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第5回 固定資産の減損 はじめに

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第5回 固定資産の減損 はじめに
第5回
固定資産の減損
あらた監査法人 代表社員 公認会計士 清水 毅
はじめに
リーマンショック以降、不動産の価格も下落を続けており、不動産ファンドが保有する投資不動産につ
いても、減損会計の適用を要求されることが増えてきました。日本基準においては、「固定資産」の減損に
ついて、企業会計審議会が公表した「固定資産の減損に係る会計基準」及び企業会計基準委員会が公表した
企業会計基準適用指針第6号「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」において規定されています。IFRS
においては、投資不動産については、IAS第40号「投資不動産」(以下「IAS40」)で規定されており、固定
資産の減損については、IAS第36号「資産の減損」(以下「IAS36」)で規定されています。
IAS40によれば、投資不動産は公正価値または減価償却を控除した後の原価で評価することになります。第
2回「投資不動産に対するIFRSの規定」で解説したように、IFRSを適用する不動産ファンドのほとんどは、
保有する投資不動産を公正価値で評価しています。公正価値で毎期評価し、評価差額を当期の損益として計
上する場合、減損会計の適用はありません。IAS40に従い、投資不動産を取得原価(減価償却を控除後)で評
価する場合、減損会計の適用があります。今回は、IFRSによる減損の規定について解説します。なお、文中
意見に係わる箇所は筆者の個人的見解です。
PricewaterhouseCoopers Aarata
1.日本基準とIFRSの減損方法の違い
日本基準では,減損の兆候のある資産あるいは資産グループについて、その帳簿価額と割引前将来キャッ
シュ・フローを比較して減損の有無を判定し、減損が認識された資産あるいは資産グループについてはその
「回収可能価額」まで帳簿価額を引き下げて減損損失を計算するという2ステップの手続をとります。IFRS
では対象資産あるいは資産グループの帳簿価額を直接その「回収可能価額」との比較により減損の有無を判
定し、その差額として減損損失を計算します(図表1参照)。どちらも「回収可能価額」は、「売却費用控
除後の公正価値」と「使用価値」のいずれか高い方と定義されています。
したがって、日本基準において割引前将来キャッシュ・フローとの比較の結果減損が認識されなかった資
産あるいは資産グループについても、その回収可能価額が帳簿価額を下回る場合には、IFRSでは減損が認識
されるというケースも考えられます(図表2、3参照)。
PricewaterhouseCoopers Aarata
2.資産のグルーピング
減損の兆候については、適切な資産グループ(資金生成単位)ごとに判断していくことになります。日本
基準においては「資産のグルーピングは、他の資産又は資産グループのキャッシュ・フローから概ね独立し
たキャッシュ・フローを生み出す最小の単位で行う」と減損会計基準に規定されています。IFRSにおいても、
他の資産又は資産グループのキャッシュ・インフローから概ね独立したキャッシュ・インフローを生み出す
最小の単位を「資金生成単位」と定め、個別の資産または当該単位で減損の兆候を判断することを規定して
います。
不動産ファンドが保有する投資不動産については、通常個々の不動産ごとに「継続的に収支の把握がなさ
れており、管理会計上の区分や投資の意思決定がなされる」ので、個別の不動産ごとに減損の兆候を把握し
必要であれば減損の認識・測定を行っていくことになります。
3.減損の兆候
減損の兆候(資産又は資産グループ(資金生成単位)に減損が生じている可能性を示す事象)がある場合
には、当該単位について、減損損失を認識するかどうかの判定を行います。日本基準においては、企業は通
常の企業活動において実務的に入手可能なタイミングにおいて利用可能な情報に基づき、図表4に示されるよ
うな減損の兆候がある資産又は資産グループを識別する必要があります。
IFRSでは、減損の兆候について同様に、図表5のように例示しています。実質的に両者ほぼ同様の規定に
なっています。IFRSにも日本基準にも、減損の兆候の判断指標の中に「市場価格の著しい下落」という指標
があります。ただし、日本基準においては、「著しい」とは、原則として、少なくとも市場価格が帳簿価額
よりも50%程度以上下落した場合をいうとされていますが、IAS36では「著しい」という表現はありますが、
