高めることが、 医療費抑制の鍵となる。さらに、一部の評論家は、患者のコンプライアンスを高めるために患者に金銭的なインセンティブ を与えることを提案している40。 •2009年に、シスコ・システムズ(Cisco Systems)は統合医療技術システム、慢性疾患管理およびヘルスコーチングから成る 6,000名の従業員向け社内診療所プログラムにより、260万米ドルの医療費が削減できたと発表した41 ファーマ2020::ビジネスモデルの変化と挑戦 13 経営陣への重要な質問 • 現在のビジネスモデルは? それは 会社の長所を十分活かせるか? • どのようなタイプの会社になりた いか? • 現在のビジネスモデルで2020年 までに、新製品、新サービスまた はエリア拡大といった新市場へ進 出し、顧客の期待に応えることが できるか? できない場合、どのよ うなビジネスモデルが必要か? • 新旧モデルのギャップの大きさ は? また、できる限り早くいかに それを埋めるか? • 利用可能な代替モデルそれぞれに 含まれるチャンスとリスクについ て明確なイメージがあるか? • 機会を最大限に、リスクを最小限 にする一方で、素早く前進できる 計画を実施しているか? 協力ビジネスモデルはこれまで一般的で あった統合モデルよりはるかに複雑であ るため、この移行は容易ではないだろ う。さらに、すべての企業に適したモデ ルは存在しない。各社は企業の持つ力と ニーズに照らして、自社のポジション、 そのほか選択肢、将来の計画を評価する 必要があるだろう(欄外補足記事「経営 陣への重要な質問」を参照)。 しかしこの移行ができた製薬企業の見通 しは非常に明るい。ほとんどの医療制度 において、アウトカムを改善し、医療費 の効率を最大限にするために、財源を再 配分する可能性が高い。たとえば、英国 の監査委員会(Audit Commission)が最近 まとめた研究によれば、1人当たりの糖 尿病の年間治療費は、8英ポンド以下か ら30英ポンド以上(11.9米ドルから44.6 米ドル)の範囲に及んでいる 43 。しか し、糖尿病の有病率の違いに影響するの は、この金額幅のわずか8%に過ぎなかっ た。また、高い費用をかけたからと言っ て入院件数が減るわけではなかった44。 今日まで医薬品業界は、医療予算のう ち、医薬品に回される推定10%~15%に 基づき得られる利益に焦点を当ててき た 45。しかし、残る85%~90%が費やさ れる分野を強化することで、利益を上げ る機会は数多くある。こうした機会こそ が、2020年の素晴らしい新世界において 14 PwC 業界が取り組まなければならないもので あろう。 謝辞 本レポートを作成するに当たって、助力をいただいたプライスウォーターハウスクーパースの多くの方々に感謝を捧げます。 また、情報をご提供いただいたクライアントの皆様、このプロジェクトにお時間を割き、ご協力いただいた以下の外部の専門 家の方々に心より感謝いたします。 Adrian Rawcliffe, Senior Vice President Worldwide Business Development, GlaxoSmithKline Plc. Dr Dennis B Gillings, Chairman of the Board and Founder, Quintiles Transnational Corp. Dr Genghis Lloyd-Harris, Partner, Abingworth Gino Santini, Senior Vice President, Corporate Strategy and Policy, Eli Lilly and Co. John Fowler, Head of Healthcare Investment Banking Team in Europe, Deustche Bank AG Dr John Murphy, European Pharmaceuticals Analyst, Goldman Sachs Group, Inc. Laurent Massuyeau, Head of Business Development, Addex Pharmaceuticals Ltd. Professor Michael Jacobides, London Business School Dr Vincent Mutel, Chief Executive Officer, Addex Pharmaceuticals Ltd. 本レポートに表明されている意見は個人のものであり、ご協力いただいた方々の所属する 各機関、団体、法人などの組織の意見を示すものではありません。 ファーマ2020::ビジネスモデルの変化と挑戦 15 Table of contents 参考文献 1. PricewaterhouseCoopers, “Pharma 2020: The vision – Which path will you take?” (June 2007). 2. Kathryn Phelps, “Mergers May Buy Time, But Fundamental Changes Necessary, GSK’s Garnier”, The Pink Sheet (February 26, 2007), p. 11. 3. Clayton M. Christensen, “The Innovator’s Dilemma: When New Technologies Cause Great Firms to Fail” (Boston: Harvard Business Press, 1997). 4. “Rhône-Poulenc Forms Network To Develop Gene and Cell Therapies”, Oncology News International, Vol. 4, No. 1 (January 1, 1995), accessed December 8, 2008, http://www.cancernetwork.com/display/article/10165/97578 5. The Boston Consulting Group, “Realizing the Promise of Disease Management: Payer Trends and Opportunities in the United States” (February 2006), p. 9. 6. We are indebted to Professor Michael Jacobides of the London Business School for providing the details of this case study. 