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ファンドニュース はじめに 上場インフラファンドに向けた「東京証券取引所インフラファンド市場におけるインフラ 資産等の評価業務」の公表について

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ファンドニュース はじめに 上場インフラファンドに向けた「東京証券取引所インフラファンド市場におけるインフラ 資産等の評価業務」の公表について
ファンドニュース
上場インフラファンドに向けた「東京証券取引所インフラファンド市場におけるインフラ
資産等の評価業務」の公表について
2015 年 9 月
はじめに
近年、わが国における厳しい財政状況の中、インフラの整備や運営について、民間資金の活用等が議論されてきまし
た。このような社会的ニーズを受けて、株式会社東京証券取引所において、2012 年 9 月から「上場インフラ市場研究会」
において上場インフラファンドに関する議論がなされていましたが、2015 年 4 月 30 日に、インフラファンド市場が開設さ
れました。この動きを受けて、2015 年 7 月 16 日に、一般社団法人 投資信託協会は、「インフラ投資信託及インフラ投
資法人に関する規則」を制定し、保有インフラ資産等については、公認会計士等による評価が必要となる旨が定められ
ました。ここで、公認会計士が当該評価業務を行う際の指針として、2015 年 8 月 17 日に日本公認会計士協会は「東京
証券取引所インフラファンド市場におけるインフラ資産等の評価業務(経営研究調査会研究報告第 56 号)」(以下「研究
報告」といいます。)を公表しました。
「インフラ投資信託及びインフラ投資法人に関する規則」の内容
当規則第 5 条において、上場インフラ投資信託及び上場インフラ投資法人が保有するインフラ資産(再生可能エネル
ギー発電設備、公共施設等運営権等)等の公正な価額を算定する場合に使用する評価方法は、以下の方法の中から
それぞれの資産毎に適当と考えられる評価方法を約款または規約において定め、当該評価方法により評価するものとさ
れています。

不動産鑑定士による鑑定評価に基づいた評価額

公認会計士による評価額

近傍の類似物件の取引事例に基づいた評価額

当該物件を、当該時において再調達した場合に要すると想定される額に基づき減額修正した額(建物を評価す
る場合に限る。)

