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8 はじめに

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8 はじめに
第8回 リース会計(2)
あらた監査法人 代表社員 公認会計士 清水 毅
はじめに
国際財務報告基準(「IFRS」)においては、国際会計基準(IAS)17号「リース」により、従来から、リース契約はフ
ァイナンス・リース取引とオペレーショナル・リース(「オペ・リース」)取引に区分され、前者には売買処理に準じた
会計処理、後者には賃貸借取引に準じた会計処理が適用されてきました(第7回・リース会計(1)参照)。しかしな
がら、この結果、全世界で巨大な市場となっているリース市場において、現状では、多くのリース取引がオペ・リ
ース取引としてオフバランス取引の会計処理がされているといわれています。
このような環境下において、従来からリース会計についてはさまざまな問題点が指摘されてきました。そのた
め、国際会計基準審議会(「IASB」)と米国財務会計基準審議会(「FASB」)は、こうした問題に対応すべく、2006年
2月に両者が合意したコンバージェンスの覚書(MoU)に対してリースを中長期的に取り組むべき項目として追加
し、共同プロジェクトを立ち上げました。そして、2009年3月、当該プロジェクトの成果として、討議資料「リース予
備的見解」(以下「討議資料」)を公表しました。
IASBとFASBは、「討議資料」を公表した後、コメントを募集し、受領したコメントを討議した後、2009年10月の合
同会議にて、借手の会計処理については、「使用権モデル」を用いることを合意しました。
今回は、当該「討議資料」の中の前半、すなわち複雑でないリース取引の借り手側の処理およびその後の
IASBの議論を中心に解説したいと思います。なお、文中意見に係わる箇所は筆者の個人的見解です。
PricewaterhouseCoopers Aarata
1.リース会計の新しいアプローチ
冒頭で述べたように、従来、リース契約については一定の基準をもってファイナンス・リース取引とオペ・リース
取引に区分し、別個の会計処理を規定してきました。しかしながら、この区分が必ずしもリース契約の経済的実体
を表したものでないという指摘もあり、「討議資料」では、リース契約を特に区分することなく、リース契約において
発生する権利義務に着目し、その資産性、負債性を検討し、資産もしくは負債として認識するか否かの判断を行っ
ています。
たとえば、ある企業が5年間キャンセル不能の不動産のリース契約(賃貸借契約)を締結した場合、借手は価
値のある権利すなわち当該不動産を使用する権利を獲得するとともに、重要な債務すなわちリース料を支払うと
PricewaterhouseCoopers Aarata
いう義務を負担することになります。これについて、現行の基準では、オペ・リース取引と区分されれば、リース
契約においてこのような権利義務が借手側で発生しているにも関わらず、資産および負債は認識されないことに
なります。
これに対し、前述の新しいアプローチをとった場合、現行オペ・リース取引として区分されているリース契約を
含むすべての契約において、発生する借手の権利が資産として、義務が負債として認識することになります。
2.リース料支払義務と使用権資産の測定
前述のように、新しいアプローチを採用した場合、借手はリース契約期間中の「リース料支払義務」と「リース資
産の使用権資産」を認識することになります。それでは、実際にこれらをいくらで計上するかについて、その測定
を当初測定(取得時の価値の決定)と事後測定(取得後の価値の決定)に分けて、以下で説明したいと思います。
1 当初測定(取得時の価値の決定)
現行のIFRSでは、ファイナンス・リース取引における借手のリース支払義務および使用権資産については、リ
ース開始時におけるリース物件の公正価値、または公正価値よりも最低リース料総額の現在価値が低ければ当
該現在価値をもって認識するとしています(前回リース会計1参照)。
しかしながら、「討議資料」では、多くのリース契約における「リース料支払義務」について、その公正価値を観
察することは不可能であるとして、「リース料支払義務」および「使用権資産」の当初測定には、公正価値を使用せ
ず、支払リース料総額の現在価値を使用する割引キャッシュ・フロー技法を適用することとしています。
また、リース開始時における使用権資産については、一般的にはリース料支払義務の公正価値に等しいと考
えられるとして、借手の追加借入利子率で割り引いた支払リース料総額の現在価値が公正価値の近似値となるこ
とを前提に、借手の追加借入利子率を使用して算定した支払リース料総額の現在価値を使用するとしています。
PricewaterhouseCoopers Aarata
2 事後測定(取得後の価値の測定)