7. BBC News, “Deal reached on NHS drug prices” (November 19, 2008), accessed November 28, 2008, http://news.bbc.co.uk/1/hi/health/7737027.stm 8. “Barack Obama and Joe Biden’s plan to lower health care costs and ensure affordable, accessible health coverage for all” (2008), accessed November 10, 2008, http://www.barackobama.com/pdf/issues/HealthCareFullPlan.pdf 9. James J. Shen, “Will China’s healthcare reform save the day?” Pharma China, Issue 27 (November 2008), pp. 2-5. 10. OECD, “OECD Science, Technology and Industry Outlook 2008: Highlights” (2008), accessed December 22, 2008, http://www.oecd.org/ dataoecd/18/32/41551978.pdf 11. PricewaterhouseCoopers “Pharma 2020: Virtual R&D – Which path will you take?” (June 2008) 12. For an extensive discussion of these trends, please see “Pharma 2020: Virtual R&D”. 13. Lilly website, accessed December 8, 2008, http://www.lilly.com/about/partnerships/; and Debiopharm Group website, accessed December 8, 2008, http://www.debiopharm.com/business-model.html 14. PricewaterhouseCoopers, “Pharma 2020: Marketing the future – Which path will you take?” (February 2009) 15. University of Florida Health Science Center media release, “Walk this way: UF research provides insight into heart healthy exercise regimen” (November 14, 2005), http://news.health.ufl.edu/news/story.aspx?ID=2846 16. 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The member companies of the Pharmaceutical Research and Manufacturers of America spent about US$43 billion on R&D in 2006. Datamonitor estimates that discovery accounts for between 25% and 35% of these costs. For further information, see Pharmaceutical Research and Manufacturers of America (PhRMA), “R&D Spending by U.S. Biopharmaceutical Companies Reaches a Record $55.2 Billion in 2006” (February 12, 2007), accessed February 20, 2008, http://www.phrma.org/news_room/press_releases/r&d_spending_by_u.s._biopharmaceutical_companies_ reaches_a_record_$55.2_billion_in_2006/; and Datamonitor, “Pharmaceutical Outsourcing Part 2: An Introduction to Drug Discovery Strategies” (August 2006). ファーマ2020::ビジネスモデルの変化と挑戦 17 25. Andrew Jack, “Drugmakers sweeten deals for biotech groups”, The Financial Times (September 19 2008), accessed December 21, 2008, http:// www.ft.com/cms/s/0/9d620a56-85d6-11dd-a1ac-0000779fd18c,dwp_uuid=aece9792-aa13-11da-96ea-0000779e2340.html 26. 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On average, it is thought to represent about 15% of the global health budget. For further information on healthcare expenditure in the OECD countries, see OECD Health Data 2008 (October 2008). 18 PwC 各事務所連絡先 Argentina Germany Portugal Australia India Russia Belgium Ireland Singapore Brazil (SOACAT) Enda McDonagh [353] 1 792 8728 South Africa Diego Niebuhr [54] 11 4850 4705 John Cannings [61] 2 826 66410 Thierry Vanwelkenhuyzen [32] 2 710 7422 Luis Madasi [55] 11 3674 1520 Canada Gord Jans [1] 905 897 4527 Czech Republic Radmila Fortova [420] 2 5115 2521 Denmark Torben TOJ Jensen [45] 3 945 9243 Erik Todbjerg [45] 3 945 9433 Finland Janne Rajalahti [358] 3 3138 8016 