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図 解 でわかる! 7 はじめに M&A
図 解 でわかる! M&A 会 計 日 本 基 準 と IFRS 第 7 回 取 得 に要 する支 出 あらた監 査 法 人 公 認 会 計 士 清 水 毅 公認会計士 一 杉 和 弘 はじめに M&A に関 する日 本 の会 計 基 準 については、企 業 会 計 基 準 委 員 会 が 2008 年 12 月 に「 企 業 結 合 に 関 す る 会 計 基 準 」 お よび 「 連 結 財 務 諸 表 に 関 する 会 計 基 準 」 を 改 正 し ( 以 下 「 改 正 日 本 基 準 」 )、国 際 財 務 報 告 基 準 ( 以 下 「 IFRS 」) につい ては国 際 会 計 基 準 審 議 会 (IASB)が 2008 年 1 月 に国 際 財 務 報 告 基 準 (IFRS)第 3 号 「企 業 結 合 」お よび国 際 会 計 基 準 (IAS)第 27 号 「連 結 及 び個 別 財 務 諸 表 」を改 正 しています(以 下 「改 正 IFRS」)。このシリーズでは、M&A 会 計 について、日 本 基 準 の改 訂 、IFRS の改 訂 、日 本 基 準 と IFRS との違 いにスポットをあて解 説 しています。第 7 回 (本 稿 )では、 「取 得 に要 した支 出 」、「株 式 交 付 費 用 」、「条 件 付 対 価 」、「偶 発 債 務 と特 定 勘 定 」につ いて解 説 します。なお、文 中 意 見 にかかわる箇 所 は筆 者 の個 人 的 見 解 です。 1.取 得 に要 した支 出 企 業 結 合 に お ける 取 得 に 要 した 支 出 につ い て 、改 正 日 本 基 準 では 、一 定 の 条 件 を 満 たすものを取 得 原 価 に含 めて会 計 処 理 しますが、改 正 IFRS では、発 生 時 の費 用 と し取 得 原 価 に含 めないものとしています。 日 本 基 準 においては、取 得 とされた企 業 結 合 に直 接 要 した支 出 額 のうち、取 得 の対 価 性 が 認 めら れる 外 部 のア ドバイザ ー 等 に 支 払 っ た 特 定 の 報 酬 ・ 手 数 料 等 は 取 得 原 価 に含 め、それ以 外 の支 出 額 は発 生 時 の事 業 年 度 の費 用 として処 理 することとされて い ます 。こ の よ う な 取 扱 い は 、 資 産 の 付 随 費 用 の 取 扱 い ( た と えば 棚 卸 資 産 、 固 定 資 産 、金 融 資 産 )と概 ね整 合 しています。 改 正 IFRS においては、取 得 に要 した支 出 (アドバイザリー、法 律 、会 計 、評 価 その 他 専 門 家 の手 数 料 やコンサルタントフィー等 )は、その費 用 の発 生 時 またはサービスの 提 供 を受 けた時 の費 用 とすることとしています。 PricewaterhouseCoopers Aarata 1 2.株 式 交 付 費 用 改 正 日 本 基 準 において、企 業 結 合 の際 の株 式 の交 付 に伴 い発 生 する支 出 は、企 業 結 合 の対 価 というよりは、支 払 対 価 の種 類 に影 響 される財 務 的 な活 動 としての性 格 が 強 い支 出 と考 えられるため、取 得 原 価 には含 めず、別 途 、「株 式 交 付 費 」として会 計 処 理 することとされています。一 般 的 に株 式 交 付 費 については、原 則 として支 出 時 の費 用 として 処 理 す るこ ととされてい ます 。なお 、企 業 規 模 の 拡 大 のた めにす る資 金 調 達 など の 財 務 活 動 に 係 る 株 式 交 付 費 に つ い ては 繰 延 資 産 に 計 上 す る こ とが でき 、そ の 場 合 には株 式 交 付 時 から 3 年 以 内 のその効 果 の及 ぶ期 間 にわたって、定 額 法 により償 却 することになります。 改 正 IFRS において、取 得 に要 した支 出 のうち、企 業 結 合 に伴 って発 行 する株 式 等 の 発 行 費 につ い ては 、一 般 的 な株 式 等 の 発 行 費 と同 じ会 計 処 理 を 行 うこ ととしてい る ため、資 本 から控 除 することとなります。 【図 表 1】 取 得 にかかわる支 出 の処 理 A社 はB社 を合 併 にて取 得 することとなった。