「リース料支払義務」の事後測定については、公正価値によった場合、直近の状況を反映できる一方で、作成
者にとっての実務的な負担が増加する等の理由により、「討議資料」では、償却原価を基礎としたアプローチを採
用しています。また、「使用権資産」についても、同様の理由により、償却原価アプローチを適用し、リース期間と
リース資産の経済的耐用年数のいずれか短い期間で償却する方向で検討が進められています。
なお、「リース料支払義務」については、公正価値測定の適用を許容するかどうかについて引き続き検討され
る予定です。
当初測定では、リース料支払義務と使用権資産は同じリース契約から生じるものであり、通常、独立して存在し
ないことから、両者は関連するものとして取り扱っています。一方、事後測定では、リース契約においては、借手
は使用権資産を購入するのであり、そのための資金供給をリース料支払義務の取得によって賄っているとしてお
り、使用権資産の減損など一方のみに影響を与えるケースを考慮して、「リース料支払義務」と「使用権資産」は相
互関連しないと考えて、個々での測定が求められています。
PricewaterhouseCoopers Aarata
3.リース取引貸手側の処理
「討議資料」には、貸手側で生じうる疑問点および検討事項に関するハイレベルの概観が示されていますが、
予備的見解は含まれていませんでした。IASB は「討議資料」の中で、貸手についてプロジェクトの範囲に含める
べきかどうかのコメントを求め、2つのアプローチの説明を行っています(図表6参照)。「討議資料」において
IASBは、リース取引の貸し手側の会計処理について、以下のオプションがあるとしています。
<アプローチA>
貸手は、オペ・リースに係るリース債権(金融資産)を計上し、リースの対象となった資産の一部の認識を中止し
ます。
<アプローチB>
貸手は、<アプローチA>と同様に、オペ・リースに係るリース債権(金融資産)を計上し、リースの対象となっ
た資産を減少させることなく、リース取引の履行義務に関する負債を計上します。
PricewaterhouseCoopers Aarata
「討議資料」が公表された後、IASBはコメントを集め議論を続けました。貸手の処理については、不動産業界等
から上記<アプローチA>および<B>についての反対意見が出され、現状の国際会計基準第40号「不動産」
(「IAS40」=投資不動産について公正価値または原価で評価すること)を支持するコメントが出されました。
その後、IASBは、FASBと協議を重ね、2010年1月に以下のようなアプローチを採用することを暫定的に決定
しました。
1)貸手において、投資不動産が原価モデルにより測定されている場合には、<上記アプローチB>の会計処理
が適用されます(図表7および図表8参照)。
2)貸手において、投資不動産が公正価値モデルにより測定されている場合には、現行のIAS40と同様に、オペ・
リースを含む不動産全体を公正価値で評価します
PricewaterhouseCoopers Aarata
今後IASBは継続的にFASBと討議していくことになると考えられますが、リース会計に関するIFRS公開草案
が2010年の第3Qに公表される予定となっています。
(注)「討議資料」の概要については、あらた監査法人・井上雅子著 「変化する会計実務④・リース会計」より抜粋
しました。
PricewaterhouseCoopers Aarata
不明の点、さらに詳しい説明等のご要望がございましたら、あらた監査法人 清水までお問合せ下さいますよう
お願いいたします。
清 水
毅
公認会計士、日本証券アナリスト協会検定会員、不動産証券化協会認定マスター あらた監査法人 代表社員
不動産ファンドおよび運用会社に対して、監査およびアドバイス業務を提供。
主たる著書として、「投資信託の計理と決算」(中央経済社・共著)、「不動産投信の経理と税務」(中央経済社・共著)、「集団投資スキームの会計
と税務」(中央経済社・共著)等。あらた監査法人の不動産業・IFRS チャンピオン、および PwC・Global の IFRS・業種別委員会・不動産部会の委
員を務める。
© (2010) PricewaterhouseCoopers Aarata. All rights reserved. “ PricewaterhouseCoopers ”
refers to the Japanese firm of
PricewaterhouseCoopers Aarata or, as the context requires, the PricewaterhouseCoopers global network or other member firms of the network,
each of which is a separate and independent legal entity.
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