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中国による重大なリバランス行動

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中国による重大なリバランス行動
中国による重大なリバランス行動
中国の台頭によって、生産、競争力、技術革新の未来が変わろうとしている。中国はアジアや世界におけ
る影響力を拡大しようと虎視眈々と狙っている。ユーラシアグループは、中国産業の将来を決定づける極
めて重要な政治・経済の変化の行方を注視しており、自動車、航空機、家庭用電化製品、エネルギーなど
中国の戦略分野での進展についても注意深く追っている。
Report issued 20 October 2010
Prepared for PricewaterhouseCoopers Co., Ltd.
This is based on the opinions of Eurasia Group analysts and various in-country specialists. Eurasia Group is a private research and
consulting firm that maintains no affiliations with governments or political parties.
© 2010Eurasia Group, 475 Fifth Avenue, 14th Floor, New York 10017
0
中国の次の指導者たち
2012年に、中国の首脳陣のほぼ全員が入れ替わる。胡錦濤国家主席と
温家宝首相が退く前には、新たなリーダーたちがこれまでの政治路線を
踏襲し、政策の優先順位を変えないよう、影響力を行使するであろう。習
近平が次の最高指導者の地位に就く予定だが、他の首脳ポストをめぐる
争いは2011年にますます激しくなる。中国の新しい指導者たちは、大胆
な行動を避け、リスクを回避し、多数の既得権益層とのバランスをとろうと
すると思われる。しかし、大改革には強い政治的な決断が必要となる。新
首脳陣の比較的大胆さに欠ける性質は、胡錦濤や温家宝が現在推進し
ようとしている経済改革の先行きを危うくする可能性をはらむ。
将来の青写真
胡錦濤と温家宝の路線は、2010年末に公表される第12次5カ年計画
(2011-2015)の中に明記される。ここで打ち出された将来像は、今後5年
間にとどまらず10年もしくはそれ以上先の中国の経済政策の指針となっ
ていくはずだ。計画の中ではおそらく、産業を沿海部からシフトさせること
を強く打ち出し、内需刺激策の概要をまとめ、経済成長の源泉としてク
リーン・エネルギーの普及・促進を掲げると思われる。外資を中国中央部
/西部に向かわせる税制優遇措置と相まって、インフラ投資によって内
陸部への産業のシフトが起こると思われるが、所得再配分政策は実行が
難しくなる。再分配へのプッシュにどの程度信憑性があるかは、以下2つ
のことから明らかになってくるだろう。それは、①企業や公共部門の貯蓄
を家計へと再分配しようとする政策を政府がどのくらい推進できるか、②ま
た、それによって惹き起こされる成長の減速をどの程度政府が許容できる
か、という2点である。
第12次5カ年計画
ユーラシアグループは、中国の次期5カ年計画に包含される数値目標につい
て以下のように予想している。
 年率7%のGDP成長率
 2015年までに1人当たりGDPを5,000米ドルへ
 2015年までに15-20%のエネルギー使用量の削減
 2020年までに40-45%のCO2排出量の削減
China’s Great Rebalancing Act
Prepared for PricewaterhouseCoopers Co., Ltd. | November 2010
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中国の主な優先施策
 投資や輸出主導のGDP成長から、消費主導への転換
 GDPの配分として賃金上昇による家計所得の向上、企業への課税強化
 国による社会保障の拡充
 サービス業の奨励
 都市化、低価格住宅、インフラ投資の推進
 生産の内陸部へのシフト、国全体のバリューチェーンの上方へのシフト
 いわゆる新興戦略分野の振興
 エネルギーの節約と排出量削減
 教育制度改革による人材資本の育成
切り上げなき通貨の国際化
人民元はいつか国際通貨となるだろうが、まだ遠い道のりだ。中国の経済
および財政の政策担当者は、特にアジアでの貿易決済手段として人民元
の使用を奨励しているが、これは中国経済をアジア経済圏と結びつつも国
内の輸出産業を保護するためだ。中国は外資流入制限を緩和することにな
るだろうが、それは徐々に、かつ何年もかけてのプロセスになるだろう。人民
元のプロモーションを奨励してはいるが、近い将来急速な人民元の切り上
げを行うことはないと思われる。6月19日に中国政府は、米ドルに対する元
