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不動産ファンドに関する国際財務報告基準 第9回 リース会計(3) はじめに

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不動産ファンドに関する国際財務報告基準 第9回 リース会計(3) はじめに
不動産ファンドに関する国際財務報告基準
第9回 リース会計(3)
あらた監査法人 代表社員 公認会計士 清水 毅
はじめに
国際会計基準審議会(「IASB」)と米国財務会計基準審議会(「FASB」)は、リース取引(不動産の賃貸借取引を含む)
の会計処理方法を大幅に変更する、新しいアプローチを提案しました。両審議会はともに「リース」と題された「公開草案」
を2010年8月に公表しており、これにより国際財務報告基準(「IFRS」)と米国基準(「US・GAAP」)のコンバージェンスが
達成され、今後の日本基準の改定にもさらに影響を及ぼすと考えられます。当草案の主な目的は、リース契約から発生
した資産と負債を確実に貸借対照表で認識することです。
第 8 回リース会計(2)では、IASB が 2009 年に公表した討議資料「リース予備的見解」にもとづいて、新しい会計処
理方法を紹介しましたが、今回はこの 8 月に公表された「公開草案」にもとづいて、不動産ファンドの会計処理・財務諸
表にどのような影響があるのか概観したいと思います。(文中意見にかかわる部分は、筆者の個人的見解です)
1.借手の会計処理
当モデル案では、オペレーティング・リース(不動産の賃貸借契約を含む(「オペリース」)のオフバランスシート処理が
廃止される予定です。現在オペリースとしてリースされているすべての資産が貸借対照表に計上され、ファイナンス・リー
スとオペリースの区別がなくなる予定です。新しい資産(リース期間にわたってリース物件を使用する権利)と負債(リース
料支払義務)は、リース期間における支払リース料総額の現在価値にもとづき、償却原価で計上されます。
図表1 新リース基準=使用権モデル<イメージ>
使用権
不動産
所有権
リース料
借り手
貸し手
(履行義務アプローチの場合)
不動産
使用権
リース
債務
リース
債権
借り手は
「使用権」を計上
リース
履行義務
不動産
当該リース期間の見積りは、延長もしくは解約オプションを考慮して、リースが継続される可能性が「50%超となる
(more likely than not)」最長の期間とされています。資産と負債を当初測定する際に使用する支払リース料には、小売
業者の売上の割合や、消費者物価指数(CPI)等の変数にリンクしたリース料の増加等の、「変動」リース料が含まれます。
当モデル案では、リースの更新および変動リース料を継続的に再評価し、事実および状況の変化に応じて、関連する見
積りを調整していくことが求められています。「公開草案」が適用されると損益計算書における「表示科目」および認識の
タイミングが変更されます。従来のオペリースでは定額で認識されていたリース費用は、同類の自社所有資産と類似する
方法で計算される減価償却費、および不動産担保ローンに類似する方法で計算される利息費用に置き換えられます
(<図表 2><図表 3>参照)。新基準が適用されると、リース会計を選択した、不動産会社およびファンドの会計処理・
財務諸表に大きな影響を与えますが、会社・ファンドと賃貸借契約を結ぶテナントの会計処理にも大きな影響を与えるこ
とになります。
設例 1