B社 の資 産 の公 正 価 値 は 100 億 円 ,B社 の 株 主 に交 付 したA社 株 式 の時 価 総 額 が 200 億 円 ,取 得 に際 して弁 護 士 等 に支 払 った金 額 が 10 億 円 ,新 株 発 行 に伴 い証 券 会 社 ・弁 護 士 等 に支 払 った金 額 が5億 円 となった。 改 正 IFRS 仕 訳 のイメージ(億 円 ) 諸資産 100 資本 200 のれん 100 現金 15 取 得 費 用 (注 1) 10 資本 5 PricewaterhouseCoopers Aarata 2 改 正 日 本 基 準 仕 訳 のイメージ(億 円 ) 諸資産 100 資本 200 のれん 110 現金 15 株式交付費 5 (注 2) (注 1)当 期 の損 益 として処 理 します。 (注 2)当 期 の損 益 または繰 延 資 産 として計 上 します。 3. 条 件 付 対 価 条 件 付 対 価 とは、企 業 結 合 契 約 において定 められているものであって、企 業 結 合 後 の特 定 の事 象 または取 引 の結 果 に依 存 して、企 業 結 合 日 後 に追 加 的 に交 付 または引 き渡 される取 得 対 価 です。 条 件 付 取 得 対 価 に つ い て 、改 正 日 本 基 準 では 、当 該 条 件 付 取 得 対 価 の 交 付 また は引 渡 しが確 実 となるまで会 計 処 理 を行 わないものとされています。改 正 IFRS では、 当 該 条 件 付 対 価 について、取 得 日 の公 正 価 値 によって認 識 し、取 得 日 以 後 に当 該 公 正 価 値 の変 動 があった場 合 に一 定 の会 計 処 理 をするとしています。 改 正 日 本 基 準 では、取 得 日 以 降 の取 扱 いについて1)将 来 の業 績 に依 存 するものと 2) 特 定 の 株 式 または 社 債 の 市 場 価 格 に 依 存 す るものとに 分 け た 上 で、それぞれ次 の ように会 計 処 理 するものとしています。 (1) 将 来 の業 績 に依 存 する条 件 付 取 得 対 価 ①条 件 付 取 得 対 価 の交 付 または引 渡 しが確 実 となり、②その時 価 が合 理 的 に決 定 可 能 となった時 点 で、支 払 対 価 を取 得 原 価 として追 加 的 に認 識 するとともに、のれんま たは負 ののれんを追 加 的 に認 識 します。 (2) 特 定 の株 式 または社 債 の市 場 価 格 に依 存 する条 件 付 取 得 対 価 条 件 付 取 得 対 価 の交 付 または引 渡 しが確 実 となり、その時 価 が合 理 的 に決 定 可 能 となった時 点 で、次 の処 理 を行 います。 PricewaterhouseCoopers Aarata 3 ① 追 加 で交 付 可 能 となった条 件 付 取 得 対 価 を、その時 点 の時 価 にもとづき認 識 します。 ② 企 業 結 合 日 現 在 で 交 付 して い る 株 式 ま た は 社 債 をそ の 時 点 の 時 価 に 修 正 し 、 当 該 修 正 により生 じた社 債 プレミアムの減 少 額 またはディスカウントの増 加 額 を将 来 にわたって規 則 的 に償 却 します。 改 正 IFRS では、条 件 付 取 得 対 価 の取 扱 いについて、次 のように定 めています。 (1) 取 得 日 における認 識 ① 取 得 企 業 が被 取 得 企 業 との交 換 に際 し譲 渡 する対 価 には、条 件 付 取 得 対 価 契 約 から発 生 する全 ての資 産 または 負 債 が 含 まれ、取 得 日 における公 正 価 値 で認 識 します。 ② 取 得 企 業 は、条 件 付 取 得 対 価 を支 払 う債 務 を、IAS 第 32 号 「金 融 商 品 :表 示 」 を基 礎 として、負 債 または資 本 に分 類 し、ある一 定 の条 件 が満 たされる場 合 には、譲 渡 した対 価 の返 還 を受 ける権 利 を資 産 に分 類 します。 (2) 取 得 日 以 降 の取 扱 い ① 取 得 日 時 点 で存 在 していた事 実 および状 況 に関 して、取 得 日 以 降 に入 手 した追 加 的 な情 報 の結 果 生 じた公 正 価 値 の変 動 は、測 定 期 間 (企 業 結 合 に関 して認 識 し た 暫 定 的 な金 額 を 修 正 することができる 取 得 日 後 の 期 間 )に 企 業 結 合 の会 計 処 理 を遡 及 的 に修 正 します。 ② 取 得 日 以 降 の 事 象 ( た とえば 、 利 益 目 標 の 達 成 、 一 定 の 株 価 の 到 達 また は 研 究 開 発 プロジェクトにおけるマイルストーンへの到 達 など)により生 じた公 正 価 値 の変 動 は、測 定 期 間 における修 正 ではなく、次 のとおり会 計 処 理 します。 a)資 本 に分 類 される条 件 付 取 得 対 価 は、再 測 定 せず、その後 の決 済 は資 本 の中 で 会 計 処 理 します。 b)資 産 または負 債 に分 類 される条 件 付 取 得 対 価 は、原 則 として公 正 価 値 で測 定 し、 その結 果 生 じる利 得 または損 失 については、IAS39 号 の規 定 にしたがって当 期 純 利 益 またはそのほかの包 括 利 益 において認 識 します。 改 正 前 IFRS においては「偶 発 対 価 の発 生 の可 能 性 が高 く、かつその金 額 を信 頼 性 を持 って測 定 できる場 合 は企 業 結 合 の原 価 に含 める」と規 定 しているのに対 して、改 正 PricewaterhouseCoopers Aarata 4 後 は 「 企 業 取 得 日 現 在 の 公 正 価 値 で 認 識 す る 」 と規 定 してお り 、そ の 内 容 を 変 更 して います。一 方 、日 本 基 準 に変 更 はありませんでした。 【図 表 2】 条 件 付 対 価 にかかわる会 計 処 理 ① 20X1 年 A社 はB社 (B社 の資 産 の公 正 価 値 は 100 億 円 )を現 金 にて取 得 することとなっ た。A社 はB社 の株 主 に 20X1 年 150 億 円 を支 払 い,20x2 年 にB社 の純 利 益 が XX 億 円 に達 した場 合 ,50 億 円 を追 加 で支 払 うこととした。A社 がB社 に支 払 う可 能 性 のある債 務 は 40 億 円 と見 積 もられた。20X2 年 ,B社 は予 想 どおりの純 利 益 XX 億 円 を計 上 し,A社 は B社 の株 主 に 50 億 円 を支 払 った。 改 正 IFRS 仕 訳 のイメージ(億 円 ) 20X1 年 諸資産 100 現金 150 のれん 90 負債 40 20X2 年 負債 40 当期損益 10 現金 50 改 正 日 本 基 準 仕 訳 のイメージ(億 円 ) 20X1 年 諸資産 100 のれん 50 現金 150 20X2 年 のれん PricewaterhouseCoopers Aarata 50 現金 5 50 【図 表 3】 条 件 付 対 価 にかかわる会 計 処 理 ② 20X1 年 A社 はB社 (B社 の資 産 の公 正 価 値 は 100 億 円 )を株 式 交 換 にて取 得 することとな った。 20X1 年 ,A社 はB社 の株 主 にA社 株 XX 株 (公 正 価 値 は 150 億 円 )を交 付 し,20X2 年 にB社 の純 利 益 が YY 億 円 に達 した場 合 ,A社 株 ZZ 株 を追 加 で交 付 することとした。こ の株 式 交 付 契 約 の公 正 価 値 は 40 億 円 と見 積 もられた。20X2 年 ,B社 は予 想 どおりの純 利 益 YY 億 円 を計 上 し,A社 はB社 の株 主 にA社 株 式 ZZ 株 (公 正 価 値 は 50 億 円 )を交 付 した。 改 正 IFRS 仕 訳 のイメージ(億 円 ) 20X1 年 諸資産 100 資本 150 のれん 90 株 式 交 付 契 約 (資 本 ) 40 20X2 年 株 式 交 付 契 約 (資 本 ) 40 資本金 40 改 正 日 本 基 準 仕 訳 のイメージ (億 円 ) 20X1 年 諸資産 100 のれん 50 資本 150 20X2 年 のれん PricewaterhouseCoopers Aarata 50 資本金 6 50 4. 偶 発 負 債 と特 定 勘 定 企 業 結 合 に おい て 引 き 受 け た 負 債 に 関 し、一 部 の 負 債 に 関 しては 、改 正 日 本 基 準 でも改 正 IFRS でも、それぞれ、資 産 と負 債 の認 識 原 則 とは異 なるM&A固 有 の取 扱 い が定 められています。改 正 日 本 基 準 において、識 別 可 能 資 産 および負 債 の範 囲 につい ては、原 則 として、ほかの会 計 基 準 のもとで認 識 されるものに限 定 するとされています。 したがって、偶 発 負 債 は、通 常 当 期 以 前 の事 象 に起 因 し発 生 の可 能 性 が高 いという引 当 金 の要 件 を満 たす場 合 に計 上 されます。