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第3回 SPC はじめに

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第3回 SPC はじめに
第3回
連結および SPC に対する IFRS の規定
あらた監査法人 代表社員 公認会計士 清水 毅
はじめに
金融庁・企業会計審議会は、2009 年 6 月 30 日開催の総会において、「我が国における国際会計基準の取
扱いに関する意見書(中間報告)」を承認し、同日付で公表しました。国際財務報告基準(以下「IFRS」)の任意適
用については、2010 年 3 月期から国際的な財務・事業活動を行っている上場企業の連結財務諸表に、IFRS の
任意適用を認めることが適当であるとしています。強制適用に当たっては、強制適用の判断時期から少なくとも
3 年の準備期間が必要としています(2012 年に判断の場合には、2015 年または 2016 年に適用開始)。なお、
同日付で「連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則等の一部を改正する内閣府令(案)」等が公表
されており、中間報告に記載された内容をルール化するための所要の改正が行われることになります。
上記の状況の中、各上場企業は、IFRS が適用された場合の検討を始めています。金融商品取引法上の財務
諸表を提出・公表している J リートや、公募を行った特定目的会社、匿名組合、上場会社に連結されるまたは持
分法の適用を受ける不動産ファンドは、その影響の検討を始める必要があると思われます。
このシリーズでは、IFRSを不動産ファンドに適用した場合の論点について、数回にわけて解説していきます。
なお、本稿は2009年8月末時点の情報にもとづいており、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることをお
断りします。
1.IFRS における連結の規定
連結財務諸表の作成に関する事項については、IFRSでは国際会計基準第27号「連結及び個別財務諸表」(「以
下IAS 27」)が定めています。また、一時支配の子会社の連結については、IFRS5号「売却目的で保有する非流
動資産及び廃止事業」が適用されます。また金融資産の証券化等を目的として創設される特別目的事業体の連
結については、解釈指針第12 号(「SIC12」)が適用されます。
PricewaterhouseCoopers Aarata
2.IFRSにおける「支配」の概念
IFRSでは自社が「支配している事業体」をすべて連結することになりますが、「支配」とは「企業活動からの便
益を得るために、企業の財務および経営方針を左右する力」と定義されています。日本基準では、「支配」とは「あ
る企業または企業を構成する事業の活動から便益を享受するために、その企業または事業の財務および経営
方針を左右する能力を有していること」と定義されていて、実質的な差異がないことがわかります。
<図表1> 支配の要件 IFRS vs.日本基準
こうした支配の有無を決定するための具体的な指針として、企業の議決権の過半数を直接・間接に保有してい
る場合には「支配」が存在しているものとの強い推定が働くこととされます。また議決権が過半数に満たない場合
でも<図表1>の要件を満たす場合、「支配」があるとみなされることになります(<図表2>参照)。なお IFRSお
よび日本基準における支配の有無に関する判断についての具体的規定は<図表1>のとおりです。日本基準で
は、50%超、40-50%と数値基準が定められていますが、「支配」の概念について、実質的な違いはないと考えら
れます。
<図表2> IFRS 支配の要件
PricewaterhouseCoopers Aarata
3.潜在的支配
また、支配しているかどうかを決定する際には「潜在的議決権」を考慮することが求められています。たとえば、
「新株引受権」や「株式コール・オプション」、普通株式への転換が可能な「優先株」等、行使されたり転換された場
合に保有者の議決権比率を増加させることになる(したがってほかの株主の議決権比率を減少させることにな
る)効果、すなわち潜在的な議決権を与える金融商品を企業が保有することがあります。IFRS における支配の
有無の判定に当たっては、こうした潜在的議決権のうち、現在行使(転換)可能なものの存在が有する影響を考慮
することが求められます。潜在的議決権の有する影響の評価に当たっては、単にオプションや転換権の行使を
仮定した場合の議決権の数値のみで判断するのではなく、オプションの行使条件やそのほかの契約条件等、関
連するすべての事実および状況を総合的に勘案して判断することになります(<図表3参照>)。わが国会計基
準においても、「連結財務諸表原則」の第三において自社が意思決定機関を支配しているほかの会社(子会社)を
すべて連結の範囲に含めなければならない旨が定められており、支配力基準が適用されている点ではほぼ同
様と考えることができます。なお、わが国においては、「連結財務諸表制度における子会社及び関連会社の範囲