不動産ファンド A は、投資不動産を 50 で購入

テナントと 3 年の賃貸借契約 (=リース契約) を結ぶ

リース料:年間 =10

3 年分のリース料の現在価値=24

割引率=10%

X1 年期末時における不動産・評価額=45
図表 2 説例1における借手の会計処理
従来の会計処理
公開草案による会計処理
(借方)
(借方)
(貸方)
BS仕訳
なし
支払
リース料
(貸方)
24
リース
使用権
10
10
現金預金
(注1)支払利息=24×10%≒3
(注2)リース使用権償却費=3 年間の定額法で償却=24÷3=8
リース
債務
24
10
リース債務
支払利息(注1)
7
3
現金預金
償却費
8
リース
使用権
8
図表 3 説例1における借手の X1 年期末時財務諸表
従来基準
公開草案
BS
BS
不動産
使用権:16
リース債務
17
計上
なし
PL
支払リース料
10
PL
償却費
8
利息計算が必
要に
支払利息
3
PwC
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2.貸手の会計処理
両審議会は、リースの貸手の会計処理について、単一のアプローチに合意することが出来ませんでした。特定の事例
において、2 つのアプローチのどちらか一方を適用することに対して懸念したため、2 つのアプローチの採用によっての
み対応が可能であると決定しました。
図表 4 貸手の会計処理 -2 つのアプローチ
リース前
リース後
履行義務アプローチ
BS
BS
不動産
不動産
リース債権を
グロスアップ
リース履行
債務
リース債権
認識中止アプローチ
BS
BS
不動産
不動産
不動産から
リース債権へ振替
リース債権
貸手が、リースの契約期間中または契約期間後に、リース資産に関連する重要なリスクや便益へのエクスポージャー
を保持する場合、「履行義務アプローチ」を適用します。
貸手は、原資産を認識したまま、さらに借手からリース料を受け取る権利として「リース債権」を認識するとともに、借手
にリース資産の使用を認める義務を表示するため、「履行義務」を認識します(<図表 5><図表 6>参照)。
そのほかすべてのリースについては、「認識中止アプローチ」を適用します。貸手は、借手からリース料を受け取る権
利としてリース債権を認識し、収益を計上します。さらに、リース資産の帳簿価額の一部が借手に移転したとみなし、当
該部分について認識を中止し、譲渡したものとして売上原価に振替えします(<図表 5><図表 6>参照)。
図表 5 貸手の会計処理 履行義務 vs 認識中止
履行義務アプローチによる会計処理
(借方)
認識中止アプローチによる会計処理
(貸方)
(借方)
投資不動産
50
現金預金
50
リース債権(注4)
24
リース
履行義務
24
現金預金
10
リース債権
受取利息(注1)
7
3
リース履行義務
8
リース収益
(注2)
8
減価償却費(注3)
8
投資不動産
8
PwC
(貸方)
投資不動産
50
現金預金
50
リース債権(注4)
24
投資不動産
24
現金預金
10
リース債権
受取利息(注1)
7
3
(注1)受取利息=24×10%≒3
(注2)リース履行義務償却=3 年間の定額法で償却=24÷3=8
(注3)当該投資不動産の建物部分の償却費を 8 および 4 と仮定
(注4)リース開始時の割引現在価値を 24 と仮定(正確には売上と売上原
価にそれぞれ計上します)
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図表 6 貸手の財務諸表 履行義務 vs.認識中止
履行義務アプローチ
認識中止アプローチ
BS
BS
不動産
42
不動産
22
リース債権
17
リース履行
義務 16
リース債権
17
PL
PL
リース収益
償却益
8
減価償却
8
減価償却
4
受取利息
3
受取利息
3
借手の会計処理と同様に、貸手も、いずれのアプローチにおいても、リース期間や変動リース料を見積り、事実および
状況の変化に応じて、これらの見積りを調整していく必要があります。
3.投資不動産に対する適用除外
第 2 回で解説したように、IFRS では、投資不動産を 1)公正価値で評価する方法と 2)取得原価で評価し、毎期減価
償却と減損テストを実施していく方法の選択適用が認められています。「公開草案」においては、公正価値で測定してい
る投資不動産のリースについては、貸手(不動産の保有者)はリースの「公開草案」ではなく国際会計基準第 40 号「投
資不動産」(「IAS40」)を適用しなければならないとしています。この除外規定は、不動産ファンドにとって非常に重要な
意味を持ちます。すなわち、投資不動産を公正価値で評価し毎期評価損益を当期の損益と計上している場合、「公開
草案」で要求されているような利息計算を行う必要がないことになります(<図表 7><図表 8>参照)。また、投資不動
産のリースの借り手は、当初認識後の使用権資産を IAS40 の公正価値モデルにしたがって測定することを選択すること
ができるとしています。
図表 7 貸手の会計処理 履行義務 vs. IAS40
履行義務アプローチによる会計処理
IAS40による会計処理
(借方)
(借方)
(貸方)
投資不動産
50
現金預金
50
リース債権
24
リース
履行義務
24
現金預金
10
リース債権
受取利息(注1)
7
3
リース履行義務
8
リース収益
(注2)
8
減価償却費(注3)
8
投資不動産
8
PwC
(貸方)
投資不動産
50
現金預金
50
現金預金
10
リース収益
10
評価損
10
投資不動産
10
(注1)受取利息=24×10%≒3
(注2)リース履行義務償却=3 年間の定額法で償却=24÷3=8
(注3)当該投資不動産の建物部分の償却費を 8 と仮定
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図表 8 貸手の財務諸表 履行義務 vs. IAS40
履行義務アプローチ
IAS40
BS
BS
不動産
42
不動産
40
リース債権
17
リース履行
義務16
PL
減価償却
8
PL
リース収益
8
評価損
10
リース収益
10
受取利息
3
4.開示
「公開草案」では、現行の IFRS および US GAAP で求められているよりも幅広い開示が要求される予定です。当開示
案では、質的/量的な情報、およびリース資産/負債の測定と認識を行う際の重要な判断や仮定に焦点が置かれてい
ます。
5.経過措置
既存のリースに対する適用除外はない予定です。両審議会は、表示する最も早い期間の期首時点において存在する
すべてのリースについて、借手および貸手が、簡素化された遡及アプローチを使用して資産と負債を認識することを提
案しています。
当公開草案では適用日は提案されていません。
6.最後に
今回のリース会計に関する「公開草案」が予定どおり適用されると、不動産会社・不動産ファンドに対して大きな影響を
与えることに予想されます。不動産会社においては、テナントにおける会計処理にも大きな影響を与えることになるので、
今後の対応が必要になることが予想されます。
今回の「公開草案」においては、上記基本的なアプローチの変更のほかにも、「割引率」、「リース期間」、「変動リース」、
「契約上のオプション」、「セールスアンドリースバック」等についても、記述されているので、次回以降解説していきたいと
思います。
PwC
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不明の点、さらに詳しい説明等のご要望がございましたら、あらた監査法人 清水までお問合せ下さいますようお願いい
たします。
清 水
毅
公認会計士、日本証券アナリスト協会検定会員、不動産証券化協会認定マスター あらた監査法人 代表社員
不動産ファンドおよび運用会社に対して、監査およびアドバイス業務を提供。
主たる著書として、「投資信託の計理と決算」(中央経済社・共著)、「不動産投信の経理と税務」(中央経済社・共
著)、「集団投資スキームの会計と税務」(中央経済社・共著)等。あらた監査法人の不動産業・IFRS チャンピオン、お
よび PwC Global の IFRS・業種別委員会・不動産部会の委員を務める。
本冊子は概略的な内容を紹介する目的で作成されたもので、プロフェッショナルとしてのアドバイスは含まれていません。個別にプロフェッショナル
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(明示的にも暗示的にも)表明あるいは保証するものではありません。また、本冊子に含まれる情報に基づき、意思決定し何らかの行動を起こされ
たり、起こされなかったことによって発生した結果について、あらた監査法人、およびメンバーファーム、職員、代理人は、法律によって認められる範
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