の切り上げは非常にゆっくりとしたペースになるであろうことを示唆した。この
アナウンスメントは、そのような切り上げがどのようになされるべきかについて
の官レベルでの数カ月にわたる応酬の結果であった。弱い外需による中国
経済への悪影響を恐れる中央政府は、今後も数カ月は通貨の切り上げを
避けようとするだろう。
China’s Great Rebalancing Act
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自動車
労働コストの高騰は消費力の拡大を意味する
中国政府は消費主導の成長モデルを実現しようとしているので、中国人の
平均収入は上昇し、消費志向を強めるようになるだろう。中国政府は、家計
が貯蓄をしなくてもいいよう社会福祉や公的年金制度を拡充しようとしてい
る。ただ、個人所得を増やすのは、それほど単純でもない。労働者が自分た
ちの権利を意識し、かつ要求を強く持つようになれば、生産性の向上よりも
早いスピードで、より規制された形で賃金が上昇しなくてはならなくなる。海
外の生産者は、(ゆっくりと)拡大していく中国の市場に期待できる一方で、
これまでより高コストかつ難しい環境になることを覚悟しなければならない。
外国企業の中には、サプライチェーンを多様化して内陸部(新たな地方拠
点)へシフトするところもあれば、地域戦略における中国の位置づけを見直
し、他国へ活動拠点を拡げるところも出てくると思われる。
China’s Great Rebalancing Act
Prepared for PricewaterhouseCoopers Co., Ltd. | November 2010
2009年に中央政府が実
行した多くの刺激策の
結果、中国は今や世界
最大の自動車市場であ
り、しばらくその地位が
続くと思われる。長期的
な成長の要は、ハイブリ
ッドと電気自動車(EV)
であり、これは年末まで
に発表される10年がかり
の助成制度によって後
押しされることになる。し
かし、コストや技術の制
約を考えると、伝統的な
内燃自動車が成長の牽
引役であり続け、2020年
においても中国国内の
自動車の95%以上を占
めるであろうと予測され
ている。中期的には、公
共交通機関や2輪車が
EV車の成長をひっぱる
最大の要因になりそうで
ある。
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投資戦略を軌道に乗せる
中国の首脳部はバリューチェーンの高付加価値を推進したいと考えてお
り、優れた国産品の使用や部品の国内調達を促進している。そのため、
海外からの投資は、技術大国をめざしたいという中国政府の考え方と合
致している場合に最もうまくいく可能性が高い。中国首脳部は、多くが技
術系出身の官僚だが、中国は産業革命に出遅れ、情報革命が進行して
いる間も漫然と過ごしてきたと思っており、今エネルギー技術革命の先頭
に立たなければならないと考えている。革新的なエネルギー技術によっ
て、中国経済は大きく発展し、国内産業は一変し、その上もっと環境にや
さしい経済成長が持続できると信じている。この中国側の方針は、技術を
保有する多くの企業にとって大きな課題を突き付けるものである。しかし、
特に中国がそのゴール達成を目指すうえで必要な外国技術の受け入れ
を支援することができる諸企業にとってはこれはユニークなチャンスでもあ
る。中国国内の提携相手への技術移転は、中国市場での競争相手を増
やしてしまうことになると考える海外の投資家もいるが、例えば、製造と設
計を分離するとかバリューチェーンを向上させるなどによって、そうしたリ
スクをヘッジしながら、常に中国市場の数歩先を目指さなければならない
のである。
China’s Great Rebalancing Act
Prepared for PricewaterhouseCoopers Co., Ltd. | November 2010
航空機
航空機産業は、国策企
業によって中国独自の
技術革新や高付加価値
の研究開発を促進して
いくという政府の活動の
最前線に立つ分野であ
る。中国内の二大航空
機会社、the Commercial
Aviation Company of
ChinaとAviation
Industries of Chinaは、
中国最初の商用利用可
能な地方用航空機
ARJ21-700の製造に鋭
意取り組んでおり、第1
号機の納品が来年初に
も予定されている。中国
政府はおそらく、基本部
品や機械設備からエン
ジン供給まで、航空機製
造のサプライチェーンの
全てを中国企業とするこ
とをねらっている。また航
空機の輸出も狙っている
が、海外企業の技術的
優位は明白で、少なくと
も20年~30年は、中国
の民間航空機ブームに
乗って海外企業も利益
を被ることができるだろ
う。
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投資を、沿海部から新興戦略産業にシフトする