収益還元法(DCF 法または直接還元法)により計算した価額

前各号に掲げる評価方法を組み合わせた方法
ここで、J リートに適用される「不動産投資信託及び不動産投資法人に関する規則」第 5 条も同様の内容になっていま
すが、「公認会計士による評価額」は入っていないため、不動産に該当しない再生可能エネルギー発電設備等につい
ては、公認会計士による評価が想定されているものと思われます。
本研究報告の位置付け
公認会計士が評価業務を行うに当たっては、従来より、「企業価値評価ガイドライン(経営研究調査会研究報告第 32
号)」が参考にされてきました。本研究報告は当該ガイドラインを多数参照していることから、当該ガイドラインの枠内であ
り、かつ、企業価値評価業務における現状の実務を鑑みることが想定されているものと思われます。
本研究報告が対象とするインフラ資産
インフラ資産には、再生可能エネルギー発電設備、公共施設等運営権(コンセッション)、道路、空港、鉄道等のさま
ざまなものがありますが、本研究報告ではそのうち東証が指定する資産を検討対象としています。これらの中でも、上場
インフラファンドにおける評価業務の必要性を検討した結果、再生可能エネルギーの中でも、太陽光発電設備の商業運
転開始以降の事業価値の評価を例として取り上げています。
また、投資法人等がインフラ資産を直接保有する直接保有の場合と、インフラ資産を保有する事業体への出資等を通
じて投資法人等がインフラ資産を間接的に保有する間接投資の場合の両方を対象としています。
本研究報告における評価方法
評価アプローチには、「インカム・アプローチ」、「マーケット・アプローチ」および「ネット・アセット・アプローチ」の 3 種類
があります。「マーケット・アプローチ」には、市場株価法や取引事例法等の評価法がありますが、現状、固定価格買取制
度導入以降の取引事例を公開情報で入手できるような状況ではないため、採用することは限定的とされています。また、
「ネット・アセット・アプローチ」には再調達原価法のような評価法がありますが、本研究報告が対象としているインフラ資
産の場合には、インカム・アプローチの基礎資料である将来キャッシュ・フローの予測が比較的容易であるため、採用は
極めて限定的とされています。そのため、実務的には、DCF 法に代表される「インカム・アプローチ」を採用することとなる
と考えられます。
DCF 法は将来期待されるフリー・キャッシュ・フロー(以下「FCF」といいます。)を、将来の不確実性を反映した割引率
により現在価値に割引くことで事業価値を算出する評価法になります。ここで、FCF を見積もるに当たっては、同一の立
地での再開発の可能性等について明確な指針がないため、有期の事業とすることとされています。そのため、事業を終
了するにあたっての原状回復義務に関わるキャッシュ・アウトも考慮することが求められています。また、将来の発電量予
測について、技術コンサルタントによる専門家レポートの数値を採用することが想定されていますが、P-50(超過確率
50%)の予測発電量を採用することが妥当とされています。また、現状、商業開始前の専門家レポートによる予測発電量
と実績発電量に大きな乖離があるケースが散見されますが、そのような場合にはその理由をヒアリングすることが望ましい
ともされています。
割引率については、評価対象資産と一定の類似性を有する上場企業を選定し、それに基づき CAPM(資本資産価格
モデル)および加重平均資本コスト(WACC)による割引率の推定を行うことが重要とされています。ただし、日本におけ
る固定価格買取制度は 2012 年 7 月からであり、割引率の算定に一般的に必要と考えられる 5 年間の市場データが計
測できなく、かつ、類似性を有する上場企業の選定も困難な面があるため、当面の間は実務的に可能な範囲で割引率
の推定を行うことになると考えられます。
本研究報告における評価結果の「報告」と「開示」について
インフラ資産の評価結果を評価人である公認会計士が、依頼人である上場インフラファンドに対して行うことを「報告」
といい、当該評価結果を上場インフラファンドが投資家に対して行うことを「開示」といいます。
「報告」には、取引時評価における報告と継続評価における報告の 2 つがあります。前者は、上場インフラファンドがイ
ンフラ資産等を取得または譲渡を行う前に、意思決定のための参考として評価人に報告を求めるケースになります。後
者は、上場インフラファンドが投信法や金商法の規定に基づいて、インフラ資産等の価値情報を開示する場合に、情報
開示のために評価人に報告を求めるケースになります。
上場インフラファンドによるインフラ資産等の価値情報は、不特定多数の投資家に「開示」されることになります。これま
で、企業価値評価の結果は極めて限定的な関係者のみに開示されてきましたので、不特定多数の投資家からの訴訟リ
スク等を引き下げるためにも、情報開示の充実により、投資家の価値情報への誤解や期待ギャップを解消することが求
められるとされています。ただし、どのような情報をどこまで開示するかについては、関係者間での今後の検討が必要に
なると思われます。
また、評価金額を「報告」する場合には、レンジで行うかワン・プライスで行うかは評価人の判断によるとされています。
一方、取引時評価の評価金額を「開示」する場合にはレンジでの開示も許容されますが、継続「開示」の場合にはワン・
プライスでの開示とされています。
おわりに
本研究報告の公表により、上場インフラファンドの環境整備がさらに進んだと考えられます。今後、実務に落とす過程
で、評価方法、報告方法および開示方法等に関して、さまざまな論点が出てくることが想定されますので、実務の動向に
留意する必要があります。また、固定価格買取制度や投資法人の税制等は評価に大きな影響を与えるため、これらの動
向にも留意する必要があります。
なお、本件の内容などにご質問などありましたら、以下のお問い合わせフォームからご連絡いただければと思います。
文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることを申し添えます。
関連リンク: 経営研究調査会研究報告第 56 号「東京証券取引所インフラファンド市場におけるインフラ資産等の評価
業務」の公表について
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