その量的な目安については規定されてなく、個々に判断していくことになります。
PricewaterhouseCoopers Aarata
4.回収可能価額の測定
IFRSでは、減損の兆候があった場合、減損テストを実施することになりますが、企業(またはファンド)
はまず、資産または資金生成単位の「回収可能価額」を算定する必要があります。ここで、「回収可能価額」
PricewaterhouseCoopers Aarata
とは、(1)当該資産の「売却費用控除後の公正価値」、または(2)「使用価値」の、いずれか高い金額で
す。IAS36では「公正価値」から、資産の撤去費用などの資産売却に伴い直接発生する費用を控除して「売却
費用控除後の公正価値」を計算します。「公正価値」とは、取引の知識がある自発的な当事者間で、独立第
三者間取引条件による資産の売却から得られる価額です。「使用価値」とは、資産または「資金生成単位」
から生じることが期待される将来キャッシュ・フローの現在価値のことをいいます。
5.減損の認識
IFRSでは資産の回収可能価額が帳簿価額より低い場合には、当該資産の帳簿価額をその回収可能価額まで
減額することにより、減損を認識する必要があります。資金生成単位である資産グループに対して減損を認
識する場合、減損額を各資産の帳簿価額にもとづき比例配分します(のれんが計上されている場合には、ま
ずのれんの帳簿価額を減額します)(図表6参照)。ただし、各資産の売却費用控除後の公正価値が算定可能
な場合、これを下回る減損の配分は行われません。
減損損失を計上した資産の減価償却費については、減額後の帳簿価額から残存価額を控除した金額が残存
耐用年数にわたって規則的に配分されるよう、調整される必要があります。会計上は減損が生じる都度減価
償却を変更する必要があり、税務上は変更がないため、会社またはファンドの実務的負担は大きくなります。
6.減損損失の戻入れ
日本基準では,一度計上した減損損失を戻入れることは認められていません。
IFRSでは、報告日ごとに、過年度中に認識した減損損失が戻入れられる兆候の有無について評価する必要
があります。IAS36によれば、最低限、図表7に記載の兆候について検討する必要があります。
PricewaterhouseCoopers Aarata
戻入れの兆候が存在する場合は、資産の「回収可能価額」について再計算を行う必要があります。減損の
戻入れによる資産の帳簿価額の増加額は、減損が発生しなかったとした場合の(減価償却費累計額の)帳簿
価額を超過することはできません(図表8、9参照)。ただし、のれんの減損損失の戻入れは、認められませ
ん。
減損損失の戻入れが認識された後の資産の減価償却費については、将来の期間にわたり、当該資産の改訂
後の帳簿価額から残存価額を控除した金額が、残存耐用年数にわたって規則的に配分されるよう、調整する
必要があります。この計算も、不動産ファンドにとっては、実務的には、非常に煩雑なものとなります。
PricewaterhouseCoopers Aarata
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不明の点、さらに詳しい説明等のご要望がございましたら、あらた監査法人 清水までお問合せ下さいますよ
うお願いいたします。
清 水
毅
公認会計士、日本証券アナリスト協会検定会員、不動産証券化協会認定マスター あらた監査法人 代表社員
不動産ファンドおよび運用会社に対して、監査およびアドバイス業務を提供。
主たる著書として、「投資信託の計理と決算」(中央経済社・共著)、「不動産投信の経理と税務」(中央経済社・共著)、「集団投資スキームの会計
と税務」(中央経済社・共著)等。あらた監査法人の不動産業・IFRS チャンピオン、および PwC・Global の IFRS・業種別委員会・不動産部会の委
員を務める。
© (2010) PricewaterhouseCoopers Aarata. All rights reserved. “ PricewaterhouseCoopers ”
refers to the Japanese firm of
PricewaterhouseCoopers Aarata or, as the context requires, the PricewaterhouseCoopers global network or other member firms of the network,
each of which is a separate and independent legal entity.
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