中央政府は、4月に海外直接投資の枠組みを改定し、外資企業が中国中
央部/西部に展開しやすいようにした。そして地方政府も、内陸部に労働
集約型産業を誘致するための優遇税制策をとっている。“優遇”指定され
た産業に投資する海外企業は、土地使用料の減免を受けられる。申請プ
ロセスを簡素化・迅速化しようと、鉄やセメント等の分野を除き、3億米ドル
までのプロジェクトを地方当局が承認できるようになった。これは、それまで
の1億米ドルという上限からの変更である。同時に沿海部の地方政府に
は、サービス業や新興戦略産業に対する投資を促進させることとした。
海外からの資金は今では比較的発展した沿海部の成長においても重要
であったが、中央政府は、海外直接投資には内陸部においても極めて重
要な役割を担ってほしいと期待を寄せている。中国中央部の武漢、河北、
合肥、安徽を結ぶ壮大な高速鉄道計画がある。中央政府としては、既に、
どこに新たな成長を見たいと考えているかについて、シグナルを送ってい
るのだ。
中国の新興戦略産業
新エネルギー
新素材
情報技術
バイオテクノロジー
エネルギー保存
環境保護
航空宇宙産業
海洋
高度生産
ハイテクサービス
家庭用電化製品
中国は、家庭用電化製品の製造業者がたくさん存在する。最先端の発
明品はないが、他の国ではあり得ないような規模とスピードで既存の技術
を習得し、中国市場に適応させることができる。中国では商品の陳腐化
の速度が早く、中国企業は継続的に新製品や新たなモデルの導入を余
儀なくされる。家庭用電化製品の分野には、知的財産権の侵害という悩
ましい問題が存在しているが、目下、簡単な解決策は見当たらない。
Shanzhaiつまり海賊版商品の市場は、過去数年で大いに拡大してしま
い、それと共に偽造の質も上がった。グローバルな生産者が海賊版と戦う
ためには、ブランドの確固たる確立が非常に重要なことである。ブランド
認証は、ステイタスこだわる中国人の消費者には重要であり、また正規品
を類似品から差別化するのに役立つ。
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エネルギー開発
中央政府が新たなエネルギーを開発し、エネルギー効率を高めようと模索し
ているのは、エネルギー価格改革や石油・ガス等の天然資源への課税強化
が迫っているためだ。これは、各産業にとってはエネルギーコストが高くなる
ことを意味する。低炭素の経済発展をさらに追求しようというメッセージは、第
12次5カ年計画にほぼ確実に盛り込まれるはずだ。エネルギー使用を石炭
から多様化し、炭素排出量を減らすためエネルギーを効率的に使用すること
を第一の目標として掲げると思われる。中央政府は、2020年までにはエネル
ギー使用のうちの15%を非化石燃料としたいとしている。
原子力発電
野心的な代替エネルギー戦略は、高いレベルでの政治的な支持を得てい
る。伝えられるところによれば、李克強国務院副総理は特に強力に支援して
いるようである。内モンゴル自治区(*)委員書記の胡春華も、首脳陣の一人
として2012年北京に戻る可能性が高いが、クリーン・エネルギーは政治課題
としても最優先になるだろうということを示唆している。
(*)中国国内でも風力発電量が最も拡大した地域であると宣伝している
クリーン・エネルギー技術
中国は原子力発電の分
野においても強い野心
を持っている。現時点で
も10ギガワット近い発電
量があるが、2020年まで
には原子力の供給能力
を現在の7倍にしたいと
意気込んでいる。仮に
その目標を達成できな
いとしても、次の10年で
中国が世界で最も成長
の見込める市場の1つ
であることには変わりは
ない。また、第三世代の
原子力技術を国産で開
発し、成熟すれば輸出
もしたいようだが、これ
は韓国や日本との競争
になるだろう。中国の原
子力分野のリスクの1つ
は、拡大が急すぎ安全
面が疎かにされる可能
性があることだ。仮にそ
のリスクが現実となれば
、原子力産業が数十年
とまではいかなくとも何
年かは後退する可能性
がある。
中国は、太陽光パネルや風力タービンなどのクリーン・エネルギー製品の
世界最大の生産国の1つだが、今までのところ、太陽光の分野では、国内
市場で技術を展開するというよりは、圧倒的に高付加価値製品の製造の
ほうを行っている。中国の太陽光パネルの90%は輸出向けであるため、海
外の市況に大いに左右される。もしドイツやスペイン等の国々がソーラー
需要に対する補助を減らせば、中国の産業は苦境に陥るだろう。中国は、
国内消費者向けには風力発電を増やしてきたが、国内の電力網は急拡
大する供給に対応できていない。ユーラシアグループは、中国政府が今
年度末までに、グリーン・テクノロジーの分野で何十億米ドルもの長期投
資計画を公にするものと予想している。
China’s Great Rebalancing Act
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