ただし、これ以 外 でも取 得 後 に発 生 すること が 予 測 され る 特 定 の 事 象 に 対 応 した 費 用 また は 損 失 であ っ て 、そ の 発 生 の 可 能 性 が 取 得 の対 価 の算 定 に反 映 されている場 合 には、「企 業 結 合 に係 る特 定 勘 定 」(負 債 )と して認 識 す る とされ てい ます 。企 業 結 合 適 用 指 針 では 、 当 該 特 定 勘 定 の 例 とし て 、次 が考 えられるとしています。 ・人 員 の配 置 転 換 や再 教 育 費 用 ・割 増 (一 時 )退 職 金 ・訴 訟 案 件 等 に係 る偶 発 債 務 ・工 場 用 地 の公 害 対 策 や環 境 整 備 費 用 ・資 産 の処 分 に係 る費 用 改 正 IFRS においても、企 業 結 合 時 における負 債 の認 識 については、M&A固 有 の 取 扱 いを設 けています。すなわち、企 業 結 合 時 においては、IAS 第 37 号 「引 当 金 、偶 発 負 債 及 び偶 発 資 産 」(「IAS37」)の規 定 がそのまま適 用 されるのではなく、過 去 の事 象 か ら 生 じる 現 在 の 債 務 であ り 、信 頼 性 をも っ て 公 正 価 値 を 測 定 でき る 場 合 に は 、企 業 結 合 によって引 き受 けた「偶 発 負 債 」を取 得 日 に認 識 することとしています。すなわち、 IAS37 の引 当 金 と異 なり、経 済 的 便 益 を包 含 する資 源 の流 出 の可 能 性 が低 いとしても、 当 該 「偶 発 負 債 」が企 業 にとって現 在 の債 務 である場 合 には、取 得 日 で認 識 することと されています。なお、改 正 IFRS においては、将 来 、被 取 得 企 業 の活 動 や従 業 員 の雇 用 を終 了 したり配 置 転 換 したりする計 画 を実 行 する原 価 は、取 得 企 業 が発 生 を予 想 し てい ても 義 務 付 け ら れ て い なけ れ ば 、取 得 日 時 点 では 負 債 とは なら ず 、 そ の ほ かの 国 際 財 務 報 告 基 準 にしたがって、企 業 結 合 後 の財 務 諸 表 で認 識 することとされていま す。 PricewaterhouseCoopers Aarata 7 【図 表 4】 偶 発 負 債 と特 定 勘 定 A社 はB社 (B社 の資 産 の公 正 価 値 は 100 億 円 )を現 金 200 億 円 にて取 得 することとなっ た。B社 には,発 生 の可 能 性 は高 くないが IFRS3R の要 件 を満 たす偶 発 負 債 (公 正 価 値 30 億 円 )が見 積 もられた。また,A社 は B 社 を取 得 した後 に,リストラを行 い従 業 員 等 の整 理 を行 う予 定 でいる。当 該 リストラにかかわるコストは 50 億 円 と見 積 もられた。 改 正 IFRS 仕 訳 のイメージ(億 円 ) 諸資産 100 現金 200 のれん 130 偶発負債 30 改 正 日 本 基 準 仕 訳 のイメージ(億 円 ) 諸資産 100 のれん 150 現金 200 企 業 結 合 に係 る特 定 勘 定 (負 50 債) この記 事 は、『週 刊 経 営 財 務 』 2939 号 (2009 年 10 月 26 日 )にあらた監 査 法 人 とし て掲 載 したもの です 。発 行 所 である 税 務 研 究 会 の許 可 を 得 て、あらた 監 査 法 人 が ウェ ブサイトに掲 載 しているものですので、ほかへの転 載 ·転 用 はご遠 慮 ください。 © (2 0 1 0 ) P ric e wa t e rh o u s e Co o p e rs A a ra t a. Al l ri g hts re se rve d . “ P ri ce wa t e r h o u s e Co o p e rs ” ref e rs to t h e J a p a n es e fi rm o f Pric e wa t e rh o u s e Co o p e rs A a rat a o r, as t h e co n t e xt re qu i res , t h e Pric e wa t e rh o u s e Co o p e rs gl o b a l n e t wo rk o r ot h e r m em b e r f i rm s of th e n e t wo rk, e ac h of wh i c h is a se p a ra te a n d i n d e p e nd e n t l e g a l e nt it y. PricewaterhouseCoopers Aarata 8