の見直しに係る具体的な取扱い」(企業会計審議会)、「連結財務諸表における子会社及び関連会社の範囲の決
定に関する適用指針」(企業会計基準委員会「ASBJ」)等が公表されており、IAS27号より詳細な指針や例示が示
されています。また、潜在的議決権の取扱いについてはわが国会計基準において明確な定めは存在しておらず、
IAS27号の実務適用にあたっては検討が必要な項目の1つです。
<図表3> IFRS 潜在的議決権
4.特別目的事業体の連結
限定的かつ明確な目的を達成するために創設された事業体である特別目的事業体(「SPE」)について、SIC12
は上記に示した一般的な「支配」の考え方に加え、<図表4>のような状況がある場合については、SPEを支配
しており、連結範囲に含められることがあることを規定しています。
PricewaterhouseCoopers Aarata
<図表4> SPEについて支配が推定される場合
(a)事業活動
実質的に、SPE の事業活動が企業の特定の事業上の必要にしたがってその企業のために行わ
れ、それにより企業は SPE の事業運営から便益を受けている。
(b)意思決定
実質的に、企業は SPE の事業活動の便益の大半を獲得するための意思決定の権限を保有し、ま
たは「自動操縦」の仕組みを設定することによって企業はこの意思決定の権限を委託している。
(c)便益とリスク
実質的に、企業は SPE の便益の大半を獲得する権利をもつゆえに SPE の事業活動に伴うリスク
に晒されている。
(d)残余価値または所有リスク
実質的に、その企業は、SPE の事業活動からの便益を得るために、SPE またはその資産に関連し
た残余価値または所有リスクの大半を負っている。
このように、現行のIFRSではSPEについて、誰が便益を受けているか、誰がリスクを負担しているのかという
分析を行い、それに該当する者が支配をしていると推定されることになっています(<図表5>参照)。しかし、詳
細な指針がないため、非常に判断を要する分野とも考えられます。
わが国では、「財務諸表等規則」第8条第7項で、特別目的会社については、適正な価額で譲り受けた資産から
生ずる収益を当該特別目的会社が発行する証券の所有者に享受させることを目的として設立されており、当該特
別目的会社の事業がその目的にしたがって適切に遂行されているときは、当該特別目的会社に対する出資者お
よび当該特別目的会社に資産を譲渡した会社等から独立しているものと認め、出資者等の子会社に該当しない
ものと推定するとしています。したがって、基本的には適正な価額で資産が特別目的会社に譲渡され、また当該
特別目的会社が「自動操縦」の仕組みとなっている場合には、出資者等の連結から除外されていますが、IFRS
の適用にあたっては、再度、上記の観点から連結の可否についてそれぞれの事案ごとに十分に検討する必要が
あると考えられます。
ASBJでは、当該特別目的会社の取扱いについて、2009年2月に「連結財務諸表における特別目的会社の取
扱い等に関する論点の整理」を公表しました。本論点整理は、国際的な会計基準やその動向を踏まえ、連結財務
諸表における特別目的会社の取扱い等に関する論点を示し、今後の議論の整理を図ることを目的としています。
ASBJでは、論点整理の過程において当面の対応として2007年3月に、出資者等の子会社に該当しないものと推
定された特別目的会社(開示対象特別目的会社)の概要や取引金額等の開示を行うことを定めた企業会計基準適
用指針第15号「一定の特別目的会社に係る開示に関する適用指針」を公表しています。
PricewaterhouseCoopers Aarata
<図表5> IFRS SPCの連結要件
不明の点、さらに詳しい説明等のご要望がございましたら、あらた監査法人 清水までお問合せ下さいますよう
お願いいたします。
PricewaterhouseCoopers Aarata
清 水
毅
公認会計士、日本証券アナリスト協会検定会員、不動産証券化協会認定マスター あらた監査法人 代表社員
不動産ファンドおよび運用会社に対して、監査およびアドバイス業務を提供。
主たる著書として、「投資信託の計理と決算」(中央経済社・共著)、「不動産投信の経理と税務」(中央経済社・共著)、「集団投資スキームの会計
と税務」(中央経済社・共著)等。あらた監査法人の不動産業・IFRS チャンピオン、および PwC・Global の IFRS・業種別委員会・不動産部会の委
員を務める。
© (2009) PricewaterhouseCoopers Aarata. All rights reserved. “ PricewaterhouseCoopers ”
refers to the Japanese firm of
PricewaterhouseCoopers Aarata or、 as the context requires、 the PricewaterhouseCoopers global network or other member firms of the
network、 each of which is a separate and independent legal entity.
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