Johan Kronberg [358] 9 2280 1253 France Jacques Denizeau [33] 1 56 57 10 55 Volker Booten [49] 89 5790 6347 Thomas Mathew [91] 22 6669 1234 John M Kelly [353] 1 792 6307 Israel Assaf Shemer [972] 3 795 4681 Italy Massimo Dal Lago [39] 045 8002561 Japan Eimei Shu [81]3-3546-8480 Luxembourg Ana Lopes [351] 213 599 159 Alina Lavrentieva [7] 495 967 6250 Abhijit Ghosh [65] 6236 3888 Denis von Hoesslin [27] 117 974 285 Spain Rafael Rodríguez Alonso [34] 91 568 4287 Sweden Liselott Stenudd [46] 8 555 33 405 Switzerland Clive Bellingham [41] 58 792 2822 Laurent Probst [352] 0 494 848 2522 Peter Kartscher [41] 58 792 5630 Mexico Markus Prinzen [41] 58 792 5310 Ruben Guerra [52] 55 5263 6051 Netherlands Arwin van der Linden [31] 20 5684712 Poland Mariusz Ignatowicz [48] 22 523 4795 Turkey Ediz Gunsel [90] 212 326 6060 United Kingdom Andy Kemp [44] 20 7804 4408 Table of contents 詳細に関しては、以下にお問い合わせください: Global Europe Simon Friend Jo Pisani Partner, Global Pharmaceutical and Life Sciences Industry Leader PricewaterhouseCoopers (UK) [email protected] [44] 20 7213 4875 Steve Arlington Partner, Global Pharmaceutical and Life Sciences Advisory Services Leader PricewaterhouseCoopers (UK) [email protected] [44] 20 7804 3997 Michael Swanick Partner, Global Pharmaceutical and Life Sciences Tax Leader PricewaterhouseCoopers (US) [email protected] [1] 267 330 6060 United States Anthony Farino Partner, US Pharmaceutical and Life Sciences Advisory Services Leader PricewaterhouseCoopers (US) [email protected] [1] 312 298 2631 Mark Simon Partner, Pharmaceuticals and Life Sciences, Strategy PricewaterhouseCoopers (UK) [email protected] [44] 20 7804 3744 Sandy Johnston Partner, European Pharmaceutical and Life Sciences Advisory Services PricewaterhouseCoopers (UK) [email protected] [44] 20 7213 1952 Yann Bonduelle Partner, Performance Improvement Consulting PricewaterhouseCoopers (UK) [email protected] [44] 20 7804 5935 Asia Pacific Sujay Shetty Associate Director, Pharmaceutical and Life Sciences Advisory Services, India PricewaterhouseCoopers (India) [email protected] [91] 22 6669 1305 Beatrijs Van Liedekerke Partner, US Pharmaceutical and Life Sciences Industry Leader PricewaterhouseCoopers (US) [email protected] [1] 973 236 5410 Associate Director, Pharmaceutical and Life Sciences Advisory Services, China PricewaterhouseCoopers (China) [email protected] [86] 10 6533 7223 Middle East Marketing Sally Jeffery Attila Karacsony Partner, Healthcare Advisory Services, Middle East PricewaterhouseCoopers (United Arab Emirates) [email protected] [971] 4 304 3154 Director, Global Pharmaceutical and Life Sciences PricewaterhouseCoopers (US) [email protected] [1] 973 236 5640 Marina Bello Valcarce www.pwc.com/jp Global Pharmaceutical and Life Sciences PricewaterhouseCoopers (UK) [email protected] [44] 20 7212 8642 PwCは、世界158カ国 におよぶグローバルネットワークに約169,000人のスタッフを有し、高品質な監査、税務、アドバイザリーサービスの提供を通じて、企業・団体や個人の価値創造を支援していま す。詳細はwww.pwc.com をご覧ください。 © 2012 PwC. 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